経済産業省
文字サイズ変更

第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第3章 ものづくりの基盤を支える教育・研究開発
第3節 産業力強化のための研究開発の推進

1.ものづくりに関する基盤技術の研究開発

「ものづくり技術」は、製品、プロセス等に新たな価値を付加し、我が国の経済を支える産業の国際競争力の強化のほか、生活水準の向上や安全・安心の確保など国民生活における課題の達成に貢献するものである。第4期科学技術基本計画(2011年8月19日閣議決定)の中でも、我が国の産業競争力の強化に向けて、多様な市場のニーズに対応できるよう、新たなものづくり技術の共通基盤の構築が求められている。ものづくりを更に強化しつつ、新たな産業基盤を創出するため、最先端の計測分析技術・機器の研究開発や最先端の大規模研究開発基盤の着実な整備及び共用等を通じ、多くの産業に共通する波及効果の高い基盤的な領域において、世界最高水準のものづくり技術の研究開発を推進することが重要である。

(1)新たな計測分析技術・機器の研究開発

先端計測分析技術・機器は、世界最先端の独創的な研究開発成果の創出を支える共通的な基盤であるとともに、その研究開発の成果がノーベル賞の受賞につながることも多く、科学技術の進展に不可欠なキーテクノロジーである。このため、科学技術振興機構が実施する「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を通じて、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発などを産学連携で推進することで、研究開発基盤の強化に取り組んでいる。開発されたプロトタイプ機が製品化に至った事例は、2013年度末の時点で40件以上になる。

2014年度は、実施領域名を「一般領域」から「最先端研究基盤領域」と変更し、領域の趣旨を明確化するとともに、従来の「グリーンイノベーション領域」で行っていた太陽光発電や蓄電池、燃料電池分野を拡充した。

また、PM2.5等をはじめとする大気や水、土壌、屋内環境等における様々な問題解決分野を含めた領域として、「環境問題解決領域」を新たに設置した。

コラム:はやぶさ2 -小惑星探査機に込められた日本のものづくり-

小惑星探査機「はやぶさ2」は、世界で初めて小惑星「イトカワ」から微粒子を持ち帰り注目を集めた「はやぶさ」の後継機として、2014年12月、鹿児島県の種子島宇宙センターからH-ⅡAロケット26号機により打ち上げられた。「はやぶさ2」は現在、探査の対象である小惑星「1999 JU3」へ向け、宇宙空間での航行を続けている。「1999 JU3」はC型小惑星と呼ばれ、岩石質の小惑星の中でも始原的な天体で、「はやぶさ」が探査した「イトカワ」よりも有機物や含水鉱物を多く含んでいると考えられている。これらの有機物等のサンプルを採取し、2020年の暮れに地球へ持ち帰ることが、「はやぶさ2」のミッションである。

「はやぶさ2」では「はやぶさ」から技術的に進歩した点が数多くある。例えば、太陽熱などの影響を受けていない有機物を含んだ地下の石や砂を採取するため、小惑星に銅板を衝突させて人工クレーターを作る装置(衝突装置)を新たに搭載した。この衝突装置では、衝突体をどのように高速に加速させるかが高い技術ハードルであったが、爆薬を使用して加速を行うこととし、大量の爆薬を扱いながら装置の密閉性を確保しつつ、更に軽量化を実現した。また、「はやぶさ」で使用されたイオンエンジンについても、長寿命化させつつ推進力を25%向上させた。「はやぶさ2」の機体や搭載装置の開発には、大手メーカーから数人の町工場まで100社以上が携わっており、日本のものづくり技術が結集されている。

写真:(左)小惑星に向け衝突装置を分離する様子、 (右)衝突装置試験の様子(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

(2)最先端の大規模研究開発基盤の整備・活用の推進

①X線自由電子レーザー施設(SACLA)の整備・共用

SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)は、波がそろっており、短パルスの光である「レーザー」と、原子を見分けることのできる高い空間分解能を持った輝度の高い光である「放射光」の両者の特徴を併せ持つ光である「X線自由電子レーザー」を利用できる世界最高性能の研究基盤施設である。この光を用いることで、例えば、原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することが可能になる。第3期科学技術基本計画における国家基幹技術として、2006年度より国内の300以上の企業の技術を結集しつつ開発・整備を進め、2011年6月に世界最短波長の光の発振に成功、2012年3月に共用を開始した。また、SACLA の共用開始後、早期に利用研究を開拓していくことを目的とした「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題注5」を実施し、2014年度には世界で初めて1兆分の1秒以下で起こる化学結合形成に伴う分子の生成過程を直接観察するなど、最先端の成果を創出している。今後、医薬品や燃料電池の開発、光合成のメカニズムの解明など、幅広い研究分野で革新的な成果が生まれることが期待される。

写真:電子を光速近くまで加速するCバンド加速管

注5 X線自由電子レーザー利用推進計画において重点的に推進すべき分野として「生体高分子の階層構造ダイナミクス」及び「ピコ・フェムト秒ダイナミックイメージング」が指定されている。

②革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築

HPCIは、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京」を中核とし、国内の大学等のスパコンやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応する革新的な計算環境を実現するものである。2012年9月末に共用を開始したHPCIを最大限活用し、画期的な成果創出、人材の育成、最先端計算科学技術研究拠点の形成を目指し、「次世代ものづくり」を含む戦略5分野注6における研究開発や計算科学技術推進体制の構築を推進している。例えば、自動車の開発などで従来行われている風洞実験では実現が難しい、高速走行時に車両が蛇行した際の走行安定性をシミュレーションで実現することで、設計期間の短縮、コスト削減による産業競争力の強化への貢献が期待されている(図331-1)。

写真:スーパーコンピュータ「京」(兵庫県神戸市)(提供:国立研究開発法人理化学研究所)

図331-1:蛇行運転時の高速走行安定性解析

提供:広島大学、北海道大学、(株)マツダ

注6 「京」を中核としたHPCIを最大限利用して画期的な成果を創出し、社会的・学術的に大きなブレークスルーが期待できる分野として、以下の五つの分野を設定している。
  分野1:予測する生命科学・医療及び創薬基盤
  分野2:新物質・エネルギー創成
  分野3:防災・減災に資する地球変動予測
  分野4:次世代ものづくり
  分野5:物質と宇宙の起源と構造

③ポスト「京」の開発(フラッグシップ2020プロジェクト)

最先端のスーパーコンピュータは、科学技術や産業の発展などで国の競争力等を左右するため、各国が開発にしのぎを削っている。文部科学省としては、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、2020年をターゲットとし、世界トップレベルのスーパーコンピュータと、課題解決に資するアプリケーションを協調的に開発するプロジェクトを2014年度より着手している。創薬・エネルギー・ものづくり分野を含む9の重点課題を選定し、今後、本格的な研究開発が進められる。

④大型放射光施設(SPring-8)の共用

SPring-8(Super Photon ring-8GeV)は世界最高性能の放射光を利用する施設である。放射光を用いることで微細な物質の構造や状態の解析が可能なことから、環境・エネルギーや創薬など、日本の復興や経済成長を牽引する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。SPring-8の産業利用に関する課題数は、全利用数の2割を超えており、放射光を用いたX線計測・分析技術は、材料評価において欠くことができないツールとして、企業のものづくりに関する研究開発を後押ししている。

写真:SPring-8及びSACLA全景

⑤大強度陽子加速器施設(J-PARC)の整備・共用

J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器から生成される中性子やミュオン(素粒子の一種)等を利用して、新たな燃料電池用触媒の研究開発や機能性高分子材料の開発を行うなど、様々な産業利用に貢献している。特に中性子は、X線と比較して軽元素もよく観測できること、ミクロな磁場が観測できること、物質への透過力が大きいこと等の特徴を有するため、X線との相補的な利用が期待されている。2015年は加速器の高度化を進め、利用運転における物質・生命科学実験施設への1メガワットのビーム供給を目指す計画となっている。この計画により今後、技術的に困難であったタンパク質の大型結晶化を必要としない構造解析法による新たな創薬開発、あるいは少量の試料からの微弱な磁気シグナルの検出による新たな磁石材料開発などが進むと期待される。

事例1:水素から電子を取る貴金属フリー触媒の開発、Science, 339, 682 (2013)

事例2:ITER(国際熱核融合実験炉)核融合炉用超伝導ケーブルの性能評価 【(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)核融合研究所、J-PARCセンター】

事例3:中性子、X線、可視光を相補的に利用した機能性高分子材料の開発、Macromolecules (2013)

(3)ナノテクノロジー・材料科学技術の推進

物質の特性を解明し、新たな材料を創出して、有用な機能を発現させるナノテクノロジー・材料科学技術は、科学技術の新たな可能性を切り拓き、先導する役割を担うとともに、複数の領域に横断的に用いられ、広範かつ多様な技術分野を支える重要な基盤技術である。また、我が国が抱える資源、エネルギーの制約等の問題を克服するために必要な革新的技術の創出の鍵を握っている。

文部科学省では、これらの重要性を踏まえつつ、ナノテクノロジー・材料科学技術に係る、基礎的・先導的な研究から実用化を展望した技術開発までを戦略的に推進している。具体的には、我が国の資源制約を克服し、産業競争力を強化するため、材料の高性能化に不可欠な希少元素(レアアース・レアメタル等)の革新的な代替材料開発を目指し、四つの材料領域(磁石材料、触媒・電池材料、電子材料、構造材料)を特定して、物質中の元素機能の理論的解明から新材料の創製、特性評価までを密接な連携・協働の下で一体的に推進する「元素戦略プロジェクト」等の研究開発プロジェクトを実施している。また、強固な研究基盤を確立するため、最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学官の利用者に対して最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供する「ナノテクノロジープラットフォーム」を実施している。

(独)物質・材料研究機構においては、新物質・新材料の創製に向けたブレークスルーを目指し、計測・評価技術、シミュレーション技術、材料の設計手法や新規作製プロセスの開拓、物質の無機、有機の垣根を越えたナノスケール特有の現象・機能の探索など、物質・材料の基礎研究及び基盤的研究開発を行っている。また、環境・エネルギー・資源問題の解決や安心・安全な社会基盤の構築という人類共通の課題に対応した研究開発として、超耐熱合金や白色LED照明用蛍光材料、次世代太陽電池材料等の環境・エネルギー材料の高度化等に向けた研究開発や、機構に設置した構造材料研究拠点において、構造材料の信頼性や安全性を確保するための研究開発を実施している。

コラム:研究基盤の共用・プラットフォーム化

文部科学省では、大学、独立行政法人等の研究機関が保有する先端研究施設・設備について、産業界をはじめとする産学官の幅広い利用者への共用を促進する事業として、多様なユーザーニーズに対応する先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業や、研究機器への依存度が高いナノテクノロジー分野においてナノテクノロジープラットフォーム事業を実施している。

-先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業-

採択機関の一つである室蘭工業大学環境・エネルギーシステム材料研究機構では、CVI連続炉や高温超微小硬さ試験機を始めとする最先端の分析機器・加工設備(図331-2(a)(b))を共用利用に供することで、「素粒子研究向けの加速器ターゲット」、「航空宇宙用の軽量耐熱素材」、「長寿命・高安全性を有するエネルギー素材」の開発等の最先端研究から「北海道仁木産天然ゼオライトを基にした土壌中の微細組織の分析」、「産業廃棄物の処理とその再利用」等の地域産業育成に至るまで、幅広い分野で貢献している。

これらの共用事例の一つとして、産業廃棄物を再利用した新商品開発がある。化学繊維、 珪藻土 けいそうど を大量に含む産業廃棄物を特殊処理する事で、軽量で丈夫な脱臭・防湿性に優れた建材および肥料原料としての商品開発が進められている(図331-3(a))。産業廃棄物のリサイクルは自然環境保護に役立つだけでなく、新しい付加価値創出による地元企業の競争力強化に繋がる。また、最先端の共用事例として、耐照射・耐熱性に優れた高性能のSiC/SiC製の加速器ターゲットの開発が進められている(図331-3(b))。新しい加速器ターゲットは高エネルギー粒子による照射への耐性に優れ、既存ターゲットに比べ、ミュオン生成能力が格段に高い事から素粒子科学の更なる発展に寄与できると期待されている。

図331-2 複合極限環境評価法による先進材料開発(FEEMA)事業で共用している最先端設備

(a)CVI連続炉及び同装置を用い炭素被覆されたセラミックス繊維

(b)最新型高温ナノインデンターと同装置のSPM機能を用いた圧痕画像

図331-3 複合極限環境評価法による先進材料開発(FEEMA)事業の共用事例

(a)リサイクル処理した産業廃棄物の電子顕微鏡写真

(b)SiC/SiC複合材料製加速器用のターゲットのスケールモデル

 
-ナノテクノロジープラットフォーム事業-

分子・物質合成プラットフォームの採択機関の一つである九州大学では、これまでに蓄積された分子・物質の合成とナノ構造構築に関わる九州大学の最先端研究設備等を活用して、産学官の外部研究者の要請に応じ、有機、無機、有機・無機複合材料の合成とナノ構造の構築及び機能解析支援を推進している。

代表的な支援事例として、2012年度に東レ株式会社がユーザーとなって行った「CNT複合体の膜形成技術の開発」が挙げられる。東レでは、2層カーボンナノチューブの分散性を著しく向上させることでフィルム上への均一な塗布を可能とし、導電フィルムとしての利用に成功した。本成果の実現に当たっては、九州大学の保有する多彩な設備群を用いて開発したCNT分散液の分散性を定量化する分析手法が大きく貢献しており、その後、電子ペーパー用カーボンナノチューブ透明導電フィルムとして東レが開発に成功、製品化を実現している。また、現在では二者間での共同研究にも発展しており、ナノテクノロジープラットフォームが目指す産学連携が進展した事例として、一つのモデルケースとなっている。

写真:(左)2層カーボンナノチューブ、(右)導電フィルムを用いた電子ペーパー

(4)その他のものづくり基盤技術開発

①光・量子科学研究拠点形成に向けた基盤技術開発

光・量子科学技術は、材料、ライフサイエンス、IT環境等の広範な科学技術や微細加工等の産業応用に必要不可欠な基盤技術である。そのため、我が国の光・量子科学技術のポテンシャルと他分野のニーズとを結合させ、産学官の多様な研究者が連携融合するための研究・人材育成拠点の形成を推進していくことが必要である。

②ロボット研究に関する取組

文部科学省では、ロボット新戦略の三つの柱のうち[日本を世界のロボットイノベーション拠点とする「ロボット創出力の抜本強化」]の柱において、「次世代に向けた技術開発」として、人とロボットの協働を実現するため、産業や社会に実装され、大きなインパクトを与えるような要素技術となる人工知能、センシング・認識技術、OS・ミドルウェア等(特にロボットに新たなモジュールを搭載する場合に重要となるインターフェース等)の開発を推進することとしている。また、「次世代の人材育成」として、研究機関や大学等の教育機関に関しては、IoT(Internet of Things)等に関する分野融合的なカリキュラムを新たに検討するとともに、若者や研究者を惹きつけ、人と技術が一体的に育っていくような魅力的なプロジェクトを実施しつつ、研究開発のみならず、起業等にも挑戦する人材を育成することが重要である。

コラム:レーザー多光子過程の科学 -Multiphoton Process-
理化学研究所 光量子工学研究領域

超短パルスレーザー光を物質に高強度で集光すると、多数の光子が瞬間的に物質中の原子や分子と相互作用する「多光子過程」という現象が起こる。この現象は、光強度が強い場所、すなわちレーザー光が集光する領域のみで選択的に起こすことができる。この特徴を用いることにより、それまで不可能であった透明材料の内部加工や熱影響のほとんどない材料加工、小型のコヒーレント軟X線光源等が実現されている。

-透明材料の内部加工技術の実現-

パルス幅が極めて短いフェムト秒レーザーを用いると、レーザーを集光した領域に発生する熱の周囲への拡散を抑制することができるため、ガラスなどの透明材料に対しては集光点近傍のみで多光子過程が起こり、外側の材料に熱の影響がほとんどない材料内部の3次元加工を行うことができる。この特長を利用して、フェムト秒レーザーによる3次元フォトニックデバイス、マイクロ流体デバイス、オプトフルイディクスなどの作製が実現している。しかし、この手法では、加工解像度の制約から、マイクロ流体デバイス内に微細なかつ複雑な3次元構造を有する機能素子を形成することが課題となっている。理化学研究所・光量子工学研究領域の研究チームは、フェムト秒レーザーを用いて、より微小で複雑な3次元マイクロ機能素子を、ガラスマイクロ流体構造内部に形成できる技術の開発に成功した。あらかじめガラスの中に作製されたガラスマイクロ流体構造内部に、後から3次元ポリマーマイクロ構造を付加することから、「ボトルシップ型フェムト秒レーザー3次元加工技術」と名付けた。フェムト秒レーザーの多光子吸収を用いることで、他の手法では不可能であった固体内部に後から3次元構造体を形成することを初めて実現した。本技術により作製した、ガラス内部に2液を効率よく混合するマイクロミキサーを備えたY字型マイクロ流体素子(図331-4(a))では、マイクロミキサーを備えていないマイクロ流体素子(図331-4(b))と比較して非常に短い距離で2液を効率よく混合できる(図331-4(c))。

図331-4 マイクロミキサーが形成されたY字型マイクロ流体素子

-小型のコヒーレント軟X線光源の実現-

高強度のフェムト秒パルスレーザーを気体に照射すると、より高次の多光子過程がおこり、照射レーザー光の振動数の整数倍の振動数を持つ光が発生する。これは「高次高調波」とよばれ、真空紫外(VUV、波長30~200 nm)領域から軟X線(XUV、波長1~30nm)領域にわたってレーザー光と同様に完全なコヒーレンスを有する光である。最近、高次高調波は次世代の半導体量産化技術において注目されており、特に波長13.5nmの軟X線を用いる「EUVリソグラフィ(extreme ultraviolet lithography: EUVL)」が次世代半導体量産化技術の本命と目されている。しかし、このEUVLでは透過光学系が使用できないため、光学系はEUVLマスクを含めてすべてMo/Si多層膜の反射光学系を用いているが、このマスクや13.5nm光の集光鏡の欠陥や劣化を高精度で計測することが最重要な課題となっていた。光量子工学研究の研究チームは、波長13.5nmの小型高次高調波光源を開発し、兵庫県立大学の研究グループと共同でコヒーレントEUVスキャトロメトリーと呼ばれる方法により、マスクの欠陥を2nmの精度で検出することに成功した(図331-5)。この小型高次高調波光源をEUVLに用いることにより、多層膜鏡の高精度検査やマスク欠陥の極微細検出が可能となり、半導体を量産化した際の品質管理の向上に著しく貢献することが期待されている。

フェムト秒レーザーの高出力化や短パルス化、波長変換技術などの進歩によって、多光子過程は基礎科学における研究対象から新しい産業応用を開くものとその発展が期待されている。

図331-5 高次高調波によるEUVマスクの欠陥計測

2.産学官連携を活用した研究開発の推進

(1)大学等と企業等の共同研究、技術移転のための研究開発、成果の活用促進

ものづくり基盤技術の高度化や新事業・新製品の開拓につながる多様な先端的・独創的研究成果を生み出す「知」の拠点である大学等と企業の効果的な協力関係の構築は、我が国のものづくりの効率化や高付加価値化に資するものである。

こうした産学官連携活動は、2004年4月の国立大学法人化などに伴い着実に実績を上げている。大学等と民間企業との共同研究数は、リーマンショック後の世界的な経済不況の影響もあり、2009年度は前年度に比べて若干落ち込んだが、2010年度以降増加傾向にあり、2013年度は1万7,881件となった(図332-1)。また、2013年度の大学等における民間企業からの受託研究数は、6,677件となっており、大学等の特許権実施件数は、9,856件となっている。なお大学等発ベンチャー数は2013年度末で累計2,246社を数えている(図332-2)。

大学等発ベンチャーにおいては、最適な事業化構想や知財戦略の構築ができずに、販路・市場の開拓、収益確保、資金調達が大きな課題となっている。

また、産学共同研究については、規模が小さく、社会的インパクトの大きな成果が生まれにくく、海外と比べ産業界や社会のニーズに基づく産学連携拠点がないということが課題となっている。これらの課題に対して、文部科学省は以下の取組を行っている。

大学等発ベンチャーの課題に対して、大学や国立研究開発法人等で生み出された発明(特許)やノウハウを活用して大きく成長する大学等発ベンチャーの創出の支援のため、「大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)」(2015年度より「大学発新産業創出プログラム(START)」として科学技術振興機構に移管して実施予定)では、起業前の段階から、ベンチャーキャピタル等の民間人材の事業化ノウハウと市場の視点を活かして、リスクは高いが新規市場を開拓する可能性を持った技術の大学発ベンチャーによる事業化を目指した研究開発を行っている。なお、本プログラムではロボティクス分野も含めた技術シーズ発掘のための取組を新たに実施する予定である。

また、起業家・イノベーション創出人材育成のため、2014年度から実施している「グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)」では、ベンチャーキャピタルやメーカー等の民間企業や海外機関と連携しつつ、若手研究者や大学院生を対象としてアントレプレナーシップ、起業ノウハウ、アイデア創出法等を習得する、世界でも先進的な人材育成を行っている。

さらに、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」では、科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業の設立・増資に際して出資又は人的・技術的援助を実施することにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。

これらの取組と知財の集約・強化事業を一体的に実施して、大学の研究成果を基にしたイノベーションが持続的に創出される環境である、イノベーション・エコシステムの構築に取り組んでいる。

産業界、社会ニーズに基づく産学連携拠点の構築については、大学や公的研究機関、企業等が集い、世界と戦える大規模産学連携拠点を構築し、基礎研究段階から実用化までの研究開発を集中的に実施し、革新的なイノベーションの創出を目指す取組として、2013年度より「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」を実施している。2015年度から新たなCOI拠点として活動を行うものを含め、18のCOI拠点が活動を推進している。

図332-1 大学等における産学官連携活動

図332-2 大学等発ベンチャーの設立数累計

その他の取組として、科学技術振興機構においては、産学連携により大学等の研究成果の実用化を促進するため、知的財産を活用した産学による共同研究開発(研究成果最適展開支援プログラム)や世界最先端の計測分析機器開発(先端計測分析技術・機器開発プログラム)、基礎研究の成果を基にした大規模かつ長期的な研究開発(戦略的イノベーション創出推進プログラム)、産業界に共通する技術的課題の解決に資する基盤研究(産学共創基礎基盤研究プログラム)を研究成果展開事業として実施している。また、大学等における研究成果の戦略的な海外特許取得の支援や、大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進、大学等の特許情報のインターネットでの無料提供(J-STORE)等を通じて、大学等の知的財産活動の総合的活用を支援する「知財活用支援事業」を実施している。

また、共同研究などを通じた試験研究を促進するため、民間企業等が大学等と行う試験研究のために支出した研究費の一定割合を、法人税や所得税から控除することができる税制上の特例措置を設けている。

コラム:産学官連携による長期的な研究開発が省エネルギー化の進展に貢献-2014年ノーベル物理学賞-

2014年、赤﨑勇名城大学終身教授(名古屋大学特別教授)、天野浩名古屋大学大学院教授、中村修二カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授がノーベル物理学賞を受賞された。この受賞は、省エネルギー高輝度白色光源の実現を可能とした高効率青色発光ダイオードの発明が高く評価されたものであり、三氏の成果は、長寿命でかつ省エネルギーなLED照明により地球環境への負荷の軽減など社会に極めて大きなインパクトをもたらしたものである。

このうち、赤﨑教授の研究は、長い年月をかけて産学官連携により研究開発を進めた好事例である。

赤﨑教授は科学研究費補助金による支援を受けるなどして研究を積み重ね、当時学生であった天野教授とともに1985年に窒化ガリウム(GaN)の高品質単結晶を実現した。

その後、豊田合成(株)が1987年から1990年に新技術開発事業団(現在の科学技術振興機構)の委託開発制度を利用し、赤﨑教授の研究成果を基に窒化ガリウムの青色発光ダイオードの事業化を目指し、1995年に達成した。この研究開発の着手に当たっては、同事業団の職員が赤﨑教授のことを学会誌で目に留めて研究室を訪問したことや、赤﨑教授の講演会を聞いた同社が事業化を赤﨑教授へ申し入れたことにより、大学のシーズと企業の開発ニーズをマッチングさせることができた。委託開発制度のプロジェクト「GaN青色発光ダイオードの製造技術」は国に約56億円の実施料収入をもたらしている。これらは、企業の熱意と、公的資金による基礎研究から実用化までの研究段階に応じた息の長い支援が大きな成果を生んだ好例といえる。

今後、窒化ガリウムについては、発光ダイオードのみならず、電力損失を低減する高性能なパワーエレクトロニクスへの応用等、産学官の力を結集した研究開発・社会実装の推進により、圧倒的な省エネルギー化の進展に貢献することを目指している。

写真:青色発光ダイオード

ノーベル物理学賞授賞式
Copyright © Nobel Media AB 2014. Photo: Alexander Mahmoud

 

(2)大学等における研究成果の戦略的な創出・管理・活用のための体制整備

大学等の優れた研究成果を活かすためには、成果を統合発展させ、国際競争力のある製品・サービスとするための産業界との協力の推進が不可欠であり、これはものづくり産業の活性化にも資するものである。そのため、大学等において、研究成果の民間企業への移転を促進し、それらを効果的にイノベーションに結びつける観点から、戦略的な産学官連携機能の強化を図っている。

1998年に制定された「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(大学等技術移転促進法)」は、上記のような研究成果移転の促進により、我が国の産業の技術の向上と大学等における研究活動の活性化を図ることを目的とした法律である。本法に基づき実施計画を承認されたTLO(Technology Licensing Organization)注7は、2015年3月1日現在で36機関となっている。2013年度における特許実施許諾件数は3,596件となり、近年は、国立大学法人において法人内部型TLOの設立や、承認TLOへの国立大学法人からの出資など大学とTLOの連携強化に向けた取組が見られている。

文部科学省では、大学等が産学官連携活動を自立的・持続的に実施できる環境の整備を図る取組等を実施してきており、産学官連携によるイノベーション創出に向けて、異分野融合や多様性の受容を意識した対話型ワークショップ(異分野・異業種・異領域の関係者間の対話を通じて新たなアイデアの創出等を行う場)の開催や、イノベーション対話ツールの整備等を通じた大学等におけるオープン・イノベーションの推進を支援している。

注7 大学等の研究成果に基づく特許権等について企業に実施許諾を与え、その対価として企業から実施料収入を受け取り、大学等や研究者(発明者)に研究資金として還元することなどを事業内容とする機関。

(3)産業力強化のための地域科学技術振興

地域における科学技術の振興は、地域産業の活性化や地域住民の生活の質の向上に貢献するものであり、ひいては我が国全体の科学技術の高度化・多様化につながるものとして、国として積極的に推進している。

また、都道府県等においては科学技術振興策を審議する審議会等を設置するとともに、独自の科学技術政策大綱や指針等を策定するなど科学技術振興への積極的な取組がなされている。

文部科学省、経済産業省、農林水産省及び総務省では、地域イノベーションの創出に向けた地域の産学官に新たに金融機関が加わり連携した主体的かつ優れた構想に対して、「地域イノベーション戦略推進地域」として共同で選定を行っている。選定された地域のうち、特に優れた戦略を有する地域に対しては、関係府省の施策を総動員して、大学における基礎研究から企業における事業化までを切れ目なく支援していくこととしている。また、2012年度から、被災地における地域イノベーションの創出に向けた主体的かつ優れた構想に対して、「地域イノベーション戦略推進地域(東日本大震災復興支援型)」として復興庁と共同で選定を行い、その構想の実現に向けた取組に対して支援をしている。

文部科学省では、当該選定地域のうち、地域イノベーション戦略の実現に大きく貢献すると認められる地域に対し、研究者の集積、知的財産の形成、人材育成等のソフト・ヒューマンを重視した取組を支援する「地域イノベーション戦略支援プログラム」を実施している(図332-3)。

図332-3 地域イノベーション戦略支援プログラム支援地域一覧(2014年7月1日現在)

コラム:産学官連携による有機エレクトロニクス技術の事業化-山形モデルの地域イノベ―ションシステムの構築-
地域イノベーション戦略支援プログラム

文部科学省では、本プログラムにより、地域における科学技術イノベーション戦略の実現に大きく貢献すると認められる37地域に対し、知的財産の形成や人材育成など、ソフト・ヒューマンを重視した支援を実施している。

「山形有機エレクトロニクスイノベーション戦略推進地域」では、「山形の強み」である有機EL照明をはじめとした有機エレクトロニクス(有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタ)技術の更なる発展と地域における産業化促進のため、本プログラムを活用して、卓越技術者(イノベーター)を招へいし、県内外の企業と共同でプロセスイノベーションの中核技術(印刷によるデバイス製造技術)の実証・技術開発に取り組み、産学官連携による「有機エレクトロニクスといえば山形」の実現を目指している。本取組を通じて、有機EL照明を中心に、軽く・薄く・曲げられる回路や発光デバイスなどの有機エレクトロニクス製品が生まれはじめ、有機エレクトロニクス関連産業の集積が進みつつある。

このように「地域イノベーション戦略支援プログラム」は、地域におけるイノベーション・エコシステムの構築に寄与しており、今後も地域発のイノベーションによる産業競争力の強化、新事業創出・雇用創出に向けて、取り組んでいく。

写真:(左)超軽量/薄型フレキシブル有機太陽電池、(右)フレキシブル有機EL照明パネル(50mm角、100mm角)

<<前の項目に戻る | 目次 |  次の項目に進む>>

経済産業省 〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1 代表電話 03-3501-1511
Copyright Ministry of Economy, Trade and Industry. All Rights Reserved.