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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.8

経済産業大臣表彰/関 喜一(せき よしかず)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 デジタルアーキテクチャ推進センター
情報標準化推進室 室長代理

国際幹事として機器・装置用図記号の開発・規格化を推進

「アクセシビリティ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。アクセシビリティとは「近づきやすさ」や「利用しやすさ」を表す言葉で、主に情報やサービスへのアクセスのしやすさという意味で使われる。高齢者や障がい者、外国人など、どんな能力、環境、状況に関わらず、サービスやコンテンツを利用しやすくすることだ。

「機器・装置用図記号は、機器・装置の使い方や機能を説明する図記号で、言語に依存しないユーザインタフェース。アクセシビリティを考える上で非常に重要な要素だ。」と語るのは、国立研究開発法人産業技術総合研究所の関喜一氏。

図1 IECのWebサイトのホームページ(https://www.iec.ch/homepage)
IEC 60417の電源の“スタンバイ”の図記号の例が写っている。
(出典:International Electrotechnical Commissionホームページ)
関氏は2011年からIEC(国際電気標準会議)/SC 3C(機器・装置用図記号)の国際幹事としてIEC 60417(機器・装置用図記号)の国際規格化の中心人物として尽力し、約300件の機器・装置用図記号の開発に関わってきた。
「例えばパソコンの電源ボタン。りんごマークのような図記号(図1参照)を見れば、どこの国の人であっても電源ボタンだとわかり、簡単に扱うことができる。」と関氏。

"Power", "Stand-by"と書いてあっても、英語の読めない人にはこれが電源ボタンであることがわからない。機器・装置用図記号があれば、高齢者や障がい者、言葉の通じない人にもアクセシビリティはグンと高まる。

国際標準化を進める上でのISO(国際標準化機構)及びIECの共通のルールとして、ISO/IEC Directives Part2(専門業務用指針第2部 国際規格の構成及び作成に関する原則と規則)がある。この指針ではISO及びIECの規格の中で使用される機器・装置用図記号は、IEC 60417又はISO 7000(装置に用いる図記号)のどちらかに従うように決められており、横断的にどの分野でも共通して使用されることから、この2つの規格は誰にとってもわかりやすいことが大切だ。
例えば、自動車の分野と家電の分野で電源ボタンを表す図記号が違うと消費者は混乱をするため、共通の図記号にするということだ。
 

一度、国際規格として制定された図記号でも、このルールに則っていない場合は関氏から指摘をして、もう一度作り直してもらうこともある。IEC 60417には約1,500個、ISO 7000には約3,800個、両方合わせて合計約5,000以上の図記号が決まっているそうだ。このように、膨大なこれらの図記号の維持・メンテナンスとISO及びIECの全規格を監視するという地道な努力が必要である。関氏が長年にわたり第一線でこれらの標準化活動に尽力してきたことで、メーカーはどの製品に対しても同じ意味の場合は同じ図記号を迷うことなく採用することができるので、設計、生産等の合理化に繋がり、また、グローバル化の進展や高齢者、障がい者等の様々な使用者にとって相互理解が進展する恩恵を受けていると言っても過言ではない。

このような図記号の規格は水平規格と呼ばれ、国際標準化においてはどの分野でも共通して使用される、共通のルールブックのようなものだ。逆に言えば、扱う分野が広範なため、その全てに精通する専門家がいないということでもある。「標準化活動に関わる各分野の方に用語などを教えていただき、理解をし、デザイナーに図記号を作ってもらう。専門外のことをかなり勉強しなければならない。」と関氏。

「特に記憶に残っているのは、電気のブレーカーの図記号。直流や交流などすごく種類が多く、説明を聞いてもわからない(図2参照)。その分野の人に説明を聞いて整理していくのは、かなり大変だった。」そうだ。

交流
(Type AC)
交流・脈流
(Type A)
交流・脈流・直流
(Type B)
高周波
(Type F)
全て
(Type B-2)
図2 電気ブレーカー(RCD)の図記号
(出典:IEC 60417)
図3 言語選択の図記号
(出典:IEC 60417)

最近標準化したものに、言語選択の図記号がある。地球儀のようなデザインで、そこで自分の国の言葉など様々な言語が選べることを表している(図3参照)。例えば、海外の空港で現地の言葉がわからなくても、自動発券機にそのマークがあれば、そのマークのボタンを押すことにより、自分の国の言葉で使い方の説明を受けられる。このように新しく開発された図記号は実際の機器に搭載されることで私たちに馴染むようになり、やがては電源マークのように身近な図記号になっていくだろう。
 

障がい者や高齢者、異なる文化でも使いやすい技術を標準化するために

元々、関氏の研究分野は視覚障がい者の聴覚による空間認知で、専門の一つは音響学で人間の聴覚や音の仕組みを調べること、もう一つは視覚障がい者心理学だ。視覚障がい者が情報にアクセスできるようにするためにはどうしたらいいか。研究を進めるうちにノウハウを蓄積し、それが標準化に非常に有効であることから、標準化活動に関わるようになった経緯がある。

その経験から、関氏はISO/IEC JTC 1(ISO及びIECの情報技術に関する合同技術委員会)/SC 35(ユーザインタフェース)のプロジェクトエディタ及び国内委員長としても、障がい者の支援技術の国際標準化に数多く貢献してきた。SC 35は、キーボードの配列やパソコン画面のアイコンなどを定める分科委員会だ。「特に力を入れているのはアクセシビリティで、高齢者や障がい者だけでなく、言語や文化の違いにも対応する技術だ。」と話す。

SC 35のプロジェクトエディタとして、関氏が制定に尽力した規格が2つある。1つはISO/IEC 24786(情報技術-ユーザインタフェース-アクセシビリティ設定のための利用しやすいユーザインタフェース)で、障がい者自身が自分で必要なアクセシビリティ機能を設定してパソコンを使いやすくするための規格(図4参照)。もう一つはISO/IEC30122(音声命令)シリーズで、例えばカーナビで使われているように、決まった言葉や単語で指示を出すと、カーナビがそれを認識し、必要な機能を起動させる。目や手でユーザインタフェースにアクセスできない場合に、音声命令はとても重要である。

図4 ISO/IEC 24786のイメージ
障がい者が自力でアクセシビリティ設定を行い自分でPCを使えるようにしている。
(画像提供:国立研究開発法人産業技術総合研究所)

ITデバイスは進化が速い。関氏が扱うのは情報のアクセシビリティのため、あっという間に時代遅れになってしまうという。「新しい技術に対応して規格を更新していく必要がある。国際規格は提案してから制定されるまで5年近くかかるため、アンテナを張りめぐらして未来を予測しながら早めに活動を開始している。」と語る。

「標準は論文や特許と同じ知的基盤だ。それ自体は成果ではないが、研究活動の手助けをしてくれるのは事実。標準化活動は長期的な投資だ。若い研究者たちは、すぐに業績につながらないとなかなか踏み出せないかもしれないが、長い目で見たときには結果としてプラスになる。せひチャレンジすることを勧めたい。」とメッセージをいただいた。

【標準化活動に関する略歴】
1994年 北海道大学大学院工学研究科生体工学専攻博士後期課程修了。工学博士。
1994年 工業技術院生命工学工業技術研究所(現国立研究開発法人産業技術総合研究所)入所
2003年 ISO/IEC JTC 1/SC 35/WG6(UIアクセシビリティ) エキスパート
2005年~2015年 ISO/IEC JTC 1/SWG-A(アクセシビリティ) 国内委員
2006年 ISO/IEC 24786(アクセシビリティ設定) プロジェクトエディタ
2006年~2013年 ISO/IEC JTC 1/SC 35/WG 6  国内主査
22008年 ISO/IEC JTC 1/SC 35/OWG-VC(音声命令) コンビーナ
2011年~2016年 ISO/IEC JTC 1/SC 35及びISO/IEC30122(音声命令)シリーズプロジェクトエディタ
2011年~現在 IEC/SC 3C(機器・装置用図記号) 国際幹事
2013年~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 35(ユーザインタフェース) 国内委員長
2013年~2015年 ISO/TC 173/SC 7(感覚機能障害者のための福祉用具) ISO 19029(音案内)プロジェクトリーダ
2017年~現在 ISO/IEC JTC 1(情報技術) 国内副委員長
2019年~現在 ISO/IEC 20071-5[ISO/IEC 24786(アクセシビリティ設定)] プロジェクトエディタ 

最終更新日:2020年12月21日