DX-#03 2018/10/31 世界で進む行政のデジタル・トランスフォーメーション。今、日本がすべきこととは?

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「Digital or Die!(デジタルか、さもなくば死か)」という強烈な言葉が世界中で叫ばれる昨今、世界各国ではデジタル・ガバメントへの転換を目指し、デジタル技術によって行政サービスを効率化、簡素化して生活を便利にする変革、行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が進められている。

日本では2017年に「デジタル・ガバメント推進方針」が策定され、行政サービスをデジタル前提で見直す本格的なデジタル改革が動き始めた。

デジタル・ガバメントの実現に向けた課題は多いが、その解決につながる事例として、EUの取り組みが参考になる。経済産業省で10年以上、デジタル・ガバメントに向けた戦略に携わり、デジタル化で変わる行政サービスや社会サービスのストーリーメイキングをしているCIO補佐官・平本健二に話を聞いた。

EUが目指すデジタル・ガバメントの鍵はインターオペラビリティ(相互運用性)

さまざまな文化と言語が集まっているEU。そのEUが目指すデジタル・ガバメントにおいて重要視されているのは、諸国間、あるいは行政と民間の間での「インターオペラビリティ(相互運用性)」である。インターオペラビリティとは、異なる組織やシステム間で業務をスムーズに行うための情報交換の仕組み。このインターオペラビリティの中核となるのがデータの共通化やルールの標準化だ。

平本 「EUのデジタル・ガバメントのいちばんの目標は、国をまたいで同じサービスを迅速に受けられるようになること。ここでは、『ベース・レジストリ』と呼ばれる日本でいうところの『台帳』の整備が肝となっています。社会の基本的な情報を正確かつ迅速に入手できることにより、あらゆる社会活動が効率的に行えます。そうした台帳のデータを集約していく過程でフォーカスされるのが、情報の形式の統一です。たとえば、登記簿に記載する項目や書き方を各国で揃えておけば、さまざまな比較をすることができるようになります。また、情報の不足やフォーマットの違いにより台帳にデータが集約できないというトラブルを防ぐこともできます。」 デジタル化された台帳が整備された後は、行政でも民間でもデータを簡単に見ることができ、共通に使える新たなエコシステムが出現する。ではこの仕組みの下でデータを利用することで、行政と民間にはそれぞれどのようなメリットがもたらされるのだろうか。

平本 「台帳ができて、そのデータが使いやすい仕組みが整えば、まるで生態系のように、住民の手続きから行政内部の処理まで、流れるような無駄のないエコシステムが実現できます。民間サービスでは今や当たり前のことですが、一度氏名や住所などの基本的な個人情報を登録すれば、次回以降、同じことを何度も書かなくて済みますし、登録した情報は他の書類に転記可能になり、自動処理できるようになります。
ビジネスにおいては、たとえば、ある土地の情報を各国横断で見ることができれば、その土地にふさわしい投資や企業の誘致などがしやすくなると期待されます。
また、AIやビッグデータが注目されていますが、これらも基盤となるデータが整備してやっとその本領を発揮できるものです。分散型台帳技術として仮想通貨に使われるブロックチェーンも話題ですが、そもそも守るべき情報がきれいに整備されていないと使う意味がないですよね。」

デンマークに見るデジタル・ガバメントの大きな経済効果

EU諸国の中でも、デジタル・ガバメント先進国であるデンマークの事例を見てみよう。同国では、住所情報をすべて集約したマスターデータが作られており、これを活用した結果、5年間で日本円換算すると約800億円の経済効果が生まれた。

平本 「住所をはじめ不動産に関するマスターデータ(基本情報)が作られたことで、デンマークでは、不動産を取引する際にその物件の所有者や所在地などの基本情報を調べるコストが軽減されました。それだけではありません。マスターデータを集約して分析したり、不動産についてアドバイスしたりといった新たなビジネスも生まれています。
デジタル化する社会やAIの活用によってこれまであった仕事がなくなるという声もありますが、実際には新しい仕事が生まれているのです。」
また、デンマークでは、法律の作成過程でデジタルの視点が欠かせない。デジタル社会に適合した制度設計になっているかチェックをするとともに、法に定められる手続きは業務の流れを明確に記述するためのモデリング手法で記述されていく。そのため法律ができると、すぐにシステムが作られ、社会サービスに組み込まれていく。制度改革の意思決定が速いだけでなく、法律の検討や導入においても抜本的な高速化を実現している。社会の発展速度を上げるという点で、デンマークは諸国を大きくリードしているといえるだろう。

まず日本はデジタル社会の基盤となる台帳作りを

さまざまな文化と言語が集まっているEUのデジタル・ガバメント、DXの取り組みは、インターオペラビリティを確保することと、その基盤となるベース・レジストリを整備することを前提に進められている。日本が目指すデジタル・ガバメントを考えるには、EUの動きはもちろん、世界を見て、さらに、数年先ではなく50年先、100年先を見据えて取り組みを進めていくことが必要である。日本のDXの取り組みはインターオペラビリティの確保に重点を置いてきたが、中長期的に見ると大きな課題となっているのは台帳整備だという。

平本 「海外資本を呼び込む際に、海外と日本で提供しあう企業情報の項目が異なってしまうと、同じ条件下でのデータ分析などをすることができません。情報にインターオペラビリティを持たせることにより、比較や検討がしやすくなる。その結果として、輸出入の活性化はもちろんのこと、ビジネスチャンスも生まれやすくなります。 世界がデジタル化して相互にデータ分析する時代に、「日本は紙でしかデータがない」もしくは「整理されたデジタルデータがありません」となると、世界から相手にされなくなってしまいます。
世界がいちばん力を入れているのは『人』『土地』『法人』のデータです。その次が『インフラ』『資格、許認可』のデータです。まずは、これらのデータのデジタル化を徹底してやるべきなんです。さらにその時に、デジタル時代に合わせて内容や項目の見直しも行う必要があります。法人の登記で、いまだに本店所在地が「東京市」であるデータなんかがあり、データそのものが更新されていないものもあります。」

現在、経済産業省では、法人などのデータ整備と統一に力を入れて取り組んでいる。国内には府省などの政府機関のほかに1700以上の自治体が存在し、それぞれがそれぞれのルールで法人のデータを取り扱ってきた。民間企業も必ず取引先リストやデータベースを持っているがこれもバラバラである。既存のデータもあり、整理するのは極めて難しいが、そうしたデータごとの項目の違いを吸収し、対応関係の整理をすることが必要になっている。各組織の持つ従来のデータ等を活かしたまま、きれいな法人情報の交換をできるようにする仕組みを目指している。そのために国際的な整合性のとれたデータの様式や形式に整える仕組みを用意するととともに、APIを使ってシステム間の連携ができるように、データ環境の改善に取り組んでいる。

DXによるデジタル・ガバメントへの転換を「チャンス」と捉え、ビジネスしやすい環境を整えて企業誘致する国もでてきている。日本でも、道のりはまだまだ長く険しいが、グローバル化した100年後の社会を見据えての取り組みに今後期待したいところだ。