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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.19

経済産業大臣表彰/森 康維(もり やすしげ)氏
同志社大学 理工学部 化学システム創成工学科 教授

粉体工学の学術的知見を生かし、粒子特性の計測評価手法の国際標準化に尽力

「粉体」は、食品や医薬品、塗料や電子部品、さらには宇宙関連技術に至るまで、さまざまな産業分野で幅広く利用されている。身近な製品としては、例えば溶けやすい小麦粉や、肌の透明感を出し、遮光効果のある化粧品などで用いられており、それらの有効性は、粉体を構成する粒子がどのような大きさで、どのような割合で含まれるかによって大きく異なる。すなわち、製品の品質管理や技術開発のためには、粉体特性を適正に評価する方法が重要だ。

ISO(国際標準化機構)/TC24(粒子特性評価及びふるい)/SC4(粒子特性評価)は、粒子特性の適正な計測評価手法について取り扱っている。粉体工学を専門とする同志社大学教授の森康維氏は、2002年から、同委員会の数多くのWGに参画。自身の研究から得られた知見を生かし、委員長やプロジェクトリーダーとして日本の立場で特性評価技術の国際標準化に尽力してきた。

「粉体を測定する難しさは、いろいろな大きさの粒子があること。コロナウイルスのように『電子顕微鏡で見ればいいのでは』と思うかもしれないが、凝集しやすい粉体を1つ1つの粒子に分散させて観察するのは難しく、計測に多大な時間が必要になる。」と森氏。そのため、同委員会では多くの粒子を一度に測定して粒子径分布*を推定する標準化手法が開発されてきた。
*測定対象の中にどのような大きさ(粒子径)の粒子が、どのくらいの割合で含まれているかを示す指標のこと。

「粒子は、小さいほど光の反射が弱くなり、水中でよく動くなどの特性がある。大きさを実際に測らずとも、そうした光学特性や力学特性などの物理現象を利用して粒子径分布を推定することができる。」と森氏は説明する。

例えば森氏が携わった国際規格の一つであるISO 13319(粒子径分布の求め方-電気的検知帯法)は、液体に分散した粒子が細孔を通過すると、細孔内の液体量は粒子の体積に相当する量だけ減少し、液体を流れる電流量が変わる特性を利用して粒子の大きさを推定する方法だ。「主にプリンターやコピー機のトナー粒子の測定に使われてきた。最近は画像解析で実際に見るという方法が主流になりつつあるが、針状などの不規則な形状の粒子の真の体積を求めるにはこの方法が適している。」と森氏。

また、森氏の代表的な成果として、ISO/TC24/SC4/WG11(試料調製及び標準粒子)での活躍が挙げられる。森氏が実質的に主導して制定したISO14488(粒子状物質-粒子特性の測定のためのサンプリング及びサンプル分離)は、多くの粉体から測定に必要なだけのわずかの粉体を採取する方法とその誤差についての規格である。

「例えば医薬品など測定対象の粉体がとても貴重なものもあり、粉体特性の評価精度を高めるためには、できるだけ粉体が多い方がよいが、何グラムも使ったら大変なコストになる場合もある。したがって、採取する量はできるだけ少なく、かつ、その測定誤差を小さくすることが求められる。この国際規格の制定によって、今ではミリグラム単位の粉体があれば十分粉体特性を測定できるようになった。」とそのメリットを語る。

国内メーカーの協力のもと、日本発の標準物質の国際標準化を目指す



MBP粒子の電子顕微鏡写真

APPIEの粒子径測定装置検定用粒子MBP
JIS Z 8900-1に準拠している。
(出典:一般社団法人日本粉体工業技術協会)

日本では多くの国内メーカーによって粒子分布測定装置の開発や製造販売が行われている。それらのメーカーやユーザーを含め、粉体に関連する企業と研究者を中心に設立された一般社団法人日本粉体工業技術協会(APPIE)には、SC4の国内委員会が設置されている。また、同協会の標準粉体委員会の委員長を森氏は務めている。

「測定装置が正しく作動しているかを検証するには、実際の粉体のように粒子径分布のある球形粒子の試料が必要だ。」と森氏。APPIEではこの重要性を早くから認識し、会員メーカーの協力を得て、既にMBP粒子と命名された3種類の球形多分散ガラス粒子を作製。2008年には森氏が中心となり、このMBP粒子の国内規格であるJIS Z 8900-1(標準粒子-第1部:粒子径測定装置検定用粒子)を発行していた。

「MBP粒子は国際的な標準認証物質(CRM)としても認定されている。国内で用いられるMBP粒子が国際規格でも採用されれば、世界中でこの粒子を使って粒子径分布測定装置の検証が可能となると思った。」と森氏。

そこで森氏がプロジェクトリーダーとなって提案したのが、ISO 14411-2(粒子状標準物質の調製-第2部 多分散球形粒子)だ。これは粒子径分布のある標準粉体の必要条件と誤差の計算・表示方法を規定したもので、対象となる粒子はJISZ8900-1で規定したMBP粒子と整合させている。

このISO14411-2は2020年9月に制定されたばかり。国内メーカーの測定装置はMBP粒子で既に検証済のため、今後の国際競争において日本が優位に立つことが大いに期待できるだろう。

最後に次世代を担う技術者や研究者に向けて、「新しい測定方法を開発してISOに提案するのは、私は非常に面白いと思うが、外国に比べて日本の弱い部分でもある。しかし、TC24では私以外にも、これまでに多くの諸先輩が産業標準化事業表彰を受賞され、それだけ粉体が注目され評価されているということだ。先人らの努力により、日本の粉体工学や粉体メーカーは世界のトップを走っている。ぜひ興味を持ってくれるとうれしい。」とメッセージをいただいた。
 

【標準化活動に関する略歴】
1979年 京都大学大学院工学研究科化学工学専攻博士課程修了
1979年 同大学工学部助手
1993年 同志社大学工学部助教授
1997年 同 工学部教授
2002年~2009年 ISO/TC24/SC4/WG7(動的光散乱法) 国内委員会委員
2003年~現在 同SC4国内委員会委員
2006年~2007年 同SC4/WG10(X線小角散乱法)国内委員会委員
2007年~2016年 同SC4/WG11(試料調製及び標準粒子) 国内委員会委員
2007年~現在 同SC4/WG5(電気的検知帯法)、WG14(音響法) 国内委員会委員
2008年~現在 同志社大学理工学部教授
2009年~2010年 同SC4/WG17(ゼータ電位測定法) 国内委員会委員長
2009年~現在 同SC4/WG10 国内委員会委員
2010年~現在 同SC4/WG7 国内委員会委員長
2011年~現在 同SC4/WG16(液中粒子の分散特性評価法) 国内委員会委員
2013年~現在 同SC4/WG2(沈降法)、WG6(レーザー回折法) 国内委員会委員
2015年~現在 同SC4/WG1(測定結果の表示) 国内委員会委員
2016年~現在 同SC4/WG11 国内委員会委員長
2016年~現在 同SC4/WG11 プロジェクトリーダー(ISO14411-2)

最終更新日:2021年3月22日