経済産業省
文字サイズ変更

第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 国内拠点の強じん化に向けて

2.国内拠点と海外拠点の差別化

(1)国内拠点の優位性

需要地での地産地消やグローバル最適地生産を求めて製造拠点の海外シフトが進む中でも、近年、国内への生産回帰の動きが見られること、また国内への新規設備投資が増加しつつあることを背景として、2015年版ものづくり白書では、国内と海外の生産拠点の差別化方針について検証した。その結果、国内生産拠点は海外生産拠点との差別化を図るための拠点であるとの回答が6割以上にのぼり、具体的な国内拠点の役割としては、新しい技術や製品など新たな付加価値を産み出す「イノベーション拠点」、海外へ移管する生産技術や海外工場のバックアップを担う「マザー工場」、多品種少量生産や短納期対応などに柔軟に対応できる「フレキシブル工場」が多いという結果であった(図122-1、図122-2)。

図122-1 国内生産拠点の今後の役割

図122-2 海外との差異化拠点の役割

Excelファイル 図122-1 国内生産拠点の今後の役割(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図122-2 海外との差異化拠点の役割(xls/xlsx形式)

海外生産拠点を持つ企業が「国内で生産することの優位性」と回答した要因としては、「多品種少量生産に対応できる」「短納期に対応できる」のように海外拠点と差別化された国内拠点のレベルの高さを挙げた企業が最も多い(図122-3)。なお、「経済産業省認定グローバルニッチトップ企業100選」注3や「ものづくり日本大賞」を受賞した企業においては、特に「高度な技能を活用できる」「コアな技術やノウハウの海外流出を防げる」を挙げた企業が相対的に多く、高度な技能やオンリーワンの技術を国内に留めていることが、グローバル市場において優位性を獲得・維持する要因のひとつになっていることがうかがえる(図122-4)。

図122–3 国内で生産することの優位性(海外生産拠点を有する企業)

Excelファイル 図122–3 国内で生産することの優位性(海外生産拠点を有する企業)(xls/xlsx形式)

図122–4 国内で生産することの優位性(GNT、ものづくり日本大賞受賞企業)

Excelファイル 図122–4 国内で生産することの優位性(GNT、ものづくり日本大賞受賞企業)(xls/xlsx形式)

注3 グローバル展開に優秀と認められる業績がある企業のうち、特定分野の製品・技術に強みを持ち、高い世界シェアと利益率を両立している企業

 

国内のマザー工場と、同種の製品を生産する海外工場との比較を行った場合、労働生産性、工場内不良率、生産の柔軟性、新製品の量産立上能力、納期といった点について国内マザー工場のレベルが高い(図122-5)。これらの評価結果について海外工場の操業開始年との関係をみると、労働生産性については海外でも操業年数が長くなるほど改善する傾向が見られる。一方で工場内不良率や生産の柔軟性については、操業開始年数が長くなっても労働生産性ほど指標が改善していない。日本のマザー工場からの生産ノウハウの移転度合いや工場の労働者の質など、操業年数以外の要因が存在し、これらの点が特に日本のマザー工場の優位性を発揮しやすい要因であることが推察される(図122-6)。

図122–5 日本のマザー工場と海外工場の比較(項目比較)

図122–6 日本のマザー工場と海外工場の比較(操業開始年との関係)

(2)設備による国内拠点と海外拠点の差別化の状況

図122–7 今後の国内生産拠点の設備方針

 次に、我が国製造業がこのような差別化を行う中で、国内・海外の設備がどのように差別化されているのかを検証する。今後の国内生産拠点の設備方針としては、「差異化していく」企業も30.9%と少なくないが、「標準化・共通化を進めていく」企業が最も多く41.3%を占めた(図122-7)。前述のとおり、(調査時点・対象が異なるため単純比較はできないものの)国内拠点と海外拠点の差別化を図る企業が6割を超える中で、設備については逆に標準化・共通化を図っていく企業が最も多く、このような傾向は、業種を問わず一定しているようである。

Excelファイル 図122–7 今後の国内生産拠点の設備方針(xls/xlsx形式)

 

次に、現在、国内生産拠点で稼働している設備が海外生産拠点の設備と比較してどのように異なっているのかについて見てみる。経過年数(新しさ)、自動化の進捗、機種(汎用性)、操作者に求められる熟練度の4つの指標について国内設備と海外設備を比較した場合、いずれも「ほぼ同等」が最も多くなっている(図122-8~図122-11)。

図122-8 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(経過年数)

図122-9 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(自動化)

Excelファイル 図122-8 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(経過年数)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図122-9 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(自動化)(xls/xlsx形式)

図122-10 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(機種)

図122-11 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(操作者の熟練度)

Excelファイル 図122-10 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(機種)(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図122-11 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(操作者の熟練度)(xls/xlsx形式)

一方、これらについては、業種によって若干の相違が見られることもわかった。設備の経過年数については、図122-12に示すとおり、一般機械、輸送用機械、化学工業、金属製品の4業種において、国内の設備の経過年数が短い(新しい設備を導入している)。逆に、電気機械や鉄鋼業においては、むしろ海外生産拠点の方が新しい設備を導入している傾向も存在する。

図122–12 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、経過年数)

Excelファイル 図122–12 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、経過年数)(xls/xlsx形式)

同様の傾向が、操作者の熟練度においても見られる。一般機械、輸送用機械、化学工業、金属製品の4業種については、他の業種と比較して国内生産拠点で稼働する設備の操作に熟練を必要とする傾向がある(図122-13)。

図122–13 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、操作者の熟練度)

Excelファイル 図122–13 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、操作者の熟練度)(xls/xlsx形式)

コラム:ハイテン材(高張力鋼材)を用いた金型のチューニング機能と歪みを計算に入れた設計能力で国内生産拠点を差異化・・・チヨダ工業(株)

チヨダ工業(株)(愛知県東郷町)はウルトラハイテン材(超高張力鋼材)を使った自動車のシートフレームなどを手がける金型専業メーカーで、試作金型から量産金型までを手がけている。軽量化が要求される自動車業界において、同社は板厚を薄くして、なおかつ強度を上げるフレームの開発にも成功しており、リーマンショック後はその技術力の高さ故に難度の高い仕事が同社へ集まり、経営への打撃は軽微だったという。

同社は米国、ベトナム、タイにも工場を持つが、マザー工場である国内の生産拠点でしかなし得ないことが多い。その筆頭が金型のチューニングという作業である。材料は生き物で、かつハイテン材になると伸び縮みや跳ね返りなどが発生し、図面どおりに出来上がるわけではない。狙った加工精度を出すにはどこに手を入れるべきかを判断・分析するベテランの存在が必要不可欠で、何度も何度も手直しが必要となる。このチューニング作業を米国工場でやろうとしても、作業者が途中で嫌になって投げ出してしまうが、日本人はコツコツ取り組み、精度が出るまであきらめず妥協をしない。日本人特有のものづくりのDNAに加えて、ハイテン材を用いた金型のようにハイテクシミュレーションだけでは分析できないものづくりは、10年~20年の経験値を積み上げていく人材育成が可能な日本でしかつくることができないという。高ハイテン材の金型を海外で安く大量に生産しても、チューニングのために日本へ戻したり、日本人のベテランを派遣せざるを得なくなるので、結果的にコストが高くついてしまうからだ。

3Dシミュレーションによる金型設計においても、ハイテン材は必ずプレス時に変形や跳ねを伴うので、狙ったとおりの成形をするには、その変化も計算に入れて図面を設計しなければならない。その“ねじれ”を計算した図面は実際のできあがりの製品形状とは異なるので、経験年数を積まないとなかなか作れない。このように、ウルトラハイテン材を扱う同社では、金型のチューニングや図面の設計は熟練に負うところが大きく、これが海外に比べて国内工場を差異化していく要因になっている。

なお、同社は現在、産業技術総合研究所中部センターとの共同研究で、様々な木材をプラスチックのように自在に変形できる「木質流動成形」の技術開発に取り組んでいる。紙で作っていたスピーカーコーンを木材の薄物成形品に置き換えることで、格段に音質を上げることができる。今後はスピーカーのユニット販売までもっていくことを目指しており、西洋優位の楽器の世界において、木質流動成形技術を用いたメイド・イン・ジャパンの音質で勝負に挑む。

高強度フレームの開発

木材流動成形を用いたスピーカーコーンの開発

設備の自動化については、特に輸送用機械、金属製品において国内の自動化率が高い企業が多い(図122-14)。しかし、これらの業種では逆に海外の自動化率が高い企業も他の業種と比べて多い傾向も存在し、海外設備の高度化に対する意識が高いことも特徴的である。

図122–14 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、自動化)

Excelファイル 図122–14 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、自動化)(xls/xlsx形式)

機種については、電気機械において特に国内で専用機を活用している企業が多くなっていることが特徴的である。

図122–15 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、機種)

Excelファイル 図122–15 海外生産拠点と比較した国内生産拠点で稼働している設備のレベル(業種別、機種)(xls/xlsx形式)

次に、国内と海外の設備の差別化に関して、上記設問に対する回答を用い、クラスター分析を行う。ここでは、類型化分析により、図122-16に示す4つの集約軸によってクラスターに分類する。

図122–16 集約軸とその意味づけ

これらの集約軸に沿ってクラスターへの分類を行ったところ、図122-17のような5つのクラスターに分類することができた。それぞれのクラスターに属する企業群像としては、海外生産拠点に先進設備を導入し差異化していくクラスターA、国内外で設備の差異化に対する意識が希薄なクラスターB及びC、国内拠点に先進設備を導入し差異化していくクラスターD及びEに大別される。

図122–17 5つのクラスターの特徴

各クラスターに含まれる企業の規模と業種について見てみると、企業規模については、国内設備を高度化して差別化する傾向の高いクラスターEに大企業が比較的多いものの、その他のクラスターにも一定程度の大企業が含まれている(図122-18)。また、業種については、原則としてクラスターごとに大きな違いは見られないが、海外設備を高度化するクラスターAに輸送用機械が多い、国内・海外の設備の差別化に対する意識が希薄なクラスターB及びCには電気機械、鉄鋼業や化学工業が多いなどの傾向がわずかながら存在する(図122-19)。

図122–18 各クラスターに含まれる企業の規模

Excelファイル 図122–18 各クラスターに含まれる企業の規模(xls/xlsx形式)

図122–19 各クラスターに含まれる企業の業種

Excelファイル 図122–19 各クラスターに含まれる企業の業種(xls/xlsx形式)

これらのクラスターごとに、企業業績などの指標がどのように異なっているのかを検証する。営業利益について見てみると、過去3年間で「増加」基調にある企業はクラスターAが最も少ない11.6%、クラスターEが最も多い22.9%であり、国内設備を高度化する傾向の強さと比例して大きくなる傾向がある。ただし、「増加」及び「やや増加」の基調にある企業の合計について見ると、クラスターAは44.2%となり、海外設備を高度化し拠点の差別化をはかることが営業利益の向上につながっていることも事実である。いずれにせよ、「増加」及び「やや増加」の基調にある企業の割合も、クラスターEにおいて最も高く53.0%となっている(図122-20)。

また、今後の業績見通しについても同様の傾向が見られる。 国内営業利益のみならず海外営業利益についても同様の傾向が 見られ、国内設備の高度化による拠点の差別化は海外での利益 とも相関関係がみられる(図122-21、図122-22)。

図122–20 過去3年間の業績動向(クラスター別、営業利益)

Excelファイル 図122–20 過去3年間の業績動向(クラスター別、営業利益)(xls/xlsx形式)

図122–21 今後3年間の業績見通し(クラスター別、国内営業利益)

Excelファイル 図122–21 今後3年間の業績見通し(クラスター別、国内営業利益)(xls/xlsx形式)

図122–22 今後3年間の業績見通し(クラスター別、海外営業利益)

Excelファイル 図122–22 今後3年間の業績見通し(クラスター別、海外営業利益)(xls/xlsx形式)

国内設備の高度化による海外との差別化の意識が高いクラスターDやEにおいては、国内生産の優位性として「高度な技能を活用できる」を挙げていることが顕著であり、国内拠点は海外拠点と比較して設備の面でも人材の面でも充実した拠点となっていることがうかがえる(図122-23)。

図122–23 国内で生産することの優位性(クラスター別)

Excelファイル 図122–23 国内で生産することの優位性(クラスター別)(xls/xlsx形式)

<<前の項目に戻る | 目次 |  次の項目に進む>>

経済産業省 〒100-8901東京都千代田区霞が関1-3-1代表電話03-3501-1511
CopyrightMinistryofEconomy,TradeandIndustry.AllRightsReserved.