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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.13

経済産業大臣表彰/鈴木 俊宏(すずき としひろ)氏
日本オラクル株式会社 クラウド事業戦略統括 スタンダードストラテジー&アーキテクチャ/ポリシー シニアディレクター

鈴木俊宏氏の肖像

 今や人類にとって必要不可欠と言っても過言ではない、クラウドコンピューティング。データや処理をクラウドサービスにゆだねる仕組みを提供し、情報の保管・共有・協調などを格段に効率化できるこの技術は、我々のビジネスや日常生活を一変させた(パラダイムシフト)。このパラダイムシフトに対しISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)との第一合同専門委員会(JTC1(情報処理))では国際規格を整備すべく、2009年にISO/IEC JTC 1/SC 38 (クラウドコンピューティング及び分散プラットフォーム分科委員会)を組織した。その設立から現在に至るまで、同SC国内対策委員会の委員長などとして、国内外にわたり尽力したのが、2019年度経済産業大臣表彰を受賞した日本オラクルの鈴木俊宏氏だ。

“あの手この手”で欧米を説得。自らルールを作りにいき、イニシアティブをとる

 「国際規格のクラウドコンピューティングの定義でも言及されているが、クラウドコンピューティングはパラダイム(その時代のものの見方の枠組み)を提供するものだ。パラダイムシフトは常に国境を超えて各国固有の事情などお構いなしに丸呑みし全てを変えていく。日本はある意味特有な文化を持つ国なので、国内の関連法規やガイドラインと極力齟齬がないように積極的に国際に働きかける必要がある。」鈴木氏は、そんな想いでクラウドサービスの普及に資する標準化活動に長年力を注いできた。

「日本側の要求を海外に理解してもらい、規格に盛り込ませるのには、非常に苦労する。」と鈴木氏は振り返る。国内における一部の調達では日本特有の仕組みが見られ、それが考慮されないで国際規格になると、「国内の実情と国際で流通する現実に齟齬が出て、例えJIS(日本産業規格)に翻訳しても、実情に合わない規格が作られ、結局使われなくなってしまう。」という。

「例えば、欧州では似たような国が集まり欧州連合を構築しているが、日中韓は地理的には近くとも主義主張が異なる。つまり、欧州と日中韓では地域という考え方が違う。これだけでも、国際標準化というのがいかに大変かわかってもらえると思う」。こうした国内外のギャップを埋めるため、鈴木氏は奔走する。国際の場でSC内の“キーパーソン”に日本の事情を理解してもらうため、関係構築に力を注いだ。国際会議の際、「通常、日本の代表団は全員が同じホテルに泊まることが多いと思うが、私は欧州や米国の会議出席者と同じホテルに泊まるように心がけている。すると朝食を共にしたり、会場との往復に同行したりするので、そこがチャンス。あの手この手を使って、コミュニケーションを取る。」と鈴木氏は笑う。

「物理的に大変だったという意味では、頻繁にある国際的な電話会議もそう。」と鈴木氏は付け加える。欧州や米国の時刻に合わせるため、常に日本時間の深夜や早朝にも電話会議に出席。ISOにおいて発言力の強い欧米に合わせた時刻に会議が設定されていたが、鈴木氏らはフェアな議論の土壌を作るため、開催時刻についても積極的に提案した。

「アジア圏の国々と協力し、UTC(協定世界時)における13時、21時、5時のいずれかの時間帯(日本時間でそれぞれ22時、6時、14時)で、ケースバイケースで会議が開かれるようルール化した」。一方的に欧米主導なのではなく、ある意味「痛み分けみたいな感じになった。」という。「国際会議ではルールを知らないと戦えないので、まずISO/IEC Directives(ISO/IEC専門業務用指針)に精通するようにした。」と、国際標準化はまさしく国を越えた「ルールメイキング」の世界。”規格というルールを作る上でのルール”を提案し存在感を発揮した点も、鈴木氏が国内外で高く評価される所以と言える。


ISO/IEC JTC 1/SC38 総会開催期間中のWG会合(2017年 アメリカ・サンノゼ)

セキュリティ、AI、ブロックチェーン、ニーズが膨らむクラウド分野の標準化

 SC 38で開発する国際規格は、技術的な観点はもちろん、概念としてのクラウドコンピューティングの考え方、用語定義、責任分界点の規定、クラウドの中の個人情報の扱い、データ越境移転に対する配慮、クラウドサービスレベル合意書の枠組みに至るまで多岐にわたる。

例えば、クラウドコンピューティングについてはセキュリティ面を不安視する声が根強い。このため、クラウドにおける情報の安心・安全な管理を担保するための国際規格が検討され、2015年に「ISO/IEC 27017(情報技術-セキュリティ技術-ISO/IEC27002に基づくクラウドサービスのための情報セキュリティ管理策の実践の規範)」が制定された。この規格の重要な点は各利害関係者の責任分界点を明確にしてセキュリティ管理策を規定したことにあり、責任分界点はSC 38が開発した国際規格「ISO/IEC 17789(情報技術-クラウドコンピューティング-参照アーキテクチャ)」を参照している。「先日はISO/IEC 27017を開発しているISO/IEC JTC 1/SC 27 (情報セキュリティ,サイバーセキュリティとプライバシー保護分科委員会)の日本代表から実際のインシデントで起こったユースケースを提供してもらいSC 38で国際規格化したこともあった。」と鈴木氏。SC間の境を超えた連携を積極的に推進することで、産業界における情報セキュリティレベルの底上げに寄与している。

最近では、例えばクラウドサービスプロバイダAがクラウドサービスプロバイダBのデータベースを使いユーザーにサービスAを提供する、プロバイダAの先で複数のプロバイダがフェデレーションを組むなど、事業者間連携が増加。だが、「各プロバイダが負う責任分担について明確に規定した標準は、規格化が始まったばかり。更に欧州で話題になっているデジタル主権の問題や分散環境でのデータ共有の合意の枠組みなど問題は山積み。」という。

さらには、IoT(モノのインターネット)はもちろん、AI(人工知能)やブロックチェーンなどの先端技術にクラウドが適用されたことにより、クラウドシステムの複雑化が加速している。「SC 38はその名の通り、クラウドコンピューティング及び分散プラットフォームの技術領域を国際規格化する分科委員会で、クラウドコンピューティングの規格化だけでなく、分散プラットフォームの観点からも視野を広げている。昨年はクラウド側から見たエッジコンピューティングの展望について技術報告書(ISO/IEC TR 23188情報技術-クラウドコンピューティング-エッジコンピューティングの展望)が公表された。今後、新しい技術がどんどん出てきて複雑になるのは避けられないので、どう対応するかを常に念頭にいれ考えていかないといけない。」と、鈴木氏は先を見据える。
 
 *クラウドコンピューティングとは、情報処理機器リソースを物理的又は仮想的に共有可能にするものであるのに対し、エッジコンピューティングは、エッジと呼ばれるネットワークに繋がるセンサーやアクチュエータで構成されるIoTデバイスの近傍でデータの処理を行う分散コンピューティングの一形態のことであり、一般にクラウドサービスと連携しシステム全体を構成する。クラウドサービスで培われた多くの技術がエッジコンピューティングでも採用されてきており、今後の進展が期待される。

次なる標準化テーマを検討するかたわら、若手の育成にも力を注ぐ。「若い人に国際標準化関連の仕事をさせると、その人は必ず優秀な人材に育つはず。」と言う。標準化は徹頭徹尾論理的、かつ、地政学的見地も味わえる世界。それだけに「国際標準化に携わるには、話す前から戦略や戦術を考え、各国の意向や各人の性格を推し量り協調しつつ、筋道立てて自分の主張を盛り込ませる必要がある。若い人には是非お勧めしたい。」とほほ笑む。

【標準化活動に関する略歴】
1985年      長岡技術科学大学 機械システム工学専攻 修士課程修了
1985年~1999年 日本アイ・ビー・エム株式会社 大和研究所 勤務
1999年~現在 日本オラクル株式会社 勤務
2009年~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 38国内対策委員会 委員長/幹事
2006年~2017年 ISO/IEC JTC 1/ディレクティブズ'業務指針)SWG国内対策委員会 幹事
2016年~現在 ISO/IEC JTC 1/Advisory Group on System Integration Facilitator 
                     (システムインテグレーション ファシリテーターに関するアドバイザーグループ)
                    国際システムインテグレーション ファシリテーター
2017年~現在 ISO/TC 307 (ブロックチェーン及び分散台帳技術) 国内対策委員会 アドバイザーグループ 主査
2018年~現在 ISO/TC 307/WG 1 (基礎)作業部会 主査
2018年~現在 ISO/TC 307/WG 3 (スマートコントラクト)作業部会 主査
2018年~現在 ISO/IEC JTC 1/SC 38へのISO/TC 307 国際リエゾン代表
2019年~現在 ISO/IEC JTC 1(情報処理)へのISO/TC 307 国際リエゾン代表

最終更新日:2020年6月15日