経済産業省
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第1節 新興国展開の重要性

 近年、我が国の市場が世界市場の中で相対的に小さくなる中、我が国の高生産性部門が経済活動を拡大させていく上で、新興国展開の重要性はますます高まっている。

 もっとも、一口に新興国といってもその様相は各地域によって様々であり、展開する意義は、それぞれの地域によって異なる。そこで本節では、地域別にミクロ・マクロの様々な経済指標を概観し、それぞれの地域が持つ潜在的な成長力を分析する。合わせて、新興国展開に係るリスクについても触れる。

1.新興国の潜在成長力

(1)新興国の経済成長見通し

 はじめに、GDPの成長見通しから概観する。IMFによる地域別の実質GDP成長率見通しをみると、2018年時点で中国が前年比8.5%成長、南西アジアが同6.6%成長、ASEANが同5.6%成長と、アジア地域で高い経済成長率が維持される見通しである。先進国の2018年時点での実質GDP成長率は2.4%と、2010年から2018年にかけて、一貫して全地域・区分の中で最も低い実質GDP成長率が予測されている(第Ⅱ-2-1-1図)。

第Ⅱ-2-1-1図 地域別の実質GDP成長率

 2012年から2018年にかけての地域別の名目GDP増加額をみると、世界全体で25.9兆ドル増加することが見込まれている中、先進国では10.5兆ドル増、新興国では15.3兆ドル増と、世界全体の名目GDP増分の約6割が新興国で生み出される見込みである(第Ⅱ-2-1-2図)。

第Ⅱ-2-1-2図 地域別の名目GDP増加額(2012年から2018年にかけての増分)

(2)新興国の人口動態

①概観

 次に、地域別の人口成長を見てみると、我が国の人口が2004年をピークに減少傾向が続いている一方で、新興国では、爆発的に人口が増加することが予想されている。国連の世界人口予測によれば、2012年から2030年にかけて、世界全体で70.5億人から83.2億人と12.7億人増加する見通しとなっているが、そのうちの95%が新興国で生み出される見込みである。特にアフリカと南西アジアにおける人口増加が著しく、同期間にかけて、アフリカでは4億9千万人、南西アジアでは3億7千万人増加する見通しである(第Ⅱ-2-1-3図)。

第Ⅱ-2-1-3図 地域別の人口増分(2012年から2030年にかけての増分)

②所得階層別の人口動態

 消費市場としての魅力を評価するためには、単に総体的な人口増分を見るだけでなく、どの所得層が拡大するのかを捉えることも重要である。所得の上昇によって、人々の消費性向は変化するためである。経済産業省(2012)によれば、世帯の年間可処分所得が5,000ドルを超えると、洗濯機や冷蔵庫等、各種家庭製品の保有率が急速に上昇し、7,000~10,000ドル辺りから外食や教育、レジャー等、各種サービスへの消費性向が急速に上昇、12,000ドルを超えるとヘルスケア分野への消費性向が高まるという(第Ⅱ-2-1-4図)。一般的に、高品質・高機能製品を得意としてきた我が国企業にとっては、より高い所得層の人口が増加する地域がより魅力的であると考えられる。以下、所得層を第Ⅱ-2-1-5表の通り定義して分析を進めていく。

第Ⅱ-2-1-4図 所得層別の消費性向イメージ

第Ⅱ-2-1-5表 所得層の定義

 世界全体の中間層・富裕層(世帯年間可処分所得が5,000ドル以上)の人口は、2010年から2020年にかけて、世界全体で44億8千万人から58億9千万人に増加することが予測されている。そのうち、先進国では10億7千万人から11億2千万人に増加する一方、新興国では、34億万人から47億7千万人と約14億人増加することが見込まれている。その結果、新興国が世界全体の中間層・富裕層人口に占める割合は、2020年には81%となる見込みである(第Ⅱ-2-1-6図)。

第Ⅱ-2-1-6図 地域別の中間層・富裕層人口

 所得階層別人口の推移を地域毎に更に細かく分解してみると、中国、南西アジアで上位中間層・富裕層の人口が大きく増加することが見込まれている。下位中間層については、アフリカでも量的拡大が見られる(第Ⅱ-2-1-7図)。

第Ⅱ-2-1-7図 地域別の所得階層別人口

 拡大する所得層は地域毎に異なることがわかったが、我が国企業は、今後、海外市場においてどの所得層をターゲットとしているのだろうか。直接投資先の国・地域において、現在ターゲットとしている所得層及び今後ターゲットとする所得層について調査した企業アンケートによれば、現在・今後ともに、大多数の我が国企業が上位中間層、富裕層を主なターゲットとしていることがわかる。ただし、今後については下位中間層をターゲットとする企業の割合が、特に非製造業と中小企業の間で高まっており、ターゲットの裾野の広がりが見える(第Ⅱ-2-1-8図)。

第Ⅱ-2-1-8図 直接投資先国・地域においてターゲットとしている所得層

(3)新興国の消費市場

①消費支出

 中間層・富裕層の増加に伴い、消費支出も増加する見通しである。2012年から2020年にかけての地域別の消費支出額の伸び率をみると、ロシア・CIS、南西アジア、中国が約2.4倍に拡大する見込みである(第Ⅱ-2-1-9図)。消費支出の増分額で見ると、同期間にかけて増加する消費支出全体の少なくとも6割が新興国で生み出される見通しとなっている(第Ⅱ-2-1-10図)。

第Ⅱ-2-1-9図 消費支出額の伸び率(2012年-2020年)

第Ⅱ-2-1-10図 消費支出額の増分(2012年-2020年)

②耐久消費財の普及率

 前述した通り、世帯の所得水準が上昇するにつれて、耐久消費財への消費性向が高まることが期待される。我が国においては、主要な耐久消費財普及率は既に高く、今後発生する耐久消費財需要のほとんどは買い換え需要が占めるとみられ、我が国の耐久消費財メーカーにとっては、拡大が見込まれる新興国の新規需要を獲得することが重要となろう。

 ここでは、耐久消費財のうち、乗用車、カラーテレビ、エアコン、冷蔵庫、電子レンジについて、新興国における現在の普及率を確認する。第Ⅱ-2-1-11図は、我が国の一般家庭における耐久消費財普及率の推移を折れ線グラフで表し、マーカーで新興国の2012年時点の耐久消費財普及率を示したものである。新興国の現在の普及率が、我が国の何年代の普及率に相当するかが見て取れる。

第Ⅱ-2-1-11図 我が国の一般家庭における耐久消費財普及率の推移と2012年時点の各国の耐久消費財普及率

 我が国の耐久消費財普及率の上昇過程を見ると、製品によって前後するが、概ねS字を描く傾向にあり、新興国展開にあたっては、普及率が急速に上昇するタイミングを捉えることが重要である。例えば、インドネシアの冷蔵庫(30.6%)、トルコの電子レンジ(10.7%)、南アフリカの乗用車(28.3%)等の普及率は、S字曲線の変曲点前に位置しており、今後、急速に伸びる可能性がある。

 次に、乗用車、カラーテレビ、エアコンについて、普及率の上昇率を見る。第Ⅱ-2-1-12図から第Ⅱ-2-1-14図は、2012年から2017年にかけての各耐久消費財普及率の年平均上昇率の予測を世界地図上に表したものである。地図上、普及率の年平均上昇率が高い国ほど濃い青で塗られている。

 乗用車については、インド、パキスタン等の南西アジア、エジプト、ナイジェリア等のアフリカ、カザフスタン、中国で大きく上昇する見通しとなっている(第Ⅱ-2-1-12図)。

第Ⅱ-2-1-12図 乗用車の普及率の年平均上昇率(2012年-2017年)

 カラーテレビについては、南アフリカ、ナイジェリア、ケニア等のアフリカ、インド等の南西アジア、ペルー等の中南米で大きく上昇する見通しとなっている(第Ⅱ-2-1-13図)。

第Ⅱ-2-1-13図 カラーテレビの普及率の年平均上昇率(2012年-2017年)

 エアコンについては、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ等のロシア, CIS、インド等の南西アジア、コロンビア、ボリビア等の中南米で大きく上昇する見通しとなっている(第Ⅱ-2-1-14図)。

第Ⅱ-2-1-14図 エアコンの普及率の年平均上昇率(2012年-2017年)

 このように、地域別の耐久消費財普及率の上昇率は、製品によって斑模様である。

(4)新興国のインフラ需要

①インフラ需要一般

 続いて、新興国のインフラ需要を見ていく。JBICのアンケート調査によると、事業展開国・地域における課題として、インド、インドネシア、ベトナムでは、「インフラが未整備」を挙げる企業の割合が過去5年間一貫して高く(第Ⅱ-2-1-15図)、近年、民主化に伴い我が国企業の間でも展開意欲が高まっているミャンマーについては、「インフラが未整備」を課題として挙げる企業の割合は72.1%にも上る。

第Ⅱ-2-1-15図 中期的(今後3年程度)有望事業展開国・地域における課題として「インフラが未整備」を挙げた企業の割合

 このように、新興国のインフラ不足は我が国企業にとって展開する際の課題となっているが、見方を変えれば、新興国にはインフラシステム輸出の機会が広がっているといえる。我が国企業のビジネスモデルはインフラの完備を前提としているものも多いといわれており(例えば、コンビニエンス・ストアの展開には高度な通信システムと道路網が必要とされている。)、新興国のインフラが整備されることで、我が国企業の海外展開の円滑化が期待される。

 第Ⅱ-2-1-16図のレーダーチャートは、上から時計回りに、水へのアクセス(地方)、水へのアクセス(都市)、道路舗装率、人口100人当たりのインターネットユーザー、人口100人当たりの携帯電話加入者、人口100人当たりの固定電話加入者、電化率、配送電ロス率について、新興国のインフラ整備状況を示したものである。

第Ⅱ-2-1-16図 各国のインフラ整備状況

 全般的に、新興国では携帯電話加入者の割合は高いものの、インターネットユーザーや固定電話加入者といった通信関連のインフラが未整備であることがわかる。道路舗装率については、ブラジル、南アフリカ、ミャンマー等で特に低い。電気関連については、概ねどの新興国でも配送電ロス率は高く(高いほどロスが少ない。)、電化率は、ラオス、カンボジア、ミャンマー等で著しく低い。水道については、地方の水へのアクセスがカンボジア、インドネシア、ラオス等で十分に整備されていない状況である。

②都市関連インフラ需要

 インフラ需要を左右する要因として、都市化の進展が挙げられる。都市化の進展に伴い、水道、ビル建設等、都市関連インフラの需要増加が期待されるためである。国連の世界都市化予測によれば、2010年から2025年にかけて、人口100万人以上の都市数は全世界で449都市から668都市に増加すると予測されている。増加する都市のうちの89%は新興国で、特に中国における増加が顕著である。2025年には中国一国だけで163都市と、先進国合計の127都市を上回ることが見込まれている。アフリカについても、同期間にかけて43都市が新たに人口100万人を超える都市の仲間入りを果たす見込みであり、新興国の中では中国に次ぐ都市数を有する地域となる(第Ⅱ-2-1-17表)。

第Ⅱ-2-1-17表 新興国の人口100万人以上の都市数の変化

 このような新興都市に向けて、積極的に我が国の優れたインフラシステムを輸出していくことで、新興国と我が国がwin-winの関係を築いていくことが期待される。

 都市化の進展に伴い増加が見込まれる都市関連インフラ需要の例として、都市床面積と都市水道需要を見てみる。2010年から2025年にかけて、建て替え需要、商用、住居用を合わせた都市床面積は、全世界で8万2,000km2増加する見込みだが、そのうちの76%は新興国で発生する見通しである(第Ⅱ-2-1-18図)。

第Ⅱ-2-1-18図 都市床面積の増分(2010年-2025年)

 汚水処理、生活用水を合わせた都市水道需要については、同期間にかけて1,040億m3増加する見込みだが、そのうち82%は新興国で発生することが見込まれている(第Ⅱ-2-1-19図)。

第Ⅱ-2-1-19図 都市の水道需要の増分(2010年-2025年)

(5)生産拠点としての新興国

 ここまで、主に消費市場としての新興国の魅力について概観してきた。以下では、生産拠点の立地先としての新興国の魅力について、賃金、工業団地の借料といった生産コスト面と企業アンケートから概観する。

①生産コスト

 ワーカー(一般工職)の月額基本給を見ると、2001年度から2011年度にかけて、北京では152ドルから538ドルと3.5倍上昇、上海では235ドルから439ドルと1.8倍上昇するなど、中国の沿岸部における賃金は高騰している。

 ASEANでは、クアラルンプール(マレーシア)、マニラ(フィリピン)、バンコク(タイ)等、中国の各地域(沿岸部を除く)よりも賃金が高いグループと、ハノイ(ベトナム)、プノンペン(カンボジア)、ヤンゴン(ミャンマー)等、他地域に比して賃金の低いグループに分かれる。

 インドでは、ムンバイ、バンガロール等、相対的に賃金が高い地域がある一方、アーメダバードは2011年時点で月額73ドルと他地域に比して安く、国内の賃金格差が大きい(第Ⅱ-2-1-20図)。

第Ⅱ-2-1-20図 ワーカー(一般工職)月額基本給

 次に、工業団地の借料を2011年時点で比較して見てみると、バンコク(タイ)は7.0ドルドル/m2、中国のほとんどの地域は3ドル/m2を超えるなど、名古屋(2.3ドル/m2)、台北(2.0ドル/m2)等の先進地域と比べても借料が高い地域も多い。一方、ベトナム等のASEAN5以外の東南アジア諸国では、概ね0.2ドル/m2を下回っている。これら新興地域への進出を、先行投資の可能性も含めて検討していくことが今後求められると考えられる(第Ⅱ-2-1-21図)。

第Ⅱ-2-1-21図 工業団地借料(平方メートル当たり、2011年)

②生産拠点として有望視する理由

 我が国製造業が中期的に有望な事業展開先であると考える国・地域について、生産面からその有望理由を調査したJBICのアンケートによれば、中国では2003年度調査から2012年度調査にかけて「安価な労働力」、「安価な部材・原材料」を有望理由に挙げた企業の割合が急落している。一方、「産業集積がある」の割合は上昇しており、「組み立てメーカーへの供給拠点として」の割合は横ばいである。中国におけるサプライチェーンの存在が有望理由になっていると考えられる。

 また、タイでも「産業集積がある」、「第三国輸出拠点として」、「組み立てメーカーへの供給拠点として」を有望理由に挙げる企業の割合が他地域に比べて顕著に高く、我が国製造業のサプライチェーンの存在が魅力になっていると考えられる。その他のASEAN地域については、「安価な労働力」の割合が高い。

 インドでは、中国と同様に「安価な労働力」の割合が急落している。ロシアについては、全般的にどの有望理由の割合も他地域に比して低い。

 中南米では、ブラジルが前回調査に比べて全般的に評価を低下させている一方、メキシコでは、「組み立てメーカーへの供給拠点として」の割合が他地域に比べて特に高く、更に「第三国輸出拠点として」も有望視されているなど注目されている(第Ⅱ-2-1-22図)。

第Ⅱ-2-1-22図 中期的有望事業展開先国・地域の有望理由①

第Ⅱ-2-1-22図 中期的有望事業展開先国・地域の有望理由②

2.新興国展開に係るリスク

 これまで見てきた通り、新興国は高い潜在成長力を有しており、我が国企業にとっての重要性はますます高まっているといえる。一方で、2012年9月に発生した中国における我が国に対する抗議活動や、2013年1月に発生したアルジェリアにおける邦人含む外国人拘束事案を受けて、我が国企業の間で新興国展開に係るリスクが改めて認識されるようになったのも事実である。以下では、新興国展開に係るリスクについて検討する。

(1)地域別に異なる事業リスク

 はじめに、我が国企業が海外事業活動においてどのようなリスクを問題視しているのか確認する。企業アンケートによれば、米国、EUにおいては、「為替」をリスクとして問題視している企業の割合がそれぞれ82%、81%と大半を占めており、その他のリスクについては割合が低い。中国については「対日感情の悪化」が92%と特に問題視されており、その他のリスクについても他地域に比べて問題視する企業の割合が高い。ロシアも同様に、どのリスクについても他地域より問題視する企業の割合が高いといえる。ASEAN、インドについては、「法制度の未整備(知的財産権保護制度以外)・恣意的な運用」がそれぞれ46%、47%、「労務環境の変化(人件費高騰、労働争議の頻発)」がそれぞれ52%、50%と問題視されている。中南米、中東、アフリカについては、「テロ・紛争・内乱」をリスクとする企業の割合が圧倒的多数を占めている(第Ⅱ-2-1-23図)。

第Ⅱ-2-1-23図 海外事業活動で問題視しているリスク

 このように、我が国企業が海外事業活動で問題視しているリスクは地域によって異なり、我が国政府としては、それぞれの地域の事情に即した支援を実施することが求められる。

(2)中国国内で行われた我が国に対する抗議活動

 新興国展開に係るリスクが表面化した事例として、2012年9月に中国国内で行われた我が国に対する抗議活動を概観する。抗議活動は中国全土で約1週間続き、日系企業の店舗や工場が破壊される等、深刻な被害が各地で相次いだ。現在算定中の企業もあること、企業によって算定方法が異なること等により、正確な数字を算出することは困難であるが、現時点で、総額数10億円から100億円程度の損害が確認されている(第Ⅱ-2-1-24表)。

第Ⅱ-2-1-24表 中国国内で行われた我が国に対する抗議活動による被害事例

 店舗・工場等の物的被害に加えて、中国の消費マインドが急激に冷え込み、日本製品の不買・買い控えが広がった。特に、車を壊されることを恐れた中国の消費者の間で日本車を敬遠する動きが広まったため、日系企業の乗用車販売が大きく落ち込んだ。2012年9月の日系企業合計出荷台数を見ると、前年比40.8%減、同年10月は同59.4%減になるなど、大きく減少した(第Ⅱ-2-1-25図)。

第Ⅱ-2-1-25図 国籍別の中国乗用車工場出荷状況

 今回の抗議活動発生後に集計されたJBICのアンケート調査によれば、63.3%の企業が中国事業に対し「見直しが必要」、「慎重な対応が必要」と回答している。2010年度調査87では、同質問に対して「特に変わらない」が回答の過半(54.3%)であったことに鑑みれば、今回の抗議活動により我が国企業の意識が変化し、中国事業に対してより慎重な姿勢を示すようになった可能性がある。

87 JBICでは、2010年度調査でも、尖閣諸島周辺において発生した我が国の巡視船と中国漁船の衝突事件を受けて緊急追加アンケートを実施している。

 また、JBICの同アンケートでは、「中国事業について見直しが必要」、「慎重な対応が必要」と回答した企業に対して、今後の中国事業・市場に対する自社の考えを調査しており、74%の企業が中国事業への取組は今後も続ける一方で、他国・地域へのリスク分散が重要という方針をとっていることがわかった(第Ⅱ-2-1-26図)。

第Ⅱ-2-1-26図 中国事業・市場に対する見通しと中国事業への取組みについての意識変化

(3)在アルジェリア邦人に対するテロ事件

 新興国展開に係るリスクが表面化した他の事例として、2013年1月に発生した在アルジェリア邦人に対するテロ事件を取り上げる。前述の第Ⅱ-2-1-23図で示した企業アンケート(事案発生後に実施)で見られるように、82%の我が国企業が「テロ・紛争・内乱」をアフリカにおける事業活動のリスクとして問題視しており、展開の大きな阻害要因になっていると考えられる。

 テロ事件の概説に入る前に、アフリカにおける過去の国際テロの発生状況を確認しておく。2004年から2008年にかけて発生した国際テロ件数を地域別に見ると、約半分は中東で発生しており、アフリカの発生件数は南西アジア、ASEANに次いで4番目である。ただし、アフリカでは同期間にかけて91件から775件と発生件数が8.5倍に増加している(全地域合計では同期間にかけて3.1倍に増加)(第Ⅱ-2-1-27図)。また、同期間にかけて発生した国際テロによる死者数についても、約半分は中東で発生しており、アフリカにおける国際テロの死者数は南西アジアに次いで3番目だが、アフリカでは同期間にかけて1,170人から3,123人と死者数が2.7倍に増加している(全地域合計では同期間にかけて2.1倍に増加)(第Ⅱ-2-1-28図)。

第Ⅱ-2-1-27図 国際テロの発生件数

第Ⅱ-2-1-28図 国際テロによる死者数

 このように、アフリカにおける国際テロの件数は他地域に比べて突出して多いわけではないが、近年、増加傾向にあると言える。

 今回の在アルジェリア邦人に対するテロ事件は、2013年1月16日に、イスラム系武装集団がアルジェリアのイナメナス付近の天然ガス精製プラントにおいて引き起こした人質拘束事件で、日本人10人を含む8か国37人の人質が死亡するという痛ましい結果となった。

 事件を受けて日本政府は、「在アルジェリア邦人に対するテロ事件の対応に関する検証委員会」を開催し、今回の政府の対応について検証を行うとともに、テロや騒じょう事件などの緊急事態に関し、在留邦人及び在外日本企業の保護の在り方等に関する政府の基本方針をまとめた。

 検証委員会の報告書の中では、政府の基本方針として、①各省の縦割りを排し、官邸の司令塔機能の十分な発揮、②官民の間で、より効率的・効果的な情報交換・協力体制の構築、③被害者等への支援の充実、④この種の事件の対応にかかる政府全体としてのマニュアル策定が挙げられている。

 今後、海外において邦人・企業が安心して活動できるよう、政府一丸となって今回の教訓を活かしていく必要がある。

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