革新的環境イノベーション

1. グリーンイノベーションに係る政府の動向

本年10月26日、第203回臨時国会において、菅総理より「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言された。梶山経済産業大臣は、総理所信表明演説を受け、記者会見において、「カーボンニュートラルへの挑戦は、日本の新たな成長戦略であり、あらゆるリソースを最大限投入し、経済と環境の好循環を生み出す」ことに言及した(図1)。

(図1) (左)所信表明演説を行う菅総理 (右)記者会見を行う梶山大臣

2. 2050年カーボンニュートラルに向けたグリーンイノベーションの方向性

2050年カーボンニュートラルを実現するためには、以下①~③を充分に意識して検討する必要がある。CO2排出削減のイメージは図2に示す通りである。

  1. 既存の技術を最大限に活用・普及を推進し、新たな技術の社会実装に重点的、計画的に取り組む。
  2. 省エネ、電化、電源の脱炭素化、水素化に加えても、化石燃料を使わない姿は現実的ではなく、CO2を回収・貯留するネガティブエミッション技術も重要である。
  3. 脱炭素化が難しい産業部門における技術・対策については、長期的な不確実性があるため、複数のオプションで取り組んでいく必要がある。

(図2) (公財)地球環境産業技術機構 秋元氏資料を簡略化

3. 重要分野の方向性

経済産業省、内閣府、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省、総務省は、カーボンニュートラルに向けた重要分野の方向性を、以下のように案としてまとめた。

水素分野の方向性

発電・産業・運輸など幅広い分野で活用される新たな資源と位置づけ、水素の「利用」、「貯蔵・輸送」、「製造」において、日本の産業が世界をリードできるよう、研究開発・実証の加速、制度整備を通じた社会実装の促進、国際連携に取り組んでいく。
【主な目標例:2050年にLNG以下のコスト水準を実現】

自動車・蓄電池分野の方向性

車の使い方の変革と合わせた電動車の普及、蓄電池の産業競争力強化を進めるため、研究開発・実証・設備投資支援、制度的枠組みの検討、標準化に向けた国際連携といった政策を総動員し、自動車の電動化を推進する。
【主な目標例: 2030年に乗用車新車販売に占めるEV・PHVの割合2~3割 】

カーボンリサイクル分野の方向性

カーボンリサイクルは、CO2を資源として有効活用する技術でカーボンニュートラル社会を実現するためのキーテクノロジー。CO2を原料としたコンクリートや燃料等について、研究開発・実証を通じたコスト低減、公共調達等も活用した社会実装を進め、グローバル展開を目指す。
【主な目標例: CO2吸収型コンクリートの価格を2030年には既存品と同等まで低減】

洋上風力分野の方向性

洋上風力は、再エネ主力電源化の鍵。国が導入見通しを示すことにより、大きな需要を創出。
こうした需要を呼び水とした風力産業の誘致とともに、国内サプライヤーの競争力を高め、強靱なサプライチェーンを構築する。更に、浮体式等の次世代技術のアジア展開を見据え、技術開発や国際連携に取り組んでいく。
【主な目標例:官民協議会を通じて、国は導入見通し、民間は国内調達率・コスト目標にコミット】

半導体・情報通信分野の方向性

グリーンとデジタルは車の両輪。エネルギー利用の効率化に向け、製造・サービスなどあらゆる分野でデジタル化、電化が必要。DXを推進するとともに、デジタル化・電化の基盤であるデータセンター、ハイパフォーマンスコンピューティング、5G、Beyond5G、光ファイバなどの情報通信インフラや、それらを支える半導体などの省エネ化、グリーン化、高性能化を支援する。
【主な目標例:2030年までに次世代パワー半導体の実用化・導入拡大】

航空機分野の方向性

世界的に航空機分野における低炭素化要求が強まりつつある中、軽量化、電動化、水素や代替燃料など複数の要素において、研究開発、技術実証、国際連携に取り組むことで我が国の技術的優位性を確立し、カーボンニュートラルに向けた航空機分野での取組を進めていく。
【主な目標例:2050年に、日本の技術や燃料を搭載したカーボンニュートラル航空機を普及させていく】

燃料アンモニア分野の方向性

カーボンニュートラルに向け、燃焼してもCO₂を発生しないアンモニアを火力発電への混焼等で活用するため、技術開発やサプライチェーンの構築を進める。さらに、制度整備や国際連携を通じた海外展開にも取り組んでいく。
【主な目標例:2030年までに石炭火力発電への20%のアンモニア混焼を実現】

革新的原子力分野の方向性

安定的なカーボンフリー電力の供給に加え、革新的原子力イノベーションによって、安全性・信頼性・効率性の一層の向上、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用といった多様な社会的要請に応えていく。
【主な目標例:2030年までに国際連携による小型モジュール炉技術の実証、2030年までに高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立、ITER活動・国際連携を通じた核融合R&Dの着実な推進】

船舶分野の方向性

ゼロエミッションの達成に必須となるLNG、水素、アンモニア等のガス燃料船等のエンジン、燃料タンク等の開発・実証等を推進するとともに、国際基準の整備を主導することにより、我が国造船・海運業の国際競争力の強化及び海上輸送のカーボンニュートラルを実現する。
【主な目標例:2028年までにゼロエミッション船の商業運航を実現、2050年までに船舶分野における水素・アンモニア等の代替燃料への転換完了】

住宅・建築分野の方向性

次の①・②を行う。
①新築住宅・建築物の断熱性能・省エネ性能の向上、LCCM(ライフサイクル全体(建築から解体・再利用等まで)を通してCO2排出量をマイナスにする)住宅・建築物やZEH・ZEBの普及促進、普及に資する評価方法の確立や、建築材料・施工技術・エネルギーマネジメント、革新的な技術の開発・実用化等の支援、将来のZEH・ZEB化を見据えた既存住宅・建築物の省エネ改修の促進、建材一体型等を含む太陽電池の導入やEV・蓄電池との連系等を進める
②先導的な設計・施工技術が導入される木造建築物の整備、中大規模木造建築物を担う設計者の育成に対する支援等を行う。
【主な目標例:①新築の住宅・建築物について、2030年度までに平均でZEH・ZEBを実現する。②2030年度に、560万t-CO2の吸収に貢献する。】

物流・人流分野の方向性

(調整中)グリーン物流、スマート交通、鉄道・港湾・空港分野でのGHG排出削減の取り組みや、交通モード横断的な取り組み等を総合的に進めていく。
【主な目標例:調整中 】

インフラ分野の方向性

インフラ分野のCO2排出量の削減を図るため、都市空間に存在する熱エネルギー(下水熱)を活用した地域冷暖房等の導入支援や、道路インフラにおける交通流対策、道路照明のLED化や再生可能エネルギー発電施設導入、電気・水素・バイオマス等の革新的建設機械の開発・普及促進等に取り組んでいく。
【主な目標例:2030年までに下水道における省エネ・再エネの推進によりCO2排出削減量を約134万トンとする】

資源循環分野の方向性

3R+Renewableを徹底することにより、廃棄物の排出削減やリサイクル処理に係るプロセスの高度化・効率化、製品のバイオマス化等を通じた資源循環を行うとともに、焼却せざるを得ない廃棄物のエネルギー回収、処理によって発生した温室効果ガスの分離・貯留・有効利用を行う。
【主な目標例:2050年に廃棄物分野における温室効果ガス排出量を実質ゼロとする】

ライフスタイル分野の方向性

カーボンニュートラルへの需要創出により技術の普及を促すため、ZEH、EV・FCV、再エネ等を組み合わせたトータルマネジメント等によるゼロカーボンシティの構築及びナッジ・デジタル・シェアリング等を通じた行動変容により、レジリエントで快適な脱炭素型ライフスタイルを実現するための技術開発・実証、導入支援、制度構築等を行う。
【主な目標例:2050年又はそれ以前に各家庭平均で脱炭素なエネルギーのプロシューマーへ転換】

食料・農林水産業・吸収源分野の方向性

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、資材原料・エネルギーの調達や、食料の生産から消費までサプライチェーンの各段階の取組により、持続可能な食料システムを構築する。このため、地産地消型エネルギーシステムの構築、スマート農林水産業等の加速的実装によるゼロエミッション化、農畜産業由来のGHGの削減、農地・森林・海洋における炭素の長期・大量貯蔵の技術等の確立、食料・農林水産物の加工・流通におけるロスの削減、持続可能な消費の促進など、生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させ、社会実装を拡大する。
【主な目標例:2050年までに農林水産業における化石燃料起源のCO2のゼロエミッションを実現】