第3章 我が国企業の海外事業活動の展開

第2節 海外事業活動に関する国際比較

2.ドイツの海外事業活動の特徴と支援策

ここからは、ドイツ海外事業活動の特徴と支援策を分析し我が国へのインプリケーションを導出する。

(1)ドイツの海外事業活動の特徴

1.地域の拡がり

ドイツは、欧州の中心部に位置する地の利を活かして、欧州域内を中心に大規模に海外事業活動を展開している。輸出額では7割、直接投資残高では8割がEU域内に向けられている30。対外直接投資額は、地域別では欧州が圧倒的な一位であり、北米が続き、アジアは増加しつつも低い水準にある(第3-2-2-1図)。

30 ドイツの貿易動向については、1章2節、2章2節を参照。


第3-2-2-1図 ドイツの地域別対外直接投資額残高(対GDP比)
第3-2-2-1図 ドイツの地域別対外直接投資額残高(対GDP比)

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ドイツの輸出の大半は欧州向けだが、その中でも東欧の3か国(チェコ、ハンガリー、ポーランド)向けは、2004年のEU東方拡大以降に急速に伸び、新興国への輸出の伸びと軌を一にしている(第3-2-2-2図)。

第3-2-2-2図 ドイツの欧州向け財輸出の推移
第3-2-2-2図 ドイツの欧州向け財輸出の推移

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また、対外直接投資についても、東欧の3か国(チェコ、ハンガリー、ポーランド)に向けは、アジア新興国と同様に急激な伸びとなっている(第3-2-2-3図)。対外直接投資の収益率を見た場合、ドイツは我が国に比べ、高い水準で推移している(第3-2-2-4図)。

第3-2-2-3図 ドイツの対外直接投資の推移(ネット:フロー)
第3-2-2-3図 ドイツの対外直接投資の推移(ネット:フロー)

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第3-2-2-4図 主要国の対外直接投資収益率の推移
第3-2-2-4図 主要国の対外直接投資収益率の推移

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2.中小企業による差別化戦略(「隠れたチャンピオン」)

中小企業が積極的に国際展開を行っていることがドイツの海外事業活動の大きな特徴である。中小企業庁によれば我が国の中小企業のうち従業者数300人以下の企業では直接輸出を行う割合は2.8%だが、欧州委員会の調査では20%のドイツの250未満の中小企業が直接輸出を行っているとされる。また、直接投資においても、我が国中小企業の実施状況が0.3%にとどまる一方で、ドイツの中小企業の直接投資比率は2.3%にも上る(第3-2-2-5表)。また、日米では、輸出が少数の企業に集中する傾向にあるが、ドイツではより分散している(第3-2-2-6表)。

第3-2-2-5表 日独の中小企業の海外事業展開をする割合(%)
第3-2-2-5表 日独の中小企業の海外事業展開をする割合(%)

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第3-2-2-6表 上位10%の企業が輸出総額に占める割合(%)
第3-2-2-6表 上位10%の企業が輸出総額に占める割合(%)

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注目すべきことは、ドイツの中堅企業が海外事業展開を通じて、世界シェア1位や2位を獲得するような企業が生まれている点である。ドイツの経営学者ハーマン・サイモンは、ドイツの中堅企業の中から特に優良な企業を「隠れたチャンピオン(HiddenChampi-on)」と呼んでいる31。@特定の分野で世界トップ3又は大陸欧州で1位、A売上高が40億ドル未満、B一般的にあまり知られていない、以上の三点を満たす企業と定義している。ドイツはこの隠れたチャンピオンに代表される分厚い中堅企業群が、製造業の競争力の源泉を担っていると言われる。

隠れたチャンピオンは世界市場シェアを確保するため、@製品・技術を得意分野に特化させることに併せて、Aグローバル・マーケティング活動を行っている。食器洗浄機のメーカーを例にこの戦略を考えてみる。あるメーカーが、ホテル・レストラン用の食器洗浄機に強みがあるとわかった場合、病院、学校、企業、各種団体を顧客にビジネスを拡大するのではなく、あくまで顧客はホテル・レストランに絞る。ただし、食器洗浄機だけでなく、関連する浄水器、洗剤、サービスを顧客に提供する。広く浅くではなく、狭く深く顧客に関わることでライバルに真似をできない高い質の商品とサービスを提供することが可能になる(第3-2-2-7図、第3-2-2-8図)。

31 「隠れたチャンピオン」と呼ばれる企業はサイモンの定義では、我が国の中小企業よりも大きな規模になるため、本書では「中堅企業」と呼ぶことにする。


第3-2-2-7図 隠れたチャンピオンの戦略の2本柱
第3-2-2-7図 隠れたチャンピオンの戦略の2本柱

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第3-2-2-8図 食器洗浄機の戦略の例
第3-2-2-8図 食器洗浄機の戦略の例

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もっとも、ドイツの中小企業が昔から強い国際競争力を有していたわけではなかった。欧州統合が拡大し、労働賃金の低い東欧から安価な製品が流入し市場のプレーヤーが増えた中で、競争力のない多くの企業が淘汰され、実力のある企業が残ったことが背景にある。他方で、我が国よりも非常に早い段階から中小企業が国際展開を進めてきたという伝統もその要因である。例えば、自動車業界において、ドイツの自動車メーカーと中小の部品メーカーとの間に系列関係が存在していたが、1960年代になり、自動車メーカーがフランスなどの隣国に進出する中で、中小のメーカーも自動車メーカーを追いかける形で海外事業を行うようになった。この過程で、自動車メーカーが系列のメーカーから全ての部品を調達しない傾向が強まったことが明らかになっている。部品メーカーが国際的な競争を勝ち抜くための開発努力と営業努力を行うようになった。

ところで、隠れたチャンピオンはドイツに500〜1,000社あると言われているが、細谷(2009)は我が国に1,000社程度存在する「ものづくりのグローバル・ニッチ・トップ企業」と呼ばれる中小・中堅企業の多くが隠れたチャンピオンに相当するとしている32。例えば、京都発祥の部品メーカーはかつて「隠れたチャンピオン」の典型であり、現在でも東京に本社を移していないのは、早い段階から海外と直接取引をしてきたためと分析している。なお、体系的な研究がされていない点が日本とドイツとの違いと言われる33

32 中小企業庁は2006年から毎年「元気なモノ作り企業300社」を公表しているが、この相当部分が「隠れたチャンピオン」あるいはその候補と考えられる。細谷祐二(2009)「地域経済活性化の鍵を握る日本のヒドゥン・チャンピオン」経済産業研究所。

33 経済産業省(2010)「知識組替えの衝撃」。


3.高付加価値戦略(Made in Germany)

ドイツでは、中堅企業に加え、大企業もMadeinGermanyという品質を重視し、単価の高い商品の開発、販売に成功している企業が多い。例えば、自動車においては、ブランド化が顕著で、ダイムラー社は、高級ラインはドイツ国内でのみの製造を維持し高い単価で世界に輸出をしている。更に、フォルクスワーゲン社(VW)は、VWブランドによる市場の規模確保と同時にグループ内の高級ブランドの差別化を進めている。こうした徹底したブランド化による「憧れ的な立ち位置」の獲得により、ドイツ企業は、可能な限り価格競争を回避しながら、新興国の需要を取り込むことに成功している。中国の消費者が最も好きな外車メーカーの調査では上位10位の中に我が国からはトヨタ1社のみがランクインしている中、ドイツ企業は上位5位を独占している(第3-2-2-9図)。

第3-2-2-9図 中国の消費者が最も好きな外車メーカー
第3-2-2-9図 中国の消費者が最も好きな外車メーカー

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結果として、輸出単価においても、ドイツ車は、Made in Germanyのブランド力を背景に、中国が輸入する場合は一台あたり平均8万3,500ドルと高額で、日本からの輸入車(3万9,000ドル)の2倍以上になっており中国での収益獲得を実現している34

他には、マシニングセンターの輸出単価を見てみると、ドイツの輸出単価は、一台43万ドルで、我が国の14万ドルを凌駕している。また、消費財に関しても、万年筆(21.87ドル)は我が国(1.37ドル)を大きく引き離している(第3-2-2-10表)。

34 3,000cc超の自動車(HSコード870324)。


第3-2-2-10表 ドイツと輸出シェア1位の国の輸出品単価
第3-2-2-10表 ドイツと輸出シェア1位の国の輸出品単価

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このような中堅企業、大企業の高付加価値化戦略の実施により、ドイツは単価の高い商品を輸出していることが明らかになっている。結果として、同じく製造業の経済に占める割合が大きい我が国と韓国の交易条件が悪化する中で、ドイツの交易条件は安定している35。高付加価値戦略は、同じく製造業に強みを持つ我が国企業、我が国の産業全体にとって、参考にできる部分が大きい。

35 ドイツの交易条件の推移については、2章3節を参照。


(2)海外事業活動の支援策

このように、ドイツ企業は中堅企業も大企業も積極的に海外展開を行い、長年の経験を活かし下請から脱しブランドを確立している企業も多い。こうした企業の発展には、政府、各種団体の海外事業活動の支援が大きな役割を果たしてきた。ここでは、以下、中堅企業のための海外事業活動支援とEU拡大による貿易障害除去の取組を紹介する。

1.中堅企業のための海外事業活動支援

ドイツは、大手企業、中堅企業と多様な企業の海外事業活動が実施されている。大手企業は独自で進出が可能であると考えられ、中堅企業に向けて行政と民間による支援が提供されている36。大きく分けで3つの段階で、(1)ドイツ貿易・投資振興機関、(2)在外商工会議所、(3)大使館・領事館という官民の組織による重層的な支援体制が構築されている。

ある国・地域での事業活動を考えた場合、まず、ドイツ貿易・投資振興機関(Germany Trade & Invest)の支援を利用できる。ドイツ貿易・投資振興機関は、ドイツの連邦経済技術省の下部組織で、ドイツからの国外への貿易と投資、国外からドイツへの貿易と投資の振興をミッションにしている。対外直接投資を顕揚しているドイツ企業に対しては、世界150か国以上に関する現地情報の提供、目的に応じた調査を行っている。加えて、ドイツへの投資に関心を持つ外国の企業にドイツの事業環境について情報を提供し、現地パートナーの紹介、税制など法的な問題の相談などに対応している。我が国においては、日本貿易振興機構(JETRO)に似た機関と言える。

次の段階では、ドイツの商工会議所が海外事業の拡大に影響をサポートしている。ドイツの商工会議所には、ドイツで設立された有限会社は全て参加が義務となっているが、情報交換、親ぼくに限らず、研究開発の相互支援など精力的な活動が行われている37。ドイツ商工会議所は世界80か国に120か所の支部を展開しているおり、ドイツの企業が実際に貿易・投資などで関係してくる国の98%以上をカバーしていると言われる。事務所も大きいところでは、インドネシアは現地スタッフを含め70名、インドでは80名の体制で運営されている。在外商工会議所は、実際に海外で事業活動をする企業に対して、現地でのパートナーの紹介や関連する団体との折衝を行っている。また、在外商工会議所は、国内の各地域の商工会議所とも連携しており、情報の交換などが行え、地域から海外への連続した情報提供による支援が可能となっている。

最後に、海外で事業を行う中で、税制、法律などのトラブルが生じたときには、大使館、領事館が窓口となり現地当局との折衝を担当している。こうした3重の支援体制をはじめ、様々なプログラムが提供されている。

そして、実際に、こうしたサービスは広く認識されており、頻繁に利用されている。ドイツ商工会議所のアンケート調査によると、95%の企業が国内の商工会議所が海外事業活動拡大のための支援事業を行っていることを認知し、38%の企業は実際に利用したことがあると回答している38。海外の事業所展開についても、過半数の企業が「在外の商工会議所」(78%)、「海外での見本市」(66%)、「民間の保険」(64%)、「商談ミッション」(62%)、「輸出促進金融機関の保証」(59%)、「ヘルメス保険39」(58%)を利用できることを知っており、頻繁に活用している(第3-2-2-11図)。

36 ドイツ貿易・投資振興機関へのヒアリング調査によると、同機関はあらゆる規模の会社に対してサービスを提供しているが、従来サービスの利用者のほとんどが中堅企業だったのに対し、2011には大手企業からまとまった調査を受託したことがあり、今後、企業の支社がないような遠い地域への海外事業活動を検討する中で、大企業へのサービスの提供も増加する可能性はあるとのことである。

37 商工会議所による研究開発の支援については3章4節「ドイツの立地競争力強化に向けた取組」を参照。

38 母数が、ドイツ商工会議所の実施したアンケートに回答している企業であるため、必ずしもドイツ全体の企業が同様の割合で支援サービスを認識、利用しているわけではない。

39 ドイツ政府の輸出保険機関。


第3-2-2-11図 海外展開における支援機関の利用状況
第3-2-2-11図 海外展開における支援機関の利用状況

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ところで、行政の提供する支援サービスに限らずに、そもそもドイツ企業が海外事業活動を行う際に、どういったところに相談をするかをみる。先述のアンケートによると「事業パートナー」(44%)が最多で、続いて「国内の商工会議所」(43%)となっており、「金融機関」(25%)、「税理士」(20%)、「弁護士」(14%)など特定の専門分野を持つ専門家よりも、身近な存在が上位にきている。日常の事業活動に近い存在である地元の商工会議所が海外展開に際しても大きな存在となっている(第3-2-2-12図)40

40 ドイツ商工会議所の中小企業に対する技術開発支援については、3章4節「ドイツの立地競争力強化」を参照。


第3-2-2-12図 ドイツ企業が海外事業活動をする際の相談先
第3-2-2-12図 ドイツ企業が海外事業活動をする際の相談先

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こうしたドイツの支援策は、中国など新興国が我が国とドイツ両方の経済にとって重要な海外事業活動の拠点であること、我が国とドイツで輸出産業がともに経済成長に大きく寄与をしていることなどから、我が国にとって参考になると考えられる。まず、商工会議所などのネットワークの強化と利用の促進が有効である。我が国も、世界39か国、80か所に商工会議所が存在しているが、情報共有、親睦が主な活動になっている状況が多く、ドイツのように技術を供与しあうなど事業に直接的にプラスになる活動は活発ではない。商工会議所の機能を強化し、中小企業の事業活動の直接的な助けになるようなネットワークを構築することが求められる。また、ドイツの国内の商工会議所が海外展開についての相談窓口となっている点も参考になる。我が国企業の海外事業活動を推進していく上で、国内での支援機関の裾野が拡大していくことが有効となる。




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