経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第1節 我が国製造業の足下の状況認識

3.第4次産業革命に対応する日本企業の状況

(1)各企業の対応状況

2015年版ものづくり白書「第1部第1章、第3節 製造業の新たな展開と将来像」では、IoTやビッグデータ、AIを始め、第4次産業革命とも称されるデジタル化の進展によって変わりつつある製造業について、またドイツのインダストリー4.0や米国のインダストリアルインターネットといった海外の動向について紹介した。2014年以降、IoTに関する記事を目にする機会や、IoTをテーマとするセミナーの開催が増えている。また、我が国でも製造業において、若しくは産業界全体で、IoTをどのように推進していくのか、企業を超えて検討をしていく団体が複数立ち上がり、様々な側面から議論を進めている。

そうした中では「現在IoTといってもてはやされている話は以前から日本の製造現場で行われている」といった意見がある一方、「日本の製造現場は海外に比べて大きく遅れをとっている」といった意見もあるが、我が国のものづくりの優位性を活かした、IoT社会における製造業の絵姿を描く上で、何ができていて何が不足しているのか、我が国の現状を知ることが重要である。

以下では経済産業省が実施したアンケート調査に基づき、IoT等の技術の活用に関する我が国企業の対応状況について分析を行う。

なお、アンケートでの質問項目の構成は、設計・開発から生産、販売、運用・保守までのエンジニアリングチェーン全般に関して、各工程の分野ごとに複数の問いを設定し、データの収集、活用状況について、「実施している」「実施する計画がある」「可能であれば実施したい」「実施予定なし」の選択肢を設けた(図113-1)。

図113-1 IoT等の技術の活用に関する質問項目

Excelファイル 図113-1 IoT等の技術の活用に関する質問項目(xls/xlsx形式)

①企業規模別のIoT活用動向について

以下のチャートは、各設問項目に対し、「実施している」との回答を1点、それ以外の回答を0点として、純粋な実施状況を得点化し、項目ごとの平均点を従業員規模別にレーダーチャート化したものである。大項目として、エンジニアリングチェーンに沿って、設計・開発、生産、販売、運用・保守の分野ごとに各項目を並べているが、総じて、IoT等の技術の活用度合いは従業員規模によって差があることが見て取れる。(図113-2)。

図113-2 従業員規模別のIoT等の技術の活用状況

各部門における状況を見ると、「設計・開発」部門の3Dシミュレータの活用について、「製品設計工程における活用」は従業員規模に関わらず進んでいることが見て取れる。一方で、生産設計工程での活用や、リアルタイムに生産ラインに反映させる取組は企業規模を問わず進んでおらず、3Dプリンタに関しても総じて活用が進んでいないことがうかがえる。

また、「部門間連携」に関して、「生産時に判明した設計開発の不具合をフィードバック」する取組については、企業規模を問わず進んでいる。特に従業員規模300人超の企業では、「設計開発と生産現場間の連携」や、「製品の稼動データや顧客の声を他部門へ活用」する取組度合いも比較的高い水準を示している。

「生産」部門での生産プロセスにおけるデータ取得とプロセス改善について、「個別工程や生産工程全般の見える化やプロセス改善」への取組度合いは高く、その他の項目や次の販売部門での市場や運用に関する情報の活用についても相応に進んでいるといえる。なお、「部門間連携」や「生産」「販売」部門については規模による活用度合いの差が明確に表れている。

最後に、「運用・保守」部門に関しては予知保全、ソリューションサービスの提供のいずれもほとんど進んでいない状況である。IoTや第4次産業革命によるデジタル化の波の中で各国は既にビジネスモデルの変革を通じた、この分野での価値の創出を図る取組に軸足を移し始めており、我が国企業においても対応が求められるところである。本件について詳細は第3節で述べる。

コラム:トルク値のデジタル化により作業工程の可視化を実現・・・京都機械工具(株)

自動車整備用工具や一般作業工具の製造販売を行う京都機械工具(株)(京都府久世郡)は「軽くて強くて使いよい」を基本に、高品質で独創的な技術力によって、1万アイテム以上の多彩な製品開発を行うハンドツールメーカーである。1995年にはこれまでの技術の集大成として、世界のプロメカニックに対応した最高級、高品質の工具「ネプロス」を発売。その優れた品質は第一線で活躍する一流メカニックが集う鈴鹿サーキットの公認ツールとして世界で初めて認定され、モータースポーツを始めとする精度の高い作業を要求されるシーンで活躍している。

同社が2012年2月に発売したデジラチェ[メモルク]はボルト等の締め付けトルク値をデジタル表示し、データをPCやサーバで管理できる工具(トルクレンチ)である。作業の見える化とコンピュータ処理により、締め忘れ、締め過ぎ等の作業ミスを防ぎ、これまで作業者の勘に頼っていたトルク管理を、より容易に、より確かに行うことで、不適切なトルク管理による故障や事故の低減する。さらに、作業記録のデジタル化による作業効率の向上も実現。また、機能を絞ることで製造コストを低く抑え、小型・簡便・安価で導入、運用が容易なデジタル工具として高い評価を得ている。導入した企業では「手入力によるミスがなくなり、製品ひとつひとつのトレーサビリティも品質管理も一気通貫する“生産革新”が実現し、理想的な管理システムが構築できた」と現場にも受け入れられている。

直近ではウエストユニティス(株)のスマートグラス「InfoLinker」との連携により、中小企業庁の平成27年度戦略的基盤技術高度化支援事業を活用し、映像による確認や撮影機能を開発している。

(左)デジラチェ[メモルク]を活用した作業トレーサビリティシステム、
(右)デジラチェ[メモルク]

コラム:鳥獣被害防止電気柵の稼働状態をインターネットで監視する新システムの実用化へ・・・協和テクノ(株)

変圧器や電子部品の製造を行ってきた従業員7名の中小企業、協和テクノ(株)(長野県須坂市)では1995年より鳥獣被害対策への取組を開始、ものづくりを通じて「日本の農業の発展を支援していく企業」、「地域社会、自然環境に貢献する企業」を目指し、現在では鳥獣害防除威嚇機の製造販売、獣害用フェンスの販売、捕獲器・忌避品の販売と鳥獣害対策に全力で取り組んでいる。

今後の計画として、鳥獣被害防止電気柵の断線トラブル等に迅速に対処するため、一定の距離間隔で電圧測定端末を設置し、個々の電圧測定値をZigbee送信で基地局に収集してインターネット経由でデータをWEBサーバーへ送ることにより、管理者はパソコンやスマートフォンから電気柵の状態を監視できる新たなシステムを実用化させる方針である

鳥獣被害防止電気柵と電圧測定端末

②クラスター分析によるIoT活用動向について

前項にて、IoTの活用度合いは、企業規模によって異なることが見て取れた。ただし、規模が小さくてもIoT等の技術を積極的に活用している企業は数多く存在する。

以下ではIoTの活用動向に関して、上記設問に対する回答結果をもとに、クラスター分析を行う。ここでは、類型化分析により以下に示す4つの軸によって分類を行った(図113-3)

図113-3 集約軸とその意味づけ

これらの集約軸に沿って類型化を行ったところ、回答企業を図113-4のような5つのクラスターに分類することができた。具体的には、IoTの活用に関して、極めて消極的なクラスターA、やや消極的ながら個別工程、生産工程や人員の作業状況の見える化、トレーサビリティ管理に対しては積極的なクラスターB、取組度合いは中庸ながら、収集した情報、データの共有やフィードバックには積極的なクラスターC、総じて進んでおり、特にシミュレータの活用や収集した情報、データの共有やフィードバックに積極的なクラスターD、IoTの導入、活用度合いが極めて高く、全般的に最も進んでいるクラスターEということになる。それぞれ特徴があるものの、総じてクラスターAからEに進むほどIoTの活用に積極的であると考えられる。

図113-4 5つのクラスターの特徴

各クラスターにおける企業規模別の構成を見ると、クラスターAからEに向かって大企業の比率が徐々に高くなる傾向があるが、最もIoT活用に積極的なクラスターEの91.1%を中小企業が占める(図113-5)。また、従業員規模別では、クラスターEにおいて従業員300人以下の中小企業が84.8%、従業員100人以下の中小企業でも54.8%を占めており、中小企業においても積極的にIoTを活用している企業が数多く存在することが見て取れる(図113-6)。

図113-5 各クラスターにおける企業規模別構成比率

図113-6 各クラスターにおける従業員規模別構成比率

Excelファイル 図113-5 各クラスターにおける企業規模別構成比率(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-6 各クラスターにおける従業員規模別構成比率(xls/xlsx形式)

以下は、IoT活用度合いによって分類したクラスターごとに、売上高、営業利益といった業績見通しについての回答を示したグラフである。全企業についてのデータと、各クラスターにおいて従業員100人以下の中小企業に限定して抽出したデータを並列している。

今後3年間の国内売上高の見通しについて、全体でも、従業員100人以下でも、「増加」や「やや増加」と回答した企業の比率はクラスターAからEに向かっておおむね増加している傾向が見て取れる(図113-7・8)。また、今後3年間の営業利益の見通しに関しては、従業員100人以下においてIoTの活用度合いとの相関がうかがえる(図113-9・10)。

図113-7 今後3年間の国内売上高見通し(全体)

図113-8 今後3年間の国内売上高見通し(従業員100人以下)

Excelファイル 図113-7 今後3年間の国内売上高見通し(全体)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-8 今後3年間の国内売上高見通し(従業員100人以下)(xls/xlsx形式)

図113-9 今後3年間の国内営業利益見通し(全体)

図113-10 今後3年間の国内営業利益見通し(従業員100人以下)

Excelファイル 図113-9 今後3年間の国内営業利益見通し(全体)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-10 今後3年間の国内営業利益見通し(従業員100人以下)(xls/xlsx形式)

上記のように、企業業績に関しては全体と従業員100人以下とでは、おおむね同様の結果が得られた。以下は、設備や人材への投資の見通しに関して同様の比較を行ったものである。今後3年間の国内設備投資の見通しに対して「増加」もしくは「やや増加」していると回答している企業の割合や、2016年度の対前年度比の賃上げ率の見通しにおける「増加」もしくは「若干の増加」と回答している企業の割合は、クラスターAからEに向けてIoT活用に積極的であるほど増加していることが見て取れる(図113-11・12・13・14)。なお、この傾向は、従業員100人以下の中小企業においてより顕著に表れている。

図113-11 今後3年間の国内設備投資見通し(全体)

図113-12 今後3年間の国内設備投資見通し(従業員100人以下)

Excelファイル 図113-11 今後3年間の国内設備投資見通し(全体)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-12 今後3年間の国内設備投資見通し(従業員100人以下)(xls/xlsx形式)

図113-13 2016年度の賃上げ率の見通し(全体)

図113-14 2016年度の賃上げ率の見通し(従業員100人以下)

Excelファイル 図113-13 2016年度の賃上げ率の見通し(全体)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-14 2016年度の賃上げ率の見通し(従業員100人以下(xls/xlsx形式)

また、以下は、回答企業全体についてクラスターごとに、IoTの活用度合いと様々な経営課題や解決への取組に関する指標との相関を示したものである。まず、経営の意思決定のスピード化に関して、IoTの活用度合いとの相関関係が明確に見て取れる(図113-15)。また、製品開発のリードタイム削減やダイバーシティマネージメントへの取組に関してもおおむね相関がうかがえる(図113-16・17・18)。

図113-15 5年前と比較した意思決定のスピードの変化

図113-16 10年前と比較した主要製品における開発のリードタイムの変化

Excelファイル 図113-15 5年前と比較した意思決定のスピードの変化(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-16 10年前と比較した主要製品における開発のリードタイムの変化(xls/xlsx形式)

図113-17 女性活躍推進に向けた経営トップによる社内の意識改革の推進

図113-18 女性の幹部への登用


Excelファイル 図113-17 女性活躍推進に向けた経営トップによる社内の意識改革の推進(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-18 女性の幹部への登用(xls/xlsx形式)

IoTを積極的に活用している企業ほど生産現場における人手不足感を感じていることも見て取れる(図113-19)。また、省人化投資の状況についてもおおむね相関があるといえる(図113-20)。なお、クラスターBの実施割合が高いが、図113-4の通り、クラスターBは類型として、IoTの活用度合いは総じて低いものの、生産プロセスの見える化には比較的積極的なグループである。生産プロセスの見える化が課題の見える化に繋がり、クラスターBにおける積極的な省人化投資に結びついているのではないかと考えられる。

図113-19 生産現場における人手不足を感じるか

図113-20 省人化投資の実施有無


Excelファイル 図113-19 生産現場における人手不足を感じるか(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-20 省人化投資の実施有無(xls/xlsx形式)

これまでのクラスター分析を通して、経営課題に対する取組に積極的な企業は、IoTの活用に関しても積極的な姿勢が見て取れ、そうした企業ほど、業績や投資に対しても前向きな見通しを持っているということがわかった。もちろん、これはIoTを積極的に活用すれば業績が上向くということを示しているのではない。IoTの活用と経営課題に対する取組との相関は、経営課題と向き合い、その解決を図る企業ほど、解決策の1つとしてIoT等についても活用し、業績面で成果をあげていることを示唆している。

コラム:経営トップ層のリーダーシップで組織を変革し、IoTを活用した自社だけのビジネスモデルを確立・・・YKKグループ

YKKグループは、ファスニング事業とAP(Architectural Products)事業を中核とし、それらを支える工機部門で事業を展開している。同グループの優位性は世界のどこでも同じ商品・品質・サービスを提供出来ることであり、そのために経営の根幹の思想である「一貫生産」にこだわり、最適な材料から設備までを自社で開発し、同じ材料や機械を世界中で使うことで品質と均質性を高めている。この一貫生産体制を更に進化させるため、工機部門を中心に、世界中の約50ヶ所の工場で約3万台の生産設備データを統合し活用する”YKK iIoT(integrated IoT)”に取り組んでいる。

具体的には、世界中の工場や機械の稼働状態を統一的に把握し課題を抽出するため、設備総合効率という共通の指標を設けている。これは、機械の時間稼働率と性能稼働率、良品率を掛け合わせたものであるが、過去も各工場なりの分析はあったものの、本質的な課題抽出には至らなかった。それは、実際には機械の停止時間の定義や加工条件の取り方が工場ごとに微妙に違うためであり、この微妙な違いの標準化として、設備総合効率の考えを徹底して浸透させることが成功の秘訣であったという。

ハード(設備)面では、従来の高度化・自動化といった開発者目線のテクノロジー・プッシュ型開発をやめ、工場の従業員側の使いやすさを重視した開発に変更。これにより工場側で作業手順やその水準の統一化が容易になった。また、ソフト(運用)面では、本部側が譲れない部分(稼働データを活用して達成したい目標と、その鍵である設備総合効率の考え方)を明確化し、その軸がぶれない範囲で細かい運用についてはそれぞれの現場の考え方や慣習を尊重した。

加えて、もう1つの成功の鍵は、経営トップ層が方針を明確にし、その考え方を着実に浸透させていったことである。一般に、IoTの活用の企画や執行の責任は情報部門に任されているという企業は多い。しかし、こうした企業では情報の収集やシステム導入自体を目的化しがちであり、IoTが経営の改善やビジネスモデルの改革につながらないことが多い。同様に製造現場では、現場の個別レベルでの生産性向上を目的化しがちであるが、それが経営の改善になっていなくては本末転倒である。YKKにおいても、現場からの反発の中で、経営トップ層が大局的な目線で目的を示し、その達成のために情報部門のやるべきこと、製造現場のやるべきことを地道に説得していったという。

同社の大谷副社長は、「決してIoTブームだからということでは無く、一貫生産体制の更なる進化という経営方針の実現のためにIoTというツールを活用したに過ぎない。経営トップ層がしっかりと目標を打ち出し、単なるデータ収集だけで無く、何のために行うのかということを常に従業員に問いかけた。これまで現場の作業者や機械の開発者の多くが長年の経験と勘をベースとしており、説得は容易ではなかったが、粘り強く地道に浸透をはかったことこそが最も大事なことだった」と話す。IoT活用の考え方と経営者のあり方という点において、優れた事例の1つと言えよう。

③業種別の動向について

図113-21は、図113-2のグラフに関して、項目はそのままに、業種毎に各項目における実施状況を得点化した上で、全業種の平均得点との差分を示したものである。平均値を示す「0.00」の黒い点線を境に、活用が進んでいれば正の値を、遅れていれば負の値を示し、「0.00」に折れ線が集まっている項目については業種による取組度合いの差が少ないことを示している。

ここではIoTの活用度合いに関する業種別の特徴を分析することで、各工程におけるIoT活用を更に進めていく上での課題について考察を行う。

「開発・設計」部門において、3Dシミュレーションの活用は一般機械において進んでおり、特に「製品設計工程における活用」の割合が高い。一方で、「リアルタイムで生産に反映させる」取組や3Dプリンタの活用に関しては突出している業種はない。これら3Dデジタル製造ツールの活用に関して化学工業は極端に低い結果を示している。

「部門間連携」に関しては全般的に化学工業で最も進んでおり、電気機械、一般機械と続く

「生産」部門においては、「個別工程や生産工程全般の見える化とプロセス改善」や、「自社工場内若しくは取引先企業との間でのトレーサビリティ管理」については非鉄金属の、「生産プロセスにおける熟練技能のマニュアル化・データベース化」 に関しては化学工業の取組がそれぞれ進んでいる。また、「海外工場での生産プロセスに係るデータ等の収集・活用」では鉄鋼業が最も積極的である。

「販売」部門では、いずれの項目も化学工業が高い割合を示している。また、「運用・保守」部門については業種間の取組度合いの差はほとんど見られないが、これは、どの業種でも取組が進んでいないという結果の表れである。

図113-21 業種別のIoT等の技術の活用状況

以下では、各設問項目に関して、より詳細の分析を行う。まず、3Dシミュレータの活用状況は、セットメーカの「実施している」割合は36.7%と最も高く、以下一次、二次と順に低下している(図113-22)。

結果としてサプライチェーンにおける系列構造の中で3Dシミュレータによる設計情報等のデータのやり取りが上位と下位の間で断絶し、非効率を生んでいる可能性があると考えられる。これについては、セットメーカーによって利用する3Dシミュレーションツールが異なり、互換性も無いため下位の部材メーカーにとっては複数のツールの導入が必要なことが利用を妨げているという声もある。

図113-22 取引構造別の製品設計工程における3Dシミュレータの活用状況

Excelファイル 図113-22 取引構造別の製品設計工程における3Dシミュレータの活用状況(xls/xlsx形式)

コラム:自動車産業におけるモデルベースシステムズエンジニアリング

産業競争力の強化は、個別技術の研究開発に留まらない。製品の企画、設計、開発、製造、流通といった製品の流れ全体をシステムとして俯瞰的に捉える必要がある。製品の流れ全体をシステムで捉え、(時間的俯瞰:図1の水平方向の俯瞰)、かつ、製品そのものも要求や機能といった要素が階層構造を持ち、相互に複雑な関係性を持っていると捉え(構成的俯瞰:図1の垂直方向の俯瞰)、常に目的志向に多視点から設計・検証していくエンジニアリング活動全般をシステムズエンジニアリングと呼ぶ。

図1 システムエンジニアリングの概念例

資料:(株)本田技術研究所提供

このシステムズエンジニアリングを、製品の企画・開発から製造・廃棄に至る全般にわたり、様々な目的や特徴を持ったモデルを用いて実施していく方法論をモデルベースシステムズエンジニアリング(Model Based Systems Engineering; MBSE)と呼ぶ。モデルベースシステムズエンジニアリングは、対象システムの複雑さに応じて、必要なシステムをより確実に開発するためのアプローチである。この場合のモデルとは、数値計算可能な形式・寸法や形状を示す形式だけでなく、論理的構成を記述する形式など、種類が異なる複数の形式を指しており、いずれの形式のモデルも粒度の異なる階層構造を持つ。またモデルベースシステムズエンジニアリングの大きな特徴の1つとして、これら様々な形式と粒度のモデルを水平方向、垂直方向に論理的に統合し、システムの全体像を多視点から示すモデル(=システムモデル)の作成とその活用が挙げられる。

自動車の開発においては、車両の高機能化、パワートレインの多様化等によって、設計開発業務が急速に複雑化注1する一方で、顧客の多様なニーズに応えるため、製品の開発サイクルの短縮化が求められており、設計開発の効率化が極めて重要である。モデルを活用して性能の最適化や性能評価等を行うことにより、開発や性能検証過程の履歴を残し、従来から強みとしていた「すり合わせ」を活かしつつ、開発工程の大幅な効率化注2が可能となる(図2)。近年、特に制御系開発を中心に数値計算可能な形式のモデルを開発フェーズの早い設計段階でシミュレーションに活用し、協調制御設計など大規模開発の負荷のフロントローディングを実施している。また、制御系開発において数値計算可能な形式のモデルをMILS(Model In the Loop Simulation)、HILS(Hardware In the Loop Simulation)などの一部として検証段階で活用し、膨大な検証の自動化、効率化も実施されている。これらは自動車開発において、モデルをベースとした開発(Model Based Development; MBD)と呼ばれ、モデルベースシステムズエンジニアリングの実施例と言える。

また、モデルは電子データとして企業間での流通にも適するという特性を持つことから、自動車メーカーとサプライヤーの間でのモデル流通を促進し、開発効率を飛躍的に高めることが可能となる。経済産業省では、MBDを推進するため、自動車メーカー及びサプライヤーをメンバーとする「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」を開催し、モデル表記の統一化に向けたガイドラインの策定や実際にモデルの企業間での授受を行うなど、モデル流通の実現に向けた課題と今後の方策をとりまとめた注3。今後もモデルの流通に向けた取組を継続することにより、車両全体をモデルで効率的に開発することが可能となり、開発効率化による産業競争力の強化が期待される。

図2 モデルベース開発によるフロントローディングのイメージ

資料:東北電子専門学校(文部科学省委託事業により作成)

モデルをベースとしたシステムズエンジニアリング(Model Based Systems Engineering; MBSE)は、いずれあらゆる製品開発に活かされる。既に航空機などの高度で複雑な技術・システムを適用して完成させる製品には活かされており、我が国の強みであるすり合わせ技術もMBSEを意識していくべきであろう。例えばドイツ政府が推進するインダストリー4.0においても、生産現場でシステムが繋がるIoT技術の活用にとどまらず、工科大学にシステムズエンジニアリングの考え方そのものを広めつつある。モデル思考、システム思考で考えてものづくりを行う、という概念が若手技術者や研究者に根付くことは、中長期的な産業競争力強化の観点から重要である。

注1 車両の制御システム開発が10年で10倍の規模に増大している、と言われる。[SEC journal Vol.8 No.2 Jun.2012]

注2 開発コストが1/3になる、というアンケート結果がある。[EMF 2013 Independent Survey Results from 667 Systems engineering respondents]

注3 https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000102.pdf

次に、3Dプリンタの活用状況について「製品開発工程における試作品の製作」に対する取組状況を示したものが図113-23である。全体的に「実施予定なし」との回答比率が高い。一方で、3Dプリンタ自体の技術や素材開発は日進月歩で進んでおり、今後活用の幅が広がっていくことが期待される。

図113-23 製品開発工程において3Dプリンタを試作品の製作に活用しているか

Excelファイル 図113-23 製品開発工程において3Dプリンタを試作品の製作に活用しているか(xls/xlsx形式)

コラム:デジタルとアナログの融合で世界を変える・・・(株)ケイズデザインラボ

(株)ケイズデザインラボ(東京都渋谷区)は3Dツール等を活用した、新しいものづくりのプロセス、新事業の企画・提案を行う企業である。例えば、繊細な表現を可能にする3DCAD/CAMソフトの開発、3Dプリンタや3Dスキャナを使用したプロジェクトサポート、メーカーへの開発サポート、その他、それら3Dソフト/ハードウェアツールを用いたソリューションの提供、販売を行う。また、様々な顧客とのコラボレーションやツールの普及に向けたイベントの開催等、手掛ける業務は多岐にわたる。

CAD/CAMソフトの開発、切削加工現場出身のバックグラウンドを持つ同社代表取締役の原社長は「海外に比べ、日本の優れているところは高い技術力もさる事ながら、ものづくりに対する姿勢にある」という。繊細な造型を形にする為に、細部まで徹底的にこだわり抜く姿勢は、日本の中小製造業ならではであり、3Dプリンタの様に新しい素材、新しい技術が次々と生まれ課題も多い分野においては、産業で活用するにあたり確かな技術力、知見のある国内企業と技術的な課題解決に向けて試行錯誤できる意義は大きいと語る。

こうした地道な努力によって、3Dプリンタ等のデジタルファブリケーションツールの活用が製造業、非製造業を問わず広く産業界に普及しはじめている。2012年に東京都ベンチャー技術大賞奨励賞を受賞した同社開発の技術「D3テクスチャー®」は、革表面のシボ感や縫い目、木目調の質感といったこれまでデジタル加工では難しかった有機的な表現を3Dデータ上にてフルデジタルで実現することができ、大手メーカーの製品など複数の案件で採用され始めている。3Dデータによる金型加工を行うことで、溶剤などの条件に左右されないクオリティの金型を仕上げることができる。また、3Dプリントを活用した最終製品の開発では、金属粉末焼結積層造形で作る腕時計や、LEDランプなどを映画のフェアにあわせ商品提案し、すでに実店舗で販売をおこなっている。これまでオモチャやフィギュアの作成や試作品の製作に用いられるというイメージが強かった3Dプリンタであるが、このように一般ユーザー向け商品への幅を広げるためには、コンテンツの拡充と一般販路の確保が重要となる。

アーティストやデザイナーとのコラボレーションも積極的に行っており、書家の紫舟氏のミラノ万博日本館展示の彫刻作品の切削3Dデータ作成や、デザインスタジオ「YOY」と共同で3Dプリントを活用した看板サインの提案、ミラノファッションウィークに参加したファッションブランド「アツシナカシマ」との3Dプリント製シューズ開発など、多岐にわたる。

また、3Dをテーマにしたワークショップやイベントの主催も行っており、メニューとしては子供を対象にしたものから一般向け、プロフェッショナル向けと幅広く、こうした世の中の3Dリテラシーを高める活動にも重きを置いている。

3Dプリントだけでなく、2015年の12月には切削加工機メーカーのか(株)岩間工業所(静岡県静岡市)と共同で切削加工機「3DMill K-650」の開発を公表。こうしたさまざまな角度からの「地道」な活動によりデジタルとアナログの融合による新しいものづくりの普及を行っている。

D3テクスチャー®が可能にする多彩な質感の製品と金型(例)

3Dプリンタで製作したLED照明(中央)

(株)岩間工業所と共同開発した切削加工機「K-650」

コラム:和歌山発スマートものづくり革新

全事業者のうち中小企業・小規模事業者が99.9%を占める和歌山県では、その多くが川下企業に従って製品を納める「下請け体質企業」であり、低い利益率、不安定な経営に直面している。中でもものづくり企業の多くは、「経験を頼りに、合格品ができるまで試作を繰り返す」という、いわゆるアナログ式のプロセスにより製品開発を行ってきているため、開発には時間と開発コストがかさみ、製品の開発競争に後れをとってきた。

このような状況に対し、和歌山県の技術支援機関である県工業技術センターでは、ものづくり企業の開発支援を目的に光造形型の3Dプリンターを早くから導入し、設計が終わった段階の試作品づくりのサポートを行ってきている。しかし価格交渉力を有する「独自製品」の開発を行える企業への転換を図るためには、アナログ式ではない、新たな設計プロセスの導入が必要である。そこで県工業技術センターでは、平成26年度にインクジェット方式の3Dプリンターや3Dデータを活用した構造計算システム(CAE)を新規導入し、企業向けのセミナーやスクールを開催することで設計プロセスのサポートも開始した。すなわち、産業用X線CT,3D-CAD,CAE,3Dプリンターなどのハード面での整備に加え、設計段階の支援まで一貫してサポート可能な「3Dスマートものづくりラボ」を県工業技術センター内に立ち上げ、県内企業のものづくり革新を積極的に推し進めている。

さらに2016年度には、「スマートものづくり革新」を化学業界にも拡大させる取り組みを開始する。和歌山県は日本の有機化学発祥の地の1つであり、30社以上の独自技術を有する化学系中小企業が集積し、国内外への原料供給基地として活躍している。この業界が製造している化学物質の材料設計にも「計算」を取り入れることで、有機化学反応の予測や材料設計の効率化による製品開発のスピードアップを促進させる。すなわち「コンピュータを活用した試作品開発手法である計算化学」をいち早く中小企業に導入し、製品開発の効率化を図ることで下請けから提案型企業への転換を進め、ニッチトップ企業の創成育成を促進させるための「ケミカルスマートものづくりラボ」を創設する。

(左)3Dプリンター(右)CAE

3Dものづくりスクール

「部門間連携」に関して、特に生産部門と設計開発部門との間では、どの業種でも「不具合のフィードバック」に比べ、「データ共有による開発リードタイムの削減」は進んでいない(図113-24)。不具合情報のみならず、様々なデータの共有を進めることで、更なる効率化が可能と考えられる。

図113-24 生産部門からの設計開発への不具合のフィードバックとデータ共有による開発リードタイム削減の取組み動向

Excelファイル 図113-24 生産部門からの設計開発への不具合のフィードバックとデータ共有による開発リードタイム削減の取組み動向(xls/xlsx形式)

「生産」部門におけるIoT活用の取組について、まず、生産プロセスに関する設備の稼働状況等、何らかのデータ収集を「実施している」企業は、企業規模別では大企業において67.8%、中小企業においては39.4%と企業規模によって大きく異なる(図113-25)。また、業種別には、非鉄金属にて60.0%と最も高く、次いで化学工業、輸送用機械と続く(図113-26)。

図113-25 生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか(企業規模別)

図113-26 生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか(業種別)

Excelファイル 図113-25 生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか(企業規模別)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-26 生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか(業種別)(xls/xlsx形式)

コラム:稼動状態監視システムで主要設備を見える化し、工程品質管理を徹底・・・コーセル(株)

富山県に本社を置き、産業機器や情報通信機器、医療機器といったさまざまなエレクトロニクス製品に安定した直流電源を供給するための「スイッチング電源」を製造するコーセル株式会社は、2014年から生産効率向上の抜本的な取り組みとして、「作業者と自働機の共存」をコンセプトに自働化を加速させている。

自働化ラインの品質を維持管理していくには設備稼働状態の見える化が必須。そこで、同社は製品品質に大きく影響するはんだ付け工法を解析して得られた重要パラメータを、リアルタイムに監視できるはんだ付け装置、稼働状態監視システムを自社開発した。本設備投入により、不具合発生時における情報収集の効率化、設備能力を最大限に活用した保全品質向上に留まらず、製品のはんだ付け品質向上にも効果を出し、製造経費削減や総合設備効率向上に繋がっている。

同社の次なる計画は、この設備、システムを協力工場へ展開し、本社から稼働状態を一括管理すること。協力工場で稼動している設備詳細情報を遠隔でリアルタイムに取得し生産管理システムと繋げることで、関連会社も含めスマートファクトリー化を見据えている。

(左)IoTに対応したはんだ付け装置(右)システム連動イメージ

資料:コーセル株式会社

熟練技能のマニュアル化・データベース化について、「熟練技能を有する人材の重要性」に対してはほとんどの企業が「これまでと変わらない」もしくは「今後ますます重要となる」と回答しており、その比率は97.0%に上る(図113-27)。それに対し、熟練技能のマニュアル化・データベース化への取組に関する回答状況をみると、「予定していない」との回答比率が3割から4割程度と高い割合を占める(図113-28)。しかし、次の図113-29を見ると、熟練技能のマニュアル化・データベース化を「実施している」と回答した企業の65.7%がその効果に関して「熟練技能の継承が容易となった」と回答しており、熟練技能を有する人材を育成していく上で高い効果があることが分かる。熟練技能者の存在は国内生産を増加させるための最も大きな要因となっており(第2節参照)、IoTの活用によって課題解決に結びつく可能性があることを示唆している。

図113-27 今後の熟練人材の必要性について

Excelファイル 図113-27 今後の熟練人材の必要性について(xls/xlsx形式)

図113-28 生産プロセスにおける熟練技能のマニュアル化・データベース化の実施状況

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図113-29 熟練技能のマニュアル化・データベース化による効果

Excelファイル 図113-29 熟練技能のマニュアル化・データベース化による効果(xls/xlsx形式)

コラム:金型×センサーでものづくりの次のステージへ・・・(株)岐阜多田精機

自動車やスマートフォン、カメラ等、私たちは様々な製品に囲まれているが、こうした製品の部品の多くは、「金型」を用いて作られる。すなわち、金属やプラスチック、ゴム、ガラス等の素材を、主として金属材料を用いて作った型=金型により、目的の形の部品に作り上げる。このような金型の良否は、部品、ひいては製品の品質の良否に直結するため、金型は製品の生みの親などといわれる。

このような金型を含めた日本のものづくりというと、熟練工による図面の情報を超えたところでの真似できないものづくりのイメージが強いかもしれないが、社内における技術の徹底した標準化や高度なIT技術の活用、そしてこれらの技術の社員への丁寧な教育により、図面通りの金型を製作することで、熟練工によるすり合わせ加工が不要な金型製作を実現している企業がある。岐阜市にある岐阜多田精機は自動車部品やOA機器等向けの金型設計・制作を手がける会社で、従業員数は87人(2016年5月時点)。

同社の強みは、このような再現性の高いものづくりを実現している点に加え、PLの合わせ加工は不要であることから、金型の開発・設計段階での入念な検討・すり合わせを行っている。また高度な3次元CAD/CAM/CAE等を駆使し、図面で表現できないような複雑な局面形状や構造体の金型設計・制作を可能にしていることなどが挙げられる。

現在では、岐阜県情報技術研究所とも連携し、樹脂材料を扱う金型内にセンサーを埋め込み、これまで把握困難であった金型内の状況を温度・圧力・振動等の様々なデータを計測し、より高品質で安定的な部品製造を実現し得る「スマート金型」の開発にも注力。振動センサーにより計測されたデータは、金型による部品製造の更なる高品質化を実現する上での分析に用いられるという。

「IoT」という観点では、様々な機器をインターネットで繋ぎ、従前のビジネスモデルと異なる稼ぎ方の実現に向けた動きが各所で始まりつつあるが、上記の取組みは、製造業の分野では、必ずしも把握が困難であった部分にデジタルの切り口からアドレスし、これまで暗黙知に属していたであろう領域をデータ化する試みと言える。高品質なものづくりを更に高度化するために「IoT」が活用される事例として、非常に興味深い。

金型とスマートモジュール

微細加飾精密成形品

段差レス精密成形品

「販売」部門での情報やデータの収集に関しては、顧客ニーズの反映や、ソリューションサービス等への活用の基礎となるデータであり、今後の更なる取組が他社との差別化を図っていく上で重要になると考えられる。一方で、特に販売後の稼働状況等のデータ収集については、データの所有権の所在が明確でなく、契約による所有権の線引きやルールの策定等、対応が課題となっている。

「運用・保守」部門については図113-30、31の通り、予知保全、運用ソリューションサービスともに、業種を問わず取組が進んでいない。また、どちらもほぼ全業種において半数以上の企業が「実施予定なし」と回答しており、IoTを活用したサービスやソリューション重視のビジネスモデルへ変革していくべく意識改革を行っていくことが重要である。これについて詳細は第3節で述べる。そうした意識改革を図っていくため、ロボット革命イニシアティブ協議会の傘下に「IoTによるビジネス変革WG」を設け、まさに、ビジネス変革に向け産業界全体で検討を始めている(詳細は次項を参照)。

図113-30 製品の予知保全サービスへの取組


図113-31 製品の運用ソリューションサービスへの取組

Excelファイル 図113-30 製品の予知保全サービスへの取組(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図113-31 製品の運用ソリューションサービスへの取組(xls/xlsx形式)

(2)製造業のIoT活用に向けた政府の取組

2015年6月に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2015」においては、『迫り来る変革への挑戦(「第四次産業革命」)』の中で次のように指摘した。

ビジネスや社会の在り方そのものを根底から揺るがす、「第四次産業革命」とも呼ぶべき大変革が着実に進みつつある。IoT・ビッグデータ・人工知能時代の到来である。

あらゆるものがインターネットに接続し、サイバー世界が急速に拡大している。気付かないところで膨大なデータの蓄積が進み、目に見えないところで国境の存在しない広大なデジタル空間が広がり、経済活動のみならず、個々人の生活にも大きな影響を及ぼし始めている。世界のデータ量が2年ごとに倍増し、人工知能が非連続的な進化を遂げる中、今後数年間で社会の様相が激変したとしても不思議はない。

このような事態に手をこまねいていたのでは、これまで国際競争を戦ってきた企業や産業が短期間のうちに競争力を失う事態や、高い付加価値を生んできた熟練人材の知識・技能があっという間に陳腐化する事態が現実のものとなるおそれすらある。一方、思い切って新たな事業に取り組もうとする事業者にとっては、絶好のチャンスである。特に、ようやくデフレの軛(くびき)から解放され、二十数年ぶりに目線を上げて未来への投資を行おうとする事業者にとっては、目の前に無限の可能性が広がっていると言える。スピード感ある大胆な挑戦に踏み切るかどうかが勝敗を分ける鍵となるのである。

このように、IoTをはじめとする新たな環境の出現によって製造業のビジネス自身が大きく変化し、競争のルールが変わるという状況認識の下、我が国製造業には迅速な対応が求められている。特に、ドイツがインダストリー4.0を国際標準とするため、ISOやIECといった国際標準化機関における活動を活発化させていること、アメリカがインダストリアル・インターネット・コンソーシアムに設けたテストベッド環境の中でIoT活用のモデルケースを次々と作り出している状況を踏まえれば、我が国としても国を挙げた対応が必要となっているといえる。

以下では、このような分野における政府の取組について紹介する。

①ロボット革命イニシアティブ協議会

「ロボット革命実現会議」が2015年1月に取りまとめた「ロボット新戦略(5ヶ年計画)」においては、世界一のロボット大国である我が国として、IoT時代のロボット(ITと融合し、ビッグデータ、ネットワーク、人工知能を使いこなせるロボット)で世界をリードすることを1つの柱として盛り込んだ。これを実現するため、2015年5月、(一社)日本機械工業連合会を事務局とする「ロボット革命イニシアティブ協議会」を設置した。7月には、1つめのワーキンググループとして、ロボットに限らず製造業全体を対象とした議論を行うため、「IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループ」を設置した(図113-32)。今後、同ワーキンググループでの活動を引き続き実施し、特に製造業において競争領域と協調領域をしっかりと切り分け、企業間が必要な情報を共有・交換することにより新たなビジネスを生んでいくためのユースケース(先行的な取組事例)を創出していくことを目指す。

図113-32 ロボット革命イニシアティブ協議会の組織図

同ワーキンググループ(2016年3月末現在、109社の民間企業(製造業、IT業、シンクタンク等)と26の業界団体、12の研究機関・学識者等の合計147会員から構成)では、IoTによる製造業の変革についてグループ内での共通認識の醸成と今後我が国として取り組むべき事項について検討を重ね、2016年1月、中間取りまとめを公表した(図113-33)。

図113-33 IoTによる製造ビジネス変革ワーキンググループ 中間取りまとめ(2016年1月)の概要

中小企業へのIoT導入支援のための検討も進めている。図113-34に示す通り、中小企業においてIoTへの関心は高いものの、具体的な活用方法がわからないとの声が多数見られる。我が国製造業全体の競争力を維持・強化する観点から、そのサプライチェーンの要衝を担う中小企業の意識と取組をこれまで以上に活性化させることが必要不可欠である。

図113-34 中小企業におけるIoT等の活用への関心度

ドイツにおいては、インダストリー4.0はそもそもドイツに製造拠点を持つ中小企業の競争力強化策として位置づけられており、政府やPLATFORMI4.0によるコンピテンスセンター設置、フラウンフォーファーIPAによる各種中小企業向け支援の拡充が進行中である(図113-35)。同様にEUにおいても、主に中小企業がCPS(Cyber Physical Systems)を活用した新製品開発などを行うための資金支援とネットワーキングのためのプロジェクト(EuroCPS)を実施中であり、中小企業の底上げについても国際競争が始まっている。

図113-35 フラウンフォーファーIPAによるVirtual Fort Knoxプロジェクト
(中小企業でもアプリケーションやソリューションを簡単に検索・売買できるプラットフォームを構築中)

ただし、一口に「中小企業」といってもIoT活用に向けた現状やレベルは様々であり、企業のレベル感に応じた課題設定と対策方針の提示を行うことが重要である。また、IoTの活用自身を目的とするのではなく、中小企業が直面する経営課題と、それを解決する手段という観点から整理することも重要である。このような背景を踏まえ、「IoTによる製造ビジネス変革WG」の下に「中堅・中小企業サブ幹事会」を発足させ、中小企業が直面する経営課題から出発し、その解決としてIoTの活用可能性を示し、その際の課題やボトルネックに基づき対策を整理した。なお、IoTは、あくまで解決手段の1つに過ぎず、それぞれの企業の状況に応じ、例えば伝統的な5SやカイゼンのようなIoT以外の解決策も含めて検討することが必要である。

全国各地の中小企業にとってIoTがより身近で使いやすいツールとなるためには、必要な環境やサポート体制が身近に存在することが重要である。特にIoT導入にあたっては、上記の通りその目的が事務作業の合理化から機器の最適制御、ビジネスモデルの構築まで様々に想定されることから、そのサポートを行うコンサルタントの役割を担う人材には、経営指導からメカ、エレキ、ITやシステムインテグレーション、カイゼン等の様々な知見が求められる。従って、IoT導入コンサルタントは個人ではなく、チームとして運営すべきであり、今後は各地域において、こうしたチームを組織していくため、中核となる人材が存在する地域において試行的な運用を目指していく。あわせて、必要となる具体的なスキルセットの明確化を図ることにより、体制の構築を後押ししていく。なお、政府においては、今後、中小製造業がIoTのみならずロボット等、ものづくりの高度化のための対策を実施していくための相談拠点である「スマートものづくり応援隊」を整備し、運用していく方針である。

さらには、こうした中小企業の身近に整備する拠点に対し、必要な情報を提供する機能を中央が果たしていく。例えば、IoT導入の費用対効果を試算するためのツールを始め、様々なアプリケーション等ツール情報を集約したり、必要なツールを開発(ツール開発コンペの開催も含む)する等、地方の中小企業や、彼らを支援するコンサルタント等が簡単に参照できるものとなることが望ましい。

我が国が強みとする分野の1つである工作機械においても、IoTを活用した新たな取組を始めている。ものづくりの現場において、加工プロセスの生産性向上のため、機械から取得した情報を活用することは効果的な手段の1つであるが、この取組では工作機械メーカーが、機械の提供のみならず、生産性向上に寄与する「マニュファクチュアリングサービスプロバイダー」としての機能を担うことを目指している。

工作機械ユーザーは必ずしも特定のメーカーの機械のみを使用しているとは限らないため、これまでのように、メーカーごとに個別の機械の遠隔保守や予知保全サービスを提供するのではなく、様々なメーカー製の機械が稼動する工場の最適化ソリューションを提供することや、情報セキュリティやデータのアクセスコントロールに係るユーザー向けのガイドラインが必要となる。

既に、目的に適合したデータ流通の構造と、共通インターフェースの構築やサービス展開のためのガイドライン提供に向けた検討を始めており、今後、取組を具現化し、ものづくり現場における生産技術と生産管理を全体最適化させ、カイゼン力を高めることを目的としたサイバーフィジカルなスマート工場を実現することを目指す。

図113-36 スマート工場の概念図と共通化すべきインターフェース

②IoT推進ラボ

製造業におけるIoT活用を推進していくロボット革命イニシアティブ協議会に加え、製造業のみならず幅広い業種・分野においてもIoTによる変革が進行していくことを踏まえ、IoTを活用した先進的プロジェクトを創出するための枠組みとして2015年10月、「IoT推進コンソーシアム」を設置した。IoT推進コンソーシアムでは、産学官が参画・連携し、IoT推進に関する技術の開発・実証や新たなビジネスモデルの創出を推進するための体制を構築することを目的として、①IoTに関する技術の開発・実証及び標準化等の推進、②IoTに関する各種プロジェクトの創出及び当該プロジェクトの実施に必要となる規制改革等の提言等を推進していく(図113-37)。

図113-37 IoT推進ラボの体制

以下では特に、先進的なモデル事業を創出していくIoT推進ラボでの取組状況を紹介する。IoT推進ラボは、製造、モビリティ、医療・健康、観光、金融等様々なテーマに沿った企業が業界の枠を超えて連携することを促進し、資金・規制の両面から集中的な支援を行っていくための母体である(図113-38)。

図113-38 IoT推進ラボ

その活動の第1段として、IoT Lab Connection(ソリューションマッチング)、ビッグデータ解析コンテスト、IoT Lab Connection(先進的IoTプロジェクト選考会議)の3つの取組を2016年1月~2月にかけて実施した。以下では、製造業企業も参画したIoT Lab Connection(ソリューションマッチング)とIoT Lab Connection(先進的IoTプロジェクト選考会議)について詳述する。

(ア)IoT Lab Connection(ソリューションマッチング)

新たなビジネスモデルの創出を目指す事業者が、当該ビジネスモデルの実現に必要となるアイデア等に接続する事業の創出及びその社会実装の促進を目的として、関連する事業モデルや技術・サービス等を有する事業者に出会う場を提供。第1回のテーマとして、「製造(スマート工場)」と「観光」を選定し、シーズ又はニーズを保有する会員企業、団体、自治体等向けのマッチングイベントを2016年1月28日に開催した。

参加希望企業から事前に提示されたニーズ・シーズから、当日のマッチング先企業を事前に組合せた。当日は15分間、1対1の個別マッチングを実施したところ、約190の企業・団体が参加し、約550のマッチングが実現。加えて、マッチング人気企業等が不特定多数に対し自社のニーズやシーズをプレゼンテーションし、関心を持った企業とその場でミーティングを実施。28の企業や団体がプレゼンテーションを行い、約400の企業や団体が参加した。さらには、自治体がブースを設置し、それぞれのニーズやシーズ等に対し関心のある企業や団体がその場でミーティングを行うブースマッチングも実施。14の自治体がブースを設置し、約320の企業や団体が参加した。事後アンケートの結果によれば、参加企業・団体のうち半数が大企業であったが、ベンチャー、中小企業、大学・研究機関なども幅広く参加しており、9割の企業・自治体が、今後、業務連携に向け、次のステージに進めたいと考える企業と会えたと回答した(図113-39・40)。製造業からも約120社が参加した。これをきっかけに、製造業からも新たなビジネスが創出されることが期待される。

図113-39 参加企業の規模

図113-40 企業・団体のマッチングの結果

 
コラム:第1回IoT Lab Connectionの結果事例~Smart Factory City柏崎市~

機械金属製造業を中心に中小製造業が集積する新潟県柏崎市では、地元に就職する人材が少ないことに問題意識を持った企業が、人材の囲い込みのため、自ら寄付をして新潟工科大学を設立し産学連携の下で実践的なものづくり教育に力を入れてきた。このように、企業を越えた相互協力の一環として、小規模ものづくり現場における円滑な工程システムの基盤構築を産学連携により試みるため、IoT Lab Connectionに参加。ネットワーク技術に強みを持つNTTドコモ、データの解析プラットフォームに強みを有する日本GE、センサーデータを取得するための無線技術に強みを有する沖電気工業や実装への橋渡し役の地元IT企業とのオープンイノベーションを通じ、地域の複数工場が情報連携によってあたかもひとつの工場であるかのように機能するSmart Factory City構想を立ち上げた。

各工場の製品のライフサイクル(設計、製造、販売)の効率化や柔軟化にとどまらず、企業の枠を超えたデータ共有によって、マーケティング、商品開発から在庫管理に至るまでサプライチェーンを最適化することを目指す。さらには、健康管理の情報を地域の病院と共有する、人材育成の情報を教育機関と共有する等、地域ぐるみでものづくりの機能を高めていく構想。1社単独では投資能力がないという中小企業の欠点を補い、少ない投資でその果実を共有することを目指す。

今後は実証実験等を通じ中小企業群へのIoTの実装を目指していく予定であり、マッチングイベント発の案件形成事例として期待される。

実現イメージ

(イ)IoTLabSelection(先進的IoTプロジェクト選考会議)

これまでに例のない先進的IoTプロジェクトを発掘・選定するための選考会議を2016年2月7日に実施。政府系機関、金融機関、ベンチャーキャピタルなど官民が一体となって、資金支援、メンター(相談者)の派遣、規制改革・標準化に関する支援の対象とすべき先進的IoTプロジェクトを発掘・表彰した。総申請数252件の中から、1次審査(書面審査)によって28件を選定、2次審査(プレゼン審査)で16件のファイナリストを選出した。なかでも特に優れたプロジェクトとしてグランプリ、準グランプリ、審査員特別賞として表彰した。残念ながら、ファイナリスト16件に製造業に関する案件はノミネートされなかったものの、引き続き製造業においても先進事例を創出する様々な取組を実施していくことが重要である。

図113-41 IoTLabSelectionにおける表彰案件

③産業保安のスマート化

我が国プラントの多くは高度成長期に建設されたものだが、現状では全面的なリニューアルが遅れ老朽化が進んでいる(図113-42)ほか、高度な知見をもって保守・安全管理の実務を担ってきたベテラン従業員が引退の時期を迎えつつある(図113-43)ことから、今後重大事故のリスクの増大が危惧されている。また、自然災害の激甚化や再生可能エネルギーの急速な普及による事故の増加といった外的環境の変化に伴い、産業保安全体の在り方を見直す必要が出てきている。

図113–42 我が国エチレンプラント設備の稼働年数

図113–43 平成26年時の我が国石油精製事業所における年齢構成

そのため経済産業省では、平成27年3月23日の第5回産業構造審議会保安分科会で、「産業保安のスマート化」をキックオフさせた。これは、上記の課題等へ対応するために産業保安各分野(高圧ガス保安法・ガス事業法・液化石油ガス保安法・火薬類取締法・電気事業法等)について技術基準等の全面的な見直しを行う他、ヒトの作業を補完するものとしてIoT・ビッグデータ・AI等を活用した高度な自主保安を諸外国に先駆けて実現させるために、政府・プラントオーナー・金融機関が連携してスマート化投資を促進させ、安心・安全の確保と、企業の国際競争力の強化を同時に実現することを目指すものである。

現在ビッグデータ収集のための高度なセンシング技術や、ビッグデータを分析して異常・予兆を早期に検知出来る技術の開発が進んでいる。図113-44は一例だが、例えば「インテリジェント・ピグ」は、配管の腐食状況を確認出来るセンサーを搭載した「ピグ」(小型ロボット)を水圧等によって配管内を走らせる超音波検査技術であり、全長数百キロにも及ぶ配管を網羅的に検査可能な技術である。また、集めたビッグデータについて「多変数分析」を行い、流量、圧力、温度等のデータの関係性を指標化して常時監視することで、通常時からのズレ(事故の予兆)を早期に検知する取組が、既に一部の工場や発電所で始まっている。

図113–44 IoT、ビッグデータ等を活用した保安技術の例

「産業保安のスマート化」の具体的な取組としては、

(ア)IoT・ビッグデータ・AIを活用した高度な自主保安を行う事業者に対して規制上のポジティブインセンティブを導入するなど、保安力に応じた規制により、自主保安を一層促進させること(自主保安の高度化)

(イ)規制における現状の「仕様規定」から、保安を確保するうえで必要となる要件のみを定める「性能規定」化を推進するとともに、簡便なチェックにより例示基準にない新技術についても速やかに採用されるような制度設計を行うこと(新技術への対応の円滑化)

(ウ)リスクを再評価した上で、その程度に応じてメリハリのある規制体系を再構築すること、事故報告や申請手続きのあり方を見直すことにより、規制に係るコストを合理化させること(安全レベルの維持・向上を前提とした規制やコストの合理化)の3つの方針に基づき規制の見直しを行っている。以下では、平成27年度における取組例を紹介する。

(例①)スーパー認定事業所制度

IoT・ビックデータ・AIを活用した異常検知、高度なリスクアセスメントなどに取り組む事業所を「スーパー認定事業所」図113–44 IoT、ビッグデータ等を活用した保安技術の例資料:経済産業省作成50として認定し、合理的な検査手法・周期の設定を可能とするなどの優遇措置を講ずる。平成29年度からの運用開始を予定している。

(例②)電気設備に係る新技術への円滑な対応

火力、水力、電気設備に係る技術基準・解釈について、民間の責任の下で柔軟に新技術・創意工夫の取り入れを図る観点から、更なる性能規定化を進めている。平成27年度には火力発電設備に係る技術基準に米国規格(ASME)を取り入れた。

(例③)都市ガス・LPガスの法令間の整合化

例えば、都市ガスの安全規制を行うガス事業法と、LPガスの安全規制を行う液化石油ガス保安法間のルールを整合化させることにより、保安業務を効率化する。平成28年度中に順次、省令等を改正・施行する

金融機関の取組としては、このようなスマート化投資を促すため、経済産業省と損害保険各社で平成28年度に連絡協議会を設置する。IoT等の活用によるリスクの低減をリスク評価に盛り込み、各事業所にかかる保険料率にメリハリをつけられるような新たな保険商品の開発を実施するため、スーパー認定事業所等の制度の詳細設計等について意見・情報交換を行うことを予定している。

また、今後、IoT・ビッグデータ・AIを更に活用促進していくにあたって、事業所間でデータに係る協調領域を整備し、ビッグデータとして共有していくことが重要である。そのため、経済産業省が主導し、複数企業で、プラントにおいてIoT、ビッグデータ等を活用する保安技術に係る実証事業を行っていく。

④産業構造審議会新産業構造部会(新産業構造ビジョン)

経済産業省では、「日本再興戦略改訂2015」に基づき、IoT、ビッグデータ、人工知能等による変革に的確に対応するため、産業構造審議会に「新産業構造部会」を設置し、官民が共有できるビジョン(「新産業構造ビジョン」)の策定や、官民に求められる対応についての検討を進めてきた。

2015年9月の立ち上げ以降、製造業を含む様々なテーマについて議論を行い、2016年4月に中間的な整理を行った。第4次産業革命とも呼ぶべき大変革への対応を巡って、我が国は今、まさに分かれ目に立っているとの認識の中、現状のままでは、企業や系列、業種の壁に守られた自前主義が温存されると指摘した。データを企業や業種の壁を越え大規模に流通させ、あるいは取得する仕組みを作ることで新たな付加価値を産み出していく海外の「プラットフォーマー」と呼ばれるプレーヤーの下請けとなるか、それとも痛みを伴う転換を図っていくのか、極めて重要な判断を迅速に下していくことが求められている。具体的には、日本の強みと弱みの冷静な分析の下、「取りに行く」分野を明確化し、データ利活用の促進に向けた環境整備(データの協調領域の明確化やデータ流通の推進)、人材の育成や獲得、雇用の柔軟性向上(初・中等教育での資質の育成や働き方の見直し)、産業構造・就業構造の転換の円滑化(中小企業や地域経済への展開)等への対応を戦略的に進めていくことが必要である、としている。

(3)インダストリー4.0の進捗状況

ドイツのインダストリー4.0については2015年版ものづくり白書において詳述したが、ここでは、それ以降ドイツで進められた官民の様々な取組について紹介する。

①全体戦略に関するドイツ政府・民間団体の取組

インダストリー4.0は、ドイツ国内で少子高齢化による労働人口の減少、原発の停止等に起因する国内立地環境の悪化に伴い、GDPの約25%、輸出額の約60%を占める製造業の存在感が低下しつつあること、さらにはアジア地域への製造拠点流出の懸念が高まったことなどを背景とし、2010年の「ハイテク戦略2020」(ドイツ連邦政府による科学・イノベーション政策の基本計画に相当する文書)における11のプロジェクトの1つを具体化させ、翌2011年にドイツ製造業の競争力強化・空洞化防止のための構想として提示されたものである。ドイツでは、その推進のため、2013年に”Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0”をリリースし、そのビジョンや取るべきアクションについて示した。また、推進体制の面では、機械工業連盟(VDMA)、情報技術・通信・ニューメディア産業連合会(BITCOM)、電気電子工業連盟(ZVEI)の3団体を事務局とし、ドイツ工学アカデミー(ACATECH)とも一体となって産学連携プラットフォームを構築してきた。

2015年4月のハノーバーメッセにおいては、3団体による体制を改組し、ドイツ政府が強力なリーダーシップを取る新たな体制(図113-45)を整えるとともに、「インダストリー4.0実現戦略」を新たにリリースし、構想の実現に向けた具体的なロードマップと、必要な標準や規格等を整理するため、共通化モデルとして”RAMI4.0”を明示した。また、「インダストリー4.0コンポーネント」という概念を用い、構想の実現に必要なソフトウェアや機器、それらを組み合わせたシステムが備えるべき要件についても定義した(図113-46)。

図113-45 インダストリー4.0の新たな推進体制

図113-46 インダストリー4.0リファレンスアーキテクチャーモデル(RAMI4.0)

2015年10月には、ドイツ機械工業連盟(VDMA)傘下で研究及び政策提言を行うインパルス財団が、インダストリー4.0への準備状況を調査した研究レポート「インダストリー4.0レディネス」を公開。同レポートによると、ドイツ機械製造業ではすでに6割弱の企業がインダストリー4.0の導入に取り組んでいる。さらに、このうちの約3分の1の企業が「本格的な」取組を開始。これは製造業全体と比較すると約2倍の水準であり、機械製造業においてインダストリー4.0への取組が先行していると主張した。

2015年11月には、ドイツの国家ITサミットが開催された。政界や経済界、労働組合、学会等から約1100名の要人が出席し、インダストリー4.0を含む経済のデジタル化等、様々な個別分野について議論を行った(図113-47)。

図113-47 ドイツの国家ITサミット

その成果として、産・学・官・市民社会が強い意志で協力していくことを確認する「ベルリン宣言」を採択(図113-48)。具体的には、「インダストリー4.0オンラインマップ」として、インダストリー4.0の先行事例(ユースケース)となる200以上の導入事例を提示(プラットフォーム・インダストリー4.0のホームページにおいて公開、ドイツ語のみ)。各企業での具体的な取組事例を公開することで、企業間の新たなネットワークを形成し、新たなビジネスチャンスを生むことを目指している。その他、中小企業におけるインダストリー4.0の導入(後述)等に関しても複数の進捗があった。

図113-48 ベルリン宣言

2016年1月には、電気電子工業連盟(ZVEI)及び民間企業16社が中心となり、産業データの共同利用に関する公益団体「インダストリアル・データ・スペース協会」を設立。企業の規模や業界を問わず、あらゆる企業が安全にデータを共有・共同利用することを目指し、15年10月に立ち上がったフラウンフォーファー研究所によるイニシアチブを推進するため、今後、専門委員会やワーキンググループ等を配置し具体的な検討を行っていくこととしている。

民間企業においても自発的な動きが存在する。シーメンスやドイツテレコム等のドイツ企業を中心としたコンソーシアムが、Labs Network Industrie4.0”を設立。プラットフォーム・インダストリー4.0とも連携しつつ、その役割を補完し、インダストリー4.0関連技術の開発に必要となる実証試験に関する助言や情報交換を行っていく体制を整えた。

②中小企業におけるインダストリー4.0の実装に向けた動き

ドイツ経済エネルギー省は、インダストリー4.0を中小企業に普及促進していくため、「中小企業デジタル(Mittelstand Digital)」政策の下、中小企業4.0(Mittelstand4.0)、標準化(eStandards)、普及(Usability)の3本柱からなる政策パッケージを実施。なかでも2015年9月に発表した「中小企業4.0(Mittelstand4.0)」においては、中小企業の意識喚起や技術実証試験、専門家による助言等を実施する「中小企業4.0コンピテンスセンター」を全国に設置し、さらに複数の横断的専門技術分野に関してコンピテンスセンターを支援する「中小企業4.0エージェンシー」を設置(図113-49)。コンピテンスセンターについては2015年9月に5カ所、2016年1月に新たに5カ所の設置を決め、2016年中に16カ所の整備を目指している。

図113-49 中小企業4.0

③国際標準化に向けた動き

インダストリー4.0の実現のための最も重要な課題の1つが標準化である。ドイツでは、ドイツ規格協会(DIN)やドイツ電気技術委員会(DKE)が中心となり、インダストリー4.0に関する国内での標準化、さらにはISOやIECにおける国際標準化に取り組んでいる。具体的には、2014年に「インダストリー4.0標準化ロードマップ」を発表した。2015年には第二版を公表し、通信、セキュリティ、労働者の3つの分野に関する標準化を強化していくことを示した。このような活動を通じて国内の合意形成を図り、ISOやIECといった国際標準化機関での議論をリードしていく狙いである。

国際標準に関しては、特にIECにおいてインダストリー4.0に関連する規格策定に向けた議論が先行している。2015年10月には、”Factory of the future(未来の工場)”に関する白書がリリースされた。その中では、製造プロセスを構成する機器やそこから発生するデータが増加し、それらが互いに繋がり合うこと、それらを包括的に最適化するITソリューションの高度化が、製造業をこれまでの「孤立したサイロ(縦割り構造)から、ユーザの要求に応えるため、迅速・シームレスかつ完全に統合されたシステム」へと変えると指摘した。また、この白書も踏まえ、現在、インダストリー4.0を例としたスマートマニュファクチャリングに関する既存の規格を整理し、今後標準化を行っていく必要がある領域を特定する作業が進んでいる(IEC/SG8 Industry4.0 - Smart Manufacturing)。同様にISOにおいても、既存もしくは進行中の規格や標準化プロジェクトを整理し、いくつかの規格における齟齬の明確化や必要なアクションの勧告を行うための組織(ISO/TMB/SAG Industry4.0 – Smart Manufacturing)が立ち上がっている。これらの国際会議においても、ドイツが議長となり主導的に議論をリードしており、インダストリー4.0関連規格の国際標準化に向けた積極的な活動を続けている。

④諸外国との連携

ドイツは、インダストリー4.0に関連する諸外国との連携も積極的に進めている。以下ではその代表的な事例を紹介する。

(ア)アメリカ

2015年9月、インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(以下IIC)にドイツチームを設置した。このチームは、ドイツにおいてIoTの利用やテストを行うための環境整備や地方への技術移転、インダストリー4.0に関係する国及び地域の各種委員会との関係構築などを担当することとなった。

また、2016年3月には、IICとプラットフォーム・インダストリー4.0が提携を発表。ドイツとアメリカがそれぞれ主導する製造業のIoT化に向けたプロジェクトが、両者に加盟するドイツ企業によって橋渡しされ、規格作りやそのためのモデルの相互運用などに関して連携していくこととした。今後一層、独米を中心として製造業のIoT化に向けた規格づくりが加速していくことが想定され、我が国としてもしっかりとこの動きに関与していく必要がある

(イ)中国

2015年7月、ドイツと中国はインダストリー4.0分野における協力に関する覚書(MoU)を締結した。スマート生産や生産プロセスのネットワーク化の分野で独中企業が協力を促進すること、規格策定に向けた連携強化、両国企業による人材研修等も想定されている。

(ウ)フランス

フランスでは、2015年4月に「未来産業アライアンス」を発足させ、未来の産業に関する先端技術の開発支援や中小企業を中心とした企業支援、人材育成、欧州諸国を含む国際協力の強化等の活動を本格化。2015年10月にはインダストリー4.0との協力体制を構築することを決定した。

(エ)日本

2015年3月の日独首脳会談において、製造業のIoT化に関する日独の連携のためのチャネルを立ち上げて以降、経済産業省とドイツ経済エネルギー省の間で協力の具体化に関する議論が進展してきた。2016年4月には、両国で政府間の情報交換を行い、また国際標準化や情報セキュリティ、中小企業へのIoTの普及等に関する協力を行っていくこと等について共同声明を締結した。

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