経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第2章 良質な雇用を支えるものづくり人材の確保と育成
第1節 良質な雇用を支えるものづくり人材の確保・育成の課題と対応

1.良質な雇用の場としてのものづくり産業

(1)ものづくり産業における雇用の現状

ものづくり産業は、良質な雇用の場と言われる。注1

その理由としては、まず、ものづくり産業を雇用の面からみると、関連する地場の企業など非常に裾野が広い産業であり、雇用吸収力が高いことが挙げられる。産業別就業者数をみると、全産業中、製造業の就業者数は、卸売業,小売業に次いで多くなっている(図211-1)。また、特に高等学校卒業者においては、製造業が就職者に占める割合が最も大きい産業となっている(図211-2)。さらに、製造業は地域の雇用情勢に対する影響も大きいと想定されることから、地方創生の観点からも重要な産業となっている(図211-3・4)。

図211-1 産業別就業者数

図211-2 産業別就職者数(高等学校卒業者)

注1 ①雇用政策研究会「雇用政策研究会報告書」(2014年2月)P31・32、②厚生労働省「平成25年版 労働経済の分析」P108~111参照

図211-3 都道府県における製造業就業者比率と完全失業率の関係

図211-4 雇用情勢の良好な地域と厳しい地域の全産業に占める製造業就業者構成比

全産業に占める製造業
就業者構成比(%)
(参考)
完全失業率(%)
全国16.83.6
雇用情勢が良好な上位5地域
1三重県23.82.3
2福井県21.72.4
3岐阜県23.72.6
3愛知県26.22.6
3島根県13.42.6
雇用情勢が厳しい上位5地域
1沖縄県5.15.4
2大阪府16.74.6
2福岡県12.54.6
4青森県10.74.4
5北海道8.94.1
5鹿児島県11.54.1

資料:総務省「平成24年就業構造基本調査」、「労働力調査(平成26年平均)」より厚生労働省職業能力開発局基盤整備室において作成

また、ものづくり産業における雇用は、①賃金、②正規雇用率、③勤続年数、④離職率などからみると、安定した雇用であることがその理由として挙げられる。

①賃金については、製造業の年収は産業平均よりも高くなっている(図211-5)。また、製造業における高等学校卒業者の生涯年収の推計は相対的に高い(図211-6)。

図211-5 年収(概算)(正社員・正職員)

図211-6 高等学校卒業者の産業別生涯年収

また、製造業の②正規雇用率については、産業平均の62.6%よりも高い73.1%と正規雇用労働者の割合が高くなっており、製造業は、正規雇用の場を提供する産業といえる(図211-7)。

図211-7 産業別正規雇用率

さらに、製造業の③勤続年数については、産業平均の12.1年よりも長い14.3年になっており、他の産業よりも長く、また、製造業の④離職率についても、産業平均の15.6%よりも低い10.6%となっている(図211-8)。

図211-8 産業別平均勤続年数及び離職率

(2)ものづくり産業を取り巻く状況

しかし、ものづくり産業を取り巻く現状としては、アベノミクスの効果が現れる中で、着実に上向いてきているものの、長年、国際競争の激化などにより、厳しい経営状況が続き、事業所数が1993年は413,670事業所あったが、企業の倒産や廃業等により2013年には208,029事業所と20年間で約50%減少している(図211-9)。

図211-9 製造業に関する事業所数

また、国内の製造業の就業者数についても、1993年の1,530万人から2013年には1,039万人と、20年間で約32%減少しており、全産業に占める製造業就業者の割合も1993年の23.7%から2013年の16.5%に減少している(図211-10)。

さらに、製造業の若年就業者数についても、減少が続いており、近年の景気の回復に伴い2013年に増加したが、2014年は減少に転じている(図211-11)。

図211-10 製造業就業者数

図211-11 製造業における若年就業者(34歳以下)の推移

本節では、このような厳しい現状の中で、良質な雇用の場であるものづくり産業では、生き残りをかけてどのような取組を行ってきたのか、そのために、ものづくり産業で働く人々はどのような役割を果たしてきたか、また、良質な雇用の場であるものづくり産業では、どのような人材育成を行っているのか、また今後とも良質な雇用の場としてあり続けるためには、何が必要かについて分析・検討する。

なお、本節で引用されている統計調査は、特に断りのない限り、JILPT「ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査」(2014年11月実施)によるものである。本調査は、主として、ものづくり人材注2について調査注3したものである。

注2 ここでいう「ものづくり人材」とは、技能者と技術者の総称のことをいう。

注3 調査対象は、民間信用調査機関所有の企業データベースを母集団とし、総務省「経済センサス」(平成21年版)の構成比に基づき、業種、規模別に層化無作為抽出した全国の製造業(全国の日本標準産業分類(平成19年11月改定)による項目「E 製造業」に分類される企業のうち、プラスチック製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、はん用機械器具製造業、生産用機械機具製造業、業務用機械器具製造業、電子部品・デバイス・電子回路製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業及び情報通信機械器具製造業)の従業員10人以上の企業

2.ものづくり産業における人材の果たしてきた役割

ここでは、ものづくり産業では、1でみたような厳しい現状の中、生き残りに向け、どのような取組を行ってきたのかについて分析する。

(1)自社の生き残りに向けた取組

JILPT「ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査」によると、これまで行ってきた自社の生き残りに向けた取組として、「改善の積み重ねによるコストの削減」(51.4%)が最も多く、「単品、小ロットへの対応」(44.2%)、「優良企業からの受注の獲得/拡大」(43.2%)、「改善の積み重ねによる納期の短縮」(42.7%)、「従来の製品/サービスに付加価値を付与した製品/サービスの提供」(38.9%)、「営業力の強化」(35.4%)、「高度な熟練技能を活かした他社にはできない加工技術や作業工程の確立」(26.8%)等と続き、ものづくり人材による取組が果たした役割が大きくなっている(図212-1)。

図212-1 これまで行ってきた自社の生き残りに向けた取組(複数回答)

(2)企業の製品/サービスを生産・提供するにあたり重要な役割を果たした人材

このような取組を行ってきた企業の製品/サービスを生産・提供するにあたり重要な役割を果たしたものづくり人材をみると、企業の製品/サービスを生産・提供するにあたり重要な役割を果たしたものづくり人材がいると答えた企業は89.7%、うち、技能者が49.3%、技術者が23.3%となっており、ものづくり人材が重要な役割を果たしてきたことが分かる。また、企業規模別にみると、規模が小さい企業ほど、技能者が重要な役割を果たしたと答えた企業が多く、規模が大きい企業ほど、技術者が重要な役割を果たしたと答えた企業が多い。技能者の内訳としては、「高精度の加工・組立ができる熟練技能者」(20.5%)が最も多く、「生産現場の監督ができるリーダー的技能者」(16.4%)と続く。企業規模別にみると、規模が小さい企業ほど、「高精度の加工・組立ができる熟練技能者」が重要な役割を果たしたと答えた企業が多くなっている(図212-2)。

図212-2 ものづくり人材のうち、製品/サービスを生産・提供するにあたり重要な役割を果たした人材

さらにものづくり人材以外で重要な役割を果たした人材をみると、営業職(37.3%)、事業主(20.2%)、経営企画業務担当者(10.9%)となっており、重要な役割を果たした人材はいないと答えた企業は9.0%となっている。

(3)自社の強み

また、ものづくり企業の自社の強みをみると、「高度な熟練技能を持っている」(33.8%)を挙げる企業が最も多く、高度な熟練技能を持っている人材が企業を支えていることが分かる(図212-3)。

図212-3 自社の強み(複数回答)

コラム:ニッチトップを支える熟練技能者の技と人材の育成

新潟県三条市にある株式会社共栄鍛工所は、高度な鍛造技術により搬送用設備や農業機械等の部品を製造している。同社の鍛造方法の特徴は、ハンマー設備による熱間鍛造にあり、それが複雑な形状の製品製造を可能にしている。

同社は大手メーカーの系列に入っていないこともあり、大手メーカーがやらないようなニッチ分野にも積極的に取り組み、それが金型設計の技術者や鍛造技能者等のノウハウ蓄積や技術の一層の向上につながってきた。そのような熟練した技能者たちにより製造される鍛造製品は高精度かつ高強度とされ、付加価値の高い製品として国内のみならず海外市場でもトップクラスのシェアを誇っている。

会社としても、「特に鍛造部門が事業の要」として、現場責任者による若手技能者へのOJTの他、外部の機関による研修を積極的に受けさせる、技能検定の受検料を会社が負担する、人材ごとの育成計画を作成して教育するなど技能者の教育訓練に力を入れている。また、処遇の面でも定期昇給や決算賞与等の実施だけでなく、鍛造技能者の基本給を高くする等の取組を行っている。

同社は数年前に新工場を建設したほか、今後は、鉄だけでなくチタン等を用いた新しい鍛造製品にも取り組んでいくとしている。同社の齊藤専務は、「生産性の向上や今後の事業展開も見据え、特に20代の鍛造技能者を増やし、育てていきたい」と語る。

写真:熟練技能者による鍛造作業

(4)今後成長する上で必要と思われる取組

今後成長する上で必要と思われる取組をみると、「営業力の強化」の他に、「改善の積み重ねによるコストの削減」(35.0%)、「改善の積み重ねによる納期の短縮」(26.4%)、「高度な熟練技能を活かした他社にはできない加工技術や作業工程の確立」(24.2%)というものづくり人材の活躍が必要不可欠な取組が挙げられている(図212-4)。

図212-4 今後成長する上で必要と思われる取組(複数回答)

コラム:新たな事業展開の取組

熊野化粧筆は、国民栄誉賞を受賞した「なでしこJAPAN」へ授与され一躍有名になった。㈱晃祐堂は広島県安芸郡熊野町で、化粧筆を含め筆全般を製造している、1979年創業の中堅企業である。

元々は書道筆のみを製造する企業であったが、新たな展望が厳しいため、事業の生き残りをかけ、2004年に化粧筆の製造に主軸をシフトさせた。このような経営戦略の転換を図ったのは、書道筆には75もの作業工程があり、一人前になるのには10年はかかることだった。それに対し化粧筆は10工程。1年程度で技能は習得できることと、大量生産ができることからであった。

化粧筆を製造開始した2004年には正社員を6名採用し、その後も毎年3~4名の社員等を採用し続けながら事業拡大を図った。現在正社員27名(うち女性7名)パート従業員56名(うち女性54名)までに成長した。今年度は事業の拡大に伴い念願の新工場も完成させた。植松会長は「多くの女性の採用は、化粧筆であれば技能の習得も比較的早く、細かく丁寧な作業にも適している。また、女性が女性の為の製品を作ることから、女性従業員のモチベーションも上がるという相乗効果を生んでいる。新工場の稼働は、就労環境の向上のみならず、社員全員のモチベーション向上にもつながることから、非常に有益であると思われる。この先、化粧筆職人から書道筆職人へと技能の向上を目指す者も出てくるのではとの期待感もある。今後においても、伝統工芸士、ものづくりマイスターの取得を目指すとともに、その技能を伝承していくことが使命だ。」と語る。

写真:熊野化粧筆の制作風景

写真:伝統工芸士の作業風景

 

(5)技能者が一人前と呼ばれるレベルと一人前になるまでに要する年数

ものづくり人材のうち、技能者が一人前になるには、どのくらいの年数がかかるのかをみると、例えば、「自分で段取りできることに加え、担当作業にトラブルが発生した際でも、一人で対応することができる」レベルになるには、5年~10年かかると答えた企業が40.9%と最も多く、一人前になるには長い年数が必要であることが分かる(図212-5)。さらに、ものづくり企業が自社の強みとして挙げる熟練した技能を持つ技能者を育成するにはさらに長い年数が必要である。

図212-5 技能者が「一人前」と呼ばれるレベルと一人前になるまでに要する年数

(6)ものづくり人材の確保の仕方

これらのものづくり人材の確保の仕方をみると、「新卒者を採用して自社で育成」が37.1%、「中途採用者を自社で育成」が70.4%と新卒又は中途採用者を採用して自社で育成する企業の割合が約9割を占めており、企業の成長・生き残りに大きな役割を果たしてきたものづくり人材は社外から即戦力の人材を確保するのではなく、自社で育成してきた企業が多い現状が伺える。また、規模が大きい企業ほど、新卒者を採用して自社で育成してきたことが、規模の小さい企業ほど中途採用者を自社で育成してきたことが分かる(図212-6)。

図212-6 人材の確保の仕方

以上のとおり、ものづくり産業が現在良質な雇用の場となっている背景には、さらに、今後も良質な雇用の場として成長し続けるためには、ものづくり人材の果たす役割が大きく、特にものづくり人材の持つ熟練技能が重要な鍵となっていることが分かる。

この良質な雇用の場であるものづくり産業における熟練技能による「技術力」、「人材の厚み」等は、日本の強みとなっているところである。

このため、ものづくり人材の育成・能力開発を行い、ものづくり人材を一人前、そして熟練技能者として企業を支える存在に育成していくことが必要である。

また、今後、労働力人口が減少する中で、ものづくり人材の育成・能力開発を通じて、労働生産性を向上させていくことが必要である。

そこで、次節以降では安定した良質な雇用の場であるものづくり産業において、今後の生き残りや成長を支えるものづくり人材の育成・能力開発の現状を分析し、今後求められる施策について検討する。

3.ものづくり産業における人材の確保・育成の現状

ものづくり人材が重要な役割を果たしてきたものづくり企業の人材の育成・能力開発の実態をみると次のとおりとなっている。

(1)採用の状況について

ものづくり人材の採用方針をみると、「定期採用に近い」(21.8%)、「不定期採用に近い」(72.7%)となっている。このうち、定期採用に近い企業においては、10年以上前から定期採用を行っている企業が約61%を占めている。また、不定期採用に近い企業を企業規模別にみると、規模が小さい企業ほど、不定期採用に近く、従業員数が少ないことから実態として不定期採用にならざるを得ない状況が伺える(図213-1)。

図213-1 ものづくり人材の採用方針

(2)ものづくり人材の定着を促すための取組

ものづくり人材の定着を促すための取組をみると、「賃金水準の向上」(49.1%)、「能力を処遇に反映」(44.5%)、「会社の経営方針や経営戦略の従業員への明示」(39.8%)、「業績を処遇に反映」(33.1%)などとなっており、処遇の改善など様々な取組を行っていることが伺える(図213-2)。

図213-2 ものづくり人材の定着率を高めるための取組(複数回答)

(3)ものづくり人材の育成・能力開発の方針について

ものづくり人材の育成・能力開発の方針をみると、「今いる人材を前提にその能力をもう一段アップできるよう能力開発を行っている」(38.6%)が最も多く、「個々の従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身につけることを目標に能力開発を行っている」(32.9%)、「数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っている」(18.8%)と続く。また、規模が小さい企業ほど、個々の従業員が当面の仕事をこなすために必要な能力を身につけることを目標に能力開発を行っている割合が高くなっている(図213-3)。

図213-3 現在のものづくり人材の育成・能力開発方針

(4)ものづくり人材の育成・能力開発を目的とした取組の内容

ものづくり人材の育成・能力開発を目的とした取組をみると、「日常業務の中で上司や先輩が指導する」(88.1%)が最も多く、「仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させる」(52.8%)、「作業標準書や作業手順書を使って進めている」(47.3%)、「主要な担当業務のほかに、関連する業務もローテーションで経験させる」(35.6%)と続く。「日常業務の中で上司や先輩が指導する」、「仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させる」はいずれの企業規模でも大きな差はないが、その他の項目については企業規模が小さくなるほどその取組は少なくなっている(図213-4)。

図213-4 ものづくり人材の育成・能力開発を目的とした取組の実施(複数回答)

(5)ものづくり人材の教育訓練に向けて行っている環境整備

ものづくり人材の教育訓練に向けて行っている環境整備をみると、「改善提案の奨励」(47.5%)、「伝承すべき技能のテキスト化・マニュアル化」(23.0%)、「小集団活動やQCサークルの奨励」(21.8%)と続く。いずれも規模が大きい企業ほど様々な環境整備を行っているが、企業規模が小さくなるほど特に何も行っていないとする企業が多くなっている(図213-5)。

図213-5 ものづくり人材の教育訓練に向けて行っている環境整備(複数回答)

コラム:大企業における人材育成

マツダ株式会社は、1988年から厚生労働省認定の職業訓練校として「マツダ工業技術短期大学校」を設立、運営している。新規高卒者は試験選考で社員として、社内選抜者は選抜試験で入校させ、高品質で効率的な生産活動ができる技術・技能者を育成している。短期大学校は企業敷地内にあり、入校生は全寮制での生活とし、組織人として人間力の養成も行っている。

卒業後においては、生産部門や試作部門に配属し、更なるスキルアップを目指すよう、社内検定や国の技能検定資格の取得を推奨している。また、会社独自の「とびうお」と銘打った人事制度を施行し、「上司が育てる・活用する」から「社員が自ら成長する・活躍する」に視点を移行し、年4回のキャリアミーティングを行い、社員の成長のため、活躍のための話し合いを行っている。

人材育成は、会社自ら行うことを徹底しており、マツダイズムの伝承を行っていることから、3代続いての社員となる者も珍しくなく、早期の離職率は極めて低いと胸を張る。

写真:授業風景

写真:実習場

 
コラム:コミュニケーションを最重要とした人材育成

1967年創業の半導体製造装置関連部品、各種精密機械部品、航空宇宙関連部品製造業として、事業を行っている株式会社ひびき精機は、創業当時は、造船関連部品製造であった。しかし下関市で起きた造船不況を機に、当時の市内では前例の少ない、温度管理を目的とした工場の建築を決意。思い切った設備投資から、高度な品質保障が可能となり、半導体製造装置真空部品、さらに航空宇宙関連部品へと製造品目を変遷してきた。最終的な目標は、技術を育て技能を鍛え繋ぐ「技術・技能伝承企業」の実現。2013年には、経済産業省による「がんばる中小企業・小規模事業所300社」に選定されている。

人材教育は社員のモチベーションに重点を置き、就労環境の整備をしている。事業発展への貢献度を評価し、利益のうち、事前に定めた比率を社員配当に充てる成果配分制度を導入。また、全社員でコミュニケーションを取る場を設けるため、2ヶ月に一度は市内のユースホステルを活用し、合宿を行っている。この合宿では、その都度テーマを決め自由討議を行っており、各社員の仕事に対する意識、そして若手から熟練までの世代間ギャップの認識を補う場面となっている。

写真:合宿風景

(6)ものづくり人材に対する教育訓練の取組の成果

ものづくり人材に対する教育訓練の成果をみると、「成果があがっている」又は「ある程度は成果があがっている」企業は63.6%、「あまり成果があがっていない」又は「成果があがっていない」企業は32.3%となっている(図213-6)。

ものづくり人材に対する教育訓練の取組の成果と過去10年間の売上高の変化をみると、教育訓練の成果があがっている企業ほど、過去10年間の売上高が好調であることが分かる(図213-7)。

図213-6 ものづくり人材に対する教育訓練の取組の成果

図213-7 ものづくり人材に対する教育訓練の取組の成果と過去10年間の売上高の変化

(7)熟練技能伝承に向けた取組の内容

技能者に対する技能伝承のため、熟練技能の伝承に向け、何らかの取組を行っている企業は78.4%であり、うち「再雇用や勤務延長による高年齢従業員の活用」(48.7%)が最も多く、「伝承すべき技能のテキスト化・マニュアル化」(25.8%)と続く。いずれも規模が大きい企業ほど様々な熟練技能の伝承に向けた取組を行っているが、企業規模が小さくなるほど特に取組は行っていないとする企業が多くなっている(図213-8)。

図213-8 熟練技能の伝承に向けた取組の実施

コラム:「世界一のものを造る」という「誇り」が「熟練職人の腕」の継承を支える

安田工業(株)は、マシニングセンターという自動工具交換機能付数値制御工作機械を製造している。他社量産の工作機械よりも高価だが、一桁上をいく高精度なパフォーマンスで差別化を実現し、日本国内はもちろんのこと、世界中の多様な産業界のメーカーから納入されている。その功績を支えているのは紛れも無く「熟練職人の腕」である。

超精密工作機械を製造する工程で、機械の土台となる滑り面(可動部)を持つ部品を「熟練職人の腕」による特別な最終金属加工を行っている。面の粗さを改善し平坦度が高いだけの部品でよいならば、磨き加工など概ね自動機械で行えるが、熟練職人が「キサゲ」という「鑿」(のみ)の一種の工具を使い、平滑な可動を損なわない僅かな範囲(1マイクロメートル単位(マイクロは100万分の1))で意図的に微小な窪みをつくり、微細な潤滑油溜まりを作る加工を行い、滑り面の固着や焼き付きを防ぐことで、機能停止や性能の低下といった不具合を抑え高精度な滑り(動き)を実現している。量産化の時代に伴い、人の手による加工調整は行われなくなってきた今も、安田工業は全てこの作業を行っているのである。

この熟練されたキサゲ加工の技能はどのように継承されているのか。こういった長年の経験がものをいう類いの技能は、システム的に構築された人材育成や技能伝承は難しく、ほとんどはOJTによる技能継承にならざるを得ないのが実情だ。実作業の中で熟練者と若年者がセットで作業し、熟練者のやり方を目で見て、体で体験して覚えてもらうことで継承している。

このようなOJTによる技能継承を可能にしているのは、安田工業の圧倒的な人材の定着率にある。若年者も熟練者も会社を辞めてしまっては技能継承どころではない。入社3年以内の離職はここ10年で3人程度という。定着する理由は、「世界一高精度なものを造る」、「最先端に携わっている」という従業員一人一人のプライドや「誇り」にある。「最大ではなく最高」を目指し、「我々の造るものは世界一」だという社風がある。また、社長の「一流のものを作るには一流のものを使用する」というモットーにより、社内の備品等も敢えて高級なものを使用するなど、随所にものづくりに対する「誇り」を高める理念が貫かれている。

したがって、職人は自身の腕、会社に誇りを持ち、この会社で職業人生を全うする。一度入社すると辞めない。安田工業の定年は60歳。定年まで腕を磨き続けてきた職人は65歳までパートで継続雇用され、熟練技能者としてOJTの際に指導的立場としても活躍する。入社したての若年者はその時代の熟練者から技能を学び、いずれ時を経て熟練者となり次世代の若年者に技能を継承していく・・・。そんな半世紀を超える技能伝承のサイクルを支えているのは、職人一人一人に根付く「誇り」なのである。

写真:キサゲ加工を行う様子

それぞれの企業の取組の現状からも、ものづくり人材の育成には時間がかかるものの、ものづくり産業は、教育訓練などによりものづくり人材の育成や熟練技能の伝承に取り組むとともに、賃上げの実施など処遇の改善にも取り組んでおり、良質な雇用の場を生み出していることが分かる。

さらに、ものづくり人材の育成・能力開発の成果があがっている企業ほど、企業の業績が好調となっているという結果が出ており、ものづくり人材の育成・能力開発に取り組むことは企業の生産性の向上につながっていると考えられる。

このように、高い技術を誇り、日本経済を支える製造業を、引き続き良質な雇用の場とし、日本の成長力の源泉としていくため、企業の生き残り・発展に重要な役割を果たすものづくり人材の育成を今後も強化していくとともに、技能伝承の取組を進めていくことが重要である。

4.良質な雇用を支えるものづくり人材の確保・育成のために求められる施策

ここでは、1~3でみてきた現状を踏まえ、どのような支援を行っていくことが必要であるか検討を行う。

(1)ものづくり人材の確保・育成に関する課題

ものづくり人材に対する教育訓練の課題としては、「育成を行う時間がない」(43.5%)、「若年ものづくり人材を十分に確保できない」(37.3%)、「指導する側の人材が不足している」(35.8%)と続いており、時間的制約のほか、人材確保や企業内の指導人材不足に課題を抱えていることが分かる。また、企業規模が小さい企業ほど、「若年ものづくり人材を十分に確保できない」と回答する企業が多くなり、企業規模が大きい企業ほど、「育成を行う時間がない」、「指導する側の人材が不足している」と回答する企業が多くなっている(図214-1)。

図214-1 ものづくり人材に対する教育訓練を実施する上での課題(複数回答)

(2)ものづくり人材の確保・育成に関して希望する行政の支援

ものづくり人材の確保・育成に関して希望する行政の支援としては、「若者のものづくりに対する意識を高めるための活動」(43.1%)、「職業訓練を実施する事業主への助成金の支給対象の拡大/支給額の増額」(34.7%)、「教育訓練給付金制度や教育訓練機関、通信教育等に関する従業員の自己啓発支援に関する情報提供」、「ものづくり人材向け在職者訓練の充実」及び「公共職業訓練修了者に関する情報提供」が約2割と続き、人材確保や教育訓練に問題意識を持っていることが分かる(図214-2)。

図214-2 人材の確保・育成に関して希望する行政の支援(複数回答)

(3)ものづくり人材の確保・育成のための今後の支援

これらを踏まえ、下記の取組を行うことが必要であると考えられる。

①人材確保に対する支援

ものづくり人材に対する教育訓練の課題として、「若年ものづくり人材を十分に確保できない」(37.3%)、ものづくり人材の確保・育成に関して希望する行政の支援として、「若者のものづくりに対する意識を高めるための活動」(43.1%)が挙げられており、幼い頃からものづくりに親しみ、身近に感じられるようにするとともに、円滑なマッチングを行っていくことや真に企業が必要とする人材を育成することにより、人材確保を支援していくことが必要である。

(ものづくりの魅力発信に向けた取組)

ポリテクカレッジ、ポリテクセンター、都道府県の職業能力開発校等の公共職業能力開発施設では、ものづくりを中心とした訓練を実施しているところであるが、中学生を対象とした公共職業能力開発施設での職場体験の実施、工業高校等へのポリテクカレッジ等の指導員の派遣などにより、学生・生徒等を対象にものづくりを身近に感じてもらう取組を実施している。また、小中学校等へ熟練技能者であるものづくりマイスター注4を派遣し、講義やものづくり体験を行うことを通じて、児童・生徒にものづくりの魅力発信に取り組んでいるところであり、これらの取組を更に進めていくことが必要である。

さらに、文部科学省・経済産業省とも連携し、学校段階からの職業意識の醸成のため、キャリア教育の推進に取り組んでいくこととしている。

注4 第2節4(2)参照

コラム:3省連携した人材確保 技能フェア

第31回を迎える「ひろしま技能フェア」は、「ひろしまものづくりフェスタ2014」と同時開催しており、職業能力開発の意義や必要性を県民に広く周知し、また、小学生から高校生の若者にものづくり産業に対する興味や職業意識を醸成させることも意識しながら、県内の認定職業訓練生・高校生などの作品展示や実演、また、業界団体及び事業所の製品の展示、実演、さらに技能士、マイスター及び技能五輪選手による技能実演などを行う、「職業能力開発月間」である11月に毎年開催されるイベントである。主催は県及び職業能力開発協会であるが、事業経費負担、参加団体・企業募集、参加者誘導などの点で、国の機関として厚生労働省、経済産業省、文部科学省が直接的・間接的に連携したイベントとなっている。

技能フェアは、2日間にわたり開催されるが、小・中学生は近隣の広島市内の学校を対象としており、実演を熱心に見るだけでは無く、体験コーナーとして実際物を作ることで、ものづくりの楽しさも体験できるようになっている。高校生以上には、今回は事業主から、モノを創るということは、人を育てることであることを基本理念に置いているというメッセージを発し、ものづくり産業の魅力をアピールしていた。

フェアに参加していた三菱重工業(株)広島製作所の担当者は、小学生からものづくり産業に興味を持ってもらうということは非常に大事との想いで、毎年参加しているとの話もあり、今後の将来のものづくり産業を担ってもらう人材確保策としても有効と思われる。

写真:板金加工の実演

写真:ものづくり体験

 
(円滑なマッチングに向けた取組等)

良質な雇用の場であるものづくり産業への入職を促進するため、ハローワークにおける合同説明会の実施など効果的なマッチングを進めるとともに、雇入れ時の助成金により特に中小企業における採用を支援していくことが必要である。

また、若者の適職の選択の支援に関する措置等を総合的に講ずることにより、青少年の雇用の促進等を図り、能力を有効に発揮できる環境を整備するため、職業選択に資する情報提供の仕組みを設けることなどを内容とする勤労青少年福祉法等の一部を改正する法律案(青少年の雇用の促進等に関する法律)を2015年通常国会に提出したところであり、ものづくり企業も含め、広く若者の適職の選択等を支援していくこととしている。

(企業ニーズを踏まえた人材の育成に向けた取組)

ものづくり産業への就職に必要なスキルのない方に対しては、公共職業能力開発施設において、ものづくり分野の職業訓練を実施している。公共職業訓練の修了者を採用したことのある企業に対する公共職業訓練の修了者の採用について期待したこととしては、「ものづくりに関する基礎的な知識・技能を習得していること」(88.8%)、「ものづくりに対する心構えができていること」(75.0%)、「ものづくりに関する専門的な知識・技能を修得していること」(61.7%)(図214-3)となっており、例えば「ものづくりに対する心構えができていること」の「求める基準に達していない」と答えた企業は15.2%に留まっている。

図214-3 職業訓練修了者採用の際に期待したこと(複数回答)

このため、公共職業能力開発施設において、企業ニーズに即した職業訓練の実施に一層努めるとともに、公共職業訓練修了生の情報を企業に対して提供するなど、公共職業訓練修了生と企業とのマッチングの取組を進めていくことが重要である。

さらに、人口減少社会では、女性技能者の育成も重要な課題となっている。女性の方が正確かつ丁寧な仕事ができると評価する企業の声もあり、積極的に育成を行うことはものづくり産業の発展にも資すると考えられるところである。このため、女性向けの職業訓練コースの設定や育児等を行いながらも職業訓練を受講できる環境整備等を行うことにより、女性のものづくり分野への入職促進等の取組の支援を行うことが必要である。

コラム:女性の活用による好循環の実現

日本精機株式会社は、エンジンバルブのみを受注生産している従業員47名の大阪府生野区の企業である。創業した先代は、自動車部品全般を大手企業に納入していたが、景気に大きく左右される下請け企業から脱するため、海外で活躍する日本車の修繕に目を向け、エンジンバルブ一本に絞って生産し、製品を現在約70カ国に輸出している。

高橋祐子社長によると、一般的にものづくり産業というと男性の職場と思われがちだが、仕事の内容によっては、女性に任せた方がいい分野もあると言う。例えば、生産管理部門は、在庫管理等きめ細かで、確実な作業を要することから、こういった分野には女性が向いているのではとの想いで、女性を配置した。実際に作業をしてもらうと女性ならではのきめ細やかな観点から、生産段階での生産管理や進捗管理を確実に把握することで、在庫の山が見る見るうちに解消し、受注した数だけ生産し、出庫するという好循環が生まれたと言う。ものづくり産業の職場でも女性ならではのポジションが多くあり、現在事務職で働いている女性従業員にもゆくゆくはとの想いもあるとのこと。

また、日本精機株式会社が生産しているエンジンバルブには、DOKUROという商標で海外に輸出している。この商標であるDOKUROは、海賊を意味し、海賊は世界の海を股にかけるとの意味に通じ、全世界がシェアであることを意味すると同時に、日本の大手自動車メーカーが生産中止した自動車でも、壊れた部品を交換すればまだまだ元気に走るんだよということを実証し、ものを大切にする日本人の気持ちと、その部品の技術力の高さを世界に広めたいとの気持ちも込められていると言う。そのため、全てのエンジンバルブにドクロマークとメイドインジャパンの刻印を施している。そのバルブで走る日本車をできるだけ走り続けさせることが、我々職人の誇りと高橋社長は胸を張る。

写真:生産管理部門で働く女性従業員

写真:製造されたエンジンバルブ

 
コラム:女性技能士活躍中!

北海道石狩市に工場を持つシンセメック(株)は、自社一貫生産体制のもと、顧客の要求する仕様でオーダーメイドの機械を製作する企業である。「世界で1台の機械を作る」と笑顔で話す松本社長の顔には、自社で製作する機械への確固たる信頼と自信がみなぎっている。この、世界で1台の機械を生み出す支えの1つとなっているのが、女性技能士の存在である。

シンセメック(株)では、「女性に出来ない分野はない」という松本社長の信念のもと、男性が多い製造業のなかにあって、女性技能士が男性技能士に混じって研磨機やワイヤーカット放電加工機、制御盤配線等の作業に従事している。松本社長は、「細かい作業は女性に向いている印象。例えば、電気配線は力も要らず、女性の方が見た目に美しい配線に仕立てるのは上手い。」と話す。

シンセメック(株)では、2015年春に8名を新規採用予定であり、そのうち2名が技術職の女性である。なお、シンセメック(株)では、女性用トイレを増設したり、更衣室を女性用に改修したりするなどの職場環境への配慮や、工場内を常に清潔に保つことなど、女性が働きやすい職場を心がけているとのことである。

今後も、シンセメック(株)における女性技能士の活躍がより一層期待される。

写真:女性技能士の作業風景

コラム:女性技能者の定着促進に向けて~道内発の事業所内保育施設の導入~

北海道に本社を置く(株)ダイナックスは、摩擦材の素材開発からクラッチディスクやクラッチパック・アッセンブリーなどの多彩な製品群の開発・製造までを自社で一貫して行っている自動車、建機、農機等の駆動系部品の専門メーカーである。

この(株)ダイナックスでは、女性を積極的に採用し、女性が働きやすい職場作りを進めている。短時間勤務制度や所定外労働の免除制度の整備等とともに、女性が働きやすい職場作りとして実施しているのが、道内初の取組である事業所内保育施設「こどもくらぶ」。本社社屋移転の際、空いたスペースの有効活用施策として2002年に開設され、(株)ダイナックスで働く社員の幼児の他、地域貢献の一環として工業団地内の近隣企業からも幼児の受入を行うなど、地域社会に開かれた保育施設として運営している。これらの取組により、育児休業の取得率は100%、女性の勤続年数も延びるなど女性社員の定着促進につながっている。

さらに、(株)ダイナックスは高校生等を対象に、ものづくりへの理解を深めるために北海道と千歳市が連携して2014年に開催した「ものづくりの魅力発見!職場見学バスツアー」に、女性が活躍するものづくり企業として参加した。高校生のみならず保護者、ハローワークの担当者らも参加し、高評価が得られたところであり、このような取組を通じて女性に向けてものづくり産業の魅力をアピールするなど、女性の入職促進に向けても、積極的に取り組んでいる。

写真:女性技能者の作業風景

写真:事業所内保育施設「こどもくらぶ」

 

②企業における人材育成に対する支援

一人前のものづくり人材、そして熟練技能を持ったものづくり人材の育成のためには、企業における人材育成が不可欠である。

(企業における職業訓練の支援)

ものづくり人材に対する教育訓練の課題として、「育成を行う時間がない」(43.5%)、「指導する側の人材が不足している」(35.8%)、ものづくり人材の確保・育成に関して希望する行政の支援として、「職業訓練を実施する事業主への助成金の支給対象の拡大/支給額の増額」(34.7%)、「ものづくり人材向け在職者訓練の充実」(23.7%)、「従業員の指導力強化に向けた勉強会の実施」(21.5%)等が挙げられていることから、企業内における人材育成に対する助成金の充実や、人材育成を行う時間的制約や指導人材、ノウハウ等の不足を補うためのポリテクセンター等におけるオーダーメイド型の職業訓練の活用の促進、ものづくりマイスターの派遣による効果的な技能の継承や後継者の育成支援、Off-JTにおいて活用することのできる外部機関の情報提供の強化、外部のコンサルタント機関の整備等の支援を行っていくことが必要である。

特に、助成金については、現在、企業内の人材育成に助成を行うキャリア形成促進助成金、キャリアアップ助成金を設けているところであるが、認知度はそれぞれ64.1%、64.0%となっており(図214-4・5)、活用した企業のうち、有用だったと回答した企業がそれぞれ42.9%、34.6%となっている(これ以外に「どちらともいえない」との回答がそれぞれ42.2%、47.3%)。このため、さらなる助成金制度の周知を行うとともに、「育成を行う時間がない」、「指導する側の人材が不足している」等の企業の抱える課題に対応して、職業訓練指導員や訓練時間中の代替要員の確保に関する助成を強化するなど、さらに企業にとって活用しやすく、企業内の人材育成に役立つ助成金制度としていくことが必要である注5

注5 2015年4月からキャリア形成促進助成金に新たに製造業等が実施する大臣の認定を受けた一定のOJT付き訓練を行う事業主及び事業主団体等に対して助成を行うものづくり人材育成訓練コースを設けるとともに、熟練技能育成・承継コース、若年人材育成コースの支給対象を中小企業以外にも拡充したところ。

図214-4 キャリア形成促進助成金の活用の有無

図214-5 キャリアアップ助成金の活用の有無

 
コラム:ポリテクセンターをフル活用した人材育成

三洋電子(株)は、愛知県で小ロット多品種の部品の熱処理加工、機械加工等を行う従業員39人の企業である。青木会長は、創業した先代とは異なり、技術も専門知識も持っていない中、頼れるのは従業員しかいないという想いから、人材育成に熱心に取り組んでいる。具体的には、ISO9001の取得、社内における勉強会の実施、レベル評価表による到達度の見える化の取組等とともに、ポリテクセンターをフル活用した人材育成を実施している。

まず、技術職の新入社員とともに、営業職の職員に対しても、ポリテクセンターでの職業訓練を受講させている。青木会長は、ポリテクセンターで訓練を行うことのメリットとして、設備が整っていること、小人数で論理的に学ぶことができることを挙げる。ポリテクセンターで旋盤やフライス盤についての講座を受講した田垣内営業課長も、「営業の仕事には、熱処理加工だけでなく、その後の加工技術の知識が必要であることから、ポリテクセンターで学んだことが、大変役に立っている。」と語る。

また、顧客や社員を対象とした熱処理加工の講習会を、ポリテクセンターの施設を活用し、ポリテクセンターの指導員を講師として定期的に実施している。目に見えない熱処理加工を実技を交え、学ぶことができるため、参加者からの評価も非常に高い。

青木会長は、「ポリテクセンターには、当社用に職業訓練のカリキュラムを組んでもらったり、講習会において熱処理加工の講義を行ってもらい、大変感謝している。他の企業においても、ポリテクセンターを活用しないともったいない。」と語る。

今後もポリテクセンターが地域の企業の頼れる相談相手として役割を果たしていくことが望まれる。

写真:ポリテクセンターにおける講習会の風景

コラム:企業OBを活用した地域におけるものづくり現場の改善に向けた取組

群馬県では、製造業の現場改善・生産性向上を指導できる人材育成を行うため、東京大学ものづくり経営研究センターと提携し、2010年に「群馬ものづくり改善インストラクタースクール」を開校した。同スクールでは、①製造業の現場経験が豊富な企業OB、②製造業の現場リーダー等で現役として働いている者を対象に、品質管理や生産管理、コンサルティングの基本等の研修を行い、これまで80名が修了している。

そのうち企業OBの修了者は、「群馬ものづくり改善インストラクター」として、地域の中小製造業に派遣され、製造現場における工程改善等の支援活動を行っている。同スクールの特徴の一つは、現役人材の育成だけでなく、経験豊富だが退職により埋もれているような高齢のベテラン人材に対し、生産管理やインストラクティングの基本等を研修することにより、改善の専門家として地域の中小製造業の改善活動を支援できる人材に育成していることである。

当該スクールの取組を利用した企業の中に、群馬県太田市にある(株)ハイ.テックがある。同社は、板金加工の分野等で高い技術を持ち、医療機器、通信機器、半導体装置等の部品製造、組立等を行っている。

同社は、これまで群馬ものづくり改善インストラクター派遣事業(「ぐんま改善チャレンジ」事業)を利用したり、社員を「群馬ものづくり改善インストラクタースクール」に入校させる取組を行ってきた。

同校を修了した社員の洲鎌製造一課長は、「専門知識の習得のほかに、問題解決を図る能動的な意識の向上、職場に戻ってからのより積極的な生産性向上に向けた改善活動への取組ができるようになった。」と語っており、現場等において指導的立場で活躍している。

写真:スクールでの研修風景

写真:現場改善の取組例

 
(技能検定の奨励等)

また、ものづくり人材に対する教育訓練を実施する上での課題として、「指導される側の能力や意欲が不足している」(35.0%)が挙げられており、労働者の能力開発の目標となる目指すべき水準を示すとともに、それぞれのものづくり人材が有する能力を適正に評価することが、能力開発のインセンティブとしても有効であると考えられる。

労働者の有する技能の評価としては、技能検定制度があるが、技能検定の受検を奨励している企業の目的としては、「担当業務に関する専門的な知識・技能が身につく」(74.6%)、「目標を与えることで技能者の意欲が高まる」(52.4%)、「社内で求められる技能水準を従業員に明示できる」(38.6%)が挙げられている(図214-6)。さらに、何らかの形で処遇へ反映している企業は80.6%となっており、ものづくり人材の能力や意欲の向上に高い効果があることが分かる。

このため、産業界のニーズに応じた職種の拡大・ブラッシュアップを行うとともに、更なる受検の促進を進めていくことが必要である。

図214-6 技能検定の受検を奨励する目的(複数回答)

コラム:社内検定認定制度を活用した人材育成 「四国タオル工業組合」

1958年に工業組合に改組した四国タオル工業組合は、組合員116社、従業員数約1400人の出資組合である。今治タオル産地の生産量は、1991年5万トンをピークに2009年には、9300トンまで落ち込み、海外からの廉価な輸入タオルに完全に押され、もはや後がない状況まで追い込まれた。そういった中、2006年に中小企業庁のJAPANブランド育成支援事業に「今治タオルプロジェクト」が採択され、翌年にはブランドマーク及びロゴを発表して、本格的にブランドとしての今治タオルを生産、販売を開始し、2013年には、11000トンを超える生産量に回復し、組合員数が減少する中その生産性の向上も図っていった。

しかしながら、組合員数がピークの500社からその5分の1まで縮小する過程において、人材の確保・育成が出来なかったため、生産現場の高齢化という深刻な問題が発生し、プロジェクトの成功を機に、2011年には、厚生労働省認定の社内検定認定制度による四国タオル工業組合社内技能検定を実施し、技術の伝承と若手人材の確保育成を行い、さらに、最高の技術と技能を身につけた者を「タオルマイスター」に任命し、現在、65歳~72歳の5名のタオルマイスターが若手を指導している。また、2014年9月からは、高品質なタオル製造に不可欠な整経工を計画的に育成し、組合企業への雇用を促進するとともに、整経工の技能を客観的に評価するシステムの整備を通じて、若者の入職・定着・育成を図るため、整経工に係る検定制度を策定し、2016年度末までに社内技能検定制度として厚生労働省の認定を受けることを目指している。

さらに、販売拡大も兼ねたタオルアドバイザーの育成として、2007年に「タオルソムリエ資格制度」を導入し、第9回分までの実績は、受検申込者数に対し、合格者数は約6割の1800人を数えている。ブランドの維持のためには、ブランド認定商品を定期的に購入し、品質基準に合致しているかを検査するなど、ブランド価値を守る仕組みも構築しており、更に海外へ販路拡大を狙い、諸外国での海外展示会を積極的に展開するなど、飽くなき追求を経営面でも努力している。

写真:タオルマイスターと社内検定認定官

写真:社内検定の実施風景

 

さらに、ものづくり人材の確保・育成に関して希望する行政の支援として、「教育訓練給付金制度や教育訓練機関、通信教育等に関する従業員の自己啓発支援に関する情報提供」(24.4%)が挙げられていることから、自己啓発支援に関する情報提供の強化、自己啓発をはじめとする職業能力開発の相談等を行うキャリアコンサルタントの養成等、労働者のキャリア形成を支援する環境整備を行っていくことが必要である。

5.良質な雇用の場であるものづくり産業におけるものづくり人材の確保・育成の今後の方向性

以上のとおり、ものづくり産業は日本経済の中で引き続き重要な産業であり、この良質な雇用の場であるものづくり産業では、ものづくり人材が企業の生き残り・成長に重要な役割を果たしてきた。

ものづくり人材の活躍により、企業の業績が上がり、また、企業の業績が上がるほど、ものづくり産業はものづくり人材の良質な雇用の場となり、ものづくり人材の人材育成も進む、というように、相互に連関して、好循環が生み出されていると考えられる。

今後もものづくり産業が日本の成長の一つの軸として、今後の日本社会・経済の発展を牽引していくこと、また、地域経済を支える良質な雇用の場として地方創生の鍵となっていくことが見込まれるところであり、良質な雇用の場であるものづくり産業をさらに発展させていくことは、ものづくり産業に従事する人々だけでなく、ひいては日本に暮らす全ての人々の安定した暮らしにつながるといえる。

このため、ものづくりの魅力発信、円滑なマッチング、企業ニーズを踏まえた人材の育成に向けた取組等による人材確保に対する支援、企業における職業訓練、技能検定の活用に対する支援等をはじめとする各種政策を通じて、ものづくり産業を良質な雇用の場として今後とも維持拡大させていくことが必要であろう。

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