DX-#07 2019/03/28 政府に必要な“利用者目線”とは?企業情報のオープンデータ化に向け、乗り越えるべき壁を探る

  1. ホーム
  2. 政策について
  3. METI DX
  4. 政府に必要な“利用者目線”とは?企業情報のオープンデータ化に向け、乗り越えるべき壁を探る

「この企業について調べておいて」

上司から取引先企業のリサーチを頼まれたらどこで情報を探すだろうか。「政府のサイトにアクセスする」と即答する人は決して多くはないはずだ。

政府は所在地や事業内容だけでなく、申請した補助金、過去の行政処分内容など、幅広い企業情報を保有している。しかし、それらのオープンデータ化への取り組みが本格化したのは、「官民データ活用推進基本法PDFファイル」が成立した2016年以降のことだ。

企業情報が利用しやすい形で共有されると、企業はより素早く適切な情報にアクセスし、取引先や提携先を探すコストを大幅に削減できる。

また、公開された企業情報を活用した新しい産業・サービスの発展も期待されている。オープンデータ化の進むイギリスでは、政府の企業情報を集約したデータベースを開発するスタートアップも登場PDFファイルした。

企業情報のオープンデータ化は、既存の企業活動の効率化だけでなく、新たなビジネス機会の創出、ひいては経済活動の活発化にもつながる。

企業情報のオープン化の要、「法人インフォメーション」とは?

企業情報のオープンデータ化に向け、2017年に、経産省は「法人番号」に紐づく企業情報をアーカイブしたデータベースシステム『法人インフォメーション外部リンク』をローンチした。

法人番号とは、登記している企業に割り当てられる13桁の番号で、企業名や所在地といった基本データを識別する。同システムでは、法人番号や法人名を元に、およそ400万社の法人名や代表者名、設立年月日、営業品目などを閲覧・ダウンロードできる。

(法人インフォメーションのトップページ)

「法人インフォメーション」を軸とした企業情報のオープンデータ化は、ITによる行政サービスの向上、経済の活性化を目指す「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」においても大きな柱だ。

この柱をより強固にしていくため、経産省は法人インフォメーションのリニューアルを進めている。2019年3月4日には『政府保有の法人データの利活用促進と今後の展望 -法人インフォメーションに関する官民ラウンドテーブル』を開催。同システムを積極的に活用する企業の社員や研究機関の職員8名が、リニューアルに向けた課題や今後の展望について意見を交わした。

当日は、法人インフォメーションを軸に企業情報のオープンデータ化がもつ可能性について、議論が広がっていった。

オープンデータの“収集”と“利用”を促すアイディア

オープンデータ化を推進するには、どのようにデータを収集・利用していくのか、2つの視点が欠かせない。まずはデータの収集について、株式会社富士通研究所セキュリティ研究所特任研究員の大槻 文彦氏が、実際の事例をもとにアイディアを共有する。

例に挙げたのは、松山市や愛媛大学、地元企業が連携し、法人情報のオープンデータ化に取り組む『まつやまデータ利活用研究協議会』だ。

大槻氏 「松山市を含め、地方の市役所にはデータ化されていない貴重な企業情報が眠っています。これらをオープンデータ化して地域の課題をいかに解決するか、の議論を地域の多様なプレーヤーで行うことが必要です。そこで、松山市では、大学や企業が連携し、“地域版”の法人インフォメーションサービスを検討し構築、利用していくための活動を開始しています」

地方でも企業情報をオープンデータ化する取り組みが広がれば、日本全国の企業活動の効率を高めていけるだろう。法人インフォメーション上でも閲覧できるようにすれば、より網羅的なデータベースが実現できるかもしれない。

(左奥・株式会社富士通研究所セキュリティ研究所特任研究員の大槻 文彦氏)

提供する側と利用する側の垣根を超えてデータベースを共創する。松山市のような官民協働を広げていくために、経産省はどのようなアクションを取るべきなのか。

データ分析を専門とするTableau Japan株式会社アソシエイトセールスコンサルタントの尾崎直子氏は、自ら積極的に法人インフォメーションを活用してみてはと提案する。

尾崎氏 「企業や市民がどこで困っているのか、経産省から歩み寄り、理解しようとする姿勢が重要だと思います。法人インフォメーションのデータを元に簡単なレポートを作成すれば、政府自らシステムの使い勝手をより具体的に把握できるはずです」

尾崎氏の指摘する通り、経産省が率先して、利用者目線を身につけていく必要がある。同席した経産省の担当者たちも「省内で法人インフォメーションを活用して分析したものの、公開に至っていないものもある。レポートの公開はぜひ検討したい」と前向きな姿勢を見せていた。

企業向けウェブサービスとの連携で“二重手続き”をゼロに

データの利用についても、官民の協働がキーワードになる。freee株式会社 社会インフラ企画部長の木村 康宏氏は、同社の提供するクラウド会計ソフト「freee」において、法人インフォメーションの活用を積極的に進めてきた。すでに、法人番号を入力すると基礎情報が自動入力されるなど、企業にとって便利な機能を実装している。

木村氏 「法人インフォメーションとの連携を強め、行政手続きにおける二度手間を減らしていきたい。今の仕組みでは、企業は『決算・申告情報』を国税庁に提出し、まったく同じ情報を決算公告として公開。上場企業であれば『有価証券報告書』も用意しなければいけません。それぞれ別の書類を準備する負担は大きい。そのせいか、決算公告の実施率は一桁と言われています。 法人インフォメーションと連携し、決算・申告情報の入力時にワンクリックで決算公告をできる仕組みをつくるなど弊社のサービス上で、一括で行える機能があれば、さらに多くの企業の負担を減らせると考えています」

木村氏いわく、決算公告など面倒な手続きは「『やり方がわからない』から手続きをしていない企業が多い」という。「freee」のような企業向けウェブサービスの力を借りれば、行政手続きの複雑さをより的確に軽減できるはずだ。経産省は、すでに提供しているAPIの改善など、より開発者が利用しやすいオープンデータの形を模索していく必要があるだろう。

データの種類と質の向上が企業活動を変える鍵

企業情報の収集や利用について語られた後は、オープンデータ化する情報の種類や質の改善に向けたアイディアが挙がった。

一般社団法人オープンコーポレイツジャパンの常務理事 藤井博之氏は、「商業・法人登記」の情報を法人インフォメーション上で公開すれば、反社会的勢力や犯罪、不祥事などに関わる企業を素早く特定し、企業が与信に割いているコストを削減できると語る。

商業・法人登記とは、会社の取引において重要な情報(商号や名称、所在地、代表者の氏名)を、変更履歴も合わせて法務局の職員がデータ化したもの。反社会的勢力と関わりのある企業や、実際に活動していないペーパーカンパニーを判定するために、よく利用されるそうだ。

(一般社団法人オープン・コーポレイツ・ジャパン常務理事 藤井 博之氏)

藤井氏 「企業名や所在地が頻繁に変更されている履歴があれば、『この企業が怪しい』と発見できます。しかし、今の法人インフォメーションでは、入力されているデータの履歴を参照できません。商業・法人登記と連携し、法人名や代表者、所在地の履歴が確認できるようになれば、より効率的に信用調査を行えるはずです」

東京商工リサーチの執行役員 田中智子氏も、ペーパーカンパニーを特定する上で、法人インフォメーションに不足しているデータを指摘する。

田中氏 「法人インフォメーションには、『実際に企業活動が行われているか』を判断する指標がありません。例えば、納税の申告状況が把握できれば、活動の有無を判断する材料になります」

(東京商工リサーチ 執行役員 田中智子氏)

商業・法人登記情報や納税情報など、まだオープンデータ化されていない企業情報は少なくない。

藤井氏は「企業が与信にかけるコストが下がれば経済全体にはポジティブな影響がある」と述べ、“全体最適”への意識を共有してほしいと強く訴えた。

データの“質”についても課題は山積みだ。東洋経済新報社データ事業局データベース第三部主任の鈴木 奈緒氏は、法人インフォメーションで取得できるデータのバラつきを挙げる。

鈴木氏 「弊社は、『会社四季報』や『東洋経済オンライン』など、コンテンツに利用するデータの収集・分析に法人インフォメーションを活用しています。その際、法人インフォメーション上のフリガナや住所が、商業・法人登記とは異なるケースがあります。フリガナが微妙に違う場合では、どちらが正しいかを再度調べなければいけません」

データのバラつきについて、経産省CIO補佐官の平本は、「企業が情報を提出する際、省庁によってフォーマットが異なることも原因の一つ」と語る。経産省内では、住所や電話番号など、データの表記の標準化に向けて、共通のフォーマットを整理し始めている。先ほどの議論でも挙がった通り、「データをいかに収集するか」については、まだまだ改善の余地がありそうだ。

意義あるオープンデータ化へ。経産省に与えられた課題

ラウンドテーブルの議論からは、経産省が企業情報のオープンデータ化を進めるにあたり、取り組むべき課題がいくつも浮かび上がってきた。

まずは、信用調査や企業分析に活用しやすいよう、他省庁と連携しデータを品質・種類ともに充実させていく。並行して、データを提出する際のフォーマットの整備など、より扱いやすいデータを集めるための仕組みも不可欠だ。

これらを着実に進めていくには、澤谷氏の指摘通り、データを提供する側と利用する側の協働が欠かせない。今回のような対話の場を続けるほか、法人インフォメーションのデータを自ら分析に活用、レポートを公開するなど、自ら手を動かし、利用者の視点を身につけていく意識があるだろう。

(当日はグラフィックレコーディングも行われた)

サービスの利用者や提供者といった立場や、省庁ごとの役割を超え、“全体最適”な改善を目指す姿勢は、企業情報のオープンデータ化、ひいてはDXにおいても不可欠だ。これからも経産省は、省庁単位ではなく、社会全体にとって最適なDXのあり方を問い続け、一つひとつの施策へ落とし込んでいく。