第3章 我が国企業の海外事業活動の展開

第1節 我が国企業の海外事業活動の現状と課題

本節では、まず、我が国企業の海外事業活動を業種、企業規模、地理的範囲、機能、事業拡大手段等の面から概観することにより、海外事業活動の裾野の広がりについて示す。

次に、歴史的な円高、震災による電力供給の不安などにより急速に懸念が拡がっている国内産業の空洞化について分析する。本節では、生産、投資、雇用の減少を空洞化の要素と捉え、国内の製造業と海外事業展開企業の動向を確認する。

空洞化問題について、我が国の抱える課題をより詳細に捉えるために、特にドイツ、韓国、米国と国際比較を行う。ドイツと韓国は、製造業従事者の割合が先進国の中では比較的高い水準にあり、現在でも製造業の強い国である。米国は産業構造の転換が先進国の中でいち早く進み、製造業の割合は低い水準にある。これらの国々との比較を通じて、我が国産業の空洞化懸念の現状と今後の課題を明らかにする。

最後に、こうした海外事業活動の拡大が国内企業の生産性や雇用等を通じて、国内経済にどのような影響をもたらすのかを分析・検証することにより、我が国にとっての海外事業活動の重要性を示す。

1.我が国の海外事業活動の裾野拡大

始めに、我が国企業の海外事業活動(輸出・輸入や対外直接投資)について、「裾野の広がり」という切り口で現状を整理する。まず、輸出・輸入における中小・中堅企業の割合とその変化から、企業規模の面での広がりを示す。次に、対外直接投資の広がりを業種・企業規模・地理的範囲・機能の各側面から示していく。

(1)輸出入企業の裾野拡大

我が国の輸出1企業の特徴から確認する。経済産業省「企業活動基本調査」2によると、輸出企業数は約6,000社あり、その数は漸増傾向にある。輸出企業の約7割が製造業、2割強が卸売業となっており、その他の業種は合わせて5%程度にとどまっている(第3-1-1-1表)。

1 ここでいう輸出は、財輸出に限る。サービス輸出は含まれない。

2 この調査は、鉱業、製造業及び卸売業・小売業その他一定のサービス業種の企業のうち、従業者50人以上かつ資本金額又は出資金額3,000万円以上の会社を調査対象としている。


第3-1-1-1表 業種別の輸出企業数と輸出額(億円)
第3-1-1-1表 業種別の輸出企業数と輸出額(億円)

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一社当たりの輸出額は、製造業、卸売業ともに100億円を超える水準で推移しており、ほぼ拮抗している。いずれも2007年まで上昇したものの、世界経済危機の影響で2008年度は減少に転じ、直近では卸売業の一社当たり輸出額が製造業のそれを上回っている。なお、2008年度から2009年度の輸出減少局面にあっても、輸出企業数が減少していない点は注目される。厳しい環境にもかかわらず、少なくとも2009年度の時点までは輸出企業の裾野の縮小は見られていない。

次に、輸出入額の企業規模別シェアをみると、製造業では、輸出入ともに従業者1,000人以上の規模の大企業のシェアが圧倒的に高いものの、すう勢的にはやや低下傾向にある。特に、2008年度、2009年度の貿易減少局面においても、従業者数999人以下の企業の輸出・輸入シェアは低下せず、輸入ではむしろ上昇が見られることから、中堅・中小企業による輸出入活動の底堅さを示している。(第3-1-1-2図)。

第3-1-1-2図 輸出入額の従業者規模別シェア(製造業)(左:輸出額、右:輸入額)
第3-1-1-2図 輸出入額の従業者規模別シェア(製造業)(左:輸出額、右:輸入額)

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他方、卸売業では、製造業と比べると1,000人以上の規模の企業の占める割合が低く、反対に499人以下の企業のシェアが高い。輸出・輸入とも2000年代半ばまでは999人以下の企業のシェアが拡大したが、最近では1,000人以上の規模の企業のシェアの回復が見られる(第3-1-1-3図)。

第3-1-1-3図 従業者規模別の貿易(卸売業)(左:輸出額、右:輸入額)
第3-1-1-3図 従業者規模別の貿易(卸売業)(左:輸出額、右:輸入額)

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今後については、ジェトロのアンケート調査(平成23年度)3の結果をみると、「輸出の拡大を図る」と回答した企業が全体の50.3%を占め、「現在輸出を行っていないが今後検討する」と合わせて60%の企業が輸出に積極的な姿勢を見せている。特に中小企業4では11%が「現在輸出を行っていないが今後検討する」と回答しており、中小企業を含めた輸出の拡大が期待される(第3-1-1-4図)。

3 ジェトロ「平成23年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」。

4 中小企業の定義は中小企業基本法に基づく。


第3-1-1-4図 輸出の今後(3年程度)の方針(全産業)
第3-1-1-4図 輸出の今後(3年程度)の方針(全産業)

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(2)我が国企業の対外直接投資の裾野拡大

次に、我が国企業の対外直接投資の現状と広がりを、業種別、企業規模別、地理的範囲別、進出機能別に確認する。

1. 業種の広がり

経済産業省「海外事業活動基本調査」5によって海外現地法人数の推移をみると、2004年度から2010年度にかけて一貫して法人数が増加していることがわかる。現地法人の業種構成を見ると、非製造業の伸びが顕著であり、2007年には製造業の海外現地法人数を非製造業が上回り、それ以後、両者の差は広がっている(第3-1-1-5図)。

5 この調査は、毎年3月末時点で海外に現地法人を有する我が国企業(金融・保険業、不動産業を除く)を対象としている。


第3-1-1-5図 海外現地法人数の推移
第3-1-1-5図 海外現地法人数の推移

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内訳を詳しくみると、製造業では、2004年度から2010年度にかけて、輸送機械、一般機械の海外現地法人数が増加する一方、化学、情報通信機械、電気機械で減少しており、製造業に属する海外現地法人数が全体として伸び悩んだことがわかる(第3-1-1-6図)。

第3-1-1-6図 業種別の海外現地法人数の推移(上:製造業、下:非製造業)
第3-1-1-6図 業種別の海外現地法人数の推移(上:製造業、下:非製造業)

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非製造業では、卸売業の海外現地法人数の増加が全体の増加に大きく寄与している。その他の業種については、サービス業、情報通信業の海外現地法人数が増加している一方、運輸業、小売業はほぼ横ばいで推移している。非製造業に属する海外現地法人数に占める業種別シェアでみても、卸売業は2004年度から2010年度にかけて更に拡大しているが、サービス業も2007年度以降、拡大が見られる(第3-1-1-7図)。

第3-1-1-7図 業種別の海外現地法人数の内訳(左:製造業、右:非製造業)
第3-1-1-7図 業種別の海外現地法人数の内訳(左:製造業、右:非製造業)

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海外現地法人数が、特に非製造業において増加している背景として、海外市場獲得の重要性が増していることがあると考えられる。対外直接投資の決定要因に関する調査結果6によると、製造業・非製造業ともに、2004年度から2010年度にかけて、「進出先の良質で安価な労働力が確保できる」と回答する企業の割合が減少しているのに対して、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」、「進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる」と回答する企業の割合が増加している。このような対外直接投資の主たる目的のシフトが、対外直接投資の業種構成にも反映していると見ることができる(第3-1-1-8図、第3-1-1-9図)。

6 経済産業省「海外事業活動基本調査」より。本項目は、調査年度に海外現地法人に新規投資又は追加投資を行った本社企業を対象としている。


第3-1-1-8図 投資の決定要因(製造業)
第3-1-1-8図 投資の決定要因(製造業)

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第3-1-1-9図 投資の決定要因(非製造業)
第3-1-1-9図 投資の決定要因(非製造業)

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製造業について、対外直接投資状況を更に詳しくみると、海外子会社保有企業数は、機械系の業種で多いという傾向は変わらないが、その他の業種を含め、ほとんどの業種で海外子会社の保有企業数が2001年度から2009年度にかけて増加していることがわかる7。また、海外子会社保有企業が各業種の総企業数に占める割合も上昇しており、我が国製造業の海外事業活動の業種面での広がりが確認できる(第3-1-1-10図)。

7 「平成21年経済センサス−基礎調査」は、事業所・企業統計調査と調査の対象は同様であるが、調査手法が商業・法人登記等の行政記録の活用、本社等一括調査の導入等の点において異なるため、平成18年までの事業所・企業統計調査との差数がすべて増加・減少を示すものではない。


第3-1-1-10図 我が国の業種別海外子会社保有企業数・割合の変化
第3-1-1-10図 我が国の業種別海外子会社保有企業数・割合の変化

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2. 企業規模の広がり

次に、企業規模別の対外直接投資状況を確認する。まず、海外子会社保有企業割合は企業規模が大きいほど高い一方で、数で見るとこうした企業の約半数は従業者数50人から999人の中小・中堅企業であることが分かる。次に、2001年から2006年にかけて、海外子会社保有企業数・割合とも特に上昇が目立つのもこの規模の企業であり、海外事業展開の広がりが裏付けられる。なお、2009年にかけて減少に転じているが、世界経済危機の下での特殊な動きの可能性もあり、また、2001年時点の水準よりは増加している8(第3-1-1-11図)。

8 「平成21年経済センサス−基礎調査」は、事業所・企業統計調査と調査の対象は同様であるが、調査手法が商業・法人登記等の行政記録の活用、本社等一括調査の導入等の点において異なるため、平成18年までの事業所・企業統計調査との差数がすべて増加・減少を示すものではない。


第3-1-1-11図 従業者規模別の海外子会社保有企業数・割合(全産業)
第3-1-1-11図 従業者規模別の海外子会社保有企業数・割合(全産業)

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製造業と卸売・小売業とに分けてみると、こうした一般的な傾向は共通しているが、製造業の場合従業者数5,000人以上の企業では80%以上が海外子会社を保有しているのに対し、卸売・小売業ではこうした大企業でも20〜30%に止まっている(第3-1-1-12図)。

第3-1-1-12図 規模別の海外子会社保有企業数の推移(左:製造業、右:卸売・小売業)
第3-1-1-12図 規模別の海外子会社保有企業数の推移(左:製造業、右:卸売・小売業)

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このように、中小企業の海外事業活動が活発化してきたとはいえ、中小企業全体に占める海外子会社保有企業の割合は依然として低い。中小企業基盤整備機構のアンケート調査(平成22年度)9の結果をみると、中小企業が海外事業展開までに至らなかった理由について、製造業では、「国内で人材が十分に確保できなかった(37%)」と回答する企業が最も多く、次いで、「予測が不十分で決断できなかった(33%)」が多い。卸売業では、「国内対策で海外事業を手掛けられなくなった(43%)」、「予測が不十分で決断できなかった(43%)」が主な理由として挙げられている。これは、人材不足やリスク回避的なマインド、情報不足が中小企業の海外事業展開の阻害要因となっていることを示唆している(第3-1-1-13図)。

9 中小企業基盤整備機構「中小企業海外事業活動実態調査」。


第3-1-1-13図 海外進出の断念理由(左:製造業、右:卸売業)
第3-1-1-13図 海外進出の断念理由(左:製造業、右:卸売業)

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また、同じアンケート調査結果をみると、中小企業の国際化を支援している機関のうち、最も利用している支援機関10は、ジェトロが圧倒的に高い結果となっている。次いで利用が多い機関は、商工会議所・商工会である(第3-1-1-14図)。

10 本設問は、中小企業基盤整備機構以外の機関について尋ねられている。


第3-1-1-14図 最も利用したことのある支援機関
第3-1-1-14図 最も利用したことのある支援機関

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ジェトロの支援メニューのうち、最も効果があったとされる支援は「相談・コンサルティング」で、「効果があった(37.8%)」と「やや効果があった(43.9%)」あわせて81.7%の中小企業が効果があったと評価している。次いで効果が高かったとされる支援は「海外ニュース等の情報提供」で、「効果があった(29.6%)」と「やや効果があった(50.4%)」あわせて80.0%の中小企業が効果があったと回答している。このように、ジェトロを中心とした支援機関による取組が、中小企業の海外事業活動促進の一助となった可能性があり、今後更に中小企業の海外事業活動を活発化するため、人材育成、情報提供、コンサルティング支援を政策としてより一層強化していく余地がある(第3-1-1-15図)。

第3-1-1-15図 ジェトロの支援効果
第3-1-1-15図 ジェトロの支援効果

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3. 展開先国・地域の広がり

3つ目に、国・地域別の海外現地法人数をみると、製造業、非製造業共に中国、北米、欧州で全体の約6割を占めるが、2004年度から2010年度にかけて、中国のシェアが、製造業では28.6%から36.6%に、非製造業では18.5%から24.4%にそれぞれ拡大しており、欧米のシェアは漸減している(第3-1-1-16図)。

第3-1-1-16図 展開地域別の海外現地法人数(左:製造業、右:非製造業)
第3-1-1-16図 展開地域別の海外現地法人数(左:製造業、右:非製造業)

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その他アジア(インド、ベトナム等)については、全体に占める割合はまだ小さいものの、2004年度から2010年度の年率平均で、製造業が10.5%増加、非製造業が20.0%増加と、大きく伸びている(第3-1-1-17図)。

第3-1-1-17図 国・地域別の海外現地法人数の年率平均伸び率(2004年度〜2010年度)(上:製造業、下:非製造業)
第3-1-1-17図 国・地域別の海外現地法人数の年率平均伸び率(2004年度〜2010年度)(上:製造業、下:非製造業)

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非製造業では、2004年度から2010年度にかけて、全地域で海外現地法人数が増加しており、裾野の広がりがみてとれる。2004年度から2010年度にかけての増加率についても、アフリカ以外の全地域で非製造業が製造業を上回っている。

全体の傾向としては、展開先の先進国から新興国へのシフトが進行しているということができる。

以上からは、海外現地法人の中国への集中が進んでいるようにみえるが、中国国内での事業展開地域には広がりがみられる。国際協力銀行のアンケート調査11をみると、中国の各地域における事業について、中期的(今後3年程度)に強化・拡大すると回答した企業の割合は、2008年度調査では、東北地域が56%、華北地域が64%、華東地域が68%、華南地域が68%、内陸地域が52%と、沿岸地域を重視している企業が多かったのに対して、2011年度調査では、東北地域が72%、華北地域が75%、華東地域が74%、華南地域が69%、内陸地域が77%と、沿岸地域を重視する姿勢は2008年度に比べて強まっているものの、内陸地域の事業を強化・拡大すると回答した企業の割合が全地域中、最大となっており、中国内での事業展開は地域的な広がりをみせ始めているといえる(第3-1-1-18図)。

11 国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(各年)。


第3-1-1-18図 中国における事業強化地域
第3-1-1-18図 中国における事業強化地域

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4. 海外子会社の機能の広がり

最後に、海外子会社の機能の広がりについて現状を確認する。製造業では、製造部門のみならず、卸売やサービス等の非製造部門の機能を担う子会社が増加している。前述した通り、企業の対外直接投資の目的は、費用削減から現地市場の取り込みに重点がシフトしているため、製造業の中でも販売関連機能の強化が進展していると考えられる(第3-1-1-19図)。

第3-1-1-19図 海外子会社・関連会社の業種構成
第3-1-1-19図 海外子会社・関連会社の業種構成

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他方、卸売業や小売業でも製造子会社を増加させている等、進出形態が多様化していることが伺える。

以上、我が国企業の海外事業活動の現状を裾野の広がりという観点で整理してきた。我が国企業の海外事業活動として典型的に想起されるのは、大規模製造業企業が東アジアを中心とするサプライチェーンを展開し、欧米を中心とした大市場に売りさばいていくという姿であろう。こうした海外事業活動が依然として重要であることは、第2章で見てきたところである。しかし、我が国企業の海外事業活動は、これまで「内需型」と言われることも多かった非製造業等の業種や、中堅・中小企業を含めて、また、地理的・機能的にも、より広がりを持つものとなりつつある。言い換えあると、海外事業展開という選択肢は、一握りの企業のためのものではなく、まさに「みんなのもの」となりつつあると言える。

(3)海外事業活動の展開〜増加する対外M&Aと今後の課題〜

次に、海外事業展開の手段としての対外M&A(mergers & acquisitions)の拡大についてみていく。2011年の我が国企業による対外M&A12は、件数でみると1996年以降で最多の457件、金額でみると3番目に多い約6.3兆円となった(第3-1-1-20図)。この要因としては、買収13や資本参加14が2年連続で増加したことがあげられる(第3-1-1-21図)。特に、対外M&Aを形態別にみると、2011年には買収が213件(対前年比約37%増)と初めて200件を突破し1996年以降最多となった。買収が増加した背景には、日本の企業の資金的な余裕、迅速な事業展開へのニーズ、長期的な円高等があると考えられる。

12 本項で対外M&Aとは、企業が外国において買収、資本参加、事業譲受、出資拡大、合併を行う場合を指す。対外直接投資の一形態として「グリーンフィールド」型に対置される。

13 ここで買収とは、50%超の株式取得を指す。

14 ここで資本参加とは、50%以下の株式取得で初回取得のものを指す。


第3-1-1-20図 我が国の対外M&Aの件数及び金額の推移
第3-1-1-20図 我が国の対外M&Aの件数及び金額の推移

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第3-1-1-21図 我が国の対外M&Aの形態別件数の推移
第3-1-1-21図 我が国の対外M&Aの形態別件数の推移

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我が国企業の内部留保額と対外買収額をみると、内部留保額の増減が対外買収額に1〜2年程度先行する関係となっており、2011年には我が国企業が豊富な資金力を背景に対外買収を積極的に展開した可能性があると考えられる(第3-1-1-22図)。

第3-1-1-22図 我が国企業の内部留保額と対外買収額の推移
第3-1-1-22図 我が国企業の内部留保額と対外買収額の推移

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また、我が国企業の対外M&Aの主な目的をみると15、「事業規模・シェアの拡大」に続いて「スピーディな事業拡大」、「販路の獲得」を志向している企業が多く、対外買収により既に海外市場で販路を確立している外国の企業の親会社となって早急に市場を確保したいという思わくがあった可能性が高い(第3-1-1-23図、第3-1-1-24表)。また、他の目的としては、「技術の獲得」、「人材の獲得」、「事業の多角化」等が挙げられている。特に、非製造業においては、「人材の獲得」や「事業の多角化」を挙げる企業の割合が製造業より高いことが特徴となっている。

15 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「我が国企業の海外事業戦略に関するアンケート調査」(2012)で「対外M&Aの主たる目的」について日本企業が回答したもの。


第3-1-1-23図 対外M&Aの主たる目的
第3-1-1-23図 対外M&Aの主たる目的

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第3-1-1-24表 対外M&Aの事例
第3-1-1-24表 対外M&Aの事例

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特に2011年については、震災や円高による危機感やリスク分散の必要性から、早急な海外事業展開のため、対外買収に積極的になった可能性が考えられよう。

次に、我が国企業の地域別対外買収件数をみると、2011年は中東・アフリカ以外は買収件数が増加しており、特にアジア・大洋州地域が伸びている(第3-1-1-25図)。2007年にもアジア・大洋州の案件が急激に増加した際は、国別では、インドネシア、中国等への対外買収が牽引していたが、2011年には、オーストラリア、インド等が中心となった。具体的には、オーストラリアでは、総合商社によるエネルギー関連や林業関連の企業の買収、金融機関による銀行や投資会社の買収、情報通信サービス会社によるシステム関連企業の買収、医療機器メーカーによる製薬包装関連企業の買収等、幅広い分野での買収が行われた。また、インドでは、自動車部品関係、製錬関連、塗装関連等、急速に拡大している自動車関連市場への進出を果たした案件が目立った他、海運関連や物流関連の会社による運送関連企業の買収が行われた。

第3-1-1-25図 我が国企業の地域別対外買収件数の推移
第3-1-1-25図 我が国企業の地域別対外買収件数の推移

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また、近年は円高基調が定着し、特に2011年は歴史的円高水準となったことから、この円高メリットを生かす意味でM&Aが注目を集めた。ドル・円レートと対外買収件数とを長期でプロットすると、一定の連動関係が見られる場面が多い(第3-1-1-26図)。他方、為替水準や変動を踏まえ、実際にM&Aの実施に至るまでには一定の期間を要すると考えられることから(第2-4-3-4図参照)、2011年の対外買収件数の増加には、2011年の円高のみならず2008年以降の円高基調の長期化も含めて我が国企業にとって対外買収に追い風となった可能性がある。

第3-1-1-26図 我が国企業の対外買収件数と為替レートの推移
第3-1-1-26図 我が国企業の対外買収件数と為替レートの推移

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一方、順調に増加したと考えられる対外M&Aだが、今後の課題も多い。まず、主要国の実質GDPと対外M&A件数とを比較すると、日本は実質GDPが米国の約4割であるのに対し、対外M&A件数は約1/4に留まっている(第3-1-1-27図)。カナダ、英国、フランスは、実質GDPの規模の割に対外M&Aが活発に行われているが、これとは対照的に、日本は実質GDPの規模の割に対外M&A件数が少ないという状況であることが分かる。そのため、主要先進国の中で、日本企業は迅速な海外事業展開や市場・人材の確保、ひいては業界再編や構造転換に後れをとる可能性がある。

第3-1-1-27図 2011年の主要国の実質GDPと対外M&A件数の対米比
第3-1-1-27図 2011年の主要国の実質GDPと対外M&A件数の対米比

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我が国企業が対外M&Aに躊躇する理由をみると、本年2月の調査16では、対外M&Aを行っていない理由として、「M&Aの相手先となる魅力的な企業がない」が1位となっており、これに「M&Aをする十分な情報がない」が続いている(第3-1-1-28図)。同調査では、今後、対外M&Aを促進するために必要とされる事項として、7割近い企業が「市場や企業の情報の確保」と回答しており、政策課題として対外M&Aを意識した海外の市場や企業の情報の提供が考えられよう(第3-1-1-29図)。また、対外M&Aを促進するために必要とされる事項として、「専門人材の確保」を求める回答も多い。例えば、商社やコンサルティング会社のOB等で対外M&Aの経験を積んだ人材の活用等も重要になってくると考えられる。

このように、対外M&Aは、我が国企業にとり市場や人材の迅速な確保を図るには魅力的な手段であると捉えられている一方で、情報がなく不慣れなため難しい手段と受け止められている。情報の確保や人材育成などの課題を、企業による試行錯誤と政策的支援によって克服していくことが、対外M&Aを海外事業展開において効果的に活用していく上で重要であると考えられる。

16 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「我が国企業の海外事業戦略に関するアンケート調査」(2012年)


第3-1-1-28図 対外M&Aを行っていない理由
第3-1-1-28図 対外M&Aを行っていない理由

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第3-1-1-29図 対外M&Aを促進するために必要とされる事項
第3-1-1-29図 対外M&Aを促進するために必要とされる事項

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