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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.8

経済産業大臣表彰/谷村 博史(たにむら ひろし)氏
ISO/TC45国内審議委員会 副委員長

谷村博史氏の肖像

 輸送機器、生産設備をはじめあらゆる用途で使われるゴムホースは、産業、そして人々の生活を下支えする“縁の下の力持ち”と言える。決して派手さはないが、長期間使われるため高耐久性を備えるなど、製品一つ一つの技術水準は極めて高い。2006年、そのゴムホース分野で、ISO(国際標準化機構)から、日本の提案に基づく新たな国際規格ISO18752(ゴムホース及びホースアセンブリ-油圧用途のワイヤ又は繊維強化単圧タイプ-仕様)が発行された。製造者視点だった従来規格の方向性を改め、ユーザー視点を徹底したのが特徴。WG(作業部会)のコンビーナ(取りまとめ役)を2002年から務めるなど、この規格の策定に尽力したのが、元横浜ゴム株式会社で2019年度産業標準化事業表彰経済産業大臣表彰を受賞した谷村博史氏だ。

ユーザーファーストを徹底した新規格。革新的だった“圧力ベース”のアプローチ

 「それまで主に使われていた規格は、製造者の視点に基づいたものだった。」。谷村氏はISO18752策定の意義を、こう指摘する。欧米発の従来規格は、ホースの補強のための鋼線/繊維層のタイプや層数をはじめ、主に構造の違いに基づいて製品の種別を規定している。これに対し谷村氏ら日本側が提案したのが、最高使用圧力を基に種別を定めるアプローチ、これはJIS K6349(液圧用の鋼線又は繊維補強ゴムホース)をベースとしたものだった。

「ゴムホースのユーザーにとっては、繊維層の数や構造よりもどれくらいの圧力に耐えられるかが大事な情報。したがって、ユーザーが製品の選択をし易いように『最高使用圧力』で種類を分ける規格を提案した。」と谷村氏は説明する。また、最高使用圧力も従来の66種から9種に大幅に削減することを提案した。「ユーザーが適用する最高使用圧力は用途によっておおよそ決まっているので、種類数を削減した方がユーザーにとってもシンプルで使いやすく、製造者にとっても合理化、コスト削減となる。」という。

日本提案は、ユーザー、製造者、双方にメリットがあり、その有用性を信じ、ISOに提案した谷村氏ら日本勢。だが制定に向け、思わぬ困難に直面することになる。「2001年に提案して、制定されたのは2006年。5年もかかってしまった…。」と谷村氏は苦笑いする。

思わぬ逆風に悪戦苦闘。イベントや地道な説得で「一人、また一人と“仲間”を作った」

 予想以上に大きかったのが、欧州勢の抵抗だ。「『既に規格が存在しているのに、さらに作る必要があるのか?』というのが欧州側の主張。『ダブルスタンダードになるのでは?』なんていう指摘も受けた。」という。

思わぬ逆風に遭った谷村氏らは、まず身近なアジアを中心に、規格策定のための“仲間集め”を試みた。アジア・太平洋地域の国々を招き、標準化関連のイベントを日本で積極開催。作ろうとしている規格の意義を発信し、参加した各国の専門家らに理解を求めた。それにより「アジアのほか、米国もイベントに協力してくれて、日本に賛同してくれるようになった。」

ただ、欧州勢の抵抗は根強かった。谷村氏らは、欧州の中で影響力の強い国をオブザーバーとしてイベントに招いたり、自ら欧州に赴きキーパーソンと面会したりするなど、地道な説得を継続。「一人、また一人と友達を作っていく感じ。そこは、時間と労力をかけてやらざるを得なかった。」と明かす。

制定から10年超が経過。谷村氏らの尽力もあり、ISO18752は社会のさまざまな場面で利用されている。例えば、油圧建設機械において油を供給するゴムホース。種別が圧力ベースで“見える化”され、建機メーカー側が安心して用途に合った性能の部品を選定できるようになっている。「建設機械は時に昼夜問わず、長時間稼働するもの。予期せぬ故障による稼働停止を予防するという意味で、円滑な社会インフラの構築に貢献できているのではないだろうか。」と谷村氏は力を込める。

「今後は日本のゴムホースメーカーが、規格を活用してさらに海外展開を加速すべき。」谷村氏は、こう先を見据える。規格化により「日本メーカーによる高付加価値な製品が新興国など需要の多い市場を開拓するための素地が整った。」とした上で、「製品規格は、市場開拓に積極活用されてこそ意味をなすもの。」と日本製品のさらなる躍進に期待する。

高圧ゴムホース(横浜ゴム製)

次世代自動車の規格策定にも貢献。「標準化はライフワーク」

 そんな谷村氏、実は地球温暖化対策の“切り札”ともされる水素エネルギー関連の規格策定においても、一役買っている。水素ステーションで燃料電池自動車(FCV)に水素を充塡する供給器(ディスペンサー)は、超高圧でFCVに水素を充塡する必要があることから、高耐久性の樹脂ホースが求められるからだ。谷村氏はISO18752での経験を生かしつつ、安全試験法などを検討する議論に参加。長年培ってきたホースや国際標準化に関する知見を提供し、結果として2019年には水素ステーション用ゴムホースに関する国際規格ISO19880-5(気体水素-給油所-第5部:ディスペンサーホース及びホースアセンブリ)が発行された。同規格はディスペンサーに適用されるホースの安全要求事項や試験法を規定しており、製造事業者などによる利用が進んでいる。

70歳になるという谷村氏。国際標準化関連の活動は、「ライフワークみたいなもの」とほほ笑む。通算、米国に約12年、台湾に約4年の海外駐在経験も、標準化に携わる上で役立ったという。「米国や欧州の考えることを理解し、意思疎通を図るのは比較的得意になっている。元気があるうちは、この標準化活動を通じ世の中に貢献し続けたい。」と意気込む。

無論、次代を担う標準化人材の育成にも気を配る。「標準化への理解とともに、やはり高度な英語力は必須。どうしても会議は英語なので、英語で“戦える”力がないと、どれだけ良い規格を提案しても意味がない。日本人は昔から英語でのプレゼンテーションはうまいが、本当に大事なのはその後の討議。そこで存在感を出せるような若い人が、育ってほしい。そのためには会社全体、さらには業界全体で戦略的に若手を育てていくべき。」と、育成強化の必要性を指摘する。

【標準化活動に関する略歴】
1974年~1984年 横浜ゴム株式会社 茨城工場品質保証課
1984年~1992年 同社 ホース工場技術課
1992年~1999年 SAS Rubber Company(横浜ゴム米国子会社) 品質・技術担当 Engineering Manager
1999年      横浜ゴム株式会社 ホース事業部ホース技術課
2000年~2006年 同社 茨城工場品質保証課長
2000年~2004年 ISO/TC45(ゴム及びゴム製品)国内審議委員会 委員
         同SC1(ホース/ホースアッセンブリー)/WG3(液圧用ホース) 主査
         同WG1(工業用・化学用・油用ホース)、WG2(自動車用ホース)及びWG4(ホース試験方法) エキスパート
2002年~現在   ISO/TC45/SC1/WG3 コンビーナ
2004年~2006年 ISO/TC45国内審議委員会 委員
         同SC1総括主査
2006年~2010年 協機工業(横浜ゴム-台湾合弁会社) 代表取締役社長
2010年~2015年 YIA-OH社(SAS Rubber Companyから名称変更) 代表取締役社長
2015年~現在   ISO/TC45国内審議委員会 副委員長 及び 同SC1 総括主査
2016年~現在   ISO/TC197(水素技術)/WG22(水素ステーション用ホース) エキスパート(国内審議委員会委員を兼務)

最終更新日:2020年5月11日