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令和元年度 産業標準化事業表彰受賞者インタビュー Vol.16

経済産業大臣表彰/藤本 俊幸(ふじもと としゆき)氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 研究戦略部 研究戦略部長

藤本俊幸氏の肖像

ナノテクノロジーの発展のために、計測と特性評価の国際標準化に貢献

 21世紀最重要の技術として期待される、ナノテクノロジー。ナノテクノロジーとは、ナノメートル(10億分の1メートル)、すなわち原子や分子のスケールで物質を自在に制御することにより、新素材やデバイスを開発し、産業に活かす技術のことだ。

2000年、米国クリントン政権が国家ナノテクノロジー戦略の中で「米国国会図書館の全情報を、角砂糖1個サイズのメモリーに詰め込む技術」というイメージしやすい例を挙げ、インパクトを与えた。このような新素材やIT、バイオといったさまざまな産業への活用が進むナノテクノロジーだが、技術の発展のためには、ナノレベルでの計量・計測技術が欠かせない。

産業技術総合研究所の藤本俊幸氏は、計量標準=「ものを測るものさし」の研究に携わりながら、ISO(国際標準化機構)では、ナノテクノロジーの計測と特性評価に関する国際規格の取りまとめを主導している。「研究が発展してナノ材料を使用した製品も市場に多く出回るようになり、ナノテクノロジーに関する国際的な合意を得るためにも、標準化が必要になった。」と藤本氏。

2005年、ISOにナノテクノロジーの専門委員会(TC229)が発足する。日本はカーボンナノチューブ製造のトップランナーであったこともあり、TC発足当初から主要なメンバー国として参加。我が国は、計測と特性評価に関するワーキンググループ(ISO/TC 229―IEC/TC113 /JWG 2)のコンビ―ナ(取りまとめ役)を担うこととなる。2011年からそのコンビーナを務めているのが、藤本氏だ。

ナノテクノロジーは、非常に広汎で分野横断的な技術のため、藤本氏が中心となって優先開発項目の整理に着手。どの分野から標準化を推進するか、各国の意見を調整しながら合意を取り付けた。現在の主要な分野は、ノーベル賞の対象にもなった新規物質グラフェン、多くの日本企業も産業利用に期待を寄せるナノセルロース、そしてナノ粒子の3つだ。

ナノ粒子に関しては、EC(欧州委員会)勧告「ナノ材料の定義」に端を発し、計測方法の標準化が不可欠となった経緯がある。欧州では、化粧品や食品など、利用者の健康への影響の懸念から、ナノ材料を含んだ製品を規制する動きがあった。例えば、ナノ材料を含む化粧品は表示が義務付けられている。「しっかり測れる国際規格ができることで、評価軸を与え、規制が進む欧州にも製品を輸出しやすくなる。」と藤本氏は語る。

国際会議(ISO/TC229(ナノテクノロジー) ― IEC/TC113(電気・電子分野の製品及びシステムのナノテクノロジー)/JWG2(計測と特性評価))での藤本氏

測れないものはつくれない、測れるところまで制御できる

 藤本氏は「ニーズあっての標準化」を強調する。しかし、コンビ―ナとしての苦労について「各国それぞれで欲しい規格が違うので、どういう形でまとめるかが大変なところ。」とも。また、ISO/TC229の設立当初、国を代表して参加するメンバーは藤本氏のように標準研究所の研究者が多かったが、最近は産業界からの参加者も増えてきている。「日本は国内審議委員会で意見を調整した上で国際会議に参加するが、他国では、同じ国を代表して来ているのに意見がまとまっていないことも。会議の最中に『細かすぎる。コストがかかって製造現場では使えない』と、同じ国同士で白熱した議論が始まる。」と苦笑する。

研究者サイドは、正確な値を出すために計測方法に強いこだわりを持つ。しかし、高額な計測装置や高い専門性が前提となり、産業界の現場で使えないようでは意味がない。そのため各国に対し、産業界の意見を反映できるエキスパートの出席を依頼することもある。「測る必然性があるものに対し、国際的に広く使ってもらえる測り方の規格を作ることがコンビ―ナの使命である。」と藤本氏は語る。

コンビ―ナとしての活躍のほか、藤本氏は専門とする研究分野でも積極的に標準化活動に関わっている。ISO/TC201(表面化学分析)/WG3(X線反射率法)にはエキスパートとして参加。薄膜の測定・解析手順の標準化で、日本の標準物質を用いた比較測定等を主導した。

さらに、当時解散されていたWG2の対象分析法(X線蛍光分析法)を包含する形で、分科委員会(SC)設立を企画し、TC201に新規SC10(X線反射率法及びX線蛍光分析法)を立ち上げた。協力関係にある他国のメンバーに議長になってもらい、藤本氏が国際幹事になることで、日本の意見をしっかり反映できる仕組みをつくっている。

藤本氏は「そもそも測ることが楽しい、理学系の人間だった。」と笑いながら自身を評する。ナノテクノロジーの標準化活動について、中国などでは若い研究者が積極的だが、日本はそうでもない。しかし、「標準化は非常にやりがいのある活動だ。『測れるところまで制御できる』というように、計測は技術の基盤をつくるもの。自分が出した成果を国際標準として皆に使ってもらえるのは、研究者冥利につきること。」と目を細める。日本の若い人にもぜひ国際規格づくりにチャレンジして、研究成果が世界中で標準として利用される感動を経験してほしい、とメッセージを贈る。

【標準化活動に関する略歴】
1993年 通商産業省工業技術院 物質工学工業技術研究所 入所
    (1999年 英国ケンブリッジ大学 客員上席研究員)
2001年 産業技術総合研究所 企画本部 企画主幹
2002年 同研究所 計測標準研究部門 先端材料科材料評価研究室 主任研究員
2005年 同研究所 先端材料科材料評価研究室長
2005年〜2011年 ISO/TC202(マイクロビームアナリシス)/SC3(分析電子顕微鏡)対応国内審議委員
2010年 同研究所 計測標準研究部門 主幹研究員
2010年~2016年 ISO/TC201(表面化学分析)/WG3(X線反射率法) エキスパート
2011年 同研究所 副研究部門長
2011年~現在 ISO/TC229(ナノテクノロジー) ― IEC/TC113(電気・電子分野の製品及びシステムのナノテクノロジー)/
        JWG2(計測と特性評価) コンビ―ナ
2015年 同研究所 計量標準総合センター 物質計測標準研究部門 研究部門長
2016年~現在 ISO/REMCO(標準物質委員会) 国内対策委員長
2016年~現在 VAMAS(新材料と標準に関するヴェルサイユプロジェクト) Steering Committee(運営委員会) 日本代表委員
2016年~現在 ISO/TC201/SC10(X線反射率法及びX線蛍光分析法) 国際幹事
2017年~現在 同研究所 計量標準総合センター 研究戦略部長
2017年~2019年 JIS Q 0033「認証標準物質の使い方」原案作成委員会 委員長
2018年~現在 JIS Q 0035「標準物質―認証のための一般的及び統計的な原則」原案作成委員会 委員長

最終更新日:2020年7月6日