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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.9

経済産業大臣表彰/髙橋 英和(たかはし ひでかず)氏
国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯理工学専攻
口腔機材開発工学分野 教授

国際議長として、日本の意向を反映した歯科用CAD/CAMシステムの国際標準化を推進

歯科治療の分野の標準化はとても重要である。「私が大学を卒業した80年代は、患者さんが治療を受ける歯科用のチェアと、歯などを削るタービンは、それぞれメーカーが指定するものでないと使えなかった。今は規格が統一されてどのメーカーのものでも互換性があり、診療の効率化にもつながっている。」と話すのは、国立大学法人東京医科歯科大学の髙橋英和氏。

髙橋氏は、2003年からISO(国際標準化機構)/TC 106(歯科)にエキスパートとして参加。以来17年間にわたり、同TCのSC 1(成形修復材料)やSC 2(補綴(ほてつ)注)用材料)でエキスパートとして活動を続けるとともに、SC 7(オーラルケア用品)/WG 1(手用歯ブラシ)ではコンビ―ナを、SC 9(歯科用CAD/CAMシステム)では国際議長を務め、これまで歯科材料や歯科機器の国際標準化に大きく貢献してきた。
注)歯の欠損を義歯・金属冠などで補い、機能を修復すること。

「歯科治療のあり方は大きく変わってきた。従来は歯の詰め物や入れ歯などの補綴装置は、まず歯の型取りをして模型を作り、その模型を元に歯科技工士が作るというのが主流だった。それが今では口腔内スキャナーで形状を測定し、そのデータを元に切削加工機で材料を削り出して補綴装置を作ることが可能になっている。」。それがまさに、SC 9が取り扱う歯科用CAD/CAMシステムだ。

SC 9は、2011年に日本から提案して翌年に設立された、TC 106の中で最も新しい分科委員会だ。日本は幹事国及び国際議長を担当し、2014年からは髙橋氏が議長職を引き継いでいる。このSC 9は、用語、機器、相互運用性、機械加工物及び切削加工材料の 5つのWGに分かれ、髙橋氏は国際議長として、これまでにISO 12836(歯科-間接歯修復のためのCAD/CAMシステム用のデジタル装置-精度評価の試験方法)やISO/TR 18845(歯科-コンピュータ支援歯科用ミリングマシンの加工精度評価の試験方法)など6件の国際規格の発行を進めてきた。

「前任者から『今、市場にある製品で問題なく使用できているものを排除するような規格にしてはならない。投票結果だけで物事を決めてはならず、少数意見にも耳を傾けて各国のコンセンサスを取って進行しなさい。』と指導を受けた。デジタル技術はどんどん新しくなる。一度規格を作ってもすぐに見直しが必要で、各国のさまざまなメーカーに対応する規格作りが難しいところだ。」と髙橋氏。

 
CAD/CAM用コンポジットレジンブロック""各種のCAD/CAM用コンポジットレジンブロック。
写真下部に示した二つの部材の形態で側面の厚さがどの程度まで切削できるかで加工性の評価を検討する予定である。
(画像提供:国立大学法人東京医科歯科大学)
現在は、すでにある規格の改訂作業と併せて、日本提案となる「CAD/CAM用コンポジットレジンブロック」の規格化を進めているところだ。「コンポジットレジンはプラスチック素材の歯科用材料で、日本の歯科治療では他国と比べ広く使われている。日本の診療は1つの小さなブロックから1本分の歯を削り出して加工するため、1つの大きなブロックから数本分を削り出したい他国からすると、合理的でないという指摘もある。しかし、大きなブロックの製品が世界でほとんど流通していないことに対し、小さなブロックはすでに多数の企業から上市されていることから、小型ブロックに適した評価項目や試験片のサイズなど、何とか各国の合意を取り付けながら規格化に結び付けたい。そのためにはWGで議論をしっかりすることが必要だ。」と意欲的だ。

CAD/CAMレジン冠は2014年から小臼歯部の保険適用になっているが、今年の9月には前歯へも適用となった。これからいっそう日本の歯科医院でCAD/CAMシステムを使用した治療が普及するだろう。国際規格によってシステムの互換性や品質、性能が明らかになることで、歯科医療従事者が製品や材料を評価することが容易になり、製品の競争力にもつながっていく。それは私たちが安心・安全で便利な歯科治療を受けられることを意味し、そこには髙橋氏らによる活躍がある。

国際標準化活動はボランティア。正当に評価される仕組みも必要

TC 106には、髙橋氏のような大学の研究者ばかりでなく、日本のメーカー関係者なども参加している。「私は国際議長として表には出ているが、実際の活動をサポートしてくれているのは委員会マネージャーであるメーカー関係者である。本来の社内業務がある中でボランティアとしてこの活動をしっかり支えてくれており、会社の中でも評価される仕組みがあるべきだ。」と語る。

実は2000年前後、日本のCAD/CAMシステムは世界のトップクラスだった。しかし、日本のメーカーが「より精度の高いもの」にシフトしていったのに対し、海外のメーカーは「精度より簡便なもの」に力を入れてきたという経緯がある。その結果、歯科治療の現場では後者が広く受け入れられることとなり、髙橋氏には日本のメーカーを「応援したい。」という気持ちがある。

「日本のカメラや加工機器の技術は本来トップクラス。日本のメーカーがもっと世界で活躍できるためにも、私は『縁の下の力持ち』としてできることを頑張りたい。」と髙橋氏。

TC 106の日本委員会では、若手研究者を対象に標準化人材の育成にも力を入れているところだ。「実際に国際会議の現場に参加してもらう環境を整えている。国際規格作りは、実際に参加してみないと用語や進行がわからない。いろいろな国の人と意見の交換ができて、自分の視野を広げるいいチャンス。ぜひ積極的に参加してほしい。」と若手の参加を歓迎する。

【標準化活動に関する略歴】
1980年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
1984年 同大学院歯学研究科 修了
2002年~現在 ISO/TC 106委員
2003年~2015年 ISO/TC 106/SC 2/WG 18(歯科用ワックス)エキスパート
2005年~2014年 ISO/TC 106/SC 1/WG 9(高分子系修復材料)エキスパート
2005年~2014年 ISO/TC 106/SC 2/WG 11(義歯床用レジン)エキスパート
2007年~現在 ISO/TC 106/SC 2/WG 1(歯科用セラミック)エキスパート
2009年~2017年 ISO/TC 106/SC 7/WG 1 コンビ―ナ
2011年~2015年 東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科 教授
2011年~2013年 日本歯科医師会歯科医療機器試験ガイドライン検討委員
2011年~2014年 ISO/TC106/SC 6(歯科器械)国内委員会委員長
2013年~現在 日本歯科医師会器材部会・材料規格委員会委員
2014年~現在 ISO/TC106/SC 9 国際議長
2014年~現在 ISO/TC106/SC 9 国内委員会委員長
2015年~現在 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授

最終更新日:2021年1月12日