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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.12

経済産業大臣表彰/冨田 茂(とみた しげる)氏
エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 
ネットワーク&ソフトウェア事業本部 主席技師

冨田茂氏の肖像

現代のインターネット社会を支える基幹技術の標準化に貢献

 インターネットのない生活は、今や考えられない。距離に関係なく、音声や文章、画像などのさまざまな情報をやりとりできる技術は、現代社会の根幹をなす。近年急速に技術革新が進展しているIoT(モノのインターネット)もまた、あらゆるモノにつけたセンサーをインターネットにつなげることで、社会をより便利に、より豊かになる。また5G(第5世代通信)などの無線通信に人々の関心は集まりがちだが、その携帯電話の基地局や交換局の間を接続するのは、光ファイバを用いた有線通信網だ。

出典:総務省 電波利用ホームページ

 エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社ネットワーク&ソフトウェア事業本部の冨田茂主席技師は、約30年前から国際標準化に関わり始めた。特にIEC(国際電気標準会議)のファイバオプティクス専門委員会(TC86)の光ファイバ接続部品・受動部品分科会(SC86B)で国際幹事を務め、国際規格への日本意見の反映に寄与した。また、ITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化部門)でも、標準化活動に従事してきた。

冨田氏は、まだ駆け出しの頃の出来事を今も鮮明に覚えている。「英語が得意ではなくて、標準化会議の様式にも慣れていない時代に、1件だけ対立があった。」と振り返る。大量の光ファイバを束ねてつくる光ファイバリボンの標準化で、欧州と米国、日本が対立したのだ。

光ファイバリボン(ケーブル)

IECは、最終的には1国1票の多数決。どの分野においても欧州諸国の票により、欧州の思い通りに物事が進みやすい。「米国と日本も意見の違いはあったが、欧州の基準で決まると困るから日米で手を組んで、欧州の案を押し戻して3者で合意できる規格をつくろうとした。」と、冨田氏は日米同盟で現状打開を目指した。

当然、日米同盟が成立しても2カ国分に過ぎず、仲間を増やさなければならない。冨田氏は「欧州側に入っていないメキシコやブラジルなどに協力してもらって、欧州をなだめようとしたが、欧州はかなり強硬だった。」と着地点を見いだせない状況が続いた。

とうとう、1987年トルコ・イスタンブールにて最終案の取りまとめの会議を迎えた。「その時僕はまだ、国際幹事になって3年目ぐらい。たまたま『お前が何か意見を言え。』と指名されたのだが実は、運悪くイスタンブールで食あたりを起こしていた。」と冨田氏は笑う。朦朧としながらも「欧州だけで押し通すようなやり方をすると標準化はうまくいかないから、ここはみんなの意見を聞きましょうよ。」とスピーチした。会議では珍しい光景だが、同盟国の米国の代表が拍手してくれたという。「それもあって、その場はとりあえず欧州を押しとどめることができ、最終的には各国が求めた仕様を包含する形で光ファイバリボンの標準をつくれた。」と喜ぶ。冨田氏は、数の論理で攻めてくる欧州のような相手に対しても「理を通す」ことの重要性を学んだ。

IoT時代に光ファイバへの期待さらに高まる

 冨田氏が標準化の世界へ飛び込んだ30年前、光ファイバは社会にまだ普及していなかった。今でこそ各家庭まで光ファイバの通信網が行き届いているが、当時のインターネットは金属製の電話線であり、動画や音声などの大容量データを高速で通信できるのは、光ファイバのおかげと言っても過言ではない。

今後のIoT技術の鍵は「光ファイバセンサ」だと冨田氏はいう。「光ファイバセンサ」は、光ファイバの中を通る光の変化を検知して、外部の圧力や振動、温度などを計測する仕組みであり、この技術は、例えば、インフラ診断に使用することが可能だ。橋梁や道路に光ファイバを張りめぐらせて、コンクリートの劣化などを検知することができる。「今では、光ファイバの価格は、電話線で使っていた銅線よりも安くなった。今後は光ファイバを通信線に用いて、その先に光センサを取りつければ、新たな技術(仕組み)でも結果的に安く上がるのではないか。」と、冨田氏はIoT社会の新たな基盤技術と期待する。

というのも光ファイバセンサの標準化は、20-30年前に一度着手されたものの、当時は光ファイバの値段が高くセンサ技術も未熟だったため、時期尚早との判断で中断した歴史がある。冨田氏は「それが技術の成熟に伴って2-3年前に復活した。日本と英国が研究開発で先行しており、日本も自らの技術を使ってもらえるよう積極的に参加している。」と胸を張る。

冨田氏はまだ光ファイバの可能性を信じている。「情報を送るという意味で、能力を100%生かしていない。」と技術革新に終わりはないようだ。

最後に、次世代を担う人材育成について聞いた。「ゲームにしても音楽配信にしても映像配信にしても、若者たちこそが光ファイバの恩恵をもっとも受けていると言えるのではないか。」と冨田氏は言う。今やインフラ技術でもあり、自らの生活をより良くする技術であると同時に、先端技術で応用範囲の拡大も期待できるのが、この光ファイバ分野。光ファイバの技術革新にも、国際標準化活動にも若手の参加を強く期待したい。

【標準化活動に関する略歴】
1983年 日本電信電話公社 茨城電気通信研究所 入所
1985年 日本電信電話株式会社 茨城電気通信研究所 社員
1993年~2012年 IEC/TC86/SC86A(光ファイバ・ケーブル) 国際委員
1994年 日本電信電話株式会社 設備企画部 担当課長
1996年 日本電信電話株式会社 アクセスサービスシステム研究所 主任研究員
2000年~2012年 JIS原案作成委員会(光ファイバ標準化委員会) 原案作成委員長
2001年 日本電信電話株式会社 アクセスサービスシステム研究所 主幹研究員
2004年~2012年 IEC/TC86およびSC86A 国内幹事
2012年~現在 NTTアドバンステクノロジ株式会社 ネットワーク&ソフトウェア事業本部 主席技師
2015年~現在 IEC/TC86/SC86B(光ファイバ接続部品・受動部品) 国際幹事

最終更新日:2020年6月8日