経済産業大臣表彰/荒木 俊二(あらき しゅんじ)氏
一般社団法人日本ゴム工業会 ISO/TC45国内審議委員会委員長/
株式会社ブリヂストン 規格・法規戦略部常勤嘱託基幹職
ゴム技術分野における国際標準化の新規テーマ発掘活動を精力的に展開
日本ゴム工業会の荒木俊二氏は2012年にISO(国際標準化機構)/ TC45(ゴム及びゴム製品の技術委員会)の国内審議委員会委員長に就任し、現在に至るまで標準化活動を行っている。
TC45の国内審議委員会は、ISOやJIS(日本産業規格)の制定・改正を通して日本のゴム産業界の産業競争力強化、生産・取引の合理化などに資する規格作りを目的に活動している。取り扱う領域は、ホース製品、天然ゴムや合成ゴム、ラテックス、シリカ及びゴム薬品等のゴム原材料など多岐にわたっており、16の分科会と約210名の委員を擁し、年間150回以上の会議が開催されている。
荒木氏の功績は、これらの分科会の上位である国内審議委員会の委員長として全分科会を主導し、特にゴム技術分野における国際標準化の新規テーマを精力的に発掘し、展開してきたことだ。
荒木氏は、2012年に委員長に就任するや否や、製品中のバイオマス(再生可能な生物由来の有機性資源)由来成分の含有量を求める方法の規格化に着手。
当時、日本のゴム産業界では原材料生産・製品製造・製品使用・廃棄の各段階において、省エネルギー化及び再生資源を活用する重要性が高まっており、省資源を実現する製品の適切な把握・評価の基準が求められていた。
これは、各社が独自の方法でゴム製品にバイオマス由来の含有量の表示や廃棄物として燃焼する際の二酸化炭素排出量を表示してしまうと適正な競争環境ではなくなってしまうため、各社が独自の方法を確立する前に規格化する必要があり、また、どの要因を考慮し、どの要因を考慮しないかなど非常に地道な検討と分析が必要であることから、規格の重要性に異議を唱える者はいなかったものの、難航が予想された。
(画像提供:株式会社ブリジストン)
こうした中、荒木氏は規格の構成を自ら練り、TC内でプロジェクトを立ち上げるところから開始した。
「ゴム産業は歴史が古く、最先端の分析装置を使用する規格はほとんどない。規格の必要性を 説明して回るのが大変だった。」と当時の苦労をのぞかせた。仲間作りのために、マレーシア、 中国、ドイツ、オランダ、フランスの研究機関やエキスパートを訪問。タイ、インド、韓国のエキス パートを日本に招集し、技術指導を行ったりもした。
結果、2017年に三部構成のISO19984(ゴム及びゴム製品-バイオベース度の求め方)が、2018年にISO20463(ゴム及びゴム製品-バイオベース/非バイオベース材料からの燃焼エネルギー及び二酸化炭素排出量の求め方)が発行された。
荒木氏が推進したこれらの規格は、環境問題に貢献すると同時に、適正な評価方法が確立したことで、バイオマス由来の製品開発や研究開発が適正に評価されることになり、結果として、高い技術力を有する日本の原材料メーカーや製品メーカーの国際競争力の向上に結び付くことが期待される。
テーマの発掘活動の他に、「国際会議の場に万全に挑めるよう準備することも委員長の務め。」と荒木氏。広範な分野と多くの規格開発が進行しているので委員会メンバーの議論は総花的に
なりがち、そこで、ISO での規格開発を日本にとって重要な順にランク付けする「優先付けシート」を作成したり、目指すステージ(規格発行までの6つの段階)を明確にする「戦略シート」の作成を委員会内の全WG(作業グループ)に推奨したりと、標準化活動を戦略的に進められるよう主導した。
現在検討されている新たな原材料
(画像提供:株式会社ブリジストン)
ISOはダイナミックに活躍ができる場所。時には他国の規格化の阻止も
国内では、荒木氏は、JISに従来の汎用品よりも高い性能・特性を等級別に盛り込んだ
「高機能JIS」の制定にも携わる。2015年から2018年にかけて、国内審議委員会委員長として自ら3件のテーマ選定をリードし制定に至った※1。
現在、これらの規格を国際標準化するために提案の準備をしているところだ。「ユーザーの安全と日本の市場を守るために、他国の技術との差別化を図り優位性を保っていきたい。」と語る。
※1 JIS K6400-9(軟質発砲材料―第9部:抗菌効果の求め方)
JIS K6410-3 (建築免震用積層ゴム支承―第3部:高耐久・高性能の使用及び試験)
JIS K6404-3(ゴム引布及びプラスチック引布試験方法 – 第3部:物理試験(応用))
荒木氏の今後の課題はそれだけではない。現在、自動車業界は100年に1度の大変革期を迎えている。「自動車の構成が変われば、そこに用いられるゴム製品に要求される特性も変化する。ゴム産業界も大きな影響を受けることは間違いない。」と今後の見通しを語る。
データの蓄積が少ない新しい局面に立ち向かうために「時代を先取りした規格の制定が今こそ必要。」と意気込みを示す。
(画像提供:一般社団法人日本ゴム工業会)
一昨年より、荒木氏は標準化に携わる各委員の所属会社の直属の上司に活動報告書を配付している。「委員は会社の仕事と両立しながら活動に取り組んでいる。この活動の重要性を伝え、評価につなげる手助けをしたい。」と、今後も続けていく意向だ。
「ISOでは、高度な専門知識と、全体を見渡せる視点を有していればダイナミックに活躍できる。」と荒木氏は後進の標準化活動への参加を期待する。「活動内容は規格の制定・改訂に限らない。日本の産業界への影響を考え、他国の規格化の阻止も重要な役目。」と続けた。
今後、日本での標準化活動の発展について「経営層など、大きな視点から考えられる立場の人にもぜひ関わってほしい。日本の業界の強みを生かす、製品の販売戦略と結び付いた標準化活動が理想だと考える。いいアイデアがあったら相談してほしい。私たちはいつでもウエルカム。」と笑顔を見せた。
(画像提供:一般社団法人日本ゴム工業会)
【標準化活動に関する略歴】
1985年4月 株式会社ブリヂストン 材料開発部入社
2000年8月~2005年1月 ブリヂストン アメリカ/ファイアストン リサーチセンター(米国)
2005年5月~2007年7月 株式会社ブリヂストン 小型タイヤ材料設計部長
2007年7月~2009年4月 ブリヂストンアメリカ/ファイアストン リサーチセンター所長(米国)
2009年5月~2012年1月 株式会社ブリヂストン モータースポーツ材料設計部長
2011年1月~2012年3月 ISO/ TC45 国内審議委員会カーボンブラック分科会委員
2012年2月~2019年9月 株式会社ブリヂストン グローバル規格・法規戦略室フェロー
2012年4月~現在 ISO/ TC45国内審議委員会委員長
2015年~2017年 TC45 / SC4(プロダクツ)/ WG8(軟質フォーム)コンビーナ
2013年~現在 TC45からTC31(タイヤ)へのリエゾン※2
2019年9月~現在 株式会社ブリヂストン 規格・法規戦略部常勤嘱託基幹職
※2 関係するTC/SCでの活動内容を調査、報告する役割を担い、TC間での活動内容の調整に必要な情報を提供する連絡機能/係。
最終更新日:2023年3月30日