経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
付論Ⅰ イノベーティブなアイデアや商品・サービス創出に向けて

1.デザインの活用によるイノベーションの創出

(1)企業内で生じているデザイン上の変化

製品競争・価格競争だけでは企業の発展が望めないため、ものづくり”から“ことづくり”へパラダイムシフトに向けデザインの役割が重要になってきている。顧客ニーズもパラダイムシフトにあわせて変化しており、製品の機能から、製品が持つ世界観へのニーズが顕在化しており、これに伴いデザイン領域が大きく拡大(サービスデザイン、ソリューションデザイン、UI/UXデザイン等)してきている。

また、既存市場の成長鈍化に伴い、新規市場創出の必要性が増大しており、新たな市場・顧客の開拓に向け、新たなビジョン・ビジネスを描くことが重要となっているが、経済社会が複雑化している中、真のニーズ・解決課題がわかりにくくなっている。そんな中、課題探索・発掘、コンセプト設計においてデザイナーの役割が期待されている。

①企業におけるデザインの重要性の高まり

デザインが事業運営や売上計上に貢献しているとの回答は8割超となっている。アンケート調査の結果、「デザインが事業そのものに直結しており、売上げと緊密な相関がある」、 「デザインが事業の柱として技術やその他の要素をバランスよくまとめ、売上げに貢献している」及び「デザインは事業の一要素として、企業の総合力の一部として売上げに貢献している」との回答を合わせると8割を超える(図付Ⅰ1-1)。

図付Ⅰ1-1 事業とデザインの関係についての考え

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企業戦略においてデザインに言及する企業は6割超となっており、企業経営戦略(中長期計画や行動指針等)の中でデザインが検討要素の一つとして扱われているかとの問いに対しては、「扱われている」との回答が6割超に達している(図付Ⅰ1-2)。

デザイン投資は技術投資と同等もしくはそれ以上に効率が高いとする企業は5割超となっている。デザインへの投資と技術への投資では、どちらの方が効率が高い投資行動かとの問いに対しては、「どちらも同じ程度の効率」との回答が4割弱、「デザインへの投資の方が高効率」との回答も2割弱に達した(図付Ⅰ1-3)。

図付Ⅰ1-2 事業の中期計画や行動指針等の中でデザインについて触れているなど、企業経営戦略で検討する要素の一つとして扱われているか

図付Ⅰ1-3 将来の事業収益を増加させるための無形財産への投資として、デザインへの投資と技術への投資を比較した場合、どちらの方が効率が高い投資行動と考えるか

過去及び今後の企業のデザイン費が増加基調にあるとの企業は、それぞれ4割程度となっている。過去5年間のデザイン費の推移については、「ほぼ同水準で推移した」が約3分の1と最も多くなっているが、増加基調との回答(「年によって上下しつつも、増加基調にある」、「年々着実に増加を続けてきた」の和)も4割超。今後の推移についても、最多の「ほぼ同水準で推移」との回答に拮抗し、「年々着実に増加する」との回答が4割弱に達している(図付Ⅰ1-4・5)。

図付Ⅰ1-4 過去5年間にデザイン費はどのように推移したか

図付Ⅰ1-5 デザイン費の予算規模は今後どのように推移すると予想するか

②デザイン部門/デザイナーの役割・業務範囲が拡大

企業がデザインに期待する役割は多様になってきている(図付Ⅰ1-6)。例えば、経営においてデザインに期待する事項として、ブランドの構築、外観での付加価値の向上、オリジナリティの表現等が多く挙げられているが、これらに続いて、品質や技術力の表現や、コンセプトの提案等の役割が期待されるようになっている。

図付Ⅰ1-6 経営において「デザイン」に期待されていることは

また、デザイン部門には、社内からの理解と連携を得て、企画・開発の一機能を担うとともに、デザインマインドを社内に浸透する役割が期待されている。具体的には、デザインに期待される役割の拡大に伴い、社内のデザイン部門にも下記等の変化がみられている。

・デザイン部門の位置づけは経営課題に応じて変遷するが、現在は、企画・開発機能(本社機能)に位置づけられる傾向あり

・他部門、他職種との連携・コミュニケーションをとりながら、イノベーションを促進する役割が求められる

・デザインマインドを社内に浸透させる役割も担う(デザインに対する社内の理解不足が有効な活動の支障となるため、経営者・社内からの理解獲得が重要)

③デザイナーに求められる能力の多様化・高度化

デザイナーの業務範囲は幅広くなってきている。デザイナーの主要業務としては、アイデア出し、コンセプトメイキング、スケッチ、商品パッケージ、スタイリング、モデリング、3Dデータ作成等が挙げられる。一方、近年デザイン思考等でその重要性が指摘されている、マーケティングリサーチや課題/ユーザー設定、ブランド戦略構築等もこれに続いている(図付Ⅰ1-7)。

図付Ⅰ1-7 デザイナーは、製品等の開発プロセスにて関与する業務

デザイナーが幅広い業務範囲・業務内容を手掛けるようになるに伴い、デザイナーに期待される能力も多様化・高度化している。ヒアリング調査から、その方向性を以下に示す。

・幅広い業務範囲・業務内容を手掛けるようになっている
(プロダクト、サービス、ソリューション、UI/UXデザイン等)

・事業企画者として、企画力・社会課題解決力等をベースとした、トップダウン的な思考に基づくデザイン活動も必要とされている

・社内外のハブ役・ファシリテーター役となることが望まれている

・世の中の流れを俯瞰し、未来を想像する機能が期待されている

④新たな課題

図付Ⅰ1-8 デザイン思考に基づいた「手法」を
実践したり、導入を検討しているか

 デザインをイノベーションにつなげる環境整備として、組織へのデザインマインドの浸透が必要となっている。デザイン思考を「取り入れている」、「試行的に取り入れているが浸透はしていない」を合わせると、約6割の企業がデザイン思考の導入に取り組んでいる(図付Ⅰ1-8)。デザイン思考導入に際しては、人材、予算の不足が課題となっており、社内関係者の理解が必要となる(図付Ⅰ1-9)。
 

図付Ⅰ1-9 デザイン思考を取り入れる際の課題と考えられることは何か

デザイナーの果たす役割・機能が多様化・高度化するにつれ、高度な能力を有する人材が不足しており、その確保・育成が必要とされている。ヒアリング調査結果から、その方向性を以下に示す。

・エース人材が不足(戦略設計、プロデュース、コーディネート等の能力を備え、イノベーション創出の核となる人材)

・UI/UXデザイン能力向上が課題

・製造・サービス等の現場にまで精通したデザイナー(クリエイティブ営業機能)が重要(特に中小・中堅企業)

図付Ⅰ1-10 外部デザイナーを活用しているか

 外部デザイナーの活用している企業は8割超に達する(図付Ⅰ1-10)。外部デザイナーには、斬新な発想や高度・専門的な技術を求める傾向がみられる。また、社内デザイナーが多忙との回答も多い(図付Ⅰ1-11)。
 

図付Ⅰ1-11 外部デザイナーに委託しているのはどのような理由か

社内外のデザイナーを含めた最適配置・最適役割分担が重要であり、外部資源も含めたデザイン推進体制の最適化が模索されている(図付Ⅰ1-12)。

・外部デザイナー活用の目的は、業界トップレベルの発想、高度なスキルの獲得、 コスト削減、社内のしがらみの打破等、多様である

・社内外のデザイナーの最適配置、最適分担等が重要となっている。

・デザイン責任者は社内外のデザイナーのハブとなる役割も担う

図付Ⅰ1-12 (まとめ)企業内で起こっているデザイン上の変化の構造図

コラム:自由な発想でデザインされたオリジナル紙製品を展開・・・福永紙工(株)

福永紙工(東京都立川市)は、1963年創立の印刷会社で、特色印刷や厚紙印刷、抜き加工、折り加工等を得意とし多くの実績を積み重ねてきた。同社を含む印刷業は基本的に受注生産であり、請負型業務がほぼ100%だった同社も、将来的な会社運営のためにも下請けからの脱却が求められていた。

そこで、アパレル業界出身の現代表・山田社長は、ファッション業界の経験を活かし、新事業を立ち上げた。まず開始した「かみの工作所」では、新しい紙の可能性を追求したテーマに基づき、外部デザイナーが自由な発想でデザイン、それをもとに紙製品にしていった。製品化にあたっては、もちろん、同社が長年に渡って培ってきた印刷・加工技術が核となっている。その結果、「空気の器」等の成功例が創出された。

その後、「テラダモケイ」、「MABATAKI NOTE」等の新しい製品を次々と開発した。外部デザイナー、特にトップランナーのデザイナーとのコラボレーションにより“今までにない”紙製品を創りだしている。そこには、何より“面白いことがしたい”という気持ちがあった。

デザイナーにとって、同社のプロジェクトは、大きな制約なく自由な発想で取り組める場である。これは参加デザイナーのモチベーション向上にも繋がっており、プロジェクトの成功要因のひとつとなっている。

現在、オリジナル紙製品の販売は、同社の核となる事業にまで成長している。「空気の器」が「reddot design award best of the best 2012」(ドイツ)を受賞。またデザイン性の高い製品に敏感な国内外の美術館のショップ等が同社のオリジナル紙製品を取り扱う等により知名度が向上。これにより既存の印刷事業の受注拡大にも繋がっている。

かみの工作所“空気の器”

テラダモケイ “1/100建築模型用添景セット No.11 お花見編”

コラム:ユーザーによる、ユーザーのためのデザイン・・・(株)スノーピーク

SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)を走らせ、自然の中で豊かな時間を過ごす“オートキャンプ”という新しいスタイルを提唱し、自らオートキャンプ製品の愛好者として、感動を呼ぶ製品・サービスを提供することを企業使命とし、新事業領域の確立・拡大に注力している。

(株)スノーピーク(新潟県三条市)は、徹底してユーザーの立場に立った製品開発を行うこと、開発製品を自らフィールドで仮説検証することを社の根本精神とする。そのため、1製品に対し1人のデザイナーが、商品企画、デザイン、設計、金型製作、パッケージまでを一気通貫で担当する。デザイナーは製品を作り上げる工程で4つ(①デザイン、②フィールドテスト、③開発の各工程、④量産時)の仮説-検証サイクルを回す。自らが使い手として心から欲しいモノであるか、ユーザーの期待以上のモノであるかを常に自問しつつデザインを行っている。また、ユーザーと社員が一緒にキャンプを楽しむイベント“Snow Peak Way”を開催し、経営課題やユーザーニーズを詳細・具体的に把握する場としている。その結果、品質へのこだわり、製品の永久保証とアフターサービスの充実、テントやテーブルをシステムとして接続して使えるようにするための共通寸法規格の策定等、画期的なビジネスモデルを生み出しており、例えば、テント内に炭火スペースを設けた“ラウンジシェル”等、世界初の製品を提供し続けている。

同社は、市場の伸びを大きく上回る売上成長率を記録し、スノーピーク製品を熱烈に支持するユーザーは「スノーピーカー」と呼ばれ、同社の売上を支えている。2014年12月に東証マザーズに上場、翌年2015年12月には東証一部に市場変更し、急成長を遂げている。新領域として“アーバンアウトドア”に着目し、マンション1階住戸の居室内部と専用庭にアウトドア空間をつくりだす“半ソト空間”を開発した。

ラウンジシェル

半ソト空間

コラム:企業に貢献するデザイン部門のあり方を追求・・・ダイキン工業(株)

ダイキン工業(株)(大阪府大阪市)のデザイナー集団である先端デザイングループは、従来のデザインアプローチ(既存技術に立脚した課題設定、マーケティング調査の積み上げによるお客様利便性向上策の検討等)ではイノベーションを継続的に創出することは難しいと感じていた。従来アプローチに加え、お客様に提供する“価値”、新たに創出する”ライフスタイル“を提示し、お客様の共感を得ていくアプローチを模索していた。

そこで先端デザイングループでは、デザイン思考を導入し、“ものづくり(技術開発)”から“ことつくり(価値創造)”へのパラダイムシフトを図る取組を展開。デザイン領域を一歩踏み出て他領域の知見を高めることで、デザイナー個人や先端デザイングループの競争力を高めていった。

例えば、高齢者にターゲットを絞ったエアコン開発(“ラクエア”)や、主力エアコンの大型モデルチェンジ(“うるるとさらら7”)などを世界最大のデザイン祭典“ミラノサローネ”に出展し、ダイキンブランドをグローバルに発信する活動に注力。デザインの有効性、先端デザイングループの存在価値を社内外にアピールした。

デザイン業務を①プロダクトデザイン(造形を中心としたデザイン)と②サービスデザイン(サービス・ビジネスモデル等のデザイン)に分類し、イノベーション創出等により企業に大きく貢献するために、②サービスデザインの領域を重視したデザイン活動を進めている。さらなる業績発展に向けて“変化”を目指す同社において、デザインが重要であるとの認識を社内に広めている。

高齢者向けエアコン“ラクエア”のリモコンを開発

扇をコンセプトとした“うるさら7”側面のデザイン

(2))デザインを重視する企業の特徴

①事業におけるデザインの貢献度が高い企業の特徴

製造業以外、新たな企業等において、事業におけるデザインの貢献度が高い企業が多い。アンケート設問「事業とデザインとの関係」への回答状況から、回答企業ごとに事業におけるデザインの貢献度を下記【定義】の要領で設定し、企業属性とのクロス集計を実施した。事業におけるデザインの貢献度が高いと回答した企業は、全体と比較して、業種別には製造業以外、創業年別には比較的新しい企業において多い傾向がみられる(図付Ⅰ1-13)。一方、製造業の企業、創業後比較的年数が経っている企業においては、「デザインは重要な要素だが、売上げに貢献しているのはむしろ優れた技術だと思う」、「デザインは重要な要素だが、売上げに貢献しているのは販売戦略等によるところが大きい」といった回答が多い。これらの企業では、「技術」「販売戦略」といった、これまでの市場環境で重視された項目に加え、市場環境の変化にあわせた「デザイン」活用が、新規事業開拓に向けたポテンシャル領域として広く残されていることが示唆される(図付Ⅰ1-14)。

【定義】事業におけるデザインの貢献度が高い企業

アンケート設問「事業とデザインの関係についての考えを教えてください」への回答内容から、企業を以下の4つのグループに分類した。

①(デザインが事業・売上げに)「貢献 大」(「デザインが事業そのものに直結しており、売上げと緊密な相関がある」との回答)

②「貢献 中」(「デザインが事業の柱として技術やその他の要素をバランスよくまとめ、売上げに貢献している」、「デザインは事業の一要素として、企業の総合力の一部として売上げに貢献している」との回答の和)

③「貢献 小」(「デザインは重要な要素だが、売上げに貢献しているのはむしろ優れた技術だと思う」、「デザインは重要な要素だが、売上げに貢献しているのは販売戦略等によるところが大きい」との回答の和)

④「貢献なし」(「デザインの貢献は限定的で、売上げとはほとんど関係ない」との回答)

図付Ⅰ1-13 業種構成(事業におけるデザインの貢献度別)

図付Ⅰ1-14 創業年構成(事業におけるデザインの貢献度別)

事業におけるデザインの貢献度が高い企業では、企業戦略の中でデザインが扱われていたり、デザイン思考を導入していたりする企業が多くなっている(図付Ⅰ1-15・16)。

図付Ⅰ1-15 企業戦略等でのデザインの取り扱いの有無(事業におけるデザインの貢献度別)

図付Ⅰ1-16 デザイン思考の導入状況(事業におけるデザインの貢献度別)

②企業戦略でデザインを重視している企業の特徴

企業戦略でデザインを取り扱っている企業(以下、「企業戦略でデザインを重視している企業」)においては、デザイナー出身あるいはデザイン関連キャリアを有する経営陣が存在する比率が高い、デザイン部として独立した部署を有している比率が高い等の傾向がうかがえる(図付Ⅰ1-17・18)。

図付Ⅰ1-17 デザイン 関連キャリアを有する経営陣の有無 (事業におけるデザインの貢献度別)

図付Ⅰ1-18 デザイナーが配属されている部署(事業におけるデザインの貢献度別)

企業戦略でデザインを重視している企業では、外観デザインのみならず、技術力、品質等を表現するツールとしてや、また製品ブランドのみならず、企業全体のブランドを構築する機能として、デザインに期待している(図付Ⅰ1-19)。

企業戦略でデザインを重視している企業では、デザイナーの労務範囲について下記の特徴がみられる(図付Ⅰ1-20)。

・販売戦略、広告戦略、製品ブランド戦略等の戦略立案に関与している。

・製品ディスプレイ、パンフレットなどのコミュニケーションデザインを手掛けている。

・トータルプロデュースを手掛けている。

図付Ⅰ1-19 企業戦略でのデザインの取扱有無別、デザインに期待していること

図付Ⅰ1-20 企業戦略でのデザインの取扱有無別、デザイナーの業務範囲

企業戦略でデザインを重視している企業では、デザインの費用対効果の把握に取り組んでいる(「できるかぎり定量的に把握している」及び「定性的な把握にとどまっている」)との回答比率が高くなっている(図付Ⅰ1-21)。

企業戦略でデザインを重視している企業においては、過去5年間のデザイン費の推移、今後のデザイン費の推移予想ともに、「増加」との回答が多い傾向が見られる(図付Ⅰ1-22・23)。

図付Ⅰ1-21 デザイン投資に対する費用対効果の算定状況 (企業戦略でのデザインの取扱有無別)

図付Ⅰ1-22 過去5年間のデザイン費の推移(企業戦略でのデザインの取扱有無別)

図付Ⅰ1-23  今後のデザイン費の推移予想(企業戦略でのデザインの取扱有無別)

③まとめ

・製造業以外(卸・小売業、建設業、不動産業、サービス業等)や創業が比較的新しい企業等では、デザインを効果的に活用しており、事業に高く貢献している。比較的デザイン活用が進んでいない、製造業の企業および創業から比較的年数が経っている企業においては、経営層へのデザインマインド浸透、デザイン人材が活躍する組織体制の整備、デザイン戦略の策定などにより、新市場開拓などのイノベーション創出が期待される。同時に、異業種企業やベンチャー企業がデザインを活用して新規事業を開拓してきていることから、かつては競合と見られなかったこれらの企業が、自社の競合となり得るという認識を持つことも重要である。

・事業におけるデザインの貢献度が高い企業の中には、デザインを経営に導入している企業が多い。(例:企業戦略においてデザインを取り扱う、デザイン思考を導入する等)

・企業戦略でデザインを重視している企業には、そうでない企業と比較して、下記の特徴がみられ、経営トップの理解が得られていることが推察される。

-デザイン関連の経歴を有する役員がいることが多い

-デザイン部門等の独立した部署が設置されることが多い

-デザイン部門に期待される役割が幅広い

-デザイナーが手掛ける業務が幅広い

-デザイン投資の費用対効果算定への取組が進む

-デザイン費が増加傾向

コラム:技術とデザインの力で、下請企業から提案型企業へと躍進・・・本多プラス(株)

90年代前半、文書のデジタル化等により、本多プラス(株)(愛知県新城市)が売上の多くを依存していた修正液ボトルの需要減が見込まれており、同社の強みである、多様な表現性が可能な「ブロー成形(中空成形)技術」を活かして取扱製品の幅を広げる必要があった。これまで強みとしてきた優れた技術(“作る力”)に加え、販売力(“売る力”)の両輪が必要とされたのである。

そこで同社は、製品設計から素材開発、金型製作、成形機開発までを内製化し、一貫して手がける戦略拠点「ブローラボ」を設置した。プラスティックネイルカラー容器として利用可能な、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂のブロー成形技術を世界で初めて開発する等、“作る力”を向上させた。

また、自社製品の開発に向け「デザイン」を重視している。デザイナー採用を開始し、デザイン部門「クリエイティブオフィス」を設置し、社長自らクリエイティブディレクターとして提案活動をけん引した。同社のデザイナーは入社後ブローラボでの研修を通して製造知識を身につけ、その上で自らお客様を訪問し、相手の“熱量”を体感しつつ対話の中から曖昧な要望をくみ取る。技術とお客様ニーズを理解したデザイナーは、デザインとコスト・納期を両立した提案をする“クリエイティブ営業機能”を担うようになり、“売る力”が飛躍的に強化された。成果を着実に出すことにより、上記の新たな取組に対する社内外の理解と協力を徐々に広めていった。

こうして同社は技術とデザインの力で、自社製品を次々と開発・提案し、下請型企業から提案型企業へと転換。「本多プラスにはブランディングできる技術と感性がある」と認めてもらうことで、 お客様のパートナーとして企画段階からともに議論し、新製品を次々と開発するサイクルを確立した。現在は化粧品、医薬品等の新領域で売上が拡大し、取扱製品数は約2万アイテム、取引企業は3,500社にまで拡大している。

コラム:経験価値を生み出し、伝えて、届けるためのデザイン活動・・・(株)リコー

事業領域を急速に拡大させている(株)リコー(東京都中央区)は、例えば、オフィス領域では、従来の複写機、プリンター等のハードウェアに加え、遠隔会議やネットワーク運用等のソフトウェア、サービスを手掛けるに至っている。一方で、事業が変わるとお客様のニーズ、製品の使用法等が変わるため、デザインも変えていく必要が生じる。従来の商品(モノ)のデザインに加え、顧客体験等を通じたインテグレーション(コト)のデザインの重要性が増大していた。インテグレーションのデザインにおいては、人と人、情報と情報、人と情報とのつながりに目を向け、お客様にどのようなユーザー経験を届けるかが必要となる。

そこで同社は、開発の上流工程からデザイナーを参画させるように開発体制を見直した。デザイナーはお客様のニーズや経験価値を、関係者に対して的確に伝えることで、開発を支援する役割を担う。また、将来ビジョンの描写し、社内外へアイデアを発信し、関係者の想像をかきたてる等の役割を果たしている。さらに、あるラインアップの商品群のデザインを統括する“デザインディレクター”を設置。商品間にまたがるテーマ(ライフスタイル)のデザインや全社的なコンセプトのデザイン等に注力している。

360度空間(全天球)を撮影できるカメラ“RICOH THETA (リコーシータ)”では、SNSでユーザーから寄せられる意見を基に、「THETAでいいね!を増やす」、「全天球画像をフェイスブックに掲載する」等の利用法を提案し、ユーザーとともに製品の楽しみ方を考えだすことで販売台数増に結びつけるなど、デザイン・シンキング手法を取り入れた新商品開発が続いている。

全天球カメラ“RICOH THETA”

コラム:デザインを活用しつつ新たなサービス・価値を創造・・・日本電気(株)

日本電気(株)(東京都港区)では、2015年にデザインセンターを設置し、グループ内のビジネスデザイナーを集結した。全社注力事業の牽引やビジネスモデル創造の推進などを担う部門とともにイノベーションを興していく組織設計を図っている。これは、成熟化社会となり既存事業からの大きな成長が見込めなくなる中、新顧客・新市場の開拓に向け、新たなビジョンを描き、新たなロジックを構築していく必要があったことから、社会の課題を解決し、新たなサービス・価値を提供する「社会ソリューション」への注力を全社戦略としたことが背景にある。

複雑かつ潜在化する社会課題に向き合うためには、これまで市民・ユーザーの立場(人間中心設計等)から課題発掘に取り組んできたデザイン部門のアプローチが有効との判断の下、イノベーション創出に向け“デザイン”を活用することを全社方針としたのである。こうして、新事業「社会ソリューション」開発にデザインを活用することになった。

デザインセンターは、イノベーション事例の創出とともに、“デザイン思考”を全社に拡げ、根付かせていくことを使命としている。また、デザイナーは、組織横断的活動や、社外との”共創活動”におけるハブ機能として、ファシリテーションや要件整理、議論の拡散と集約、事業イメージの形成等を行う役割を担っている。さらに、デザイン思考の社内浸透に向け、発想法の教育や共創ワークショップ等も実施している。

アルゼンチン・ティグレ市の2030年ビジョン、空港ソリューション、セブン銀行ATMの開発等にデザイン思考及びデザイナーが貢献するなど、デザインセンターは現在、20本程度の新事業開発PJに深く関わり、社会の課題解決に資する新規ソリューションを創出している。

Social Value Designの事例

(3)デザインが企業経営に及ぼす効果と投資効果判断のメカニズム

①デザインが企業経営に及ぼす影響

図付Ⅰ1-24 製品・サービスの
イノベーションに、デザインが及ぼす影響

 ヒアリング対象企業に対し、デザインは製品・サービスのイノベーションにどの程度影響しているかをたずねたところ、「非常に大きい」及び「大きい」との回答が9割超に達した(図付Ⅰ1-24)。

ヒアリング調査では、デザインが企業経営に及ぼす影響として、下記等の効果が挙げられている(図付Ⅰ1-25)。
・ブランド力・顧客満足度の向上
・売上の増大
・自社製品の開発による下請けからの脱却(特に中小・中堅企業)

 ヒアリング対象企業に対し、デザインが企業経営に及ぼす効果項目ごとに、デザイン活動が及ぼした影響度合いを5段階評価でたずねたところ、知名度・ブランド向上、売上増大に加え、開発力の向上、シェア拡大、デザイナー雇用創出等にも好影響を及ぼしているとの結果が得られた。
 

図付Ⅰ1-25 分野・項目別、デザインが及ぼす影響

②デザイン投資効果判断のメカニズム(仮説)

図付Ⅰ1-26 デザインへの投資に対する
費用対効果を算定する試みをしているか

 デザイン投資の費用対効果を算定する試みをしているとの回答は、定量・定性把握合わせて約3分の1に及ぶ(図付Ⅰ1-26)。効果測定・評価に用いる評価軸としては、顧客満足度・ブランド向上関連(ユーザー評価、顧客評価、ブランドイメージ調査結果等)、売上・受注関連(売上伸長率、受注率等)が多くなっている(図付Ⅰ1-27)。
 

図付Ⅰ1-27 どのような評価軸で効果測定・評価をしているか(自由記述、抜粋)

デザイン投資の効果評価は、ブランド向上、売上増への貢献度等を指標として、定性的・総合的に判断されていることが多い(図付Ⅰ1-28)。ヒアリング調査では、デザイン投資効果の評価・判断の現状につき、下記等の意見が得られた。

・効果評価未実施の企業も少なくない(金額ベースの費用対効果評価はほとんど行われていない)

・効果評価の指標は、1)顧客満足度/ブランド向上、2)売上への貢献度

・次年度のデザイン投資額は、デザイン部門の活動成果を定性的・総合的に判断して決定されることが多い(将来的には定量化の可能性も)

図付Ⅰ1-28 (まとめ)デザインが企業経営に及ぼす効果とデザイン投資効果判断のメカニズム

コラム:バーチャルスーパーという新たな買物スタイルをデザイン・・・Tesco

世界有数の売上高を誇るイギリスの小売店Tescoも、進出先の韓国では競合のE-MARTに店舗数、売上高等で大きく水をあけられていた。当時同社は、「Home plus」という同社が手がけるディスカウントストアを、多大な費用と時間をかけて店舗数を拡大するという従来手法によらずに、 E-MARTと比肩するレベルに高めることが必要とされていた。そこで2011年に同社がとった戦略は、「地下鉄のホームをバーチャルスーパーとしてデザインする」というもの。具体的には、駅構内の壁に、スーパーの商品棚を描いた巨大なポスターを貼り付けて、仮想店舗を出現させたのである。

取扱商品は生鮮食品・生活必需品等約500アイテム。各商品の写真にはQRコードがつけられている。買物客はこれをスマートフォンで読み取り、ネット上で注文・決済を行うと、商品が自宅まで配送される仕組み。その後、同様の販売形態は、イギリス、中国の地下鉄や空港等にも展開された(トライアルを含む)。

先進国の中でも労働時間、通勤時間が長い傾向にある韓国では、通勤・移動等の隙間時間に買物ができる利便性が高く評価された。サービス開始後2カ月で、ネットショッピングの登録者数は76%、売上は130%増加した。普段ネットショッピングを利用しない新規顧客層の獲得にも貢献した。

さらに、インパクトのあるビジュアルにより、社会的関心を高めたうえ、CMがカンヌ国際広告祭2011でメディア部門グランプリを受賞し、プロモーション効果も大きなものとなった。通勤・移動時の“隙間時間に買物”できる、バーチャルスーパーという新たな買物スタイルのモデルを確立した。

コラム:お客様と力を合わせて高品質低価格を実現・・・IKEA

イケアでは、お客様に革新的な製品をできるだけ安く提供することを企業使命としている。幅広い顧客層に対して創造的な製品を売るための重要課題の一つが「価格」であり、この課題を解決するため、同社のデザイナーは、“コストがかからないデザイン”を徹底追求している。

イケアが考える優れたデザインとは、フォルム・機能・品質・サステナビリティ・低価格を適切に組み合わせたデザインであり、同社ではこれを“デモクラティックデザイン”と呼んでいる。同社製品にはフラットな梱包方法が用いられていることが多いが、これはできるだけ保管や運送に係るコストを削減するための工夫である。また、既成概念にとらわれず、梱包用の箱をなくす工夫も行っている(ランパンテーブルランプ等)。また、お客様には製品の組立を行ってもらう等、イケアとお客様が力を合わせることで、優れた製品を安く提供することを可能としている。

このような取組は製品の低価格化をもたらすだけでなく、保管場所の削減、物流トラックや燃料の削減等を通じて、同社の環境保全に関する目標達成にも貢献し、デザイン面での挑戦の繰り返しが、企業の競争力を高めている。

コラム:デザインを通じて、子どもにやさしいおもちゃを開発・提供・・・LEGO

レゴは世界有数の玩具メーカーとして、世界中の子どもが安全に、想像力を働かせながら遊ぶことができる社会を実現・維持していくために何ができるかについて考え、行動している。 「遊び」、「地球」、「パートナー」、「人々」に向けた4つの約束(“レゴの約束(LEGO Promises)”)をサステナビリティ原則として掲げ、このうち「地球への約束」では、子どもの安全を守り、子どもの成長する権利、自然をいつくしむ権利を尊重することをうたっている。同社はこの「レゴの約束」に沿って、すべての企業活動の見直しを図っている。商品開発工程やその根幹を担うデザイン業務もこの例外ではない。

例えば、レゴブロックの車輪部分に従前使われていた金属の車軸は廃され、車輪をブロックに直接取り付けるデザインへと変更されている。これにより、子どもにやさしいおもちゃ(金属を使わないことによる安全性向上、金属アレルギーへの配慮等)、環境にやさしいおもちゃ(リサイクル率100%)を提供。さらに、このデザインの変更により、商品価格を下げるとともに、環境負荷を10~20%低減した。このような取組も奏功し、全社の顧客満足度(NPS値)は近年高水準で推移、リサイクル率も90%超に達している。

同社は新規性・創造性に満ちたデザインの追求ばかりでなく、対象顧客(子ども)とそのニーズを熟知し、将来子どもたちがどのような環境のもとでレゴブロックとともに遊んでいてほしいかをイメージして、デザイン・製品コンセプトを設定。これにより、やさしいおもちゃへの安心感とともに、商品価格下げ、環境負荷低減、顧客満足度向上等に貢献している。

(4)海外に見る、デザインとビジネスの関係

2013年頃から、大手企業によるデザインファームの買収が相次いでいる。アクセンチュアはFjord社を買収し、フェイスブックがHot Studio社を、グーグルがMike & Maaike社を買収している。Adobe社はBehance社を、そしてマッキンゼーがLUNAR社を買収した。これらの動きからは、変化の激しい市場において、顧客目線での価値提供のための一つの手段としてデザインが武器となることが示唆される。

また、上述した海外の高度デザイン人材育成機関の卒業生の、ビジネス分野での活躍も目立つ。昨今注目を集めているAirbnbの3人の創立者のうち、2人がアメリカの著名なデザインスクール、ロードアイランド・スクール・オブ・デザインの卒業生であるなど、商品・サービスが出来てからではなく、創業段階からデザイナーが関わるケースが見られるなど、海外では、既存産業によるデザインを活用したイノベーション創出や、デザイナーと共にビジネスをデザインしていく動きがある。

コラム:デザインをビジネスに・・・Creative Business Cup

デンマーク・コペンハーゲンで毎年開催されるビジネスイベント「Creative Business Cup」には、クリエイティブ産業を手がけるスタートアップと、それらの起業への投資を考える投資家が参加する。対象となるクリエイティブ分野はファッションから音楽まで幅広い。この中にデザインも位置づけられている。デンマークでは「デザインがビジネスになる」ことがすでに前提となっており、盛り上がりを見せているのである。なお、Creative Business Cupは世界から50ヶ国以上が参加しており、日本大会も開催されている。

コラム:特注・安価・ファッショナブルな義肢を開発・・・Bespoke Innovation

従来の大量生産型の義肢は、多様な体型・好み・ライフスタイルを有するユーザーの細かなニーズに的確には応えてこなかった。オーダーメイド義肢もあったが、高価で、多くの人が利用できるものではなかった。自身の障害や義肢を隠したがるユーザーもみられるが、そこには義肢の見た目(肌に似せようとして不気味になってしまう等)が関係していた。

そんな中Bespoke Innovation は、3Dプリンティング等の先端技術を活用し、各ユーザーの体型・感覚に合ったデザイン性の高い義肢を、短期間で仕上げることに成功した。同社ではまず、失われていない脚を3Dスキャンした上で、脚部組織の柔らかさ・硬さ等を測定することにより、復元すべき脚の3Dモデルを作製する。これらのデータを基に、ユーザーのライフスタイル等を加味した上で使用する素材を決定し、3Dプリンターにより形状化していく。デザイン過程では、ユーザーとデザイナーとのコミュニケーションに時間をかけ、ユーザーの好みやライフスタイルに応じて、様々なバリエーションの中から最適な義肢を作製する。ユーザーの身体データに基づいて作製された義肢は、無理なく身体にフィットし、職人によるオーダーメイドに比べ、価格は1/10にまで抑えられている。

意匠性の高いファッショナブルな義肢に対するユーザーの満足度向上もみられ、同社の取り組みは義肢を医療器具からファッションアイテムへと転換したと言える。FDA(米国食品医薬品局)の認可取得等、実用化に向けた課題は少なくないが、3Dスキャン・プリント技術等を駆使した新製造方法を開発した事例である。

(5)デザイン投資拡大に向けた政策

従来のビジネスは、既存コンセプトの枠内で技術改善をし、商品開発を実施してきたが、イノベーションを誘発するためには、コンセプト自体を再設計する必要がある。デザインはユーザーのニーズをイメージ化する能力であり、デザインをビジネスプロセス最上流におくことは、商品コンセプト再設計につながりやすい。このようなデザインを最上流においたビジネスプロセスを実現するためには、デザインを最上流のビジネスプロセスにおいた経営手法の普及啓発及び技術・経営の知見を有するデザイナーの人材育成(第1部第1章第3節(3)①(a)及び(b)参照)が重要であり、加えて、企業と高度デザイナーのマッチング支援等の実施も必要となる。

①企業と高度デザイナーのマッチング支援等

日本各地に存在する優れた文化や技術の可能性を顧客視点にたって引き出すため、企業へのデザイナー等の派遣・連携支援やデザイナーによるスタートアップ支援等を実施することで、潜在価値から経済価値へと変換し、事業化を行う(図付Ⅰ1-29・30)。

図付Ⅰ1-29 デザイナーによる日本各地の潜在価値の顕在化

図付Ⅰ1-30 高度デザイナーによる潜在価値の発掘例

②アンケート、ヒアリング調査から見られる政策ニーズ

アンケート調査、ヒアリング調査からは、以下の政策に対する要望が多くみられ、上記の政策の方向性は概ね産業界からのニーズを満たしていると考えられる。

(ア)デザインの重要性に関する普及啓発

 経営層、一般社員、学生等に対し、デザイン思考導入・デザインマインド浸透の重要性を普及啓発する活動が重要。デザインに対する社会や消費者・生活者の意識を高める活動の充実は、必然的に彼らを顧客とする企業のデザイン活動の活性化に結びつくと期待されている。

(イ)高度デザイン人材の育成

高度な能力を有するデザイン人材が不足しており、特に下記の人材の育成が求められている。

エース層:戦略設計、プロデュース、コーディネート等の能力を備え、イノベーション創出の核となるデザイン人材

UI/UX人材:ユーザーに経験・価値を提供する能力を持つデザイン人材

コラム:企画力・総合力で新たな製品用途・カテゴリーを開拓・・・コクヨ(株)

ステーショナリー、ファニチャーの業界では、テクノロジーと設備さえあれば類似品・模倣品をつくることが可能であり、製品差別化が難しくなっている。その中で、企画力とデザイン力の双方を兼ね備える企業が業績を上げている。デザインだけでなく、全く異なる製品の使い方や、今までにはなかった製品カテゴリーを企画提案することが求められるようになっている。表層的なデザインに加え、新たな企画提案を行うために、社員の能力向上が必要とされていた。

コクヨ(株)(大阪市東成区)は、これからのデザインには、企画力、総合力が重要との認識の下、社員の採用では、専攻よりも、創造性、企画力、想像力、アイデアの発展力を重視する方針を採り、デザインや企画を行う社員には、専門の力をつける為の研修等も用意している。デザインありきではなく、顧客の見つけ方や優れたアイデアにデザイナーを参加させることで、総合的に優れた商品を作り上げている。使う人の視点で優れた商品デザインを広くユーザーから集め、商品化を目指すコンペティション「コクヨデザインアワード」を主催。ユーザー起点の研究開発の一環として、注力している。

コクヨデザインアワードからは、“カドケシ”、“ビートルティップ”等、数々の新商品が生まれる。文系大出身社員が企画力を発揮し、誰でも簡単に遺言書をつくるキットを考案。デザイナーも参加し、文具メーカーのノウハウを活用して商品化。予想以上の反響を得た。若年層が生活・安心のために気になっていることを整理するための新たな文具「ライフイベントサポートシリーズ」へと発展した。

写真:コクヨデザインアワードから商品化された作品(カドケシ、ビートルティップ)

写真:遺言書キット

コラム:全社デザイナーの行動指針となる哲学を再構築・・・パナソニック(株)

パナソニック(株)(大阪府門真市)では従前から、創業者の理念を踏まえた松下のデザイン方針(“用と美を極める”)があったが、これは日本語で・日本人が理解しやすい言葉で・日本中心に書かれたものであり、経営がグローバル化する中で、数百人に及ぶ世界のデザイナーが行動指針とできる新たなフィロソフィーが求められていた。

そこで2011年、同社はデザインフィロソフィー“Future Craft”を構築。これは、SNSを通じて世界中のパナソニックのデザイナーから募った意見を集約させながら、1年間かけて作成したものである。Future Craftは、「憧れを魅せる(革新)」、「誠実に造りこむ(日本のものづくり)」、「人を見つめる(ユニバーサルデザイン)」、「地球と共に(エコロジー)」の4要素から成り、それぞれに具体的行動指針が記されているため、世界のデザイナーが、デザイン活動の拠り所とできる内容となっている(行動指針は非公開)。Future Craftという語には、未来(future)と過去(craft)という意味が込められている。明るい未来へつなげる先進デザインと、これまで培ってきた信頼と人への細やかな心配り。この二つを商品デザインとして表現し、洗練された丁寧なものづくりを行うことを目標としている。 Future Craftは、パナソニックの全商品に一貫して用いられている。

デザインフィロソフィーの構築により、関係者から“パナソニックのデザインが一つ高みに上った”との評価をもらうようになった。デザインに思想が盛り込まれたことにより、特に欧州等において対外的評価も上がっている。同社では近年、デザイン・シンキング等を取り入れた新たな製品群(三角形のフォルムのロボット掃除機“RULO”、高齢者向け家電シリーズ“Jコンセプト”等)が次々と創出されている。デザインフィロソフィーの浸透が、対外的評価の高まりと新製品群の創出につながっている。

コラム:デザインにより自社ビジネスの価値を社会に伝える・・・三菱重工業(株)

三菱重工業(株)(東京都港区)が事業展開する発電システムや制御システム等の分野において、これまでデザイン性は求められてこなかった。しかし近年になり、デザインに対する要請が増大してきている。これは、一般社会やエンドユーザーの視点を意識して製品やサービスの価値を差別化しようとする動きによるものであり、B2B事業であっても高度なデザイン対応が求められるようになってきたといえる。実際、同社の先進デザイングループに対しても、社内の事業部門からデザインオファーが来るケースが増えている。

同社のデザイン業務は、燃料電池複合発電システムからエネルギー利用最適化システムのGUI*さらには国産旅客機“MRJ”にまで、広範囲に及ぶ。グループ企業の広範なデザイン業務に対応すべく、先進デザイングループでは“人と製品・サービスのタッチポイントすべてをデザインする”との考えの下、デザイン領域を①コミュニケーションデザイン、②プロダクトデザイン、③エルゴノミクスデザインの3つに設定し、これらを組み合わせたトータルソリューションを提供している。

幅広い業務を行うがゆえに、先進デザイングループにはさまざまな情報が集まってくる。それらの情報を分析・統合等して、多くのデザインプロジェクトに活かしていく役割も担っている。

社内に対してデザインの重要性をアピールする取組を進めてきた中、MRJ等の大型プロジェクトも後押しし、自社の価値を社会に伝えていく手段としてデザインが貢献している、という認識が高まってきている。さらにお客様との相互理解を高めるための手段としてもデザインが果たす役割が大きくなってきており、顧客満足度の向上にも寄与している。

写真:燃料電池複合発電システム“HYBRID-FC”

写真:国産旅客機“MRJ”(三菱航空機(株)提供)

2.新しいメソッドの実践例(フューチャーセッション)

ものづくりを取り巻く環境が大きく変化し、ビジネスの焦点は所有価値から使用価値へと移る中、ユーザーニーズからの発想、さらには社会課題からの発想が必要になる。特にIoTの進展は、もの単体での価値よりも、多様なものが連携したシステム全体の価値へと、ビジネス比重を大きく移す引き金となっている。このような状況において、フューチャーセッションという新たな手法を活用してものづくりの未来を考えるアプローチについて、経済産業省で実施した「ものづくりの未来」フューチャーセッションの実例を交えながら紹介する。

フューチャーセッションの最大の特徴は、既存の問題や課題を再定義することで、「このステークホルダーが協力し合えば変化が起きるだろう」という、新たなシステムの箱庭をつくることである。つまり、“未来の新しい仲間を招き入れ、創造的な対話を通して、未来に向けての「新たな関係性」と「新たなアイデア」を生み出し、新しく集った仲間同士が「協力して行動できる」状況を生み出すための場”であると考えられる(図付Ⅰ2-1)。

図付Ⅰ2-1 フューチャーセッションとは

(1)フューチャーセッションの開催に向けて

①問いの設定

図付Ⅰ2-2「問い」の作り方

 第1章・第3節で述べたように、付加価値が「もの」そのものから「サービス」「ソリューション」へと移る中、ものづくり企業は、どんな「問い」をもって未来のビジネスをつくっていけばよいのであろうか。その問いが、「どうすればもっと小さく軽く効率的なデバイスを作れるだろうか」ではないことは明らかである。例えば、通信機器メーカーが「どうすれば家族の絆をもっと強くできるだろうか」といった問いかけで、自動車メーカー、ハウスメーカー、食品・飲料メーカー、行政・自治体と連携するような、こんな未来のビジネスの作り方が求められている(図付Ⅰ2-2)。

 今回経済産業省で実施したフューチャーセッションでは、国内のものづくりのイノベーションを起こすための「新たなアイデア」と「新規プロジェクト創造プロセス」を生み出すことを目的とし、全ての人に接点があり、幅広い業種が関わるテーマとして、「家の未来」シナリオを土台とすることとした。
 

コラム:「家の未来」シナリオ・・・ニフティ(株)

IoTビジネスを次々と生み出していきたいニフティ(株)は、「IoTで何ができるか」という問いではなく、「10年後の家はどう変わっていくのか」という問いを立てた。そして、ハウスメーカー、日用品メーカー、シェアハウス運営者、まちづくりNPOなど、多様な社外ステークホルダーを招き入れて、未来シナリオを共創したのである。

フューチャーセッションは3回にわたって開催され、第1回は「家はどう変わるか」という未来の変化の兆しが集められた。第2回は「家の未来のシナリオ」として未来のユーザーストーリーを具体化した。そして、第3回に「家の未来のサービス」を多数生み出した。ここでは第1回の変化の兆しと第2回の未来シナリオが生まれるまでの経緯を紹介する。

まず、第1回の変化の兆しを集めるセッションでは、多様な参加者が「家はどう変わるか」という変化の兆しを挙げていった。100以上の兆しが挙がり、そこから全員の投票で「インパクトがあり、不確実性が高い」変化を選んだ(図1)。この変化の兆しの選び方は、シナリオプランニングの手法に則っている。インパクトがある変化は当然捉える必要があり、そのうち確実に起きる変化には備えておけば良い。したがって、不確実性が高い、つまり起きるか起きないかわらかない変化こそ、想定して備えておく必要があるという考え方である。この不確実性の高い軸を2つ選ぶことで、4つの未来の世界観を生み出すことができる。

変化の兆しの上位を占めた点を踏まえ、2つの軸を作った(図2)。一つは「ライフスタイルが個人の自由を最大限に尊重するようになる」、つまり一人ひとりが自分の好きな家に住むようになるか、あるいは真逆に振れると、「家は共同体の一部として機能する」、つまりコミュニティの仲間がみんなで家を共有することが当たり前になる、という軸である。もう一つは、「テクノロジーの使われ方が、なんでも自分でつくる」というメイカーズ発想に振れるのか、それとも逆に、「ロボットハウスのようになんでも家が自動で仕事をしてくれるようになるのか」という軸だ。

図1「家の未来」に関する変化の兆し

資料:(株)フューチャーセッションズ作成

図2インパクトが大きく不確実性が高い2軸

資料:(株)フューチャーセッションズ作成

この2つの軸で4象限が分かれ、4つの異なる世界観を生み出すことができる。第2回のフューチャーセッションでは、多様な参加者がそれぞれの文脈で、4つの世界観の特徴を物語で描いていく。そのアウトプットのシナリオは、その世界が立ち現れる背景となる成立条件、その世界の特徴を表す物語、そしてその世界で新たに生まれるビジネスアイデアによって構成される。

未来シナリオを作成するために、毎回80名以上の参加者の知恵と、3か月以上にわたる時間が掛かっている。多くの企業が未来シナリオを自社の長期戦略に使うために非公開にしているが、あえてこの未来シナリオを公開したニフティ(株)は、家のIoTに関わるブランドを高め、さらには「家の未来」のトレンドセッターを目指している。

②多様な参加者の招集

本フューチャーセッションは、ものづくりに直接的に関わる「製造業系」の企業に加え、ITなどの「サービス系」企業、そして社会課題に対する感度の高い「広告・コミュニケーション系」企業からの参加者で開催することとした。その結果、各業界から約15名ずつの参加者をバランスよく招くことができた(図付Ⅰ2-3)。

フューチャーセッションの成功の鍵の一つは、多様な参加者を招き入れることであり、参加者の多様性は、セッションの中でもダイレクトに活かされる。今回も、3つの業界からの参加者が3人でチームを組み、モノとサービス、コミュニケーションの三位一体の価値提案をアウトプットするようにセッションを設計した(図付Ⅰ2-4)。

図付Ⅰ2-3 参加者の属性

図付Ⅰ2-4 参加者の多様性とアウトプット

(2)フューチャーセッションの進め方

あらかじめ設定した問いを共有し参加者が主体的に考えられる状況を作りだし、未来のニーズを発想し、そして、アイデアを具現化するためのテーマとチームを形成してアイデアを素早く形にし、最後に、展開の可能性を共創するという大きく5つのステップに分けて、今回のフューチャーセッションを進めた。

①対話のステップ1:問いを共有する

まず最初に、テーマとなる問いを共有することから始まる。具体的なアイデアと参加者の自発的なアクションを生み出すため、参加者の問いに対する共感を引き出し、主体的に考えられる状況を作り出すことが重要である。

ファシリテーターから「10年後のものづくりはどうなっているだろうか」という問いを共有した後、「ものづくりの変化」について2人組で自らの中にある物語を交換した。2人組での対話の問いかけは、「①10年前想像していなかったが、ものづくりの世界で、今起きていること」と、「②今から10年後、2026年になりました。振り返って、ものづくりの世界で、どんな想像できないことが起きていますか」の2つを設定した。

この2人組での対話の狙いは二つある。まず、自分が感じている「ものづくりの変化」について話すことで、問いを自分の文脈に引き寄せて考えることである。次に、フューチャーセッションの土台となる考え方である「未来思考」を体感することだ。「未来思考」とは、現状の延長で発想するのではなく、ありたい未来がどうしたら実現するか成立条件を考える思考方法(バックキャスティング)のことである(図付Ⅰ2-5)。ものづくりが持つ可能性や変化の兆しを集め、複数の「あり得る未来」を可視化することを目指している。

また、これらの2つの問いかけに対し、参加者の間で交わされた物語をいくつか紹介する(図付Ⅰ2-6)。

図付Ⅰ2-5 未来思考

図付Ⅰ2-6 10年前と10年後のものづくりの世界

写真:二人組での対話の様子

写真:二人組での対話の内容を付箋に書き、全体で共有

今回は1回のみの開催としたため、未来思考で新規事業アイデアを考えるための共通の土台として、ニフティ(株)の「家の未来」シナリオを使った。このシナリオは、家に関する「4つのあり得る未来」を描いたものである。4つの異なる「家の未来像」を共有することで、現在の家や暮らしの延長で考えるのではなく、発想と視野を広げ、新しい家と暮らしを生み出すためのモノやサービスを検討することが狙いである。

「家の未来」4つのシナリオは、①「国を超える渡り鳥」シナリオ(個の自由が尊重されるライフスタイルで、テクノロジーによって生活の自動化が進む世界。この世界では、住みたい場所を自由に選ぶことができる。そのため、家を持たず、移動を前提とした生き方が浸透している。どこに行っても、自分に最適な環境が整備されている。)、②「ダムを造るビーバー家族」シナリオ(個の自由が尊重されるライフスタイルで、テクノロジーを使って様々なものを自分でつくる世界。この世界では、自分の家は自分でつくる。簡単に家づくりができるパーツや道具が揃っており、家族一人ひとりが自分の部屋をカスタマイズしている。)、③「放牧なかよし羊たち」シナリオ(共同体の価値を重視するライフスタイルで、テクノロジーによって生活の自動化が進む世界。この世界では、生活に必要な機能は、すべて身近に揃う。余暇の時間はコミュニティの仲間と楽しむ。高齢化に対応するコンパクトシティが進んだ世界。)と④「珊瑚礁の魚たち」シナリオ(共同体の価値を重視するライフスタイルで、テクノロジーを使って様々なものを自分でつくる世界。この世界では、人はコミュニティをつくり、一緒に暮らす。生活に必要なものはお互いで提供しあう。エコビレッジで自産自消する世界。)である(図付Ⅰ2-7)。

図付Ⅰ2-7 「家の未来」の4つのシナリオ

②対話のステップ2:未来のニーズを発想する(ワールドカフェ)

ものありきではなく、未来のニーズから新規事業アイデアを考えるために、「家の未来」シナリオを使って、未来の家や暮らしについて発想を広げるのが次のステップである。それぞれの世界におけるペルソナ(象徴的なユーザー)の「生活の様子」、「困りごと」、「困りごとの解決アイデア」という3つの観点から、シナリオごとの提供価値を考えた(図付Ⅰ2-8)。

また、シナリオごとに挙がった「生活の様子」、「困りごと」、「困りごとの解決アイデア」の一部を紹介する(図付Ⅰ2-9)。

未来思考で発想を広げるには、参加者の多様性を活かすことが有効である。業種・業界、年代など、参加者の発想の違いをうまく引き出すことによって、多様な知識や情報を集めることができる。今回は、ワールドカフェという対話の手法を使い、3つそれぞれの問いかけごとにメンバーを入れ替えながら、4人程度の少人数での対話を3回繰り返した。多くの参加者にとって「家の未来」シナリオは初見であったが、45分程度の短い時間の中で、シナリオへの理解を深めると同時に、家の未来のニーズについて発想を広げることに成功した。

図付Ⅰ2-8 提供価値のデザイン

図付Ⅰ2-9 価値デザインのアイデア

写真:ワールドカフェの様子

③対話のステップ3:自己組織的にチームをつくる

自発的なアクションを生み出すために、参加者が主体的にチームを作りだすプロセスを大事にする必要がある。今回は、4つの「家の未来」シナリオの中から、自分が具体的に新規事業を考えてみたいシナリオを各自が選び、同じシナリオの中で3〜4人程度のチームを作った。あらかじめ参加者を「製造業系企業」「ITサービス系企業」「コミュニケーション系企業」という3つのカテゴリーをそれぞれが分かるように名札をつけており、なるべく3つのカテゴリーすべてのメンバーが含まれるようにチームを作った。

④対話のステップ4:アイデアを素早く形にする(クィックプロトタイピング)

アクションを生み出すためには、アイデアを素早く可視化することが有効である。目に見える形で表現してみることで、一人ひとりの持つイメージの違いに気付いたり、他者からフィードバックを得て、アイデアをさらに磨きあげることが可能となる。今回は、「モノ」「サービス」「コミュニケーション」の3つの観点から、数年後に実現したい「家の未来」のソリューションを検討し、選んだシナリオの中で実現したい価値を形にした。どのようなキーデバイスや素材を使い、どのようなサービスをモノと組み合わせて提供し、その価値を潜在ユーザーに対してどのようにアピールするか、という観点で具体化した(図付Ⅰ2-10)。

図付Ⅰ2-10 クイックプロトタイピング

⑤対話のステップ5:展開可能性を共創する(評価と共有)

参加者間の協調アクションを生み出すために、各チームが試作した「家の未来」ソリューションの展開可能性について、参加者全員で検討した。まず、3つのグループに分け、グループ内でアイデアの発表と相互評価を行った。アイデアの良し悪しだけではなく、展開可能性を考えるために、自社との相性を評価することが重要であるため、①自社最適評価:自社のビジョンや、保有している技術との適合性、②協業最適評価:成功につながる協業相手の存在、③社会最適評価:その解決策の社会における必要性の3つについて、それぞれ5点満点で評価をした。

(3)新規事業アイデア

本フューチャーセッションのアウトプットとして、参加者の実行性評価が高かった3つを中心に紹介する。実行性評価は、自社最適評価、協業最適評価、社会最適評価の3項目の平均点である。

チーム①:渡鳥のシームレスサービス

「国を超える渡り鳥シナリオ」のアウトプットは、住みたい場所を自由に選ぶことができる渡鳥さんのためのシームレスな移動を確保するサービスである。家から発想しているにもかかわらず、この提案は「家がなくても困らない」ものだ。中心的な価値として、「どこに行っても自分が誰かを証明できる」ことに重要性を置いた。グローバルにアイデンティティを認証してもらえるのならば、その引き換えに生体認証情報を共有するであろうというアイデアである(図付Ⅰ2-11)。

このアイデアに対する、参加者の実行性評価は、自社最適評価:3.8、協業最適評価:3.9、社会最適評価:3.9、総合評価:11.6であった。生体認証技術の一つとして、虹彩認識技術を自社が持っているので協力できるという企業もあった。また、働き方の変革に関わるコミュニケーション企業からも、一緒にビジネスができるという提案があった。

図付Ⅰ2-11 渡鳥のシームレスサービス

写真:発表の様子

②チーム②:羊男の自堕落サービス

「放牧なかよし羊たちシナリオ」のチームのアウトプットは、生活の困り事はなんでもテクノロジーが解決してくれる共同住宅に住む羊男さんが、楽しいことだけをやって自堕落に過ごすためのサービスである。このアイデアの面白いところは、単になんでも自動化してしまうのではないところだ。面倒だと思うことはすべてロボットが済ませてしまうが、その人が楽しいと感じることを理解して、人間が適度に身体を動かすように促したりする。楽はさせるが、退屈はさせないという住まいで、だからこそ住人は自堕落に過ごすことができるというものであり、家庭用ロボットの進化が期待される(図付Ⅰ2-12)。

このアイデアに対する、参加者の実行性評価は、自社最適評価:3.9、協業最適評価:3.6、社会最適評価:4.4、総合評価:11.9であった。富裕層のニーズと合致しているという意見も多く出た。このようなニーズであれば、メリットを感じる富裕層の行動データがとりやすいのではないかという意見もあった。「データをとるためのコミュニティ」という考え方がこのシナリオでも現れたことになる。

図付Ⅰ2-12 羊男の自堕落サービス

写真:発表の様子

③チーム③:珊瑚のコミュニティサービス

「珊瑚礁の魚たちシナリオ」チームのアウトプットは、共同体の価値を重視する珊瑚さんがコミュニティで活躍するためのサービスだ。このチームの面白いところは、ものづくりから発想したにもかかわらず、その提供価値が「コミュニティ」になったところである。一人ひとりがコミュニティのなかで、自分の提供できるスキルを明確化するためのものであり、各人がコミュニティのなかでのアイデンティティを取り戻し、その人らしく活躍することができる。具体的には、スマートデバイスを使って、人と人とが助け合う機会を生み出していくサービスである(図付Ⅰ2-13)。

そのためにはコミュニティの範囲や参加者を認証しなければならない。コミュニティの外には、情報を出したくないからだ。また、コミュニティに必要なスキルセットをデータベース化するという発想も面白い。隣の人が何をできる人なのか、まったく知らない現代人にとって、震災直後などはお互いの強みを確認することで助け合いも生まれた。このような共助関係を日常から生み出すサービスが、スマートデバイスによって実現する可能性を示した。

このアイデアに対する、参加者の実行性評価は、自社最適評価:3.1、協業最適評価:3.2、社会最適評価:3.8、総合評価:10.1であった。

図付Ⅰ2-13 珊瑚のコミュニティサービス

写真:発表の様子

④その他のアイデア

渡り鳥シナリオについては、自動翻訳サービスや、個人の味覚情報から、どこへ行っても自分の好みに合った味付けで食材や食事を選べるなど、移動を前提とした各種パーソナライゼーションのアイデアが出た。

ビーバーシナリオは、自分で家や部屋をデザインしたい海狸さんのために、オールスケルトンインフィルマンションやモジュール化された住宅など、余った建築を再利用して、入居者が自由自在にデザインできる住宅というアイデアがいくつも出た。建物というハードに加え、DIYのツールや教育サービス、そして部屋の設計のレシピ共有など、モノとサービスと知識が流通するビジネス生態系が描かれた。

羊たちシナリオは、コンパクトシティを一つの家族にするため、ロボットが問題解決をする代わりに、人と人とをつなぐ役割に徹するというアイデアもあった。人と人をつなぐためには、AIやロボットが居住者のあらゆる情報を把握している必要があり、その課題と機会について議論となった。

魚たちシナリオは、究極のシェア文化に行き着くというアイデアもあった。家の中には何もものを置かなくなり、まちでモノがシェアされている状態、つまり、各人が本を持たずに図書館でいつも借りる文化が、本以外にも広がった状況である。当然、このようなまちでは地域通貨がシェアの仕組みとセットで広がるだろう。

(4)アウトプットに対する示唆

このようなプロセスを経て出てきたアウトプットのアイデアには、必ず2つの要素が含まれている。1つはアプリケーションとしてのアイデアであり、もう1つは、次のアイデアを生み出す「土台」のアイデアである。

アイデアとその土台を切り分けて整理することによって、アイデアの土台から、さらなる関連アイデアを出していくことができるようになる。今回のアウトプットからは、「個人情報を出してでも得たいパーソナルな価値」がいくつか提示された。それは、「ストレスフリーになるため」であったり、「自分のアイデンティティを確保するため」である。共有範囲がコミュニティ内であれば、なお敷居が下がる。こういったパーソナルな価値を実現するために、アイデアの土台として重要なのが、クロスボーダーの認証技術、コミュニティのニーズ把握技術、個人の感情・嗜好の文脈的理解の技術である(図付Ⅰ2-14)。

また、「ものづくりの未来」という観点からは、シンプルに捉えれば、モノだけで差別化することは不可能になってくる。ボーダレスでつながりたい、コミュニティで理解し合いたい、適切にシェアしたいなど、生活上の経験価値を実現するために、モノがパーソナライズされたサービスと連動する必要があり、それが「ものづくりの必要条件」とへと変わっていくのであろう。人間が目に見える形で触れるものが、行動を変容させるトリガーとなる。つまり、モノは、「こういうふうに行動してみれば」という誘いを人間にかけると同時に、世界中に届けられる。だからこそ、ものづくりは世界を変える可能性を秘めていると言えるのではないだろうか(図付Ⅰ2-15)。

ものづくりは、社会ニーズから捉え直し、サービスとの連動を構想し、そのうえで「どんな行動を促すか」をモノとしてデザインする、といった一連のプロセスになっていく。ものづくりの概念を拡張し、世界を変えるイノベーティブな商品・サービスを連続的に生み出していくようになるためにも、「新たな問いの設定」と「多様なステークホルダーとの対話」をものづくりの過程に加えることが求められている。

図付Ⅰ2-14 アイデアを支える土台

図付Ⅰ2-15 アウトプットに対する示唆

(5)フューチャーセッションの効果

フューチャーセッションの終了後、参加者にアンケート調査を実施し、45名の参加者のうち、42名から回答を得ることができた。

新たな気づきや発見があったかという設問に対しては、64.3%が「とてもあった」、35.7%が「あった」と回答しており、「あまりなかった」や「なかった」という回答はなく(図付Ⅰ2-16)、それぞれが持ち帰るもののあった有意義なセッションであった様子がうかがえる。気づきや発見の内容としては、「サービスを中心に、コラボレーションが違和感なくできるような時代になったということを感じた」、「いろいろな企業がつながることにより、日本の新しいものづくりを発信できると感じた」、「サービスを考える時には専門家を集めてもダメで、多様なバックグラウンドの人を集めて、いかに意見を引き出すかが重要」などが挙げられた。

また、生まれたアイデアに、今後更に検討、取り組んでみたいかという設問に対しても、「検討したい」が59.5%、「ぜひ取り組んでみたい」が31.0%と、実際の事業につながる可能性も見込めると考えた人は少なくない(図付Ⅰ2-17)。具体的な声として、「具体的なニーズが見えてきており、チャレンジ部分がよりはっきりした」や「現在仕事として持っているテーマが医療・福祉の分野なので、シェアというテーマととても相性が良いと思う」などが挙げられた。さらに、「あまり思わない」の回答が4件あったが、その内訳を見てみると、「自分たちのアプローチを煮詰める必要がある」や「進め方に関心があった」などのまずは自社課題から解決する必要があるという主旨のコメントであり、アウトプットの内容にネガティブという訳ではない。

このように、フューチャーセッションは、「多様なステークホルダーとの新たな関係性」と「未来思考から生まれる新たなアイデア」を同時に生み出し、新規事業アイデア創出の場として、また、アクションを生み出す場として、企業規模や業種にかからわず、幅広く製造業においても活用できる手法の1つであると考えられる。新しい製品やサービスを創造していく過程においては、自社内や関連のある業種内で発想するのではなく、少し視野を広げることが、最も重要なことではないであろうか。

図付Ⅰ2-16 アイデアを支える土台

図付Ⅰ2-17 アウトプットに対する示唆

Excelファイル 図付Ⅰ2-16 アイデアを支える土台、図付Ⅰ2-17 アウトプットに対する示唆(xls/xlsx形式)

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