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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.4

経済産業大臣表彰/坂橋 信俊(さかはし のぶとし)氏
一般社団法人日本鉄鋼連盟 主査

坂橋信俊氏の肖像

鉄鉱石の公正な取引のために-国際規格で日本の鉄鋼ビジネスを支える

 自動車や建材、テレビやパソコン、冷蔵庫や缶詰に至るまで、ありとあらゆる身近なところで使われている「鉄」。鉄はあらゆる産業の基盤とされ、日本の経済成長を牽引する大きな役割を果たしてきた。その主原料の鉄鉱石は日本にとって貿易上重要な資源の一つであり、輸入量は100%。2002年まで日本は世界最大の鉄鉱石輸入国であった。

しかし、2003年に中国が日本を抜き最大の鉄鉱石輸入国に。中国経済の伸長と鉄鋼生産の急激な増大に伴い、鉄鉱石の需要は爆発的に増加し、今や世界の海上貿易量は年間15億t前後に達している。従来取引されていた鉄分の多い良質な鉄鉱石が枯渇に向かう中、不純分や結晶水の多い劣化鉄鉱石が新たに生産・出荷されるようになる。

鉄鉱石に含まれる水分の多寡は、鉄鉱石の取引金額に直接影響する。水分の測定条件は国際規格のISO3087(ロットの水分決定方法)で規定されているが、「最近増えた高結晶水鉄鉱石は、鉱物組織学的見地から極めて複雑で、従来の乾燥条件では気孔・粒子間隙・粘土鉱物等に含まれる水分が十分に蒸発せず、正確な測定結果が得られない。」と語るのは、日本鉄鋼連盟の坂橋信俊氏。
現在、ISO3087の改訂を進めているエキスパートだ。

日本提案のこの改訂は、今後の購買金額に直結するという重要な経済的側面を持つ。すなわち、鉄鉱石は1回の取引量が多いため、測定方法によるわずかな違いで、莫大な利益になることもあるし、損害になる場合もあるからである。その金額が豪州など生産者側にとっては不利になる可能性もあり、改訂までの道のりは一筋縄では行かない。しかし、乾燥効率予備実験を繰り返し、坂橋氏が主導する乾燥方法などさまざまな実験データを開示することで、徐々に理解が得られてきた。

「規格改訂は経済的な利益を得ることが目的ではないが、日本の不利になってはいけない。売り手と買い手の双方が納得できる公正な仕組みを模索してきた。」と語る坂橋氏。現在、この規格改訂案は委員会の承認を経て、ISO全体で是非を問う投票の最中である。

承認された場合は、早ければ2020年度中に発行される見通し。日本にとって大きな経済効果をもたらすことが期待されている。
 

荷揚げされた鉄鉱石
荷揚げされ、鉱石ヤードで散水される鉄鉱石

国際標準化活動を推進し、活性化するためのルールづくり

 規格開発に携わるエキスパートとしての活躍だけでなく、坂橋氏は実務面でも国際幹事として手腕を振るう。その1つが、鉄鉱石及び還元鉄の専門委員会(ISO/TC102)だ。

「TC102には3つの分科委員会(SC)があるが、私が幹事に就いた2014年にはそれらの傘下に25ものスタディグループ(SG)や作業グループ(WG)があり、それぞれの活動の中身や進捗状況が見えていなかった。」と坂橋氏。

そこで、TCの国際幹事と兼任しながら坂橋氏がTC102の標準化改善活動(SG1)のコンビ―ナに就任することに。
コンビ―ナとはいわゆる取りまとめ役だが、坂橋氏は各SGとWGの活動の「見える化」と情報共有を目指し、各コンビ―ナを対象とした活動マニュアルの作成に着手。計画策定と活動内容の報告、成果評価と今後の進め方、いわゆるPDCA管理を各SGとWGに求め、国際会議の場で情報共有を行うことを目指した。

「TC102固有のレポートとして発行することをTC102の総会で決めた。当初は提出率43%だったが、根気良く催促するうち2018年以降は100%を達成している。」と語る。

また、坂橋氏はTC17(鋼)のSC1(化学成分の定量方法)でも国際幹事を務める。SC内で扱う分析規格は約60と数多く、規格を存続するために必要な定期的な見直しが困難な状況にあった。そこで新たなSGを設け、優先順位をつけて効率化を図り、計画的に改訂活動を進めることに。

このSCでは「参加国18のうち、毎回会議に出席するのは3カ国から5カ国程度。必要な人員が集まらず、新規提案が成立しないこともあった。」と苦労を語る。どのように会議参加国を増やすか、他国の国際幹事OBとも相談しながら前向きな解決策を検討中だという。

鉄鉱石産業においては、冒頭にも述べたように、新規鉱区の開発や従来と異なる鉱石の出荷など、需給の状況が変わりつつある。
そんな中、今後ますます国際規格の重要性が高まることは間違いない。坂橋氏のこうした積極的な取り組みは、各組織での国際標準化活動の活発かつ迅速な動きを促進するものだ。

「参加国に望むのは、新技術を取り入れた精度の高い測定・分析方法の提案。TC102の幹事国として、そのための方向性や環境づくりに取り組みたい。」と今後の抱負を語る。

TC102はそもそも、1961年に日本主導で立ち上げた経緯がある。当時と大きく異なる状況下で、今後日本はリーダーとしてどのようにあるべきか。「鉄鉱石の分野では、生産国の発言力が強い。同じ消費国として、中国との強固な連携が大切。」と坂橋氏。「化学分析に関して、すでに多くの若手中国人がコンビ―ナとして活躍している。日本として鉄鉱石の幹事国を維持することはもちろん、規格改訂に携わる専門家人材の育成が必要だ。」と提言する。

【標準化活動に関する略歴】
1983年 NKK(現:JFEスチール)入社 資源調査室
1985年 同社 原料部 鉱石室
2014年~2017年 ISO/TC102/SC1(サンプリング)・WG3(サンプリング及び試料調製方法) エキスパート
2014年~現在 一般社団法人日本鉄鋼連盟 出向
        ISO/TC102 国際幹事(2019年4月~ISO/TC102/SC1兼任)
        ISO/TC102/SG1 コンビーナ
        鉄鋼連盟標準化センター原料サンプリング分科会 主査
2016年~現在 一般社団法人日本鉄鋼連盟 転籍
        ISO/TC17/SC1 国際幹事

最終更新日:2020年4月6日