1.背景
航空機事故や労働事故の分野には、従来、事故調査の規格やガイダンスがありますが、消費者事故調査の分野には、これまで共通のガイダンスがありませんでした。そのため、同種事故の再発防止を目的とした調査が十分に行われず、事故の引き金となったヒューマンエラーが特定されただけで調査を終了してしまう場合がありました。ヒューマンエラーが起こる複合的な要因が特定されないままでは、再発防止に資する安全提言を十分に行うことができず、消費者にとってのリスクが低減されず放置されてしまう恐れがありました。
そのような中、日本は、消費者事故調査実施者向けのガイダンスとして、責任追及や補償の視点と分離し、再発防止を目的として行う消費者事故調査の理念や手法を確立するための国際標準の開発を、ISO理事会の下に設置されている委員会であるCOPOLCO(消費者政策委員会)に対して提案しました。また、日本として、ISOにおけるプロジェクト委員会の1つであるPC329(消費者事故調査ガイドライン)の設立を主導し、さらに、国際幹事国及び議長国として、当該委員会での議論をリードしました。
2.規格の概要
事故から得られる情報や資料は、事故によって失われた、あるいは損なわれた、尊い身体生命の犠牲の上にあります。この国際標準は、事故から得られた教訓を基とし、同種事故の再発を防止するため、消費者事故調査の原則、調査対象とする事故、事故調査の実施方法、要因分析手法等について示しています。
本規格では、消費者事故調査の原則を、「事故調査の唯一の目的は、更なる事故の発生を防止することである。この活動の目的は、非難や責任の所在を明らかにすることではない。」と規定し、調査を通じた責任追及や補償の視点と分離しています。また、事故調査チームの使命は、「隠れた危険要因を特定し、組織の安全性を向上させ、広く事故の再発を防止し、最終的には社会の安全性の向上に寄与すること」であると規定しました。その他にも、事故調査チームの独立性・公平性・専門性の確保を規定するとともに、調査において被害者及び被害者の家族を尊重することも規定しています。
特徴的な要素としては、以下のような項目があります。
・消費者事故調査の原則(目的、使命、事故調査組織及び事故調査チームの属性、被害者及び被害者の家族の尊重)
・事故調査の実施(事故調査チームの編成、原因・要因分析、再発防止策)
・再発防止策のフォローアップ
・要因分析手法(附属書)
3.期待される効果
本規格は、民間企業、行政機関、地方自治体、またはそれらが設置する第三者委員会など、消費者事故調査を行う主体が共通して利用できる初めての規格です。
この規格の利用により、再発防止のための事故調査が、これまでよりも迅速かつ効果的な内容で実施され得ることが見込まれ、事故防止に大きく寄与することが期待されます。これにより、私たち消費者に提供される製品やサービスへの信頼を高めることができ、事故対応のために企業が被る経済的・社会的損失のリスクを低減することができます。
【消費者事故調査のプロセス】
(出所)ISO 5665 箇条4.1 (主婦連合会による仮訳)
お問合せ先
イノベーション・環境局国際標準課長 西川 担当者: 小川(晶)、鈴木 電話:03-3501-1511(内線3423~3427) メール:bzl-s-kijun-ISO★meti.go.jp ※ [★]を[@]に置き換えてください。 |
最終更新日:2024年7月1日