第3章 我が国経済の新しい海外展開に向けて 〜世界経済危機(の余波)と震災ショックを乗り越えるために〜

第2節 新しい段階に入った我が国企業の「現地化」

2.新興国への「現地化」による国内経済への影響

 新興国への「現地化」は、現地への我が国からの中間財輸出の増加や直接投資収益・特許等収入の拡大に伴う国内への環流等を通じて、国内の研究開発・設備投資の増大をもたらすことにより、我が国経済にプラスに寄与する傾向にある。但し、中間財輸出の拡大や直接投資収益等の国内への環流は、競争環境の変化等によっては、必ずしもサステイナブルなものとは言い切れず、一層の効果を上げていくためには、中間財輸出競争力の向上や資金の国内環流に向けた環境整備が必要である。また、新興国への現地化は、マクロでみた場合、国内雇用に必ずしもプラスの効果を有するとは限らない。従って、現地化が国内雇用に与えうる影響には留意が必要であり、新興国における我が国企業の市場獲得の取組が今後一層進展していくことが予測される中、国内雇用にどのような影響を与えうるのか、また同時に我が国の国内にどういった機能を一層集積強化させていくべきかという視点が重要である。

(1)日系現地法人の現地販売額の状況

 「海外事業活動基本調査」(2007・2009)によると、製造業全体の販売額の販売先でみると、2007 年には、米国は現地向けが約29 兆円である一方、中国、ASEAN では現地向け販売額はいずれも約11 兆円の水準であり、米国の1/3 程度に過ぎなかったが、世界金融危機後の2009 年には、米国の現地向けが約14 兆円まで減少し、中国やASEAN の同販売額は、それぞれ米国の約9 割、約6 割の水準となった。依然として日本の製造業の現地販売額の最大依存地域が米国であることに変わりはないが、今後新興国の消費水準が一段と拡大する中、中国やASEAN 等の新興国における現地販売額の拡大を図っていくことが一層期待される(第3-2-2-1 図)。 

第3-2-2-1図 日系現地法人(製造業)における販売先別販売額の比較(2007年及び2009年)
第3-2-2-1図 日系現地法人(製造業)における販売先別販売額の比較(2007年及び2009年)

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(2)現地売上高の増加に伴う中間財輸出への影響

 日系現地法人は海外展開に伴い現地調達を向上させていく一方で、我が国からの調達も一定額を行う傾向があり、2009 年には米国では約4 兆円、中国やASEAN では約3 兆円を日本から調達している(第3-2-2-2 図)。特に、中国については、日系現地企業の売上高(注:現地販売に加え、現地からの輸出を含む)の増加に伴って、我が国からの中間財の輸出が増加する傾向が見て取れる(第3-2-2-3 図)。現地市場のパイが高まる状況においては、現地調達額のみならず、日本からの調達額も伸びていると言える(但し、世界金融危機の影響等のため08 年、09 年は減少している)。

第3-2-2-2図 日系現地法人(製造業)の調達先比較(2007年及び2009年)
第3-2-2-2図 日系現地法人(製造業)の調達先比較(2007年及び2009年)

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第3-2-2-3図 日系現地法人売上高の増加と中間財輸出の増加との関係
第3-2-2-3図 日系現地法人売上高の増加と中間財輸出の増加との関係

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  但し、一方で、中国や韓国との貿易特化係数でみれば、中国や韓国の中間財の競争力向上に伴い、我が国の中間財輸出競争力は、電気機械等において、低下傾向(特化係数を示す線が左下に低下する傾向)を示しており(第3-2-2-4 図)、また、ここ数年現地調達率は概ね上昇傾向であるが、他方で日本からの調達率は低下傾向であり、今後も現地における技術の向上等により現地調達率の向上が一層図られることを勘案すれば(第3-2-2-5 図)、引き続き中国をはじめとしたアジア新興国の市場拡大に伴って、我が国の中間財輸出が右肩上がりで伸びていくとは必ずしも限らない可能性がある。

第3-2-2-4図 我が国の財別貿易特化指数の変化(対中国・韓国)
第3-2-2-4図 我が国の財別貿易特化指数の変化(対中国・韓国)

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第3-2-2-5図 日系現地法人(製造業)の調達先比率の比較
第3-2-2-5図 日系現地法人(製造業)の調達先比率の比較

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 従って、新興国市場が拡大する中、同時に、経済連携の推進や研究開発支援等を通じ、中間財の輸出競争力の強化を後押ししていくことが重要と言える。

(3)拡大する直接投資収益と特許等収入

 対外直接投資の拡大に伴い、直接投資収益は拡大傾向で推移しており、07 年に5 兆円を超えた後、2010 年は3 兆円強となっている。また、現地からのロイヤルティ収入の拡大により特許等収入も拡大傾向で推移しており、近年は2 兆円以上となっている(第3-2-2-6)。

第3-2-2-6図 日本の直接投資収益、特許等収入、旅行受取の推移
第3-2-2-6図 日本の直接投資収益、特許等収入、旅行受取の推移

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 また、収支で比較した場合、直接投資収支は08 年には貿易収支に匹敵するまで拡大しており、特許等収支も0.7 兆円まで拡大している(第3-2-2-7 図)。対外直接投資の拡大に伴う直接投資収益と特許等収入の拡大が我が国の対外所得の重要な稼ぎ柱としての存在感を高めてきていると言える。

第3-2-2-7図 日本の直接投資収支、特許等収支等の推移
第3-2-2-7図 日本の直接投資収支、特許等収支等の推移

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(4)日系現地法人の外国子会社配当益金不算入制度の導入前後の国内環流資金の使途

 既に前節でみたように、国際経済交流財団調査(2011)によると、外国子会社配当益金不算入制度の導入前後における海外子会社利益の使途として、製造業においても、制度導入後、現地で利益を留保する企業の割合は低下し、本邦へ配当を還元する企業の割合は増加しており、海外利益を国内環流させる傾向は強くなっていると言える(第3-1-4-8 図)。

 また、経済産業省実施の海外事業活動調査(2009)によると、現地法人からの配当金の用途としては、研究開発・設備投資が最大(44.1%)で、借入金返済(26.1%)、株主への配当(19.3%)、雇用関係支出(16.1%)がこれに続く(第3-2-2-8 図)。

第3-2-2-8図 国内環流余裕資金の使途
第3-2-2-8図 国内環流余裕資金の使途

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 他方、新興国の中には、外資企業が現地で稼いだ投資収益やロイヤリティ収入を本国へ環流することを規制しているケースが多く、企業の収益のグローバルな効率的活用を阻害するおそれがある。従って、これらの諸国との経済連携の推進において、引き続き、こうした投資に関わる規制の撤廃に努めていくことが求められている。

(5)「現地化」の進展に伴う国内雇用への影響

 新興国への「現地化」の進展に伴い、2002 年から2007 年に海外の現地法人における製造業の就業者数は約4 割増加したのに対し、同期間に国内の製造業就業者数は約3%減少している。単純に見ると、生産の海外シフトが雇用を減少させているようにもみえるが、同期間に国内の鉱工業生産指数は約17%伸びている。また2005 年から2007 年のみをみると、国内の同就業者数はむしろ約2%増加している。従って、製造業就業者数の減少が、現地化の進展によってのみ引き起こされたものかどうかは、本データのみでは必ずしも言い切ることは難しい。国内製造業の生産性上昇への取組とともに生じている可能性も示唆される。また、国内同就業者数が本格的に落ち込むのはリーマンショックの影響が本格化する2008 年以降であり、これは海外現地化の拡大局面(2002 〜 07 年)と符合するわけではない(第3-2-2-9 図)。なお、全産業ベースで見た国内就業者数は、建設業や製造業における減少をサービス業における増加が補ったため、同期間において1%程度の増加で推移するが、2008 年以降には減少に転じている(第3-2-2-10 図)。その際、製造業は建設業のように就業者数が一貫して減少した訳ではなく、05 年〜 07 年は増加することで、国内就業者数の増加に寄与している。(第3-2-2-10 図)。

第3-2-2-9図 製造業における海外現地法人と国内の就業者数の比較(1)
第3-2-2-9図 製造業における海外現地法人と国内の就業者数の比較(1)

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第3-2-2-10図 製造業における海外現地法人と国内の就業者数の比較(2)
第3-2-2-10図 製造業における海外現地法人と国内の就業者数の比較(2)

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 いずれにしても、特に製造業においては、新興国への現地化の進展がマクロ的に国内雇用にどのような影響を及ぼすのかについて、今後とも留意をしてみていく必要がある。

(6)新興国への「現地化」と国内経済との関係

 これまでの議論を踏まえ、新興国への現地化と国内経済との関係を短期、中期、中長期に分けて考えてみる(第3-2-2-13 図)。

 まず、新興国への「現地化」の進展に伴い、我が国からの部材輸出が増加する可能性があるが、中国・韓国・台湾企業等との部材供給を巡る競合や現地調達率の上昇に伴い、中期的に徐々にその伸びが鈍化することも考えられる。他方、新興国の内需拡大によって、我が国からの最終財輸出が増加していくことが予想される。従って、新興国の経済成長に伴って、我が国から輸出していく品目も中間財を中心としたものから中間財のみならず最終財も一定のシェアを占めるものへと質的に変化していく可能性がありうる。

 また、日本経済が海外経済との一体的な成長を図っていくためには、アジア新興国への現地化と国内イノベーションの活性化が同時に達成され、国内において成長分野への資金需要が拡大していくことが望ましい。直接投資収益増は短期的には現地への再投資に向かう可能性が高いと見られているが、外国子会社配当益金不算入制度や経済連携を通じた資金環流の円滑化を通じて、中期的に資金が国内へ環流されれば、これが国内研究開発投資や設備投資等に活用されることで我が国のイノベーションを更に活性化させる可能性がありうる。

 こうした海外需要と連鎖したイノベーションが国内で起こり、我が国独自の製品開発が活発化することで、長期的に新興国で拡大した富裕層をターゲットに、より高度な最終財・サービスを提供していくことが期待される。ジェトロの調査(2010)においても、「今後国内において事業規模の拡大を図る」と回答した企業に対し、「どのような機能の拡大を図る意向か」尋ねたところ、販売機能(約7 割)がトップになった他、高付加価値品の生産機能(約4 割)、新製品開発の研究開発機能(約4 割)、基礎研究のための研究開発機能(約2 割強)が上位になっている。従って、今後国内に高付加価値な最終財や高度な部素材について、生産機能や商品企画機能、研究開発機能等を一層集積されていくことが重要である(第3-2-2-11 図)。特に上記調査において、研究開発機能について、現地市場向け仕様変更が新興国に一定程度移転していくことがカスタマイズ対応による「現地化」のために必要なことだが、基礎研究や新製品開発といった機能については、国内で一層の集積が図られることが適切であることを示唆している。

第3-2-2-11図 国内で拡大する機能
第3-2-2-11図 国内で拡大する機能

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 そのためにも、経済連携や高コスト構造の改善等により我が国の立地環境を一層魅力あるものに改善していくことが必要であり、こうした取組を通じて、国内に高付加価値な機能が一層集積され、海外需要と連鎖したイノベーションが活発化することで、我が国のリーディング企業が、例えば、アジアへの問題解決型の「インテグレータ」や世界のサプライチェーンにとって不可欠な高度部品デバイス供給企業として、その存在意義を一層昇華させていくことが重要である。なお、ここで言う「インテグレータ」とは、技術や市場の動向を幅広く把握しながら、さまざまな技術・資金・ノウハウ等を活用しながら、顧客が抱えている課題を解決していく企業のことをさす。

 こうした好循環を生み出すことによって、はじめて我が国経済が、内需のみならず、新興国等への輸出や投資収益の着実な増加とこれに伴う内需への波及効果によって、今後とも一定程度の経済成長を実現していくことが可能になると考える(第3-2-2-12 図)。

第3-2-2-12図 新興国への現地化進展に伴う国内経済の進化
第3-2-2-12図 新興国への現地化進展に伴う国内経済の進化

 少子高齢化に伴って、内需主導による経済成長が容易ではなくなっている中、海外経済と国内経済の結びつきをしっかりと強め、両者の波及効果の好循環を十分に作り出していくことがこれまで以上に求められている。日本国内に我が国でしかできない役割や機能をしっかりと維持又は拡大させながら、同時に新興国への「現地化」を進めることで新興国のダイナミズムを着実に取り込んでいこうとする企業を積極的に支援していくことが不可欠である(なお、企業規模が小さい企業ほど輸出も直接投資も実施していない傾向にあり、今後は、企業の大小を問わず、海外の事業機会を取り込んでいくことが一層必要であることから、国内拠点を維持又は拡大させつつも、海外展開を積極的に志向する中小企業への支援を一層後押ししていくことも重要である(第3-2-2-13 図))

第3-2-2-13 図 企業規模別の直接投資企業及び輸出企業の割合
第3-2-2-13 図 企業規模別の直接投資企業及び輸出企業の割合




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