経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況認識

我が国製造業の企業業績は改善の動きがみられ、設備投資も2013年、2014年と2年連続で増加した。しかしながら、いまだリーマンショック前の水準には及んでいない。賃上げを始めとする経済の好循環の流れを加速させ、全国に行き渡らせ、また、投資をさらに活発化させることが重要である。

また、直近2014年の貿易収支は過去最大の赤字を計上した。円安下で輸出金額が伸びるなど足下では改善の兆しも見られるが、企業の海外展開が進む中で、直接投資収益が増加するなど、我が国製造業の稼ぎ方の変化は継続している。

1.我が国製造業の業績改善

我が国経済は、安倍内閣の経済政策(「アベノミクス」)の効果が現れるなかで、着実に上向いてきた。製造業企業を中心に収益の改善が見られ、さらには賃金引上げの動きが広がるなど確実に「経済の好循環」が生まれ始めている。

アベノミクスでは、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という相互に補強し合う関係にある「三本の矢」を一体として推進しており、ここでは、アベノミクスが我が国製造業に及ぼした効果を分析する。

(1)企業業績と金融市場の動向

国内外の景気回復などを受けて、我が国企業の業績は回復しつつある。法人企業統計によれば2012年第4四半期(10-12月期)以降、製造業の営業利益の伸び率(前年同期比)は大幅なプラスへと転じ、消費増税による反動減による落ち込みが2014年第1-2四半期にあったものの、足下では改善の動きがみられており、製造業は全産業及び非製造業を上回る伸び率を示している(図111-1)。業種別では、特に自動車を中心とする「輸送用機械」の回復が著しい(図111-2)。

図111-1 企業業績の推移(営業利益)

図111-2 企業業績の推移(製造業業種別・営業利益)

アベノミクスを通じた企業業績の回復に対する期待感などを背景に、株価も大幅に上昇しており、2012年12月末時点で10,395円であった日経平均株価は2015年3月末時点で19,206円に達し、約85%上昇した(図111-3)。業種別の株価指数を見ると、「電機・精密」、「自動車・輸送機」が他業種を上回るパフォーマンスで推移している(図111-4)。

図111-3 株価の推移(日経平均株価)

図111-4 株価の騰落率の推移(東証株価指数、業種別株価指数)

堅調な株価を背景に、企業の株式による資金調達も活発化しており、企業の資金調達額は2012年を底として増加へ転じている(図111-5)。金額ベースでは、足下では着実に増加しており、企業が良好な資金調達環境を活かして、設備投資やM&Aなどを目的とするリスクマネーを積極的に調達していると見られる。また、株式の新規公開(IPO)も活発化しており、金額・件数ともに増加している。株価の上昇に伴って投資家が積極的にリスクを取っていると考えられ、ベンチャー企業を始めとする新規公開企業へも資金が供給され始めている。

図111-5 株式市場からの資金調達の推移

(2)実体経済への波及と「好循環」へ向けた動き

企業業績の改善が進みつつあるが、これを設備投資の拡大や雇用・所得の増加へと結びつけることが「経済の好循環」を実現する上で重要となる。以下では、設備投資と雇用・所得の動向について確認する。

①設備投資の動向

我が国の経済は、2014年4月の消費税率引上げ後、弱さがみられたものの、2012年末以降、景気は回復基調が続いている(図111-6)。企業の全般的な業況を示す日本銀行の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の業況判断DIも上向いており、大企業・中小企業の製造業はプラスへと転じている(図111-7)。また、鉱工業生産活動の全体的な水準の推移を示す鉱工業生産指数も、2012年11月を底として増加へと転じており、2014年前半に消費増税の反動減により一旦は減少したものの、足下では持ち直している(図111-8)。更に、製造業における設備の稼働率も生産の持ち直しに合わせて足下では持ち直している(図111-9)。

図111-6 実質GDPの推移

図111-7 日銀短観・業況判断DIの推移(企業規模別)

図111-8 鉱工業生産指数の推移

図111-9 稼働率指数の推移

このような環境下において、民間企業設備投資は、2013年は前年比+1.2%、2014年は同+5.2%と2年連続で増加しており、先行きも企業収益の改善等を背景に、増加していくことが見込まれる(図111-10)。ただし、いまだリーマンショック前の水準には及んでおらず(図111-11)、賃上げを始めとする経済の好循環の流れを加速させ、投資をさらに活発化させることが重要である。

図111-10 設備投資の推移

図111-11 名目設備投資の推移

 
コラム:生産性向上設備投資促進税制

「日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)」において、「生産設備の新陳代謝(老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等)を促進する取組を強力に推進」することが明記された。これを実行するため、2014年1月20日に「生産性向上設備投資促進税制」が実施された。

「生産性向上設備投資促進税制」は、質の高い設備投資の促進によって事業者の生産性向上を図り、もって我が国経済の発展を図るため、「先端設備(A類型)」や「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備(B類型)」を導入する際の税制措置である。具体的には、一定の要件を満たす場合には、本税制を利用すれば、即時償却または税額控除5%(2014年1月20日から2016年3月末日まで)の措置が施される。

い業種で利用されており、2015年3月時点で、既に33万件超の申請を受け付けている。

具体的な活用事例として、竹本油脂(株)(愛知県蒲郡市)、こと京都(株)(京都府伏見区)の2社を紹介する。

レーヨン繊維用油剤等の化学品製造業を営む、竹本油脂(株)は、従来海外に生産拠点を設けていたが、円安効果や本税制の活用により採算性が確保できることから、新興国市場向けの生産ラインを、国内(愛知県)に増設することを決定している(投資総額は約7億円)。

また、九条ねぎの生産に特化して農業ビジネスを展開している、こと京都(株)は、新工場建設に伴い、短時間でねぎを洗浄できる最新鋭の設備を導入し、大幅な生産性向上を実現している(投資総額は約3億円)。本投資に伴って20名を新規雇用しており、地元の雇用創出にも貢献した事例といえる。

なお、2016年度は「特別償却50%又は税額控除4%」とメリットが小さくなるため、2015年度内に設備投資が完了するタイミングでの、早期の設備投資決断が一つのポイントである。

油剤の製造設備

資料:竹本油脂(株)

ねぎの洗浄設備

資料:こと京都(株)

 

なお、今後3年間の設備投資増加率の見通しは、2008年のリーマンショック時に大幅に下落したものの、足下ではプラスで推移(図111-12)。また、経済産業省の調べによると、設備投資の今後3年間の増加率は全業種で昨年度より下回るものの、一昨年度と比較すると全業種で増加をしており、引き続き企業の投資意欲は高水準に保たれている(図111-13)。

図111-12 産業別今後3年間の設備投資増減率見通しの推移

図111-13 設備投資の今後3年間の増加率

②雇用・所得の動向

雇用環境は改善傾向にある。直近2015年3月の完全失業率は3.4%、有効求人倍率も1.15倍と着実に好転している(図111-14)。雇用環境の引き締まりを受けて、改善の動きは徐々に賃金へ波及しつつあり、月々の賃金動向(製造業)を分析すると、2013年の中頃から対前年同月比でプラスへと転じ、2014年は通年を通してプラスを維持した。特に、7月の「特別に支払われた給与」は一時金の大幅増加を表しており、企業業績の向上による従業員への利益還元が進んでいることがわかる(図111-15)。

図111-14 雇用環境の動向(完全失業率、有効求人倍率)

図111-15 製造業の所得環境の動向(現金給与総額)

経済産業省の調べによると、2013年度に引き続き業績改善が鮮明となった2014年度以降における、従業員への利益還元の有無を尋ねると、「すでに実施した」50.6%、「予定している」15.3%と、65.9%の企業が従業員への利益還元を実施することとしている(図111-16)。また、企業規模別に見ると、「すでに実施した」では大企業55.8%、中小企業50.3%と若干大企業が多いものの、「予定している」を含めた合計値では大企業64.5%、中小企業66%と中小企業の方が大企業を上回る結果となった(図111-17)。経済の好循環が大企業だけではなく、中小企業にも及ぶことが期待される。また、2013年度以降、従業員への利益還元を「既に実施した」または「予定している」と回答した企業に対して、従業員への利益還元方針を尋ねると、81.7%が「賞与」と回答しており大半を占めているが、「ベースアップ」との回答も51.7%と半数近くを占めており、月額給与でも還元する意向が確認できる(図111-18)。

また、2015年度の賃上げ率の見通しを尋ねたところ、「増加」2.9%、「若干の増加」53.7%と増加させる見通しの企業が56.6%を占めており、引き続き更なる好循環が進んでいくことが予想される(図111-19)。さらには、春闘において、軒並み昨年のベア実績を上回る回答がされた(図111-20)。

図111-16 従業員への利益還元の実施有無(2014年度)

図111-17 従業員への利益還元の実施有無(企業規模別)

図111-18 従業員への利益還元方針

図111-19 2015年度の賃上げ率の見通し

図111–20 春闘の主な企業の回答状況

要求 回答 昨年実績
ベア 一時金 ベア 一時金 ベア 一時金
トヨタ自動車 6,000円 6.8か月 4,000円 6.8か月 2,700円 6.8か月
日産自動車 6,000円 5.7か月 5,000円 5.7か月 3,500円 5.6か月
本田技研 6,000円 5.9か月 3,400円 5.9か月 2,200円 5.9か月
日立製作所 6,000円 5.9か月 3,000円 5.72か月 2,000円 5.62か月
三菱電機 6,000円 6.14か月 3,000円 6.03か月 2,000円 5.74か月
※その他、パナソニック、東芝、富士通、NECも、6000円のベア要求に対して、3000円の回答。(昨年度のベア実績は2000円)
ジーエス・ユアサ 9,000円 5.4か月 2,000円 5.2か月 1,000円 5.12か月
東レ 5,785円 2,600円 1,800円
旭化成 6,737円 3,540円 2,520円
カルビー 6,000円 6,000円 0円
住友ゴム 2,884円 3,121円 2,864円
TOTO 4,000円 4,000円 3,000円
ニトリ 8,101円 5,222円 2,173円
NTT 6,000円 2,400円 1,600円

資料:2015年3月18日時点の連合及び金属労協等の公表資料を基に作成

最後に、東証一部上場企業(製造業)の2014年度通期の収益実績について見ると、56.6%の企業が増収増益であった(図111-21)。日銀短観(図111-7)によれば、中小企業についても業況改善に兆しが見えてきたものの、全国津々浦々の中小企業にまでその兆しが見られるわけではない。大企業の増益が全国の中小企業の利益増加に結び付くことが期待される。

図111-21 東証一部上場企業(製造業)の2014年度通期収益実績

2.経常収支の黒字縮小と稼ぎ方の変化

我が国の経常収支注1黒字は2011年以降4年連続で縮小しており、直近2014年では2.6兆円と、比較可能な1985年以降過去最小の黒字となった(図112-1)。長らく我が国の経常収支黒字は、製造業が輸出により稼ぐ貿易収支黒字が中心であったが、グローバル化に伴う我が国企業の海外進出や海外の株式・債券などへの投資が活発化したことにより、それらの収益である第一次所得収支の拡大が続いており、これが経常収支の黒字を支える構造となっている。

一方で、貿易収支は2011年に赤字転落したのち、その赤字幅を拡大している。貿易収支赤字の要因には、原子力発電所の稼働停止に伴う化石燃料の輸入拡大や海外景気の低迷による輸出の伸び悩みなどが挙げられる。

製造業による経常収支への貢献という観点では、輸出による貿易収支への貢献が注目されがちであるが、海外現地生産の拡大に伴う海外子会社からの配当(第一次所得収支)や特許権使用料・ロイヤリティ収入(サービス収支)といった貢献もある。このように我が国製造業の事業展開の変化が経常収支の構造に影響を与えていることから、ここでは製造業の観点から我が国経常収支の構造変化を分析する。

図112-1 経常収支の推移

注1 我が国の国際収支統計は2014年1月の公表分から、IMF国際収支マニュアル第6版に準拠した統計に移行しており、主要項目の組み替えや表記方法、計上基準などの変更が行われている。従来の「所得収支」は「第一次所得収支」、「経常移転収支」は「第二次所得収支」へと項目名が変更されている。本白書では原則、移行後の統計を用いる。

(1)長らく貿易収支を支えて来た我が国製造業

経常収支の黒字縮小の最大の要因は貿易収支の赤字拡大にある。直近2014年、我が国の貿易収支(「貿易統計」ベース)は、12.8兆円の貿易赤字を計上した(図112-2)。4年連続の貿易赤字となり、また現行の貿易統計システムにおいて比較可能な1979年以降では最大となる赤字額を記録した。

図112-2 貿易収支の推移

主要な品目別(「貿易統計」の概況品ベース)に貿易収支を見ると、赤字に寄与した要因は「鉱物性燃料」「食料品」「原料品」などであるが、特に「鉱物性燃料」の寄与が大きい。2014年の「鉱物性燃料」の貿易赤字額は26.2兆円となり、過去最大の赤字となった。一方で、原油価格が年後半に下落し、輸入数量も減少に転じたため、赤字拡大幅は0.3兆円に留まった(図112-3・4)。

図112-3 エネルギー価格の推移

図112-4 エネルギー輸入量の推移

一方、黒字に寄与した要因を見ると、「輸送用機器」「電気機器」「一般機械」「原料別製品」「化学製品」であり、製造業に関連する分野が占めている。この5品目のうち、特に「輸送用機器」「一般機械」「電気機器」の主要3品目は長年にわたり我が国の貿易黒字を稼ぎ出してきたことから、「輸出の三本柱」とも言える。以下では、我が国の輸出に占めるウェイトの高い「輸送用機器」「一般機械」「電気機器」について詳細を分析していく。

コラム:原粗油輸入額等の減少により、貿易収支は49か月ぶりの黒字計上
2011年に赤字となり、以後年々赤字幅を拡大している貿易収支について、足下では改善の動きが見られる。速報値ではあるが、2015年3月の貿易統計は原粗油輸入額の大幅減少等により、49か月ぶりの貿易黒字を計上した(原数値では2,293億円の黒字かつ33か月ぶりの黒字)(図1)。貿易収支前期差の要因分解をすると、2015年第1四半期には、輸出価格はマイナス寄与であるものの、他の要素はプラス寄与、特に輸入価格の下落が黒字計上に大きく寄与している(図2)。
また、国・地域別輸出数量指数の推移を見ると、米国向けを筆頭に、軒並み好調に推移している(図3)。さらに、今回の黒字計上の最大の要因となった原粗油であるが、輸入価格は2014年10月に前年同月比マイナスとなって以降、下落傾向で推移している(図4)。ただし、原粗油輸入価格は足下では下げ止まりつつあることから、4月以降の貿易収支に与える影響は小さくなる可能性がある。

図1 貿易額の推移

図2 貿易収支の要因分解(前期差)

図3 国・地域別輸出数量指数の推移

図4 原粗油輸入の推移

 

①高水準の黒字を維持するもののグローバル最適地生産のもとに輸出数量は横ばいで推移する「輸送用機器」

貿易赤字が拡大する一方で、「輸送用機器」は引き続き高水準の貿易黒字を維持している(図112-5)。「輸送用機器」の貿易収支を主要地域別に分けると、2014年では米国向け黒字が4.5兆円と最大の比率を占めている。2010年と2014年を比較すると、「輸送用機器」の貿易黒字額はほぼ横ばいであるが(2010年:13.6兆円→2014年:13.9兆円)、地域別では財政危機等に伴う景気低迷から対欧州黒字が大きく減少している一方(1.1兆円→0.4兆円)、対米国黒字(3.4兆円→4.5兆円)及び対中東黒字(1.3兆円→1.8兆円)が拡大することでカバーしていることがわかる。このように「輸送用機器」においては、米国市場への依存度が高まっている(図112-6)。

図112-5 「輸送用機器」の貿易収支の推移

図112-6 「輸送用機器」の主要地域別推移

なお、為替が円安方向へ推移する一方で、輸出物価指数(契約通貨ベース)は横ばいで推移している(図112-7)。また、鉱工業出荷(輸出)についても、ほぼ横ばいで推移している(図112-8)。為替に左右されず、円安下でも価格を維持しながら輸出を支えていることがうかがえる。

図112-7 輸送用機器の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

図112-8 輸送用機器の鉱工業出荷(輸出)の推移

一方で、グローバル最適地生産(いわゆる地産地消)の動きに変化はなく、今後も輸出数量は横ばいが続くものと見込まれる。2013年の日本メーカーの国内生産台数は963万台に対して、国内市場は508万台である。地産地消の考え方に即し、現状においては、海外市場向けの国内生産設備の投資拡大は見られず、今後も当面はこの流れが続くことが予想される(図112-9)。

図112-9 世界の自動車市場における我が国自動車産業の位置づけ

資料:日本自動車工業会、Fourin 世界自動車調査月報、マークラインズ(株)自動車ポータルの2013年データを元に経済産業省作成

②国内基盤を維持しつつ輸出で稼ぐ「一般機械」

「一般機械」は機械系を中心とする幅広い製品を含んでおり、製品分野によっては貿易黒字を維持しているものの、電算機類(パソコンなど)は貿易黒字が縮小している。2010年に8.5兆円であった「一般機械」の貿易黒字は、直近の2014年には7.5兆円へと減少した(図112-10)。

図112-10 「一般機械」の貿易収支の推移

主な構成品について2010年から2014年の変化を見ると、最も貿易収支黒字の縮小に影響を与えているのは「電算機類(含周辺機器)」である。貿易赤字額が約0.7兆円拡大(2010年:-1.1兆円→-1.8兆円)しているが(図112-11)、これは海外の生産拠点からの逆輸入や海外製品の輸入拡大等が寄与しているものと考えられる。なお、このうち約0.4兆円程度をノートパソコンが占めている(図112-12)。

図112-11 「電算機類(含周辺機器)」の貿易収支の推移

図112-12 ノートパソコンの貿易収支の推移

その次に、貿易黒字縮小への影響が大きいのは「半導体等製造装置」であり、貿易黒字が約0.4兆円縮小(2010年:1.5兆円→2014年:1.1兆円)している(図112-13)。半導体産業には「シリコンサイクル」と呼ばれる景気循環が存在するとされており、2010年から2011年にかけて設備投資が盛り上がった反動減の影響が出ている。

図112-13 「半導体等製造装置」の貿易収支の推移

その他の構成品について、その動向を見ると、「原動機」は引き続き高水準の貿易黒字を安定的に維持している(図112-14)。

「金属加工機械」はリーマンショックに伴って大きく落ち込んだ後、順調に回復を続けており、2013年に一旦落ち込んだものの、2014年は反転している(図112-15)。特に、マシニングセンターが好調で、東南アジア向けの輸出が増加している(図112-16)。「建設用・鉱山用機械」についても伸び悩んでいたものの、2014年は反転した(図112-17)。

図112-14 「原動機」の貿易収支の推移

図112-15 「金属加工機械」の貿易収支の推移

図112-16 「マシニングセンター」の貿易収支の推移

図112-17 「建設用・鉱山用機械」の貿易収支の推移

「一般機械」における貿易収支の黒字縮小は、主に「電算機類(含周辺機器)」や「半導体等製造装置」といったエレクトロニクス産業に関連する製品分野が要因である。

一方で、工作機械・産業機械といった一般機械では、輸出物価は横ばいで推移しているものの(図112-18)、米国向け工作機械などが堅調ということもあり、鉱工業出荷(輸出)は増加傾向にある(図112-19)。円安下でも価格を維持しながら輸出を拡大する構造となっている。

図112-18 一般機械の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

図112-19 一般機械の鉱工業出荷(輸出)の推移

 

③通信機、音響映像機器で苦戦する「電気機器」

エレクトロニクスを中心とする「電気機器」は、主要3品目の中で最も貿易黒字の縮小幅が大きい。直近2014年の貿易黒字は約1.1兆円に留まっており、2010年に比べると約8割減少している(図112-20)。

2010年と2014年の主な構成品の変化を見ると、「通信機」の貿易赤字額が約1.6兆円拡大(2010年:-0.6兆円→-2.2兆円)しており、また「半導体等電子部品」の黒字額が約1.2兆円縮小(2010年:+2.0兆円→+0.8兆円)している。「通信機」と「半導体等電子部品」で合わせて約2.8兆円程度、貿易黒字の縮小に寄与しており、同期間における「電気機器」の黒字額の縮小額は約3.4兆円であることから、この2品目が大半を占めていることがわかる。

図112-20 「電気機器」の貿易収支の推移

このうち、「通信機」を更に分析すると、携帯電話の大幅な輸入拡大が貿易収支の縮小に寄与していることが分かる(図112-21)。携帯電話は、2010年から2014年にかけて輸入額が1.3兆円拡大する一方、輸出がほとんど無いため、輸入拡大が貿易収支の赤字拡大に直結している。近年の携帯電話市場では、スマートフォンと呼ばれる高機能の携帯電話が急速に普及しており、世界的に高い人気を持つ海外企業のスマートフォンが我が国でも高いシェアを有している。また我が国の企業も、携帯電話の生産の海外移管や海外のEMS企業(製造受託企業)への生産委託を進めており、結果として携帯電話は輸入品が大きなシェアを占める構造へと変化している。足下では赤字拡大幅は縮小しているものの、この傾向は今後も続くことが想定される。

次に、「半導体等電子部品」を見てみると、「半導体等電子部品」に分類される「太陽電池・LED」において輸入が増加することにより、貿易収支が0.8兆円赤字方向に変化している(図112-22)。中国製太陽光パネルの輸入が増加したこと、欧州市場が縮小したことによる輸出減少が主な要因である。

このように、「電気機器」では、携帯電話や太陽電池など特定製品の輸入増加が貿易収支の黒字縮小の主な要因となっている。

図112-21 携帯電話の貿易収支の推移

図112-22 太陽電池・LEDの貿易収支の推移

なお、スマートフォンとタブレットという革新的かつ多機能な製品が現れ、短期間でグローバル市場規模を大幅に拡大し、これらの新製品に機能を統合された日本の最も得意とする製品群(デジカメ、ビデオカメラ、オーディオ類等)の市場規模は大幅に縮小しており、同時に黒字幅も縮小している(図112-23)。

なお、電気機器の輸出物価指数(契約通貨ベース)は減少傾向で推移してきたが、足下では横ばいで推移している(図112-24)。また、鉱工業出荷(輸出)は足下で持ち直しの兆しが見受けられる(図112-25)。さらに、電気機器の鉱工業出荷(輸出)の内訳を見ると、電気機械工業、電子部品・デバイス工業の輸出が比較的好調であることがうかがえる(図112-26)。

図112-23 デジタルカメラの貿易収支の推移

図112-24 電気機器の輸出物価指数の推移(契約通貨ベース)

図112-25 電気機器の鉱工業出荷(輸出)の推移

図112-26 電気機器の鉱工業出荷(輸出)の推移(内訳)

 
コラム:グローバル市場の拡大を背景に着実に輸出を伸ばす航空機部品、好循環は中堅・中小企業にも

航空機のグローバル市場が伸びるのに比例して、着実に輸出を伸ばしているのが航空機部品。航空機関連各社は、航空機及び航空機部品増産のために、中部地方を中心に設備増強を実施。また、中部以外においても、三菱重工業(株)は下関造船所・広島製作所・神戸造船所、(株)IHIは相馬工場でも、設備を増強する動きがある。この流れは今後も継続することが見込まれ、大企業のみならず、部品・部材を供給する中堅・中小企業においても、設備投資や雇用増加を行う企業が出てくる等、好循環が生まれつつある。

例えば、航空機のチタン部材の加工に強みを有する(株)ウラノ(埼玉県児玉郡)では、2016年2月稼働を目途に長崎工場に約13億円の追加投資を実施中。また、増産にむけて、2015年からの3年間で100名程度の雇用増加を検討中。長崎は造船が栄えた地域でもあり、技術的な素養の高い人材が多いということである。

今後はMRJの量産、新規取込のボーイング777X、エアバスA320neo搭載エンジンPW1100Gなどが徐々に量産化し、航空機部品の売上比率も現在の40%から2018年には50%を超える見込みである。

伸びゆく市場を着実に取り込み、我が国輸出を牽引する産業に成長することが期待される。

航空機用タービンブリスク

資料:(株)ウラノ

コラム:トップセールスと円安を背景に受注を伸ばすインフラ輸出

新興国の成長を取り込み、我が国経済の活性化につなげるため、インフラシステムの海外展開を後押しすることは成長戦略の重要な柱である。2013年におけるインフラ受注は、総理・閣僚によるトップセールス、円借款を中心とした新制度の導入などにより、着実に増加している。また、足下の円安により、コスト競争力が高まり、受注獲得につながる事例が増えている。

例えば、2015年2月に三菱重工業(株)、三菱商事(株)、(株)日立製作所、近畿車輌(株)、Thales(仏)の5社連合が、都市交通システムとしては世界最大規模のプロジェクトであるドーハメトロの受注内示を獲得したが、トップセールスに加え、最終局面で、欧州大手のアンサルドSTS(伊)、CAF(西)連合と価格競争を強いられたものの、円安でコスト競争力が高まった結果として、最終的な受注内示の獲得につながった。

今後も、「インフラシステム輸出戦略」に掲げた、トップセールスや公的ファイナンス・技術協力等の政策支援ツールの有効活用等の各種施策の実行を通じ、「2020年に約30兆円のインフラシステムの受注(事業投資による収入額等を含む)」を目指していく。

日カタール首脳立ち会いによる日本コンソーシアムの受注確認文書の交換

資料:首相官邸HP

(2)海外展開に伴い所得・サービス収支でも稼ぐ我が国製造業

製造業の海外展開が進み、従来の「国内生産・海外輸出」から、市場に近いところで生産する、地産地消の流れは今後も継続していくものと考えられる。輸出以外に海外事業展開を通じて国富を得る、つまりは貿易収支に依存して稼ぐだけでなく第一次所得収支及びサービス収支でも稼ぐことが求められている。

企業が工場など海外現地法人を開設するために投資を行うと、対外直接投資として認識され、その海外現地法人の収益は直接投資収益として第一次所得収支に計上される。また、海外現地法人に対して特許権などの知的財産権の使用を認めると、その対価として日本の本社が受け取るロイヤリティはサービス収支に計上される。第一次所得収支及びサービス収支は経常収支の主要な構成要素であるが、以下では製造業の観点を交えつつ我が国の第一次所得収支及びサービス収支の動向を分析する。

①直接投資収益を中心に増加する第一次所得収支

第一次所得収支は、海外資産の増加を背景に拡大基調が続いており、18.1兆円と過去最大の黒字を計上している(1996年以降)。海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益である「証券投資収益」が直近の2014年では11兆円と全体の約6割強を占めているが、海外現地法人の収益である「直接投資収益」も6.5兆円と年々拡大が続いている(図112-27)。第一次所得収支に占める直接投資収益の割合は、2000年時点では23%であったが、2014年では36%へと上昇しており、直接投資収益の位置づけの重要性は年々高まっていると言える。直接投資収益の業種別内訳を見ると、製造業全体では2014年第3四半期で1.2兆円と第1四半期から0.6兆円増加している。特に、輸送機械器具で0.2兆円増加しており、全体を引っ張っている(図112-28)。

図112-27 第一次所得収支の推移

図112-28 対外直接投資収益(業種別)

なお、2014年の直接投資収益6.5兆円はネットの金額であり、我が国企業が海外で稼いだ収益8.2兆円から海外企業が我が国で稼いだ利益1.7兆円を差し引いたものである(図112-29)。また、我が国企業が海外で稼いだ収益8.2兆円のうち、日本国内へ還元されたのは5.6兆円である。一方、2.6兆円は海外で再投資されているが、国内へ還元される金額は年々増加している(図112-30)。

図112-29 海外での収益の使途(直接投資収益の内数)

図112-30 国内への利益還元の推移

②サービス収支の赤字縮小に製造業が海外から得た知的財産権等使用料も貢献

サービス収支の赤字は2年連続で縮小している。直近2014年の赤字額は3.1兆円であり、2000年以降では2.2兆円縮小しており、1991年以降では過去最小の赤字となった(図112-31)。この間旅行収支の赤字縮小額は3兆円であることから、サービス収支の赤字幅縮小には旅行収支が大きく寄与していることが分かる(図112-32)。3兆円の旅行収支の改善額のうち、支払の減少が1.4兆円、受取の増加が1.6兆円である。ここ数年で支払は横ばいで推移する一方で、受取は3年連続で増加している。訪日外国人旅行者数が前年比で29.4%増加の約1,341万人と過去最高を記録したことが主な要因である(図112-33)。

図112-31 サービス収支の推移

図112-32 旅行収支の推移

図112-33 訪日外客数(総数)の推移

以上のほか、製造業に係わる項目として、「その他サービス収支」に含まれる「知的財産権等使用料」があり、特許権や著作権、ノウハウなどの使用料の受払が計上されている。これは5年連続で増加を続け、2014年は過去最大の黒字を計上した(1996年以降)(図112-34)。「知的財産権等使用料」は、特許権や意匠権などの産業財産権の使用料の他、ノウハウの使用料や経営指導料が含まれる「産業財産権等使用料」と、ソフトウェアや音楽・映像などを複製・頒布するための使用権料、著作物の使用料などが含まれる「著作権等使用料」から構成される。

我が国では「著作権等使用料」が赤字である一方、「産業財産権等使用料」が黒字であり、かつ「産業財産権等使用料」の黒字が年々拡大することで、「知的財産権等使用料」の黒字拡大に寄与している(図112-35)注2。我が国製造業の海外展開に伴う海外現地法人からの特許権等の使用料や経営指導料などの受取が、「産業財産権等使用料」の増加に寄与している。

注2 ただし、連結企業間での知的財産権等使用料も含まれる。

図112-34 その他サービス収支の推移

図112-35 「知的財産権等使用料」収支の推移

 

(3)地域に応じて稼ぎ方を変える我が国製造業

我が国製造業を取り巻く事業環境が変化するに伴い、我が国製造業の稼ぎ方にも変化が見られ、その一端は経常収支の構造にも現れている。我が国が世界のどこで稼いでいるのかという観点から、経常収支を地域別に見てみると、長年にわたり北米が最大の経常収支黒字を占めていた(図112-36)。一方、新興国の経済成長に伴いアジアの比率は年々拡大し、リーマンショック後は米国の景気後退に伴って北米が大きく減少したため、アジアが最大となった。足下では経常収支の黒字幅が縮小する中、再び北米が最大の経常収支黒字の計上先となっている。また、ピーク時からの縮小幅が大きいのは欧州であり、2008年の9.4兆円から直近2013年には0.6兆円と大幅に縮小している。以下では、アジア、北米、欧州の主要3地域について分析を行う。

図112-36 経常収支の地域別推移

①対アジア経常収支の特徴

対アジア経常収支の特徴は、貿易収支黒字が年々縮小する一方で(図112-37)、我が国製造業の進出拡大に伴い直接投資収益と特許等使用料(後述)で稼いでいる点にある。

2013年の対アジア経常収支を主な国・地域及び項目別に分析すると、対香港、台湾、韓国では貿易黒字を計上したが、対中国、ASEANでは貿易赤字を計上している。一方、対アジア所得収支黒字2.8兆円のうち、中国とASEANが2.2兆円と約8割を占めている(図112-38)。対香港、台湾、韓国では貿易収支で、対中国、ASEANでは所得収支で稼いでいることがわかる。

また、参考までに直近2014年の対アジア経常収支(第3四半期まで)を見ても、上述の構造に変化はない(図112-39)。

後述する北米や欧州の所得収支黒字は、「証券投資収益」(海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益)が高い比率を占めているが、対アジアでは海外現地法人の収益である「直接投資収益」が全体に占める比率が高い。

図112-37 対アジア経常収支の推移

図112-38 対アジア経常収支の内訳

(単位:兆円)

経常収支 貿易収支 サービス収支 所得収支 経常移転収支
アジア計 6.9 2.5 1.8 2.8 -0.2
中国 -3.6 -4.5 0.3 0.7 -0.1
香港 4.0 3.5 0.2 0.2 -0.0
台湾 2.4 1.9 0.4 0.1 -0.0
韓国 2.2 2.1 -0.1 0.2 -0.0
ASEAN 1.4 -0.9 0.9 1.5 -0.0

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」

図112–39 対アジア経常収支の内訳(2014年第3四半期まで)

(単位:兆円)

経常収支 貿易収支 サービス収支 第1次所得収支 第2次所得収支
アジア計 2.9 -0.1 0.6 2.7 -0.3
中国 -3.0 -3.9 0.3 0.7 -0.1
香港 3.5 3.3 -0.0 0.2 0.0
台湾 1.2 0.9 0.2 0.1 -0.0
韓国 1.3 1.2 -0.1 0.2 -0.0
ASEAN -0.6 -2.0 0.2 1.4 -0.2

資料:財務省・日本銀行「国際収支統計」

なお、特許権などの使用料や経営指導料などが計上される、サービス収支の内訳である「特許等使用料」の収支を見ると、2000年以降順調に黒字幅が拡大しており、我が国製造業のアジア地域への進出拡大などを反映したものと考えられる(図112-40)。国・地域別では中国とASEANがその多くを占めている。

図112-40 「特許等使用料」(収支)の地域別推移

②対北米経常収支の特徴

対北米経常収支は、2008年には貿易収支黒字と所得収支黒字がほぼ同額だったものが、足下では貿易収支黒字額が相対的に大きくなってきており(図112-41)、リーマンショック後に大幅に減少した貿易収支も戻りつつある。なお、対北米の所得収支黒字4.6兆円のうち、直接投資収益は1.4兆円であり、3.2兆円は証券投資収益が占めている。但し、2013年の我が国の直接投資収益の総額約6.1兆円に対して2割半ば程度に相当する水準であり、自動車を中心とする北米における我が国の企業集積の厚さがうかがえる。

③対欧州経常収支の特徴

対欧州経常収支もリーマンショックまでは、貿易収支黒字と所得収支黒字がほぼ同額であったが、リーマンショック及び欧州各国の財政危機に伴う景気の低迷により、貿易収支黒字が大幅に縮小し、2012年には貿易赤字に転じ、足下では赤字幅が拡大している(図112-42)。2013年の対欧州の所得収支黒字3.7兆円の内訳は、直接投資収益0.6兆円に対して、証券投資収益3.0兆円であり、証券投資収益が対欧州経常収支黒字の柱であることがわかる(0.1兆円はその他収支)。

図112-41 対北米経常収支の推移

図112-42 対欧州経常収支の推移

 

(4)グローバル最適地生産の流れの中で求められる製造業の役割

ここまで、経常収支の観点から我が国製造業の稼ぎ方を分析してきた。第一次所得収支が過去最大の黒字を計上したことに象徴されるように、円高とリーマンショック以降の新興国ブームによって企業の海外展開が進み、我が国の貿易構造に大きな変化が見られる。なお、為替の円安方向へのシフト等により、急拡大を続けていた海外設備投資比率は足下では頭打ちとなっているものの、今後も企業の海外展開は続くものと考えられる(図112-43)。また、直近では輸出金額・数量ともに増加傾向で推移しているが(図112-44)、グローバルな地産地消という考え方に基本的には変化はないものと思われ、後述するように、今後ともマザー機能やイノベーション拠点等としての更なる国内拠点の差別化、「海外で稼ぐ」分野と「国内に残す」分野の棲み分けを明確化し、戦略的に国際分業をしていくことが重要である。

図112-43 海外設備投資比率と為替の推移

図112-44 輸出と為替レートの推移

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