経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第3節 市場の変化に応じて経営革新を進め始めた製造企業

2.強みを発揮する経営戦略

(5)更なるマーケットの拡大に向けて

自らの強みを把握し、コアの事業部門や事業領域に集中投資するなど社内での経営改革に加え、グローバルを意識した強みの展開、展示会の活用、異業種や新技術との協業、ルールや規格戦略といった、社外へ目を向けた取組も、マーケットの拡大を図る上で重要である。

①外に目を向けることで生まれる新市場

(ア)グローバル化

事業展開のグローバル化は、企業規模や業種により、また、最終製品における取引構造によっても、その進展度合いは異なっている。しかし、「経済産業省認定グローバルニッチトップ企業100選」の受賞企業の様に、特定分野の製品・技術を武器に海外への輸出展開を図ることで、企業規模や既存の取引関係の枠を超えて、高い海外市場シェアを獲得している企業も存在する。

コラム:グローバル視点によるものづくりの必要性

Beans International Corp(米国)の遠藤吉紀社長は、長年、米国のシリコンバレーで製造業のアドバイザーを務めてきた。現在、シリコンバレーに進出した日本の製造メーカーの品質管理に対するサポートをメインに、政府等の関連機関のアドバイザーを兼務している。

遠藤氏によると、シリコンバレーといえば、ITにフォーカスされ、ソフトウエアのイメージが強いが、実態はハードウェア関連企業の集積地であり、米IT大手企業もシリコンバレーで開発・試作を行うなど、最先端の技術を支える盤石な開発・製造インフラになっているということだ。

シリコンバレーには、世界中から新たな人、モノ、情報等が集まってくるが、それを可能としているのが、他地域を寄せつけない「スピード経営」である。また、シリコンバレーのものづくりを支えているのは、アジア人を主体とした板金、切削組み立て等の製造メーカーが中心で、日本の企業は、品質や技術力という強みがありながら、上手く売りこめておらず、大きなビジネスチャンスを逃している。

例えば、シリコンバレーの企業が現地企業に外注している難易度の高い加工案件を日本国内に持ち込もうと、いくつかの中小企業に相談したが、ほとんどが対応できなかった。話をもちかけた先は、いずれも高い技術力を自負していた企業である。もちろん精度面では対応できた企業もあったが、価格が3倍、納期が4倍と話にならなかった。

しかし、中には、実際にシリコンバレーに行き、現地で求められるビジネスのスピードを肌で感じることで、スピード対応や短納期が自社の強みであることを理解し、差別化を図ることに成功した企業もある。

このような事例から、遠藤氏は、「今後は中小企業も国内だけではなく、もっと世界に目を向け、視野を広げるべきである。自ら志をもって海外市場の開拓に果敢に挑み、優れている分野や劣っている分野を知ることで自社の強みを再認識することができ、ビジネスチャンスを見つけることができるのではないか。」と語る。

シリコンバレーの町工場の風景

資料:Beans International Corp

コラム:ユーザーのボヤキ、潜在的なウォンツを拾い集め顕在化する丁寧な商品開発と留学生を積極的に採用・活用する特色を有するグローカル企業・・・(株)筑水キャニコム

農業用運搬車、土木建築用運搬車、草刈作業車等の製造販売をおこなう(株)筑水キャニコム(福岡県うきは市)は、用途にあわせたきめ細かな商品開発で、その製品は国内外で人気を博す。また、外国人社員を戦力として活用、事業を拡大してきており、国内市場向け6割、海外市場向け4割の売上げを誇る、九州地方のグローカル企業である。

同社の前身企業は農業機械を製造・販売していたが、生産管理、販売、資金面で難点があり、納期や資金回収に課題を抱えていた。現在の経営陣が、資本系列も面識もない企業へ粘り強く交渉を行い、人材の派遣を受け、生産管理体制を整備した。

これと併せて、ユーザーである農業従事者の、「メーカーに言ってもどうせ改善されないだろう」という諦念の声を受け、同社では徹底的に細かな要望を聞き取り商品開発をおこなうこととした。現在でも、商品展示会等の場でユーザーに実際の製品を試してもらう姿をビデオでとらえながら、ユーザーのボヤキ、ウォンツを創造、商品化へつなげている。また、製品化にあたっては、デザイン・ネーミング・ブランドをビジネス戦略に掲げて、ユーザー視線の製品にユニークなネーミング等を行い商品の魅力を高めている。

海外市場では、商社には頼らず外国人社員を世界各国へ派遣し、現地での実演会などを通じて市場ウォンツを発掘、地域にあった商品開発・提案を重ねるとともに、多言語でのマニュアルや海外向けホームページも作成している。例えば、東南アジア向け製品では、日本製品の持つmade in Japanのステータスの上に、海外で実際にどのような使い方をされているのか等の現地のニーズを捉えた品質の良い商品を小ロットで提供することを目指すなど、大型機器の市場ではなく小型機器の部門で「超一流の中小企業」を目指している。

ユーザーのボヤキ、潜在的ウォンツを商品化

“業界初四輪駆動式”乗用草刈機「まさお」

コラム:留学生等の優秀なグローバル人材を採用し、世界市場進出に成功・・・本多機工(株)

福岡県嘉麻(かま)市において、産業用特殊ポンプの設計・製造・販売及びメンテナンス事業を展開している本多機工(株)は、古くからプラント会社を通して、産業用ポンプの輸出を行っていた。しかし、海外の納入先からの英語での問合せに対し、自社で十分な対応ができず、商社やプラント会社任せになっていたことから、エンドユーザーの声を十分拾い上げられないことを懸念していたのに加え近年の内需縮小に伴い、国内売上が減少する中、社内のグローバル化が急務となっていた。

社内のグローバル化を本格的に推進するにあたって、交流のあった九州工業大学の教授に優秀な人材の紹介を打診したところ、英・日・仏・スペイン・アラビア語を話し、博士号を取得しているチュニジア人を紹介され、好人物でもあり採用をした。これをきっかけに海外への販路が拡大した。チュニジア人社員は帰国・独立しているが、現在、中東でポンプ事業を立ち上げ、同社の代理店として活躍している。

その後、九州の大学で学んだ優秀なグローバル人材である外国人留学生(中国人、韓国人、米国人、ドイツ人、フランス人等)を採用し、現在では全世界60ヶ国以上に納入実績を持ち、100%オーダーメイドの特殊ポンプ(ラテックスポンプ)は世界シェア50%を占める。外国人社員による離職のリスクを新たなビジネスチャンス拡大につなげるべく、将来独立し、自国で代理店を設立する「のれん分け」を推奨していること等から、外国人が活躍できる企業、独立・起業を支援するといった社風が口コミで広まり、留学生向け企業説明会では多くの優秀な人材が来るようになった。

この3年間の売上額はおよそ21億から25億円で推移しており、また、海外のユーザーからの問合せに商社等を介在させることなく、自社対応が可能となったことで、収益性の向上も実現した。今後も大手ポンプメーカーが取り組まない製品、より環境に配慮した製品に対応しつつ、自社の国際競争力を高めるためにも、引き続き優秀なグローバル人材の採用に注力し、海外パートナーを増やしながらグローバルなビジネスネットワークの構築を目指す。

ラテックスポンプ(BLS)

大容量マイクロナノバブルポンプ(BUSP)

コラム:日本の産業を創り繋ぐビジネスプラットフォーム・・・リンカーズ(株)

リンカーズ(株)(東京都千代田区)は製造業における技術、製品について大企業と優れた技術を有する中小・中堅企業や研究開発型の中小・中堅企業(以下、中小・中堅企業という)とのマッチングを行うプラットフォーム「Linkers(リンカーズ)」を運営する企業である。マッチングといっても、特に製造業においては、単にニーズとシーズを取りまとめるだけでは案件化が難しいケースが多いという。なぜなら、発注側である大手企業が最も知りたいのは、個々の中小・中堅企業が持つ独自の、高度な技術力についてであり中小・中堅企業にとっては大切な技術情報を不特定多数に開示はできない。また、大企業側も技術に関するニーズ情報は今後の研究開発、製品化に関する重要な情報であり、やはり大っぴらに開示できないという事情がジレンマを生んでいるのである。

代表取締役の前田社長は同社設立後、東北地方の震災復興を目的に中小・中堅企業の技術力のWeb展示会場「eEXPO(イーエキスポ)」を立上げ、東北地方を中心に中小・中堅企業を訪問し、数百社の登録作業を地道に続けた。試行錯誤を繰り返した結果、上記ジレンマを解決できるモデルとして生まれたのがIT×HI(Human Intelligence)によるマッチングサービス「Linkers」である。

自治体や産業振興に関わる外郭団体、金融機関や大学、研究機関等、地域の中小・中堅企業について熟知している人物をコーディネーターとして、発注者(大手企業)と受注者(中小・中堅企業)の間に立ってもらう。そうしたコーディネーターのネットワークによって、ノウハウ等、形式知化していない技術や形式知化していたとしても非公開の技術情報についてのジレンマの解消を可能にした。同社ではこのようなコーディネーターによるネットワークをHIと称しているが、加えて、ITを駆使することで地域や業種を網羅的にカバーし、スピーディで確率の高いサービスを実現しているのである。

サービスの流れとしては発注者である大手企業が外部に公開可能な基本条件を提示すると、その条件に対してコーディネーターに選定条件に見合う技術や設備を有する“であろう”企業をリストアップリストアップしてもらう。企業は1次、2次、3次選考といった具合にLinkersのサイトを経由してより詳細に提示されていく発注条件への対応可否を回答し、最終的に最も条件に見合う企業がパートナーとして選ばれることとなる。なお、選考過程で見送りとなった企業に対しても、きめ細やかなフォロー(選定された企業との大まかな比較等)を行うことで見送りとなっても今後の受注獲得に繋がる情報提供を行うことでサービス価値を高めている。現に見送りとなった企業からフォローに対する感謝状が届いたりするとのこともあるという。結果、ニーズ情報に対するマッチング成功率は90%以上と高い実績に繋がっている。前田社長曰く、「日本の産業は信頼関係で成り立っている文化であり、受注に関して誰からの紹介であるかが重要。地元の慣れ親しんだ人同士の情報ネットワークが同社の鍵」という。

今後の目標として掲げるのは、ものづくりの技術力に長けた日本の中小・中堅企業が同社を介して世界で活躍できる仕組みをつくることである。特に中小・中堅製造企業は海外への発信力が弱いため、同社が海外からの技術、企業探索の窓口になることは勿論、コミュニケーションサポートや契約手続き、資金サポートに関しても商社や金融機関と連携することで、「日本ものづくり株式会社」の仕組みの中で機能分担を行い、日本の中小企業の技術力を売りこんでいくことでサプライチェーンの再構築を図り、真の地方創生を目指している。

Linkersの仕組み

多段階評価による選定の流れ

展示会は輸出を行っている企業の方が積極的に活用している(図132-37)。また、展示会は単なる交流や情報交換の場としてではなく、「新規顧客の開拓」や「既存顧客との商談」、「自社の新技術・新商品の発表・宣伝」の場として強みのアピールに活用されていることが分かる(図132-38)。

図132-37:展示会の積極的な活用

図132-38:展示会に出展する目的について

Excelファイル 図132-37:展示会の積極的な活用(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図132-38:展示会に出展する目的について(xls/xlsx形式)

コラム:展示会の有効的な活用

展示会は、製品・サービス等の情報発信や商談を行う場であり、参加企業に国内外からのビジネスチャンスを提供する、我が国産業にとって重要な役割を果たす経済インフラである。また、出展者、来場者や関連事業者など多様な主体による消費活動を誘発し、幅広い経済波及効果をもたらし地域経済の活性化にも寄与する。さらに、展示会の開催はMICE(国際会議をはじめとする催事の広義の概念。Meeting、Incentive、Convention、Event)の一環として出展や商談等を目的とした外国からの誘客獲得・ビジットジャパンの推進にも大きく貢献する。

なお、国内の主な展示場には下記のようなものがある(図1)。

図1 日本の主な展示会場(面積順)

備考:東京都において、東京ビッグサイト、サンシャインシティ・コンベンションセンター、東京流通センター(8,446㎡)に次ぐ展示面積の東京国際フォーラムは5,000㎡。

資料:(株)ピーオーピー「2012年版展示会データベース」を参考に経済産業省作成

国内の従業員数別に見ると、従業員規模1,000人超の大企業の約7割が展示会を積極活用しているものの、従業員100人以下の中小企業3割程度に留まっている(図2)。

図2 展示会の積極的な活用

資料:経済産業省調べ(2015年12月)

Excelファイル 図2 展示会の積極的な活用(xls/xlsx形式)

一方、展示会が売上に繋がった事例の有無や、展示会がきっかけとなったビジネスの年間売上割合を見ると、中小企業ほど、展示会が年間の売上に大きく貢献していることが見て取れる。(図3・4)。

図3 展示会が売上増に繋がった事例の有無

資料:経済産業省調べ(2015年12月)

Excelファイル 図3 展示会が売上増に繋がった事例の有無(xls/xlsx形式)

図4 展示会がきっかけとなったビジネスの年間売上割合

資料:経済産業省調べ(2015年12月)

Excelファイル 図4 展示会がきっかけとなったビジネスの年間売上割合(xls/xlsx形式)

また、展示会を積極的に活用している企業は、他の企業に比べ、新規事業分野の開拓、異業種との業務提携、オープンイノベーションの推進、グローバル化への対応について取り組んでいる割合が高く、展示会以外にも外に目を向ける取組に積極的な様子が読み取れる(図5)。

図5 展示会を積極的に活用している企業における経営変革の取組

備考:図2 展示会の積極的な活用において「はい」「いいえ」と回答した企業で分類。
資料:経済産業省調べ(2015年12月)

Excelファイル 図5 展示会を積極的に活用している企業における経営変革の取組(xls/xlsx形式)

小規模の企業にとっては人手及び金銭的な制約もあり、積極的な展示会の活用はハードルが高い面もあるが、自社の強みを認識し出展の目的を明確に持つ場合においては、収益性向上につながる可能性は高いと考えられる。

展示会の活用は我が国経済の成長エンジンとして重要な役割を担うことが期待される。

コラム:展示会を有効に活用するためのサービス~マッチングシステム

「展示会で関心のある企業のブースを訪問したが、タイミングが悪く担当者に会えなかった」「商談日時の候補を複数提示していたので、その間ほかのアポイントがとれなかった」・・・展示会に意気込んで参加したものの、このような経験を持つ人も多いだろう。(株)ICSコンベンションデザインでは、このような問題を解決しマッチング率を高める「マッチングシステム」を導入し、同社が主催する展示会の付加価値を高めている。

システムの流れは、事前に出展者や来場者がシステムに申し込み、関心事項などのプロフィールや商談希望相手のカテゴリ、自分が会場で対応可能なスケジュール等を登録する。システム上で商談相手の候補が随時紹介されてきて、商談のリクエスト、承認、拒否を通知する。双方が合意した商談については、独自のプログラムで自動的に日時と場所が設定される。会期中も商談相手の検索やアポイント申し込みができるため、ぎりぎりのタイミングまで、商談の可能性を探ることができるという仕組みである。

同社が主催する展示会「Bio Japan(バイオジャパン)」では、開催3日間で500件程度だった商談が、2013年のシステム導入後は約6000件に増加。システムを利用した出展者のひとつ、(株)WDB環境バイオ研究所の中村代表取締役社長は、「我が社のような特定分野に強みを持つ企業にとって、展示会は、関心のある企業や団体と効率的に出会える絶好の場。さらにこのシステムを利用することにより、効率的に商談を進めることができている。何件ものプロジェクトにつながった」と成果を語る。

本システムを導入した(株)ICSコンベンションデザインの松井取締役は、「オープンイノベーションが進む業界では特に、展示会における一対一のビジネスマッチングの重要性はますます増してきている」と指摘する。「Bio Japan」ではシステム登録者の約半数が海外からの出展者・来場者であり、日本企業の海外展開にも重要な役割を果たしていると言えそうだ。

このマッチングシステムのほかにも、2015年12月にはパシフィコ横浜が国内MICE施設初となる展示会アーカイブ機能を搭載したスマートフォン向けアプリを発表するなど、ITを利用して展示会をさらに有効に活用しようという試みは拡がりつつあるといえるだろう。顧客の利便性を高めるきめ細やかなサービスは、日本ならではの得意分野。今後もこの流れが加速化し、展示会の活用がさらに深まることを期待したい。

コラム:ドイツにおける展示会

「展示会・見本市の国」とも呼ばれるドイツ。12世紀にまでさかのぼる長い歴史を持ち、世界最大面積(約46万㎡)の会場を持つハノーバーのほか、フランクフルト、ケルン、デュッセルドルフなど、国内各地に主要な展示会場が分散して立地し、国際的な展示会が多く開催されている。

ドイツ産業界が、展示会をBtoBコミュニケーションの中で重視し、その出展に意欲的であることは、AUMA(ドイツ見本市産業連盟)のレポートでも明らかだ。

世界最大のBtoBのIT関連専門展示会「CeBIT」では、毎年世界中の優れたIT技術を持つ国から1か国を「パートナーカントリー」とし、特別パビリオンの設置やフォーラムの開催を通し、その技術に焦点をあてて紹介している。ドイツの現役首相による会場視察は恒例で、メルケル首相は2014年はパートナーカントリーであったキャメロン英首相と、2016年は同じくスイスのシュナイダー=アマン大統領と一緒に会場を巡った。また、世界最大の産業技術にかかるBtoB専門展示会「ハノーバーメッセ」でも、2015年にはパートナーカントリーのインドからモディ首相を迎え、ドイツの「インダストリー4.0」とインドの「Make in India」というそれぞれの製造業を中心とした国の施策の下、連携を訴えた。また、2016年のパートナーカントリーはアメリカで、オバマ大統領がメルケル首相と共にオープニングツアーに参加した。

ドイツにおいて展示会を活用しているのは、産業界ばかりではない。政府もその外交政策の中に位置づけ、世界に向けた情報発信の場として戦略的に活用しているといえそうだ。(ちなみに「CeBIT」も「ハノーバーメッセ」も同じ会場である「ハノーバーメッセ」を利用している。海外の展示場は日本のものに比べて非常に規模が大きい。)

図 世界の展示場面積ランキング

資料:(株)ピーオーピー「2014年版展示会データベース」を参考に経済産業省作成

(イ)異業種への進出

これまで自社が属していた業種、業界から外に目を向け、自社の強みの技術や製品を他の業種に活用している事例もある。異業種へ飛び込んだきっかけは、アナログからデジタルといった技術革新や、主要な取引先の海外進出により事業が立ち行かなくなったこと、自社製品に対する異業種からの引き合いがあったこと等、様々だが、いずれも自社の強みである技術や製品をしっかりと認識していたから、またはそれを対外的にアピールし、発信していたからこそ、上記のような出来事をきっかけとしてそれらを応用し新たな市場開拓が可能となったのである。

コラム:金型で培った技術やノウハウを生かして3Dフィギュア事業に参入・・・(株)アムト

大手自動車部品メーカーのティア1として、主に自動車エンジン関係の金型の製作・補修を手がける(株)アムト(愛知県安城市)は、いち早く最新鋭の設備を導入し、他社に先行して加工ノウハウを蓄積することを重視しており、必要な設備は迷わず導入しているため内製率が高く短納期にも強みを発揮している。

そんな同社は3年前、これまでとは全く異なるBtoCの3Dフィギュア事業に参入しようと考え、翌年から研究開発に着手し、昨年事業化にこぎ着けた。今後5~10年先を見据えた際、事業環境が今よりさらに厳しくなることが予想され、かつ、3Dプリンタがものづくりにおいて大きなインパクトをもたらすと予想されたことから、石こうでフィギュアをつくり、人をどこまで精緻につくれるかに挑戦することで3Dプリンタによるものづくりのノウハウを蓄積し、将来の技術革新に備えようと考えた。

これまでBtoBの事業しか手がけた経験のない同社にとって、この3Dフィギュア事業をいかに知ってもらうかが大きな課題であったが、地元の新聞社が「あなたの模型 作ります」というキャッチコピーで取り上げてくれたり、その後、テレビでも取り上げられたこともあって全国から問い合わせが入り、注文にもつながった。ところが、蓋をあけてみると、「亡くなった主人のフィギュアをつくってくれないか」といった故人を偲ぶ注文が多く、これは想定外のことであった。

同社がフィギュアづくりで最も重視しているのは、写真では表現できない「温もり」である。写真からフィギュアを作り込むことも可能であるが、何体も作り込んでいく中で、人はそれぞれ立ち居振る舞いに特徴があることを実感し、スキャンした360度で感じるものを作り込むからこそ、写真とは違う“温もり”を伝えることができる。この360度の温もりを大切にするからこそ、写真からの制作はお断りしており、今だからこそ「カタチ」を残せるビジネスとして確立させたいと考えている。

これまでBtoBの金型製作を手がけてきた同社にとって、一般のお客様へ直接納品できる喜びは大きい。この喜びを表現する手段として、フィギュアを納品する際は必ず直筆の手紙を添えている。お客様とのコミュニケーションを大切にし、かつ、常に初心に返るためにも直筆の手紙は必要なことだと考えている。

±0.01ミリの精度で勝負する金型事業と、「ことづくり」で勝負する3Dフィギュア事業とは、顧客も要求技術もかなり異なるが、品質を落とさずに作業時間の短縮を図ることが課題のフィギュア事業には金型で培ったノウハウが生かされているという。また、フィギュア事業を通して自らの技術や製品をアピールすることの重要性が実感できたとして、今後も金型とフィギュアの相乗効果が期待されている。

図最新鋭設備と最新技術で、最高のカタチを届ける3Dフィギュア

コラム:腕時計部品の製造で培ったものづくりのDNAで時代変化を乗り切る・・・(株)小松精機工作所

かつて長野県の諏訪地方は諏訪精工舎(現セイコーエプソン)の腕時計をつくる協力企業が集積し、時計やカメラなどの精密機器製造業の一大集積地であったことから東洋のスイスと称されていた。(株)小松精機工作所(長野県諏訪市)も諏訪精工舎の腕時計の組立工場として1953年に創業し、協力企業の御三家の一角を占めていた。しかし、1970年代後半には時計生産の海外シフト及び成熟化が進み、親企業から自立化を指導された。仕事の全量を親企業に頼っていた同社は、これを契機に腕時計部品メーカーから電子部品やIT機器部品へと業態転換し、一時は情報電子部品の売上高が7割を占めるまでに至ったが、2001年のITバブル崩壊でその全量が一気に失われた。現在の主力事業は80年代から少しずつ手がけてきた自動車部品で、ガソリンエンジン燃料噴射装置のインジェクタ先端に装着されるオリフィスプレートでは世界シェア3割を獲得し、2003年からはタイ工場でディーゼルエンジン燃料噴射装置のコモンレールシステムの部品を生産している。

オリフィスプレートには斜め孔プレス加工を行い、その口径精度はわずか±0.15ミクロン。プレスは寸法保証が一般的であるが、同社のオリフィスプレートではガソリンの流量と噴射ビームの角度を保証するという「機能保証」を行っている。

事業環境変化に直面する度に主力事業の転換を図ってきた同社であるが、すべての事業に共通するのは「直径30mmの空間内にスムーズに動くメカニズムや機構部品を詰め込む」という腕時計部品の製造で培った超精密加工技術やノウハウ、感性や生産管理技術であり、これが同社のものづくりのDNAとして脈々と継承されている。現在もわずか2%ではあるが腕時計部品の仕事もしており、今も技術のルーツを大事にしている。

高精度(±0.005mm)微細(φ0.2mm以下)な切削技術

オリフィスプレートへの斜め孔加工

コラム:自動車部品メーカーが開発した、美しいカクテルシェーカー・・・横山興業(株)

我が国の基幹産業である自動車産業。愛知県豊田市にある自動車部品メーカーの横山興業(株)は、シートの骨組みをはじめとする自動車部品などの製造・販売を主力とするトヨタ自動車の下請け企業である。

同社の創業者の孫である商品企画室長の横山哲也氏は、大学卒業後にウェブ製作会社に勤めていたが、同社のタイ進出に伴い入社し、タイと日本との間を往復するようになった。そこで、製造業が持つダイナミックさに魅力を感じ、大企業の下請けという立場にとらわれず、自社の技術力を活かした商品開発ができないかと考えるようになった。

創業以来、同社が約60年にわたって腕を磨き続けてきた高精度な金属研磨技術に着目し、金型ではなく商品そのものに活用しようと思案する中、密閉して液体を混ぜるカクテルシェーカーが理屈にかなうのではと名古屋のバーでヒントを得て、カクテルシェーカーの内部加工に応用した。従来の工法で研磨されたシェーカーの内部断面を計測したところ、内部表面がミクロのレベルでノコギリ状になっており、カクテル素材にダメージを与えていることがわかった。しかし、内側を磨き過ぎると逆に味わいが消えてしまう。そこで、0.1ミクロン単位まで精密に研磨しつつ、最適な凹凸バランスを残すことで、アルコールや果汁などの素材の風味を存分に引き出すことに成功した。また、磨く方向を縦方向にすることで、中の液体の流れを加速化させるなど、商品の改良を重ねた。

開発当初より海外市場を意識した商品企画が功を奏し、発売2年で英国やドイツなどカクテルの本場であるヨーロッパから販路を広げ、現在では海外13の国と地域で展開し、同商品の売り上げの約6割が海外で占められている。また、自動車部品メーカーによるテーブルウェア商品の開発は、バイヤーの目線からも目新しく映り、国内では大手百貨店などでも取り扱いされている。

ブランド名の「BIRDY.」(バーディー)は、ゴルフのバーディーから来ており、水準を意味するパーよりも一段階良いものを作るという意味が込められている。BtoBの下請けメーカーが、培ってきた技術、強みをBtoCに転用させ作り上げた美しい流線形のカクテルシェーカーは、中小企業が新たなジャンルに挑戦し、世界に展開している好事例だ。

「BIRDY.」

コラム:航空機部品事業で培った技術を注ぎ、自転車用パーツの新規事業を立ち上げ・・・(株)近藤機械製作所

(株)近藤機械製作所(愛知県蟹江町)は、専用機の設計・製作や各種金型製作、精密加工を主な事業とする企業である。同社は、専用機事業で培った機械設計の技術に加え、2000年代以降は航空機のジェットエンジン用軸受け部品の加工を受注するなど、難削材の精密加工技術にも定評がある。

そんな同社が2010年から取り組み始めた新規事業が、自社開発の自転車用ハブ、ホイールの製造・販売を行う「GOKISO」事業である。ロードバイク等、競技用自転車のユーザーは、プロのレーサーからアマチュアの愛好家まで幅広く、その需要に応えるように機体や部品も年々進化している。しかし、ジェットエンジン用軸受けという難易度の高い加工を得意とする同社から見れば、まだまだ改善の余地があるように感じられたという。そこで同社は、自社が持てる全ての技術とノウハウを注ぎこみ、ロードバイク用ハブを一から開発することを決断した。

そのようにして完成したハブ「GOKISOハブ」は、コンセプト、素材、構造、価格まで、どんな既製品にも似ていないオリジナリティあふれる製品となった。

一般的に、自転車の部品は「軽さ」が徹底的に重視される傾向にある。既存の製品は「1グラムでも軽くする」ことに重きが置かれており、高価なモデルでは、カーボン製の100グラムを切る製品も販売されている。一方で、GOKISOハブがこだわったのは、軽さではなく「回転性能」である。ジェットエンジン用軸受けと同じ衝撃吸収構造を持たせ、同じ素材(チタン合金、アルミ合金)を用い、同じ機械で精密加工を施しており、重量は大きい代わりに、悪路などの過酷な条件下でも圧倒的な回転性能を発揮する。価格も、市販の高価格帯モデルと比べても数倍から数十倍という、既存製品のカテゴリーにとらわれない設定となっている。

業界の常識に挑戦するような製品となったGOKISOハブは、ある意味当然の帰結として、自転車用パーツを扱う商社や卸売事業者からほとんど関心を得られず、発売当初は全く売れなかったという。

しかし同社は、自社で試験機を作り性能試験のデータを蓄積・発信したり、展示会や試乗会に積極的に出展して自転車愛好家に試乗してもらう機会を作るなど、地道な努力と試行錯誤を繰り返し、独自のブランドと販路を形成。今では、同社の売り上げの20%程度にあたる、年間1億円以上を売り上げ、主要事業の一つとなっている。ここ数年はアジアや欧州をはじめとする海外への売り上げも増加しており、ニッチな領域ながら成長の余地も大きい。

「ものづくり中小企業が自社の強みを活かしてニッチな領域で新規事業を立ち上げ、世界に向けて販売していく」というモデルは、国内需要の減少が見込まれるわが国において、中小企業の目指すべき方向性の一つと考えられ、近藤機械製作所とGOKISO事業はその点でも示唆に富んだ事例と言える。

近藤機械製作所が製造・販売する「GOKISO」ハブ、ホイール

②既存事業と新技術の組合せによる開発

すでに自社にある既存事業の技術などの強みの部分と、新しい技術や他社の技術とを組み合わせることで、新しい価値を生み出すことにより、事業の多角化や異業種・海外への進出などを可能にすることも期待できる。

(ア)適材適所の素材配置

環境負荷の低減を背景に輸送用機械などを始めとして、マルチマテリアル化などにより最適な材料を最適な場所に配置する方向性は加速している。自動車業界では、安全性を確保しながら燃費や走行性を向上させていくために、異なる素材を組み合わせて強度は維持しつつも軽量化を図るなど、適材適所の素材配置により新しい価値を追求している(図132-39・40)。また、航空機業界においても、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の使用やそれに伴うチタン使用量の急増なども見受けられる。

我が国が強みを持つ素材産業において、既存の材料を別の材料に置換するのは簡単ではないが、単一材料の進化だけではなく、オープンイノベーションなどを通じて異種材料との組合せなどに取り組むことで、ユーザーの問題解決やソリューション提案型へと進化し付加価値を高めていくことが期待される。

図132–39 車体軽量化に向けたマルチマテリアル化

出所:新構造材料技術研究組合

図132–40 鉄からの素材置き換え方向性

コラム:顧客の課題を解決するため、自社の強み・技術をうまく活用・・・三井化学(株)

三井化学(株)は、シーズオリエンテッド型のアプローチからマーケットイン型への転換を図り、顧客の抱える課題を解決するソリューション提供に力を入れている。自動車業界(モビリティ領域)に対する全社横断的なマーケティング推進を担う新モビリティ事業開発室では、重要顧客への全社的対応による製品拡販と、モビリティ領域における新事業創出に取り組んでいる。

新事業創出の取り組みの中で開発された代表的なものの一つが、金属樹脂一体化技術(ポリメタックTM)である。ポリメタックTMは、アルミやステンレス等の金属に微細孔を形成することによって高い強度でポリアミドやポリプロピレン等の樹脂を接合する技術であり、自動車部品の軽量化や部品点数の大幅削減等への貢献が期待されている。

同事業の特徴はオープンイノベーションである。同社は他社のライセンスを得て技術開発をスタート、さらに、ソリューション提供には川下の加工プロセスに関する知見が必須と考え、2014年に国内大手金型メーカーを買収している。自社が強みを有する化学技術を基盤としながら、オープンイノベーションでソリューション提供力を強化し、ポリメタックTM顧客に新たな価値を提案しようとしている。

ポリメタックTM

接合可能金属・樹脂

コラム:1枚の樹脂シートからハニカム構造部材を量産する製造プロセスを確立し、新規市場を開拓・・・岐阜プラスチック工業(株)

プラスチック製品の総合メーカーである岐阜プラスチック工業(株)(岐阜県揖斐郡大野町)は、コンテナ・パレットといった物流用資材をはじめ、家電・自動車部品、医療関連品、家庭用品など、日常生活に身近な商品から産業分野に至るまで幅広く手がけている。省資源・省力化など環境性能に優れたものづくりを目指す同社は、高強度で超軽量なハニカム構造状のプラスチック素材「TECCELL(テクセル)」を商品化し、様々な市場で展開している。

ハニカム構造とは、蜂の巣のように、中空の六角柱を隙間なく並べたものであり、単位重量あたりの強度は、あらゆる構造体の中でも最高レベルと評価されている。従来、ハニカム構造の部材はアルミ製や紙製がほとんどで、プラスチック製のものは、接着性が悪いなど製法・加工性の問題からほとんど普及していなかった。こうしたなか、同社は、欧州で考案された技術をもとに、プラスチック材料によるハニカム構造体の量産化に世界で初めて成功した。大手商社を介して、ベルギーのルーベン大学から発足したベンチャー企業の持つサブライセンスを取得し、当時、技術的に成熟していなかった「TECCELL」の生産技術の開発に思い切った投資を行い、試作・量産体制を自社で整備した。

「TECCELL」の特徴は、曲げ剛性が同じという条件で、重量が対アルミで約3分の1、対スチールで約7分の1となり、大幅な軽量化を図れる点である。また、吸音性・断熱性が高く、金属、不織布など異素材との組み合わせ(接着)も可能である。

さらに「TECCELL」では、曲げ等の自由度の高い立体成形が可能という強みもある。従来の紙やアルミ製のハニカム構造体は、加工の難しさから、平坦な板材としての使用がほとんどであった。しかし、「TECCELL」の場合、熱可塑性という素材本来が有する特徴と同社が独自で開発した3次元成形技術を融合させることで、金型成形や加熱による曲げ加工等が可能となったため、デザイン性が豊かな製品を生み出せるようになった。

また、こういった高い量産性から、同製品は、太陽光パネルの基材として既に実用化されており、耐荷重不足で制限されていた屋根の設置面積を増やすことに貢献している。同社の主力製品である物流分野においても、コンテナ等の軽量化により、運搬等の作業負荷の軽減を図ることができる。さらには、軽量化への要求が厳しい自動車内装材においても採用され、燃費の向上による省エネ化に貢献している。

「TECCELL」の構造

「TECCELL」の立体加工例

「TECCELL」の製造プロセス

コラム:マルチマテリアル化の取組・・・(株)神戸製鋼所

(株)神戸製鋼所は、鉄鋼・溶接・アルミ銅・機械・エンジニアリングなど数多くの事業部門を有する複合経営企業である。素材である鉄鋼・アルミと、溶接の各技術を同時に保有する企業は世界的に見ても希少であり、この利点を自動車のマルチマテリアル化に活かす戦略を推進している。

世界主要国の自動車販売台数予測では、2025年において、2010年の2倍以上と伸張していくため、排ガス規制の一層の厳格化と自動車の安全性への関心が高まっている。

排ガス規制に対する技術的対応策としては大きく2つの方向性があり、「パワートレインの改善」と「自動車本体の軽量化」が挙げられる。軽量化については、素材のハイテン化、アルミ合金化あるいは炭素繊維化を進めることに加えて、これらを組み合わせた「マルチマテリアル化」の推進も必要である。マルチマテリアル化に関しては、欧州の自動車メーカーが技術開発で先行しており、すでにパーツの過半にアルミ合金を使用した自動車が販売されている。今後、このマルチマテリアル化の動きが、今後、世界中に拡大していくと考えられる。

この動きを受けて、先進国では車体軽量化・マルチマテリアル化に関する産学官連携の大型プロジェクトが推進されている。(株)神戸製鋼所では、日本政府の推進する「新構造材料技術研究組合(Innovative Structural Materials Association、略称ISMA)」に参画すると共に、(株)神戸製鋼所独自でも、シンプルな異材接合技術(写真1)や衝突評価技術(写真2)等の開発を進めている。

異材接合技術の例(鋼-アルミ合金継手のレーザブレージング)

衝突試験設備の外観(㈱神戸製鋼所 神戸総合技術研究所内)

コラム:環境調和型革新素材 セルロースナノファイバー・・・ナノセルロースフォーラム(産総研コンソーシアム)

セルロースナノファイバー(以下、CNF)は木材から化学的・機械的処理により取り出した直径数~数十ナノメートル(1ナノメートル=10億分の1メートル)の繊維状物質で、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強度を持ち、熱による膨張・収縮が少なく環境負荷の少ない植物由来の素材である。

そのため、革新素材として大きな期待が高まっており、国内でも企業によるパイロットプラントの建設・稼働が進んでおり、様々な製品化への取組が動き始めている。

政府の成長戦略にも研究開発や国際標準化を進めるべき、と位置づけられており、経済産業省や農林水産省、環境省、文部科学省における省庁連携の取り組みも進められている。

ナノセルロースをいち早く実用化・普及させるためには、素材、加工、製造装置といったナノセルロースの実用化を担う各研究開発主体、事業主体の間において、また製紙企業、化学製品企業などの供給サイドと情報家電、自動車、化粧品などの需要サイドとの間において、関係者相互の情報共有、意見交換、研究開発連携を進めるオールジャパンベースの場を構築することは大きな意義がある。これらの関係機関の連携を深め、ナノセルロースの導入を促進するため、ナノセルロースフォーラムは2014年6月に産総研コンソーシアムとして設立され、現在200社近い企業と70名以上の大学・研究機関の研究者が参加し、オープンイノベーション型の取り組みを推進している。

セルロースナノファイバー

(左)セルロースナノファイバー 1wt%水懸濁液(右)CNF 強化低熱膨張透明シート

資料:京都大学矢野研究室

セルロースナノ材料の拡がり

資料:京都大学矢野研究室

>セルロースナノファイバー推進のための産学官連携体制

資料:経済産業省

(イ)伝統技術と新しい技術の融合

伝統産業においては、これまで脈々と何代にも渡り受け継がれてきた技術や職人の技がある一方、ライフスタイルや価値観の変化、汎用品の普及などに伴い、伝統的な製品がそのままでは受け入れられなくなってきていることも否めない。伝統工芸品産業における2012年の従業者数は約7万人とピーク時と比較して4分の1程度となっており、また、生産額も約1,000億円と5分の1程度に減少している(図132-41)。一方で、モノがあふれる時代だからこそ、伝統品のもつ味わいや美しさ、きめ細やかさなど、伝統品の良さが見直されつつもある。

我が国の技術力の原点として、また、地場産業として、広く地域社会に貢献してきた伝統的なものづくりの技術を継承していくと同時に、新しい技術やマーケティングなどを取り入れることにより、用途の拡大、ひいては展開地域の拡大に繋げていくこと、今の時代に合った変化や工夫を取り入れていくことが、今後の事業継続において重要な要素の1つとなると考えられる。

図132–41 伝統工芸品産業の生産額と従事者数の推移

コラム:高耐久性漆器の開発により、鑑賞用の”見る工芸”から日常生活で活用できる”使う工芸”へ・・・(有)東北工芸製作所

艶やかな光沢と華やかな色調が特徴の「玉虫塗」は宮城県指定の伝統工芸品で、東北の産業育成のために国策としてつくられた特許技術を(有)東北工芸製作所(宮城県仙台市)が実用化し、地場産業として発展させてきた。しかし、近年はライフスタイルが変化する中で鑑賞用途にとどまり衰退の危機にさらされていた。これに追い打ちをかけたのが東日本大震災で、地元贈答品や記念品が相次いでキャンセルとなり、観光客も激減して土産物としての需要も激減し、経営の危機に直面した。

海外への販路開拓も試みたが、外国人は漆器を食器洗浄機に入れてしまうなど、日本人なら誰もが知っているような漆器に対する知識を持ち合わせていない。そこで、もっと日常の生活シーンで気軽に使える漆器を開発しようと、産業技術総合研究所東北センターと共同研究を行い、漆器の耐擦過性、耐候性、耐紫外線性を向上させるナノコンポジット技術を用いた保護膜を開発した。これは産総研がもともと自動車など様々な製品のコーティング用に開発を行った無機有機ナノコンポジット材料「クレースト」の技術や、透明な有機化合成粘土を用いたもので、さらに卓越した技能を持つ塗師の職人技をもって産業化が可能となった。

伝統技術の高度化により、現代のライフスタイルに合わせた食器への漆工の展開が広がるとともに、食器洗浄機の使用にも耐えられるため海外への販路拡大も可能となった。さらに、自動車の内装部品や携帯電子機器といった工業品への用途拡大も期待でき、新提案型地場産品のトップランナーとなって、宮城の復興工芸品の成功モデルとなることが期待されている。

高耐久性玉虫塗の作品

無機有機ナノコンポジット材料を用いるコーティング

コラム:色移りしない高品質の久留米絣を開発し、洋装や雑貨への用途拡大・・・(株)オカモト商店

絵柄を織り出す十字や市松、井桁などの「たてよこ絣」を特徴とする久留米絣は200年の歴史をもち、特定の条件でつくられる久留米絣の伝統技術は国の重要無形文化財にも指定されている。(株)オカモト商店(福岡県久留米市)は世の中のファッションが和装から洋装へと変化していく中で久留米絣の可能性を追求し続け、「儀右ヱ門」「ギエモン」「KURUMI」という絣を使った多様なブランドを展開している。しかし、近年は生活様式の変化や色移り・色落ち等の問題から絣の需要や販路が縮小し、新たな染料技術の開発に迫られていた。

久留米絣では、染色箇所と未染色箇所の境界を鮮明にするために、絣糸の染色には防染可能な濃色の藍やナフトール染料が使用されてきた。しかし、ナフトール染料は洗濯や摩耗などによる色落ちが発生するため、天然藍以外は大手百貨店や通信販売への参入が難しいという課題に直面していた。さらに、ナフトール染料はその原料の有害性の疑いから欧州等で使用や輸出入に規制がかけられるなど、販路開拓上の障害となっていた。

そこで、地元企業が福岡県工業技術センターと一緒に、化学反応によって繊維と強く結合する反応染料による新たな染色技術を開発した。新技術は「染料の浸透」と「繊維との結合」を同時に行う方法で、染色条件を工夫することで絣独特のくくり部分の防染に成功し、従来染料では実現できなかった濃色かつ境界部分の明確化が可能となった。また、原色からパステルカラーまでの色彩表現が可能となり、洋装や雑貨などへの用途も広がった。商品開発には色使いが最も重要であるが、女性社員が8割を占めており、女性目線が大いに活かされている。さらに、新技術による染色では洗濯や摩擦等による色移り防止が可能となったため、百貨店への販売も広がり、また、ナフトール染料を使わないことで欧州等の海外への販売もスタートしている。

産地が連携して新技術の採用を働きかけることにより、2013年には久留米絣の総生産量の8割が新しい染色技術を用いた製品へと切り替わり、久留米絣を用いた新製品開発や新分野開拓の企画が活発化するなど、久留米絣業界全体の品質向上や産地活性化につながっている。

従来技術(左)に比べて開発技術(右)は境界が鮮明

雑貨などへも展開

コラム:伝統と革新を融合させた「未来工芸」に込めた思い・・・(株)雪花

(株)雪花(石川県金沢市)は金沢を拠点に、工業デザイナーの機能美と、工芸家の手仕事による工芸技術を重ね合わせた独自の製品作りを特徴とするベンチャー企業である。

同社メンバーの3人はそれぞれ独特の経歴を持っており、代表兼デザイナーを務める上町氏は金沢美術工芸大学を卒業し、大手カメラメーカーデザイン部に所属していた。取締役の柳井氏も金沢美術工芸大学を卒業後、大手の音響機器メーカーに勤務していた。また、宮田氏は世界初の着メロ事業を世に送り出したクリエイターであり、多彩な人材が揃っているのである。

同社は独自の「ASCEL」ブランドで、伝統的な工芸技術を踏襲しつつ、斬新で型破りなデザインの器で注目を浴びた。もちろん、彼らの特徴はデザインだけではない。彼らは3DCADや3Dプリンタを駆使することで試作から製品化までのプロセスを簡略化し、従来の型に依存せず、オリジナリティー溢れるデザインを数多く作り出すことを可能とした。また、手ロクロでは作り出すことができないような滑らかな曲線を描くデザインは、同社のポリシーでもある実用性をとことん追求して生み出したものである。

最近では、料理人と共同で器の開発も行い、活躍のフィールドを確実に広げている。モノづくりのプロと料理のプロが本気で向き合い、ガチンコ勝負を繰り広げながら器作りに取り組んでいる。いずれは、ビジネスのフィールドを海外へと広げ、食卓や居住空間の中で、同社の世界観と新しい日本のものづくりを世界へと発信していくことを目指している。

(株)雪花のメンバーと作品

同社の工房にて。左から順に、上町氏、柳井氏、宮田氏

コラム:工芸品の産地と消費者をつなぐ工芸品版SPAで日本の工芸を元気に・・・(株)中川政七商店

工芸品の一般的な流通ルートにおいては、製造工房から産地の卸問屋を経て、小売りまでの過程で複数の問屋を経由することが少なくない。このように、作り手である工房と消費者の間に介在する主体が多くなっていることで、もともと工芸品の持つ歴史や意味、職人の込めた想いなど、消費者に響く「ストーリー」が失われてしまっていると、(株)中川政七商店の中川社長は指摘する。同社は、奈良晒(奈良県で無形文化財に指定されている麻織物)の問屋をルーツとし、今年で創業300年を迎える、茶道具や麻織物を主とした各種生活工芸品を総合的に取り扱う製造・小売事業者であるが、工芸品の魅力を消費者に伝えるため、自らが全国の工芸品を買い付け、ブランディングから店舗のデザイン、PRに至るまでを一元的に担うSPA機能を構築し、工芸品の魅力を消費者に届けるビジネスを行っている。

工芸品と地方の土産物屋をつなぐ「日本市プロジェクト」という活動も始めている。本来、工芸品といえば地域の土産物屋が主な販路であったが、卸問屋の減少により工芸品のサプライチェーンが弱体化した結果、土産物屋の工芸品取扱量が減少。中川政七商店は、自らが企画した製品を地方の工房に製造委託し、地域の土産物屋で販売する仕組みを構築。工房は商品の売れ残りのリスクを抱えずに済み、土産物屋も中川政七商店のブランド力で売上を向上させることができるといったように、ウィン・ウィンの関係を仲介する役割を果たしている。

また同社は、産地の工房に対するコンサルティング業務も実施している。産地の卸問屋の減少によって、それまで「製造部門」であればよかった工房にも受発注や経営の機能を担うことが求められている。同社が教えるのは難しい経営論ではなく、実践的で当たり前の経営である。中小企業経営者が「普通の経営」を学ぶ機会が必要であると中川社長は指摘する。

中川政七商店は、こうした活動を通じ、「日本の工芸を元気にする」をスローガンに、産地の一番星を生み出すことで工芸品産業の活性化を目指していく。

「日本市プロジェクト」ロゴ

日本市プロジェクトの「仲間見世(なかまみせ)」の取組

③自ら市場の主導権を持つためのルール戦略

国内外を問わず、市場を拡大していくためには様々なビジネスルールへの対応が求められる。一口にビジネスルールといっても国際標準から法規制、商習慣レベルのルールまでまちまちであるが、企業のグローバル展開やサプライチェーンの国際化、複雑化に伴いビジネスルールが各国の社会課題を発端に変わる時代となっている。こうした、ルールへの対応の為に多大なコストが発生したり、新規参入が阻まれるなど、事業活動に大きく影響する。欧米ではルール形成を経営戦略の柱に据えている企業もあり、ルールを形成していくことはマーケット拡大における一つの重要な戦略といえる。

ビジネスルールの変更による不利益の経験が「ある」と回答した企業は海外展開を行っている企業で17.5%と、輸出がない企業の倍以上の割合に上っており、海外での事業活動においてビジネスルールが問題となるケースが多いことがわかる(図132-42)。特に欧米企業は日本の重要市場であるアジアにおいてルール形成を展開している事例も見られる。また、国内市場中心の企業にとっても無縁ではなく、FTAなどのグローバル通商ルールが間接的に影響を及ぼす可能性もある。

企業規模別では、大企業の26.8%、中小企業においても12.1%が不利益の経験が「ある」と回答している。比率としてはグローバル展開が進んでいる大企業が高いものの、母数の違いから、企業数としては圧倒的に中小企業の方が多く、中小企業にとっても重要な問題であることが分かる(図132-43)。

図132-42:ビジネスルールによる不利益(海外展開の有無)

図132-43:ビジネスルールによる不利益(企業規模)

Excelファイル 図132-42:ビジネスルールによる不利益(海外展開の有無(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図132-43:ビジネスルールによる不利益(企業規模)(xls/xlsx形式)

こうした問題に対し、自社に有利となるようなルール改正などの働きかけの経験について「ある」と回答している企業は大企業でも7.3%に留まっており、総じて消極的な姿勢がうかがえる(図132-44)。しかし、中小企業であっても戦略的に取組みを行っている企業が数多く存在し、「ある」と回答している企業の内、92.2%は中小企業が占めている(図132-45)。

図132-44:企業規模×ルール形成の取組み

図132-45:ルール形成の働きかけの経験「あり」×企業規模

Excelファイル 図132-44:企業規模×ルール形成の取組み、図132-45:ルール形成の働きかけの経験「あり」×企業規模(xls/xlsx形式)

以下はルール形成への働きかけを行っている企業について業績動向を示したものである。ルール形成の働きかけの経験が「ある」と回答した企業は「ない」もしくは「わからない」と回答した企業に比べ売上高、営業利益の実績について「増加」若しくは「やや増加」の割合が高い。また、今後3年間の見通しについても、特に海外売上高、海外営業利益に関して「増加」若しくは「やや増加」との回答比率が高くなっている(図132-46~49)。

図132-46:ルール形成の経験×売上高

図132-47:ルール形成の経験と営業利益

Excelファイル 図132-46:ルール形成の経験×売上高(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図132-47:ルール形成の経験と営業利益(xls/xlsx形式)

図132-48:ルール形成の経験×海外売上高見通し

図132-49:ルール形成の経験と海外営業利益見通し

Excelファイル 図132-48:ルール形成の経験×海外売上高見通し(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図132-49:ルール形成の経験と海外営業利益見通し(xls/xlsx形式)

コラム:業界の習慣を打破し、新たな価値創造に挑戦・・・錦正工業(株)

鋳造業界には「キロ単価取引」という習慣がある。量産の鋳造工場において「キロ単価」という指標そのものは、ライン全体の実力を測るうえで合理的かつ有効な手段ではある。しかし、個別の製品価格交渉でもこのキロ単価が指標となる場合が多いため、技術を高めて複雑形状や薄肉軽量化を実現すると売値が下がる。「こんな状況の中で技術革新など起きるはずがない」と錦正工業(株)(栃木県那須塩原市)の永森久之社長は疑問を投げかける。モノの価格は顧客が決めるものであり、その価格でモノを作れない企業は市場から淘汰されるという考え方は全くその通りであるが、それは市場で代替可能品が容易に調達できる場合の話であり、付加価値が高く代替可能性が低いモノは相応の価値で取引されるべきである。自らの存在や技術が生み出さす本来の価値に気が付かないまま苦しい競争に明け暮れ、疲弊してしまっている中小企業があまりに多い。と永森社長は主張する。

鋳物という成熟した市場のなかで新たな価値の創造にチャレンジする従業員32名の錦正工業(株)は、少量・超短納期・難易度が高く材料歩留まりも悪いなど、同業他社がやりたがらない仕事にターゲットを絞り、いち早くキロ売りを廃止し、製品本来の価値を重視した個別価格設定に切り替えた。また、機械加工・表面処理・アセンブリまで社内対応できる技術を確立することで、発注側の負担を軽減し、付加価値を生み出した。同時にこれは、これまで別々の企業が担ってきたために難しかった工程間の利害調整がすべて自社内で完結できることを意味し、この繰り返しがすり合わせ技術の蓄積につながり、今では顧客の開発フェーズから参画し最適化設計の提案が可能となった。そして、信頼できる仲間とのネットワークも拡充させ、鋳物と加工に関する困りごとは、ほぼ解決できる体制を整えた。このようにして、自社の強みを活かせる価値ある仕事を見極めることで生まれた成果は、自社の従業員への還元や未来へ向けた新たな技術開発の投資にまわしている。

さらに、新たな価値創造の取組として「FENA(フィーナ)四季」というブランドを立ち上げた。第一弾製品のワインクーラーは、鋳造では不可能とされている完全密閉中空構造となっており、2016年2月ドイツ・フランクフルトで開催された世界最大の国際消費財見本市 Ambiente2016 で賞賛の声を集めた。自社の持つ鋳造技術と仲間の持つ特許技術やプロダクトデザインを融合させ、伝統的な鋳物に新たな価値を生み出したこの事例は非常に興味深い。

「脱下請け」が叫ばれて久しいが、自ら見積価格を提示せず言い値で取引をしている、あるいは原価情報を開示して薄い利益を載せた価格で取引をしている中小企業が少なくないのが現実である。しかし、同社のように、中小企業であっても自らの強みをしっかりと把握すれば、他社には簡単には真似ができないその強みを武器にその付加価値を堂々と提案する「脱下請け体質」へと変わることができる可能性がある。中小企業の経営者に求められるのは、自社の強みの把握と、それを活かせる価値のある仕事の見極めではないだろうか。このような中小企業が増えていけば、将来にわたって我が国の誇るものづくりの技術が伝承され、高められ、あるいは中小企業による前向きな投資を呼び、ひいては我が国製造業全体の競争力の向上につながっていくのではないだろうか。

FENA(フィーナ)四季ブランドのワインクーラー

ドイツ・フランクフルトのAmbiente 2016にて

図132-50:ルール形成の経験と国内工場におけるデータ取得

 また、ルール形成の働きかけの経験が「ある」企業は国内工場における何らかのデータ収集の比率や熟練技能のマニュアル化、データベース化の比率が高い(図132-50・51)。
 特に熟練技能のマニュアル化・データベース化に関しては、その効果として「自社の強みとする領域の特定に役立った」との回答比率が相対的に高い(図132-52)。強みの把握については前項でも述べているが、ルール形成のように外向きの働きかけとも相関があることがうかがえる。
 

Excelファイル 図132-50:ルール形成の経験と国内工場におけるデータ取得(xls/xlsx形式)

図132-51:アンケート:ルール形成の経験×熟練技能のデータ化

図132-52:熟練技能のデータ化の効果

Excelファイル 図132-51:アンケート:ルール形成の経験×熟練技能のデータ化(xls/xlsx形式)

Excelファイル 図132-52:熟練技能のデータ化の効果(xls/xlsx形式)

特に、国際的なルール形成は、各種の課題を発見し、概念・理念を通じてこれを定式化し把握するところから始まることが多く、仮にこうした議論の初期段階から関与することができなかった場合には、ルール形成の過程に実質的に参加することは出来ない。その場合、優れた製品・サービスを有していたとしても、既に作られた国際ルールを所与のものとせざるをえないため、その強みを十分に発揮できない可能性がある。したがって、こうした事態を避けるために、我が国は、政府・企業の双方が、課題設定やコンセプト構築などの制度設計の初期の段階から議論により積極的に参画し、自らの製品・サービスが適切に評価されるような制度や仕組みを構築する必要がある。その際には、経済的価値のみならず、環境や安全といった社会課題の重要性が国際的に高まっていることを受けて、そのような社会課題の解決に貢献する製品・サービスの「非価格競争力」が適切に評価される国際ルールを策定することが重要となる。

グローバル市場で求められる安全性・信頼性への説明責任・・・RAMS規格

日本には世界に通用する優れた技術、実績が多数存在する。しかし、日本の鉄道システムが安全性、正確性、技術力において世界でもトップクラスの水準を誇っていても、世界市場で思わぬ苦労を強いられた例が存在する。

鉄道システム全体の安全性や信頼性を評価するために、欧州が中心となって策定した国際規格であるRAMS規格の適用が求められる場面が増えている。システムのライフサイクル全体にわたる信頼性、アベイラビリティ、保守性、安全性について、システム開発者等が自らの説明責任を果たすためにRAMS規格が活用されている。日本から鉄道システムを輸出する際にもRAMS規格への対応が求められるようになってきている。

これまで、日本では社会インフラ関連の大きな国内市場を有していたことから、グローバル展開に不慣れであったこともあり、RAMS規格の重要性についてあまり認識されてこなかった。そのため、RAMS規格にのっとってグローバル市場の場で安全性や信頼性を立証する際に、想定していなかった多大なコストが発生したと言われている。グローバル市場では、国際標準に則った説明責任が求められることを前提に対応を進めることが重要となるのである。

ルール形成へのアプローチの方法は、マーケットにおける自社の立場、その国の文化等によってさまざまである。

こうした差異をよく理解した上で、日本が優れている点をよく説明し理解を得ていくことも重要である。

以下は、特に外国におけるルール形成について、そのプロセスに沿った特徴的なパターンをまとめたものである。これらのパターンは網羅的なリストではなく、有効な手法の主な例ではあるが、企業がルール形成に取り組むに当たって、念頭に置くことが望まれる(図132-53・54)。

図132-53:外国におけるルール形成プロセス

図132-54:外国におけるルール形成の特徴的パターン

コラム:中堅・中小企業における標準化の戦略的活用により販路開拓に成功した取組事例(IDEC、大成プラス)、 「標準化活用支援パートナーシップ制度」で全国に拡大

グローバル化が進む中、国内外での新たな市場を開拓するには、「良いものを作る」のみならず「売るためのルール作り」にも関与していくことが重要となっている。ルール形成の有効な手段が、「標準化」だ。特にブランド力の弱い中堅・中小企業にとっては、戦略的な標準化が重要となる。例えば、中堅・中小企業が持つ新たな技術や優れた製品が市場で際立つような評価方法や品質基準などを標準化(ISO/IEC、JIS化)することで、自社技術や製品の市場での信頼性や認知度の向上に加え、市場での迅速な普及が期待される。

欧米等中心かつ大企業中心に議論が進められがちな国際標準化の世界で、国際標準化をリードし、シェア拡大に成功した中堅・中小企業のひとつが、大阪の制御機器メーカーのIDEC(株)(従業員783名)である。同社はかつて、国際標準づくりに民間企業が参加できることを全く知らず、産業用スイッチの国際標準化が欧米サイズで行われてしまったため、日本サイズが規格化されずに市場を喪失するという苦い失敗経験をし、国際標準化の重要性を認識。標準化を事業戦略の重要な要素と位置づけ、同社C.T.O.自らが率先して、国際標準化機関の国際会議の議論の場に参加するとともに、研究開発・標準化・知財(特許)を一体的に扱う社内体制を構築し、標準化をビジネスツールとして戦略的に活用している。とりわけ、同社が開発した、3 ポジションイネーブルスイッチ(予期せぬ危険事象が発生した際に、手を離すもしくは強く握り込む人間の反射的な動作で機械を停止させる、ロボットの安全操作用スイッチ)の国際標準化では、自社の強みであるスイッチ機構の要所となる部分は特許により独占し(クローズ)、他方、非差別化領域(協調領域)となる部分に限定して標準化(オープン)する国際標準づくりを主導。産業用ロボットの国際標準化も推進した結果、世界市場でも広く受け入れられ、世界シェア9割を達成(自社推計)。ロボット革命の実現(第1節図113-37参照)に重要な役割を果たす人協調ロボットにも採用されつつある。

IDECの3ポジションイネーブルスイッチの製品群

IDEC製品の概観図がIEC規格の中に採用

資料:経済産業省・日本規格協会・日本商工会議所 パンフレット ~標準化をビジネスツールに~

また、東京・日本橋にある射出成型を行う中小企業の大成プラス(株)(従業員43名)は、樹脂と金属をナノレベルで接着剤なしに極めて強固に接合させ、ハンマーでたたくと接合部分より先に金属が曲がるという奇跡のような技術の開発に成功。これを持ってヨーロッパの主だった自動車メーカーを軒並み訪問したが、驚きと関心を持って話は聞くが次に出てくるのは、「どのようにして品質保証が出来るのか」。その性能を客観的に証明できず、新市場開拓の壁に直面。そこで、自社接合技術の強度の評価方法を、大手樹脂メーカーや公的研究機関(産総研、公設試験所)等の協力も得ながら、国際標準化(ISO)提案を実施。同社の会長は、『金属と樹脂の接合強度の評価方法がISO規格として進行中との情報がネットで流れた事で、今まで会うことすら出来なかった企業が来社するようになった。』という。2015年8月には国際標準(ISO)の発行が実現し、国内外での認知度がさらに大きく向上。これまで進出できていない、海外市場を含めた自動車や航空機分野といった新たな市場での本格参入を展開中。

大成プラスの接合可能な素材

大成プラスの適用例:ソニー製の製品に実装

資料:経済産業省・日本規格協会・日本商工会議所 パンフレット ~標準化をビジネスツールに~

「標準化活用支援パートナーシップ制度」の概要

コラム:「ものづくりの産業構造をRe-Designする。」ルールづくりを・・・(株)クルーズ

(株)クルーズ(東京都港区)は製造設備市場における売り手と買い手を結ぶプラットフォーム「Cluez」を運営する企業である。製造設備、つまり生産財に関して、製品の分類すら明確になっておらず、設備のスペック情報の判定は、購買側の探すスキルに依存している。また、設備機器メーカー各社が提供している設備機器に関するスペック情報が統一されていなかったり、部品名称に関して企業によって異なったりするため、横比較が難しい問題もある。当然ながら、メーカーを横断しての製品同士の組み合わせに関しては更にハードルが高くなっている。こうした製造設備産業の課題に対し、Cluezでは、製造業企業が調達するあらゆる製品を網羅的に掲載するとともに、最新のWebテクノロジーを活用することで、ユーザーに対し情報収集から製品選定までに必要な一連の情報をワンストップで提供している。また、出展企業に対しても最先端のデータ解析技術を活用した分析によって、充実したマーケティング機能を提供している。2016年7月には、オンライン購買に直結する新サービスとして「Aperza(アペルザ)」の提供開始を予定している。

また、関係会社であり、製造業向けのコンサルティングを行う(株)FAナビや、IoTや自動化といったスマート工場に関するエンジニアリング等のソリューションを提供する(株)FAプロダクツと組み、グループとしてスペック情報等を横断比較できるルールづくりに取り組んでいる。

同社ではCluezの事業を通じ、ものづくりにおける「情報流通」「取引のあり方」「コミュニケーション」という3つのバリアを取り除くことで新しいものづくりの産業構造の構築を目指している。また、代表取締役の石原社長は、「日本の設備機器は品質や信頼性の部分で世界でも優位性がある。そうした優位性をインターネットサービスの強みを活かして海外でのプロモーションを強化し、アピールしていくことで、日本の基幹産業である製造業を支援していくと同時にIoT領域などで活躍するものづくりベンチャーを増やし、ひいてはものづくりに関わる人を増やしていきたい」と語る。

Cluezのサービスモデル

Cluezの掲載製品群

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