第4章 外との繋がりによる日本経済の新たな成長に向けて

第2節 ニーズの変化に対応した海外事業活動支援

4.成長の期待される農林水産物輸出と風評被害対策

(1)我が国の農林水産物・食品輸出の現状

2011年の我が国農林水産物・食品輸出について品目別に見ると、総額4,511億円の内、農産物:2,652億円、林産物123億円、水産物1,736億円となっている。農産物に限って見てみると、加工食品:1,252億円、畜産品308億円、穀紛等187億円、野菜・果実等:154億円、その他:748億円となっている(第4-2-4-1図)。

第4-2-4-1図 我が国農林水産物輸出の現状(2011年)
第4-2-4-1図 我が国農林水産物輸出の現状(2011年)

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我が国の農林水産物輸出先国を金額ベースで見ると、アジア及び米国が上位を占めている。世界の農林水産物貿易は、地域内で行われる傾向が強く、その典型はEU地域であるが、日本からの輸出も、香港、中国、台湾といった東アジア地域向けのものが多くを占めている58(第4-2-4-2表)。今後、アジア新興国で富裕層、中間層が拡大していく中で、我が国の農林水産物の輸出の拡大が期待される。

58 アメリカ向けで上位を占めるホタテとブリについては、世界の貿易量に占める割合のうち日本が常に上位に入る品目であり、日本に比較優位が認められるとされている。


第4-2-4-2表 日本の主な輸出相手国・地域と品目(2011年)
第4-2-4-2表 日本の主な輸出相手国・地域と品目(2011年)

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海外において日本食の人気が広がり、アジア等新興国で生活水準が上昇する中で、我が国の農産品の輸出拡大が期待される。他方で、震災後に我が国の農産品に対して輸入規制を実施する国も存在しており、政府による支援が重要となる。

(2)東日本大震災と風評問題

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力・福島第一原子力発電所(以後、福島第一原発)の事故に関連して、一部の在日大使館や外資系企業等が東京から一時退避する動きが見られた他(現在までに正常化)、一部の国・地域において、農林水産品を中心に我が国輸出品への輸入停止や放射性物質の検査証明書等の提出要求、輸入国による検査の強化といった措置がとられている。現在までに鉱工業品への輸入規制はおおむね撤廃されている59が、農林水産品については、カナダ・メキシコ・チリ・ペルー等一部の国60を除き規制の全面撤廃には至っていない。シンガポール・フィリピン61などにおいて輸入停止の対象地域が縮小されるなど、一部の国・地域において輸入規制緩和の動きが見られるが、いまだ45か国・地域62(平成24年6月5日現在)において輸入規制措置がとられている。

我が国は、福島第一原発の事故直後から、我が国の食品・製品の安全性を確保するため、徹底した措置を講じること、当該措置につき各国の政府・報道機関・国民に対し迅速かつ正確な情報発信を実施すること、我が国の出荷制限よりも広範な規制を取っている国・地域に対して科学的根拠63に基づき規制の撤廃、対象地域・品目の縮小等の働きかけを行い、日本産食品等の輸出回復へ向け取り組んでいる(第4-2-4-3表)。

59 エジプトのみ、一部鉱工業品に対する輸入禁止措置を継続している。(サンプル検査は一部の国・地域で引き続き実施されている。)

60 カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、ミャンマー、イラク、セルビア

61 シンガポール:輸入停止(11都県の畜産物、野菜、果物等)→10都県(愛媛除外)→8都県(静岡、兵庫除外) ※除外された県については、産地証明を要求。
フィリピン:輸入停止(6県の野菜・果物等、4県の肉・乳製品等)→解除 ※解除された県については、放射性物質検査証明(福島、茨城)又は産地証明を要求。

62 EU加盟国27か国については、1地域として算出。

63 このような貿易制限的な措置について科学的根拠を要求する国際法上の根拠は、SPS協定とTBT協定である。


第4-2-4-3表 主要国における農林水産物の主な輸入規制状況(2012年5月23日現在)64
第4-2-4-3表 主要国における農林水産物の主な輸入規制状況(2012年5月23日現在)

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64 東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う各国・地域の輸入規制措置の現状については、農林水産省HPで最新状況を公開中。「諸外国・地域の規制措置」http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/hukushima_kakukokukensa.html


(3)我が国食品・製品安全確保のための取組

1. モニタリング体制の迅速な構築

(a)大気・土壌・水道水・海水

2011年3月14日以降、政府は、空間、海域、上水道等につきモニタリングを実施、結果を毎日各省ホームページで公表するほか、農林土壌についても、地方自治体・大学と協力して福島県他近隣5県でモニタリングを実施、放射性物質の分布を把握し、除染計画の検討材料としている。なお、これまでのモニタリング結果を参照すると、避難区域外の我が国主要都市における大気や土壌等の放射線物質量は、人体に影響を及ぼす水準65にない。

現在日本政府は本格的に除染事業を開始しており、環境省が避難区域66(11市町村)で進める除染作業の工程表を発表したところである。今後、年間被ばく線量が50ミリシーベルト以下の「避難指示解除準備」「居住制限」の両区域で優先して作業を進め、2014年3月までに作業を完了させる。役場や高速道路など公共的な施設で先行的に除染を進めつつ、2012年7月からは地域内全体で高圧洗浄や表土除去などの本格的な作業を始める。一方、50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」は、当面モデル事業で放射線量の低減につき検証作業を進める方針である。

65 原発から230km以上離れた東京においては、震災直後の3月15日に一時的に大気中の放射性物質レベルが上昇したものの、現在は原発事故前の通常測定値範囲内にある。また福島では、3月15日、16日に25μSv/h程度の高い数値が観測されたが、その後は1〜3μSv/hの水準で推移している。なお、放射線量は建材などの遮蔽物があると減衰する性質があり、実際に受ける放射線量は大気中の測定値より少なくなる。なお、これら放射線量の目安であるが、例えば2μSv/hを屋外で1年間浴び続けた場合、CTスキャン2.5回分に相当する被ばく量となる。

66 「放射性物質汚染対処特措法」に基づき、2011年1月1日に、国が土壌等の除染の措置を実施する「除染特別地域」を指定。この区域には「避難指示解除準備区域」、「居住制限区域」、「帰還困難区域」の3区域が含まれる。


(b)食品モニタリング

福島第一原発の事故後周辺環境から放射性物質が検出されたことを受け、日本政府は、食品衛生法第6条第2号の規定に基づく放射性物質についての暫定規制値を設定し、規制値を上回る食品については食用に供されることがないよう対応することとし、各自治体に通知した。また2012年2月24日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会は新基準値の設定について適当であるとの答申を行い、2012年4月1日から新たな基準値が施行されている。この基準を上回る食品については、必要に応じ出荷制限が実施され、その後、継続的モニタリングにより、安定的に基準を下回ると判断された品目から順に出荷制限は解除されている67

67 最新情報は、厚生労働省ホームページを参照http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html


(c)空港・港湾等のモニタリング

日本政府は、2011年3月20日から成田及び羽田空港における放射線量の測定を実施している。同年4月中旬から港湾の大気及び海水についても毎日測定し、結果を国土交通省ホームページ等で公表してきている。

2. 我が国輸出品の安全性に対する信頼確保

輸出される農林水産品に関しては、国内流通過程での検査に加え、水際においても我が国産品の安全性に対する信頼を確保するために、主要な諸外国・地域における食品の検査や規制強化の状況について輸出業者に情報提供し、必要に応じ安全性の証明書を発行している。鉱工業品に関しては、海外の取引先から放射線量に関する証明を求められた場合には、輸出企業に対して、放射線量検査機関の紹介や商工会議所による証明サービスの周知を実施し、ジェトロに緊急相談窓口を設置する他、全国36か所の貿易情報センターで個別に企業の相談に対応している。また、風評被害対策の一環として、国が指定した検査機関で輸出品(農水産品も含む)の放射線検査を行う際の検査料の補助68を実施している。

さらに港湾において、「港湾における船舶及び輸出コンテナの放射線測定のためのガイドライン」に基づき、2011年4月28日から、公的機関(国、港湾管理者、日本海事協会)による輸出コンテナ及び船舶の放射線測定に対する証明書の発行が順次開始されている。

68 貿易円滑化事業費補助金 補助率-中小企業:10分の9、 大企業:2分の1


3. 正確で迅速な対外情報発信

(a)政府に対する情報発信

震災発生直後より、国際会議などの場で、総理大臣や閣僚による情報発信を実施してきている。各国の輸入規制措置等に関しては、各国の関係当局が科学的根拠に基づいた対応を行うよう要請してきた。現在に至るまで、国際会議や海外出張時・来日時の会談など、あらゆる機会を捉えハイレベルでの働きかけを継続してきている。

(b)産業界・プレス等に対する情報発信

日本政府は、全ての在外公館(大使館,総領事館等)に対し震災関連の情報発信を強化するよう指示を行い、世界主要都市において在外公館・JETROによる説明会を開催している。(4月26日現在、北京・上海・ロンドン・バンコク・ソウル・パリ・香港等12カ国・地域15都市で開催済)。福島第一原発をめぐる現状や我が国の復興状況等に関する資料は、全在外公館及びJETROに送付されており、各国において相手国政府要人や有識者への働きかけ、現地メディア及びインターネット等を通じた情報発信につとめ、冷静な対応を要請することとしている。こうした大使のTV出演やインタビュー、プレスリリース、ブログ等を通じた発信、展示会や現地産業界向けの少人数説明会等、関係省庁、在外公館、JETROによる情報発信や働きかけ等の取組は、合わせてこれまで全世界で3,000件以上にのぼる。

また、国内でも各種説明会を開催しており、特に外資系企業等向けには東京のJETRO本部にて5回開催し、合計で485名の参加があった。経済産業省はさらに2011年3月14日より、震災と原子力発電所事故関連につき、外国政府・オピニオンリーダー、メディア、専門家等に向けてメールで情報提供を行っている。開始時点から、送付されたメールは延べ約43480通にのぼる(2011年4月26日時点)。

また、在京プレス特派員等を対象に、記者会見やブリーフィングを実施している。3月20日には福山内閣官房副長官、4月12日には枝野内閣官房長官,4月17日には細野総理大臣補佐官が,それぞれ外国メディア向けの会見を実施した。さらに世界経済フォーラム・グローバル・リスク会議に枝野官房長官(当時)がメッセージを発出する等、世界のオピニオンリーダーにしても積極的に説明を行っている。その他、メディアの個別インタビューへの対応やプレスリリース等の発出を通じた関連情報の迅速な発信の取組、海外TV局の招聘等を行っている。

(4)まとめ

東日本大震災及び福島第一原発事故後、我が国は、国際社会の要請に応え、透明性を確保しつつ迅速かつ正確な情報提供に最大限努めてきた。また、事故直後迅速に構築された大気・水・食品等のモニタリング体制、港湾での輸出産品のモニタリング体制の確立を通し、我が国産品の安全性確保に努めてきた。大気等のモニタリングによる検査結果は、震災後の早い段階で各種数値が低減していることを示しており、ICAOやIMOといった国際機関からも事故直後から我が国への渡航等の安全性を明示する報道発表がなされてきている69。さらにIAEAからは、我が国の原発事故への対応は、取り得る最良のものであったとの評価を受けている70

我が国の官民挙げた努力と、このような国際機関による評価等により、震災直後に見られたような外資系企業等が東京から避難する動きは、1か月後の4月初頭には沈静化し、現在までにほぼ震災前の水準に戻っている。また輸出の面では、我が国の鉱工業品に対する規制はおおむね撤廃されている。他方、農林水産品については、前述のとおり緩和傾向にあるものの、一部の国・地域において輸入規制措置が引き続き実施されている。このような規制強化の結果、被災地から遠く離れた地域の我が国産品に対しても検査等多大なコストが生じ、品目によっては輸出自体ができなくなる事態が今も発生している。

日本として、引き続き最大限の透明性をもって迅速かつ正確な情報発信をするよう努めることはもちろんであるが、各国政府に対しても、不当な輸入禁止等の措置をとらず、科学的根拠に基づいて対応するよう働きかけていく。

我が国の経済・通商活動の円滑な実施を確保し、日本国の国富を拡大していくことは、経済産業省の重要な責務である。経済産業省は今後も関係省庁や民間企業、国際機関等と連携しながら、引き続き、我が国の競争力を向上するべく、国内・国際の両面から各種政策を遂行していく。

69 国際民間航空機関(ICAO)「日本への渡航制限はない」(3/18)
国際航空運送協会(IATA)「日本への渡航制限はない」(3/18)
国際海事機関(IMO)「日本港湾での放射能による健康被害はない」(3/24)

70 IAEA調査団報告書 "IAEA INTERNATIONAL FACT FINDING EXPERT MISSION OF THE FUKUSHIMA DAI-ICHI NPP ACCIDENT FOLLOWING THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE AND TSUNAMI"





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