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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.20

経済産業大臣表彰/吉村 愼二(よしむら しんじ)氏
株式会社シマノ 品質管理部参与

自転車の国際標準化活動において、アイデアと統率力で日本のプレゼンスを発揮

今、改めて自転車が注目されている。新型コロナウイルス感染症の流行を背景に、電車やバスを避けて自転車通勤や通学をする人が増えてきた。ママチャリなどのシティサイクルをはじめ、ミニベロ注1)やクロスバイク注2)、電動アシスト自転車など、さまざまな種類の自転車が日常生活で利用されている。
注1)タイヤ径の小さな自転車。
注2)ロードバイクとマウンテンバイクの中間的な自転車。

自転車部品メーカーである株式会社シマノの吉村愼二氏は、1991年にISO(国際標準化機構)/TC 149(自転車)/SC 1(自転車及び主要アセンブリ)/WG 4(疲労試験)及びWG 5(制動性能試験)にエキスパートとして参画。その後、コンビ―ナやプロジェクトリーダーとして自転車の国際標準化活動を積極的に推進してきた。

吉村氏がエキスパートとして参画当時、SC1の幹事国はイギリスであり、自転車の国際標準化はヨーロッパを中心に行われていた。しかし、その後イギリスが退任したことから、日本が立候補し2008年に幹事国に就任。就任後初の大きな仕事は、ISO4210(自転車-二輪自転車の安全要求事項)の改正であり、そのプロジェクトリーダーに抜擢されたのが吉村氏だ。

ISO4210は、様々な種類の自転車に共通する唯一の安全要求の国際規格であることから極めて重要な規格である。しかしながら、その内容は古く形骸化していた。既にマウンテンバイク、ロードレース、シティバイク&トレッキングバイクという新しいタイプの自転車の規格がEN(欧州規格)で制定されており、ENからISO4210にこれらの規格を統合したいと声が上がった。

国際会議の場では「参加者は言いたいことは言うが、コンセプトばかりで具体的な提案がない。このままでは、まとまらないと思った。」と吉村氏。そこでプロジェクトリーダーとして取りまとめる責任があるため、思い切って会議を打ち切り、「明朝、こちらから提案するからそこで意見を出してほしい。」と退路を断ち、言い切ったのだ。

その夜、遅くまで日本の参加者とホテルの部屋で検討し、マウンテンバイク、ロードレース、シティ&トレッキング、子供車の4つのタイプの自転車の安全要求事項とその評価方法に関する標準案を2案作成した。具体的には、試験条件を安全要求事項として扱うA案と、試験方法の要求事項として扱うB案だ。どちらもメリットとデメリットがあり、試験条件を要求事項(現在のISO4210-2)として扱うA案は、試験を実施する際に、試験方法と要求事項の両方を見ないと試験できない。一方、試験条件を試験要求項目(現在のISO4210-3~9)に入れると、マウンテンバイク、ロードレース、シティ&トレッキング、子供車の4つのタイプの自転車の違いは要求事項だけでは解らず、試験方法の違いも確認する必要がある。「翌朝、日本から2案を提案すると、一気にこの2案をベースに議論が進展し、日本が推奨したB案で規格案がまとまった。会議の終わりには、拍手喝さいが起きた。」と吉村氏。こうした氏の機転もあり、日本主導でまとめ上げた新ISO4210は高く評価され、その後、ENの改正が行われISO4210をベースにENが発行された。現在では、UCI(国際自転車競技連合)のレースで使用される自転車の強度基準としても認知され、粗悪な自転車の排除や自転車産業のグローバル化に広く貢献している。

競合を超え、日本チーム一丸で電動アシスト自転車初の国際規格を目指す

吉村氏のもう一つの顕著な功績として、WG15(電動アシスト自転車)コンビーナとしての活躍が挙げられる。日本提案により2015年に発足したWG15は、電動アシスト自転車に関する初の国際規格の成立を目指すものだった。

そもそも電動アシスト自転車は日本が開発した製品で、1993年に第一号が誕生。2015年にはドイツ、オランダを中心にヨーロッパでもブームになったが、電動アシスト自転車のISOは存在しなかった。EN、JIS(日本産業規格)、CPSC(米国消費者製品安全委員会)規格、GB(中国国家標準)が異なる規格としてそれぞれ存在する状況で、各国の道路交通法にも関係するため、国際規格での統一は難しいとされていた。だが、国際的に統一された規格が無いことで、輸出国ごとに要求事項に差異があったり、粗悪な製品が市場に流通したりすることは、日本の電動アシスト業界にとっても望ましくなく、状況の改善が求められていた。

「心がけたのは、まずは、日本国内で各社がしのぎを削っているが、競合関係という立場を超えて日本チームのエンジニアを一つにまとめること。次に、各国の事情を考慮しつつ、世界各国のエンジニアが納得できる技術提案にまとめること。また、ロビー活動を含めた戦略を日本チームとして共有しながら計画的に取り込むこと。」だったという。

電動アシスト自転車は各国にも様々なメーカーが存在することから関心も高く、プロジェクトには各国から延べ363人のエキスパートが参加。7回の国際会議と5回の投票を経て、対応したコメント数は延べ1741件。吉村氏は、これらのコメントに対して主導的に事前準備を行い、会議の進行やフォローアップ等の全てを統括し全体を運営した。苦労して完成させた国際規格案は各国の委員から技術的な合意を得ることができた。しかし、チェーンのない「ハイブリッド自転車」を対象にしていないことを不満に思う参加者など、各国のさまざまな事情が絡んで最終的に国際規格化に強い反対を受けてしまった。

「ISOのルールでは反対が投票総数の1/4を超えると国際規格として承認されない。しかし、標準化は人と人とのやり取りの中で合意形成を行うことが必要だ。アメリカやヨーロッパの発言力の強い人に代わりに意見を言ってもらうなどして、何とかTS(技術仕様書)として発行するようこぎつけた。」と吉村氏。

こうして6年かけて、2020年にTS4210-10(電動アシスト自転車)が公表。吉村氏をはじめとする日本チームの尽力で、日本の意見を反映する国際文書ができたことは、自転車業界への大きな貢献だ。

図 TS 4210-10発行までの道のり
7回の国際会議と5回の投票を経て、開始から6年をかけて発行に至った。
(出典:一般財団法人自転車産業振興協会)


「100ページを超えるTSの公表にいたるプロセスは、意見の衝突の連続だった。車両ではEV(電気自動車)の標準化が進んでおり、EUではマンデート注3が発行されLEV(軽電気車両)と呼ばれる400㎏以下の車両も標準化の必要性が出ていた。IEC側ではこのLEVの標準化のプロジェクトが動いており、LEVに電動アシスト自転車も組み込むことで進められていた。一方、電動アシスト自転車側では利便性と経済性、コンパクトなど電動アシスト自転車をこのLEVのカテゴリーとは別基準にすべきとの見解が多数となっており、そうした背景のもとIEC(国際電気標準会議)側からTC149/SC1にリエゾンの要請があり、WG15の会議の場で激しい議論となった。こうした意見の衝突を乗り越え、日本チームでこのTSを発行できた。」と笑いながら振り返る。吉村氏をはじめとする日本チームの尽力で、日本の意見を反映する国際文書ができたことは、自転車業界への大きな貢献だ。
注3) すべての利害関係者のコンセンサスに基づいて、限られた期間内に開発するというEU加盟国と欧州標準化団体との合意。

吉村氏はこのほか、ISO8090(各国言語による自転車部品名称)の改正作業にもコンビ―ナとして尽力。ISO8090は1990年に発行されて以来改正がなく、言語もISOの公用語として認められている英語及びフランス語のみ。自転車及びその部品が国境を越えて流通するようになった今、販売される地域の言語による用語が必須だった。

吉村氏は規格改正の必要性を主張し、氏を中心に日本主導で改正作業を行うことが決定した。4年間に及ぶ作業を経て、英語、米語、日本語、フランス語をはじめ9か国語が併記された国際規格が2019年に制定し、さらなるグローバル化の促進に寄与するものと期待されている。

現在、吉村氏は、国際規格であるISO8090のJIS化をその中心で取り組んでいる。「現在の自転車関連のJIS用語は古くわかりにくく、また、JIS以外の用語もメーカーによってもバラバラ。例えば『前照灯』は『ライト』のことで、用語を消費者目線でわかりやすくする必要がある。」と語る。長年業界で用いられてきた用語を統一するのは容易ではないが、グローバル化の観点と消費者目線で様々な消費者団体にも参画してもらい、2021年度中に用語の整理を完成させ、JISの公示を目指しているという。

吉村氏の標準化活動はアイデアにあふれアクティブであり、国内外を問わず多くの人から信頼を集めている。「標準化活動で必要なことは、『技術と言葉と人間性』の3つ。日本人は相手の気持ちがわかるし、技術力があって勤勉な人が多い。日本人の良さをぜひ標準化活動でもアピールしてほしい。」とエールをいただいた。

【標準化活動に関する略歴】
1982年 大阪工業大学 電子工学科 卒業
1982年 株式会社シマノ 入社
1988年 シマノヨーロッパ ドイツ事務所
1991年~1994年 ISO/TC 149/SC 1/WG 4及びWG 5 エキスパート
2008年 株式会社シマノ 品質管理部長
2009年~現在 JIS原案作成委員会委員
2010年~2014年 ISO/TC149/SC1/WG9(ISO4210及びISO 8098[幼児用自転車]の改正) プロジェクトリーダー
2013年~現在 JIS原案作成委員会 作業部会長
2015年~2019年 ISO/TC149/SC1/WG14(ISO 8090の改正) コンビーナ
2015年~2020年 ISO/TC149/SC1/WG15 コンビーナ

最終更新日:2021年3月29日