第Ⅲ部 第2章 各国戦略

第4節 ASEAN・大洋州

1.総論

ASEAN地域は、日系企業が多く進出しており、特に製造業におけるASEAN地域へのこれまでの投資額は、日本は世界の中で最もトップクラスである。加えて、近年はデジタル技術の活用などにより大きく成長しており、我が国にとって重要な地域である。こうしたASEAN地域に対して、同じアジアの中国、韓国だけでなく、米国や欧州などの民間企業による積極的な進出や、これらの国々によるASEAN地域を含むインド太平洋地域に冠する戦略の策定が進むなど、国際競争も激しくなっている。

こうした中、日ASEANの経済関係を更なる強化を目指すには、ASEAN地域が直面している社会課題へ共に対応し、ASEAN地域と一体となって成長していくことが重要。このため、経済産業省は2022年1月、アジア未来投資イニシアティブを発表し、日ASEANがともに目指すべき未来像を明らかにした。今後、政務や事務方といったレベルを問わず、二国間、多国間の枠組を活用しながら、日本としてこれまで実施してきた産業協力の充実や強化を図るだけでなく、アジア未来投資イニシアティブで示したように、将来に向けて持続可能な経済社会の構築を目指していく。

2.日ASEAN関係

(1)「日ASEANイノベーティブ&サステナブル成長プライオリティ」の発出について

2021年9月15日、ASEAN事務局長及びASEAN加盟国との間で第27回日ASEAN経済大臣会合が、テレビ会議方式で開催され、日本からは梶山前経済産業大臣が出席した。会合において、「日ASEANイノベーティブ&サステナブル成長プライオリティ」(以下、プライオリティ)を発出し、①日ASEAN経済強靭化アクションプランの着実な実行、②「産業」、「都市部」、「地方部」の3分野のイノベーション&サステナビリティに焦点を当てる重点分野の特定、③3分野を踏まえた日ASEAN経済強靭化アクションプランの拡充、④昨年の同会合で立ち上げたイノベーティブ&サステナブル成長対話(以下、DISG)を起点とした日ASEANの更なる官民連携の促進、について、日ASEAN双方が連携して取り組む優先課題として世界に発信した。

(2)日ASEAN経済強靭化アクションプランの実行状況について

① ADX実証事業について

昨年に引き続き、日本企業が有する技術・ノウハウ等の強みを活かしながら、ASEAN各国やインドの企業との協働を通じ、現地の社会課題解決に貢献する実証事業を支援。今年度はASEAN地域を対象に17件採択した。

② DISGについて

昨年に設立した、「イノベーティブ&サステナブル成長対話(Dialogue for Innovative and Sustainable Growth(DISG))」を引き続き実施。日ASEAN双方の産業界、アカデミアなど幅広い関係者の参画を得ながら、ウェビナーを計4回開催。グリーンやスマートシティ、人材、AJIF等の分野で新たな日ASEAN協力に関する議論を実施した。

③ 日ASEANビジネスウィーク

「イノベーション」と「サステナビリティ」をキーワードに、ASEANビジネスの現状と可能性を考察する機会として、「日ASEANビジネスウィーク~toward Innovative and Sustainable Growth~」を開催した。日本及びASEANの企業や有識者等が登壇するウェビナーを集中的に開催。オープニングセッションにおいては、梶山前経済産業大臣よりアジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)を表明。①エネルギートランジションのロードマップ策定支援、②アジア版トランジションファイナンスの考え方の提示・普及、③再エネ・省エネ・LNG等のプロジェクトへの100億ドルファイナンス支援、④2兆円基金の成果を活用した技術開発・実証支援、⑤脱炭素技術に関する人材育成やアジアCCUSネットワークによる知見共有、の5つの柱に基づく具体的な支援策をパッケージ化し、ASEAN諸国に提示するとして発信した。

(3)アジア未来投資イニシアティブについて

2022年1月に行われた萩生田大臣の東南アジア訪問中、インドネシア外交政策コミュニティ、東アジア・ASEAN経済研究センター、日ASEAN経済産業協力委員会及び経済産業省の共催によるオンラインイベントが開催され、萩生田大臣から、ポストコロナを見据えたアジアでの経済協力の方向性を示す新たなイニシアティブとして「アジア未来投資イニシアティブ(AJIF)」を発表した。①ASEAN各国の実状と向き合い、実効的な解決策を提供する、②民間のイノベーションを最大限活用し、持続可能な経済社会の基盤を創る、③現地企業との協業などを通じ、日本と各国がパートナーとして地域の未来を共創していく、という3つの理念に基づき、未来志向の新たな投資を積極的に推進する。具体的には、①グローバル・サプライチェーンのハブとしての地域の魅力向上、②持続可能性を高め、社会課題の解決に資するイノベーションの創出、といった未来像の実現に向け、サプライチェーン、連結性、デジタル・イノベーション、そして人材への投資を強化する。

3.ASEAN各国との関係(2022年1月の萩生田経済産業大臣の東南アジア出張はコラムに記載)

(1)マレーシア

2021年4月5日、マレーシアのアズミン国際貿易産業大臣が訪日し、梶山前経済産業大臣と会談を行った。会談では、日本企業のマレーシアへの投資促進に向けた課題について意見交換を行い、同国が重視する高付加価値産業への投資をはじめ、両国の経済関係を一層深化させていくことを確認した。また、両大臣は、日本貿易振興機構とマレーシア貿易開発公社による、貿易促進及びDX分野における連携拡大に向け取り組む旨の協力覚書の署名式に出席した。

(2)フィリピン

2021年6月11日、江島前副大臣はフィリピン共和国の独立記念日オンラインイベントにお祝いのビデオメッセージを送付した。メッセージ内で江島前副大臣は、サプライチェーン強靭化や、デジタル分野、グリーン成長分野での協力を進めていくことを訴えた。

(3)シンガポール

2021年6月9日、梶山前経済産業大臣はシンガポールのガン・キムヨン貿易産業大臣とTV会談を行った。会談では、梶山前経済産業大臣はアジアの脱炭素化・グリーン成長の実現に向け支援していく方針を説明し、両大臣は「日星エネルギートランジション対話」の立上げに合意した。また、RCEPやCPTPPを通じ、自由で公平でルールに基づく経済秩序の構築に向けて連携を深めることについて確認した。

同年11月9日、萩生田経済産業大臣が同ガン貿易産業大臣とTV会談を行い、AETIの推進や、デジタル分野における両国の協力、CPTPPやRCEPを通じた自由で公平な経済秩序の構築に向け連携を深めることについて確認した。

(4)タイ

2021年5月20日、梶山前経済産業大臣はタイのスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣とバイ会談を行い、カーボンニュートラルの実現に向けたアジアでのエネルギートランジションに関する取組等について議論を行った。

2021年8月11日、第5回日タイ・ハイレベル合同委員会に長坂前副大臣が参加しました。委員会では、長坂前副大臣立会いの下、経済産業省とタイ工業省及びデジタル経済・社会省との間で、Thailand 4.0実現に貢献する「LIPE」の推進に向けて必要な協力を確認する覚書を、NEDOとNSTDAの間でBCG分野における技術研究開発の協力に関する覚書を締結した。

(5)ベトナム

2021年11月25日、日越投資カンファレンスが日本で開催され、これに合わせベトナムのチン首相及びジエン商工大臣が訪日した。日越投資カンファレンスには萩生田経済産業大臣が出席し、サプライチェーン強靱化やカーボンニュートラルに向けた協力を表明した。また、同日萩生田大臣はチン首相及びジエン商工大臣と個別に会談を行い、両国間の経済関係を深化させることを確認した。更に、ジエン商工大臣との会談後に「カーボンニュートラルに向けたエネルギートランジション協力のための共同声明」を発出し、2050年までにカーボンニュートラルに移行することを再確認した。

4.大洋州各国との関係

(1)オーストラリア

2021年7月15日、第3回日豪経済閣僚対話が開催され、これに合わせオーストラリアのティーハン貿易・観光・投資大臣が訪日した。梶山前経済産業大臣とティーハン大臣が対面で参加したほか、テイラーエネルギー・排出削減大臣がオンラインで参加した。閣僚対話では、CPTPP、RCEP、WTO、サプライチェーンの強靱化等についてともに取組み、インド太平洋地域において連携していくこと、及びアジア地域における現実的なエネルギートランジションに向けて協力していくことを確認した。

2021年11月15日、萩生田経済産業大臣は、ティーハン貿易・観光・投資大臣とTV会談を行い、CPTPP、RCEP、WTO等の通商分野の連携について議論を行い、インド太平洋地域における諸課題の解決に向けて戦略的な連携をより一層強化していくことを確認した。

(2)ニュージーランド

2021年5月24日、梶山前経済産業大臣はニュージーランドのオコナー貿易・輸出振興大臣と会談を行い、戦略的パートナーである両国の連携を一層強化していくことを確認するとともに、2021年のAPEC議長であるニュージーランドへの支援、二国間関係・地域の諸課題について意見交換を行った。

(3)島嶼国

2021年11月24日、第9回太平洋・島サミット(PALM9)の関連行事として、第3回日本・太平洋島嶼国経済フォーラムがTV会議方式で開催され、石井副大臣が出席した。フォーラムにおいて、島嶼国側からは、日本企業に期待する貿易相手・投資先としての島嶼国の魅力が説明されるとともに、日本経済界からは島嶼国の問題解決等につながる技術等が紹介され、双方の交流が深まった。

コラム2 萩生田経済産業大臣の東南アジア出張について

萩生田経済産業大臣は、1月9日から14日にかけて、各国の関係閣僚等の二国間会談等を行うため、インドネシア共和国、シンガポール共和国、タイ王国を訪問した。バイ会談と合わせ、現地企業等と意見交換を行ったほか、ASEAN各国との経済関係の深化に向けて、ポストコロナを見据えた日アジアの協力の方向性として、「アジア未来投資イニシアティブ(AJIF)」を現地で発表した。

1.インドネシアでの用務について

インドネシアでは、アリフィンエネルギー鉱物資源大臣、ルトフィ商業大臣、アグス工業大臣、ルフット海洋・投資担当調整大臣及びアイルランガ経済担当調整大臣との会談を実施し、AJIFの考え方も踏まえた二国間経済関係の深化へ向けた取組や、エネルギー・トランジション等について幅広く議論を行った。また、リムASEAN事務総長と会談を実施し、RCEPや日ASEAN経済協力等について意見交換を行った。

(1)アリフィンエネルギー鉱物資源大臣との会談

会談では、インドネシアが今年議長を務めるG20での協力を含め、エネルギー分野での協力をより一層深化させることで一致した。また、石炭輸出の一時停止措置に対して、輸出の早期正常化を働きかけ、インドネシア政府から措置の緩和方針が発された。

さらに、アリフィンエネルギー鉱物資源大臣と萩生田経産大臣の間で、脱炭素化に向けたインドネシアの事情を踏まえ、幅広い技術・エネルギーを活用した現実的かつ多様なトランジションを進めるため、エネルギー・トランジションの実現に関する協力覚書に署名し、アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)の下での両国の連携を確認した。

(2)ルトフィ商業大臣との会談

会談では、日インドネシア二国間経済関係の強化に向け、AJIFに基づく日本としての取り組みを説明した。また、インドネシアにおける事業環境の整備やG20、日インドネシアEPA、RCEP等などの通商政策に加え、幅広く個別の産業政策等について意見交換を行った。

(3)アグス工業大臣との会談

会談では、ルトフィ商業大臣との会談同様AJIFに基づく取り組み等を説明したほか、インドネシアにおいて実施している人材育成等を含む裾野産業の協力や、自動車産業など幅広い個別の産業政策等について意見交換を行った。

(4)リムASEAN事務総長との会談

会談では、AJIFに基づき、サプライチェーン、連結性、デジタル・イノベーション、人材等の分野で未来志向の新たな投資を積極的に行っていく旨を説明し、日ASEAN関係の深化について意見を交換した。また、本年1月1日に発効したRCEP協定の完全な履行の確保に向けて日本とASEAN事務局とで緊密に連携をしていく旨を確認した。

(5)ルフット海洋・投資担当調整大臣との会談

会談では、他閣僚との会談同様、AJIFに基づく取り組みを説明したほか、インドネシアにおける事業環境の整備やAETIの下でのエネルギー分野の協力など個別の産業政策を含む幅広い観点から意見交換を行った。また、石炭輸出の一時停止措置に対して、輸出の早期正常化を働きかけ、インドネシア政府から措置の緩和方針が発表された。

(6)アイルランガ経済担当調整大臣との会談

会談では、インドネシアが2022 年のG20の議長国であることから、担当閣僚であるアイルランガ経済担当調整大臣に、日本としてG20の成功に最大限協力していく意向を伝えるとともに、G20の貿易、デジタル、エネルギー・気候変動の各会合へ向けた意見交換を行った。

また、他閣僚との会談同様AJIFに基づく取り組みを説明するとともに、イニシアティブに基づく取り組みを、インドネシアの実状に即したより具体的な取組にしていくために官民対話を立ち上げる「日インドネシア・イノベーティブで持続可能な経済社会の共創パートナーシップ」を設立した。

2.シンガポールでの用務について

シンガポールでは、ガン・キムヨン貿易産業大臣と会談を実施し、二国間関係やRCEP、CPTPP等について幅広く議論を行った。また、コワーキングオフィスを訪問し、ベンチャーキャピタルやスタートアップ、日系企業等の方々との意見交換を行った。

(1)ガン・キムヨン貿易産業大臣との会談

会談では、インドネシア同様AJIFに基づく取り組みを説明したほか、通商分野やエネルギー分野における二国間の協力等、幅広い分野で意見交換を行い、連携の方向性について共同声明を公表した。

また、脱炭素化に向けたシンガポールの事情を踏まえつつ、アジアのエネルギー・トランジションの加速化に向けて、トランジション・ファイナンスのあり方も含め、低炭素技術に関する協力覚書に両大臣が署名し、AETIの下での両国の連携に合意した。

3.タイでの用務について

タイでは、プラユット首相を表敬するとともに、スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣、ドーン副首相兼外務大臣、アネーク高等教育・科学・研究・イノベーション大臣及びスリヤ工業大臣とそれぞれ会談を実施し、二国間関係やAJIF、エネルギー・トランジション等について幅広く議論を行った。また、トヨタの現地工場を視察した。

(1)プラユット首相への表敬

表敬において、長年にわたる両国の貿易・投資・人材交流等による強固かつ良好な二国関係を確認した。その上で、インドネシア・シンガポールでの各閣僚との会談同様、AJIFに基づき、未来志向の新たな投資を積極的に行っていく旨を説明、また、日本のグリーン成長戦略とタイのバイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)経済モデルとの連携、エネルギーや産業分野での協力について議論を行った。

加えて、プラユット首相立ち会いの下、持続可能な成長及び温室効果ガス排出削減を成し遂げるため、AETIを踏まえた多様かつ現実的なエネルギー・トランジションを加速すべく、萩生田大臣とスパッタナポン副首相兼エネルギー大臣との間で「日本国・経済産業省とタイ王国・エネルギー省間のエネルギー・パートナーシップの実現に関する協力覚書」に署名した。

(2)スパッタナポン副首相兼エネルギー大臣との会談

会談では、長年培ってきた日タイの二国間関係をより深化させていくため、AJIFの考え方も踏まえながら、「未来志向の新たな投資」を推進する意向を伝えた。また、イノベーション推進、競争力強化、安定的な経済成長を確保するとともに、AETIに基づく現実的なエネルギー・トランジションなど、日タイ両国の経済関係を深めるための様々な意見交換を行った。

(3)ドーン副首相兼外務大臣との会談

会談では、タイが2022年のAPEC議長国であることを踏まえ、日本としてAPECにおいて、タイが設定したテーマ「オープン、コネクト、バランス(Open Connect Balance)」に沿い協力していくこと及びAPECの優先事項としてタイが掲げる、①社会的課題への対応等の新たな貿易課題に関する議論、②バイオ、サーキュラーエコノミー、環境問題への対応等を中心に成長を目指すBCG経済モデルについて日本は支持していくことを伝えた。その他、RECP協定の完全な履行に向けた協力等通商政策について意見交換を行った。

(4)アネーク高等教育・科学・研究・イノベーション大臣との会談

会談では、イノベーションのインキュベーション機能を所管するアネーク大臣に対し、AJIFに基づき「未来志向の新たな投資」を積極的に進めていくこと、ASEANの企業との協業などを通じて、イノベーションを共に創造していく「共創」を進めていくことについて説明を行うとともに、日本のグリーン成長戦略と同大臣がイニシアティブをとるBCG(Bio-Circular-Green)経済モデルグリーン成長戦略との連携の在り方について意見交換を行った。

加えて、今後の両省間のさらなる協力関係の構築に向け協力枠組み文書の交換を行った。

(5)スリヤ工業大臣との会談

会談では、日タイが多くのサプライチェーンを共有する重要なパートナーであることを確認し、引き続き、人材育成の協力や、サプライチェーン強靱化などに取り組んでいくことについて意見交換を行った。

また、両大臣による、「協力フレームワーク文書」の交換、更に、両大臣立ち会いのもと、ジェトロ・バンコクとタイ自動車研究所による協力文書の更新にかかる署名が行われた。

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