経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況認識

我が国製造業の企業業績は引き続き改善傾向にあり、従業員への利益還元は中小企業においても進展している。

第4次産業革命は、ものづくりの生産現場にプロセス改革を起こすのみならず、ビジネスモデル自身の変革を起こしつつある。一方、第4次産業革命への具体的な対応は、企業規模の小さい企業で、また、ビジネスモデルの変革を伴う分野で、相対的に遅れている。

1.我が国製造業の業績改善

我が国経済は安倍内閣の経済政策(「アベノミクス」)の効果が現れるなか、2013年以降、企業収益の改善がみられ、さらには賃金引上げの動きが広がるなど「経済の好循環」は着実に進展してきた。一方、新興国における景気減速などの世界経済の変化に伴い、先行きに不透明感もうかがえるが、回り始めた経済の好循環を確実なものとする必要がある。ここではまず、アベノミクスの下での我が国製造業の足下の状況を分析する。

(1)企業業績と金融市場の動向

国内外の景気回復などを受けて、我が国企業の業績は回復しつつある。法人企業統計によれば2012年第4四半期(10-12月期)以降、製造業の営業利益の伸び率(前年同期比)は大幅なプラスへと転じ、消費増税による反動減による落ち込みが2014年第1-2四半期にあったものの、足下では改善の動きがみられており、製造業は全産業及び非製造業を上回る伸び率を示している(図111-1)。業種別では、特に自動車を中心とする「輸送用機械」の回復が著しい(図111-2)。

図111-1 企業業績の推移(営業利益)

図111-2 企業業績の推移(製造業業種別・営業利益)

Excelファイル 図111-1 企業業績の推移(営業利益)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図111-2 企業業績の推移(製造業業種別・営業利益)(xls/xlsx形式)

また、東証一部上場企業(製造業)の2015年度通期の収益の見通しは、45.5%が「増収増益」と回答しており、「減収減益」の20.7%を大幅に上回っている(図111-3)。

図111-3 東証一部上場企業(製造業)の2015年度通期収益見通し

Excelファイル 図111-3 東証一部上場企業(製造業)の2015年度通期収益見通し(xls/xlsx形式)

アベノミクスを通じた企業業績の回復に対する期待感などを背景に、株価は2015年8月にかけて大幅に上昇しており、2012年末に10,395円であった日経平均株価は2015年8月末時点で20,585円へ約98%上昇した後、上海株価の急落や人民元安進行をきっかけに反転した(図111-4)。また、2016年初にも人民元安をきっかけに世界で株安が進んだことで、日経平均も大幅に下げた。

業種別の株価指数を見ると、「電気・精密」が他の業種を上回るパフォーマンスで推移してきたが、このところばらつきは縮小している(図111-5)。

図111-4 株価の推移

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図111-5 株式市場からの資金調達の推移

Excelファイル 図111-5 株式市場からの資金調達の推移(xls/xlsx形式)

2012年から15年半ばまで堅調だった株価を背景に、企業の資本調達額は2012年を底として増加へ転じている(図111-6)。

図111-6 資本調達の推移

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(2)実体経済への波及と「好循環」へ向けた動き

企業業績の改善が進む中で、これを設備投資の拡大や雇用・所得の増加へと結びつけることが「経済の好循環」を持続する上で重要となる。以下では、設備投資と雇用・所得の動向について確認する。

①設備投資の動向

2014年4月の消費税率引き上げ後の弱さがみられたものの、2012年末以来、景気は緩やかな回復基調がつづいてきた(図111-7)。企業の全般的な業況を示す日本銀行の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)の業況判断DIも上向いており、大企業・中小企業の製造業は2015年以降概ねプラス圏を推移してきた(図111-8)。また、鉱工業生産活動の全体的な水準を示す鉱工業生産指数は2014年末からは緩やかな持ち直しの動きがあったものの、その後減少した後、一進一退の状況にある(図111-9)。さらに、製造業における設備の稼働率は、減産とその後の動きに合わせて、足もとでは横ばい圏内にある(図111-10)。

図111-7 実質GDPの推移


図111-8 日銀短観・業況判断DIの推移(企業規模別)

Excelファイル 図111-7 実質GDPの推移(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図111-8 日銀短観・業況判断DIの推移(企業規模別(xls/xlsx形式)

図111-9 鉱工業生産指数の推移

図111-10 稼働率指数の推移

Excelファイル 図111-9 鉱工業生産指数の推移(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図111-10 稼働率指数の推移(xls/xlsx形式)

民間企業設備投資は、2014年は前年比+4.5%、2015年は同+2.4%と5年連続で増加しており(図111-11)、今後も増加していくことが期待される。設備投資が増えたと言っても、リーマンショック前の水準には達しておらず(図111-12)、賃上げを始めとする経済の好循環の流れを加速させ、投資をさらに活発化させることが重要である。

図111-11 設備投資の推移

図111-12 名目設備投資の推移

Excelファイル 図111-11 設備投資の推移(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図111-12 名目設備投資の推移(xls/xlsx形式)

なお、今後3年間の設備投資増減率の見通しは、2008年のリーマンショック時に大幅下落したものの、足下ではプラスで推移している(図111-13)。また、経済産業省調べのアンケート調査によると、設備投資の今後3年間の見通しは、2013年度に「増加」の回答が大幅に上昇し、その後は「横ばい」の回答が増えている(図111-14)。

図111-13 産業別今後3年間の設備投資増減率見通しの推移

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図111-14 設備投資の今後3年間の増加率

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このような環境下において、経済の好循環を生み出す上で、中長期的な成長を目指した企業の取組がますます重要になっている。現在、企業経営者の背中を押しているのが、2015年に始まったコーポレートガバナンス改革である。この改革では、企業経営者と機関投資家の対話を通じて、企業の中長期的な成長や企業価値の向上に取り組むことが求められている。

この中で、企業価値の代理変数として、収益性を表す自己資本利益率(ROE)が注目を集めた。ROE自体は回復傾向にあり、アベノミクス始動後の企業業績の回復によって、2014年度に全産業は6.8%、製造業では7.7%まで上昇した(図111-15)。しかし、国際的にみれば、日本企業のROEは依然として低く、主たる原因である売上高利益率の向上が課題となっている。

また、製造業を規模別に過去のトレンドを見ると、企業規模によるROEの差は大きくないが、大企業の8.5%に対して、中小企業は5.1%と回復が遅れており(図111-16)、今後の中小企業のROEの回復が期待される。また、製造業を産業別にみると、2010年代にかけてROEが回復した産業もあれば、あまり回復していない産業があるなど、産業による相違が大きいことも事実である(図111-17)。

図111-15 自己資本利益率(ROE)

図111-16 製造業企業規模別自己資本利益率(ROE)

Excelファイル 図111-15 自己資本利益率(ROE)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図111-16 製造業企業規模別自己資本利益率(ROE)(xls/xlsx形式)

図111-17 産業別のROEの変化

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②雇用・所得の動向

直近2016年3月の完全失業率は3.2%と引き続き低水準で推移しており、有効求人倍率も1.30倍と24年ぶりの高水準となるなど、雇用情勢は着実に改善している(図111-18)。雇用環境の引き締まりを受けて、改善の動きは徐々に賃金へ波及しつつあり、月々の賃金動向(製造業)を分析すると、2013年の中頃から対前年同月比でプラスへと転じ、2014年は通年でプラスを維持した。2015年の賃金は前半に伸び悩んだものの、後半になるにつれて勢いが回復してきたことが分かる(図111-19)。

図111-18 雇用環境の動向(完全失業率、有効求人倍率)

図111-19 製造業の所得環境の動向(現金給与総額)

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Excelファイル 図111-19 製造業の所得環境の動向(現金給与総額)(xls/xlsx形式)

従業員への利益還元の実施有無を尋ねたアンケート調査によると、企業規模にかかわらず、2014年度は半数程が「すでに実施した」と回答しているのに対し、2015年度は中小企業においては65.8%、大企業は73.4%と利益還元を実施している企業が増加している(図111-20)。また、2015年度に従業員への利益還元を「すでに実施した」または「予定している」と回答した企業に対して、従業員への利益還元方針を尋ねると、86.4%が「賞与」と回答しているが、「ベースアップ」と回答している企業も54.8%と半数以上となっており、月額給与でも還元する意向が確認できる(図111-21)。さらに、2016年度の賃上げ率の見通しを尋ねたところ、「増加」または「若干の増加」と回答した企業は、大企業においては、半数弱であったのに対し、中小企業は6割を超えており、従業員への利益還元が中小企業へも波及してきた様子がうかがえる(図111-22)。

図111-20 従業員への利益還元の実施有無(企業規模別)

図111-21 従業員への利益還元方針

図111-22 2016年度の賃上げ率の見通し

Excelファイル 図111-20 従業員への利益還元の実施有無(企業規模別)、図111-21 従業員への利益還元方針、図111-22 2016年度の賃上げ率の見通し(xls/xlsx形式)

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