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令和2年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.21

経済産業大臣表彰/中沢 健(なかざわ たけし)氏
本田技研工業株式会社 二輪事業本部 ものづくりセンター チーフエンジニア

自動車の国際規格策定(二輪車を適用範囲とする場合)のルール化を主導

2019年12月、ホンダの二輪車の世界生産累計台数が4億台を達成した。この数は世界で生産されている二輪車の数の約3分の1を占め、世界の二輪車業界は、ホンダを始めヤマハ、カワサキ、スズキの日本の四大メーカーを中心にけん引されてきた。本田技研工業株式会社の中沢健氏はISO(国際標準化機構)/TC22(自動車)/SC38(モーターサイクル及びモペッド)の国際議長を2017年から務め、これら国際標準化活動をつうじて、日本の二輪車産業の発展だけでなく、世界の二輪車産業の国際標準化にも貢献している。

中沢氏が活動するSC38は二輪車であるモーターサイクル、モペッド(ペダル付きオートバイ)、及びそれらの構成部品に関する用語、安全性、試験方法など全般の国際標準化を取り扱っている。

氏の代表的な功績に、TC22内で国際規格を定める際、二輪車を適用範囲に含める場合は、SC38へ事前にコンタクトを取ることをルール化したことが挙げられる。「TC22のほとんどの委員会では四輪車の規格を策定している。そのような中、適用範囲が『Vehicles』であると、二輪車であるモーターサイクルやモペッドも含まれることになり、二輪車の特性が考慮されていない四輪車特有の国際規格が、二輪車にも適用されてしまうことが多々あった。二輪車と四輪車は構造も特徴も大きく異なるにも関わらず、事前に両関係者が協議をするルールもなかった。それゆえ、国際規格が制定されるたびに、二輪車の関係者が国際規格を確認し、改正を依頼したり、この規格は二輪車に適用できないことを確認するなどの検討をしなくてはならず、多大な労力を必要としていた。」と当時の問題を語る。

2017年、中沢氏は国際議長に着任すると直ちにこの問題を提起し、ルール化に成功した。「二輪車の年間新車登録台数は四輪車とほぼ同じ8千万台。産業の規模こそ小さいが、このルールができたことによるユーザーへの影響度は四輪自動車と同等。」と中沢氏。例えば、二輪車の場合、四論車と異なりほとんどの部品が室内にあるわけではないので、防水性が必要となる。かつてのように協議なしで四輪車と同じ国際規格が適用されてしまうと、二輪車に必要な性能が損なわれかねない。他にも電動自動車に必要な大電流容量の大型カプラー注1)は四輪車用のものであり、電動二輪車にはその電流容量に合った大きさのカプラーを搭載すればよく、四輪車の規格に二輪車を適用する必要はない。このように、このルール化によるユーザーへの実用的なメリットは多い。
注1)電気部品の交換や整備性を高めるため配線を簡単に付けたり外したりできるようにしたソケット状の部品の名称。

加えて、「二輪車の四大メーカーは全て日本にある。二輪車の適切な国際規格の策定は、日本の二輪技術の国益への貢献にもつながる。」と語った。

標準化の仕事も重要。社会的に評価されると後進へ伝えたい



SC32/WG8で説明をする中沢氏。

TC22総会の会議風景。

SC38の国際議長の他に、同氏は2013年から現在に至るまで同SCのWG3(二輪機能安全)のコンビーナを務め、ISO26262-12(自動車-機能安全-第12部:ISO 26262のモーターサイクルへの適応)の改正に貢献した。「ISO26262は、自動車の電気・電子に関する機能安全についての国際規格。当初、二輪車は適用範囲ではなかったため、まず、2015年に二輪独自の公開仕様書(PAS)注2」の案を作成し、その発行に成功した。その後、ISO26262-12を改正する際に、ユーザーの使い勝手を考慮し、PASをISO26262-12に統合することになり、SC38とSC32(電気・電子部品)の間で協議し、二輪車も対象に含むことが決定した。」と背景を語る。
注2)市場の早急な要請に応じるため、国際規格に先だって発行することができ、投票権をもつ国の過半数以上の賛成が必要(国際規格は2/3以上の賛成が必要。)。

ISO26262-12の改正の際、SC38とSC32の両者のメンバーが参画し、総会で協議が行われることになった。「両国際議長による事前交渉では、PASに基づいた二輪車に特化した部分はSC38が主体で作成し、SC32はその内容をそのまま取り込む形で改正することが決定していた。しかし、機能安全の規格の範囲は他の二輪車及び四輪車に関する固有技術の規格と比べ電気・電子部品の全てに関係し、関連するビジネス規模も大きく、利害関係者が広範である。こうしたことから、総会では、SC38が主体で作成している部分に対して、SC38での投票権を持たないO(Observe)メンバーやコンサルや部品メーカーで構成される英国など二輪車に特化した部分をそのままISO26262-12に取り込むことを不満に思う国々が現れた。彼らは、改正方針に反対し、二輪車も四輪車の規格に従えばよいという主張をし始めた。その結果、SC38の国際議長である中沢氏に単純に適用範囲を拡大し、二輪車を含めるよう迫られた。」と当時の苦労を語る。その結果、中沢氏は150人を超える総会の参加者の中で、改正方針の重要性について英国とディベート対決を強いられた。

ISO 26262シリーズの概要。赤枠部分のISO 26262-12が、二輪特有の追加部分となる。
(写真及び図の出典:本田技研工業株式会社)

「ISOの会議では通訳を使えない決まりがある。実のところそれまで、英語で丁々発止のディベートをする経験はなく、英国やスウェーデン、フランスの代表団とディベートする不利な状態に、相手は非論理的な自己都合に基づいた主張であるようだが、どのように反論するのが良いのかがなかなか出てこない。あちらの主張に『YES』と言ってしまおうか、と思ったときもあった。だが、ここで折れたら日本の国益だけではなく、世界中の二輪車ユーザーに対して多大な不利益をもたらす結果になる。そう考えた瞬間、急に冷静になり、英語が苦手であるにも関わらず、不思議とあちらの話していることがよく聞こえるようになった。議長に止められるまで、論理性と正当性に基づいた主張を繰り返し続けた。」という。その結果、SC38側に同調する参加国が増え、中沢氏の主張が認められたという。

「二輪車のユーザーに合わせた国際規格は常に必要だ。」と中沢氏。「例えば、二輪車産業では、四輪車とは異なり、総合的なリスク低減は個人用保護具やヘルメットなどに負うところが大きい。自動車用の安全水準が適用されると、適切ではない上に余計なコストもかかる。特に、初心者のライダーも視野に入れた機能安全を検討する必要がある。」と語る。

今後の活動の展望を聞くと、「今後の急速な四輪自動車の自動運転技術の進展に伴い、二輪車が自動運転四輪車両と共存していく上での国際標準化を推進していく必要がある。」と中沢氏。国際議長としては「各WGに10年後を見据えたロードマップの作成をお願いしている。引き続き、公正に会議を主導しながら、日本の国益や市場ニーズを加味する。そのバランスを最適に取りながら活動していきたい。」と意気込んだ。

「自動車業界の研究開発業務においては標準化の仕事は評価されない場合もある。この受賞によって標準化活動も社会的に評価されることを伝え、後進の励みになればうれしい。」と語る。また、「国際会議などディベートの場では、正確に聞けて正確に話せることが必要。英語をきちんと習得して、挑んでほしい。」と若者へエールを送った。

【標準化活動に関する略歴】
1985年 本田技研工業株式会社 入社
1985年~2004年 株式会社本田技術研究所朝霞研究所配属
2004年~2007年 HONDA R&D Americas 配属
2007年~2019年 株式会社本田技術研究所二輪R&Dセンター所属
2019年~現在   本田技研工業株式会社二輪事業本部ものづくりセンター所属
2012年~2013年 ISO/TC22/SC38/二輪機能安全タスクフォース(TF)リーダー
2013年~現在 ISO/TC22/SC38/WG3コンビーナ
2016年~現在 ISO/TC22/SC32/WG8(機能安全)のISO 26262-12プロジェクトリーダー
2017年~現在 ISO/TC22/SC38国際議長

最終更新日:2021年4月5日