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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.15

経済産業大臣表彰/橋本 隆(はしもと たかし)氏
ISO/TC106(歯科)/SC7(オーラルケア用品)/WG6(デンタルフロス)コンビーナ

橋本隆氏の肖像
ISO/TC 106国際会議(2019年、大阪)にて感謝状受賞

 しなやかな繊維が、歯間の汚れを根こそぎ取り除いていく。虫歯予防を心掛ける人ならば、その多くがデンタルフロスを使ったことがあるだろう。デンタルフロスは今や、数多くの歯科医が使用を推奨し、オーラルケアの必需品とも言える。特に昨今普及しているのが、繊維がホルダー(柄)にセットされた「ホルダー一体型」のフロス。このホルダー一体型デンタルフロスの開発に携わり、
国際標準化にも貢献したのが、元三井化学の橋本隆氏だ。ISO(国際標準化機構)の歯科専門委員会(TC 106)の委員を1993年から
26 年間務めるなどの功績が認められ、2019年度産業標準化事業表彰経済産業大臣表彰を受賞した。

子どもでも高齢者でも簡単に使える―。
Y字形ホルダーと一体化したデンタルフロスの普及に向け、国際標準化を推進

 従来のデンタルフロスは、糸状の繊維を直に指に巻いて使用する「糸巻き型」が主流だったが、糸巻き型フロスは、不慣れな人には使いにくく、特に子どもには難しいのが弱点だ。1980年代以降は、ホルダー一体型フロスが世に出て、デンタルフロスはさらに気軽に使いやすいものになっていった。

橋本氏が開発に携わったのは、この一体型フロスの中でも、ホルダーがY字形の比較的新しいタイプ。奥歯に届きやすく、子どもや高齢者でも簡単に使えるのが特徴。近年はその使い易さから高付加価値品として歯科医が推奨するなど、普及が進む。

橋本氏は、高付加価値なY字形ホルダーのフロスの海外展開を促すことなどを目的に、品質面の“ハードル”を設ける国際規格の策定を推進した。ホルダー一体型フロスは、「デンタルフロス(繊維)がホルダーから外れて口内に残ってはいけないし、万が一、使用途中にホルダーが折れたら、繊維をハサミで切ったりしないといけなくなる。」のが課題。このため、ホルダー一体型フロスに必要なデンタルフロスの保持強さ、ホルダー自体の強度などを軸に、規格化の検討を進めた。

米国と規格策定で協力。「フロス後進国」だった日本での普及に貢献

 ISOで規格策定を進める上で、「我々はラッキーだった。」と橋本氏は振り返る。米国の有力な衛生用品メーカーが標準化に賛同し、規格策定に協力してくれたからだ。「その会社もホルダー一体型フロスを手掛けていて、中国で生産していた製品の品質のバラツキを少なくするのが課題だったため、『規格を一緒に作ろう』と申し出てくれた。」。国際標準化は、多国間での合意形成が必須の世界。複数国で議論する“土壌”を形成する上で、米国サイドの協力は、橋本氏らにとって大きな追い風となった。

「日本だけが無理やり引っ張っても、うまくいかない。奇しくも利害が一致したのは、幸運というほかない。」と橋本氏は、ほほ笑む。

通常、国際標準化の過程では性能試験方法を確立するために、各国で同じ条件・同じ方法で試験をして結果を持ち寄り、試験方法のブラッシュアップをしていく。その際、橋本氏は、さまざまな試験器具を設計・製作し、各国の試験所に配布。これにより、迅速に性能試験を実施し、国際規格原案の早期作成とその審議を可能にした。

このような尽力により、2010年にホルダー付きデンタルフロスの国際規格ISO 28158(歯科-ホルダー一体型デンタルフロス及びハンドル)が制定された。フロスの保持強さとハンドルの強さを担保するために、かけるべき荷重などを要求事項として規定しており、「簡単に繊維が外れないことなど、強さと安全の面での品質が担保されるようになっている。」という。

国際規格の制定効果もあり、ホルダー一体型フロスは品質のバラツキが抑えられ、かつ統一的な試験方法により強度が見える化されたことで、国内外で普及が加速。かつてフロス利用者が少数派だった日本においても、オーラルケアのキーアイテムとして定着した感がある。「歯医者さんが『これを使ってください』と自信を持って言えるようになった。フロスを使う習慣が広まるのに貢献できたことは、特にうれしい。」と橋本氏は語る。

Y字形ホルダー一体型のデンタルフロス(例)

現行国際規格は「まだ緩い」。クレーム・ゼロに向け続くチャレンジ

 自ら生み出した高付加価値品を世に広めるため、品質の国際標準化を推進し、目的を果たした橋本氏。今後は、「この国際規格を技術の進歩に合わせて改正し、もっと良い製品が作られるよう誘導できる規格にしていきたい。」と先を見据える。

実は現在のISO 28158は、前述の強さの要求値は低めに設定されており、「まだ緩い規格」なのが実情だ。各国からISO国際会議に参加しているエキスパートは、世界の各メーカーの製造技術・品質管理の改善に合わせて、この要求値を適正値に引き上げる方向で合意済み。次の改正は2022年の予定で、強さの要求値が適正値に引き上げられて高レベルな標準になるかが焦点だ。「使用者からの強度クレームがゼロに近づき、使用者に『使ってよかった』と思ってもらえるような製品の開発に役立つ国際規格にできたらいい。」と力を込める。

こうした取り組みに加え、橋本氏は自身の経験を生かし、産業標準化に携わる人材の育成にも努めてきた。ISOでTCの委員を25年以上務め、コンビーナ(取りまとめ役)としての実績も豊富。培ってきた知見を基に他のWGの後進コンビーナをも育ててきた功績は、高く評価されている。

「今は海外の情報を簡単にとれるので、国際的な仕事をするのは昔ほど難しくはない。それに日本人ということだけで、海外では結構尊重される。それが私の実感。『日本人は真面目で、丁寧で、悪いことはしない』といった感じで、たいてい良いイメージを持ってもらえるので、若い人たちには、安心して世界へ出て行って欲しい。」-。そんなメッセージを、後輩世代に向け発し続けている。

【標準化活動に関する略歴】
1971年 三井石油化学工業株式会社 樹脂加工研究所
1986年 同社 高分子研究所 医用材料グループリーダー
1990年 サンメディカル株式会社出向 開発部長代理
1993年~現在 ISO/TC106(歯科) 委員
1995年 サンメディカル株式会社 品質保証部長
1998年~2011年 日本歯科材料工業協同組合/技術委員会委員
1999年~2012年  ISO/TC 106/SC 2(補綴材料)/WG 16(高分子系歯冠用及び歯型用材料) エキスパート
2004年 サンメディカル株式会社 企画部長
2005年~2012年 ISO/TC106/SC1(充塡・修復材料)/WG11(接着試験方法) エキスパート
2005年~現在 ISO/TC106/SC7(オーラルケア用品)/WG6(デンタルフロス) コンビーナ
2007年~2008年 ISO/TC106/SC1/WG9(高分子系修復材料)エキスパート
2009年~2011年 サンメディカル株式会社 社長付部長
2012年~2015年 日本歯科材料器械研究協議会事務局 研究員
2015年~2019年 鶴見大学歯学部保存修復学講座 非常勤講師

最終更新日:2020年6月29日