1. ホーム
  2. 統計
  3. 経済解析室トップ
  4. ひと言解説
  5. 新型コロナ禍に影響された化粧品出荷、2021年の状況は?

新型コロナ禍に影響された化粧品出荷、2021年の状況は?

    2020年から世界的に拡大した新型コロナウイルスへの対策のため、日本でも緊急事態宣言の発出など、経済活動に対する厳しい制約が行われてきました。この制約により、訪日外国人数が減少し、インバウンド需要が見込めない状況が続いたことから、国内の化粧品販売も厳しい状況となりました。

    2021年10月から、緊急事態宣言が全面解除されたものの、11月末には、訪日外国人の入国を規制する水際対策強化が再び実施され、現在も化粧品産業を巡る環境は厳しい状況が続いています。

    前回、「新型コロナウイルス禍で変化する国内化粧品産業」とのテーマで、2020年の動きを中心とした国内化粧品産業の動向を紹介しましたが、今回は、東京オリンピック・パラリンピックが開催された夏を挟んだ、2021年の足下までの国内化粧品産業の動向を紹介します。

    新型コロナ禍に影響された2021年の化粧品出荷の状況

    鉱工業生産者出荷指数でみた2020年の化粧品出荷は、前年の2019年を大きく下回り、2014年と同水準にまで低下しました。更に、季節調整済指数でみた2021年については、現在のところ、2020年を下回るペースで推移しており、通年でも2020年の出荷を下回ることが見込まれます。

    月別に2021年をみると、7月が前年なみ、足下の11月が前年を5%程度上回っておりますが、他の月は2020年同月の7割程度にとどまっています。2020年の年平均値に比して、2020年12月値は水準が低いため、2021年への発射台が低く、「マイナスのゲタ」を履いていることもあり、今後、年末のイベント需要を見越しても、2021年は2020年を下回ることは確実とみられます。

    図表01

    仕上用化粧品の購入を控える傾向

    次に家計調査で家計での支出をみてみると消費全体に対する化粧品消費の割合は、1.4%〜1.6%の間で安定的に推移しています。これを仕上用化粧品と基礎化粧品に分けてみると、度重なる緊急事態宣言や蔓延防止措置等で外出する機会が減ったため、仕上用化粧品であるファンデーションは感染症拡大以降(2020年5月以降)、減少したままとなっており、口紅についても、マスク着用が日常生活の一部となっていることから、出費が抑えられた状態が継続しています。

    一方で、外出に関係なく肌の手入れに使用する基礎化粧品は、仕上用化粧品と比べると、減少はあまりみられず、横ばい、ないしは、化粧クリームのように支出額が増加傾向になっている製品もあります。

    ※家計調査(総務省)の石けん類・化粧品は、グラフの品目のほか、浴用・洗顔石けん・シャンプー・ヘアコンディショナー・

     歯磨き・整髪・養毛剤・他の化粧品を含む。

    図表02
    図表03
    図表04

    足下では商品単価の上昇もみられる

    前項では消費額で減少した品目を確認しましたが、次に生産動態統計で単価の推移を見てみます。新型コロナ禍が本格的になった2020年に続き、2021年も年央までは化粧品の単価が低下したまま推移しました。しかし、2020年の出荷額がほぼ同額だった2014年を100として比較すると、7月から急激に上昇し、10月は123と、2019年の平均を上回っています。また、皮膚用化粧品も6月の低下から一転して急激に上昇し、足下では101と2014年の平均値を超えています。

    一方、仕上用化粧品の単価は9月に大幅上昇したものの、この上昇は、10月より緊急事態宣言解除によるメーカー側の期待感によるものが大きかったのではと考えられます。10月実績では再び低下するなど安定せず、今後もオミクロン株の発生で人流が再度停滞する恐れがあることから、仕上用化粧品の価格動向が懸念されます。

    図表05

    次に、仕上用化粧品の単価について、2020年から品目ごとに確認してみます。

    仕上用化粧品のうち、ファンデーション、口紅、ほほ紅など、マスクの長時間の着用下で露出が少なくなる商品での単価低下が顕著です。仕上用化粧品などの商品は「プチプラ」(プチプライスの略、安くて高品質の商品)など、単価を押さえた価格の化粧品に移行しているのではないかと思われます。

    また感染症拡大前の2019年までは、対面販売やカウンセリングに力を入れていましたが、感染症拡大により、オンラインを活用した非接触型の方法で販売される商品の需要が増加したことで、低価格帯の商品購入が増えたとも考えられ、それが単価の低下の一因ではないかと思われます。

    一方、皮膚用化粧品については、もっとも単価の低下が大きい品目は、パックですが、新型コロナ禍以前より、週一回の特別使いから毎日の日常使いへシフトする需要を踏まえ、価格を抑えながら良質な商品企画が展開されており、感染症拡大で、それらの商品へのシフトが進んだことが考えられます。その他の皮膚用化粧品は、仕上用化粧品と比べると、単価の低下幅は小さく、感染症下でも、需要のある皮膚用化粧品は、価格が落ちなかったものと考えられます。

    図表06

    市場にあわせた商品開発と販売チャネルの開拓がカギ

    前回、化粧品の輸出状況についても分析を行いましたが、2020年は、中国市場が輸出を牽引していました。(※参考)。

    世界各国での化粧品の使用特性をみると新型コロナ禍以前よりアジア圏では、スキンケア(皮膚用)化粧品に、よりお金をかける傾向があります。アジア圏におけるこの傾向は、日本の状況と類似しており、中国をはじめとしたアジア圏は、日本の化粧品が輸出しやすい環境にあるとも考えられます。

    なお、民間のアンケート調査(2021年10月実施)によると、国内ではよりスキンケアへの関心が高まっているという結果も出ており、同様にアジア圏でも、スキンケアへの関心が高まっていくことも考えられます。

    ※参考: 「新型コロナウイルス禍で変化する国内化粧品産業 ;インバウンド消費消滅は化粧品産業の変化を加速させる?」

    図表07

    日本の化粧品市場は、輸出超過であり、その傾向は変わっていませんが、輸入では、従来の欧米ブランドの化粧品の輸入が依然強いものの、アジアブランドからの輸入も増加傾向にあります。

    アジアブランドの伸長は、アジア市場で、日本製品との競合が激しくなることも予想され、そのような厳しい市場環境を勝ち抜くためには、今後の化粧品業界は、インバウンド需要の回復に期待するのはもちろんのことですが、加えて各国の化粧品需要に合わせた商品開発による輸出増、異業種参入による特徴的な商品開発を扱った販売チャネルの多様化なども拡大の鍵となっていくと思われます。

    また、新型コロナ禍でのあたらしい生活様式「ニューノーマル時代」が日常として受け入れられつつある中、新たな時代に対応した商品の開発も重要になってくるでしょう。

       「新型コロナウイルス禍で変化する国内化粧品産業;インバウンド消費消滅は化粧品産業の変化を加速させる?」(2021年6月2日公表)

    お問合せ先

    問合せ先が表示されない場合はこちらのページからご確認ください