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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.6

経済産業大臣表彰/氏家 弘裕(うじけ ひろやす)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 情報・人間工学領域
人間情報インタラクション研究部門 上級主任研究員

安全で快適な利用環境のために、映像の生体安全性の国際標準化を主導

現在では、映画やビデオ、テレビゲームなどの映像を、大型の家庭用ディスプレイや携帯電話、タブレット端末などのさまざまな形態で視聴し、楽しむことができる。しかし、こうした技術の進展には、映像による生体への好ましくない影響を十分に把握し、配慮することが不可欠である。

実際に、映像による生体への影響が社会的に取り上げられるきっかけがあった。海外では1992年にテレビゲームをしていた少年が、日本では1997年にテレビのアニメ番組を見ていた多くの人々が、強い光の点滅などで吐き気やけいれんを起こすなど、光感受性によると見られる症状を発症したことが報じられた。

どのような製品、形態でも映像を安全かつ快適に視聴するためには、国際的な指針づくりが重要となる。
「映像に対する主要な生体影響として、光感受性発作や激しい動きで生じやすい乗り物酔いのような映像酔い、さらに左右の眼に視差のある映像を別々に提示して立体視を生じさせる3D映像では、現実の立体視とはいくつかの点で性質が異なることが原因で生じる視覚疲労が挙げられる。」と語るのは、産業技術総合研究所の氏家弘裕氏。映像の生体安全性に関する国際標準化をリードし、日本提案となるISO(国際標準化機構)9241(人間工学―人とシステムとのインタラクション-)シリーズとして第391部~第394部を制定に導いた人物だ。

「当時、まずはこれらの国際標準化の重要性をアピールするために、2004年にISOの中でワークショップを開催することからスタートした。」と氏家氏。当時の上司と事務局を務め、専門家や映像産業界の人も参加し、議論を重ね、翌年にIWA(International Workshop Agreement、国際ワークショップ協定)という合意文書を発行するに至った。これは映像の生体安全性に関する初めての国際的な文書であり、多くの関係者の認識を加速させた。

さらに、2006年にISO/TC159(人間工学)/SC4(人間とシステムのインタラクション)の中に、規格化を進めるためのスタディグループを設置。ここで議論を深め、時間をかけて検討した後、次のステップとしてISOの中で規格化提案することの宣言が決議された。2010年にWG12(映像の生体安全性)が設置され、氏家氏はコンビーナに就任し、規格案のとりまとめ役を担うことになった。同時に、自らプロジェクトリーダーとして、映像の生体安全性に関する一連の規格の提案を推進。映像によって生体がどのような影響を受けるのか、データを同時に集めながら規格化を目指していった。

研究成果のアウトプットとして、国際標準化で社会に貢献する

氏家氏が携わった一連の規格のうち、第391部は光感受性の規格であり、イギリスで30年かけて集積したデータをベースに規格化したものだ。第392部は3D映像などによる視覚疲労の規格であり、以前から国内外で問題意識をもって考えられていたので、規格化の基盤となるデータも比較的集めやすかった。

【映像の回転に伴う生体影響計測のための実験施設】
こうした実験施設などで得られた結果を、映像の生体安全性に関する国際規格の基盤的データとすることができた。
(画像提供:国立研究開発法人産業技術総合研究所)
しかし、映像酔いに関しては、「個人差が大きく、映像表現の複合的な要因で起きると考えられることから、基盤となるデータ収集についての十分な合意形成が必要であった。」ため、TR(技術報告書)として第393部は電子映像観視中の映像酔いに関する構造的総説としてまとめた。その後、第394部は電子映像観視中の映像酔いによる好ましくない生体影響経験のための人間工学的要求事項として提案。

こうしてできたISO9241シリーズにより、映像産業に関わる企業が映像や製品を作る際に配慮するばかりでなく、映像製品などの取扱説明書などでも、使用の仕方によっては眼の疲労、疲れ、気分が悪くなる・乗り物酔いに似た症状が出るなどの不快な症状が出ることがあり、適度な距離と適切な休憩を取るなど視聴者への注意喚起を促す記述が増えている。氏家氏の取り組みは、安全で快適な映像利用環境の整備に大きな役割を果たし、さらには映像産業の新しい技術の発展に寄与するといえよう。

今、注目されているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の分野でも、人間工学の観点から標準化の取り組みが始まっている。HMDはエンターテインメントだけでなく病院でのリハビリ訓練や職業訓練などにも使われ始めていることから、「これからますます多くの分野で活用される。だからこそ、生体に対する影響に十分に配慮することがポイント。しっかり標準化に取り組みたい。」と氏家氏。

氏家氏は元々視覚の研究者である。立体視や空間の知覚を人間のメカニズムでどのように処理されていくのか、実験心理学観点から研究を行っていた。「自分の研究をしながら、標準化活動を通して社会貢献ができたこと、また多くの関係者の方々のご支援やご協力をいただいて標準化を進めることができたことは、とても恵まれていると思う。学生さんや若手研究者たちにも自分の研究のアウトプットの方法として、標準化活動があることを伝えたい。」と、後輩へエールを送る。


【標準化活動に関する略歴】
1991年 東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了
1991年 ヨーク大学(カナダ)博士研究員
1995年 工業技術院生命工学工業技術研究所 研究官
2001年 独立行政法人(現国立研究開発法人)産業技術総合研究所 企画主幹
2004年~2005年 ISO/International Workshop on Image Safety WS 事務局
2005年 独立行政法人(現国立研究開発法人)産業技術総合研究所 研究グループ長
2005年~2019年 ISO/TC159/SC4/WG2(視覚表示の条件)エキスパート
2010年~現在 ISO/TR9241-331:2012(裸眼立体ディスプレイの光学特性)コプロジェクトリーダー
2010年~現在 ISO/TC159/SC4/WG12コンビーナ
2010年~現在 ISO/TC159 国内対策委員会(JENC)委員
2010年~現在 ISO9241-391:2016(光感受性発作軽減のための要求事項、解析及び適合性検証方法)プロジェクトリーダー
2012年~現在 ISO9241-392:2015(立体映像による視覚疲労軽減のための人間工学的推奨事項)プロジェクトリーダー
2017年~現在 ISO/TR9241-393:2020(電子映像観視中の映像酔いに関する構造的総説)プロジェクトリーダー
2017年~現在 ISO9241-394:2020(電子映像観視中の映像酔いによる好ましくない生体影響軽減のための人間工学的要求事項)
         プロジェクトリーダー
2019年~現在 ISO/TC159/SC4/WG2 コンビーナ

最終更新日:2020年12月7日