DX-#05 2019/02/08 自治体はテクノロジーの進化に追いつけるか。現場職員の描く“2030年”の未来行政

  1. ホーム
  2. 政策について
  3. METI DX
  4. 自治体はテクノロジーの進化に追いつけるか。現場職員の描く“2030年”の未来行政

行政手続きにおいて、私たちは当たり前のように書類を埋め、印鑑を押す。

電車の切符はICカードになり、ネットショッピングで様々なものが買える時代にも関わらず、行政手続きはいつまでもアナログなのか。そう疑問に思う人も少なくないだろう。

行政職員のなかにも「なぜこの仕事は不便なままなのか?」という疑問を抱いている人は決して少なくない。サービスの受け手と届け手、双方が不便さを感じながらも、制度や予算の制約の中で我慢を続けており、対策は急を要する。

こうした現状を変えるべく、経済産業省はデジタル化を推進し、便利かつ効率的な行政サービスと、データを活用した質の高い政策立案を目指す「デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)」に取り組んできた。

自治体はテクノロジーの進化に追いつけるのか

これまでも「補助金申請の電子化」や「若手職員による産業保安法令手続の電子化」など、経済産業省内では様々な角度からDXへ取り組んできた。ただ、この動きを日本全国に広げていくには、国だけでなく自治体との協力が必要だ。

自治体の取り組みをサポートし、DXに向けた動きを加速させたい。そうした想いから、経産省は自治体と企業、政府が共にDXの今後について考えるイベント「DX Days 2019」を2019年の1月16日から3日間に渡って開催した。(「DX days 2019」のプログラムはこちらPDFファイル

初日の「Govtech Conference Japan 2019」では、行政におけるテクノロジー活用「GovTech(ガブテック)」の動向や最新事例についてトークセッションが行われた。IT企業、ベンチャー企業、自治体職員などおよそ200名が参加し、サービスデザインや開発の手法、新しいテクノロジーを行政にどう活かしていくのかを語り合った。

2日目の「DX寺子屋」では、自治体職員を対象に、デジタルガバメントに向けた政策動向や、データを扱う際の基礎知識等のレクチャーを実施。あらゆるサービスがデジタル上で完結する“デジタルガバメント”について、国内外の実例も交えながら、その可能性や課題について学んだ。(DX寺子屋での講義資料はこちら:講座①PDFファイル講座②PDFファイル講座③PDFファイル講座④PDFファイル講座⑤PDFファイル

最終日となる1月18日は、「自治体DX推進会議」と題し、全国から集まった自治体職員がDXについて語り合うワークショップのほか、自治体によるDXの先行事例の紹介や講演が行われた。

講演に登壇した内閣官房政府CIO上席補佐官 兼 経済産業省CIO補佐官の平本 健二氏は、経産省で実践してきたDXの取り組みについて解説。一般財団法人日本情報経済社会推進協会電子情報利活用研究部 松谷 豊氏、名古屋大学大学院情報学研究科 准教授の遠藤守氏は、小規模な自治体で行ったオープンデータの活動を紹介、英進館ホールディングス株式会社 代表取締役社長の筒井俊英氏はAI活用の事例を共有した。

本記事では、3日間のうち、最も熱気に包まれた3日目午前中の自治体職員によるワークショップの模様と成果をお届けする。これから全国で自治体のデジタル化を進めるために何が必要なのか、現場職員たちの議論から探っていきたい。

「とにかく人が足りない!」現場職員のリアルな課題

ワークショップは、全国の自治体からデジタル化推進を担当する職員が参加し、2030年の未来を想定し、「市民にとっても、自治体職員にとっても利のあるデジタル化」に向けた取り組みを考え行動プランに落とすというもの。

約30自治体から総勢40人ほどの参加者を『電子申請』『人材確保』『子育て・福祉』『インフラ』『MaaS(Mobility as a Services)・観光・イベント』の5分野のチームに分け、各分野とデジタル化に知見を持つファシリテーターとともに、チームで議論を進めていった。

まず、各チームで自治体職員が日頃感じている課題を共有し合った。

チームを問わず多く挙がったのが、「人」をめぐる課題だ。「子育て・福祉」チームでは、「年金窓口の対応を担う人員が足りていない」「生活に欠かせない手続きが多いのに窓口の混雑が解消されない」といった声が上がり、人材不足が浮き彫りになった。
2030年の未来に目を向ければ、人材不足にはさらに拍車がかかる。そのとき、デジタル技術の活用による業務の効率化が、解決の鍵を握るのだ。

『人材確保』チームでは、「ITなどの専門知識をもつ職員が足りていない」という職員の意見を踏まえ、人材育成や研修の充実に関する議論が盛り上がった。ほかにも「各職員の知見やノウハウが引き継がれていない」など、業務の属人化に関する悩みも共有されていた。

ITの専門知識に関しては、ITリテラシーの問題を議論するチームもあった。『電子申請』チームでは「高齢者のなかにもITに強い方もいる。逆に若者だからと言って必ずしもITリテラシーが高いわけではない」と、現場での経験を踏まえ、申請者のリテラシーに合わせた対応の重要性に注目が集まった。

全国津々浦々の自治体ごとに状況はそれぞれだ。しかし、課題を共有し抽象度を上げると共通項が見えてくる。人材不足やITリテラシーは、自治体のDXにおける共通課題の代表的な例だといえる。

“デジタル化”を阻む共通課題の突破口を探して

課題が出揃い始める頃には、各チームは緊張もほぐれ、自治体のあるべき姿に向けて何を変えていくべきか、議論に熱がこもっていった。

『子育て・福祉』と『電子申請』チームは、限られたリソースのなかで、いかに制度や業務フローを最適化すべきか、という課題に対して、次々にアイデアが集まった。「そもそも必要な申請手続きを最小限に抑え、職員と市民の負担を減らせないか」「市民が役所に足を運ぶ手間を減らせないか」という、既存の業務フローの問題点に着目し、単に作業をデジタルで置き換えるのではなく市民サービスの向上を最優先に考えようとする提案も挙がっていた。

『人材確保』チームでは、冒頭の課題を出し合う時間に盛り上がった、「属人化」を防ぐための議論が続いた。自治体内でいかに知識を共有していくかはもちろん、自治体同士で成功事例や失敗事例、ノウハウなどを共有し、行政サービスの向上に活かしていく必要性についても語られた。

また、各チームを通じて特に議論が盛り上がったのは「データ活用」だ。DXによって、定量的に把握できる情報が増えると、より精度高く、市民の課題に寄り添う施策を提供できる。データをいかに収集、活用していくかは、DXを推進する上で欠かせない。

各チームでは、データの利活用が進むことでどのように可能性が広がるかが話された。

『インフラ』チームでは、インフラの老朽化具合をオープンデータとして共有し、修繕に活かすアイデアが挙がった。しかし、職員からは「以前活用を試みた際、そもそものデータ収集をどうすべきかという壁にぶつかった」といった、自治体職員同士だからこそ包み隠さず明かすことのできる苦い経験も共有された。過去にぶつかった壁をどう乗り越えるべきか、さらに議論は進む。

『MaaS・観光・イベント』チームは、交通系ICカードを用いて移動データを一元管理し、より便利な交通を提供する構想が膨らんだ。それに対し、「市民のなかには移動データを管理されることに抵抗のある方もいるのでは」といった懸念点を職員が指摘。普段から市民と接している職員ならではの気付きや視点から、公共分野におけるデータの収集や活用に当たっての課題が数多く場に提供された。

データの管理者目線、サービスの提供者目線、ユーザー目線と、多様な視点からアイデアをぶつけあう濃密な時間。白熱した議論は時間いっぱいまで続き、昼食休憩中も各チームの発表に向けて内容のブラッシュアップを行う姿があちこちで見られ、気を抜く様子もない。

シームレス、申請不要、マッチング?職員の描く5つの未来

ワークショップでは、最後に各チームが考えた「未来のあるべきDXの姿」が共有された。
各チームが描いた未来を順番に見てみよう。

『電子申請』『子育て・福祉』チームが描いたのは、"申請"自体が存在せず、自動であらゆる手続きが完了する未来だ。

「行政施設へ足を運ばずとも、住民自身のスマホにプッシュ通知が送られ、スマホに保存されている個人情報を取り込むことで、申請手続きが完結する。このような仕組みを実現するためには、テクノロジーへの大規模な投資が必要になるが、市民や職員が享受できるメリットは大きいはずだ」(電子申請チーム)

「スマホから一括で手続きが完了する未来。本人確認書類を一度登録すると別の手続きでも繰り返し利用できたり、一度入力した内容が引き継がれたりと、シームレスな仕組みを導入し、申請手続きを効率化できる」(『子育て・福祉』チーム)

『人材確保』チームが目指したのは、各自治体が連携し、互いに協力し合う未来だ。

同チームが提案したのは、各自治体の職員の経験やスキルを可視化し、手伝ってほしい仕事があった場合に、派遣を依頼できるマッチングプラットフォーム。人材不足を解消すると同時に、このプラットフォーム上で各自治体が取り組んだ施策やノウハウも共有し合えれば、業務の属人化も防ぐことができるのでは、という一石二鳥を狙うアイデアだ。

『インフラ』チームは、市民が自治体と協力してインフラを管理する未来を描く。道路の凸凹を測定できるシステムを、市民が日頃使用している車に導入してもらい、市民が検査を手伝うことで、低いコストで漏れなくインフラの検査ができると考えた。同時に、市民がインフラの維持管理に直接参加することで、公共財を維持することの意義や重要性を知ってもらう機会にしようという想定だ。

『MaaS・観光・イベント』チームは、スマホ一つでどこでも移動できる未来の公共交通アプリを提案する。一定の金額を払えば、スマホ一つで生活圏内のバスや電車、タクシー、ライドシェアサービスを自由に利用可能。その利用データから乗車率などを調査できれば、どの地域に交通が足りていないのかをより的確に把握できる。それによって公共交通機関のサービス改善に活かしていきたいという。

DXによって、効率的な行政手続きだけでなく、より便利な公共交通機関や、緻密なインフラ整備など、市民生活に直結する行政サービスの向上を実現する。ワークショップの議論からは、日々の業務で市民と直に接する自治体がDXに取り組む意義、市民の生活に与えうるインパクトの大きさが感じられた。

地域の壁を超えDXに取り組む“仲間”をつくる

イベントの最後には、ワークショップをリードした5人のファシリテーターと、各グループを代表して5人の職員が登壇。

一日を振り返り、得られた学びを語った。

ファシリテーターのひとりは「職員が互いの自治体で実施した取り組みや、そこでぶつかった課題を共有し合う姿を見て、自治体の壁を超え、悩みを共有し合える仲間づくりの場の大切さを再認識した」とワークショップを振り返る。

職員のひとりは「DXに向けて同じ志を持つ他自治体の職員と意見を交わし、同じ悩みを抱える仲間がたくさんいることに気付くと同時に、たくさんの新たな視点が得られた」と述べ、自治体間だけではなく「民間企業や市民を巻き込んだ解決策についても議論が盛り上がった」と語った。
自治体や企業、政府の枠を超えて、DXの推進に向けて連携する。そんな事例が各地の自治体から発信される日も、そう遠くはないかもしれない。

一方で、ワークショップや講演を通じて、人員や予算、ITにまつわるリテラシーなど、DXに取り組むに当たって自治体が抱えている現実的な共通課題がいくつも浮かび上がってきた。
しかし、参加した職員たちは決して諦めることなく、官民の連携や手続きの見直し、情報共有など、課題を突破するアイデアを生み出してくれた。

「人材、予算の確保が難しい中、山積する行政課題の解決にはデジタル化が待ったなし」

もし、そう感じる職員がいたなら、ぜひ経産省や既に取り組みを始めている自治体などに声をかけてつながってほしい。

デジタル化は、もはや一部の先駆的な企業や自治体だけのものではなくなった。世界各国で生き残りをかけて議論され、グローバルで取り組みが進むニューエコノミーの基盤である。その波に乗るか、乗り遅れるか。日本はその瀬戸際にある。

各地で芽吹くDXの種を育て、「国民・市民にとっても、またサービスを提供する自治体職員にとっても、相互に利のあるデジタル化」の実現に向け、経産省も自治体とともに日本の未来を切り開くDXを推進していく。