第1章 世界経済の動向

第6節 中南米、ロシア経済

2.ロシア経済

(1)堅調な景気

ロシア経済は2008年の世界金融危機の影響を受けて大きく落ち込んだが、原油等のエネルギー価格の上昇に支えられ順調な回復を遂げた。2011年第4四半期の実質GDP成長率は前年同期比4.8%増と欧州債務危機の影響により世界主要国の成長が鈍化する中でも堅調な伸びを維持している(第1-6-2-1図)。2011年の成長率は、2010年と変わらず前年比4.3%増を記録した。

第1-6-2-1図 ロシアの実質GDP成長率の推移
第1-6-2-1図 ロシアの実質GDP成長率の推移

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1. エネルギー価格上昇が主導する経済成長

経済の最大の牽引役は総輸出の約7割202を占めるエネルギー価格の上昇である。第1-6-2-2図では原油価格とロシアの名目GDPの推移を示しているが、ロシア経済は1998年のロシア金融危機の収束以降、原油等のエネルギー価格の上昇と連動する形で目覚ましい成長を遂げてきた。インフレによる影響を除いた実質値ベースでも、同国は1999年から2008年まで10年にわたりプラス成長を維持し、同期間の平均成長率は世界平均の2.8%を大きく上回る6.7%を記録している。世界金融危機の発生に伴い2008年後半に大きく下落した原油価格は、2009年第一四半期を底として再び上昇に転じたため、同国経済も成長基調を取り戻している。

202 第11図参照。


第1-6-2-2図 ロシアの名目GDPと原油価格の推移
第1-6-2-2図 ロシアの名目GDPと原油価格の推移

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2. 好調な個人消費

エネルギー価格の上昇が輸出価格の上昇を通じて企業業績を押し上げた結果、雇用情勢も順調に改善し、世界金融危機直後に9%台にまで上昇した失業率は6%台にまで低下している(第1-6-2-3図)。賃金の上昇も顕著で、名目賃金は消費者物価上昇率を上回るペースで上昇しており203、雇用・所得環境の改善が個人消費を活性化させることで個人消費主導の経済成長がもたらされている。実質GDP成長率を需要項目別に分解してみると(前掲第1-6-2-1図)、世界金融危機の影響を受けて大きく景気が落ち込んだ2009年を除き、個人消費が安定的に経済成長を牽引し続けていることがわかる。雇用情勢の改善に加え、食料価格の低下などによりインフレ率が1991年の旧ソビエト連邦崩壊以降最低の歴史的低水準に低下している204点も実質所得の増加を通じた個人消費の下支えにつながっている(第1-6-2-4図)。さらに、2008年から2009年にかけて落ち込んだ個人向け与信が2010年以降再び拡大を始め、特に2011年に入り前年比で平均24%のハイペースで増加している点も旺盛な消費を支えている(第1-6-2-5図)。

203 2010年1月時点と2011年12月時点を比較すると、名目賃金の伸び(72.2%上昇)は消費者物価の伸び(13.6%上昇)を大きく上回っている。

204 2010年には記録的な猛暑による干ばつ被害で穀物価格が急騰したこと等から消費者物価上昇率は8.8%を記録したが、2011年には豊作による穀物価格の下落などから消費者物価上昇率は過去最低の6.1%に低下した。


第1-6-2-3図 ロシアの小売売上と失業率の推移
第1-6-2-3図 ロシアの小売売上と失業率の推移

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第1-6-2-4図 ロシアの消費者物価上昇率の推移
第1-6-2-4図 ロシアの消費者物価上昇率の推移

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第1-6-2-5図 ロシアの個人向け与信額の推移
第1-6-2-5図 ロシアの個人向け与信額の推移

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3. 顕著な所得拡大

ロシアにおける所得水準の上昇は顕著であり、月収が15,000ルーブル(約39,000円)超の所得階層は2004年の6.6%から2010年には45.3%にまで拡大し(第1-6-2-6図)、実質賃金も2012年第1四半期時点で2000年第1四半期の3.3倍に増加205している。2011年に入り欧州債務問題が深刻化してからも、同国の個人消費は底堅く推移しており、同年の乗用車販売台数は前年比15%増の142万台を記録した(第1-6-2-7図)。このように個人消費をとりまく環境は良好であり、2012年も個人消費主導による底堅い成長が見込まれている。

205 ロシア統計局が四半期毎に発表している実質賃金の前年同期比伸び率(前年同期を100とした指数)をもとに推計。


第1-6-2-6図 ロシアの所得階層別人口構成の変化
第1-6-2-6図 ロシアの所得階層別人口構成の変化

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第1-6-2-7図 ロシアの乗用車販売台数の推移
第1-6-2-7図 ロシアの乗用車販売台数の推移

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(2)当面のリスクと課題

1. 財政

2009年の世界金融危機を受けて赤字に転じた財政収支は、エネルギー価格の高止まりにより歳入の半分近くを占める206エネルギー関連の税収が好調なことから改善傾向にあり(第1-6-2-8図)、2011年は2008年以来3年ぶりの黒字を計上した。一方で、ロシア政府の作成した2012-2014年度の連邦予算では国防予算の大幅増207などから歳出が2012年の11.8兆ルーブルから2014年には14.1兆ルーブルに拡大される計画となっており、2012年には再び財政赤字に転じる見通しである208

206 ロシア財務省によると、2011年予算上の歳入11.1兆ルーブルのうち、原油・ガス関連収入は5.5兆ルーブルと49.5%を占めている。

207 ロシア政府の作成した2012-2014年連邦予算案によると、国防費は2011年の1兆5千億ルーブルから2014年には2兆7千億ルーブルに増加する。

208 加えて、プーチン首相(当時)は2012年2月13日に「正義の構築:ロシアの社会政策」と題する政権構想を発表し、国立大学教員、医師、科学者など公的部門の給与の引き上げや大学生・大学院生への奨学金の増額、子供手当ての増額などを打ち出した。これらが実施された場合は、財政支出が更に拡大する可能性がある。


第1-6-2-8図 ロシアの連邦政府財政収支(名目GDP比)の推移
第1-6-2-8図 ロシアの連邦政府財政収支(名目GDP比)の推移

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また、同予算では、原油・ガス収入を除いた財政収支の赤字幅が2012年の6.5兆ルーブルから2014年には6.7兆ルーブルへと小幅ながら拡大する見込みであり、資源価格の変動による影響を受けやすい構造となっている。2012年度予算では、原油価格の前提を1バレル=100ドルとした上で、同年の財政赤字をGDP比1.5%と想定しているが、世界銀行の試算では仮に原油価格が1バレル=80ドルに低下した場合には同年の財政赤字はGDP比3.1%、1バレル=60ドルに低下した場合には同5.3%に拡大する可能性が指摘されている209

209 世界銀行(2011)「Russian Economic Report No.26 September 2011」。


2. 金融

ロシアでは、2011年に入り、欧州債務問題が深刻化する中で、グローバルなリスク資産の選別が進んだこと、また2012年3月の大統領選挙を控えた経済政策の先行き不透明感の高まりなどを受け、足もとでロシアからの資金流出が進んでいる(第1-6-2-9図)。2012年第1四半期の民間部門の資本収支は351億ドルの流出超となり、とりわけ銀行部門の流出が前期の67億ドルから160億ドルに増加した。国際決済銀行(BIS)の2011年9月末時点のまとめによると、ロシアへの外国銀行のエクスポージャー(与信、デリバティブ取引等を含む)の66%が欧州の銀行である210ことから、欧州の銀行が進めている資本増強211の動向によっては、さらなる資金流出が進むおそれがある。

一方でロシアは2011年9月末時点で5,168億ドルにのぼる潤沢な外貨準備を抱えており、為替相場の急変に際してはルーブル買いによる市場介入が可能なこと、経常黒字の規模が大きいこと212などから、金融市場が極端な混乱に陥る可能性は低いものとみられる。

210 BIS(2011)「Consolidated Banking Statistics at end-September 2011」。

211 EU加盟国の銀行は2011年10月の欧州理事会での合意に基づき2012年6月末までに中核的自己資本比率を9%に引き上げることが義務づけられている。

212 2011年の経常黒字は988億ドルと、2010年の711億ドルから39%増加している。同年の名目GDP比でもおよそ6%と高水準である。


第1-6-2-9図 ロシアの民間部門の資本流出入
第1-6-2-9図 ロシアの民間部門の資本流出入

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3. 貿易

世界的な景気減速局面でも、エネルギー価格の高止まりから輸出は前年比20%増を上回る水準で推移している(第1-6-2-10図)。一方でロシアの財輸出に占めるエネルギー関連輸出は69%と極めてエネルギー依存度の高い輸出構造となっていることから(第1-6-2-11図)、また、ロシアは地理的な近接性などからEUへの輸出が輸出総額の54%を占めており、スイスと並んで欧州依存度が著しく高い輸出構造でもある(第1-6-2-12図)。このため、欧州債務問題の深刻化や資源価格の下落が発生した場合、欧州に対する輸出の減少や、輸出価格の下落による影響を被る可能性がある。

第1-6-2-10図 ロシアの輸出の推移
第1-6-2-10図 ロシアの輸出の推移

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第1-6-2-11図 ロシアの財輸出に占める石油天然ガス関連比率の推移
第1-6-2-11図 ロシアの財輸出に占める石油天然ガス関連比率の推移

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第1-6-2-12図 主要国の輸出総額に占めるEU27向け輸出(2011年)
第1-6-2-12図 主要国の輸出総額に占めるEU27向け輸出(2011年)

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4. 投資

対ロシアの直接投資動向の推移を確認すると(第1-6-2-13図)、2000年代を通じて対内・対外投資とも大きく増加しているが、2008年の世界金融危機以降、対外直接投資が危機前の水準を上回る中で、対内直接投資は相対的に伸び悩みが見られる。同国の投資環境については一層の改善の余地が指摘されている。世界銀行は2004年から例年世界各国の事業環境を評価して順位付けを行い年次報告書「DoingBusiness」として公表しているが、2011年12月に公表された最新版の同報告書によれば、ロシアは183か国中第120位と低位に位置づけられている。BRICs間で比較すると、総合順位でも中国を30位下回るほか、投資家保護や輸出入手続の面においてはインドやブラジルよりも大きく評価が劣っている(第1-6-2-14表)。

第1-6-2-13図 ロシアの対内・対外直接投資の推移
第1-6-2-13図 ロシアの対内・対外直接投資の推移

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第1-6-2-14表 BRICs各国の事業環境評価
第1-6-2-14表 BRICs各国の事業環境評価

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ロシアは2011年12月のWTO閣僚会議で加盟が承認されており、2012年内には、国内での批准を経て正式なWTO加盟国となることが予定されている。また、2012年9月には、ロシアが初めてAPECの議長として首脳会議等を開催する予定となっている。今後はこうした国際的な枠組みの下、貿易・投資環境の改善が進むことが期待される。

5. 我が国との関係

(a)貿易関係

日ロ貿易は、世界金融危機の影響を受けた2009年の急激な落ち込みを除いて、2000年代を通じて堅調に伸びてきている(第1-6-2-15・16図)。

第1-6-2-15図 ロシアからの輸入品目の推移
第1-6-2-15図 ロシアからの輸入品目の推移

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第1-6-2-16図 ロシアへの輸出品目の推移
第1-6-2-16図 ロシアへの輸出品目の推移

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輸入についてみると、鉱物性燃料の占める割合が増加の傾向にあり、2010年からは輸入額全体の8割を超えている。そのうち原油は、金額ベースでは2009年の約2倍となっている(なお、重量ベースでは2010年に急増したもののその後減少し、2011年は2009年と同レベルとなっている)。

日本からの輸出については、輸送機械が全体の半分を占めている。そのうち自動車は、世界経済危機の影響に加え、ロシア政府による大幅な関税引上げや国産車優遇措置などにより2009年に大きく落ち込んだものの、安定した個人消費に支えられ、その後回復の傾向にある。

(b)投資関係

近年の日本からの投資は、製造業のほか、卸売・小売業など幅広い業種で行われており、直接投資残高は順調に伸びてきている。堅調な個人消費を反映し、卸・小売業への進出が盛んなほか、旺盛な資金需要を受け、金融・保険業への進出も増加している(第1-6-2-17図)。

第1-6-2-17図 ロシアへの業種別直接投資残高
第1-6-2-17図 ロシアへの業種別直接投資残高

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