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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.3

経済産業大臣表彰/小川 博世(おがわ ひろよ)氏
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) テラヘルツ研究センター 客員研究員

小川博世氏の肖像

電波の届かないエリアでも通信・放送を可能に―日本提案の測定技術を国際規格化

 「学生など若い人たちは携帯電話の4G(第4世代通信)、5G(第5世代通信)から入ると興味を持ってくれるが、測定技術になると?」NICTテラヘルツ研究センターの小川博世客員研究員はそう言って笑う。

IEC(国際電気標準会議)/TC103(無線通信送信装置)の作業部会でコンビーナ(取りまとめ役)を約10年間務め、通信ケーブルの中へ光の信号を送り出す光送受信機の測定技術の規格づくりに尽力してきた小川氏。また、TC103の国内委員会の委員長として、日本提案の国際規格化を主導。特に、電波の届かないエリアでも通信・放送を可能にする日本発の技術を国際標準化した功績は大きい。

2020年春に商用化する5Gサービスは産業界だけでなく、一般消費者からの関心も高い。高速、低遅延、多数同時接続という特徴があり、社会を大きく変革する可能性を秘めている。小川氏は「我々の作業部会は、5Gのためにやっているわけではないが…。」と前置きしつつ、次世代通信でも自身の携わった光送受信機の規格が活用できると固く信じる。

小川氏らの作業部会のミッションは、高い周波数帯のマイクロ波やミリ波の信号を光ファイバーで伝送するためのデバイスの測定技術を標準化することだ。携帯電話網の代替わりが今後進めば進むほど、活躍の余地が広がる。移動通信の代替わりごとに使う周波数は上がっているという。たとえば日本の5Gは、3.7ギガヘルツ帯と4.5ギガヘルツ帯に加えて、ミリ波の28ギガヘルツ帯の周波数を利用する。

「携帯電話の周波数が高くなれば、電波の直進性が強く、減衰が激しいため、見通しが悪い場所などでは、電波が回り込みにくく、通り抜けにくい性質があり、電波が届きにくくなる。だから、基地局のカバー範囲が狭くなってしまう。」と小川氏は専門家の視点で指摘する。つまり、携帯電話事業者はより多くの基地局を設置し、各基地局へ信号を送らなければならない。そこで光送受信機の出番となる。

携帯電話事業者は一般的に、屋上に鉄塔アンテナを建てた局舎を持ち、数千の端末に対して信号の送受信を行っている。ただ、大規模な局舎はそれほど高密度にあるわけではなく、局舎と各基地局を有線で結んで信号を送る。小川氏は「ミリ波を伝送する光送受信機がどんどん増えていけば、我々がこれまで発行してきた国際規格、例えばIEC62801, IEC62802, IEC62803なとがシステム設計にそのまま使ってもらえる可能性が高い。」と期待を膨らませる。

写真①:無給電光無線伝送装置 受信部
―放送等の電波を光の信号に変換しケーブルへ送り出す
写真②:写真①の内部構造
―光外部変調器と電源制御回路等による簡易な構造であることがわかる

鉄道や新幹線、空港等、幅広い分野への技術適用を目指して

 TC103は、自他ともに認めるマイナーな作業部会であり、苦労も多かった。国際規格策定に最低限必要なメンバー集めから大変だったという。「TC103は、他のTCに比べると規模が大きくない。NP(新規格提案)を議論するエキスパートを各国から出してもらうのだが、必要な4カ国が集まらない状況が長く続いた。」と小川氏は振り返る。その結果、日本発のNPが翌年に再提案を余儀なくされたケースもあった。開店休業の事態を打開すべく、地道に主要国で人脈を広げて規格づくりの理解者を増やしていった。小川氏は「今ではポーランド、スイス、イギリス、ドイツ、韓国、日本という体制が固まり、かなり安定的にNPを提案して成立させられるようになった。」と喜ぶ。

今後も小川氏は、無線通信装置への光ファイバー技術の適用に力を注いでいくつもりだ。「5Gのみではなく、新幹線など高速移動中に通信する鉄道無線システムなど、幅広い分野に通じる。また、空港の滑走路の障害物を検出するレーダーも有望だ。」と仕事は山積みだ。空港の滑走路用レーダーについても、ミリ波が今後の1つのキーワードになる。細かな異物を検知するため、レーダーの解像度が上がるミリ波の使用が理に適っているからだ。ただ、ミリ波だと携帯電話基地局と同じように数多く設置する必要がある。それに合わせてどういう形で信号を送るのかを考えると、光ファイバーで信号を伝送する形態がベストだという。現在、我々は滑走路の障害物検出レーダー用光無線送受信機の規格に向けた議論を進めているところだ。

そして、標準化活動に参加してくれる人材の若返りも重要な課題となりそうだ。「(我々の分野でエキスパートになるような)企業・大学の先生たちも40-50歳代だ。国内委員会でも30歳代はいない。管理職の人たちが多い。」と小川客員研究員の悩みは尽きない。

【標準化活動に関する略歴】
1976年 日本電信電話公社横須賀電気通信研究所入所
1998年 郵政省通信総合研究所入所
2005年~現在 IEC/TC103(無線通信送信装置)国内委員会 委員長
2008年~現在 IECTC103 WG6(RoF送信機)コンビーナ
2016年~現在 IEC・SC86C(光ファイバシステム・能動部品)リエゾン

最終更新日:2020年3月30日