競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会(第1回)‐議事要旨
日時:平成28年8月19日(金曜日)13時00分~15時00分
場所:経済産業省本館17階国際会議室
出席者
北川委員、井口委員、魚谷委員(代理 青木様)、大久保委員、アメージャン委員、小林委員、迫田委員、杉原委員、高山委員、戸矢委員、中野委員、松本委員、八木委員
議題
- これまでのダイバーシティをどう評価するか?
- 経営改革、企業価値向上にどのようにつながっているか
- 組織のどの部門において効果が発現しているか
- 真に必要なダイバーシティ(ダイバーシティ2.0)とは何か?
- 経営戦略上、何故ダイバーシティを必要とするのか
- 多様性の中身は何か、異なる属性をいかに捉えるか
- ダイバーシティ2.0を実現するための改革は、どの範囲まで及ぶものか
(企業ミッション、人材戦略、組織改革、業務改革等)
- 何故、ダイバーシティ2.0に進めていないのか?
- 経営課題から捉えたダイバーシティ2.0が何故困難なのか
(どのようなボトルネック、抵抗勢力があるのか) - ボトルネックを乗り越えるためには何が必要か
(例:トップから通貫した組織改革、長期的視点からの戦略)
- 経営課題から捉えたダイバーシティ2.0が何故困難なのか
議事概要
1.経営トップの姿勢・コミットメント、企業カルチャー
企業の成長力の源泉としてのダイバーシティの必要性
- ダイバーシティは企業の成長に不可欠であり、環境変化に合った企業自身の変化が求められる。Just Do Itとして、着実に実行することが重要である。
- 市場自体の成長に合わせて企業が成長できた時代から、企業の成長のためにイノベーションが必要とされる時代になった。異なる意見の衝突と昇華からイノベーションが生まれる(コレクティブ・クリエイティビティ)。
- 人材の体力と筋力が重視された時代から人材のブレーン(頭脳)が重視される時代を経てAIの時代になると、人の役割はイノベーションと価値の創造になる。多様な人材プールからブレーンのある人材を確保するに加え、イノベーションや価値創造を可能にする多様な環境を作っていかないと日本企業はグローバル競争で生き残れない。
- ダイバーシティ経営推進のため、異なる考え方を持つ人材をあえて「混ぜること」が重要である。ぶつかり合う中で意思決定が行われることに意義がある。
ダイバーシティ経営を推進する経営者のコミットメント等、モーメンタム創出の必要性
- 「男性」、「シニア」、「日本人」、「有名大学出身者」の既得権を奪うことが必要だが、抵抗勢力も強いため、経営者自身の強いコミットメントが必要である。
- 多様性を受け入れ、経営者が交代してもダイバーシティ経営を継続するため、企業のミッションや経営戦略に取込み、企業全体の取組にする必要がある。
- 当社のダイバーシティを推進する原動力は、新しいことに取り組む機会を人材に与える企業カルチャーであった。
- 当社はグローバル化とダイバーシティをセットで取り組んだ。どん底の赤字という危機に直面したことも、ダイバーシティに取り組むきっかけとなった。
属性に関わらない個人の尊重というダイバーシティ経営の本質
- インクルージョンが成り立つ環境として、サイコロジカル・セーフティー(心理的安全)や寛容性を備えた環境作りが重要である。
- 組織の多様化のみならず、組織の一人一人の個人を尊重することがダイバーシティ経営である。個を重んじる文化が日本に根付くか否かが課題である。
- 属性に関わらず一人の人間として意見が尊重されるため、発言しやすい環境作り・組織設計が必要である。
- 日本企業は、外部から外国人を採用しても、日本人のように扱って同質化させ、多様な人材を融合させる機会を自ら奪っている。
2.働き方の改革
ダイバーシティ経営の推進に向けた働き方改革の必要性
- 勤務時間と業績が一次関数的に直結していた時代は終わり、個々の人材が「時間」ではなく「成果」を追求する働き方の改革が求められている。
- 同質化された人材しか活躍できない環境から脱却するため、働き方について、従来型の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に移行する必要がある。
- 日本企業は、男性・正社員・新卒採用者に有利な人事制度や、残業を前提とした働き方等、多様な人材が公平に働ける環境ではない。
- 長時間会社にいると、組織内で同質化が進み、多様な意見が生まれない。リモートワークによって、働き方に関する様々な課題解決に繋がる。
- リモートワークが広まる中、従業員がサボる・サボらないという概念を捨てて、敢えて管理しないという判断も必要となる。
- 日本人、男性、新卒、生え抜き、妻は専業主婦といった要素をスタンダードな働き方とすると、異なる属性の人は活躍できない。ワークスタイル改革とダイバーシティが両輪であると腹落ちできてない企業も多い。
3.求められる人材の採用・育成制度、評価制度
企業の競争力に直結する多様な人材の採用・育成
- 生え抜き以外の人材が組織の一員として活躍でき、主導権や裁量権を握ることができる環境が企業の成長を実現・加速するために必要ではないか。
- 優秀な人材は欧米企業はじめ海外企業を選び、日本企業は選ばれない。日本企業は、若い人材をはじめ、多様な人材に対する権限移譲や報酬、また、キャリア形成が進むイメージが見せられないと人材は集まらず、「雇い負け」してしまう。
- 外部人材の登用に関して、卓越したプロフェッショナルであること、部下を育成できること、会社を助ける志があることを人材に求めている。
- 日本企業による人材育成はスピードが遅い。例えば、5年という期間で基礎を育て、あとは実務の中で育てるという仕組みも必要ではないか。
多様な人材の活用・確保に向けた公平な評価制度の重要性
- 人事評価では、公平性(フェアネス)を重視している。人材がモチベーションを持って活躍する上で、明確且つ公平な評価制度は必要である。
- ある企業の取組例として、当該企業にとって重要な74のポジションを設定し、公平な評価のもと、同等の能力を持つ男性と女性の人材が一人ずついた場合、女性が優先して登用されることを企業ウェブサイトやアニュアルレポートに明記している事例がある。
4.組織設計面の課題・ボトルネック
ダイバーシティ経営推進に関する組織設計の問題点
- 多数派の男性を重視し、企業の継続性とバランスを重視する人事部門は、実はダイバーシティ推進の制約になりうる。そのため、先進企業は、人事部ではなくダイバーシティ推進委員会という横断的組織が主導しているケースがある。
- 女性と外国人から「様々な問題はあるが仕組みを変えよう」、日本人の男性からは「様々な問題があるため、仕組みは変えられない」という意見が挙がる。
- 日本企業は他社と横並びで、女性ばかりのダイバーシティ推進室、管理職の登用目標の設定、ロールモデル探しはじめ、多様性の無い、似た取組が多い。
- 表面的な組織設計によって、ダイバーシティに取り組んでいると謳う企業の中にも、実態上はダイバーシティが全然進んでいない企業もある。
5.投資家の視点
ダイバーシティ経営に関する取組や意見
- 長期投資の場合、企業の成長力の持続性に対する関心が高く、例えば、経営者の登用方法、イノベーションの創出方法、スピード感の確保を注目している。
- 社内人材のみを経営者候補とする企業は、外部人材を経営者候補とする選択肢がある企業と比較して、企業の成長力の制約要素として評価されてしまう。
- ダイバーシティが収益改善や成長力向上に繋がるという点について、機関投資家のポートフォリオマネージャーが納得感を持つことが必要である。
- ダイバーシティについて、日本は社会公正や平等の要素と捉え、欧米は企業価値・株主価値の源泉と捉えており、国内外に認識面のギャップがある。
取締役会におけるダイバーシティの重要性
- 海外売上比率が国内売上比率を超え、日本人だけで経営を行うことは困難である。外国人や社外人材を取締役会に登用したところ、議論の質が上がった。
- 経営陣や取締役会のダイバーシティに対して投資家の関心は高く、取締役会における意見の多様性等の取締役会文化(Board Culture)が注目されている。
情報発信、対話・コミュニケーションに関する意見
- 企業によってはESG・SRIに関する投資家の関心を基に開示内容を決める。
- 短期投資家は財務数値を重視するが、長期投資家はガバナンスをはじめESG情報も注目し、取締役会や経営幹部のダイバーシティに関心を持っている。
- ダイバーシティ経営に関する情報発信は海外企業が長けている。投資家等の外部に対する情報発信の好事例をガイダンス上でまとめることが有益である。
- かつて、ダイバーシティはESGのS(社会)に関する議論が中心だったが、現在では、G(ガバナンス)の観点で議論されることが多い。世界金融危機がおこった大きな要因として取締役会の機能不全があると考えられており、それに対する反省から、ダイバーシティ推進のフレームワーク(クオータ制や30%クラブ等)の議論がさらに進んだ。
- ダイバーシティ経営促進のためには、上記のようなフレームワーク・枠組みを作ること、日本企業を容易に横比較できるようなダイバーシティの情報開示を実施することが有効であると思われる。
- 企業の人材育成のプロセスの情報は、投資家も注目している。アニュアルレポート等で開示する企業は既にあるが、情報発信のあり方は検討すべき。
以上
関連リンク
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最終更新日:2016年9月27日