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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.2

経済産業大臣表彰/石川厚史(いしかわ あつし) 氏
一般社団法人日本鉄鋼連盟 主査

循環型社会の推進に向けた、鉄鋼製品のリサイクル効果の評価方法を確立

私たちの生活を支える家電製品やスチール缶、自動車や建築物に至るまで、鉄は製品を構成する主要な素材だ。鉄には磁力によって回収できるという特徴があり、製品が寿命を終えた後もほぼ全量が回収され、新たな鉄鋼材料の原料として再利用される。鉄は何度でも生まれ変わることができ、サステナビリティの観点からも非常に優れた素材である。

ISO20915(鉄鋼製品のライフサイクルインベントリ計算方法)は、鉄のこのリサイクル性を考慮して、環境負荷を適切に評価して計算する先進的な国際規格だ。
「製品が環境に与える影響は、製品の使用段階、例えば『車の燃費』のような指標に着目されがち。そうではなく、原料・製造・使用・廃棄からリサイクルまでのライフサイクル全体で、環境への負荷を評価しようという目的だ。」と語るのは、日本鉄鋼連盟の石川厚史氏。ISO(国際標準化機構)のTC17(鋼の専門委員会)の国際幹事として、規格制定に大きく貢献した人物だ。
従来、鉄鋼分野の標準化は、生産の合理化、取引の単純公正化などを目的として、製品やその試験方法、鉄鉱石などの原材料の成分の分析方法と言った製品に着目したものであったがライフサイクルに着目した標準化は画期的であり、鉄鋼連盟としても初めての経験であった。

鉄鋼製品のリサイクル特性を含めて環境負荷を考える取り組みは、1990年代から世界鉄鋼協会(The World Steel Association)で取り組まれていた。これを国際規格にすることを目的に日本から提案し、同協会と連携を取りながら2018年に誕生させたという経緯だ。

審議の過程では反対意見もあったという。「鉄鋼の製造だけに着目すると、プロセスによって負荷が大きかったり小さかったりするが、ライフサイクル全体で見ると差がないことが技術的に明らかになった。自国のプロセスが有利と主張したい国からは、『この評価方法はおかしい。』と抗議の声も出て、議論が紛糾することもあった。」と石川氏は苦笑いする。

「国際規格は技術的に正しいことが大前提だが、“正義”がいつも勝つわけではない。参加国のコンセンサスを得ることが大切なので、十分に理解してもらえるよう説明し、意見を取り下げてもらった。」と石川氏。根気強い調整の結果、双方が歩み寄って規格の完成に至った経緯がある。

翌2019年には、ISO20915に対応する国内規格(JIS Q 20915)の制定も完遂。東京オリンピックなどでもCO2削減は重要なテーマであり、鉄鋼材料という素材の環境負荷を適切に評価できる仕組みが確立されたのは画期的なことだ。特に日本の鉄鋼製品の環境負荷は世界平均値と比べて優れた値となっており、日本の製造業の国際競争力の向上はもちろん、循環型社会の推進にも大きく貢献することになるだろう。

製鉄所の夜景
(画像提供:一般社団法人日本鉄鋼連盟)

世の中に必要な規格を自分たちの手で作る

国際幹事として最も重要なことは?との質問に対し、「公平公正であること。」と答える石川氏。TC17内には10を超えるSC(分科委員会)があり、その全体調整を行うのも国際幹事の役割だ。「全体の参加国の理解を得るためには、公平公正でなくてはならない。特定の国や技術に肩入れせず、調整する努力が大事。」と語る。

そうした意識は、過去の経験からも引き継がれている。石川氏は2003年から2006年にかけて、鉄筋棒鋼の作業グループ(WG)のコンビ―ナとして、日本提案や各国の意見の調整を主導したことがある。鉄筋棒鋼とは、主に建築に使われる棒状の鋼材だが、当時の規格はヨーロッパを中心に制定されており、非地震国を想定したものだった。グローバル調達や耐震国への販路拡大のためには、日本として耐震性規定の追加は必須の要望だった。

「規格の改訂に反対意見はないが、とにかく無関心(笑)。議論を俎上に載せるためにも、1国1国に説明して回るなど、ロビー活動のようなこともした。」と石川氏。そうした丁寧な活動が功を奏し、耐震性を規格に取り入れることに成功したという実績がある。

石川氏にとって、標準化活動とは「若い頃は、天から降ってくるようなものとして感じていた。」という。「しかし、実は自分たちで改善したり、必要な規格を新しく作ったりするもの。標準化の重要性が社会に広く認識されたのは、1900年代にボルチモアの火災で、近隣から駆け付けた消防団のホースと消火栓の規格が合わず、消火作業が難航したという事例からだといわれている。同様に身近なこととして、標準化について多くの人に関心を持ってほしい。」と語る。

また、「標準化は技術者としての幅を広げて社会に貢献していく手段でもある。標準化に携わることで固有の技術や分野に関わることができ、関係者と交流できるのも貴重な経験だ。」とも。これは次世代へのメッセージでもある。

今後のTC17の課題は、「もはや環境は避けられないテーマであり、ISOがSDGsにも目を向けているところでもある。我々の技術が標準化を通してどのように寄与できるか考えたい。」とのこと。石川氏のさらなる活躍と業界の発展に期待したい。

【標準化活動に関する略歴】
1982年 早稲田大学理工学研究科応用化学専攻博士前期(修士)課程修了
1982年 新日本製鐵株式会社入社 室蘭製鉄所製鋼部
1988年 同社 人事部 University of Leeds 留学
1990年 同社 大分製鉄所製鋼部
1995年 同社 室蘭製鉄所製鋼部
1997年 同社 技術総括部
1997年 一般社団法人日本鉄鋼連盟 標準化センター鋼材規格検討会 F01.04(棒線・特殊鋼分野)分科会委員会委員
2003年~2006年 ISO/TC17(鋼)/SC16(鉄筋及びプレストレストコンクリート用鋼)/WG7(鉄筋棒鋼) コンビ―ナ
2012年 新日鐵住金株式会社(新日本製鐵株式会社から改称) 品質保証部
2013年~2016年 一般社団法人日本鉄鋼連盟 標準化センター鋼材規格検討会 F02.01(鋼質・機械試験分野)分科会委員
2016年 同連盟へ出向
2016年~現在 ISO/TC17 国際幹事就任
2017年~現在 一般社団法人日本鉄鋼連盟へ転籍(主査)

最終更新日:2020年11月2日