第3章
 危機後の我が国の現状と進むべき方向性
第1節
 新たな世界に対応した我が国の将来像


1 我が国の経済概況
 世界経済危機後、我が国は輸出の急減により、深刻な打撃を受け、それゆえに、これからの我が国は輸出依存から抜け出し、内需拡大を進めるべきであるとの意見が多く見られた。しかし、輸出主導の経済であったこと自体が、深刻な影響をもたらしたわけではない。我が国の輸出構造には、産業や地域などの偏りがあり、こうした偏りが重なりあって、今回の経済の落ち込みにつながったものと考えられる。
 内需を伸ばしていくことが重要であることは間違いないが、人口減少が始まり、今後、市場の飛躍的な拡大が期待できない我が国にとって、内需拡大のためにも海外活力を取り込むことは不可避である。

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(1)長期低迷が続く我が国経済
〔1〕先行きが不透明な我が国経済
 我が国経済は、2008年秋以降の世界経済危機のあおりを受け、一時、大幅なマイナス成長に陥ったが、2009年第2四半期以降緩やかに回復してきている(第3-1-1-1図)。回復を主導しているのは、好調なアジア向け輸出による外需と家計消費である。しかしながら、家計消費の伸びをけん引したものは、減税等の政策が講じられた自動車や家電等の耐久財に限定されている(第3-1-1-2図)。雇用状況や所得を巡る状況が厳しい中、景気回復の自律性はなお弱い状況にある。
 
第3-1-1-1図 実質GDP成長率と需要項目別寄与度
第3-1-1-1図 実質GDP成長率と需要項目別寄与度
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第3-1-1-2図 形態別国内家計最終消費支出の推移
第3-1-1-2図 形態別国内家計最終消費支出の推移
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〔2〕中長期的に低下する我が国プレゼンス
 1990年代以降の経済状況を見ると、中国を始めとする新興国の著しい経済成長とは対照的に、我が国は1990年代半ば以降マイナス成長を経験するなど経済が停滞しており、これまで世界第2位で推移してきた我が国の名目GDPは2010年に中国に抜かれると予想がされている。世界に占める名目GDPのシェアも1994年には18%を占め、日米欧3極構造と言えるプレゼンスがあったが、2009年には9%にまで縮小し、中国とほぼ同規模となっている(第3-1-1-3図、第3-1-1-4図)。
 
第3-1-1-3図 主要国の名目GDPの推移
第3-1-1-3図 主要国の名目GDPの推移
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第3-1-1-4図 我が国が世界に占める名目GDPのシェア
第3-1-1-4図 我が国が世界に占める名目GDPのシェア

 また、一人当たり名目GDPについても2000年には世界第3位であったが、年々順位を落としており、2008年には、第23位にまで後退している1(第3-1-1-5表)。

1 2009年には第17位となっている。
 
第3-1-1-5表 我が国の一人当たり名目GDPの順位
第3-1-1-5表 我が国の一人当たり名目GDPの順位


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(2)長期低迷からの脱却に向けて
〔1〕海外活力の取り込みの重要性
(a)頭打ちとなる国内市場
 我が国の総人口は減少に向かっており、2005年の約1億2千万人から、2050年には1億人を下回り、約9千5百万人となることが予想されている(第3-1-1-6図)。また、かつて高いと言われていた貯蓄率も徐々に低下してきており、1980年に18%程度だった貯蓄率は2008年に2.3%となっている(第3-1-1-7図)。貯蓄率の低下は、高齢化が進行する中、定年を迎えた世帯における貯蓄の取り崩しなどによるところが大きく、消費水準の押し上げには結びついていない(第3-1-1-8図)。
 
第3-1-1-6図 人口推移
第3-1-1-6図 人口推移
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第3-1-1-7図 家計貯蓄率の推移
第3-1-1-7図 家計貯蓄率の推移
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第3-1-1-8図 消費水準の推移
第3-1-1-8図 消費水準の推移
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 このような我が国の状況にかんがみれば、国内市場は今後大きく成長することは望めないと考えられる。
 人口減少、貯蓄率の低下といった問題は、労働力、資本不足をもたらすため、我が国の消費地としての成長を制約するだけでなく、財・サービスの生産拠点としての成長をも制約することとなる。
 一方、世界全体の市場規模は拡大しており、IMF(2010)2によると、世界全体の名目GDPは1980年の11.8兆ドルから、2009年には57.9兆ドルと、約5倍に拡大している。また世界全体のGDPに占める貿易、投資比率も伸びており、海外資本の活用などグローバル化が急速に進展してきている(第3-1-1-9図)。

2 IMF(2010)”World Economic Outlook, Apr. 2010”
 
第3-1-1-9図 世界の貿易依存度と直接投資依存度
第3-1-1-9図 世界の貿易依存度と直接投資依存度
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(b)グローバル化がもたらす経済効果
 グローバル化が進展することによる経済的な効果については、近年、様々な研究が行われている。2009年1月、全米経済学会でJones & Romer3は近年の経済成長研究から得られた6つの定型化された事実を紹介している(第3-1-1-10表)。

3 Charles I. Jones and Paul M. Romer(2009)“THE NEW KALDOR FACTS:IDEAS, INSTITUTIONS, POPULATION, AND HUMAN CAPITAL”
 
第3-1-1-10表 経済成長をもたらした6つの定型化された事実
第3-1-1-10表 経済成長をもたらした6つの定型化された事実

 このうち、〔1〕はグローバル化が経済成長にとって重要であることを裏付けている。〔1〕は貿易や投資により、国内に限らず、なるべく多くの人、モノ、カネ、チエを取り込むことが成長につながることを意味している。〔2〕については人的資本重視の立場から、人が多ければそれだけチエが生まれる、という思想につながる。人口減少下にある我が国としては、人的資本の充実を図るためには海外の活力を取り込むことが有効と考えられる。
 近年、国内においても、我が国企業の海外展開と生産性の関係に焦点を当てた研究が多数行われている。輸出や対外直接投資を行うことが生産性向上につながるとの明確な結果は得られていないものの、個々の研究結果からは、総じて、海外展開が国内企業の生産性向上に寄与することを示す結果が得られている。我が国の電機機械産業における対外直接投資が、進出企業の国内における生産性に与える影響を分析した松浦他(2008)4では、直接投資を水平的直接投資と垂直的直接投資に分類5し、水平的直接投資は国内企業の生産性に大きな影響を与えていない一方、垂直的直接投資は、国内の生産性の水準に対しても、その成長率に対しても有意に正の影響を与えていることが示されている。

4 松浦寿幸、元橋一之、早川和伸(2008)「東アジアへの対外直接投資が国内の自国企業の生産性に与える影響 −電機機械産業の企業ミクロデータを用いた実証分析−」。
5 「水平的直接投資」は輸送コストなどの貿易障壁を回避する目的で相手国の市場に自国の経済活動を移転させる戦略であり、「垂直的直接投資」は相手国の安い労働力を求めて工場を海外に進出させるものである。

 我が国企業の直接投資・輸出と企業の生産性の関係を包括的に分析した若杉他(2008)6の中で、2001年度に輸出を開始した企業と輸出を開始しなかった企業の労働生産性の変化を示しているが、輸出を開始する以前の2000年度においてすでに輸出開始企業は輸出非開始企業よりも平均的に生産性が高く、その格差は年々拡大している。また、直接投資についても、同様の傾向が確認できる(第3-1-1-11図)。これらは、輸出及び直接投資が労働生産性を押し上げる効果があることを示唆している。

6 若杉隆平他(2008)「国際化する日本企業の実像 −企業レベルデータに基づく分析−」。
 
第3-1-1-11図 輸出(直接投資)開始企業と輸出(直接投資)非開始企業の労働生産性の変化
第3-1-1-11図 輸出(直接投資)開始企業と輸出(直接投資)非開始企業の労働生産性の変化
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 他方、企業の対外直接投資が拡大することで、国内の雇用機会の喪失、すなわち空洞化が進行する可能性も考えられるが、多くの実証研究はこの可能性を否定している。例えば、雇用面については、Ando & Kimura(2007)7やHijzen, Inui and Todo(2007)8において、我が国の対外直接投資が国内雇用に及ぼす影響を分析している。これらの研究結果によると対外直接投資を行う企業は、行わない企業と比べ、国内の雇用が増えるとの結果が得られている。

7 Mitsuyo Ando and Fukunari Kimura (2007) “International Production/Distribution Networks and Domestic Operations in terms of Employment and Corporate Organization: Microdata Analysis of Japanese Firms”
8 Alexander Hijzen, Tomohiko Inui and Yasuyuki Todo (2007) “The Effects of Multinational Production on Domestic Performance: Evidence from Japanese Firms”


〔2〕グローバル化のすそ野拡大に向けて
 このように、我が国にとって海外活力の取り込みが重要であることは明らかである。我が国の2002年以降の景気上昇期においても、輸出が経済をけん引していたのであり、我が国においてグローバル化は少なからず進展していた(第3-1-1-12図)。しかし、それにもかかわらず、我が国全体の経済成長は低いレベルで推移し続け、過去10年弱の間に世界経済におけるプレゼンスを著しく低下させてきた。では、一体我が国のグローバル化の何が問題であったのだろうか。前回の景気上昇局面及び世界経済危機後の景気下落で浮き彫りとなった我が国の弱点を受け止め、その弱点を克服することが我が国の持続的な成長を可能とするために必要なプロセスである。
 
第3-1-1-12図 我が国経済成長への輸出寄与度
第3-1-1-12図 我が国経済成長への輸出寄与度
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(a)グローバル産業の偏り
 世界経済危機により、我が国経済は欧米より大きな落ち込みとなったが、その大きな要因は輸出の減少であった。世界経済危機で世界貿易額が落ち込み、輸出減少による打撃を受けた国が多いことは事実である。しかしながら、輸出依存度が高い国ほど打撃が大きかったわけではない。輸出依存度の高さと今回の世界経済危機による経済成長との関係を確認すると、相関係数は−0.091となり、両者の間にほとんど相関が見られない(第3-1-1-13図)。
 
第3-1-1-13図 OECD諸国の輸出依存度と経済成長率の関係
第3-1-1-13図 OECD諸国の輸出依存度と経済成長率の関係
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 我が国経済が他国に比して大きな打撃を受けた背景には、輸出産業に偏りがあったことが考えられる。
 我が国においてグローバル化が進展している産業の特徴として、「大企業」、「自動車電気機械等製造業」、「消費財仕向地が欧米向け」が中心となっていることが挙げられる(第3-1-1-14図、第3-1-1-15図、第3-1-1-16図)。
 
第3-1-1-14図 大企業・中小企業別直接輸出企業の割合
第3-1-1-14図 大企業・中小企業別直接輸出企業の割合
 
第3-1-1-15図 我が国の輸出状況(2009年)
第3-1-1-15図 我が国の輸出状況(2009年)
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第3-1-1-16図 消費財の欧米向け輸出割合
第3-1-1-16図 消費財の欧米向け輸出割合

 我が国の輸出依存度は年々高まっているものの、各国と比較するといまだ低い状況にある(第3-1-1-17図)。また、上図の業種別輸出依存度のとおり、一部の業種が平均値を高めている一方、多くの業種は国内市場にとどまっている状況である。
 
第3-1-1-17図 各国の輸出依存度の推移
第3-1-1-17図 各国の輸出依存度の推移
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 また、戸堂(2010)9によると、我が国企業のうち、海外展開を行っていない企業の全要素生産性を見ると、中央値を上回る企業が多数存在する(第3-1-1-18図)。こうした企業を戸堂(2010)では「臥龍企業」と定義しており、中小企業に限定した場合にも同様の傾向を確認している。なお、中小企業庁(2010)10によると海外展開を行う中小企業の場合、「代表者に外国人の親しい友人がいる」、「社内に外国語を学び、外国語に一定の理解がある人がいる」と答えた企業が多い一方、海外展開を行っていない中小企業では、「海外との間に特段のつながりはない」と答えた企業が多く、中小企業の海外展開にあたっては、海外とのつながりを持つことが重要なきっかけとなっている(第3-1-1-19図)。

9 戸堂康之(2010)RIETIシンポジウム資料「臥龍企業の海外進出に向けて」。
10 中小企業庁(2010)『中小企業白書(2010年版)』。
 
第3-1-1-18図 臥龍企業の存在
第3-1-1-18図 臥龍企業の存在
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第3-1-1-19図 国際化中小企業及び非国際化中小企業の海外とのつながり
第3-1-1-19図 国際化中小企業及び非国際化中小企業の海外とのつながり

 世界的な景気変動への耐性を向上させ、成長できる経済を築くためには、これまで国内市場にとどまってきた業種や中小企業の海外展開の進展、また海外展開先の多様化の進展等グローバル化のすそ野拡大が期待される。

(b)外需成長から内需成長への結び付き
 これまでのグローバル化は、大企業中心、自動車等の製造業中心に行われている一方、国内の従業者状況は大企業に約3割11、製造業に約2割12となっており、多くの従業者はグローバル化が相対的に進んでいない、中小企業や非製造業に集中している。このことから国内にはグローバル化の恩恵を十分に受けていない企業が多数存在すると考えられる。

11 中小企業庁(2010)「中小企業白書(2010年版)」によると、平成18年10月時点における、大企業従事者は、1,229万人(約31%)、中小企業従事者は2,784万人(約69%)。
12 総務省「労働力調査」によると、平成21年の製造業従事者は1,073万人(約17%)、その他の非製造業従事者は5,209万人(約83%)。

 グローバル化のすそ野拡大は、世界経済危機への耐性度向上と共に、今まで海外展開が進んでいなかった産業の活性化・生産性向上・構造転換にも貢献し、グローバル化の恩恵が広く我が国に行き渡ることは、所得向上、ひいては内需拡大に寄与することが見込まれる。
 前回の景気回復では、好調な輸出にもかかわらず、国民の所得は伸び悩み、外需成長が内需成長に結びつかなかった。グローバル化のすそ野拡大はこうした問題を解決することが期待される。

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(3)対外経済関係の変化
 世界的な景気低迷を受けて、2009年の我が国の輸出入、対内・対外投資は全体的に縮小した。しかし、近年の貿易投資動向を見ると、規模の変化だけではなく、その中身も変わりつつある。第一に輸出から投資への移行、第二に新興国での需要拡大を受けて、我が国の輸出先としての新興国の比重拡大、第三に輸出産業の多様化の兆しなどが見られる。

〔1〕輸出から投資へ
 我が国の経常収支は世界経済の低迷を受け、2年連続で前年を下回った。経常収支は恒常的に黒字の状態が続いているが、その構造は貿易収支から所得収支へと比重が移ってきている。特に2008、2009年は輸出の落ち込みが大きかったことから、所得収支の黒字額が、貿易収支黒字額の3〜4倍と大きくなっている(第3-1-1-20図)13

13 所得収支が貿易収支を上回っている状況は、貿易よりも投資によって、海外から利益を得ていることを示している。
 
第3-1-1-20図 我が国の経常収支の推移
第3-1-1-20図 我が国の経常収支の推移
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 また、1991年以降世界第一位の規模にある我が国の対外純資産残高は、2006年頃から更に伸び始めており、2008年末には2.5兆ドルに上っている(第3-1-1-21図)。
 
第3-1-1-21図 主要国の対外純資産残高の推移
第3-1-1-21図 主要国の対外純資産残高の推移
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 輸出から投資への動きを、より具体的な統計で見てみる。
 1990年代から我が国製造業の海外生産が進展しており、2000年度に11.8%であった海外生産比率は2008年度には17.0%14となっている。製造業の中でも、特に輸送機械や情報通信機器などで海外生産比率が高くなっている一方、我が国の輸出上位3品目15である輸送用機器、電気機器、一般機械が我が国の輸出総額に占める割合は1994年の71.5%から2009年には59.6%と緩やかながら減少してきている。これは、海外生産が進展してきたことにより、我が国からの輸出分が現地生産に移行したことが一因として考えられる(第3-1-1-22図)。

14 経済産業省「第39回海外事業活動基本調査」より。
15 財務省貿易統計報道発表ベースの品目分類による上位3品目を指す。
 
第3-1-1-22図 輸出上位3品目の輸出割合
第3-1-1-22図 輸出上位3品目の輸出割合
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 海外生産が進展することで輸出額は減少するが、サービス収支の項目で特許等使用料の受取額が増加している。自動車等の海外生産にあたり、ライセンス収入の流入拡大を反映したものとなっている。今後アジア等での海外生産が進めば更に受取額が拡大することが予想される(第3-1-1-23図)。
 
第3-1-1-23図 我が国自動車の海外生産台数と特許等使用料受取額
第3-1-1-23図 我が国自動車の海外生産台数と特許等使用料受取額
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コラム17

輸出から投資へ

〈ケース1〉
 ヤマハチケミカル株式会社は愛知県蒲郡市に本社を構えている。10余年かけて開発した連続気孔材料16を用いた浸透印の製造技術で特許を取得しており、商談をリードできる新規事業の確立に成功した。

16 素材全体が、連続した微細な気孔で構成された通気性特殊材料

 フランクフルトメッセやペーパーワールドチャイナ等の著名展示会へ積極的に参加して自社商品を売り込み、ドイツ、ポーランド、ロシア、インド、香港等からの受注を獲得してきている。連続気孔材料を用いた浸透印は海外の文具や玩具のメーカーの注目を集め、商品力が海外市場を開拓し、輸出事業展開を推進したと言える。
 海外展開の重要性が増す中、同社は2001年に、人件費の占める割合が高い製造工程においてコスト削減を図り、最適な生産供給体制を構築するために中国に製造工場を建設した。中国の工場では自社のものづくり文化の教育等、現地人材の育成に5年以上かけている。当初は10人程度の規模で、連続気孔材料を基本材料に、製品化段階を担っていたが、その他の工程も中国で遂行可能な体制を目指していくとしている。
 
コラム第17-1図 海外における企業の取組事例等
コラム第17-1図 海外における企業の取組事例等


〈ケース2〉
 有限会社沖縄長生薬草本社は沖縄県南城市に本社を構える。薬草複合ブレンド茶を製造しており、現在大手飲料メーカーも参入する全国的な自然系ブレンド茶ブームの先駆け的存在である。
 2001年に、在米の日本食レストラングループ向け輸出を開始し、レストラン内での提供だけでなく缶による一般消費者向け販売も行っている。また、中国や香港に向けた輸出にも取り組んでおり、中国政府関係者の視察も受け入れた実績を持つ。
 中国では福建省に合弁会社を立ち上げており、中国事業は全てそこを通して展開している。中国での更なる販路拡大を目指し、FHC CHINA17への継続出展の結果、2008年には上海の企業とも総代理店契約を締結し、輸出事業を積極的に推進している。総代理店契約をしたことで、市場管理が可能になり、複数の会社に輸出して小売価格に差が生まれ、価格競争に陥る事態を防いでいると言える。

17 Food and Hospitality Exhibition in China。中国で最大の食品・飲料の専門展示・商談会で、中国市場における販路開拓を目指す農林水産物、加工食品、飲料等の製造業者が集まる。

 薬草複合ブレンド茶の開発と成功は新規参入を呼び込み、沖縄県内の健康食品産業の売上を急速に伸ばし、多くの雇用を生み出してきた。今後の世界展開に大きな期待が寄せられる。

〈ケース3〉
 一方、積極的な海外展開を行いつつも、簡単に投資に踏み切れないケースもある。
 江南特殊産業株式会社は自動車内装材のプラスチックを成型するための金型などを製造するメーカーである。ミクロン単位の小さな穴のあるポーラス電鋳を含め、世界トップレベルの電鋳技術を複数有している。その高い技術力は、国内自動車メーカーのみならず、GM、ルノーなど、海外の自動車メーカーでも採用されており、同社は1989年以降、カナダ、米国、モンゴル、タイ、韓国において現地法人あるいは合弁企業の設立を進めてきている。
 最近では、同社の高い技術力に目を付けた中国企業から合弁企業を設立したいとのオファーが頻繁に来ているが、そんな中、同社はジレンマに悩まされている。悩みの種は技術流出である。
 合弁企業設立を検討するにあたり、仮に同社が撤退を決めた場合のシナリオを中国側に尋ねたところ、手続きには5年くらいの年月を要し、同社の技術は全て中国側に持って行かれるとの感触を得たという。
 同社が合弁を組まなかったとしても、いずれ中国はヨーロッパなどから、同社が有するような高い技術を入手することが予想される。しかし、合弁により技術が流出してしまったら、取り戻すことはできない。
 著しく成長する中国市場は魅力も大きいが、リスクも大きい。同社は今、難しい判断に迫られている。

コラム18

ライセンスビジネス

〈ケース1〉
 株式会社イーベックは北海道札幌市に本社を構える、大学発バイオベンチャー企業である。北海道大学の遺伝子病制御研究所高田賢蔵教授が蓄積してきた研究成果を基に、欧米の特許に依存しない純国産技術を用いた「完全ヒト抗体」を開発している。
 2008年9月、ドイツ大手製薬メーカーのベーリンガーインゲルハイム社に抗体が認められ、5,500万ユーロ(当時の為替レートで約88億円)の契約一時金とマイルストーンペイメントと共に、製薬後は販売実績に応じたロイヤルティーを受け取る契約を締結した。
 我が国において特許がもたらす収入は年々拡大してきている。企業の現地進出に伴う部分も大きいが、このようなバイオベンチャー企業が欧米の大手製薬メーカーとライセンスビジネスを展開するケースが今後も期待されている。
 
コラム第18-1図 完全ヒト抗体作製法
コラム第18-1図 完全ヒト抗体作製法

〈ケース2〉
 株式会社生方製作所は、バイメタルスイッチや感震器を製造する名古屋市内の中小企業である。多くの製品が産業用であるため、消費者が同社製品を直接目にする機会は少ないが、同社製品は国内シェア80%以上を占めており、エアコンのコンプレッサーやガスメーターのほとんどに同社製品が使用されている。また海外においても米国の最大手メーカーとシェアを二分する強い競争力を持った企業であり、同社の売上の約8割が海外売上となっている。
 同社が圧倒的な競争力を持ち続ける背景には、高い技術力に加え、徹底した知財管理戦略がある。
 同社では、知的財産を経営戦略の要と位置付け、1957年の創業以来、1,000件以上の特許を出願している。1979年から海外展開を開始しており、出願特許の10〜20%については、米国や中国など海外でも出願している。「自社ブランドのつかない製品は、一歩たりとも社外に出さない」とのこだわりの下、小さな部品にも必ず同社の商標を刻印している。
 現在、中国寧波に合弁企業、独資企業をそれぞれ設立しているが、基幹部品の技術は徹底して本社内で守り抜くことで新たな競争相手の出現を阻む一方、社外に出て行っても同社の地位が脅かされるおそれのない技術については、中国の工場にも提供し、収入源として活かしている。
 このように同社は保有する技術をうまく使い分けることで、国内外で圧倒的なシェアを持ち続けているのである。

〔2〕拡大が進む新興国向け輸出
 我が国の貿易は、かつて輸出入ともに米国に大きく依存していたが、2000年代に入り中国向け貿易が急速に伸びている。中国で生産を行い、最終財を欧米に輸出、もしくは我が国に逆輸入するという東アジア生産ネットワークの構造により中国との輸出入が大きく伸びたことが要因と考えられる。
 2009年には、米国を抜き、中国が我が国の輸出先第1位となった(第3-1-1-24図)。
 
第3-1-1-24図 我が国の輸出先上位5か国・地域の推移
第3-1-1-24図 我が国の輸出先上位5か国・地域の推移
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 輸出先として伸びているのは中国だけでなくその他新興国も同様であり、我が国企業の新興国市場の獲得に向けた動きが表れているものと思われる(第3-1-1-25図)。
 
第3-1-1-25図 先進国向け輸出と新興国・途上国向け輸出の比率
第3-1-1-25図 先進国向け輸出と新興国・途上国向け輸出の比率

 他方で、新興国側の輸入状況を見ると、中国が輸出国として圧倒的な強さを示している。ロシア、中東、アフリカなど、数年前まで米国や欧州が最大輸入相手国であった国・地域で、中国が最大輸入相手国に入れ替わってきている。貿易面で中国が強さを示しているのは、米国、EU、豪州、日本など先進国においても同様である(第3-1-1-26表)。
 
第3-1-1-26表 中国からの輸出が世界を席巻
第3-1-1-26表 中国からの輸出が世界を席巻


コラム19

人民元の切り上げが我が国経済に与える影響

 中国の人民元の対ドルレートは、1994年の切り下げ以降、1ドル8.27〜8.28元付近でペッグされてきた。2005年から徐々に切り上げられ、2008年に金融危機が発生して以降は、業績が悪化した輸出企業を支援する面もあり、1ドル6.8元台に事実上固定されている。このレートは購買力平価とのかい離が大きく、経済実態と比べて元安になっていることが考えられる。
 
コラム第19-1図 中国の購買力平価(PPP)レートと為替レート
コラム第19-1図 中国の購買力平価(PPP)レートと為替レート
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 中国が人民元の切り上げを実施した場合、我が国経済への好影響と悪影響をまとめると以下のとおりである。
 
コラム第19-2表 人民元切り上げによる我が国経済への影響例
コラム第19-2表 人民元切り上げによる我が国経済への影響例

 また、人民元切り上げによる中国進出我が国現地法人への影響については、以下のような試算がある。製造業でマイナス、非製造業でプラス、全体としてややプラスの影響が出るとされている。中国において輸入比率が高く、輸出比率が低い業種ほど、また部材等の現地調達率が低いほど、増益となる傾向が確認できる。一般的には、素材型産業や非製造業は中国市場向け販売を意図して進出した企業が多いことから輸出競争力の減退は小さい。電気機械や一般機械等の組立加工型産業や繊維産業は、販売に占める輸出の割合が高く輸出競争力の低下が予想される。
 
コラム第19-3表 人民元切り上げによる我が国の中国現地法人への影響例
コラム第19-3表 人民元切り上げによる我が国の中国現地法人への影響例

 人民元の切り上げは、中国における輸出志向型産業の現地法人の競争力低下をもたらし、より賃金コストが低い国や地域への移転が必要となる可能性がある。一方で、人民元高は中国の購買力を増大させるため、中国への企業の進出は輸出志向から中国国内の内需志向になっていくことも考えられる。総合的に見れば人民元高は中国の内需拡大、経済規模拡大を促進し、中国経済の発展に応じた我が国企業の展開が求められていくことになるだろう。
 
コラム第19-4表 人民元10%切り上げによる我が国の中国現地法人への影響の試算
コラム第19-4表 人民元10%切り上げによる我が国の中国現地法人への影響の試算


〔3〕新たなる輸出産業成長への期待
 我が国の輸出は世界経済危機後に大きな打撃を受けたものの、中国を始めとする新興国需要に支えられ、再び回復し始めている。しかしながら、上述のとおり、従来の主要輸出品である自動車や電気機器などは海外生産への移行が見られている他、これら製品は中国、インドなど新興国メーカーによる製造も増えている。また、世界経済危機では価格弾力性の高い自動車の輸出が特に大きく落ち込んでおり、輸出産業が価格弾力性の高い品目に偏っていることによるリスクの高さが浮き彫りとなった。
 我が国からの輸出をさらに拡大していくためには、従来の輸出産業に加え、新たな輸出産業の出現が求められる。
 例えば、世界の医療機器市場は、市場規模が拡大している分野であり、2000年の1,600億ユーロから2005年には1,870億ユーロとなっているが、我が国の市場規模が世界に占める割合は15%から10%へと相対的に縮小している(第3-1-1-27図)。また我が国の医療機器・医薬品貿易では、輸入超過の状況が続いており、我が国市場も海外メーカーに奪われている状態となっている(第3-1-1-28図、第3-1-1-29図)。
 
第3-1-1-27図 世界の医療機器市場
第3-1-1-27図 世界の医療機器市場
 
第3-1-1-28図 我が国の医療機器貿易
第3-1-1-28図 我が国の医療機器貿易
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第3-1-1-29図 我が国の医薬品貿易
第3-1-1-29図 我が国の医薬品貿易
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 しかし、先進国のみならず、新興国においても医療は今後拡大が見込まれる分野である。医療機器、医療用品は2000年以降の我が国の最大の輸出相手国である米国向けの輸出の伸びが低調である一方、中国向け輸出の伸びが著しい(第3-1-1-30図)。また、世界経済危機で我が国の輸出が急減する中、医療用品18は落ち込みが見られていない(第3-1-1-31図)。景気変動の影響を受けにくい分野であることから、輸出産業として育っていくことが期待される。

18 ここでの「医療用品」とはHSコード30類に該当する品目を指し、医薬品を含む。
 
第3-1-1-30図 医療用機器、医療用品の地域別輸出動向
第3-1-1-30図 医療用機器、医療用品の地域別輸出動向
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第3-1-1-31図 医療用品の輸出状況
第3-1-1-31図 医療用品の輸出状況
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 医療以外ではロボット産業も今後需要の拡大が見込まれる分野である。現在、我が国で出荷されるロボットは、ほぼ全てが産業用であり、特に自動車、電気電子産業での利用が大半となっている。産業用ロボット(出荷台数ベース)では、我が国は世界の7割のシェアを維持している(第3-1-1-32図)。
 
第3-1-1-32図 世界の産業用ロボット出荷台数
第3-1-1-32図 世界の産業用ロボット出荷台数
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 産業用ロボットに加え、介護・福祉ロボットなどの生活支援ロボットなど、他分野でもロボットへのニーズが拡大している。国内ロボット産業は現在の7千億円から、2020年には2.9兆円、2035年には9.7兆円まで成長すると予測される19

19 平成22年4月23日経済産業省報道発表。経済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による推計。

 他国に先駆けて高齢化が進む我が国では、特に生活支援ロボットの需要が高まっている。我が国企業が、今後成長の可能性のある、生活支援ロボットを始めとした新たな分野に早期に参入することで、海外市場開拓に向けた国際標準の獲得など、将来の国際競争におけるアドバンテージを得ることが期待される。
 また、サービス分野では、近年我が国は観光立国となるべく、2010年の訪日外国人旅行者数1000万人を目指している。我が国の観光客数は2004年頃から急速に増加しており、2008年には835万人に達した(第3-1-1-33図)。世界観光機関によると、2008年の我が国への観光客数は1990年比で1.8倍となっているが、同期間の世界全体の観光客数の伸び率2.1倍には追い付いていない(第3-1-1-34図)。
 
第3-1-1-33図 我が国への訪日外国人旅行者数の推移
第3-1-1-33図 我が国への訪日外国人旅行者数の推移
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第3-1-1-34図 世界と我が国の観光客数
第3-1-1-34図 世界と我が国の観光客数
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 観光客数の増加による経済効果は、旅行業の他、運輸業、宿泊業、飲食業など、幅広い産業に波及することから、今後も更に我が国への観光客を拡大するため日本の魅力を積極的に対外的に発信していくことが重要と考えられる。

コラム20

医療分野における海外展開

〈ケース1〉
 ICST社は2004年に創業した従業員7名の企業であり、主にロシアに医療機器、健康機器の輸出を行っている。新興国における健康意識が高まる一方、未だ医療機器や健康機器が十分に供給されていないことに目を付けたビジネスであるが、新興国の中でも特にロシアでは平均寿命が短く、健康への意識が高いこと、また社長自身、創業以前に築いた人脈があったことから、現在主にロシアを市場として選んでいるのだと言う。
 新興国市場に参入する日本企業の問題として、オーバースペックであるため、コスト競争に勝てないことがしばしば指摘されるが、同社は中国メーカーが製造した製品を買い付け、ロシアに売る、という新しい発想により、ロシア新興国の中所得者層向けに売上を伸ばしている。
 製造拠点を中国や東アジア諸国に置くメーカーは多いが、同社は自前の製造機能を持たず、中国の既存製品を調達する。社長は同社立ち上げ以前に医療機器メーカーの研究者として働いていたことから、子会社で一から製品を作らなくても、社長の確かな目利き能力で、一定の品質を持った製品を選ぶことができるのである。ただし、中国の既存製品をそのままロシアに輸出するのではなく、ロシアのニーズに合わせて、一部デザインを改良する、あるいは自社ブランドのロゴを付けるなどの加工を施すことで付加価値を付けたり、新規開発を同社で行ったりすることでProduced by Japanを実現している。
 
コラム第20-1図 ICST社の行う三国間貿易
コラム第20-1図 ICST社の行う三国間貿易

 ロシアでは日本の技術力は非常に高く評価されており、日本ブランドで販売することで、そうした日本のイメージもうまく利用できている。
 このような三国間貿易は、良いビジネスパートナーを見つければ、ロシアに限らずどこの国にも適用できる。子会社を持つわけではないので、事業が拡大しても同社のリスクはそれほど拡大しないのである。
 新興国市場への新たな進出方法として医療機器分野以外での応用も期待される。

〈ケース2〉
 近年、再生医療の研究は各国で進められており、今後の医療において期待の高まる分野である。再生医療とは、自分自身あるいは他人の細胞を用いて、壊れた組織や臓器の再生を図る医療であるが、株式会社セルシードは、その再生医療の中でも日本初の「細胞シート工学」を基盤とした世界初の「角膜再生上皮シート」の事業化を目前に控えている。
 人間の目の一部である角膜上皮には新陳代謝を司る幹細胞20が存在しているが、病気や怪我などによりこの幹細胞が失われると、いずれ視覚障害などが起きてくる。このような疾患に対して、これまで様々な治療法が試みられてきているが、いまだに有効な治療方法が確立されていないという。

20 細胞の元となり得る細胞で、様々な細胞に分化し得る能力と細胞分裂を経てもなお分化し得る能力を併せ持つ細胞。

 同社が開発する角膜再生上皮シートは、これらの角膜疾患の治療を目指した製品であり、患者から採取した口腔粘膜上皮細胞(角膜上皮に良く似た性質を有する細胞)を原料として温度応答性細胞培養器材にて作製した細胞シート(角膜再生上皮シート)を患者の患部に移植して治療する。患者自身の口腔粘膜細胞を主原料としているため、免疫拒絶反応が起きる可能性が低いことに加え、両目が罹患している患者にも治療が可能な点が特徴である。
 この角膜再生上皮シートの最初の事業化地域として同社が選んだのは欧州であり、2008年10月、フランス・リヨンに子会社を設立した。フランス・リヨン国立病院における角膜再生上皮シートの治験は既に最終段階を迎えており、2010年中に終了する計画となっている。また、2011年の欧州30か国での角膜再生上皮シート販売に向け、既に製造委託先、販売提携先との契約も締結している。
 将来的には、欧州だけでなく、米国や日本でも角膜再生上皮シートの事業化を拡大させていく予定である。

コラム21

新たな分野に挑戦する中小企業

〈ケース1〉
 多数の中小企業が集まる東海地域では、2008年秋の世界経済危機以降、主力産業である自動車輸出の急減により、地域経済が大きく落ち込んだ。そうした中、生き残りを賭けて新たな分野に踏み出した中小企業がある。
 チームエコラボは、東海地域の自動車部品メーカー、建材メーカー、給排水設備会社など異業種の中小企業8社が集まって結成したものであり、今後のポテンシャルが高い環境分野での製品作りに取り組んでいる。従来のような下請け業務ではなく、自らプロデュースした環境製品、環境システムを世に送り出したいとの思いを持つ。
 現在、太陽光パネルをフェンスに取り付ける「ソーラーフェンス」、このソーラーエネルギーを利用してミストを発生させる「クールゲート」などクールシリーズ、LEDを利用した「エコライトビーム」などを製品化している。これらの製品は日本国内での販売を進めると同時に、海外への売り込みも視野に入れている。
 中国上海にある復旦大学日本研究センターは、現在建て替えが行われているが、この日本研究センターの一角にエコラボの製品が設置される予定である。中国の名門大学である復旦大学を卒業した学生には、将来、大企業や政府の要職に就く人も多く、学生時代にエコラボ製品を知ってもらうことの宣伝効果は大きいと考えている。また、同センターには日本からも多くの企業が訪れるため、日本国内向けの宣伝にもなる。
 2010年5月から開催されている上海万博の会場にも、暑くなる夏場に向けて「クールシリーズ」の設置を計画している。
 チームエコラボは中国以外にも電源事情が悪い開発途上国に太陽光パネル式電源装置「ソーラーステーション」の販売を目指している。
 
コラム第21-1図 チームエコラボの環境製品
コラム第21-1図 チームエコラボの環境製品

〈ケース2〉
 高知県食品工業団地内にある株式会社アミノエースは、食品工業団地の組合員企業が生産している焼鶏ガラスープやその関連商品等の販売を目的に、2006年7月に設立された企業である。扱う製品の多くは人用の食品であるが、近年増加する海外製ペットフードに対する不安の広がりから、国産ペットフードの需要が高まっていることに応えようと、ペットフードの開発・製造・販売への参入を開始した。
 高知県は温暖な気候に恵まれ、サツマイモや柚子などが採れる全国有数の農産地である。また漁業が盛んで、土佐沖で取れた新鮮な魚を使った練り製品の産地としても有名である。同社はこのような高知県の地域資源を活用してペットフードを製造している。また、これまで廃棄されていたサツマイモの皮やおからなどを有効活用したペットフードの製造も手がけている。
 同社の製品を各種展示会に出展したところ、食品メーカーが製造するペットフードとして注目を集め、その後、注文が拡大しただけでなく、OEM生産や新商品開発についての依頼が来るようになった。国産であることに加え、食品メーカーが提供するペットフードであるということが、同社製品の安全性への高い信頼につながっているものと考えられる。
 現在は、国内への出荷だけでなく、シンガポールを始めとするアジア諸国に輸出も行っており、売上はますます拡大している。

コラム22

サービス業の国際展開

 KUMONは、Kumon Methodという独自の学習法・教材を使った数学、英語、母国語などの教室をフランチャイズ展開している、我が国発の教育サービス企業である。1974年から海外展開を開始しており、海外在住の日本人の要望に基づいて教室を開設していたが、現地の子ども向けの現地人が運営する教室も次第に開設され始め、2010年3月現在、我が国を含む46の国と地域に教室を構えている。全世界の合計学習者数も、2010年3月末で、433万のうちの6割以上である288万が海外の学習者となっている。
 海外展開の難しさの1つは、文化、風習、意識の違いである。例えば、我が国では学校が出す宿題を自宅で学習することは慣習化しているが、宿題の概念がない国も存在する。家庭教育の大切さを説いているKUMONは、子どもたちに学習習慣をつけるために宿題を学習サイクルの中に組み込んでいるため、宿題の重要性を保護者に理解してもらうことが容易ではない。また、就労意識も国により異なるため、企業理念やKumon Methodの内容等の面で時間をかけて育成した人材が、短期間で転職してしまう事態も起こり得る。
 国によって法制度、教育制度が違うことも、海外展開を進めていく上でハードルとなる。例えば、インドのケースでは、2005年4月になって急に住宅地で全ての商業行為を行うことは違法との判断が最高裁判所から出され、教室として借りていたビルも対象となり退去せざるを得ない状態となった。法改正によって事業を取り巻く環境が激変する可能性も考慮に入れる必要がある。
 KUMONは、以上のような経験から、海外において安定した事業展開を行うために、地域に根ざした展開を心がけている。教育は国の根幹であるため、我が国発のKUMONが現地に根づき、信頼を得るために、現地の事情に詳しい現地人材を教室指導者に採用することや、その土地における文化・宗教上の習慣を尊重し、現地に適合させていくことを意識して事業を進めている。
 また、Kumon Methodの原則を外さないことも重要と考えている。現地の文化等を尊重する一方、子どもたちの学力を育てるために必要であると考えるKumon Methodの原則は、国・地域に応じて変えることはしない。例えば、KUMONでは、子どもの能力をはかる目安とするために、教材を学習した時間を学習者自身が計る。時間を計る習慣のない国でKUMONを展開した時に、時間を計る意味、それによって起こる効果について、子どもたちや保護者に対して説明を重ねた結果、自ら時間を計ることで子どもたちの自己管理能力が高まり、学習姿勢が変わり、学力も向上した。
 KUMONは「教育を通じて世界平和に貢献する」という夢を持ち、「世界のあらゆる国と地域で、Kumon Methodで学ぶ機会を提供し、学習者が夢や目標に向かって自分から学習している状態を目指す」というビジョンを持っている。KUMONでは、グループ内の従業員が課題別に価値観を合わせる場として、人材育成の責任者が集まる世界人財開発会議や、広報担当者による世界広報担当者会議等の場での情報共有の機会を設定しており、さらに、年に1度、世界中から教室指導者、社員が指導事例を共有するために集まる世界指導者研究大会、使用する言語が違う指導者同士が情報交換をするKUMON Global Forum等の開催に取り組んでいる。
 
コラム第22-1図 KUMON GLOBAL FORUMの様子
コラム第22-1図 KUMON GLOBAL FORUMの様子

 KUMONの数学教材の場合、設問文は言語別だが、国別の基準に合わせずに世界共通で問題が作成されているので、KUMONの教材を共通言語としてコミュニケーションすることができる。例えば、米国の教室の工夫例をシンガポールの指導者が取り入れたり、インドネシアの事例を改良して我が国の指導者が取り入れたりする。Kumon Methodという共通言語によって、国境を越えた創発が起こり、海外で改良されたサービスの工夫が、KUMON発祥の地である日本に還流する現象が起こりつつある。
 良い教育の享受といった、世界共通の普遍的なニーズに応えつつ我が国の魅力を海外に展開していく動きの活発化が期待される。

〔4〕輸入状況から見える我が国の課題
 近年の我が国輸入状況を見ると、資源価格の上昇に伴い、鉱物性燃料の輸入額が大きなシェアを占めるようになってきている(第3-1-1-35図)。2008年に高騰した資源価格は、その後一旦下落したものの、新興国の成長に伴い資源需要は拡大傾向にあるため、中長期的には資源価格は上昇していく可能性が高い。2009年度分の我が国の貿易収支は5兆2,340億円と黒字であったが、輸入数量と円ドル為替レートを同一として計算すると、原油価格111ドル/バレル21で貿易収支は約20億円の赤字となる。我が国にとって、資源価格高による交易損失は大きく、交易条件の改善が課題である(第3-1-1-36図)。そのための方策の一つとして、省資源型産業の促進などが考えられる。

21 2009年度は68.9ドル/バレル。(財務省「貿易統計」)
 
第3-1-1-35図 我が国輸入品目の推移
第3-1-1-35図 我が国輸入品目の推移
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第3-1-1-36図 我が国交易損失額と原油価格の推移
第3-1-1-36図 我が国交易損失額と原油価格の推移
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 一方、資源の輸入相手国を見ると、我が国は中東依存度を下げるべく輸入先の多様化を図ってきている。しかし、2009年の鉱物性燃料の輸入先の59.6%が中東諸国となっている。
 鉱物性燃料に比べ少ないが、食料品についても、輸入総額全体の4分の1を米国に依存した状況となっている(第3-1-1-37図)。
 
第3-1-1-37図 鉱物性燃料と食料品の輸入先(2009年)
第3-1-1-37図 鉱物性燃料と食料品の輸入先(2009年)

 資源や食糧など、国民の安全保障に直結した品目については、安定的な確保が望まれることから、輸入先の多様化が重要と考えられる。

〔5〕更なる投資パフォーマンス向上にむけて
 上述のとおり、我が国は世界第一位の対外資産残高を有しており、またその規模も拡大傾向にあることから、我が国にとって投資効率が重要性を増してきている。
 我が国の対外資産収益率は、米国や英国に比べ低い水準にあるが、対外資産の規模が大きい分、わずかな収益率の改善が、所得収支に大きな影響をもたらす(第3-1-1-38図)。
 
第3-1-1-38図 各国の対外資産収益率の推移
第3-1-1-38図 各国の対外資産収益率の推移
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(a)米国証券投資に集中する我が国対外資産
 我が国の投資状況を、対外資産の種別に見てみると、最も多くの資産が集中するのは証券投資となっており、2008年には全体の42%を占めている(第3-1-1-39図)。さらにこの証券投資を投資先別に分けて見ると、2003年に比べ2008年は北米向け、EU向けの比率は減っているものの、それでも約7割が欧米に向けられている。特に米国に全体の3分の1が集中していることが分かる(第3-1-1-40図)。
 
第3-1-1-39図 資産種別構成比(2008年)
第3-1-1-39図 資産種別構成比(2008年)
 
第3-1-1-40図 証券投資の投資先別構成比
第3-1-1-40図 証券投資の投資先別構成比


(b)直接投資
 対外資産の種別では低い割合ではあるものの、近年拡大傾向である直接投資について見てみると、対内、対外直接投資ともに、年々増加しているものの、対内直接投資は対外直接投資に比べると、相対的に少なく、各国との比較においても、我が国の対内直接投資残高は低い水準にある(第3-1-1-41図、第3-1-1-42図)。
 
第3-1-1-41図 我が国の対外・対内直接投資残高の推移
第3-1-1-41図 我が国の対外・対内直接投資残高の推移
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第3-1-1-42図 各国の対GDP比対内直接投資残高(2008年)
第3-1-1-42図 各国の対GDP比対内直接投資残高(2008年)


コラム23

対内直接投資

 日本ロバロ株式会社ひびき工場は福岡県北九州市にある、世界最大の旋回ベアリングメーカーでありドイツに本社を置くローテ・エルデ社の日本法人である。拠点別の生産量ではドイツが最大で、我が国と米国と中国が続く。アジアでは我が国と中国とインドに拠点があり、日本法人の活動範囲は我が国の他は韓国、東南アジアとなっている。大型旋回ベアリングの国内シェアが7割を占めている中、近年は新たなエネルギー資源である風力発電機用等に事業拡大を行っている。
 九州の魅力の1つに、インフラや情報等の観点からのアクセスの良さが挙がる。重量のある製品の特徴から、港湾が近いのは必須だが、人材が豊富なこと等が決定要因となった。地域社会における人材確保にも積極的である。
 今後は風力発電機用だけでなく、CTスキャン等の医療用機器といった新事業も手掛けていくことを計画しており、ドイツの技術と我が国の人材のマッチングに更なる期待が寄せられる。
 
コラム第23-1図 大型旋回ベアリング
コラム第23-1図 大型旋回ベアリング

 一方、対外直接投資については堅調な伸びを示しており、また、対外直接投資残高から得られる投資収益も高まっている。2000年から2004年にかけての4年間の年平均直接投資収益率は4.7%であったのに対し、2005から2009年にかけての4年間の収益率は、7.5%と上昇している(第3-1-1-43図)。
 
第3-1-1-43図 対外直接投資収益率
第3-1-1-43図 対外直接投資収益率

 しかし、我が国の対外直接投資残高と収益率を投資先の国・地域ごとに見てみると、投資先は米国、EUに集まっている一方、収益率はASEANや中国の方が高くなっており、効率的な投資と言い難い状況にある(第3-1-1-44図)。
 
第3-1-1-44図 我が国の投資先別の対外投資残高及び直接投資収益率の推移
第3-1-1-44図 我が国の投資先別の対外投資残高及び直接投資収益率の推移
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 他方、投資先の投資収益の変動リスクを国、地域ごとに見ると、ASEAN、中国、ブラジルなどの新興国・地域においても、米、EUよりは高いもののそれほど際立ったリスクの高さは見られない(第3-1-1-45図)。
 
第3-1-1-45図 日本の地域別対外直接投資のリスク・リターン特性
第3-1-1-45図 日本の地域別対外直接投資のリスク・リターン特性
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 それぞれの国、業種などにより投資環境は異なるが、成長地域、成長分野を捉え、必要に応じて投資先の振替を行うことも重要であると考えられる。

〔6〕海外展開に向けた企業の動向
(a)世界経済危機を経て多極化する海外展開
 世界経済危機後(2008年度決算期以降)、我が国企業の海外展開の方向性がどう変わり、今後(3年間程度)の見通しをどう見ているのかについて、財団法人国際経済交流財団のアンケート調査から確認する。
 経営パフォーマンスについては、世界経済危機の影響を受け著しく悪化していたが、今後の見通しについては復調傾向にある(第3-1-1-46図)。また、現在の海外売上高の大きい国・地域と今後、売上高の拡大が見込まれる国・地域を見ると、北米については、今後も売上拡大が見込まれるとしている企業も多いものの、欧州と共に今後の売上拡大の期待は大きくない。一方、中国、ASEANは、今後も引き続き、売上拡大が見込まれるとする企業は多く、また、インドを北米同様に売上拡大が見込まれる国とする企業が多い(第3-1-1-47図)。我が国企業は、国内市場の成熟化と低迷に加え、世界経済危機による欧米市場の需要縮減と回復の遅れから、利益を確保できる欧米市場の重要性を再認識しつつも、今後の売上規模拡大が期待される新興国へとターゲットを多極化する企業の動向が見られる。
 
第3-1-1-46図 我が国企業の世界経済危機前後の売上・利益の変化
第3-1-1-46図 我が国企業の世界経済危機前後の売上・利益の変化
 
第3-1-1-47図 我が国企業の現在と今後の売上高推移見込み
第3-1-1-47図 我が国企業の現在と今後の売上高推移見込み

 また、我が国企業の新興国市場における所得階層別のターゲットについてみてみる。世帯可処分所得が5,000ドル以上15,000ドル未満の下位中間層、15,000ドル以上35,000ドル未満の上位中間層をターゲットとする企業が、現在と今後でそれぞれ、32.6%から34.6%、15.8%から26.0%へと上昇しており、将来的に中間層を志向する我が国企業の傾向が伺える(第3-1-1-48図)。中間層は新興国で急速にその規模を拡大しており、2009年15.4億人の新興国22中間層(可処分所得:5,000ドル以上35,000ドル未満)人口は、2020年には28.6億人となると推定される(第3-1-1-49図)。

22 ここでは、新興国のデータについて、経済規模、データ制約を考慮し、以下27の国・地域を対象としている。中国、香港、韓国、台湾、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピン、パキスタン、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ロシア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア。
 
第3-1-1-48図 我が国企業の新興国市場におけるターゲット所得層
第3-1-1-48図 我が国企業の新興国市場におけるターゲット所得層
 
第3-1-1-49図 新興国の中間層推移
第3-1-1-49図 新興国の中間層推移
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 一方、上位中間層(15,000ドル以上35,000ドル未満)及び富裕層(35,000ドル以上)を志向する企業は、今後も現在と変わらず高い割合を示している。将来的に我が国企業が得意と考えられる上位中間層、富裕層をターゲットから捨て去るわけではなく、それらを着実に押さえた上で、下位中間層も含めて多様な組合せによるベストミックスを志向しているものと考えられる。なお、富裕層は、2020年に先進国23市場で規模として約6億人、新興国市場でも約5億人に増加すると見込まれる(第3-1-1-50図)。

23 ここでは、G7の以下7か国を対象としている。米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリア、日本。
 
第3-1-1-50図 先進国(G7)及び新興国の富裕層の推移・見通し
第3-1-1-50図 先進国(G7)及び新興国の富裕層の推移・見通し


(b)製造拠点展開からマーケット開拓へ
 新興国市場の開拓に向けた対応状況をみると、現在、海外展開をしている企業のうち、70%以上は積極的な意図をもって新興国市場に進出をしている(第3-1-1-51図)。
 
第3-1-1-51図 我が国企業の今後成長が見込まれる新興国市場の開拓に向けた対応
第3-1-1-51図 我が国企業の今後成長が見込まれる新興国市場の開拓に向けた対応

 現在の直接投資先としては、「中国」、「ASEAN」、「北米」が多いが、今後の新規投資先としては、「ASEAN」、「中国」に加え、「インド」を挙げる企業が多い(第3-1-1-52図)。
 
第3-1-1-52図 我が国企業の直接投資先
第3-1-1-52図 我が国企業の直接投資先

 新興国・地域への直接投資の目的は、「新興国の現地拠点から当該国内での販売・サービス提供」が55.9%と半数以上を占め、次いで「新興国の現地拠点から日本への輸出」が18.3%となっている(第3-1-1-53図)。これまで、新興国市場への事業展開は、製造業の調達・製造拠点として機能することが多かったが、現在は、現地市場のマーケット開拓を目的とするようになっている。
 
第3-1-1-53図 我が国企業の新興国・地域への直接投資の目的
第3-1-1-53図 我が国企業の新興国・地域への直接投資の目的


(c)内需型企業の海外展開
 また、従来の自動車、電機等の外需型企業に加え、食品、小売、サービス等、従来、内需型と考えられてきた企業も外需獲得に向け、海外事業展開を積極化してきている。平成20年海外事業活動基本調査によると、非製造業の現地法人数は、2002年度から2007年度にかけて2,000社以上増加(31.4%増)していることがわかる(第3-1-1-54表)。また、財団法人国際経済交流財団のアンケート調査において、非製造業の海外売上高比率推移を確認しても、製造業の伸び率には及ばないが、1990年から増加しており、非製造業による海外展開が着実に進展していることがわかる(第3-1-1-55図)。
 
第3-1-1-54表 我が国非製造業 業種別海外現地法人分布
第3-1-1-54表 我が国非製造業 業種別海外現地法人分布
 
第3-1-1-55図 我が国製造業・非製造業別の海外売上高比率推移
第3-1-1-55図 我が国製造業・非製造業別の海外売上高比率推移


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