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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.7

経済産業大臣表彰/角川 修 (すみかわ おさむ)氏
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門 茶業研究監

日本の高級茶「抹茶」「玉露」の世界的なポジションを守るために

被覆栽培した茶葉を手摘みする様子
茶葉を手摘みする様子
蒸して乾燥した碾茶(てんちゃ)
蒸して乾燥した碾茶
石臼で粉末状に挽き、抹茶となる 抹茶

(画像提供:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、京都府農林水産技術センター農林センター茶業研究所)

健康志向の高まりや日本食ブームを背景に、日本の緑茶の輸出が好調だ。近年は抹茶の人気が高く、菓子やラテの材料としても海外需要が増えている。
しかし、ほんの10年ほど前、高級緑茶の抹茶や玉露が、ISO(国際標準化機構)11287(緑茶-定義及び基本要求事項)から外れてしまうのではないかという危機があった。

茶の国際規格を扱うのは、ISO/TC34(食品)/SC8(茶)。2000年当初まで、日本は国内向けの緑茶生産に力を入れており、国際標準化活動にあまり関与してこなかった。
しかし、ISO11287の検討が始まったことを知り、「積極的に参加しなければ日本抜きでいろいろなことが決まってしまうとの危機感が生まれた。」と語るのは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下「農研機構」という。)の角川修氏。
氏こそ、日本の高級緑茶の防衛に尽力してきた立役者だ。

2005年には委員会原案がすでに提出されており、そこには「緑茶は機能性成分のカテキン類が含まれることが優れた特徴。」として、成分表には総カテキン量の下限値が記載されていた。しかし、抹茶や玉露はうま味を出すために被覆栽培(直射日光を遮る栽培方法)でカテキンの生成を抑えているため、この下限値に達さない。このままでは緑茶と認められなくなってしまう。
農研機構、農林水産省、業界団体などで対応を話し合った結果、日本は議決権のないOメンバー(Observing member)でありながら、英国人議長のはからいで、国際会議の場で問題点を指摘させてもらえることになった。

2009年のロンドン会議、角川氏は「上司の命により。」日本代表団長として国際舞台に立った。「プレゼンで問題点と日本の要望を伝えたほか、とびきりの抹茶と玉露を京都や福岡から取り寄せた。言葉で伝え切れなければ行動でカバー。懇親会で『これは緑茶だが、ISOの成分表では外れてしまう。』とアピールした。」と角川氏。

始めて飲んだ参加者から「確かに緑茶だ。おいしい。」と手ごたえがあった。
角川氏らの「おもてなし」効果があったのか、会議の最後にコンビ―ナから「ぜひサンプルを送ってほしい。」と耳打ちされた。後日、規格の脚注に「抹茶や玉露のような特別な栽培では、成分表と異なることがある。」といった内容を明記してもらえることになった。

日本に戻り、角川氏は農林水産省や業界団体に向けて報告会を開いた。「ISOの仕組みや国際規格の中身を知らない人が多く、『日本抜きで決めているとは何事か。』という反応だった。国際会議で発言をしないことには何も始まらない。私も勉強しながら、少しずつ日本が議決権を持つPメンバー(Participating member)になる準備を進めた。」と角川氏。
積極的に周囲に働きかけ、国内委員会の設置を提案。研究者や専門家を招いてワーキンググループを立ち上げた。業界や関係団体からも協力を取り付け、規格案審議や投票などの国内審議体制を整備。2014年に日本は晴れてPメンバーとなった。

日本のおもてなしでWG「抹茶」設立に貢献、コンビ―ナに就任も

2015年に開催された静岡の国際会議では、角川氏は実行委員として会議の中心的役割を担い、日本代表団長として会議に出席。ちょうど日本が茶の輸出に力を入れ始めた時期であり、日本の緑茶をアピールする絶好の機会だった。農林水産省や関係団体と協議の上、「抹茶」の国際規格の必要性を説明するプレゼンを行った。

抹茶は日本が発祥であり、従来「Matcha」としてブランド化され高値で取引されていた。しかし、当時は抹茶がブームになりつつあり、緑茶や紅茶を粉末状にしただけの、安価で粗悪な商品が出回るようになっていた。「抹茶が何かわからないまま、世界の流通現場でいろいろなことが起きている。抹茶は特別な栽培方法が必要で、本物と偽物を分けるために国際規格が必要だ。」と角川氏は主張した。

この会議でも、日本の抹茶の魅力をアピール。抹茶菓子の提供や抹茶を茶臼でひく体験型デモンストレーションにより、抹茶を印象付けることに成功。ここでも「おもてなし」が功を奏した。「プレゼンは言葉が完璧でない分、なるべくきれいな写真を使うなどしてわかりやすく伝わるようにした。『あなたのプレゼンは、ビューティフル。』と評価され、抹茶に興味を持ってもらえた。」と角川氏は笑う。

その結果、2020年2月にSC8にWG13(抹茶)が誕生。角川氏はコンビ―ナに就任した。現在は「抹茶の定義」の国際規格作りに向けて、まずはTR(技術報告書)を作成中。既に抹茶の栽培方法を記したマニュアルをWG内で回付し、次のステップとして参加国からさまざまな抹茶のサンプルを募る準備をしているところだという。

「国際標準化は戦いだという人もいるが、『ハーモナイズ』こそ大切だと考える。いかに協力を得るかが課題で、規格作りでわからない部分は国際議長と相談して進めている。」と角川氏。50年後、100年後にも本物の抹茶が生き残るため、TRには「抹茶は日本がオリジン。」としっかり明記したい考えだ。

角川氏が国際標準化に関わり始めて約11年。積極的な活動は「誰かがやらなければならない。ならば農研機構の自分がやらなければ。」という思いからだったという。「生産技術は日本と中国が他国をリードしているが、標準化に関しては中国に比べ日本の基盤は弱く、人材も少ない。今後は後継者を育てる必要がある。」と強く語る。

角川氏は農研機構に就職前、青年海外協力隊に参加していた。「若い人は自由な時間があるうちに、自分磨きでいろいろな経験をしてほしい。海外で英語を身に付けることもその1つ。」とアドバイスする。

角川氏らの活動が、日本の高級茶ブランドを守り輸出増大に貢献していることは間違いない。「日本の茶業界の将来に興味を持って、一緒に汗をかいてくれる人たちの協力を仰ぎたい。」とにこやかに語った。  

【標準化活動に関する略歴】
1991年 筑波大学大学院 農学研究科博士課程中退(農学修士)
1991年 農林水産省 野菜茶業試験場 研究員
1997年 同 四国農業試験場 主任研究官
2005年 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 研究室長
2009年~現在 ISO/TC34/SC8 エキスパート
2013年 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 業務推進室長
2014年~現在 ISO/TC34/SC8 日本代表団長
2015年 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 研究調整役
2017年 同 本部 研究管理役
2018年~現在 同 果樹茶業研究部門 茶業研究監
2019年~現在 ISO/TC34/SC8 国内審議委員会委員長
2020年~現在 ISO/TC34/SC8/WG13 コンビ―ナ

最終更新日:2020年12月14日