経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 国内拠点の強じん化に向けて

生産拠点としての事業環境が改善する中、生産の国内回帰は継続しているが、労働供給面の制約などがさらなる国内回帰の妨げとなっている。

設備投資は、中小企業について対前年比で顕著な増加が見られる。また、再生医療や航空機など、市場の裾野が拡大している分野で新規参入が増加している。

課題(労働力不足、多品種少量生産に伴う物流コスト増など)を克服するための投資の動きがあり、拡大が期待される。

1 生産拠点としての日本の事業環境

(1)進む国内製造業の事業環境改善

アベノミクスは第2ステージに入り、「新三本の矢」のうち第1の矢として「希望を生み出す強い経済」を掲げた。戦後最大の国民生活の豊かさに向け、2020年頃にGDP600兆円の達成を目指すため、製造業はその大きな一翼を担う。国内への未来志向の投資により製造業の生産性をさらに向上させ、国内でより多くの付加価値を産み出していくことが期待される。以下では、昨今の我が国の事業環境について述べる。

①新興国とのコスト差の縮小

2000年以降の各国における単位労働コストの推移を見ると、欧米、新興国は上昇傾向にあり、特に新興国における伸びが大きい。日本の単位労働コストは2010年頃まで下落した後に横ばいとなっており、近年では、新興国の単位労働コストが日本を上回っている(図121-1)。

図121–1 各国の単位労働コストの比較

Excelファイル 図121–1 各国の単位労働コストの比較(xls/xlsx形式)

単位労働コストは、国内総生産(GDP)当たりの名目賃金を表す指標である。国際比較する場合、それぞれのデータをPPP(購買力平価)レートを用いて米ドル換算する。日本ではPPPレートが2000年以降に約3分の2に低下している一方で、その他諸外国は上昇もしくは日本よりも下げ幅が小さくなっており、PPPレートの大幅な低下が、日本の単位労働コストを押し下げたと考えられる。一方で近年の数値に注目すると、2012年以降は横ばい傾向になっていることが分かる。

単位労働コストの動向は名目賃金と労働生産性に影響を受ける。すなわち、名目賃金の増加は単位労働コストを上昇させ、労働生産性の向上は単位労働コストを低下させる要因となる。ここ数年にわたって、日本の名目賃金は全産業ベースでは横ばい傾向、製造業においては上昇がみられる(図121-2)。労働生産性も同様に、全産業では横ばい、製造業では上昇傾向となっており、製造業において労働生産性の改善に努めてきた成果が見られる(図121-3)。このように、製造業においては、名目賃金の上昇による押し上げ効果に対し、労働生産性の向上による押し下げ効果が働き、単位労働コストは横ばい傾向になっている。

図121–2 現金給与総額指数の推移

Excelファイル 図121–2 現金給与総額指数の推移(xls/xlsx形式)

図121–3 1人当たり名目労働生産性の推移

Excelファイル 図121–3 1人当たり名目労働生産性の推移(xls/xlsx形式)

事業環境の観点から見れば、他国との単位労働コストの差が縮小・逆転し、日本の製造業のコスト競争力が改善しているといえる。この状況を持続させるためにも、賃金上昇を上回る労働生産性の向上を達成していくことが重要である。

②TPP協定に関する進展

TPPは、アジア太平洋地域において、関税撤廃のみならず、投資、サービスの自由化、知的財産の保護、電子商取引、ビジネス関係者の一時的入国など、幅広い分野で新しいルールを構築するものである。我が国は、2013年3月にTPP交渉に参加することを表明し、同年7月から正式に交渉に参加した。その後、2015年10月、米国アトランタで開催されたTPP閣僚会合において大筋合意に至り、2016年2月、ニュージーランド・オークランドで署名された。

TPPによる域内の関税の撤廃や通関手続の円滑化は、製造業にとっても事業コストの内外格差が現在よりも縮小するため、国内での生産比率を高める動きにつながることが期待される。また、原産地規則の完全累積制度の下では、中堅・中小企業を含め、日本の企業がその強みを他のTPP参加国の企業の強みと組み合わせて最適なサプライチェーンを構築することにより、日本に居ながらにして、TPP域内への展開が可能になる。加えて、直接輸出を行う企業でなくとも、取引先企業の輸出拡大による受注拡大が期待される。企業への意識調査では、TPPの進展が国内生産の比率を上昇させると考えている企業のうち、企業規模にかかわらず、5割を超える企業が、国内生産の比率上昇の要因として「輸出の増加が見込める」ことを挙げている。また、規模の大きい企業では「原料の輸入価格の低下」、規模の小さい企業では「顧客による国内生産の維持・拡大」に対する期待が高いことが示されている(図121-4)。

これらのことから、今後TPP協定が発効すれば、製造業が現在以上に国内生産を活発化させることが期待される。

図121–4 TPPの進展が国内生産の比率を上昇させる要因

Excelファイル 図121–4 TPPの進展が国内生産の比率を上昇させる要因(xls/xlsx形式)

TPPには、関税以外にも、模倣品対策の強化や通関手続の円滑化など、中堅・中小企業の海外への販路開拓に大きな意味を持つルールが盛り込まれている。したがって、中堅・中小企業がTPPのメリットを実際のビジネスにつなげられるよう、TPPの活用策や支援策についての周知徹底や、企業のニーズに応じたきめ細かい支援などを行うことが重要である。全国の経済産業局やJETRO、中小機構の65か所の拠点に相談窓口が設置されており、全国各地で100回以上の説明会を開催することなどにより、全国の中堅・中小企業に対して、TPPの合意内容やメリットを含めて幅広く丁寧な情報提供を行っている。また、2016年2月、JETRO、中小機構などの支援機関の参加を得て、「新輸出大国コンソーシアム」を設立し、その中で、海外ビジネスに精通した専門家が個々の企業の担当となり、海外事業計画の策定、支援機関の連携の確保、現地での商談や海外店舗の立ち上げなどのサポートを行うこととしている。

③法人実効税率の引下げ

法人実効税率の引下げによる国内事業環境の改善も引き続き期待される。2016年度の税制改正により、国・地方を通じた法人実効税率(改正前32.11%)は2016年度に29.97%、2018年度は29.74%となる(図121-5)

図121–5 法人実効税率の国際水準

④電力コスト高への対応の必要性

東日本大震災の発生後に生じている電力コストの高止まりは、製造業に対して大きな影響を及ぼしている要因の一つである。2015年2月の、地球環境産業技術研究機構の分析データによれば、東日本大震災の前後における電気代増分額(全製造業)は、日本全体では年間約1.17兆円と推計され、仮に、この電気代増分額をすべて人件費の削減で調整する場合には年間1人当たり約15.2万円の給与削減、雇用者数の削減で調整する場合には約27.4万人分の雇用喪失となる。電力多消費産業への影響は、全製造業平均と比べて特に大きく(図121-6)、また、電気代増加分の影響は、産業によって大きく異なっている(図121-7)。なお、上記分析においては、2014年12月時点で実施された各電力会社の値上げ幅に、燃料費調整制度による調整額、2014年6月末時点での再生可能エネルギー発電設備の運転開始分のみを想定したFIT賦課金(全国一律+0.75円/kWh)を含む電気料金を前提とし、2010年の工業統計における電力使用消費額、生産額をベースに、上記ケースを想定した電気料金の値上げ率を乗じて電気代増額分を算出したものである。また、計算に使用しているFIT賦課金は2014年当時の数字を前提としているが、2016年度には2.25円/kWhとなっている。

2015年8月以降、一部原子力発電所が再稼働しており、今後、再稼働が進展していけば、電気料金の抑制に資すると考えられるが、製造業の国内事業環境を改善するためにも、電力コストによる負担低減のための動きを推し進めていくことが求められる。

図121–6 従業員1人当たりの年間電気代増分額(細分類区分に基づく上位10産業の影響)

図121–7 従業員1人当たりの年間電気代増分額(全製造業の中分類区分(24)における産業別影響)

(2)国内投資・国内回帰の動き

①国内に製造業を立地させることの重要性

近年、製造業においては、グローバルな需要と立地環境に合わせて世界各地に生産拠点を配置する「グローバル最適地生産」が重視されている。我が国では前述のような国内立地環境の改善も相まって、海外で行っていた生産を国内に移管する国内回帰(リショアリング)や、国内における拠点再編、既存施設の増強など、様々な形で国内投資が活発化している。海外の先進国においても、各国政府が産業活性化や雇用促進を目指し製造業の国内誘致を進める動きも存在している。

製造業は、輸出による外貨の稼ぎ手として、他産業への大きな生産波及効果を生む産業として、さらには良質な雇用を生む産業として、我が国の産業構造にとって最も重要な産業の1つである。産業連関表に基づく試算によれば、我が国の輸出向け付加価値額(約24.4兆円)の約45%(約11.1兆円)が加工型製造業、約17%(約4.1兆円)が素材型製造業から産み出されており、製造業の貢献度は合計で約62%(約15.2兆円)に上る。また、このような製造業の取引において発生する国内流通のための雇用などを誘発するという観点からも、技術革新を産業化して富につなげるという観点からも製造業の国内立地を促進することは、我が国の産業構造全体にとって非常に重要であるといえる。

図121–8 我が国の二次産業・三次産業における付加価値額の流れ

②我が国製造業の設備投資動向

リーマン・ショック以降、製造業では海外拠点の強化が続いたが、2013年度以降は設備投資に占める海外への投資の割合が頭打ちとなり、足下では横ばい傾向となっている(図121-9)。これは、引き続き海外への設備投資が増加する中でも、過度な円高の是正などにより国内の立地環境が見直され、国内への設備投資が増加したためである。日本政策投資銀行の調査においても、今後の国内外の供給能力の強化について、「相対的に国内を強化」が横ばい、「相対的に海外を強化」が減少傾向で推移しているのに対し、「内外ともに強化」が増加傾向を示している(図121-10)。

図121–9 海外設備投資比率の推移(上段)、海外設備投資額・国内設備投資額の推移(下段)

Excelファイル 図121–9 海外設備投資比率の推移(上段)、海外設備投資額・国内設備投資額の推移(下段)(xls/xlsx形式)

図121–10 製造業における今後3年程度の内外供給能力の強化意向

コラム:国内唯一のシューズ生産拠点に、新工場棟建設と人材育成や技術開発、物流・貿易の一部機能を移転・・・(株)アシックス

(株)アシックスは、創業者鬼塚喜八郎ゆかりの地である鳥取県境港市にあるグループ会社「山陰アシックス工業(株)」の建物の老朽化に伴う改築を機に、グループ唯一の国内フットウェア工場である同社のあるべき姿を検討していった。その結果、単に品質の高い「日本製」の生産、あるいは短納期や小ロットの商品群に対応した生産を行うための単なる高度生産拠点としてのみならず、これらをグループ全体の強みに変えていくため、新規技術開発を行うスタッフの人材育成拠点、アシックススポーツ工学研究所と連動した技術革新のための拠点、海外販売を拡大していくための物流・貿易機能の一部機能移転、さらにはグループ全体の生産工程改善のテストを行う拠点としても活用するため、十数億円を投じて社屋の改築と新工場棟の建設を行うこととした。2017年5月建設事業の完成を予定し、将来的には15人程度の新規雇用も見込んでいる。

③中小企業による設備投資意欲の拡大

2015年に入って以降、製造業における設備投資の伸び率は中小・中堅企業が大企業を上回って推移している。特に、中小企業においては、(2014年の水準がやや低調であった影響もあるが)前年同期と比較して設備投資を30~40%も増加させている(図121-11)。

図121–11 企業規模別にみた設備投資の伸び率(製造業、前年同期比)

Excelファイル 図121–11 企業規模別にみた設備投資の伸び率(製造業、前年同期比)(xls/xlsx形式)

中小企業が大部分を占める業種の代表例である金型業界では能力増強に向けた設備投資が盛んになっている。国内の設備投資需要も追い風にして、金型メーカーの2015年の受注額(32,198百万円)は前年(26,589百万円)から約2割増加したことが背景に存在する。

「金型しんぶん」が2015年10月に行った業界アンケート調査では、2014年から2015年にかけて、調査対象となった56社のうち75%の企業が設備投資を実施したと回答した。投資目的は、「更新」を上回って「増産」が最も多くを占めた(図121-12)。リーマン・ショック後、金型業界はリストラや廃業、海外移転などが相次ぎ生産能力を減少させたが、過度な円高の是正や中国など新興国における人件費の高騰などを受け、これまで海外に出ていた日本国内の金型ユーザーの発注が国内金型メーカーへ戻りつつあるとの指摘がある。また、国内景気の回復により、自動車を中心に新車開発案件が増加し、金型企業の多くで生産能力が不足したという面もあると言われる。このような機会を捉え、省エネ設備導入のための補助金やものづくり補助金なども活用し、新たな素材や難易度の高い加工への挑戦を含め、競争力を向上させるための投資に踏み切ったものと考えられる。

図121–12 金型業界における設備投資の実態

図121–13 金型業界の国内設備投資事例

Excelファイル 図121–13 金型業界の国内設備投資事例(xls/xlsx形式)

コラム:金型業界の国内設備投資事例・・・(株)ツバメックス

株式会社ツバメックス(新潟県)は、プレス金型やプラスチック成形金型の製作から金属加工部品・プラスチック成形品の量産まで手がけている金型企業。同社は、業界内でも早期から3次元CAD/CAMシステムの開発に取り組み、現在では3次元設計システムを完成させ稼動している。その特徴としては、金型で使用される200余りの種類、規格別600種以上の部品をデータとして管理し、設計者の要求に合わせて、各部品をソリッドとして作成している。また、このシステムを中核に資材管理、原価管理、工程管理など統合管理システムを構築し、メーカーニーズに応えるため業界最短納期の金型作りを進めている。特に、短納期化を図るため、金型製造ラインの最適化や戦略的な設備投資を実施し、最終仕上工程を可能な限り機械加工で置き換え、金型職人のスキルを有効に活用するなど金型製作の全工程の見直しを進めている。

 一方、自動車の軽量化、衝突安全性向上のためには鋼板のハイテン化が求められている。こうした自動車メーカーのハイテン化の志向を受けて、国内製の外装材金型の需要が高まっている中、ボンネットやドアなど自動車の外装材を製造する大型の超ハイテン用金型の生産に参入するため、2014年末、13億円をかけ、本社の金型工場の隣接地約3,200㎡に金型工場を増設するとともに2,000トンの加圧能力を持つ大型プレス機械の新規導入に踏み切った。これによって、従来直接取引のなかった自動車メーカーからの受注が得られるようなる等、同業他社との差別化に取り組んでいる。

コラム:大企業の設備投資活動活発化への期待

大企業の設備投資は、リーマンショック以降の2009年から11年にかけては設備投資額が減価償却費を下回って推移するなど、低調な時期が続いていたが、2012年以降は設備投資額が増加基調に転じ、減価償却費を上回って推移している(図1)。また、製造業各社の設備に対する過不足感の推移をみると、リーマンショック後の2009年には設備過剰感が強く表れていたが、徐々に緩和され、近年では過剰感がほぼ解消された状態まで改善している(図2)。

今後は、不況期に設備投資を抑制しながら財務体質を改善してきた大企業製造業を中心に、設備投資活動のさらなる活発化が期待される。

図1 製造業の設備投資額と減価償却費

資料:財務省「法人企業統計」より経済産業省作成

図2 企業の生産・営業用設備判断DI

備考:各時点における3か月後の先行き判断について「過剰」回答の割合から「不足」回答の割合を差し引いた数値。大企業・中堅企業は資本金1億円以上の企業、中小企業は資本金2千万円以上1億円未満の企業をそれぞれ指す
資料:日本銀行「短観」より経済産業省作成

コラム:設備ビンテージの増加

製造業の一部において、長らく設備投資が見送られてきた結果、設備の老朽化が進んでおり、設備更新の必要性も年々高まっている。設備年齢(ビンテージ)は過去20年間で5~6年老朽化しおり、米国(製造業)との比較でも、過去20年間で我が国製造業の設備ビンテージの高まりがより進んでいる。

図1 国内の設備ビンテージ

図2 日米における設備年齢(製造業

図3 国内の設備ビンテージの推移
(金属製品、食料品、輸送機械、一般機械、電気機械)

図4 設備ビンテージの推移
(繊維工業、石油・石炭、窯業・土石、鉄鋼、パルプ・紙、化学工業、非鉄金属)

④我が国製造業の国内回帰の状況

図121–14 国内回帰の実績①(2014年末)

 国内への設備投資の増加と同時に、我が国製造業における生産の国内回帰も進んできている。2015年版ものづくり白書によれば、2012年末~2014年末の間に生産の国内回帰を実施した企業は13.3%であった(図121-14)。また、(株)国際協力銀行が2015年夏に実施したアンケートでは、2013年から14年にかけ、海外進出メーカーの9.9%が国内回帰を実施または計画中と回答した(図121-15)。さらには、経済産業省が2015年末に実施したアンケートでは、直近1年間で生産の国内回帰を実施した企業は12.0%にのぼっている(図121-16)。いずれも、調査対象が異なるため単純比較はできないが、生産を国内に回帰させる動きが継続していることがうかがえる。
 

Excelファイル 図121–14 国内回帰の実績①(2014年末)(xls/xlsx形式)

図121–15 国内回帰の実績②(2015年夏)

図121–16 国内回帰の実績③(2015年末)

Excelファイル 図121–16 国内回帰の実績③(2015年末(xls/xlsx形式)

また、「取引先が製品・部品の生産を国内回帰させたことにより、国内自社工場での生産が増加した」という回答も一定数見られ、生産の国内回帰は上記の数字以上に幅広く我が国製造業に影響を与えていると考えられる。

このような国内回帰の動きが引き続き存在する一方、労働供給面の制約が国内への生産回帰の制約となっていることも事実である。国内事業環境に関するどのような項目が改善された場合に国内生産の比率を上昇させるかをアンケート調査により尋ねたところ、「はい」と答えた企業の割合が最も多かった上位5項目のうち、3項目を労働供給面の制約に関する項目(熟練技能者による現場力の強さ、工場労働者の確保のしやすさ、高度技術者の確保のしやすさ)が占めた。また、電力コストも、国内回帰の大きな制約の1つとなっていることがうかがえる(図121-17)。さらなる国内回帰を推進し、国内で創出される付加価値を増加させていくためには、このような制約要因を解消していくことが求められる。

図121–17 国内生産の比率を上昇させる要因

Excelファイル 図121–17 国内生産の比率を上昇させる要因(xls/xlsx形式)

⑤国内生産の増加に関する新しい動き-インバウンド効果の取り込み

2015年の訪日外国人旅行者数は、前年比47.1%増の1,974万人で過去最高の値を記録し、「『日本再興戦略』改訂2014」における訪日外国人旅行者数の目標(2020年に2,000万人)が2020年に4,000万人、2030年には6,000万人に引き上げられた。これに伴い、訪日外国人旅行者による日本国内での消費額も堅調に伸びており、2015年は3兆4,771億円と3兆円の大台を初めて超えた(図121-18)。

日本での消費額のうち買物代に着目すると、2010年の3,566億円から2015年には1兆5,002億円へと大幅に増加している。また、一人当たりの買物代も3万円以上増加しており、訪日外国人旅行者による買い物志向の強まりが読み取れる(図121-19)。

買物代の内訳を見ると、「化粧品、医薬品・トイレタリー」で大きく消費額が伸び、2015年の消費額は2010年と比較して4,000億円以上増えており(図121-20)、これは日本国内の化粧品市場(約2兆3,000億円)の約17%に相当する(図121-21)。

図121–18 訪日外国人旅行者数の推移


図121–19 訪日外国人旅行者における
買物代の変化

Excelファイル 図121–18 訪日外国人旅行者数の推移(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図121–19 訪日外国人旅行者における買物代の変化(xls/xlsx形式)

図121–20 訪日外国人旅行者における買物代の内訳の変化

Excelファイル 図121–20 訪日外国人旅行者における買物代の内訳の変化(xls/xlsx形式)

図121–21 国内の化粧品市場規模推移と予測

 訪日外国人旅行者の約4分の1を占める訪日中国人旅行者の買物を見ると、「化粧品・香水」が最も購入されている。「化粧品・香水」で具体的に購入されているのは、「スキンケア化粧品」が80.6%と最も多い。なお、「カメラ・ビデオカメラ・時計」では、「コンパクトデジタルカメラ」の購入率が27.2%であるのに対して、「一眼レフカメラ」の購入率が57.7%と約2倍以上高く、高級品へのニーズの高さが示唆される。
 

Excelファイル 図121–21 国内の化粧品市場規模推移と予測(xls/xlsx形式)

図121–22 訪日中国人の商品購入率

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図121–23 訪日中国人の商品購入率(化粧品・香水)の内訳

図121–24 訪日中国人の商品購入率(カメラ・ビデオカメラ・時計)の内訳

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Excelファイル 図121–24 訪日中国人の商品購入率(カメラ・ビデオカメラ・時計)の内訳(xls/xlsx形式)

 

図121–25 訪日中国人における買物リストの作成率

 さらに、訪日中国人の55.1%は買物リストを作成している点も特徴的である。作成時には、友人のお勧めや微信(中国国内のSNS)などに書かれた推薦リストを参考にしている割合が高く、口コミを重視していることが分かる。
 

Excelファイル 図121–25 訪日中国人における買物リストの作成率(xls/xlsx形式)

図121–26 訪日中国人における買物リスト作成の際に参考にする情報源

Excelファイル 図121–26 訪日中国人における買物リスト作成の際に参考にする情報源(xls/xlsx形式)

コラム:スキンケア化粧品の世界での需要増に対応するため、400億円投じ大阪に新工場・・・(株)資生堂

2016年2月、(株)資生堂は中・高価格帯の中心ブランドを生産するスキンケア化粧品のマザー工場となる「新・大阪工場」を大阪府茨木市に建設すると発表した。

これまで同社が培ってきたスキンケア生産のノウハウを基盤に、ロボットと人が協働しながら高効率な生産技術を創造する「未来を創る工場」というコンセプトが掲げられ、同社のものづくりをリードすることが期待されている。

同社では、日本で生産されるスキンケア化粧品を、「メイド・イン・ジャパン」製品の象徴と位置付けており、日本国内だけでなく中国やアジアをはじめとする世界中で積極的に需要を拡大していく方針である。今回新たに設立する新・大阪工場はこの方針をバックアップすることが期待されている。

新・大阪工場のイメージ

⑥海外各国における国内回帰・国内投資の動向

海外各国には、製造業の高度化のためのナショナルイニシアチブを策定し、国内回帰を図る企業に対して政府が積極的な支援策を打ち出している国も存在する。

国内回帰支援を特に明確に打ち出している政策の例としては、イギリスの「Reshore UK」、フランスの「L’aide à la réindustrialisation」「コルベール2.0」、韓国の「Uターン企業支援法制」が挙げられる。国ごとに政策の内容は若干異なるが、いずれの政策も国内回帰を検討する企業に対して、政府が税制上・金融上の支援や情報提供・コンサルティングサービスを提供するものである。また、国内回帰や国内投資を明確に打ち出しているわけではないものの、米国各州においても税制優遇、金融支援など積極的な企業誘致政策が採られている(図121-27)。

以下ではこうした施策が一定の効果を上げた事例として、イギリスと米国の状況を紹介する。

図121–27 各国政府による製造業高度化のためのナショナルイニシアチブや国内回帰・国内投資振興策

イギリスでは、貿易投資総省などによる「Reshore UK」プロジェクトが2014年に開始された。このプロジェクトを通じて、国内回帰を検討する企業に対し、実現可能性の評価、協力企業や不動産探しの支援、専門家への相談サービスなどを行い、従業員250人以下の中小企業には財政支援も行っている。また同年から、政府の主催によりAMSCI(Advanced Manufacturing Supply Chain Initiative)と呼ばれる国内事業計画コンテストを開始している。勝者の企業は、国内で生産拠点を整備することを条件に、政府による年間最大1億2,500万ポンドの支援の中から、資金援助や従業員への技能講習を受けることができる。

イギリスではこれらの政府支援策が奏功したこともあり、自動車、製薬、ITなどの生産拠点が中国・インドなどから国内に移管される動きがみられている。また、新興国の立地優位度が高い繊維、玩具といった産業でも国内回帰が進んでいる(図121-28)。

米国では、世界レベルの大学・研究機関の知識・技術基盤を活かし、IT、製薬・医療機器、航空・宇宙などの先端産業の集積が見られる。オバマ政権は、製造業はイノベーション・システムに不可欠との考えの下、先進製造技術に関する産学連携研究開発を強力に推進する政策等を進めてきた。近年は、国内の好景気や事業コストの相対的低下に伴い、自動車、素材、消費財などの大量生産型の産業においても国内投資が盛んになっている(図121-29)。また、国内投資が加速する要因の一つとして、税制優遇、資金貸付、規制緩和などの各州政府による企業誘致策が打ち出されていることも挙げられる(図121-30)。

図121–28 英国における製造業の国内回帰の事例

図121–29 米国における製造業の国内回帰・国内投資の事例

図121–30 技術集積による企業誘致策の例(米国)

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