経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 市場の変化に応じて経営革新を進め始めた製造企業

付加価値が「もの」そのものから、「サービス」「ソリューション」へと移る中、単に「もの」を作るだけでは生き残れない時代に入った。海外企業がビジネスモデルの変革にしのぎを削る中、我が国企業の取組は十分とはいえない。

ただ、製品ライフサイクル短期化等の変化に応じ、自らの強みを活かしオープンイノベーションやベンチャー企業との連携、人材の多様化等を進めようとする企業は増えつつある。

行動を起こした企業とそうでない企業の経営力・業績には明らかな差が見られる。ものづくり企業には、市場変化に応じていち早く経営革新を進め、ものづくりのためのものづくりでなく、ものづくりを通じて価値づくりを進める「ものづくり+企業」となることが期待される。

1.付加価値モデルの急速な変化

(1)ものづくりとコトづくり

近年、米国を中心としたIT企業による異業種への参入によって、既存の産業構造や勢力図が大きく変化する「破壊的なイノベーション」が様々な分野で起こっている。一つの例が米国のウーバーテクノロジーズが運営する、スマートフォン専用アプリによるタクシー配車サービスのウーバー(UBER)である。サービス開始後、瞬く間に数多くの国々、都市へと展開し、国や地域によっては社会問題化するほど利用者を拡大させた。ITを駆使した便利なサービスがタクシー業界に「破壊的なイノベーション」をもたらした事例だが、このような、IT企業による革新的なサービスを起点とした異業種におけるビジネス展開は「ウーバー症候群」と称されるほど増加している。製造業においても人ごとではなく、既にIT企業がスマートフォンやタブレット等のデバイス機器の製造や自動運転を切り口にした自動車分野への拡大を行っているが、これらは異業種から製造業への参入の事例である。今後、第4次産業革命ともいわれるIoT(モノのインターネット)やビッグデータといったデジタル技術の進展によって、更に大きな環境変化がもたらされるだろう。

我が国の製造業の競争力は「技術立国」と言われてきたように、革新的な技術力や品質管理能力、そして、生産技術力によって支えられてきた。しかし、このような製造業をとりまく大きな環境変化に応じ、ビジネスモデルや経営そのものを変革していく必要があると考えられる。

例えば、IoTの進展はものづくりの現場のみならず、モノとそれをインターフェースとして展開されるサービスの融合を促しマーケティングの方法も大きく変えている。大量生産システムではメーカーがシーズに基づいて開発した商品を消費者が選ぶという構図であったが、今や消費者がニーズを発信することができ、それに基づいてメーカーがつくるという構図に変化している。さらに、3Dプリンタやクラウドファンディングによって消費者自らがメーカーにもなれる時代である。メーカーと消費者といった垣根が低くなる中、また、消費者ニーズが多様化する中、価値の源泉が機能やスペックといった製品そのものから、それを接点として展開される「サービス」や「ソリューション」へと変化している。つまり「何をつくるか」というより、消費者に「どんな価値を提供するか」がより重要になっている。

図131-1 技術発展のS字カーブと顧客ニーズの頭打ち

 このような製品の機能やスペック以外の価値の重要性についてはIoTや第4次産業革命といった変化の概念が生じる以前から「意味的価値」として唱えられてきたことでもある。1990年代から部品のモジュール化、標準化が進展し新興国の企業でも生産設備や部品、デバイスを購入すれば良い製品が簡単に開発、製造できるようになった。それに対しものづくりに優れた日本企業は摺り合わせによって、例えば「より小さく、より薄く、より高画質に」というように技術的な差別化を行ってきた。一方で、そうした技術的な差別化には物理的にも限界がある上、機能やスペックに対する顧客ニーズは一定水準に達すると頭打ちになるケースが多い。顧客が求める機能やスペックの水準を商品機能が超えると、対価に結びつきにくくなることから技術発展の理由がなくなるため進展が鈍るのである。結果として、技術発展のS字カーブと顧客ニーズの交点を境にコモディティ化が進み、以後価格競争に陥ることになる。(図131-1)。
 

このように、機能的価値だけを追求してものづくりを行っていても、価格競争による利幅低下を招くことになる。そこで、快適な使い心地やデザインといった顧客の主観によって決まり、機能やスペックのように定量化できない価値、「意味的価値」へ付加価値が移っていくのである。

例えば、ブランド品の「ブランド」は意味的価値を象徴する要素である。人によっては高級時計に対し、時刻を表すという機能以上の金銭を支払う。そうした機能的価値との差額部分が、それを保有することで得られるステイタスや満足感、デザイン性といった意味的価値ということである。

今や、意味的価値はIoTや第4次産業革命による変化とあいまって、ものを媒体として提供されるサービスやソリューション等の付加価値まで含め、「コト」としてその重要性が飛躍的に高まっており、各企業においてはものづくりのみならず、「コトづくり」が問われる時代となっているのである。例えば、スマートフォンを思い浮かべたときに、「電話機」という「モノ」自体を価値の源泉に考える人はほとんどいないだろう。むしろ、音楽や動画の配信サービスや、各種SNS、EC(電子商取引)サービスといった、「モノ」を媒体とする「コト」に価値を見出すのではないだろうか。製品がインターネットと結びつき、至る所で吸い上げられたデータを収集し、解析・処理を行うサイクルによって付加価値が次々と生み出され、産業の垣根を越えて新しいサービスとして提供される。一方で生産行為自体は新興国等での低コスト生産によって付加価値が減少する。結果、「コトづくり」が競合との差別化の要素になってくると考えられる。

コラム:お客さまへ価値を提供し続けることがすべてのビジネスの原点・・・セイコーエプソン(株)

セイコーエプソン(株)は「省・小・精の技術」をベースに革新的な製品・サービスを提供し、「省・小・精の価値」を提供すること、すなわち顧客の無駄、手間、時間、コストを徹底的に省いたり、顧客の業務プロセスも含めて環境への負荷を劇的に削減したり、顧客の生産性、正確さ、創造性といったパフォーマンスを大幅に向上させることを経営戦略の基本に据えている。お客さまが価値を感じなくなればコモディティ化し価格競争に陥ってしまうため、すべてのビジネスの基本はお客さまへ価値を提供し続けることだとしている。同社のものづくりのDNAはウォッチ製造で磨き上げた超微細・精密加工技術であり、「省・小・精の技術」と併せて、独自の垂直統合型ビジネスモデルの推進により、強みや優位性のあるコアデバイスを核とした製品・サービスをお客さま価値としお届けすることで、事業を継続的かつ安定的に発展させてきている。

「省・小・精の価値」提供の目玉として同社が開発中の製品の1つが、オフィス内で紙を再生できるPaperLab(ペーパーラボ)である。オフィスでは毎日大量の紙が使われ、機密文書として処理されているが、費用がかかる上、技術流出の懸念もある。しかし、PaperLabは使用済みのコピー用紙をその場で再生できるので、機密文書をオフィスから持ち出す必要がない。また、PaperLabに使用済みのコピー用紙をセットし、再生する間に、紙の結合・成形プロセスをコントロールすることで、紙厚の異なるオフィス紙をつくったり、紙に色や匂いをつけたりすることも可能としている。すなわち紙のアップサイクル(廃物や使わなくなったものを、新しい素材やより良い製品に変化して価値を高めること)を実現させるものである。

また、通常の紙のリサイクルには大量の水を使っているが、PaperLabは給排水設備が不要な製品である。世界には水資源に乏しく製紙工場を持たない国もあり、そうした国・地域のニーズにも応えることができると考えられる。さらに、中期的には、オフィス空間に小さな紙リサイクル工場を持ち込むという発想により、トラック輸送コストの削減にもつながり、ユーザーへの価値の提供(機密文書の完全抹消とアップサイクル)と地球環境への配慮(水をほぼ使わず、輸送に伴うCO2も削減)を両立させる考えだ。

同社は既存のプリンター事業でも、従来のインクジェットプリンターの販売と並行して、スマートチャージという導入費ゼロ円の月定額課金サービスや、大容量インクタンク搭載プリンターの提供を開始しており、オフィスから家庭まで、様々なお客さまのプリントのニーズに合わせて、各種商品・サービスを用意し、顧客満足度を高めている。

オフィスで新しい紙を生み出すPaperLab

オフィスでつくる小さなサイクル

 

ドライファイバーテクノロジー

コラム:顧客・社員・地域との接点を大切にものづくりの価値を追求・・・鍋屋バイテック(株)

創業から450年以上の歴史を持つ鍋屋バイテック(株)(岐阜県関市)は、空調機・ポンプをはじめとする一般産業機械に広く使われる「プーリー」、半導体製造装置や医療機器などに使われる「カップリング」等を製造する機械部品メーカーで、プーリーの国内シェアは80%を誇る。

約8万種類ものカタログ標準品を約2万7千社の取引先に供給している同社の特徴は“究極の多種微量生産と即納体制”にある。標準品はオーダーを受けた当日に出荷できる体制を整えている。しかも、軸穴加工や特殊加工付きの場合も1個からの注文にも対応する。この多種微量の即納体制を同社は“寿司バーコンセプト”と呼んでいる。寿司バーカウンターに座ったお客様に、ひとつひとつ丁寧に、手際よく腕をふるう寿司職人のように、お客さまが必要とするものを、たとえ1個でも、どこよりも素早く最高品質の状態で届けるというビジネスモデルである。

この圧倒的な生産性の高さと高収益の秘訣を探ろうと、同社には大手メーカーも見学に訪れる。しかし、同社の強さを表層だけから伺い知ることは難しい。同社は製品だけを提供するのではなく、製品に関する試験データやRoHS2適合証明書の発行等、様々な情報を顧客に提供することで製品の付加価値を高めている。そのために、同社は顧客との過去のやりとりの履歴情報をすべて集約したコンタクトセンターという組織をつくり、「モノ」を即納することのみにとどまるのではなく、「付随情報の提供あるいは新しい提案という付加価値の伴う製品」を提供する体制を整えている。

また、同社の製品はグッド・インダストリアル・デザイン賞も多数受賞している。デザインにこだわるのは、見た目のかっこよさを追求しているのではない。「機能と品質を追求すれば、美しくなる」というのが同社の持論である。

同社の本社と工場は、いわゆる鋳物会社というイメージとはかけ離れたモダンで斬新なデザインとなっており、この社屋でもグッドデザイン賞を受賞している。同社では工場のことをあえて「工園(こうえん)」と呼ぶ。「良い商品は良い環境から生まれる」という信念から、生産の場としての機能と公園の快適さを高次元で融合した、工場でもあり公園でもあるガーデン・ファクトリーという、働く人の創造力を高めるクリエイティブ・スペースである。社員はカラフルなポロシャツやトレーナーを着て仕事をしており、この魅力的な職場環境に惹かれて入社する若者も少なくない。

緑豊かな敷地内には美術館やプールまで備えており、コンサートや絵画展などを定期的に開催し、地域住民に無料開放するなど地域社会との交流も深めている。

グッドデザイン賞を受賞した製品群

ガーデン・ファクトリーというコンセプトの本社工場

(2)ビジネスモデル変革に対する意識

このような変化に対し、製造企業には、既存のビジネスモデルを見直し、単に機能、スペック重視でモノを売って利益を得るモデルから、日本のものづくりの技術を活かしつつ、モノを起点としたサービスの提供といった「コトづくり」への展開が求められている。一方で、第1節の「(3)第4次産業革命に対応する日本企業」の図113-2で示したとおり、我が国製造業ではIoTを活用した予知保全やソリューション提供といった新しいビジネスモデルへの変革が進んでいない。要因として世界の企業と比較して日本企業にはそうした世の中の変化に対する危機意識の低さが見られることが挙げられる。

以下に示すのは日本を含むグローバルの企業経営者の意識調査であるが、競合企業が今後12か月の間にビジネスモデルを大きく変化させる可能性について、「そう思う」と回答したのは日本企業を含むグローバルの経営者が68%であるのに対し、日本の経営者は16%にとどまる(図131-2)。

また、競合企業が市場を一変させるような製品、サービスを打ち出す可能性についてグローバルの経営者の62%が「そう思う」と回答したのに対し、日本の経営者は16%にとどまっている(図131-3)。

 図131-2 競合他社がビジネスモデルを大きく変化させる可能性(今後12か月)

 図131-3 競合企業が現在の市場を一変させる製品・サービスを打ち出す可能性(今後12か月)

Excelファイル 図131-2 競合他社がビジネスモデルを大きく変化させる可能性(今後12か月)、図131-3 競合企業が現在の市場を一変させる製品・サービスを打ち出す可能性(今後12か月)(xls/xlsx形式)

これらの結果は世界の企業と比べ日本企業の経営者は市場のルールを一変させるライバルが出現する可能性に危機感を持つ者が少ないことを示している。

また、今後3年間における事業変革の可能性について、「現在と大きく異なる事業体に変革している」と回答した企業は日本の14%に対しグローバルでは29%に上る(図131-4)。今後3年間で最も変革される分野に関しては「経営構造」の変革を掲げる企業が日本で64%に対し、グローバルでは16%に留まる一方、「ビジネスモデル」の変革に対しては日本の14%に対し、グローバルでは48%の企業が挙げており、ビジネスモデルへの変革に対する意識に顕著な違いがあることが分かる(図131-5)。

図131-4 今後3年間における事業変革の可能性

図131-5 今後3年間で最も変革される分野

Excelファイル 図131-4 今後3年間における事業変革の可能性(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図131-5 今後3年間で最も変革される分野(xls/xlsx形式)

IoTや第4次産業革命によるデジタル化の波に対し世界各国の経営者は敏感に反応し、高い意識を持っている。それは危機感だけでなく期待の表れでもある。インターネットに接続する機器・デバイスの数、データの処理能力、AIの解析能力が指数関数的に向上し、データ活用領域が産業界を超えて広がっていくことはそれらを用いた新しいマーケットが大きく広がることを意味しており、世界の企業は既にそうした新しい市場に目を向けているのである。

例えば、新しい市場創出の事例として最近注目が集まっているのがシェアリングエコノミーである。これは自動車や不動産のように、これまでは共有が難しかった保有資産に関するスペックや利用・稼働状況といった情報を収集し、リアルタイムで可視化することで資産の余剰能力と一時的に資産を使用したいというニーズとの引き合わせを可能にするビジネスモデルである。IoTによって「所有」から「使用」という新しい価値観がまさに創出され、市場として拡大しているのである。

コラム:「シェアリング・エコノミー」による新たな経済の胎動~所有から共用、ハードからサービスへ~

シェアリング・エコノミーは、個人が保有する遊休資産である部屋や不動産、自動車などを共有し、利活用する取引やサービスの仕組みである。

既に、共同利用するカーシェアリングや配車等にかかるライドシェアサービスが登場するなど、「所有から共用へ」、「ハードからサービスへ」の価値のシフトに伴い、新たな経済の形態として注目されている。また、モノだけでなく、個人のアイデアや知恵、スキル等の共有を含めた新たなビジネスの広がりもみられる。

海外では、2000年代後半から、宿泊シェアを手がける「Airbnb」やライドシェアを手がける「Uber」「Lyft」等のサービスが広がり、人々の消費・生活スタイルを変えつつある。また、2015年12月には、日本でも一般社団法人シェアリングエコノミー協会が設立されており、今後、多種多様な新たなサービスが生まれてくる可能性が高い。例えば、日本では、Anycaなど個人間でクルマをシェアする新しいカーシェアリングサービスが始まっているほか、自動運転と組み合わせた「シェア・オートノミー」等も加速する可能性がある。

一方、新たなサービスや事業モデルの登場は、これまでの産業構造やビジネスを一変させる可能性がある。例えば、米IBMのグローバル経営層スタディによると、Uberがタクシー業界のビジネスを大きく変えたように、異業種からの新規参入が、業界構造を大きく変える可能性について認識が広がっている。これは、ウーバー症候群(Uberization)と称され、今後、ものづくり産業においても影響が広がっていくと見込まれる。

図 他業界からの競合の脅威

このようにモノの情報がインターネットに結び付けられて創出される新たな市場は、当然ながら産業の垣根を越えて形成、拡大していくため、時として既存の産業構造の変化を引き起こす。グローバル企業のビジネスモデルの変革に対する意識はこのような変化に対する危機感と期待感の表れでもあり、日本企業においても技術力等の強みは引き続き強化していくと同時に、時に異業種との連携により必要なスキルを補いながら、このようなビジネスモデルの変革についての積極的な意識や取組が求められている。

これまで述べてきたように、機能的価値を求めたものづくりに留まることなく、意味的価値を含んだコトづくりのできる企業になることが求められている今、サービスやソリューションに目を向けることや、新しい付加価値を顧客に提供することができる製品を世に送り出す企業になることが重要である。このようにものづくりに価値をプラスしている企業は、「ものづくり+企業」と称することができよう。ものづくり企業が、市場変化に応じていち早く経営革新を進め、ものづくりを通じて価値づくりを進める「ものづくり+企業」となることが期待される(図131-6)。

図131-6

(3)経営革新を進める「ものづくり+企業」

経営変革について尋ねたアンケート調査によると、約半数の企業が「事業の選択と集中」や「既存の取引関係を活かした事業の多角化」に、これまで積極的に取り組んできたとしている(図131-7)。

「事業の選択と集中」と「既存の取引関係を活かした事業多角化」は、一見相反するように思えるが、取捨選択した事業において、その強みを活かしながら事業多角化を実行するなど、平行して取り組むことも可能である。多角化の現状を聞いてみると、「専業型」が41.1%と一番多くはなっているが、「本業中心多角化型」が23.5%、「関連分野多角型」が11.2%と続いており(図131-8)、さらに、今後においては、「専業型」が減少し、「本業中心多角化型」や「関連分野多角化型」が増加すると見込んでいる(図131-9)。自社の強みを認識してコア事業を中心にマーケットの拡大につなげていく具体例については、次の「2.強みを発揮する経営戦略」で詳しく述べる。

また、経営変革の一環としての取組の「新規事業分野の開拓」と「部門・部署をまたぐ人材流動性」については、今後においても重要な取組と考えている企業が多い。さらに、「異業種との連携」や「国籍を問わない高度人材の獲得」、「オープンイノベーションの推進」、「ベンチャー企業との業務連携」については、絶対数は多くはないが、これまで取り組んできた企業割合に対して、今後強化する企業が大幅に増加しており、今後取り組んでいきたい課題として認識されている。社内にないものを外部から取り入れることが経営変革として重要視されてきている様子がうかがえる。

図131–7 経営変革の一環としての取組

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図131–8 事業の多角化の現状

図131–9 事業の多角化の今後の見込み

Excelファイル 図131–8 事業の多角化の現状(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図131–9 事業の多角化の今後の見込み(xls/xlsx形式)

「新規事業分野」の開拓を経営変革の取組として挙げる企業が多い中、革新的な新事業創出活動についての基本的な考え方をアンケート調査で尋ねると、「既存事業と同等に重視している」が38.7%と最も多く、「革新的な新事業も重視しているが、既存事業の方をより重視している」が36.6%と続いている(図131-10)。また、事業創出活動の取組の成果は、既存事業を軸とした事業創出が順調な企業が多い一方、革新的な新ビジネスモデルや新技術の開発が「順調である」又は「まずまず順調である」と回答している企業は2割程に留まっており(図131-11)、革新的な新規事業分野の開拓は、一筋縄にはいかない様子が見て取れる。

図131–10 革新的な新事業創出についての基本的な考え方

図131–11 事業創出活動の取組成果の状況について

Excelファイル 図131–10 革新的な新事業創出についての基本的な考え方(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図131–11 事業創出活動の取組成果の状況について(xls/xlsx形式)

また、時間軸ごとの研究開発投資配分を業種別に見てみると、どの業種においても「短期」が一番多くなっている。しかし、「食料品」や「化学工業」は、「中期」や「長期」的な研究開発投資の比率が他業種と比較して高くなっている(図131-12)。

図131–12 時間軸ごとの研究開発投資配分

 事業創造活動を推進するための組織の仕組みについて何が課題であるかを尋ねたアンケート調査では、課題が多くあることが浮き彫りになったが、特に、チャレンジする風土や事業創出を牽引するリーダー育成などの「人を基軸とした組織能力を高める仕組み」や、社会や顧客の潜在的なニーズを探索し事業化に結びつける仕組みについては、8割以上の企業が課題と認識しており(図131-13)、新規事業創出に取り組みたい一方で、社内の仕組みづくりは遅れている様子がうかがえる。一方、コトづくりを実現する企業になるために、ここ数年、新規事業創出などを見込んで新しい業務プロセス設計をし、新しいマネジメントを行う組織体制も生まれ始めている。

Excelファイル 図131–12 時間軸ごとの研究開発投資配分(xls/xlsx形式)

新規事業や新しい付加価値を生み出すためには、試行をいとわない姿勢と共に、失敗は学びの機会であるという意識を持ち、失敗を許容する文化や風土を醸成することが大事であろう。このように、新しい価値を創造するために、市場変化に応じて経営変革に積極的に取り組むことで、「ものづくり+企業」の実現につながると考えられる。

図131–13 事業創出活動を推進するための組織の仕組みについての課題

Excelファイル 図131–13 事業創出活動を推進するための組織の仕組みについての課題(xls/xlsx形式)

コラム:イノベーション100委員会レポート

経済産業省は、ベンチャー企業と大企業の連携等を目的として2014年9月から活動している「ベンチャー創造協議会」の下に、「大企業からイノベーションは興らない」という定説を覆すため、イノベーションに関して先駆的な取組を行っている日本の大企業経営者をメンバーとした「イノベーション100委員会」を設立した。

同委員会では、経済産業省、(一社)JapanInnovationNetwork、(株)WorldInnovationLabが事務局となり、2015年10月から、委員会メンバーである大企業経営者と、イノベーションを継続的に生み出すための経営の在り方などについて議論を行い、議論の内容やそれから導かれる経営上の課題と行動指針を「イノベーション100委員会レポート」として、2016年2月にとりまとめた(図1)。

図1 イノベーションを阻む5つの課題と5つの行動指針

資料:イノベーション100委員会レポート
(https://www.meti.go.jp/press/2015/02/20160226002/20160226002-1.pdf)

イノベーションを興すための経営陣の行動指針の1つとして、効率性と創造性の2階建ての経営の実現を挙げた。1階は既存事業の着実な計画実行を軸に、確実な投資・回収を目指し、現場でのカイゼンなどを通じて「効率性の向上」を図る、これまで我が国企業が得意としてきた部分であり、その上に、新規事業創出に向けて、事業機会の探索と実験を軸に事業運営や評価を行い、「創造性の強化」を図る2階部分を兼ね備え、効率性と創造性を同時並行かつ異なる経営スタンスで進めていくことにより、持続的な成長につながる経営である(図2)。

図2 2階建て経営

2階建て経営の2階部分の経営に当たっては、従来は個人の属人的なやり方に依存していた。しかし、新規事業は不明確なゴールに向けて走り続けていかなくてはならないため探索と実験が不可欠であり、これまでの方法とは異なった組織的な仕組みづくりが求められる。留意事項としては、必ずしも合理的に、直線的に物事が進むとは限らないことだ。そのため、別組織などをつくり、探索と実験を軸とする運営やその評価体系を新たに設けることなどが必要になる。

「イノベーション100委員会」は、引き続き、委員会の経営者委員の数を増やしながら、経営者間の情報共有や行動指針の発信等により、大企業発イノベーションの促進に貢献していくとともに、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構が事務局を務めるオープンイノベーション協議会等、関連する他の取組とも連携しながら、イノベーション活動の輪を日本全体に拡大してい。

コラム:儲ける仕組みとしてのマーケティング力があってこそ技術力が生きる・・・(株)野上技研

(株)野上技研(東京都目黒区)は茨城県に主力工場を構える打ち抜き金型・治具専門メーカーで、1970年の創業以来一貫して超精密研削加工を手がけてきた。取引先からも重宝される高い技術力を持ち、特許も保有している同社であったが、現二代目社長は職人中心の1社依存の下請体質に危機感を覚え、大手企業から対等のパートナーとして認められる企業に転身しようと設計力の強化に乗り出した。いくらすぐれた技術を保有していても、単品の部品生産では大手に相手にされないため、少しでも完成品に近いものづくりを目指す必要があったからである。

現在、平行・直角精度は10,000分の5mmと比類のない精度を保証する超精密研削加工技術をコアに「刃物」「プレス」「金型」の3事業を展開しており、売上構成もそれぞれ3分の1ずつというバランスを維持し、3事業のシナジー効果を高めている。同社は自らプレス加工を手がけることで、金型を「使う側」の悩みや苦労を、身を持って経験し、長寿命・超精密の金型製作及びそのメンテナンスに必要なノウハウを蓄積することで、他社が30万ショットのところを同社の型は720万ショットの長寿命を達成している。創業以来、刃物の研究を続けていることも金型を手がける上での大きな強みとなっている。

同社の技術力の高さを物語るのが、リチウムイオン電池の電極を加工する際の超精密・長寿命打抜き金型の開発である。リチウムイオン電池は、電極加工時にバリやコンタミが発生すると発火事故につながる恐れがあるが、極薄の金属箔基材に炭素粒子からなる活物質が塗工された電極をバリ無しで加工することは極めて難しく、大手電池メーカーも手を焼いていた。ところが、同社は2年間に渡る研究開発の結果、全くバリの出ない打抜き金型の開発に成功。かつ、既存金型よりも4倍のショット数を達成し、メンテナンス費用を5分の1まで低減することに成功した。

ただし、どんなにすぐれた技術を保有していても「知られなければ存在しないと同じ」であることから、同社はネットや展示会を駆使して情報発信に努めている。情報発信は「超精密金型屋です」とアピールすることではなく、「相手に対してどんな価値を提供できるのか」を伝えることなので、同社の技術を採用すればどのようなメリットが享受できるかを具体的に説明、アピールするように心がけている。

現在同社は、打抜き及び切断加工技術に特化した研究開発と共に、価値を提供するためのビジネスモデルやサービスの開発に積極的に取り組んでいる。刃物を研究して、金型を自分で作り、しかも金型を使った量産経験をソリューション事業として生かすため、難加工素材の加工性試験(テストカット)・量産装置立上げプロジェクトの参画支援・金型及びプレス機の製作・納入後の保守点検など、量産体制を包括的にサポートするサービスを提供しているほか、2015年には「打抜き・切断加工技術研究センター」を設置した。大手自動車メーカーも足を運ぶ、同社のソリューション事業の要となっており、オープンイノベーションに対応している。

同社が特に重視していることは「己を知ること(自社の強みの深掘り)」「情報発信」そして「マーケティング」である。同社は下請体質からの脱却を図る際、プラスチック用モールド金型への進出を決意し、人も設備も手配済みであったが、欧州視察を契機に「自社の強みは創業時から手がけていた刃物を生かしたプレスにある」ことに気づき、大胆に方針転換を図った。自社のコア技術を再認識し、自社のポジションを見極めるためにも、海外を視察したり異業種と交流したりすることを大切にしている。

さらに、短期の売上目標を達成していくのが営業で、先を見通した儲ける仕組みを作り上げることがマーケティングの役割だとして、営業担当とは別にマーケティング専属の人材を配している。

バリ無しの超精密打抜き・切断金型

金型による生産の包括サポートサービスで独自の価値を提供

 

野上技研の経営戦略

コラム:夢やアイデアを形にする場を提供し、社員のモチベーションを向上・・・奥野工業(株)

フォークリフト用の油圧シリンダー(ティルトシリンダー)で国内シェアトップを誇る奥野工業(株)(愛知県刈谷市)は、主力である「シリンダー事業部」の他に、自動車部品プレスを主体に樹脂成形まで幅広く対応する「電装事業部」、そして自主開発製品を手がける「グレート事業部」を有している。

グレート事業部の歴史は古く、高度経済成長期の1972年に遡る。同社は油圧シリンダーや自動車部品をつくっているティア1、ティア2に相当する会社であるが、「社内に蓄積されたものづくりの基盤技術を生かして、自ら値段を決めて、直接消費者にも売っていけるような商品をつくろう」という目的でグレート事業部を立ち上げた。ただし、必ずしも売れることばかりを目的としたのではなく、社員に夢を持てる場や機会を提供すれば、社員のモチベーションも上がるのではとの期待があった。

技術者だけではなく、間接部門も含めて社員であれば誰でも発明提案ができ、出された提案は経営会議で議論され、グレート事業部で事業化するかどうかの最終的な判断は経営トップが行う。採択されたテーマは、発案者がチームリーダーとなってメンバーを編成するが、メンバーは通常業務をこなしつつ、グレート事業部でのプロジェクトにもかかわることになる。

これまで、グレーチング、バーベキューグリル、ホイールストッパー、サイクルステーション、移動式点字ブロックなど様々な商品を事業化してきたが、2015年秋には初の国産レッカー車となる「MASSA(マッサ)」の販売をスタートさせた。シリンダー事業部では得意なシリンダーをもっと活用できないかと考えていたところ、ある時シリンダーの修理が舞い込み、それがレッカー車向けのシリンダーで、かつ、レッカー車にはシリンダーが7本も使われていることが判明した。さらにレッカー車はすべて輸入車で国産車がほとんどないことも分かり、ここにビジネスチャンスを感じて開発に踏み切った。

グレート事業部があることは、採用や営業においてもプラスの効果をもたらしている。人材の採用においては、下請仕事だけではなく、新しいアイデアを形にできる場がありますと、会社の魅力をアピールできる。取引先に対しても、自社製品を開発できる力があることをアピールできる好機となっている。

自社開発したレッカー車「MASSA:マッサ」

国内シェアトップのフォークリフト向けシリンダー

コラム:新たな価値と喜びを提供し続けるため、自ら課した課題に挑む「チャレンジプロジェクト」・・・リケンテクノス(株)

リケンテクノス(株)は理化学研究所をルーツとする理研ビニル工業(株)として1951年に設立され、2001年にリケンテクノス(株)と社名を変更した。主力のコンパウンド事業のほか、フイルム事業、食品包装事業などを有し、取引先は自動車業界をはじめとし、建築建設、医療、情報機器、電線、食品包装など多岐にわたる。同社は定型品をラインナップしたカタログ販売を行うのではなく、お客様の要望に合わせて製品設計を行うオーダーメイドの製造販売を基本としており、大手化学メーカーが手を出さないようなニッチな領域も多く手がけている。

以前はコンパウンド事業部、フイルム事業部、製品事業部(食品包材関連)といった具合に製品別の事業部制をとっていたが、マーケットインによる顧客ニーズの吸い上げを強化するため、2013年4月からスタートした3ヵ年中期経営計画の中でビジネスユニット制へ移行し、製品別から市場別組織へと改組した。フイルムとコンパウンドという製品の垣根が取り払われ、お客様への提案力が上がると同時に、技術部門も市場別の開発に移行したことから、様々な相乗効果が現れるようになった。今後、増々顧客ニーズに沿った製品の創出に拍車がかかると期待される。

そのような中、創立60周年を機に経営理念を策定した。人と技術のみを頼りとしたベンチャー企業として立ち上がり、お互いの信頼感を基礎にして何事にもチャレンジしていく精神を後世に引き継ぐためであった。それは、「リケンテクノスウェイ」という形で明文化され、改めてそのチャレンジ精神を浸透させるべく、「リケンテクノスウェイ 浸透プロジェクト」を2011年にスタートさせた。まず、最短1日で決済が下りるよう、稟議に10個必要としていた判子を3個まで減らした。決裁権限者が海外出張中でも、メールで承認をとりつけられるようにした。また、会社からのトップダウンによるプロジェクトチーム結成とは異なり、社員がテーマの設定から企画立案までを自ら行い、役員へ直接プレゼンする機会が与えられる「チャレンジプロジェクト」を創設した。役員の承認が得られれば正式なプロジェクトチームとして発足し、業務を推進することができる。ただし、本来の業務との二足のわらじで取り組むことになるため、チャレンジプロジェクトの業務も目標管理制度(人事評価の一環)に組み入れている。会社公認の仕事と見なさないと、業務が多忙な時は所属先の上長から「本来の業務を優先しろ」と言われて、現場の仕事を優先せざるをえなくなるからである。チャレンジプロジェクトの第1号案件は、審査段階で実現を危ぶむ声があったものの、「とにかくやってみろ」ということでスタートし、結果的に大きな成果を収めることができた。

同社は、技術者が堂々とアンダーグラウンドで新しいことに挑戦する風土づくりを目指している。今はまだ過渡期と考え、チャレンジプロジェクトを業績評価に組み込むことで堂々と取り組むことができる環境を用意しているが、いずれ、チャレンジプロジェクトに挑戦した社員が上司になる時代がやってくれば、もっと仕事に関係のないことをアンダーグラウンドで自由闊達にやっていこうという風土がつくれると期待している。

保有技術

チャレンジプロジェクト第1号案件

コラム:社員の新製品・新事業アイデアを創出する仕組みと場を提供--- Seed Acceleration Program(SAP)・・・ソニー(株)

ソニー(株)の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」(“SAP”)は、新規事業のスタートアップ支援を目的に2014年に始まった、ソニーの社内ベンチャー育成プログラムである。SAPには「アイデアを集める→アイデアを形にする→事業化する」の3ステップがある。アイデアを集め選抜するオーディションには、部署や事業の枠を超えたアイデアが集まり、社員投票や外部審査員の評価も取り入れ採否が決定される。オーディションへは、グループリーダーが社員であれば、社外のメンバーも参加でき、共同開発も可能としており、オープンイノベーションを推進している。

オーディションに合格したアイデアはまず一定の期間(3~6ヶ月)で形にすることが求められ、アイデアのビジネスモデルの検証ができれば期間延長または事業化・量産化の準備に入ることができ、できなければ事業開発を終了する仕組みとなっている。SAPの母体である新規事業創出部に主務異動し3ヶ月フルタイムで集中的に参加するコース(SAP Intensive)と、兼務異動し週1日のみ参加するコース(SAP Basic)とがあるが、事業開発を終了すると元の部署に戻れるように元の職場には主務・兼務という形で籍を残したまま参加する。事業化の段階では、資金計画立案や販路構築等も自分たちで行うことで、社員のベンチャースピリッツによるチャレンジを促している。

また、本社ビル1階に社内外のメンバーがミーティングをしたり工作機器で試作したりできる「Creative Lounge」をオープンしたり、社員の起業能力を更に引き出す役割を果たすトレーニングコースを設置したりなど、さまざまな側面支援も行っている。

この新しいプログラムが提案された背景には「垣根を越えた人材交流の場が欲しい」「浮かんだ新規アイデアの受け皿がない」「自分の専門領域以外がわからない」「アイデアの目利きがほしい」「新規事業の時間軸に合わせたスピーディな業務フローが必要」などの危機感があった。SAPでは、オープンイノベーションやネットワーキングを重視し、小さく作って、小さく売って、徐々に大きく育てる手法で、スタートアップをより多く生んでいくことを目指している。

SAPからは、すでに、遊びごころを形にできる「MESH」、柄が変わる電子ペーパー時計「FES Watch」などの商品が生まれている。

MESH

HUIS REMOTE CONTROLLER

 

Creative Lounge

FES Watch

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