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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.1

内閣総理大臣表彰/相羽繁生(あいば しげお) 氏
株式会社東郷製作所 代表取締役社長

“ものづくり日本”のばね産業界を代表し、国際舞台で標準化活動をけん引

 ボールペンや電化製品、自動車や建物に至るまで、「ばね」は私たちの日常生活に広く浸透している。ばねはそもそも「復元力を持った機械部品」として古くから利用されてきたが、国際標準化の議論が始まったのは意外にも、2000年代に入ってからのことだ。

その理由について、「ばねには、ボルトやナットのような標準・共通となる形状がほとんどない。一品一品にそれぞれの設計が必要で、なかなか標準化しにくい部品だ。」と話すのは、内閣総理大臣表彰を受賞した東郷製作所の相羽繁生氏。愛知県に本社を置くばねのトップメーカーの社長でもあり、ISO(国際標準化機構)にTC227(ばねの専門委員会)が設立された2004年から国際幹事(現委員会マネージャー)を務め、ばねの国際標準化活動をリードする人物の一人だ。

ばねの国際標準化の機運が高まった主な理由は、経済のグローバル化だ。「海外で商売をするのに、各国でばねの用語や記号が異なれば誤解が生まれる。互換性を確保するためにも、インフラとして国際標準を整備する必要があった。」と相羽氏。日本のばねメーカーで構成される日本ばね工業会が中心となり、ばねの国際標準化に向けて準備を進め、日本から世界に呼びかけて設立されたのがTC227だ。

通常、国際標準化活動は技術者が中心となって進めることが多いが、TC227は、産業界の経営陣が主導して実現した事例だ。これについて相羽氏は、「国際規格づくりは、海外との商取引上の交渉事でもある。経営者の戦略と判断が不可欠と考えた。」と語る。日本発となるTC設立提案に各国から合意を得られたのは、それまでにESF(欧州ばね連合会)やSMI(北米のばね工業会)などと交流を重ね、連携体制を築いていたという下地があったことが大きい。

相羽氏はTC227国際幹事に就任して以来、ばねの用語・記号はもちろん、ばね技術の根幹となる許容差、試験評価、製造加工の分野で7規格もの制定を取りまとめてきた。このうち5規格がJISをベースとした日本提案であるのも、大きな貢献だ(※)。

「当初一番力を入れたのは、やはりばね用語・ばね記号に関する規格。海外で商売をするのに共通の認識を持つことが必要だった。」と語る相羽氏。2009年にばね用語、2013年にばね記号に関する規格が制定され、ばね産業のグローバル化が加速。2014年度から日本の金属製ばねの海外生産高は国内生産高を超過する状況になった。

そのほかにも、ばねのショットピーニングや圧縮コイルばね、板ばね、皿ばねに関する規格が制定され、現在は圧縮コイルばねや引張コイルばねの試験法の規格作成に着手しているという。これらの国際規格が制定、普及することにより、ばねの世界的な互換性が確保され、日本のばねメーカーの活躍の場はますます広がっていくだろう。

※国際幹事として制定したISO及びJISを基礎とした日本提案
①ISO 26909(ばね-用語)
 JIS B 0103(ばね用語)を基礎としている。
②ISO 26910-1 (ばね-ショットピーニング-第1部:一般手順)
 JIS B 2711(ばねのショットピーニング)を基礎としている。
③ISO 11891(熱間成形圧縮コイルばね-技術仕様書)
④ISO 16249(ばね-記号)
 JIS B 0156(ばね記号)を基礎としている。
⑤ISO 18137(板ばね-技術仕様)
⑥ISO 19690-1(皿ばね-第1部:計算)
⑦ISO 19690-2(皿ばね-第2部:技術仕様)
 ⑥⑦は、JIS B 2706(皿ばね)を基礎としている。

JIS B 0103(ばね用語)で定義されるばね。
これでも数多くある中のほんの一部である。
(画像提供:株式会社東郷製作所)
 

標準化を制することができれば、世界を制することができる

国際規格づくりと並行して、相羽氏はアジア各国との連携強化と参加国を増やすことを目的に、標準化人材を育成する国際的な研修事業にも取り組んできた。その結果、フィリピンやマレーシア、インドなどのTC227への参加につながった。こうした地道な活動が、日本の実情を反映した規格開発に結実することもある。その代表例が、ばねのショットピーニングに関する国際規格だ。

ショットピーニングとは、「ショット玉」と呼ばれる鋼球などの粒子を高速度で打ち付けることにより、ばねの表面に無数のくぼみをつける加工をいい、ばねの耐久性を向上させることができる。つまり、同じ強さのばねを作るとしても、ショットピーニングで加工した方が小型・軽量化しやすくなるということだ。このショットには、日本をはじめとするアジアではカットワイヤ材が一般的に使用されているが、欧州では、製品を傷付けるという理由から、主に航空業界でカットワイヤ材の使用を禁止されており、カットワイヤを規格案から削除するよう強く求められた。

「ちょうどその頃タイで研修会が開催され、『カットワイヤ材が使えなくなるかもしれない。』という話をした。『それは問題だ。我々も参加しなければ。』と声が上がり、タイがTCに参加してくれることに。苦労していただけに、本当に嬉しかった。」と相羽氏は振り返る。

タイは、TC内で発言権と投票権を持つ“Pメンバー“として参加することを決意。タイをはじめとするアジア諸国が国際会議の場でカットワイヤ材の使用を強く主張したことから、欧州でも実情が理解されて認められることになった。ショットピーニングは、ばね製品の小型・軽量化につながることから経済的な効果が高く、また、自動車産業等のCO2削減への貢献など社会的な意義も大きい。そのショットピーニングの国際規格づくりの過程で、日本やアジアの実情が排除されずに認められたことは、相羽氏が培ってきた国際的なネットワークが寄与するところが大きく、日本の産業界に与えた有益さは計り知れない。

ばねの国際標準化を進めるにあたり大切なこととして、相羽氏は「国際協調とバランス」と強調する。一国の意見を押し通すのでなく、参加各国の意見を規格に取り入れなければならない。その一方で、タイの例のように日本と事情を同じくする国々との仲間づくりも必要だ。今後の課題としては「アジア諸国へのさらなる参加を呼びかけて、国際協調を強めていきたい。」という考えだ。

「標準化を制することができれば、世界を制することができる。」と相羽氏は断言する。これは大学生や次世代へ伝えたいメッセージでもあり、「標準化は地味な活動だが、その大切さを理解して欲しい。国際標準化活動は日本の産業界のための活動であり、仲間の協力があるからこそできること。まずは興味を持つことから始めて欲しい。」と語った。相羽氏は毎年、地元の大学の授業で標準化活動の説明を担当しているという。こうした取り組みが、未来の標準化人材の誕生につながることを期待したい。

【標準化活動に関する略歴】
1980年 トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車株式会社) 入社
1990年 同社 退社
1990年 株式会社東郷製作所 入社(取締役就任)
1991年~1996年 ばね技術研究会(現ばね学会)標準化理事
1992年 株式会社東郷製作所専務取締役
1994年~1996年 ばね技術研究会(現ばね学会) JIS B 0103 ばね用語原案作成委員会 副委員長
1996年 株式会社東郷製作所取締役副社長
1998年 同社 代表取締役社長
1998年~1999年 JSMA(日本ばね工業会)標準化委員会 副委員長
1999年~現在 JSMA標準化委員会 委員長(現標準化会議 議長)
2004年~現在 ISO/TC227(ばね) 国際幹事(現委員会マネージャー)
2006年~2016年 JISC(日本産業標準調査会)臨時委員
2019年~現在 JISC臨時委員

最終更新日:2020年10月12日