第1章 世界経済の現状と課題

第1節 回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済

3.中国経済の現状と課題

(1)世界経済をけん引する中国経済の現状

1. 世界経済における中国の存在感の高まり

世界経済危機後、多くの先進国が深刻な不況に陥った中で、中国経済はその影響からいち早く脱し急回復を遂げ、世界経済回復のけん引役となった。2010 年、中国の名目GDP は5 兆9,000 億ドルと我が国(5 兆5,000 億ドル)を上回り、米国に次ぐ世界第2 位となった(第1-1-3-1 図)。中国の名目GDP は、改革開放の始まった1978 年にはわずか3,645 億元にすぎなかったが、その後30 年間に渡る高成長を経て、「世界の工場」へ、さらには巨大かつ成長率の高い「世界の市場」へと大きくその姿を変容させており、2010 年は実にその110 倍の39 兆8,000 億元(5 兆9,000 億ドル)と世界全体の9.5%を占めるに至っている。貿易面においても、1978 年にはわずか約200 億ドルだった貿易総額が、2010 年には約150 倍の約3 兆ドルにまで拡大し、輸出額では世界第1 位、輸入額では世界第2 位となっており(第1-1-3-2 表)、世界経済における中国の存在感は急速に高まっている。

第1-1-3-1図 名目GDP の世界上位3か国の推移
第1-1-3-1図 名目GDP の世界上位3か国の推移

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第1-1-3-2表 世界の輸出額・輸入額ランキング(2010 年)
第1-1-3-2表 世界の輸出額・輸入額ランキング(2010 年)

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2. 2010 年の中国経済

(a)GDP と各需要項目関連指標の動向

2008 年末〜 2009 年初にかけて世界経済危機の影響を受けて減速した中国経済は、2009 年第1 四半期を谷として回復傾向を強め、2010 年の実質GDP 成長率は、前年比10.3%と、2007 年以来、3 年ぶりとなる2 桁成長を達成した(第1-1-3-3 図)。需要項目別寄与度は、「最終消費」が3.9%ポイント、「資本形成」(投資)が5.6%ポイント、「純輸出」が0.8%ポイントであり、引き続き「資本形成」(投資)主導型の成長となった。

第1-1-3-3図 中国の実質GDP 成長率及び需要項目別寄与度の推移
第1-1-3-3図 中国の実質GDP 成長率及び需要項目別寄与度の推移

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各需要項目の動向を関連指標から見ると、投資に関しては、全社会固定資産投資の約9 割を占める都市部固定資産投資が前年比24.5%増加した62。「4 兆元」内需拡大策63 の実施により大きく伸びた2009 年の伸び(同30.4%)は下回ったものの、引き続き高い水準を維持した。産業別にみると、「4 兆元」内需拡大策が2年目に入ったこともあり、公共投資との関連が強い「インフラ建設」が減速した一方、「不動産」は高い伸びを続けた(第1-1-3-4 図)。

第1-1-3-4図 中国の都市部固定資産投資(産業別)の伸び率及び寄与度の推移
第1-1-3-4図 中国の都市部固定資産投資(産業別)の伸び率及び寄与度の推移

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消費に関しては、社会消費品小売総額(小売売上高)が前年比18.4%増加した64。品目別に見ると、消費刺激策65 の影響により、小売販売額66 の約3 割を占める「自動車」の伸びが全体をけん引した(第1-1-3-5 図)。また、自動車と同様に消費刺激策の対象である「家電」についても高い伸びを示した67。2010 年は消費刺激策の効果が極めて大きく現れた年であった。第1 節1.で見たとおり、自動車販売台数は、前年比32.5%増加の1,804 万台と2 年連続で世界第1 位となった。また、「家電下郷(農村部の家電販売補助)」の対象製品の販売台数は7,718 万台と前年から2.3 倍、販売額は1,732 億3 千万元と同2.7 倍増加した68。消費は、雇用の改善及び所得の増加によっても下支えされたと考えられる。雇用に関しては、都市部登録失業率が4.1%と前年比0.2%ポイント改善した69。所得に関しては、都市部の一人当たり可処分所得と農村部の一人当たり純収入が共に増加したが、農村の所得の伸び率が、賃金性収入と農業純収入の大幅増により、1997 年以降、初めて都市部を上回った70(第1-1-3-6 図)。

第1-1-3-5図 中国の小売販売額(品目別)伸び率の推移
第1-1-3-5図 中国の小売販売額(品目別)伸び率の推移

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第1-1-3-6 図 中国の農村部、都市部の所得伸び率の推移
第1-1-3-6 図 中国の農村部、都市部の所得伸び率の推移

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外需に関しては、輸出額の約6 割、輸入額の約5 割を占める「機械・電気」、輸入額の約1 割を占める「原油」が増加したこと等により、輸出入額ともに過去最高額となった71(第1-1-3-7 図)。なお、輸入額の伸びが輸出額の伸びを上回ったために、貿易黒字額は減少した。

第1-1-3-7 図 中国の貿易収支の推移
第1-1-3-7 図 中国の貿易収支の推移

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貿易動向を相手国・地域別にみると、EU と米国に対しては大幅な貿易黒字、日本、韓国、台湾に対しては大幅な貿易赤字となっており、東アジアから部品・中間財を調達し、完成品を先進国へ輸出する加工貿易基地としての役割は続いているとみられる(第1-1-3-8 図)。2010 年は、アジアや新興国との貿易総額が大幅に増加したのが特徴的であり、日米欧との貿易総額が前年比で3 割前後の増加であったのに対して、ASEAN、台湾、インド、豪州、ブラジルとの貿易総額は同4 〜 5 割増加した(第1-1-3-9 図)。このような背景として、ASEAN とは、2010 年1 月にFTAが本格発効したことや台湾との「経済協力枠組み協定(ECFA)」により2011 年1 月から双方の関税が引き下げられたことなどが挙げられ、中国は積極的に成長力のあるアジアや新興国との関係強化を図っているとみられる(第1-1-3-10 図)。

第1-1-3-8図 中国の相手国・地域別貿易収支の推移
第1-1-3-8図 中国の相手国・地域別貿易収支の推移

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第1-1-3-9図 中国の相手国・地域別貿易総額(上位10 か国・地域)の推移
第1-1-3-9図 中国の相手国・地域別貿易総額(上位10 か国・地域)の推移

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第1-1-3-10 図 中国の経済連携取組状況
第1-1-3-10 図 中国の経済連携取組状況

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また、貿易動向を「加工貿易」72 と「一般貿易」に分けて見てみると、 2010 年は「加工貿易」の貿易黒字が拡大した一方、「一般貿易」の貿易赤字が拡大した(第1-1-3-11 図、第1-1-3-12 図)。「一般貿易」の輸入増加には、資源等の価格上昇の影響もあるものの、国内需要の拡大が背景にあると考えられる。中国の輸出入額に占める加工貿易比率を見ると、2010 年は、輸出額と輸入額ともに前年と比べて低下しており(第1-1-3-13 図)、中国の加工貿易の主な担い手である外資系企業の輸出入額比率も2006 年をピークに低下傾向にある73(第1-1-3-14 図)。

第1-1-3-11 図 中国の加工貿易収支の推移
第1-1-3-11 図 中国の加工貿易収支の推移

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第1-1-3-12図 中国の一般貿易収支の推移
第1-1-3-12図 中国の一般貿易収支の推移

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第1-1-3-13図 中国の総輸出入額に占める加工貿易比率の推移
第1-1-3-13図 中国の総輸出入額に占める加工貿易比率の推移

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第1-1-3-14図 中国の総輸出入額に占める外資系企業比率の推移
第1-1-3-14図 中国の総輸出入額に占める外資系企業比率の推移

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64 中国国家統計局による。

65 政府は「4 兆元」内需拡大策とは別に、消費刺激策として、農村部の消費者が家電を購入した際に13% の補助金を支払う「家電下郷」の全国展開(2009年2月〜 2013年1 月)、家電を買い換えると補助金を支給する「以旧換新」(2009年6 月〜 2011年末)、農村部の住民がオート三輪や旧式トラックを廃車にして、軽トラックやマイクロトラックに買い換える際や商用車・オートバイを購入する際に補助金を支給する「汽車下郷」(商用車:2009 年3 月〜 2010 年末、オートバイ:2009 年3 月〜 2013 年1 月)、小型の低燃費車購入に対する補助金支給2010 年6 月〜)等を実施している。なお、排気量1.6L 以下の乗用車に対する車両取得税の減税(通常10% の税率を2009 年中は5%、2010年中は7.5% に引下げ)、自動車の買換促進策である「以旧換新」については、2010年末に終了したため、期限切れ前の駆け込み購入もあったものと思われる。

66 年間売上高500万元以上の企業の小売販売額。

67 2010年の小売販売額に占める「家電」の比率は7.0%。

68 中国商務部による。なお、販売額を品目別で見ると、第1 位は冷蔵庫、第2 位はカラーテレビであり、上位2 品目で全体の61% を占めた。

69 中国人力資源・社会保障部による。なお、都市部登録失業者数は、2009年の921 万人から2010年は908 万人に減少した。

70 中国国家統計局によれば、2010 年の農村部の賃金性収入は17.9% 増えて増加幅は前年より6.7 ポイント拡大し、増収への寄与度は48.3%に達した。また、農民1 人当たりの農業純収入は、穀物、野菜、綿花など主要農産物価格の急騰を受けて15.1% 増えて増加幅は前年より10.1 ポイント拡大した。農民の低所得層、中低所得層、中所得層、中高所得層、高所得層の1 人当たり純収入はそれぞれ20.7%、16.4%、16.0%、15.0%、14.0% 増え、高・低所得層の比率は前年の8.0:1 から7.5:1 に縮小した。都市住民の1 人当たり可処分所得はそれぞれ13.1%、13.0%、11.8%、10.3%、9.9% 増え、高・低所得層の比率は前年の5.6:1 から5.4:1 に縮小した(新華網ニュース2011年2 月9 日付)

71 中国海関総署によれば、2010 年の「機械・電気」の輸出額は前年比30.9% 増加、輸入額は同34.4% 増加した。「原油」の輸入額は同51.4%増加した。

72 加工貿易額は、委託加工組立貿易額と輸入加工貿易額の合計値。中国では、海外から調達した部品・中間財を使用して国内で加工・組立を行い、完成品を海外に出荷するという「加工貿易」が貿易構造の基軸をなしている。加工貿易の輸出額は総輸出額の約5 割、加工貿易の輸入額は総輸入額の約3 割を占めている(2010年ベース)。

73 エネルギー消費量の多い製品や技術水準の低い製品の輸出を抑えるために、中国政府は2006 年9 月以降、加工貿易を抑制してきた。世界経済危機後は、政府がその影響を考慮し、加工貿易規制を一時的に停止する等の措置を行ってきたが、2010年11月、政府は省エネルギー・汚染ガス排出削減の要求に基づき、熱延鋼板など44 品目を新たに加工貿易禁止品目に追加した(2010 年11 月時点の加工貿易禁止品目数は計1,803品目)。なお、2010年3月の国務院政府活動報告では「外資の利用構造の最適化に取り組み、外資が先端製造業、ハイテク産業、現代サービス業、新エネルギー、省エネ・環境保護産業に投下されるように奨励する」とされている。


(b)労働市場の変化

2010年は、沿海部の外資系企業工場を中心に、賃上げや待遇改善を求めるストライキが中国各地で発生した。背景には、労働力不足、管理職等と農民工74間の報酬格差、2008年に施行された労働契約法等による労働者の権利意識の向上、「新世代農民工」の登場による意識の変化、住宅費等生活価格の上昇等が挙げられる。「新世代農民工」とは、主に「80後(1980年代生まれ)」以降の農民工を指す。現在国内で出稼ぎに出ている農民工1億5千万人のうち、新世代農民工は約1億人と、全体の約7割弱を占めており、従来の農民工に比べて学歴が高い75。農民工になる目的も「お金を稼ぐ」から、「自己を鍛えるため」、「技術を身につけたい」等、経済的要因から非経済的な要因に重要性が移行している76

中国では、戸籍制度や土地制度によって都市と農村が分断されていることにより、都市と農村の格差が大きい。農村では物価が極めて安く、都市の水準では低賃金であっても、それを農村で使えば十分高賃金となるため、農民工には働くインセンティブが存在した。こうした中国独特の都市農村分断制度の存在が、極めて低賃金で無尽蔵の「農民工」という中国独特の存在を生み出し、低賃金労働集約型輸出産業を支え、中国経済の初期の発展を支えたのである。しかしながら、こうした構造はもはや継続困難となってきている。中国の名目GDP に占める総賃金の割合は改革開放以来大きく低下してきたが、最近になり上昇傾向に転じており、こうした労働構造が現在、大きな転換点に来ていることをうかがわせる(第1-1-3-15 図)。

第1-1-3-15 図 中国の名目GDP に占める総賃金の割合の推移
第1-1-3-15 図 中国の名目GDP に占める総賃金の割合の推移

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実際、2010 年は、平均賃金、最低賃金ともに大きく上昇した。平均賃金の伸び率は、2009 年第4 四半期の前年同期比9.9%から、2010 年第3 四半期には同15.7%に上昇した(第1-1-3-16 図)。最低賃金は、中国本土に31 ある省・直轄市・自治区のうち30 か所が法定最低賃金を引き上げ、2010 年の平均引上げ率は約24%となった。「第12 次5 か年計画(2011 〜 2015 年)」(以下、「十二五」)では、所得拡大について、年平均伸び率を前5 か年計画期の5%から7%以上に引き上げている(「本項(2) 2.量的拡大より質的充実を目指す「第12 次5 か年計画」」参照)。最低賃金についても、年平均13%引き上げることが目標に掲げられており、中国における賃金上昇はトレンドとして定着する可能性が高い。

第1-1-3-16 図 中国の平均賃金の推移
第1-1-3-16 図 中国の平均賃金の推移

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労働需給もひっ迫している。2010 年第1 四半期の求人倍率は1.04 倍となり、2001 年以降、初めて求人数が求職者数を上回った(第1-1-3-17 図)。求人倍率の動向を職種別に見ると、労働需給のひっ迫は、工業労働者の多い「生産運輸設備作業者」で特に顕著であったが、背景には、政府の「4 兆元」内需拡大策や再開発事業により、沿海部・都市部だけではなく地方でも工場労働者の需要が高まったことがあると考えられる。求人倍率の推移を地域別に見ると、2010 年は、東部(沿海部)だけではなく、中部や西部など内陸部でも求人倍率が上昇した(第1-1-3-18 図)。

第1-1-3-17図 中国の求人倍率(職種別)の推移
第1-1-3-17図 中国の求人倍率(職種別)の推移

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第1-1-3-18図 中国の求人倍率(地域別)の推移
第1-1-3-18図 中国の求人倍率(地域別)の推移

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中国では、1979 年から一人っ子政策が実施された影響もあり、総人口に占める「15 〜 24 歳」及び「25〜 34 歳」人口の割合が低下する一方、「45 〜 64 歳」及び「65 歳以上」人口の割合は上昇している(第1-1-3-19 図)。労働需給は景気の動向にも影響を受けるものの、こうした少子高齢化の進展により、今後も労働需給のひっ迫が続く可能性がある。こうした中で、中国は、労働集約型産業から、高付加価値産業、技術集約型産業に資源を移行する形で、産業の高度化を加速させていくものと思われる。

第1-1-3-19 図 中国の総人口に占める各年齢層(シェア)の推移
第1-1-3-19 図 中国の総人口に占める各年齢層(シェア)の推移

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74 農村戸籍のまま、工業や建設業、販売業等の非農業分野で働く労働者。中国国家統計局によれば、2009 年の農民工の総数は2.3 億人(全就業者数の約3 割)、うち出稼ぎ労働者は1.5億人。

75 出稼ぎに出ている農民工の中で、高卒以上の学歴を持つ者の比率をみると、全体では23.5% であるのに対して、30 歳以下では26% 以上、その中でも21から25歳の年齢層では31.1% と高くなっている(中国国家統計局(2010)「2009年農民工観測調査」)。

76 鈴木貴元(2010)「中国で強まる工場労働者の賃上げ圧力」(『みずほアジア・オセアニアインサイト』2010年8 月6 日号、みずほ総合研究所)。


3. 2011 年の最優先課題はインフレ抑制

中国経済は、政府による大規模な経済対策や金融緩和策の実施もあり、世界経済危機後に急速な回復をみた。しかしながら、こうした政策を長期に継続することはできず、景気の過熱感の高まりや、不動産バブル懸念(第1-1-3-20 図)、地方政府関連企業の債務拡大77、過剰生産能力等、様々な問題をもたらした。このため、2010 年は、政府は景気過熱の抑制やこれら諸問題に対する政策対応に追われることとなった。中国人民銀行は、2010 年以降、金融引締めを実施している(第1-1-3-21 図)。政府は不動産取引抑制策を打ち出し78、地方政府関連企業に対する管理強化を図り79、一部業種の生産能力過剰に対する指導を強めている80。こうした政策の効果等もあり、中国の景気の拡大テンポは、2010 年半ば頃から緩やかな低下傾向を見せた。しかしながら、2010 年秋頃から、インフレ率が上昇し、不動産価格が再上昇に転じたことから、景気過熱に対する警戒感は再び高まっている。

第1-1-3-20 図 中国の主要70 都市不動産価格指数の伸び率の推移
第1-1-3-20 図 中国の主要70 都市不動産価格指数の伸び率の推移

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第1-1-3-21 図 中国の金融政策の推移
第1-1-3-21 図 中国の金融政策の推移

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こうした景気過熱の背景には、過剰流動性の存在がある。2010 年の新規貸出純増額は7.95 兆元と、前年(9.59 兆元)よりは減少したものの、2010 年の政府目標額7.5 兆元を上回った(第1-1-3-22 図)。マネーサプライ(M2)も72.6 兆元と、前年末比19.7%増加した。マーシャルのK(M2 /名目GDP)は傾向線を上回る水準で推移しており、経済規模に比して資金供給量が過剰であることを示唆している(第1-1-3-23 図)。また、経常収支黒字の拡大と資本・金融収支の拡大により、2010 年末の外貨準備高は、世界最高の2.85 兆ドルに達した(第1-1-3-24 図)81。外貨準備高は、その後も増加を続け、2011 年3 月末には3 兆ドルを突破している。このように外貨流入が大幅に増大する中で、人民銀行は、人民元相場水準をコントロールするために為替介入を実施しており、金融市場には大量の流動性が供給されている。

第1-1-3-22 図 中国の新規貸出純増額の推移
第1-1-3-22 図 中国の新規貸出純増額の推移

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第1-1-3-23図 中国のマーシャルのK の推移
第1-1-3-23図 中国のマーシャルのK の推移

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第1-1-3-24図 中国の国際収支の推移
第1-1-3-24図 中国の国際収支の推移

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インフレ率に関しては、消費者物価上昇率(前年同月比)が、2010 年後半に政府目標(3%)を上回るようになり、特に、「食品」については10%を超える上昇率となった(第1-1-3-25 図)。食品価格の上昇の原因としては天候不順の他、資金供給の潤沢化に伴う金融市場からの資金流入等も指摘され、2010 年11 月20日には農産物の増産や流通コストの低下に加え、将来的な価格統制も含めた全16 項目からなる「消費者物価の総水準を安定させ、大衆の基本的な生活を保障することに関する国務院の通達」が発せられることとなった。また、2010 年末以降は、原油など国際商品価格の高騰により、輸入インフレ圧力が著しく高まっている。

第1-1-3-25図 中国の消費者物価指数の推移
第1-1-3-25図 中国の消費者物価指数の推移

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こうした中、2010 年12 月に開催された中央経済工作会議では、金融政策の姿勢を従来の「適度な金融緩和」から「穏健(中立的)」に転換することを宣言し、金融引締めの方向へと転換する方針を明確化した。また、2011 年3 月の第11 期全国人民代表大会第4 回会議における「政府活動報告」において、温家宝首相は、今年1 年間はインフレ抑制が最優先課題であることを強調した。

中国経済の目下の課題は、経済成長を巡航速度に徐々に減速させながら安定した成長軌道に乗せることであり、政府・人民銀行が、過熱経済からの「出口戦略」をいかに実施していくのかが注目される。また、2010年6 月の人民元為替レート弾力化以降82、人民元相場は緩やかな上昇を続けているが83、原油など国際商品価格の高騰等による輸入インフレ圧力が続く中で、人民元相場の上昇加速にいかに踏み出すかが注目される(第1-1-3-26 図)。

第1-1-3-26 図 中国の人民元対ドルレートの推移
第1-1-3-26 図 中国の人民元対ドルレートの推移

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77 中国政府は「4 兆元」内需拡大政策を打ち出し、地方政府にインフラ投資の拡大を促した。地方政府は相互競争して投資プロジェクトを積み上げたが、中央政府の地方政府に対する財源的裏付けは乏しく、1994 年の分税制導入以降、慢性的な財政難に苦しむ地方政府は、土地払下げ収入(農民等から土地を取得し、不動産ディベロッパー等に高額で売却する際の収益)等で財源不足を補い、「地方政府融資平台」(地方政府がインフラ事業目的で設立した資金調達プラットフォーム)への依存を高めていった。地方政府は、土地払下げ収入等を資本金として「地方政府融資平台」に注入し、「地方政府融資平台」は債券発行や銀行からの借入れにより事業を何倍にも拡大し、都市事業開発を実施している。銀行業監督管理委員会は、「地方政府融資平台」への銀行貸出残高7.66 兆元(2010 年6 月末時点)のうち、23%に当たる1.76兆元は返済に重大なリスクがあるとした。

78 中国政府は、2010 年の4 月と9 月、住宅ローンの頭金比率や銀行貸付金利の引上げ等を内容とする不動産取引抑制策を打ち出した。しかしながら、その後も不動産価格が再上昇したため、政府は、2011 年1 月、不動産価格抑制に対する地方政府の責任を明確にする等の抑制策を打ち出した。また、上海、重慶の2都市では1 月28日から不動産税(房産税(我が国の固定資産税に相当))が試験的に導入される等、不動産取引抑制策が相次いで打ち出されている。

79 財政省、改革発展委員会、人民銀行、銀行業管理監督委員会は、2010 年8 月、地方政府に対して、融資プラットフォーム企業の債務を全面的に整理するよう要求した。各省(自治区、直轄市)は2010年12月10日までに債務整理のデータを報告しているが、財政部ら関連部門は、関連データの確認を進める一方、融資プラットフォーム企業の債務統計報告制度の確立と、地方政府の債務規模抑制とリスク警報制度の確立を検討している(『人民網』(日本語版)2011年3 月1 日付)。

80 生産能力過剰については、世界経済危機後の金融緩和と公共事業の活発化によって、以前から構造改革の必要性が認識されていた一部産業に対する調整が急務となった。このため、中国政府は2010年4 月に通達を発し、鉄鋼、セメント、石炭、電力等の産業に対して小規模・非効率な設備の統廃合を進め、業界全体の生産効率の向上を図るよう指示を行った。また、工業情報化部は同年5 月、鉄鋼やセメント、ガラス、製紙など生産設備の淘汰を進める18 業種についての淘汰目標を提示し、同年8 月には、老朽化した過剰生産設備の廃棄等を進めるべき2,087社の企業リストを発表した。

81 海外からの資金流入について、中国国家外貨管理局は2011 年2 月17 日、2010 年に海外から中国国内に流れ込んだ短期の投機資金の純流入額が355 億ドルだったという試算を明らかにした。中国国家外貨管理局は、2010 年の外貨準備高の増加額に占める短期の投機資金の割合は7.6% にとどまるとしている(『日本経済新聞』(電子版)2011年2 月17日付)。

82 中国人民銀行は、2010 年6 月に、人民元為替レート形成メカニズムの改革を更に進め、人民元の為替レートの弾力性を高めるとする声明を発表した。中国人民銀行は、人民元の弾力化について、2005 年の人民元改革を踏襲して、通貨バスケットを参照し、1 日あたりの変動幅は基準値(中間値)の上下0.5% として人民元レートを調整すること、また現時点では大幅な切上げを行う基礎は存在しない旨を表明。2005年の人民元改革時には、当初に2.1% の切上げを実施後、3 年間かけて対ドルで約20% 上昇したが、今回は、当初の一定程度の切上げを見送った。

83 2010年の人民元対ドルレートの上昇率は3.5% となった。なお、人民元の年間上昇率の過去最高は、2008年の6.6% である。


(2)中国経済の課題「消費主導型経済成長への転換」

1. 求められる投資・輸出主導から消費主導型経済成長への転換

近年の中国は「投資」を主なけん引役として高い経済成長を遂げてきた(前掲 第1-1-3-3 図)。また、2003 年から2007 年にかけては、「輸出」がけん引役として加わり2 桁の成長を続けてきた。第1 節1. で見たとおり、世界経済危機以前の中国の「投資」と「輸出」に依存した高成長の裏には、米国が過剰消費により世界経済をけん引していたことがあった。

しかしながら、世界経済危機の発生により、その構図は大きく変化しており、世界景気はいまだ不安定な状況が続いている。人民元の上昇圧力が高まり、労働コストが上昇を続ける中で、中国の持続可能な発展のためには、内需依存型経済成長、消費主導型経済成長に向けての経済構造変化が必要とされている。

中国では、「投資」や「輸出」に対する経済成長依存度が高まる一方で、「消費」の比率は低下している。家計の消費対名目GDP 比が低下する一方で、社会保障不安等84 を背景に、家計の貯蓄対名目GDP 比は上昇している(第1-1-3-27 図)。また、中国の都市化率は、改革開放が始まった1978 年の17.9%から2010 年には49.7%に上昇しているが(第1-1-3-28 図)、都市化が進展する中で、地域間格差(第1-1-3-29 図)や都市・農村部の格差等(第1-1-3-30 図)が拡大している。近年の中国は、社会の仕組みや制度が経済発展のスピードに追いつかず、都市と農村の経済格差拡大、社会保障や医療、住環境などの福利厚生制度の未整備、環境問題の深刻化など、人々の身近に多くの社会的な矛盾が噴出している状況にある。

第1-1-3-27図 中国の家計の消費性向の推移
第1-1-3-27図 中国の家計の消費性向の推移

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第1-1-3-28 図 中国の都市化率の推移
第1-1-3-28 図 中国の都市化率の推移

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第1-1-3-29 図 中国の地域別一人当たり名目GDP(2009 年)
第1-1-3-29 図 中国の地域別一人当たり名目GDP(2009 年)

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第1-1-3-30図 中国の都市部と農村部の所得格差の推移
第1-1-3-30図 中国の都市部と農村部の所得格差の推移

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胡錦濤・温家宝政権では、経済発展方式の転換による「和諧社会(調和のとれた社会)」の実現という経済政策の基本方針を掲げ、1.投資・輸出・消費のバランスのとれた成長、2.第一次、第二次、第三次産業のバランスのとれた成長、さらに3.量的拡大に頼る「粗放型」から生産性の上昇に頼る「集約型」への転換を目指すとともに、農民負担の軽減や社会福祉の拡充等が図られてきた(第1-1-3-31 表)。しかしながら、こうした取組はなお途上であり、今後の中国の持続的な成長の観点から、特に、今後急速に少子高齢化が見込まれる中では、経済発展方式の転換を加速させ、国内の経済格差を縮小させつつ内需主導型の成長を進めていくことが急務となっている(第1-1-3-32 図)。

第1-1-3-31 表 中国の経済政策の基本方針
第1-1-3-31 表 中国の経済政策の基本方針

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第1-1-3-32 図 中国の人口構成の推移
第1-1-3-32 図 中国の人口構成の推移

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82 中国人民銀行は、2010 年6 月に、人民元為替レート形成メカニズムの改革を更に進め、人民元の為替レートの弾力性を高めるとする声明を発表した。中国人民銀行は、人民元の弾力化について、2005 年の人民元改革を踏襲して、通貨バスケットを参照し、1 日あたりの変動幅は基準値(中間値)の上下0.5% として人民元レートを調整すること、また現時点では大幅な切上げを行う基礎は存在しない旨を表明。2005年の人民元改革時には、当初に2.1% の切上げを実施後、3 年間かけて対ドルで約20% 上昇したが、今回は、当初の一定程度の切上げを見送った。

83 2010年の人民元対ドルレートの上昇率は3.5% となった。なお、人民元の年間上昇率の過去最高は、2008年の6.6% である。

84 中国の従来の社会保障制度基盤は、国有企業改革によって崩壊したため、1997 年に政府による全国的な社会保障制度が制定されたが、社会保険加入者の割合は低く、なお移行期にあること等が挙げられる。


2. 量的拡大より質的充実を目指す「第12 次5か年計画」

2011 年3 月5 日から14 日にかけて、第11 期全国人民代表大会(全人代)第4 回会議が開催され、「第12次5 か年計画(2011 〜 2015 年)」(以下、「十二五」)が採択された。「十二五」でも、先述の経済政策基本方針(第1-1-3-31 表)に沿った形で、1.経済発展方式の転換の加速化を主軸に、2.各領域における改革を進め、3.民生を改善することに重点が置かれている。今後5 年間の実質GDP 成長率の目標は年平均7%とされているが、これは、「第11 次5 か年計画(2006 〜2010 年)」の当初目標である7.5%と実績である11.2%のいずれをも下回る水準であり、経済成長の量的拡大より質的充実を目指すという中国政府の姿勢が鮮明になっている(第1-1-3-33 表)。

第1-1-3-33 表 中国の第12 次5 か年計画の主要目標
第1-1-3-33 表 中国の第12 次5 か年計画の主要目標

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「十二五」では、今後5 年間の「都市住民一人当たり所得」と「農村一人当たり純収入」の伸び率を両者とも「年平均7%以上」と実質GDP 成長率の伸び率「年平均7%」以上に増加させる目標を採用し、消費拡大のために必要である所得の向上に向けた政策方針を明確にしている。また、国民所得の分配における住民所得のウエイトを高めることに加えて、社会保障強化の目標も掲げている。

一方、省エネと資源・環境保護についても、経済発展方式の転換の一環として重要課題と位置づけられている。重要な鉱物資源の保護や採掘管理を強化する方針を表明するとともに、2011 年から2015 年までの5年間で単位GDP 当たりのエネルギー消費量を16%削減し、二酸化炭素排出量を17%削減すること等を目標として示している。

また、産業の高度化を図るため、戦略的産業として、7 つの分野(1.省エネルギー・環境保護、2.次世代情報技術、3.バイオテクノロジー、4.ハイエンドの製造設備、5.新エネルギー、6.新素材、7.新エネルギー自動車)を掲げ、これら産業のGDP に占める割合を2010 年の3%から2015 年までに8%引き上げるとしている。

3. 産業の高度化、消費主導型経済成長に向けて

「十二五」では、個人消費拡大のため、民生の保障と改善を前面に押し出し、合理的な所得分配を加速することを打ち出すとともに、第一次・第二次・第三次産業のバランス、科学技術の振興など産業の高度化を目指しているが、これまでの中国経済の発展経緯を鑑みると、こうした政策の実現には困難も予想される。社会保障制度改革は進みつつあるものの前途多難であり、中国経済の根源問題である都市・農村二元経済については、現段階では十分解消される見通しがたっていない。また、「十二五」では、各領域の改革を進めるとされているが、国有企業による独占・利益擁護の問題や、基礎的研究の弱さ等、克服すべき課題も多い。

中国が、こうした課題を克服しつつ、民生を改善し、省エネ・環境保護を進め、産業の高度化を図ることができるのか、投資・輸出依存型成長から消費主導型成長へと転換を果たすことができるのかが今後の注目点である。




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