第1章 世界経済の動向

第4節 高成長ながらも減速が見られる中国経済

1.概況

(1)中国の存在感の高まり

世界経済における中国のプレゼンスは拡大している。中国は、経済の改革開放に踏切り、2001年末にはWTOに加盟し、2000年代は年率10%の高い経済成長を続けた(第1-4-1-1図)。リーマン・ショック後、欧米諸国が低成長にとどまる中でも、中国経済は拡大を続け、2010年には我が国を抜いて米国に次ぐ世界第2位の経済規模に成長した。また、先進国だけでなく、高い成長率を持つ他の新興国、例えば同じアジアのインド等と比べても、中国の経済規模は遥かに上回っている。

第1-4-1-1図 主要国のGDP(ドルベース)の推移
第1-4-1-1図 主要国のGDP(ドルベース)の推移

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また、中国は31の直轄市・省・自治区からなるが、1つの省単独で周辺諸国に匹敵する経済規模を持っている。例えば、地域総生産が中国で最大の広東省はASEANでGDP最大のインドネシアに匹敵する規模がある(第1-4-1-2図)。

第1-4-1-2図 中国の省市とアジア主要国・地域の総生産額(2011年)
第1-4-1-2図 中国の省市とアジア主要国・地域の総生産額(2011年)

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さらに貿易面においても、輸出は世界第1位、輸入は第2位を占めた。外貨準備高は2011年末で約3兆1,800億ドルと世界第1位の規模となっており、また、米国債の保有残高も世界第1位(約1兆1,500億ドル)となるなど(第2位は日本で約1兆600億ドル)、国際社会における発言力を増している。

(2)中国経済の概観

2011年の中国経済は、インフレの抑制が経済政策の最優先課題とされ、金融引締め政策がとられる中で、年央からは欧州債務危機から欧州向け輸出が鈍化をはじめ、輸出の比重の高い沿海部を中心に経済成長が減速した。

(GDP)

実質GDP伸び率は2011年通年で9.2%と、依然として底堅い成長を維持したものの、伸び率にやや鈍化が見られる(第1-4-1-3図)。四半期ごとの推移を見ると、2012年の第1四半期まで5四半期連続で成長率は低下している。

第1-4-1-3図 中国の実質GDP成長率(前年同期比)の推移
第1-4-1-3図 中国の実質GDP成長率(前年同期比)の推移

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需要項目別に見ると、2011年全体で、外需は寄与度がマイナスに転じる(2010年:1.0%→2011年:-0.5%)一方で、内需は堅調を保った。投資がやや減速するものの、大きな寄与度を維持(同5.6%→5.0%)し、消費も拡大(3.8%→4.8%)した。次に各需要項目に関連する指標を見ていく。

(消費)

2011年の社会消費品小売総額は堅調に推移した。品目別に見ると、購入補助金の終了した自動車、家電は伸び悩む一方で、食品、衣類は好調を持続している。ただし、このところは、伸びが低下している(第1-4-1-4図)。

第1-4-1-4図 社会消費品小売の伸び率(前年同月比)の推移
第1-4-1-4図 社会消費品小売の伸び率(前年同月比)の推移

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消費を支える所得の動向を見ると、都市部・農村部とも一人当たりの実質所得は上昇しているが、特に農村部の所得の伸びが年々上昇し、2010年以降は都市部の伸び率を上回っている(第1-4-1-5図)。所得の源泉をたどると、農村部では、約4割強を占める賃金性収入(出稼ぎによる送金を含む現金収入)が高い伸びを示した結果、農村部一人当たり純収入は名目ベース17.9%、実質ベースで11.4%と、実質GDP成長率(9.2%)を上回る伸びを示した(第1-4-1-6表)。一方、都市部では、賃金性収入が2/3を占め、一人当たり可処分所得は名目ベース14.1%、実質ベースで8.4%、伸びた(第1-4-1-7表)。

第1-4-1-5図 都市部・農村部の所得伸び率の推移
第1-4-1-5図 都市部・農村部の所得伸び率の推移

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第1-4-1-6表 農村部の一人当たり純収入
第1-4-1-6表 農村部の一人当たり純収入

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第1-4-1-7表 都市部の一人当たり可処分所得
第1-4-1-7表 都市部の一人当たり可処分所得

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(投資)

固定資産投資は高い伸びが続いているが、やや鈍化している。

業種別には、2009年に講じられた4兆元の景気対策で活発化した道路・鉄道等のインフラ投資の寄与度が縮小、特に2011年7月に浙江省で起こった高速鉄道事故後は鉄道投資が急速に減少した(第1-4-1-8図)。一方、製造業投資の寄与度は拡大し、不動産業の投資も堅調で住宅バブルといわれる住宅価格高騰を招き社会問題となった。

第1-4-1-8図 中国の固定資産投資の伸び率(年初来累計・前年同期比)の推移
第1-4-1-8図 中国の固定資産投資の伸び率(年初来累計・前年同期比)の推移

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しかし、2011年後半から全体の伸びはやや鈍化している。特に道路・鉄道等のインフラは2012年初めに前年比マイナスに転じている。

(外需)

2011年の貿易は、輸出入とも拡大し貿易収支は黒字が続いている(第1-4-1-9図)。しかし、毎月の輸出伸び率の推移を見ると、2011年半ば以降、欧州債務危機の影響を受けて、EU向けを中心に輸出が鈍化してきている(第1-4-1-10(a)図)。また、輸出の鈍化に対応して、輸入も同様に年央以降は鈍化が続いている(第1-4-1-10(b)図)。なお、日本からの輸入は、2011年3月以降低調が続いており、東日本大震災の影響に加え、中国の輸出鈍化に伴う日本からの中間財や機械設備の輸入減少を反映していると考えられる。

第1-4-1-9図 中国の貿易額の推移
第1-4-1-9図 中国の貿易額の推移

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第1-4-1-10(a)図 中国の輸出の伸び率(前年同月比)の推移
第1-4-1-10(a)図 中国の輸出の伸び率(前年同月比)の推移

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第1-4-1-10(b)図 中国の輸入の伸び率(前年同月比)の推移
第1-4-1-10(b)図 中国の輸入の伸び率(前年同月比)の推移

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(国際収支)

中国は、経常収支で黒字を計上するとともに、高い成長率は海外からの投資も引きつけ資本収支も流入超を続けた。さらに人民元の上昇を抑えるための市場介入もあって、これまで外貨準備は増大してきた。しかし、2011年は経常黒字が縮小するとともに、第3四半期に資本収支の純流入額は前期に比べて減少し、第4四半期は流出超となった。このため外貨準備が減少に転じた(第1-4-1-11図)。

第1-4-1-11図 中国の国際収支の推移
第1-4-1-11図 中国の国際収支の推移

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(物価と金融政策)

2009年に前期比マイナスまで低下した消費者物価は、2010年を通じて上昇し、預金基準金利も上回り、2011年初頭には抑制目標である4%を超える水準まで上昇していた(第1-4-1-12図)。特に国民生活に影響の大きい食品価格の上昇が著しい。中国政府は、2011年の最優先課題として物価の抑制を掲げ、金融引締め政策を実行した。2010年末から毎月連続で、5回にわたる金利引上げ(計125bp)、9回にわたる預金準備率引上げ(計450bp)を行った(第1-4-1-13図、第1-4-1-14図)。

第1-4-1-12図 中国の消費者物価の伸び率(前年同月比)の推移
第1-4-1-12図 中国の消費者物価の伸び率(前年同月比)の推移

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第1-4-1-13図 中国の政策金利の推移
第1-4-1-13図 中国の政策金利の推移

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第1-4-1-14図 中国の預金準備率の推移
第1-4-1-14図 中国の預金準備率の推移

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この結果、消費者物価上昇率は、2011年7月をピークに低下に向かっている。一方、欧州債務危機に伴う輸出の減速から、経済成長の鈍化が懸念され、金融緩和を求める声も高まった。このような中で、2011年12月に中国人民銀行は預金準備率の引下げに踏み切り、さらに2012年2月、5月にも引下げを行った。

また、通貨供給量の推移を見ると、金融引締め政策を受けて、2010年末から伸び率が低下しており、これに応じて、貸出残高も伸びが次第に落ちてきている(第1-4-1-15図)。預金準備率引下げに踏み切った2011年12月に通貨供給量伸び率は反転の兆しを見せ、2012年に入って、通貨供給量、貸出残高の伸び率、新規貸出額は上昇に向かった。

第1-4-1-15図 中国の通貨供給量及び貸出の推移
第1-4-1-15図 中国の通貨供給量及び貸出の推移

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(人民元)

人民元は、リーマン・ショック後、事実上のドルペッグに戻っていたが、2010年6月に人民元相場を弾力化し、その後は、米ドルに対して小幅な上下を繰り返しながら緩やかに上昇してきた(第1-4-1-16図)。ただし、中国経済の減速とともに、最近は元レートの下落が続く事態も見られ、一方的な先高感は薄れてきている。このような中で、中国人民銀行は、2012年4月に人民元の為替レートの変動幅を、これまでの1日当たり、上下0.5%から1%に拡大した。なお、2009年4月から試験的に導入されていた人民元による貿易決済を貿易の資格を持つ全国の企業に拡大することも決定された(2011年8月)。

第1-4-1-16図 中国の人民元対ドルレートの推移
第1-4-1-16図 中国の人民元対ドルレートの推移

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(対内直接投資)

中国への対内直接投資は、2009年の減少の後、2010年、2011年は増加した(第1-4-1-17図)。また、金額的な増加とともに、投資対象業種、地域も次第に広がってきている。投資対象業種は、依然として製造業向けが大きな投資額を維持しているが、最近はむしろ不動産のほか、卸・小売業、ビジネスサービス等の非製造業向けが拡大している。また、投資対象地域は、沿海部(江蘇省、広東省等)から、中部(河南省等)、西部(四川省、重慶市等)、東北(遼寧省等)のシェアが拡大している(第1-4-1-18図)。投資元は香港が大きな金額を占めているが、2011年は日本、シンガポールも増加している(第1-4-1-19図)。

第1-4-1-17図 中国に対する対内直接投資の推移
第1-4-1-17図 中国に対する対内直接投資の推移

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第1-4-1-18図 中国に対する対内直接投資の投資対象地域
第1-4-1-18図 中国に対する対内直接投資の投資対象地域

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第1-4-1-19表 中国に対する対内直接投資の投資国・地域
第1-4-1-19表 中国に対する対内直接投資の投資国・地域

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(対外直接投資)

中国政府は、2000年代初め頃から、中国企業の積極的な海外進出(「走出去」)を提唱しており、この方針に沿って、政府支援の下、対外直接投資は急速に拡大している(第1-4-1-20図)。投資対象業種としては、リース・ビジネスサービスが最も多く、金融、卸・小売業が続いている。また、投資先として、香港、ヴァージン諸島、ケイマン諸島等を通じた投資が多い(第1-4-1-21図)。直接投資の目的としては、中国製品の販売、技術の獲得等が考えられるが、最近は特に資源開発目的の投資が多いとの指摘がある。

第1-4-1-20図 中国の対外直接投資の推移
第1-4-1-20図 中国の対外直接投資の推移

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第1-4-1-21図 中国の対外直接投資の投資先(2010年)
第1-4-1-21図 中国の対外直接投資の投資先(2010年)

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(3)2012年の中国経済の運営方針

2011年12月、経済の基本方針を検討する中央経済工作会議が開催され、(i)経済の平穏で比較的速い発展、(ii)経済構造調整、(iii)インフレ期待の管理の関係をバランスよく処理する方針を決定した。これは、「インフレ抑制」から「安定成長」へと軸足を移したことを意味し、これを受けて、2012年3月の全国人民代表大会(日本の国会に相当。以下「全人代」と略す)において2012年の経済政策の運営方針が発表された。

そのポイントを見ていくと、政府の主要任務として、まず、「経済の安定したより速い発展」が最優先課題として挙げられ、内需、特に消費需要の拡大が強調された(第1-4-1-22表)。次に物価水準の安定が優先課題として掲げられ、特に食品の生産を拡大するとともに、流通を活性化してコストの引下げを図る方針が示された。

第1-4-1-22表 2012年度の主要任務―第11期全国人民代表大会第5回会議(政府活動報告)から
第1-4-1-22表 2012年度の主要任務―第11期全国人民代表大会第5回会議(政府活動報告)から

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また、同時に発表された2012年度の主要目標を見ると、経済成長率が前年の8%から7.5%に引き下げられた(第1-4-1-23表)。これは経済発展のパターンを転換し、成長の質とパフォーマンスを向上させることで、長期にわたる発展につなげていくためと説明されている。消費者物価については引き続き4%前後に抑制する方針となっている。金融・財政政策については「積極的な財政政策」と「穏健な金融政策」を掲げ、適度な財政赤字と国債規模を維持するとともに、マネーサプライ(M2)の伸びを14%(昨年実績13.6%)にして、安定的な成長を支える意図を示唆した。その際に、情勢の変化に応じて適時かつ適切に微調整を行う方針も示した。なお、人民元については、管理変動相場制の柔軟性を高める方針を示し、後に実施されることになる上下双方向での変動幅の拡大を示唆した。

第1-4-1-23表 2012年の主要経済目標
第1-4-1-23表 2012年の主要経済目標

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