ものづくりで日本が世界をリードする

製造産業局 総務課 課長補佐
長谷川 洋
2004年度入省
製造業の競争構造の大転換
モノのインターネット( I o T )、人工知能 (AI)、ビッグデータ等の新たな技術革新 による経済・社会全体のデジタル化が進展する中で、日本の製造業の競争力を今後、どう発展させていくか。それが、私が現在取り組むミッションです。 これまで、日本の製造業は、個々の要素技 術や部品を作り込み、人を介した「すりあ わせ」でこれらをつなぎ、高品質の製品を 組み上げ、製造現場を起点として、競争力 を高めてきました。 しかし、IoT時代には、ヒト、モノ、カネ、技術、 情報がデータ化され、つながり、リアルタイ ムで相互にやりとりされるようになる。大量 のデータ分析により、従来は見過ごしてい た規則性・関係性が見出され、新たな付 加価値へとつながるようになります。 これからは、単体の製品を作り込むだけで なく、モノが消費者に使われる場面まで想 定し、価値連鎖全体の効率性を飛躍的に 高めたり、販売した製品のデータを得て、製 品の最適な利用方法を顧客に提案する。こ うした新たなビジネスモデルが求められます。
つながりを通じて価値を生む
第4次産業革命に、欧米諸国が産学官のタッグで対応する中、日本政府は、経済産業省は、産業界と一緒になって何をなすべきか。このような挑戦的なテーマに、2015年夏から取り組み始めました。 IoTやAIなどの新技術の活用、その帰結としてのビジネスモデル転換をテーマに、 主要な製造事業者に片っ端から議論をお 願いしました。2015年当時、多くの企業からもらった答えは、大きく二つ。「我が社のものづくりはドイツよりもずっと優れているから、今のままの取組を続ける」「IoTやAIは得体が知れずわからないから、今の取組を変えない」。要するに、双方とも「現状維持」という答えです。欧米が新たな試行 錯誤を重ねる中、日本だけが何もしなければ、今は強い製造業が、近い将来大きく立ち後れてしまう。強い危機感を覚えました。 経済産業省がやれることから、進めなくては。ドイツやアメリカが、政策的にどのような共通基盤整備を進めているのかを、経済産業省の海外ネットワークを活用して調べ、 課題・論点整理から着手しました。 例えば、ソフトウェアとハードウェアの新た な連携の促進です。第4次産業革命による新たな付加価値の大部分が、ハードウェアの世界ではなく、ソフトウェアの世界で生 じることに着目したものです。しかし、ソフトウェアの世界は、日本の製造業が不得意 な分野。日本が誇る「現場の強み」を活かしながらも、ソフトウェアに強い他社とデータで連携する必要があります。そのために、データの共通フォーマット、サイバーセキュリティ、人材育成等が必要になります。このような検討を手探りで進めながら、自動車、機械、航空、繊維等の各分野の意欲的な製造事業者と膝詰めで議論する。日 本がリードできる分野を見定めて、先進モ デルの実証を行う。これを支える共通基盤 を整備する。得られた成果を、他社や、外 国の企業にもぶつける。匠の技のデータ化、 国際遠隔保守、データ所有権など「まだ世界で答えが出ていない、世界をリードできる テーマ」を見定め、官民で一緒に実行に移 し、着実に反転攻勢を進めました。 また、国際的なオープン化、仲間づくりもや らねばならないことです。製造業はグローバル。海外の成長を日本に取り込むために も、日本が閉じて、孤立する選択肢は無し。 では、誰と組むのか。最初の相手として、ドイツを選択します。ドイツは、自動車・機械 分野では日本の競争相手。しかし、一歩引いて大きな競争の構図で見れば、協力できる点が多々あります。 例えば、製造業へも進出を始めたメガITプ ラットフォーマーにどう対峙するのか。新興国の地場製造業が着々と力をつける中、成長市場の活力をどう取り込むのか。こうした点に一緒に対処するべきではないか。そんな戦略を、高い志と深い知見を持つ経済産業省の上司や同僚、打てば響く産業界の有志と日夜練り、日本の産業界や、ドイツ政府、産業界にぶつける。こうしたやりとりを経て、サイバーセキュリティ、国際標準化、 規制・制度改革、人材育成、中小企業、自 動車、ICT等の協力項目を特定。2017年3月には、第4次産業革命に関する日独連携の枠組みを定めた「ハノーバー宣言」に 大臣間で合意、署名いただくに至りました。 ものづくりの分野で、日本が世界をリードする。現場力、技術力を活かし、様々な「つながり」から付加価値を生み出し、人間が中 心の産業社会の構築を目指す「コネクテッド・インダストリーズ」の旗印の下、関連施策を糾合していくことを決め、アジア等への展開も進めています。
政策を論ずる醍醐味
本質的なテーマを定め、粘り強く議論し、実現に向けた道筋を定める。民間事業者のリアルを知り、一緒になって政策を作り上げ、諸外国を向こうに回しながら、グローバルな仕掛けで進める。こうしたダイナミックな政策論ができるのは、経済産業省の醍醐味だと思っています。
最終更新日:2019年4月1日