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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.6

経済産業大臣表彰/伊吹山 正浩(いぶきやま まさひろ)氏
デンカ株式会社 新事業開発部 シニアテクニカルアドバイザー

伊吹山正浩氏の肖像

 従来型の電球や蛍光灯に代わる光源などとして普及が進み、その高い省エネ性能で環境負荷低減に貢献する白色LED(発光ダイオード)。開発・製造においては、白色光を作り出す「セラミックス蛍光体」の品質がカギとなる。ただ従来は、そのセラミックス蛍光体の光学的特性について、国際標準の評価法が確立されていなかった。2019年度経済産業大臣表彰を受賞したデンカ株式会社の伊吹山正浩氏は、長年蛍光体の研究に携わってきた経験を活かしつつ、標準化活動を牽引。温暖化が進行し環境負荷低減のニーズが高まる中、LED照明などのさらなる普及に一役買っている。

蛍光体の国際標準化は「前例がなかった」。世界中からエキスパートを集めるため奔走

 「セラミックス蛍光体の光学的特性については、元々測定の仕方に問題があると思っていた。」伊吹山氏が、このテーマの標準化に関わり始めたのは2010年前後のこと。かねてから抱いていた問題意識に基づき、日本ファインセラミックス協会 (JFCA)の下、同じ分野の研究者らと共に標準化の方向性を模索し始めた。

JFCA内で約1年活動した後、経済産業省に規格化を提案し、同省の支援の下、国際標準化を目指すこととなった。「日本の素材産業が世界的に見て“強い”ことから、経済産業省のサポートもあり、ありがたかった。」と伊吹山氏は振り返る。

ただ、国際標準化への道のりは平たんではなかった。蛍光体の研究は、素材産業全体の中ではどちらかというとニッチな領域。それに、国際標準化の前例にも乏しく、「エキスパート(専門家)を集めるのが、非常に大変だった。」という。「セラミックス全般の国際標準化は1990年代から始まり、関連テーマを扱うISO(国際標準化機構)の『TC206(ファインセラミックスに関する技術委員会)』には私も2005年から関わっていたが、蛍光体がテーマになったのは、2012年に我々が提案した時が初めてだったはず。」と伊吹山氏は苦笑いする。

当時、ISOで審議を始めるには、最低5カ国からのエキスパートを集める必要があった。日本人、韓国人、中国人と3人目までは順調に集まったものの、残りの2人を加えるのに伊吹山氏らは苦戦。TC206の会議でPRするなど、あらゆる手段を駆使し審議メンバー集めに奔走した。最終的には、マレーシア人と英国人のエキスパートが賛同。働きかけを始めてから3年以上を経て、ようやく審議開始に漕ぎつけた。

その後、約2年審議が行われ、2017年に「ISO20351(ファインセラミックス-白色発光ダイオード用蛍光体の積分球を用いた内部量子効率絶対測定方法)」として発行に成功する。「日本のリーダーシップを発揮できた。」と伊吹山氏は胸を張る。

白色LED用セラミックス蛍光体のイメージ
(出典:国立研究開発法人物質・材料研究機構他)

蛍光体評価の標準化は、まだ道半ば。新テーマの3カ年研究プロジェクトがスタート

 ISO20351が無事発行され運用が始まっているものの、伊吹山氏はそれだけで満足はしていない。蛍光体の光学特性評価に重要な測定要素は「3つある。」というが、ISO20351はそのうちの内部量子効率を対象とした測定方法。残る2つ、外部量子効率と吸収率は、従来の装置では安定的に正確な値を測定できないため、評価方法の標準化には至っていない。しかし、本来的には「この3つはセットで考えないといけない。」という。

そこで伊吹山氏らはJFCAのプロジェクトとして、新型の装置を用い3要素の絶対値を同時に測定する方法を確立。2019年にISOへ提案し、既に審議が始まっている。

それだけではない。今後、新型装置での測定方法が標準化されても、装置がまだ量産されておらず、測定にも時間がかかるのが課題。そこで、新型装置で「参照標準物質」に定めた蛍光体の内部量子効率、外部量子効率、吸収率を測った上で、評価対象の物質と参照標準物質の差異を従来の装置で測定し、相対的に評価対象物質の特性を割り出す仕組みを作ろうとしている。2019年度から新プロジェクトとして研究がスタート、計3年で成果を出す計画だ。

「このプロジェクトがモノになれば、標準化に取り組み始めた頃に思い描いたことが、ある程度実現される。」と伊吹山氏は、微笑む。

苦戦が目立つ日本の製造業にあって、素材産業は今なお国際競争力が強いとされる領域。中でも、蛍光体は特に日本企業の存在感が大きい。「技術面で日本がリードしているのは、間違いない。標準化においても、今後もイニシアティブを取っていきたい。」と伊吹山氏は意気込む。

足下では横浜国立大学の非常勤講師を務めるなど、未来の素材研究を担う若手の育成にも力を注ぐ。「素材というものは、ありとあらゆる形で社会に貢献しているし、ある意味、SDGs(国連サミットで採択された『持続可能な開発目標』)の実現に向けた“カギ”となる存在。そんなことを、若い人たちに伝えていきたい。」。「社会貢献をしたいという人は、以前より増えていると思う。なので、ちゃんと伝えることができれば、素材研究の道を志す若者は増えるはず。」という。

その上で「大学生もそうだが、本当に大事なのはもっと前の段階」と指摘。このため、「小学生のころから科学に興味を持たせるような仕組みが必要ではないか。」と、小中学生向けの実験の実演などを提案する。

長年、蛍光体の研究開発や標準化に携わり、2020年度には68歳になる伊吹山氏。「そろそろ引退する時期かもしれない。」と謙虚だが、次なる標準化テーマの追求とともに後進の育成に努めるなど、これからもまだまだ縦横無尽に活躍しそうだ。

【標準化活動に関する略歴】
1977年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
      電気化学工業株式会社(現:デンカ株式会社) 入社
      青海工場、中央研究所、本社開発部主事、経営企画部課長を歴任
1996年 同社 中央研究所主席研究員等を経て副所長
2010年 同社 技監
2005年~2009年 ISO/TC206(ファインセラミックス)総会・WG会議 日本代表委員
         ISO/TC206幹事国業務委員会 委員長
2009年~2019年 日本工業標準調査会標準部会窯業技術専門委員会 臨時委員
         (現:標準第一部会 金属・無機材料技術専門委員会)
2011年~2014年 JFCA 白色LED用蛍光体の光学特性評価方法の国際標準化委員会 幹事
         JIS原案作成委員会 幹事
2012年~2017年 ISO/TC206/WG11(電気・光学特性)/ISO20351 プロジェクトリーダー
2013年 同社 研究開発部、新事業開発部
2015年~現在 同社 シニアテクニカルアドバイザー
2016年~2019年 JFCA 白色LED用セラミックス蛍光体の性能評価方法の国際標準化委員会 幹事
2016年~現在 JFCA標準化協議会議長
2017年~現在 JFCA標準委員会委員長
2017年~現在 ファインセラミックス国際標準化推進協議会(JFIS)理事
2018年~現在 JFIS副会長

最終更新日:2020年4月20日