第1章 世界経済の動向

第2節 債務危機により混迷を深めた欧州経済

3.欧州債務危機の背景と解決に向けた課題

1989年にドロール欧州委員会委員長(当時)が現在のユーロにつながる欧州経済通貨統合計画を発表した時点では、現在のユーロ参加国の経済ファンダメンタルズには、例えば一人あたりGDPが最高のフィンランド(2万6千ドル)と最低のポルトガル(6千ドル)の間で4倍以上の差があるなど大きな格差がみられた(第1-2-3-1図)。ユーロ導入で為替リスクが消滅することによる域内貿易・投資の活性化や企業間の競争の進展などで経済成長が促進されること、また共通のルールに基づき財政面での相互監視が進むことなどにより参加国間の経済格差は収れんすることが期待されていたが、ここまでで紹介したように、実際にはユーロ導入以降、経済不均衡はむしろ拡大する傾向にある。

第1-2-3-1図 ユーロ圏主要国の主な経済指標(1989年)
第1-2-3-1図 ユーロ圏主要国の主な経済指標(1989年)

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ユーロ参加国間で拡大する経済不均衡は、欧州債務危機が、ギリシャの財政収支の過小評価が表面化してから2年以上を経ても、いまだに収束に至らないほど根深いものとなった要因の一つでもある。以下ではEUとIMFに支援要請するに至ったギリシャ、アイルランド、ポルトガル及び潜在的な要支援国として市場の懸念が高まっているイタリア、スペイン(以下「主な重債務国」)を中心に問題が発生した背景をつぶさに検証することでユーロ圏が抱える構造上のひずみをさらに明らかにするとともに、EU・ユーロ圏当局の一連の対応策と問題解決に向けた課題を概観する。

(1)EU・IMF被支援国が支援要請に至った背景

1. 欧州債務危機の震源地となったギリシャ

欧州債務危機が顕在化する直接の引き金となったのは、2009年10月に明らかとなったギリシャの財政赤字の過小評価である。同月に発足したパパンドレウ政権は、前政権時に財政赤字が過小評価されていたとして、2008年の財政赤字を5%から7.7%へ、2009年の赤字の見通しをGDP比3.7%から12.7%へと大幅に引き上げてEU統計局に修正申告した62。その後も財政収支の修正は繰り返され、最終的な数値は2008年が9.8%、2009年は当初の推計から11.9%ポイントも上ぶれした15.6%にまで引き上げられたため、ギリシャ政府の財政状況に対する市場の懸念が急速に高まり、国債利回りは急上昇した。市場からの資金調達が困難となった同国は、2010年5月にはEU・IMFによる総額1,100億ユーロの支援を受けるに至ったが、その後、他のユーロ圏主要国の財政状況、またギリシャ等重債務国の国債を保有するユーロ圏の金融機関にまで市場の厳しい目が向けられるようになり、債務問題の拡大を招いた。

債務問題への市場の懸念が高まるにつれ、この大幅な財政赤字の修正もギリシャの抱える問題の氷山の一角にすぎないことが徐々に明らかとなった。第1-2-3-2図では主な重債務国の長期国債利回りの推移を示しているが、ユーロ導入以前には大きな開きのあったドイツとの利回りの差が、ユーロ導入以降急速に収れんしていたことが分かる。ユーロ導入により、およそ3億人の人口63を擁する市場になったユーロ圏と米ドルに匹敵する巨額の通貨供給量を誇る通貨となったユーロ64への信認を背景としてユーロ参加国の市場での信認も底上げされ、ギリシャをはじめとしてそれまで高い金利を払って資金調達を行っていた国もドイツ並みの低金利での資金調達を行えるようになった。EU域内の金融市場統合が進む中、単一通貨ユーロの導入で為替リスクなしに投資が可能となったドイツ等のユーロ圏中核国の金融機関が、これらの周辺国を新たな市場として資金調達を支えた。その結果、経済ファンダメンタルズの脆弱な国の経済は身の丈を超えた投資・消費に牽引されて拡大を続けた。ギリシャの実質GDP成長率の推移を需要項目別に見ると、2001年から2008年まで常に個人消費の寄与度が高く、2004年のアテネ・オリンピックが開催されるまでは固定資本形成も成長に大きく貢献している(第1-2-3-3図)。

62 その後も修正が繰り返され、最終的な数字はGDP比15.6%となっている。

63 欧州統計局によると、決済用通貨として初めてユーロが導入された1999年当初の参加国12か国の人口は2億9,200万人である。

64 IMFのInternational Financial Statisticsによると、2000年のユーロの通貨供給量は4兆7千億ユーロで、米ドルの4兆6千億ユーロを上回った。


第1-2-3-2図 ユーロ圏の主な重債務国の10年物国債利回りの推移
第1-2-3-2図 ユーロ圏の主な重債務国の10年物国債利回りの推移

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第1-2-3-3図 ギリシャの実質GDP成長率の推移
第1-2-3-3図 ギリシャの実質GDP成長率の推移

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官民の投資・消費が活発化した結果として高成長を享受できたため、ギリシャ国内では財政再建へのインセンティブが薄れ、年金改革や徴税能力の改善などの構造改革も置き去りにされ、国債金利の低下により利払い負担が軽減される中でも政府債務の削減は進まず、政府債務残高はGDP比で100%超の水準で推移した(前掲第1-2-2-19図)。公的部門の改革が進まなかった一方で、民間部門も労働市場改革等によるコスト抑制が進まず、本節2(.1)で取り上げた単位当たり労働コストは2009年までユーロ圏主要国と比べても大きく上昇した(前掲第1-2-2-2図)。産業の国際競争力が低下する中で、ユーロ導入以降は必要な資金を外国から低コストで調達することが可能であったため、経常赤字は2000年代に入り急増した(第1-2-3-4図)。対外債務残高もデータ取得が可能な2003年のGDP比93.9%から2007年には同138.5%に膨張している65

65 なお、2011年末時点ではGDP比170.1%にまで増加している。


第1-2-3-4図 ユーロ圏の主な重債務国の経常収支の推移
第1-2-3-4図 ユーロ圏の主な重債務国の経常収支の推移

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このようにギリシャが抱える問題は、単なるギリシャ一国の政府債務の増加と財政への信用喪失にとどまらず、本節2.で取り上げたユーロ導入以降の主要国間の経済不均衡拡大というユーロ圏が抱える構造的なゆがみを端的に示すものである。2011年3月12日に開催されたユーロ圏財務相会合で、総額1,300億ユーロの対ギリシャ支援が承認されたことで、ギリシャの足もとの資金繰り懸念は解消されたが(本項(3)参照)、問題の根本的な解決にはギリシャの債務返済能力の強化が不可欠であるため、ギリシャ自らが財政再建と平行して労働市場改革などの経済構造改革の断行による産業の国際競争力の強化を図るだけでなく、ユーロ圏全体が経済政策の相互監視等を通じて参加国間の経済ファンダメンタルズの収れんを進めていく必要がある。

2. バブル崩壊からの立ち直りへの取組を進めるアイルランド

アイルランドは2008年の世界経済危機発生まではユーロ圏の平均を大きく上回り主要国の中でも特に高い成長を謳歌していた(第1-2-3-5図)。その最大の要因は住宅・不動産バブルである。1995年を100とした指数の推移を見ると、同国の住宅価格は1995年以降上昇の一途をたどり、ピーク時の2007年の価格は1995年の4.6倍に達している(第1-2-3-6図)。同様に住宅バブルを経験した米国と比較しても、その上昇ペースは遥かに急速である。同国の産業別付加価値額の推移を見ても、特に住宅価格の上昇ペースが加速した2003年から2007年にかけて、金融・保険業、不動産業、及び建設業が成長を大きく牽引している(第1-2-3-7図)。ユーロ導入により政策金利が一元化され、他のユーロ参加国と比較して相対的に物価上昇率が高かったアイルランドの家計・企業は従前よりも割安な金利での資金調達が可能となった66ことから資金需要が活発化した。政府が国策として金融業への対内投資を促進した67ことも相俟って外国の投資資金の金融機関への流入が加速し、金融機関は国内の旺盛な需要に応える形で与信を拡大させた。アイルランドの住宅ローン残高は(第1-2-3-8図)データ取得が可能な2003年1月時点の438億ユーロから、ピーク時の2008年5月には1,273億ユーロと5年余りでおよそ3倍、アイルランドの2008年の名目GDP(およそ1,800億ユーロ)の70%にまで急増している。

66 ユーロが導入された1999年から2007年までの消費者物価上昇率の平均は、ユーロ圏の2.0%に対しアイルランドは3.4%である。ユーロ導入以降はユーロ圏の平均物価上昇率に応じた政策金利が適用されたため、アイルランドの銀行貸出金利の低下及び実質金利の低下を招いた。

67 アイルランド政府は、アイルランドに国際金融サービス産業の一大拠点を創設するため、1987年にダブリンに国際金融サービスセンター(IFSC)を設立。当センター内で金融サービスを開始するにあたっては税制上の優遇措置が利用でき、現在370を超える国際金融会社が入居している(在日アイルランド大使館ウェブサイトhttp://www.embassy-avenue.jp/ireland/ireland/economy_02.html)。


第1-2-3-5図 ユーロ圏の主な重債務国の実質GDP成長率の推移
第1-2-3-4図 ユーロ圏の主な重債務国の経常収支の推移

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第1-2-3-6図 アイルランドとスペインの住宅価格の推移
第1-2-3-6図 アイルランドとスペインの住宅価格の推移

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第1-2-3-7図 アイルランドの総付加価値額の産業別寄与度
第1-2-3-7図 アイルランドの総付加価値額の産業別寄与度

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第1-2-3-8図 アイルランドの住宅ローンの推移
第1-2-3-8図 アイルランドの住宅ローンの推移

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好調な景気により税収も増加したため、アイルランドの財政収支はほぼ黒字を維持し(前掲第1-2-2-17図)、政府債務残高も減少傾向にあった(前掲第1-2-2-19図)。しかし、世界経済危機の発生とともに、この好循環をもたらした住宅・不動産バブルは崩壊し、不動産価格の下落によって資産価値が減少した家計・企業には巨額の負債が残され、金融機関が巨額の不良債権を抱えることとなった。2009年時点での家計と企業の負債は、それぞれ可処分所得比、GDP比で200%を超過している(前掲第1-2-1-8図、第1-2-1-14図)68。家計・企業のバランスシート調整によって経済は一気に縮小し、景気後退による税収の落ち込みに加えて、金融機関の不良債権処理のための歳出が増加したことで、財政赤字が一気に増加し、市場の懸念の高まりに伴う国債利回りの上昇にも後押しされた形で69同国は2010年11月にEU・IMFへの支援要請を行うに至った。

他方、アイルランド政府は、住宅バブルの崩壊以降、財政再建にいち早く取り組み、他のユーロ圏諸国が景気浮揚のための財政出動を積極化させていた2009年から2010年の2年間にGDP比6.3%規模の財政緊縮策を実施した70。2011年11月に発表された中期財政計画によれば、付加価値税率の引上げ71や公務員数及び公務員賃金の削減72など2012年から2015年までの4年間で総額124億ユーロの緊縮策を実施し、2015年までに財政赤字をGDP比3%以内に削減するとしている。また大手銀行への公的資金注入や一部国有化73、国家資産管理機構(NAMA:The National Asset Management Agency)による銀行の不良資産買取りなどを進め、銀行部門の抜本的な体質強化にも取り組んでいる。さらに不動産価格の上昇に伴うインフレ圧力の高まりにより人件費が高騰したことで失われていた輸出競争力が、2009年以降、賃金削減などが奏功し回復傾向にある。アイルランドの2011年の単位当たり労働コストは最も高かった2008年からおよそ12%低下し(前掲第1-2-2-2図)、2000年から2009年まで2003年を除き赤字を計上していた経常収支も2010年から黒字に転じている(前掲第1-2-3-4図)。家計・企業は依然として厳しいバランスシート調整局面にあり、政府の財政引締めや賃金削減などの影響も相まって内需は低迷を続けているものの、ユーロ圏の被支援国の中で唯一構造改革が評価され、長期国債利回りはEU・IMFへの支援要請以前の水準にまで回復している(前掲第1-2-3-2図)。痛みを伴う構造改革を早期に断行したことで長期的な債務返済能力に関する市場の懸念を概ね払拭することができたという点で、他の重債務国への示唆も大きい。

68 同様に住宅バブルを経験した米国の家計の負債は、2007年のピーク時においても可処分所得比138%である(FRB、米国商務省のデータに基づき算出)ことから、同国の信用膨張とその崩壊の影響の大きさがうかがえる。

69 アイルランドの10年物国債利回りは2010年半ば頃までは4〜5%台で推移していたが、2010年後半から急上昇し、同年9月には6%台、11月には8%台に到達している(第1-2-3-2図)。

70 IMF(2010)。

71 標準税率を21%から23%に引き上げ。

72 公務員数の5%削減や公務員賃金の14%削減など(IMF(2010))。

73 2009年1月にアングロ・アイリッシュ銀行を国有化。


3. 低成長と重い債務負担を抱えるポルトガル

ポルトガルは1999年のユーロ導入以降、ギリシャやアイルランド、隣国スペインとは異なり好況を享受することもなく景気が低迷した。ユーロ導入以降のGDP成長率は常にユーロ圏の平均成長率を下回り(前掲第1-2-3-5図)、1999年から世界経済危機が起きる前の2007年までの平均成長率は−1.6%である。硬直的な労働市場などから、労働生産性はユーロ圏主要国の中で大きく立ち後れており(前掲第1-2-2-5図、第1-2-3-9図)、しかも単位当たり労働コストは上昇した(前掲第1-2-2-2図)。そのためEUの東方拡大に伴い、中東欧諸国等域内新興国との競争から直接影響を被ったことが低成長の主な要因である。ポルトガルの輸出に占めるEU向けのシェアは2000年から2011年の平均で77%とEU依存度が極めて高いが、EU向けの輸出の伸びはポーランド等のEU域内新興国と比較して著しく低い(1-2-3-10図)。また輸出品目は、農産品や繊維・衣類など伝統的な品目への依存度が依然として高い74

構造改革の遅れにより国際競争力を喪失している点はギリシャと同様であるが、ポルトガルの特異な点は家計・企業の抱える債務の規模の大きさである。2010年時点での負債残高は家計が可処分所得比129%、企業がGDP比154%と、住宅バブルとその崩壊を経験したスペイン(家計同128%、企業同139%)をも上回っている。ユーロ導入以降の長期金利の低下による金利負担の低下と主に外国からの資金流入による与信の拡大がその背景にあり、1995年時点では13%であった家計の貯蓄率は2007年には7%とユーロ圏平均の14%を大きく下回るまでに低下した(第1-2-3-11図)。対外債務残高もデータ取得が可能な1996年から一貫して増加し、2010年末時点では対外債権を差し引いたネット・ベースのGDP比が107%とユーロ圏の主な重債務国の中で最も高い水準となっている(第1-2-3-12図)。

74 2011年の輸出に占める農産品・食料品(HSコード1〜24類)のシェアは11%、繊維・衣類(HSコード50〜63類)のシェアは10%など、伝統的な産品の輸出シェアが高い。


第1-2-3-9図 ユーロ圏の主な重債務国の時間当たり労働生産性の推移
第1-2-3-9図 ユーロ圏の主な重債務国の時間当たり労働生産性の推移

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第1-2-3-10図 ポルトガルと中東欧主要国のEU域内向け輸出の推移
第1-2-3-10図 ポルトガルと中東欧主要国のEU域内向け輸出の推移

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第1-2-3-11図 ポルトガルの家計貯蓄率の推移
第1-2-3-11図 ポルトガルの家計貯蓄率の推移

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第1-2-3-12図 ユーロ圏の主な重債務国の対外純債務(2011年末時点)
第1-2-3-12図 ユーロ圏の主な重債務国の対外純債務(2011年末時点)

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低成長と重い債務負担、さらには対外脆弱性を抱える中で、2008年には世界経済危機が発生し、景気後退による税収減と景気浮揚のための財政出動により政府の財政収支は急速に悪化した。2011年5月にはEU・IMFによる総額780億ユーロの支援プログラムが開始され、当面の資金繰りの目処は立ったものの、経済を持続的な成長軌道へと戻していくためには、ギリシャ同様に構造改革の推進により国際競争力の向上に取り組み、長期的な債務返済能力を高めていく必要がある。

(2)イタリア、スペインへの懸念の高まり

ギリシャに端を発したユーロ圏国債の返済能力へ市場の懸念は、アイルランド、ポルトガルにとどまらずイタリア、スペインに及んだ。両国の長期国債利回りは2011年後半に急上昇し、一時は一般的に長期的な債務持続が困難とされる7%台にまで到達した。

両国とも本節2.で紹介したとおり、2000年代を通じた国際競争力の低下が顕著である(前掲第1-2-2-2図)。とりわけスペインは、中東欧諸国のEU加盟以降、同様にEUの後発国であったポルトガルとともにEUの域内生産拠点としての競争力を失いつつあり、長期的な外需の取り込みが困難になってきている(前掲第1-2-2-14図、第1-2-2-15図)。さらに、住宅バブル崩壊の後遺症は依然として同国の民間部門の回復に陰を落としており、金融機関の抱える不良債権は建設・不動産業向けを中心に、依然として、急速な増加を続けている(第1-2-3-13図)。民間部門の膨れあがったバランスシートの調整ペースは同様に住宅バブル崩壊を経験し、多額の債務を抱えているアイルランドと比較して遅れており(前掲第1-2-1-8図、第1-2-1-14図)、内需の回復には相当の時間を要するものとみられる。財政再建に向けた厳しい財政引締めも足もとの景気を押し下げている。ラホイ政権が2012年3月に公表した2012年度予算では、GDP比で2.5%に相当する270億ユーロ規模の歳入増及び歳出削減が盛り込まれているが、財政再建と景気悪化の負の循環に陥ることで景気が長期にわたって低迷し、税収のさらなる落ち込みから中長期的な債務返済能力への懸念が今後さらに高まる可能性がある。

第1-2-3-13図 スペインの金融機関の不良債権総額の推移
第1-2-3-13図 スペインの金融機関の不良債権総額の推移

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第1-2-3-14図 イタリアのプライマリーバランスと財政収支の推移
第1-2-3-14図 イタリアのプライマリーバランスと財政収支の推移

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イタリアはおよそ1兆9千億ユーロ75もの巨額の政府債務残高が市場の懸念を呼ぶ最大の要因である。同国の単年度の財政収支はGDP比−3.9%76と他の重債務国と比較して良好であり(前掲第1-2-2-17図)、プライマリーバランスも概ね黒字で推移しているものの、国債償還と利払いが常に財政を圧迫している(第1-2-3-14図)。GDP比で見た政府債務残高を削減するためには、プライマリーバランスが均衡した状態で国債利回りを上回る経済成長率を達成する必要があるが、イタリアはポルトガルと同様に2000年代を通じ景気が低迷している。1999年から2007年の成長率の平均はユーロ圏の主な重債務国の中でポルトガルに次いで低い−0.8%である。非効率な政府、硬直的な労働市場、さらには脱税といった構造的な問題が温存されており、生産性の改善が他のユーロ主要国と比して著しく遅れている(前掲第1-2-3-9図)ことが成長抑制要因と見られている。2011年11月に発足したモンティ政権は同年12月に2012年から2014年までの3年間で総額630億ユーロにのぼる財政健全化策と、400億ユーロの経済成長促進策からなる包括パッケージを公表した(第1-2-3-15表)ほか、2012年3月には従来の失業手当に代わる雇用保険制度の創設や解雇の容易化などを主な内容とする労働市場改革案を閣議決定し、法案を議会に提出している。これらの一連の措置により財政健全化と経済成長を両立し、市場の懸念を払拭することができるか注目される。

75 2011年末時点。

76 2011年末時点。


第1-2-3-15表 イタリア・モンティ政権の財政健全化・経済成長促進策の概要
第1-2-3-15表 イタリア・モンティ政権の財政健全化・経済成長促進策の概要

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(3)EU・ユーロ圏当局のこれまでの対応

債務問題が顕在化してから、EU・ユーロ圏当局は総額5,000億ユーロ(2012年3月に7,000億ユーロに引上げ)にのぼる救済資金制度の整備をはじめ、相次いで金融市場安定化策を講じてきたが(第1-2-3-16表)、市場の不安を完全に払拭するには至っていない。以下では、EU・ユーロ圏当局の実施してきた金融市場安定化策を紹介するとともに、さらなる市場安定化に向けて求められる課題について概観する。

第1-2-3-16表 EU・ユーロ圏当局の主な金融市場安定化策
第1-2-3-16表 EU・ユーロ圏当局の主な金融市場安定化策

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1. 個別国への支援プログラムの実施

(a)ギリシャ

要支援国への融資として、まず2010年5月にはユーロ圏財務相会合の場でユーロ圏参加国による二国間融資の800億ユーロとIMFの構造調整プログラムに基づく融資の300億ユーロを合わせた、3カ年で総額1,100億ユーロにのぼる対ギリシャ融資の実施(第一次支援)が合意された。同融資はギリシャ政府が作成した財政再建と経済構造改革に関する計画を前提に、欧州委員会、IMF、ECBからなるミッションが四半期ごとに同計画の進ちょく状況の査定を行った上で実行され、当初計画では財政再建が実を結んで2014年までには財政赤字がGDP比3%以下まで削減されること、また改革の進展により市場の信認を回復し2012年第一四半期には長期国債発行による資金調達を再開することが想定されていた。しかし厳しい財政引締め77などにより景気が大きく落ち込み、税収減から財政再建目標の達成が困難であることが徐々に判明する中、同国の2012年の長期国債発行による資金調達は困難であるばかりか、1,100億ユーロの支援では早晩資金不足に陥り債務再編を余儀なくされるとの懸念が市場で急速に高まっていった。

このような状況を受け、ユーロ圏ではギリシャへの追加支援に関する度重なる協議が行われ、最終的に2012年3月のユーロ圏財務相会合でIMF融資と合わせて2016年までの4年間で総額1,300億ユーロの第二次支援実施が承認された。一次支援として既に実施した融資の金利を遡及的に減免することや各国中央銀行が保有するギリシャ国債の利子収入の提供も合意された。併せて民間債権者が保有する債権についても債務交換(保有する国債の額面53.5%のカット)を実施することとなった78

77 2010年には同国の名目GDPの2.5%に相当する60億ユーロ、2011年には同4.1%に相当する92億ユーロの歳出削減と歳入増に伴う措置を実施する計画であった。

78 対象の国債は、民間保有分の約2,060億ユーロ。


(b)ポルトガル、アイルランド

ギリシャに続き、2010年11月には総額850億ユーロのアイルランド支援プログラム、2011年5月には総額780億ユーロのポルトガル支援プログラムの実施がEU経済財務理事会で決定された。両国への支援プログラムもギリシャ支援と同様に四半期ごとに財政再建と構造改革の進ちょく状況を欧州委員会・IMF・ECBの三者が査定した上で融資が実施されている。計画は現在のところ順調に消化されてきており、アイルランドへは2012年2月に6回目の融資、ポルトガルへは2012年4月に4回目の融資が実施されている。

2. 危機対応枠組みの整備・拡充〜EFSFからESMへ〜

ギリシャへの財政支援への必要性が顕在化した当時、EU・ユーロ圏には債務危機に陥った国を救済する仕組みが存在せず、危機に備えた枠組みの整備が急務となった。ギリシャへの一次支援には間に合わなかったものの(ギリシャへの融資はユーロ圏参加国による二国間融資の形態で実施)、2010年5月の臨時EU経済財務理事会において、当面の措置として総額5,000億ユーロの支援枠組みの設立が合意された。内訳はEUの既存の制度である「国際収支ファシリティ」(国際収支危機に陥ったEU加盟国を支援する融資)を600億ユーロに増額した「欧州金融安定化メカニズム(EFSM)」と、ユーロ圏参加国による特別目的事業体である4,400億ユーロの「欧州金融安定化ファシリティ(EFSF)」である。新たな枠組みであるEFSFは、ユーロ圏参加国がECBへの出資率に応じた比例配分で付与する保証に基づき、市場での債券発行で資金調達を行い要支援国に融資するものである。ただしEFSFは2013年6月までという期限付で設立されたものであり、2010年10月の欧州理事会では恒久措置としてEFSFとEFSMの機能を引き継ぐ「欧州安定化メカニズム(ESM)」を設立することが大枠で合意された。その後2011年7月にはユーロ圏参加国首脳が、2013年7月にESMを設立すること、ESMの融資はユーロ圏参加国が拠出する総額7,000億ユーロの資本に基づいて行われ、融資可能額は5,000億ユーロを上限とすることなどを内容とするESM設立条約に署名した。

こうして整備された危機対応枠組みも、債務危機の深刻化とともに、当初の計画から度々修正・強化が余儀なくされた。EFSFを通じた支援は当初、要支援国への融資と新規発行国債の引受けに限定されていたが、2011年7月のユーロ圏首脳会合で既発行国債の市場での買い支えや金融機関への資金注入も可能とすることなどが合意された(第1-2-3-17表)。また市場の懸念を払拭するには資金規模が過小であるとの批判に応え、ESMの設立を2012年7月に前倒しすることで2013年6月末のEFSF解散までは両機関が併存し、資金規模を合算できるよう、2012年2月のユーロ圏非公式首脳会議でESM設立条約の改正に関する署名が行われた79。さらに2012年3月のユーロ圏財務相会合で、EFSFとESMを合わせた支援規模を5,000億ユーロから7,000億ユーロに引き上げることも合意されている。別途、IMFへのユーロ圏参加国等の追加拠出を通じたIMF経由の1,500億ユーロの融資枠も設けられており80、ギリシャへの一次支援に充てられている二国間融資も合わせた資金総額はおよそ9,500億ユーロとなっている81

79 2011年10月のユーロ圏首脳会合ではEFSFの資金を元に設立する投資基金に新興国等からの資金を呼び込むことなどの「レバレッジ」の活用により、ユーロ圏参加国の保証額を引き上げることなく資金規模を1兆ユーロ程度に拡大することが大枠で合意された。「レバレッジ」の詳細については2011年11月のユーロ圏財務相会合で合意がなされたものの、世界経済情勢の悪化などから投資資金の呼び込みは困難となっており、同案には2012年4月時点で特段の進展は見られない。

80 2011年12月9日のユーロ圏首脳会合での合意に基づき、当初はIMFへの2,000億ユーロの追加拠出が想定されていたが、同月19日のEU財務相会合で1,500億ユーロに修正された。

81 なお、2012年4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、国際金融危機の予防と解決のためIMFの融資能力を4,300億ドル超増強するとの声明が採択されている。内訳はユーロ圏の上記1,500億ユーロ(およそ2,000億ドル)のほか、日本の600億ドル、韓国、サウジアラビア、英国の150億ドルなどである。


第1-2-3-17表 EU・ユーロ圏の要支援国救済枠組みの概要
第1-2-3-17表 EU・ユーロ圏の要支援国救済枠組みの概要

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3. 財政規律・経済ガバナンス強化

要支援国への資金手当を行う枠組みの整備と平行して、ユーロ参加国の債務返済能力を改善し、市場の信認を高めるための財政規律・経済ガバナンス強化に向けた措置も相次いで導入された。2010年9月にはEU経済財務理事会で安定・成長協定上の政策監視枠組みを強化した「ヨーロピアン・セメスター」に関する合意がなされ、2011年から実施されている。これは従来EU加盟国が自国の議会提出後に事後報告していた経済政策や予算案をEU経済財務理事会が事前に審査し、必要な勧告を行うことにより財政規律やマクロ経済安定性等に関する政策協調を改善しようとするものである。競争力の強化、雇用の促進、財政の持続可能性の強化、金融の安定性の強化といった幅広い分野で政策協調を行う「ユーロ・プラス協定」も2011年3月のユーロ圏首脳会合で採択された。同協定にはユーロ参加国に6か国(ブルガリア、デンマーク、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア)を加えた23か国が参加している。

さらに、債務問題の深刻化に対応し、財政規律の監視・執行を強化するため、2011年10月に「経済ガバナンスに関する6つの法規(six-pack)」の導入に合意し、同年12月に発効した。同法規は財政規律強化に関する4法規とマクロ経済不均衡是正に関する2法規から成り、前者では財政支出の基準値の導入や「財政赤字GDP比3%以内」又は「政府債務残高GDP比60%以内」の基準を満たさないユーロ参加国に対し「逆特定多数決」制度により半自動的に制裁を課す82こと、後者では欧州委員会が各国の経済指標に基づき不均衡評価を行い、不均衡が過剰であるとされたEU加盟国に対して是正行動計画の採択を求めることなどが定められている83。2012年3月の欧州理事会では同法規をさらに強化した「経済通貨同盟における安定・調整及び統治に関する条約(財政条約:FiscalCom-pact)」も英国とチェコを除くEU25か国で署名された。同条約参加国には同条約発効後1年以内に、景気変動要因を除いた構造的財政赤字をGDP比0.5%84以内に抑制する旨を憲法又はそれに準ずる国内法で規定することなどが義務づけられている。同条約はユーロ参加国17か国中12か国の国内批准をもって発効することとなっており、ユーロ参加国の債務返済能力に対する市場の信認回復に向けて早期の発効が期待されている。

82 従来の安定・成長協定の仕組みでは、財政規律に違反した加盟国への制裁発動には特定多数決(加盟国に予め割り当てられた持ち票総数354票中255票、かつ賛成国の人口総数がEUの全人口の62%以上)による賛成が必要とされており、実態上制裁発動は困難であった。本法規の導入により、加盟国の持ち票総数のうち75%以上の反対がない限り制裁が自動的に発動されることとなった。

83 さらに2011年11月には同法規をさらに強化するため、債務危機へ陥っている国への監視メカニズムを制度化し、欧州委員会の提案に基づき欧州理事会が債務危機国に対し金融支援を要請するよう勧告できることなどを内容とする提案が欧州委員会からなされ、現在EU理事会と欧州議会での審議に付されている。

84 政府債務残高がGDP比で60%以内の場合は1.0%。


4. 金融部門の体質強化

欧州債務危機は財政問題にとどまらず、貸し手の金融機関が含み損を抱えることにより財務状況の悪化を招くという金融部門の問題でもあったため、債務危機の深刻化とともに、金融部門の安定化と市場の信認の回復に向けた措置の実施も急務となった。

2010年7月には、欧州銀行監督者委員会(CEBS、その後欧州銀行監督機構(EBA)に改組)が米国発の世界経済危機を受けて2009年に初めて実施した銀行の健全性審査(ストレステスト)の対象行をEU域内の26行から91行へと大幅に拡大して再び実施した。同審査では対象行のうち7行の中核的自己資本比率が6%を下回り不合格とされた。さらに2011年7月には再度同審査が実施され、普通株などで構成される狭義の中核的自己資本比率を5%以上とするより厳格な合格基準のもと、8行が不合格とされた。これらの審査結果と各行の国債保有残高など個別のデータの公表により銀行の財務状況への懸念が払拭されると期待されたが、市場からは査定基準が甘いとの批判を受けたほか、当該審査で合格とされた金融機関がほどなく経営破綻に追い込まれる事態となった85ことから同審査の信頼性への疑問がむしろ高まってしまった。このため2011年10月のEU・ユーロ圏首脳会合では、2011年9月末時点で保有する国債を評価した上で、2012年6月末までに狭義の中核的自己資本比率9%の達成による資本増強をEU加盟国の主要な銀行に対して要求することが合意された。これをふまえて、欧州銀行監督機構(EBA)が2011年12月に再評価したEU主要銀行の資本不足総額はおよそ1,147億ユーロとなっており、現在、各行は増資やリスク資産の売却等を通じた資本増強の途上にある。

85 ベルギーの大手行であるデクシアは、2011年の同審査で合格とされた3ヶ月後の2011年10月に経営破綻している。


5. 欧州中央銀行(ECB)の非標準的金融政策

EUレベルでの対応と平行して、ECBもユーロ圏の金融市場安定化に向けた措置を講じてきている。まず、ギリシャへの第一次支援がとりまとめられた2010年5月には、「証券市場プログラム」を創設し、重債務国の長期国債の市場での買い支えを開始した。国別の国債購入の内訳は公表されていないが、市場の懸念がイタリア、スペインに波及し両国の国債利回りが急上昇した2011年8月以降、両国債を中心に購入を加速したものとみられており、2012年4月27日時点の購入残高は2,140億ユーロに達している(第1-2-3-18図)。また2008年7月から開始86された、ユーロ圏全域で発行されたカバードボンド(担保付き債券)買取りプログラムを2010年6月まで実施し、総額600億ユーロの買取りを行っている。

86 当初は2007年8月のパリバ・ショック以降、米国のサブプライム関連商品への投資を抱えた銀行部門の信用不安を避ける目的で導入された。


第1-2-3-18図 ECBの証券市場プログラムによる国債購入の推移
第1-2-3-18図 ECBの証券市場プログラムによる国債購入の推移

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これらの措置に加え、銀行に対する流動性供給の拡大のため、資金供給オペの対象となる債券の担保適格基準の緩和、同オペの方式変更による銀行の必要額(応札額)全額の固定金利での供給、さらに同オペの長期化などを実施した。とりわけ2011年12月に新たに導入された3年物資金供給オペには銀行の応札が殺到し、同月と2012年3月の2度の入札により1兆ユーロ超を供給している(第1-2-3-19図)。同措置が奏功し、銀行の資金調達環境には大きな改善が見られる。ユーロ圏のインターバンク金利である欧州銀行間取引金利(euribor)は同オペが初めて実施された2011年12月以降急速に低下している(第1-2-3-20図)。

第1-2-3-19図 ECBの資産のうち銀行向け貸出残高の推移
第1-2-3-19図 ECBの資産のうち銀行向け貸出残高の推移

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第1-2-3-20図 欧州銀行間取引金利(euribor)の推移
第1-2-3-20図 欧州銀行間取引金利(euribor)の推移

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このように債務問題の顕在化以降にEU・ユーロ圏当局が講じた一連の措置により金融市場を取り巻く緊張はやや緩和しているが、これまで確認してきたとおり債務問題の背景には2000年代に広がったユーロ参加国の国際競争力の格差と経常収支不均衡が存在する。問題の根本的な解決のためには、EU・ユーロ圏当局の「痛み止め」措置によって時間を稼ぐ間に、各国は財政再建・構造改革を断行し、競争力の回復に向けた道筋を示す必要がある。また市場の懸念を払拭するため、EU・ユーロ圏による過剰財政赤字・マクロ経済不均衡是正のための相互監視制度が今後円滑に実施されることも期待される。また、ユーロ圏の国債に対する市場の信頼確保のため、欧州委員会は2011年11月に「安定債」(ユーロ共同債)の導入に向けた公開協議用の提案文書を公表しており、今後の議論の進展が注目される87

87 欧州委員会による文書の発表以降、表だった議論の進展は見られないが、欧州議会としての意見の集約に向けた動きが始められている。


(4)当面のリスク要因

最後に、債務問題と足もとの景気に係る当面のリスク要因を整理しておきたい。

1. 銀行の資本増強に伴う信用収縮

本項(3)Cでも取り上げているとおり、現在EU加盟国の銀行は2012年6月末までに狭義の中核的自己資本比率を9%に引き上げることによる資本増強が要求されているため、目標の達成に向け今後銀行の与信が縮小することで、既にマイナス成長に陥っているユーロ圏の景気がさらに冷え込むおそれがある。IMFは2012年4月に発表した国際金融安定性報告書88の中で、欧州の銀行が2013年末までに資産総額の7%に相当する2.6兆ドルを圧縮することで、ユーロ圏の与信が1.7%減少する可能性があると指摘している89

ECBは銀行への流動性供給を大幅に拡大することで信用収縮の抑制を図っており、ECBがとりまとめた2012年第1四半期の銀行融資に関する調査によると、同期に融資基準を厳格化したと回答した銀行が前期から大幅に減少90するなど、一定の効果が出ているものとみられる。2011年12月に欧州銀行監督機構に資本不足と指定された銀行が2012年1月までに作成した資本増強計画でも、資本増強の77%は新株発行による市場からの資金調達や内部留保の積み増しなど自己資本の増加を通じて実施され、貸出し減少などのリスク資産の圧縮は23%にとどまるとされている。

他方で、ユーロ圏の各銀行が各国中央銀行に保有する当座預金の残高は2012年3月末時点でおよそ7,900億ユーロにのぼっており(第1-2-3-21図)、ECBが3年物資金供給オペによってユーロ圏の銀行に供給した1兆ユーロ超の資金の大半は、新規貸付には回らず各国の中央銀行に据え置かれている状況とみられる。資本増強の加速に伴い信用収縮が発生することはないか、注視していく必要がある。

88 IMF(2012a)

89 現行政策シナリオでの推計値。欧州債務危機がさらに深刻化するなどの最悪のシナリオでは、銀行の資産圧縮は3.8兆ドルにのぼり、2013年のGDPを1.4%押し下げるとしている。

90 同調査は2012年3月23日から4月5日にかけて、ユーロ圏の131の銀行を対象に実施。2012年第一四半期に金融機関を除く企業向けの融資基準を厳格化したと回答した銀行は、緩和したとの回答を差し引いたネット・ベースで前期の35%から9%に減少した。


第1-2-3-21図 ユーロシステムの当座預金残高
第1-2-3-21図 ユーロシステムの当座預金残高

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2. 財政再建と経済成長の負の連鎖

ここまで見てきたとおり、EU各国は財政規律の強化と財政再建を進めているが、財政改革を急ぐことで緊縮財政が景気を急速に冷え込ませ、税収減によりさらなる財政悪化に陥る「負の連鎖」を引き起こすリスクも顕在化してきている。

対ギリシャ支援は2010年5月の第1回融資実行以来、欧州委・IMF・ECBのトロイカによる四半期毎のレビューが行われているが、当該報告書を時系列で確認すると同国の経済情勢は融資プログラムの開始以来悪化の一途をたどっており、特に2011年から2012年にかけての実質GDP成長率予測は下方修正が繰り返されている(第1-2-3-22図)。とりわけ2011年後半から短期間で累計3.9%ポイントの下方修正が行われており、同国の経済情勢の急速な悪化が鮮明になっている。

第1-2-3-22図 IMFのギリシャの実質GDP成長率予測の変遷
第1-2-3-22図 IMFのギリシャの実質GDP成長率予測の変遷

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問題はギリシャにとどまらず、同様に厳しい財政再建策を実施しているスペインでは2011年の財政赤字が目標値の6.0%を大幅に上回る8.5%となり、2012年の目標値も当初目標の4.4%から8.5%に引き上げられている。経済構造改革の効果が発現し再び安定成長に向かうまでには一定の時間を要するため、当面の間、これらの重債務国の財政不安は継続する可能性が高い。EFSFやESM等の支援網の円滑な稼働や必要に応じた支援網の拡充によって市場の懸念を払拭するとともに、EUレベルでの経済成長促進策の検討・導入が求められる。

3. ギリシャ問題の再燃、ポルトガルの二次支援懸念

また、ギリシャの資金繰りには当面のめどがついたものの、第二次支援計画で、同国のプライマリーバランスを2013年から黒字化すること、また債務残高を2011年のGDP比165%から2020年までにはGDP比120.5%に削減することなど厳しい財政再建目標が課されている。また、最低賃金の22%削減などの労働市場改革を始めとした構造改革により国際競争力を回復し2014年からはプラス成長への転換を想定している。しかし同国では財政引締めに反発する世論の高まりからストライキやデモが頻発しており、今後の財政再建の進展については予断を許さない。再び資金不足に陥る可能性も依然として懸念されている。

ポルトガルについても、足もとの景気の落ち込みは著しく、税収の落ち込みなどによる財政再建目標未達や今後の資金不足への懸念が高まっている。EU・IMF支援プログラムでは2013年から長期国債発行による市場での資金調達を再開することとなっており、EU・IMFは2012年4月に実施した同国への第4回支援融資に係る経済・財政状況の検証報告書91で、同国の財政健全化に向けた取組は順調に進んでいると強調しているものの、現在の長期国債利回りはいまだ高水準のため、今後2013年の長期国債発行断念の可能性が市場で取りざたされている。

以上のとおり欧州債務危機を巡っては、依然としてリスク要因に事欠かない状況が続いており、今後も状況を注視していく必要がある。

91 IMF(2012b)。





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