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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.7

経済産業大臣表彰/魚本 健人(うおもと たけと)氏
土木新技術研究調査会 代表

魚本健人氏の肖像

コンクリート補強材に関する国際規格制定で日本産業界に貢献

 「出身地である四国と本州をつなぐ大きな橋を架けること、そんな仕事に就きたかった。」と話すのは、土木新技術研究調査会・代表の魚本健人氏だ。

キャリアのスタートは、“地図に残る仕事”というキャッチフレーズで有名な大成建設から始まる。当初の希望通り本州四国連絡橋の事前施工準備に携わるも、オイルショックの影響で一時工事がストップしたことなどから、1978年に母校・東京大学生産技術研究所に戻ることに。以降はコンクリート分野の第一線で研究・開発に取り組んで来た人物だ。

国際舞台では2000年、国際標準化機構(ISO)において専門委員会TC71(コンクリート、鉄筋コンクリート及びプレストレストコンクリート)の分科委員会SC6(コンクリートの新しい補強材料について)が創設された。以来約20年にわたり、国際幹事や議長として国際規格制定に尽力する。

コンクリートは、圧縮力には強いが引張力には弱い。この特徴を補うため、引張に強い材料である鉄筋を組み合わせたのが、鉄筋コンクリートだ。鉄筋が錆びると、コンクリートと鉄筋が互いに弱点を補い合える環境が崩れて、強度の低下やひび割れなどの劣化が促進されるのが弱点だ。

錆びない強いコンクリートづくりのために最適な補強材は何か……魚本氏が取り組んできたのが繊維強化プラスチック(=FRP)分野だ。FRPは、高い強度に加え軽量で錆びない等の特徴があり、航空機の機体やユニットバス等に使用されるなど身近な存在である。

FRPとして安価で相応の特性が見込める材料には、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維がある。我が国では1980年代後半から、コンクリートの補強材として炭素繊維やアラミド繊維によるFRP開発が進められた。

しかし、FRPは従来の鋼材と形状や性質が大きく異なることから、新たな試験方法も同時に開発する必要があった。この試験方法を確立し国際標準化へと導いたのが、魚本氏だ。

コンクリート分野はそれまで、アメリカと欧州がリードしてきた歴史がある。そんな中「いきなり日本が新たな国際規格を作るとなると、両方から叩かれる。」と苦笑いの魚本氏。そこで「こういう良いものがある。」と、我が国が取り組んできた各種繊維活用の膨大な実績データを基に、国際幹事として粘り強く説得をすることで道を切り開く。

制定したのは、「ISO10406-1(繊維強化ポリマー(FRP)によるコンクリートの補強―試験方法-第1部:FRPバー及びグリッド)」と、「ISO10406-2(繊維強化ポリマー(FRP)によるコンクリートの補強―試験方法-第2部:FRPシート)」との2つの試験方法規格である。

炭素繊維シート等で補強する鉄桁の模型
(提供:株式会社 高速道路総合技術研究所)

共通の土俵をつくること、その土俵に登れる人を制限すること

 その後、魚本氏は2011年から国際議長として同委員会(TC71/SC6)を牽引し、連続繊維棒材とシートの品質規格「ISO18319
(コンクリート構造物のための繊維強化ポリマー(FRP)補強-FRPシートの仕様)」をとりまとめ。続いて、連続繊維棒材とシートの利用方法の指針をまとめ、こちらも国際規格「ISO14484(繊維強化プラスチック(FRP)材料を使用するコンクリート構造物の設計のための性能指針)」として発行された。

いずれの国際規格も、日本のコンクリート用連続繊維補強材に関する国内規格をベースとしたものであり、我が国の非常に高品質な繊維材料を前提としている。

そのため、世界中で炭素繊維等を用いたFRPを活用するコンクリート構造物を作る際には、日本製品や日本のサポートが不可欠となるのが現状だ。魚本氏による我が国産業界への功績は極めて大きく、今回の受賞にもつながっている。

FRPは我々の生活に密着していることは既出の通りだが、工事や施工の現場でも重宝されている。道路や橋、トンネルやダムなどの土木構造物は、時間の経過とともに補修や補強が必要となる。FRPシートを使用する場合は、必要部分をFRPシートで巻くだけで補強ができるなど、施工のしやすさの面でもメリットは大きい。
例えば太い橋脚の補強であれば、橋脚を“太らせることなく”強化できるほか、海上や大型重機が入りにくい足場の狭い現場など、
施工場所の制約にも柔軟に対応できる。

ゴンドラ足場を用いた酒匂川橋の耐震補強施行状況
(提供:NEXCO中日本)

魚本氏が長年携わってきたFRPは素材としてはもちろん、強固なコンクリートや鋼材の補強材として、地震の多い我が国の生活の安心・安全に直結する存在である。だが、実はそういった安心・安全を下支えする“裏方的な顔”のみにとどまらない。

薄くても堅い、軽くても丈夫という特徴により、デザインや設計の自由度が大きく向上する。スレンダーで景観としても楽しめる土木構造物の創造……つまり、美しい“表の顔”にもつながるのだ。

標準化活動を担う次世代へのメッセージを伺うと、AI分野やiPS細胞を例に出し「今まで先輩方がやってきた延長ではなく、今までなかった分野やモノを作り出すことが一番大事。」と魚本氏。「待っていてはだめ。世界に先駆けて進めていく必要がある。」とも。

国際規格については「共通の土俵をつくるという意味と、その土俵に登れる人を制限するという意味がある。」と話す。「大相撲の土俵には誰でも上がることができる。しかし勝てるのは誰か、ということ。」と続けてくれた比喩もわかりやすい。

高い専門性と国際舞台で陣頭指揮を取ってきた経験から語られる言葉は、やはり重い。

【標準化活動に関する略歴】
1971年~1978年 大成建設
1981年~1992年 東京大学生産技術研究所 助教授
1983年~2005年 土木学会コンクリート標準示方書改訂小委員会委員
1992年~1998年 東京大学生産技術研究所 教授
1998年~2001年 東京大学国際・産学共同研究センター 教授
2000年~2002年 東京大学生産技術研究所 副所長
2000年~2010年 ISO/TC71/SC6 国際幹事
2001年~2007年 東京大学生産技術研究所 都市基盤安全工学研究センター 教授、センター長
2001年~2010年 日本工業標準調査会(現:日本産業標準調査会) 土木技術専門委員会 委員
2003年~2005年 日本コンクリート工学協会(当時)内 コンクリート試験方法JIS原案作成委員会 主査
2005年~2011年 ISO/TC71対応国内委員会WG3(SC6対応国内WG) 主査
2007年~2010年 芝浦工業大学 教授
2007年 東京大学 名誉教授
2010年~2017年 国立研究開発法人 土木研究所 理事長
2011年~2019年 ISO/TC71/SC6 国際議長
2017年~現在 土木新技術研究調査会 代表
2017年~現在 株式会社高速道路総合技術研究所 フェロー
2017年~現在 国立研究開発法人 土木研究所 顧問

最終更新日:2020年4月27日