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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.18

経済産業大臣表彰/松橋 隆治(まつはし りゅうじ)氏
東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 教授

環境管理規格審議委員長として国内利害関係者の議論をリード

2020年10月、菅義偉内閣総理大臣の所信表明演説で2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラルを宣言した。地球温暖化対策の発展に伴い、注目されるのがグリーン(環境)ファイナンスだ。2016年にG20杭州サミットで必要性が認識された環境対策への資金提供を指し、各国政府の公的資金だけではなく、民間資金をいかに活用していくかが重要視されている。

東京大学大学院教授の松橋隆治氏は、ISO(国際標準化機構)/TC207(環境管理)をはじめとする委員会で、環境ファイナンス関連規格の発展に貢献している。

TC207は多岐にわたる環境問題に関連する国際規格を開発・審議する委員会だ。氏が国内審議委員長を務める規格審議委員会では「TC内で提案された各規格の目的や予想される影響などを、国内の専門家を集め情報を共有し、国際規格が適切になるよう働きかけるとともに国内に広げていく。」活動が行われている。

委員長として「規格開発の背景や狙いを『浮き上がらせる』ことを最重要視する。」と松橋氏。「環境関連の規格は数が非常に多く、その背景や狙いが分かりづらいものもあり、委員の関心を惹起することが大切。各規格の影響を推定し、具体的に示すことにより、国内の利害関係者も含めて活発な審議へとつなげる。」ことを心がけているという。日本の国内産業への経済リスクを最小化できるよう、幅広い関係者間のコンセンサス形成を通じて、日本の認証件数が世界第二位であるISO14001(環境マネジメントシステム)やISO/DIS14030(グリーンボンド)シリーズなど、環境管理の根幹を成す規格開発を主導した。

表 TC207における環境ファイナンス関連規格一覧
ISO 14030-1 環境マネジメント―グリーン債権―第1部:グリーンボンドの手順 SC4(環境パフォーマンス評価)/WG7
ISO 14030-2 環境マネジメント―グリーン債権―第2部:グリーンローンの手順 SC4/WG7
ISO 14030-3 環境マネジメント―グリーン債権―第3部:タクソノミー SC4/WG7
ISO 14030-4 環境マネジメント―グリーン債権―第4部:検証 SC4/WG7
ISO 14097 気候変動に関連する投融資活動の評価と報告のための枠組み及び原則 SC7(GHGマネジメント及び関連活動)/WG10
ISO 14100 グリーンファイナンス―グリーンファイナンスの開発を支援するためのプロジェクト、資産、活動のための環境基準に係るガイダンス SC4/WG
規格番号 規格名称(仮訳) SC/WG
(出典:一般社団法人日本動力協会「エネルギーと動力」2020年秋季号(No.295)
『環境ファイナンス関連規格の動向と今後の展望』)
 

環境ファイナンスはTC207及びTC322(持続可能なファイナンス)の両技術委員会で審議されているが、日本としての方針をまとめて審議するために、銀行などの金融機関や経済産業省などの行政も参加する環境ファイナンス関連規格検討委員会が発足した。立ち上げに携わった松橋氏は、2019年から同委員会の委員長に就任している。

「脱炭素社会を目指すEUタクソノミーでは、石炭火力発電等の化石燃料による発電を廃除しようという傾向がある。だが、太陽光などの再生可能発電は、出力の予測に誤差が出るため、火力発電の助けが必要。安定的な電力システムを作るために、火力発電等を全廃除することは問題と考える。」と現状の課題を語る。また、発電時だけでなく、設備を作る際のCO2排出量を評価するライフサイクル評価の重要性について、「太陽光発電所を作る際、CO2が排出されているが、EUタクソノミーでは太陽光などの再生可能エネルギーによる発電方式にはライフサイクル評価を適用しないという例外を設けている。そのようなダブルスタンダードを作らずに、全てをライフサイクル評価で見ることにより、脱炭素化に向けた新たなイノベーションの機会がひらける。」と主張し、今後もこの審議は続けていく所存だという。
※気候変動を抑制するパリ協定を達成するために、欧州委員会がEUの公式目標である2050年までに「正味CO2ゼロ排出(カーボン・ニュートラル)」を実現することをめざして、適格(結果として、不適格)な投資分野を特定(分類)する仕組み。

産業界・行政・規格協会と積極的に人材育成に取り組んでいきたい

松橋氏の活躍の場はTC207だけにとどまらない。2008年から12年間にわたり、TC301(エネルギーマネジメント及び省エネルギー)の国内審議委員会委員として従事。組織や事業のエネルギーパフォーマンスの継続的改善を実現するために体系化されたISO50001:2011(エネルギーマネジメントシステム)に日本からも積極的に意見を述べその制定を主導した。氏は、国際規格開発のみならず、2013年には千葉大学と連携して同規格の認証取得に取り組み、国内の大学、学校関連組織でエネルギーマネジメント事業が実施された日本初の事例という功績を残した。

大学での認証取得に関しては苦労があった。「大学では企業のようなトップダウン方式の上下関係がない。建物ごとに管理者が違うなど、取り組む上で誰が責任権者なのか分からないなどさまざまな課題があった。」と松橋氏。学校組織で認証取得する際のアドバイスとして、「学長のトップダウンで取り組むべき。トップの号令で『やりなさい』というお墨付きがあれば、全てがスムーズにいく。」と語る。

松橋氏に現状の課題を聞くと、「人材不足。」と答えが返ってきた。「現在、この分野の規格開発に関わる人は日本国内で10人ほど。彼らは、日中別の仕事をしながら、夜中にISOの会議に参加するなど非常に献身的で、だからこそ信頼を得られ国際会議の場でも意見が通る。そのような人たちをきちんと評価し、続く若い人たちを育てていかないといけない。」という。「大学のカリキュラムに取り入れるなど、若い人材が標準化活動に興味を持つきっかけを作りたい。また、産業界・行政・日本規格協会と積極的に人材育成に取り組んでいきたい。」と意欲的な姿勢を見せた。

「工学系の勉強をしている学生さんも、専門分野だけではなく、社会制度や法制度など、ビジョンや関心を広げていってほしい。」と学生へメッセージを送る。「標準化活動まで視野を広げてもらうために、大学などの組織側も生徒たちへ新しい働きかけが必要だ。」と締めくくった。

【標準化活動に関する略歴】
2003年~2011年 東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境システム学専攻 教授
2011年~現在  東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授
2008年~現在 ISO/TC207規格審議委員会 委員長
※2016年のISO/TC242とISO/TC257の統合によるISO/TC301発足に伴い、ISO/TC301国内審議委員会に移行。
2010年~2018年 独立行政法人科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 研究統括
2011年~2018年 公益財団法人 日本適合性認定協会 GHG認定委員会 委員
2016年~現在 ISO/TC207戦略諮問委員会 委員長
2017年~現在 環境管理システム小委員会 委員長
2019年~現在  ISO/TC322国内審議委員会 委員
2019年~現在 環境ファイナンス関連規格検討委員会 委員長

最終更新日:2021年3月15日