第3章 我が国経済の新しい海外展開に向けて〜世界経済危機(の余波)と震災ショックを乗り越えるために〜

第1節 世界市場の再検証と我が国製造業の戦略

経済成長が著しいアジアはじめ世界の新興国1は、所得の上昇を背景に、その「市場」が量的に拡大し、更に質的にも向上しつつある。ここでは、今後、急激な成長が見込まれる新興国の市場について、所得層の現状と見通し、我が国製造業の競合状況、新興国市場獲得に向けた対応の方向性について分析する。

なお、本節では、所得層の区分を以下のとおりとする。

所得層の区分表

1 ここでは、新興国のデータについて、経済規模、データ制約を考慮し、以下27の国・地域を対象としている。中国、香港、韓国、台湾、インド、インドネシア、タイ、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピン、パキスタン、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、ロシア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア。


1.富裕化する新興国の所得層

新興国における2010 年時点の所得階層別人口構成比は、ここでとりあげる新興国全体(43.0 億人)で、富裕層5.9%、上位中間層11.8%、下位中間層37.6%、低所得層44.6%と、半数近く(19.2 億人)が低所得層となっているところ、2020 年には、富裕層14.7%、上位中間層24.6%、下位中間層40.7%、低所得層20.0%となることが予想されており、新興国人口全体(46.9億人)の約4 割(18.4 億人)が上位中間層、若しくは富裕層となることが見込まれる(第3-1-1-1 図)。

第3-1-1-1図 新興国の所得層別人口推移
第3-1-1-1図 新興国の所得層別人口推移

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各国の最大人口所得層をみても、2010 年には上位中間層、若しくは富裕層が最大の国は中東や中南米を中心に11 か国(アジアではNIEsのみ)に留まるものの、2020 年には16 か国に拡大する。一方、低所得層が最大の国は、2010 年にはアジア、アフリカを中心に8 か国あるものの、2020 年にはベトナム、南アフリカ、ナイジェリアの3 か国に減少する。ベトナムと南アフリカの低所得層の割合も、各々の国の下位中間層の割合と大差なく、50%以下にまで減少する(ナイジェリアは72.1%)

(1)中間層の現況と今後の推移

アジア新興国の中間層は、2000 年には2.4 億人であったが、2010 年にはその6 倍以上の14.6 億人となり、2020 年には23.1 億人と、20 年で10 倍以上に拡大することが見込まれている。一方、その他新興国においても、2000 年の3.7 億人から2010 年には6.7 億人となり、2020 年には7.5 億人に増加はするものの、アジア新興国ほどの伸びはなく、2020 年の新興国中間層は、アジア新興国11 か国がその他新興国16 か国の規模を凌駕し、中間層全体の75%以上を占めることとなる。なお、新興国全体では、2020 年に30.6 億人の大市場に拡大することが見込まれる(第3-1-1-2 図)。

第3-1-1-2図 新興国・地域の中間層推移
第3-1-1-2図 新興国・地域の中間層推移

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(2)富裕層の現況と今後の推移

富裕層人口については、2010 年は先進国(G7 で5.4億人)の方が新興国(2.6 億人)の倍以上の規模であるものの、新興国富裕層人口の伸び率は、非常に高い。2010 年から2020 年にかけて先進国の富裕層人口の伸びが約1.2 倍に対し、新興国では約2.7 倍の伸びを示す。特にアジア新興国は約3.4 倍に拡大し、アジア新興国11 か国が新興国全体の過半を占め、その他新興国16か国の規模を逆転する。中でも中国は約4.8 倍と急拡大し、アジア新興国全体の50%以上、新興国全体でも25%以上を占めると予想される。

こうした結果、2010 年には、アジア新興国で約1.0億人、その他新興国で約1.5 億人である新興国の富裕層人口は、2020 年には、アジア新興国が約3.5 億人、その他新興国が約3.4 億人、合計で約6.9 億人となり、2015 年にはEU の規模を、2020 年にはG7 の規模を超えることが見込まれている(第3-1-1-3 図)

第3-1-1-3図 先進国と新興国の富裕層推移の比較
第3-1-1-3図 先進国と新興国の富裕層推移の比較

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(3)アジア新興国市場の拡大

1. アジア新興国市場概観

アジア新興国市場の特徴は、世界人口の約5 割を占める人口規模がある一方、NIEs3 やシンガポールを除き、全体的に一人当たりGDP が低いことも特徴的である。2010 年のアジア新興国の一人当たり名目GDPは、3,446 ドルであり、人口大国の一人当たりGDP が低いことが影響している。13 億人の人口を抱える中国の一人当たり名目GDP は4,382 ドル、12 億人の人口を抱えるインドのそれは1,265 ドルである(第3-1-1-4 表)。

第3-1-1-4 表 アジア新興国・地域の概観
第3-1-1-4 表 アジア新興国・地域の概観

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2010 年時点で、アジア新興国は我が国の輸出額全体の55.7%、輸入額全体の44.6%を占める大市場となっており、地理的、経済的に我が国とアジアは緊密な関係にある(第3-1-1-5 図)。

第3-1-1-5図 我が国の輸出入総額に占める貿易相手国・地域別の割合推移
第3-1-1-5図 我が国の輸出入総額に占める貿易相手国・地域別の割合推移

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2. アジア新興国で急速に拡大していく上位中間層・富裕層をターゲットに

アジア新興国の所得階層推移を国・地域別にみると、中国とASEAN は似た傾向を示しており、2010 年時点の上位中間層以上は約10%しかないものの、2020年には約40%にまで拡大する。特に中国は、2020 年に13.8 億人と予想される人口から富裕層が13%とはいえ、1.8 億人もの市場を形成することとなる(第3-1-1-6 図、第3-1-1-7 図)。なお、ASEAN6 内においては、2020 年に、上位中間層以上が約50%以上となるシンガポール、マレーシア、タイの3 か国、同約25%以上となるインドネシア、フィリピンの2 か国、低所得層が約半数を占めるベトナムに3 極化すると見込まれている。

第3-1-1-6図 中国の所得階層別比率
第3-1-1-6図 中国の所得階層別比率

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第3-1-1-7図 ASEAN6の所得階層別比率
第3-1-1-7図 ASEAN6の所得階層別比率

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NIEs3 は、2010 年において既に富裕地域となっていると言えるが、2020 年には、富裕層率が70%を超え、2010 年の先進国(G7)並みに富裕化していく。しかしながら、人口規模が約0.8 億人と、大きくはない為、当該エリアの市場のみならず、香港や台湾を足がかりに中国市場に進出することも考えられる(第3-1-1-8図)。

第3-1-1-8 図 NIEs3 の所得階層別比率
第3-1-1-8 図 NIEs3 の所得階層別比率

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インドは、2010 年時点で90%以上、2020 年になっても70%以上が下位中間層以下ではあるが、2020 年の上位中間層以上の率が25%を超えると、2020 年に13.3 億人と予想される人口から、3.5 億人の大市場が期待される(第3-1-1-9 図)。

第3-1-1-9図 インドの所得階層別比率
第3-1-1-9図 インドの所得階層別比率

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アジア新興国の所得層は、所得が高いほど伸び率は大きく、富裕層は中間層の2 倍以上の伸びで急速に拡大していく(第3-1-1-10 図)。下位中間層の規模が過半を占めるインドを除くと、2020 年のアジア新興国は、上位中間層以上の方が下位中間層の規模以上となる。富裕層のみの規模をみても、2020 年には中国が我が国を大幅に超過し、アジア新興国全体で我が国の3 倍以上の規模に拡大する見込みである(第3-1-1-11図)。

第3-1-1-10図 アジア新興国の所得階層別人口推移と中間層、上位中間層以上の比率
第3-1-1-10図 アジア新興国の所得階層別人口推移と中間層、上位中間層以上の比率

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第3-1-1-11図 アジア各国・地域における年間可処分所得35,000ドル以上の人口推移
第3-1-1-11図 アジア各国・地域における年間可処分所得35,000ドル以上の人口推移

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